ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜   作:明石雪路

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コンビ結成

2022年10月25日:0時過ぎ

 

 

 僕の普段寝泊まりしている宿……というか家は47層の街の奥にある。

 転移門から正面の大通りを二階路地に入ると、すぐに見えてくる。路地裏のバーだ。

 見つけにくい上に中々骨の折れるクエストをクリアすると、店主のNPCが店を託すような感じで譲ってくれるのだ。持ち家がクエスト報酬などかなり割の良い話に聞こえるが、クリアまでにかなりの資金と時間を投じているので、僕としてはアクセスの悪さも含めてちょうど良いのではないかと思っている。

 既に時刻は10時を回っていること、47層自体特に面白い物も少ないこともあって人気はまばらだ。だが、少しの人の目ですら今の僕にはあって欲しくなかった。

 背負った寝袋の中で、息が聞こえる。そう、僕は今ツクヨミを寝袋に入れて担いでいるのだ。人間大の袋を担いで主街区なんて絶対に歩きたくなかったが、腕を回して無気力な女性を連れるのもなんだか嫌だ。FANZAとかでそういうのあるだろ?

 

 

 ようやく着いた店のドアを開けると、既に中のランプは点いていた。

 

「おっせーヨ、ジャック」

 

 

 部屋の奥から、鼻でも詰まったような声がした。

 正直部屋に知らない人間が来ているのかと身構えていたので、顔見知りの声で安心する。

 

店内の造りはシンプルだ。七人掛けのカウンターとその向かいの壁沿いに四人席が二つ、奥に一つ。

 

奥の四人席で瓶を空けていたのは、アインクラッド攻略当初から情報の面で攻略に貢献している、〈鼠〉のアルゴだ。地味な砂色のフード付きマントを被っており、両頬の三本ヒゲのペイントが特徴的な女性プレイヤーである。

一本飲んだらしいが、特に酔っている様子はない。まあ、アインクラッドでの酒を樽飲んだところで体内にはアルコールの一滴も入らないのだが。

 

 

 

「仕方ないだろ、人目を避けてきたんだから」

 

 

 そう言って四人席の座席にツクヨミをそっと仰向けに横たえる。ツクヨミは未だに眠っていた。遠回りしてきたからかなり揺さぶったと思うのだが、一度寝付くとしばらく起きないタイプなのか?

 

 

 僕が連れてきた人間を見て、アルゴはわざとらしく口に手を添えた。

 

 

「うわー、ついにやっちまったなァ、ジャック。こいつは明日の〈アインクラッド新聞〉の一面を飾るだろーヨ。『慈善家ロードジャック、路地裏で淫行か!?』なーんてな。」

「え、僕ってそんなに有名なの?」

「中層じゃ特にナ。中層最大の生産職コミュニティを誇るレプラコーン商会のパトロン。攻略組に匹敵するハイレベルな装備。いつも武器を隠すミステリアスさ。テイマーアイドルと並んでまあまあ名前はしれてるゾ」

 

 

 意外な事実発覚。基本的にあちこちの迷宮区に潜るかいろんな飯屋や娯楽施設を歩いているので、世情には疎かったかもしれない。

 

 

 アルゴはそれにしても、と言いながらテーブルの酒瓶を撫でた。飲んでいたのは店売りの安酒で、棚にしまい込んでるレア酒には手がついていなかった。そういう所の気は利くヤツなのである。…勝手に酒を飲むのはフツーに窃盗だけど。

 

 

「また酒の種類増やしたのカ? オレッちも知らない銘柄があるのは悔しいなァ」

「まあ、せっかく伝説のバーテンダーから店を貰った訳だしな。棚がスカスカなのも逆に目に毒なんだよ。こないだ10層で蛇酒ゲットしたけど飲むか? チーズと合うよ」

「ほー、じゃあ頂こうかナ」

 

 

 食品ケースと酒棚からそれぞれ取り出すと、カウンターに置いた。アルゴもお行儀悪く四人席から飛び起き、席に着いた。

 

 

「で、クエストってのは何よ?」

「おお、結構イケる……。ああ、そのクエストは3層の主街区から離れた村で、村から100メートル離れた当たりに倒れてる瀕死のガーディアンがキーだ」

「ふん」

「!がついてたから、話しかけるとクエストが始まる」

「ふんふん」

「特に準備とかしてなかったから、とりあえず帰ってきタ。オレッちの嗅覚がアレはムズいクエだって行ってるんだよナー。戦闘になるとオレッチ駄目だし」

「なるほどね。で、何で僕なんだ?」

「攻略組をクエスト調査に引っ張ってくるわけに行かないかラ。レベルが高くて暇なオマエなら向いてるかなート」

 

 

 

 確かにその通りだ。僕は50層以下の雑魚狩りとはいえ膨大な量のモンスターを狩り続けているため、ステータスだけなら攻略組にもタメを張れる。最近のアインクラッド新聞によれば、確か攻略組でも最強と謳われるギルド〈血盟騎士団〉の副団長様が確かレベル85だったので、攻略組の平均が大体80前後だろう。逆に言えば、非攻略組はほとんどが80に達していない事になる。

 

 

「わかったよ。明日そのクエストを調べてくる。なんか情報手に入ったら連絡すんよ」

「悪いナ。前金はこんくらいで」

「いや、前金はいらない」

 

 

 アルゴがコルの小袋をストレージから取り出そうとするので、僕は制止した。

 

 

「こないだ下層のモンスターハウスの場所教えてくれたろ? そのお礼払ってなかったし相殺って事で」

「ふうん、それでいいならそれデ。……じゃこれでイッチャン良い酒でも貰おうかナァ」

「そうだな……そだ、最近ゲットしたんだが、なんとコイツはドラゴンの聖s」

「やめロ!」

「すごいんだぞ、コレ一杯でSTR値が5も」

「絶対嫌ダ!」

「うーん……」

 

 

ギャアギャア騒いでいると、ツクヨミが目を覚ました。兜のバイザーの上から目を擦ろうとして失敗している。

 

 

「すみません、ここはどこでしょう?」

 

 

 

 

 

「もう本当にすみません、ご飯奢って貰っただけじゃなくて介抱までして貰って」

「いやあ、全然良いよ」

「基本的に暇してるもんナ?」

「暇じゃないよ、やることないから迷宮区潜ってるだけ」

「暇じゃんカ」

 

 

 目を覚ましたツクヨミは、アルゴの隣に着いて一緒に酒を飲んでいた。

 

 

「それにしてもジャックさんはすごいですね。お店を持ってるだけじゃなくて、アインクラッド1の情報屋のアルゴさんとも知り合いだなんて」

「そういう反応なの? やっぱアルゴも有名人じゃんね」

「まあサービス開始からやってるし、伊達にアインクラッド中回って情報集めてるわけじゃないからナ。そういうアンタは最近軍に入ったっていう分隊長さんだロ? レベルも軍の中でトップなんだっケ?」

「はい。私はまだ浅いですけど、レベルは82で2番目くらいです。いや、おいぬいたんだったかな…」

「……そりゃスゴイ」

 

 

 アルゴは軽く情報を抜くつもりが、ツクヨミのレベルと軍のレベル状況も軽くわかってしまって引いていた。

 アルゴは基本的に売れる情報は何でも売るスタンスで仕事をしている。金を積まれたら僕の店の場所も、どんな酒を置いているかも売るような人間だ。アルゴを知っているプレイヤーは彼女と会話する際は言葉を選んで話す物だが、ピュアっ娘ツクヨミちゃんはそんなこと知ったこっちゃないようだ。

 

 

 

「そういえば、アルゴさんはどうしてここに?」

「クエストの調査を頼みに来てテ……そだ、ツッキーも連れて行けバ?」

「えー、いいよ。僕一人でも別に」

「ツッキー……」

「いーや、コンビくんどけっテ! 最近オイラもソロでクエスト受けに行ってひどい目に遭ったシ」

「つっても、戦い方とか全然知らないんだよ? 逆に僕が足を引っ張っちゃうかも」

 

「うっさいナ。ツッキー、もし都合できるならコイツと一緒にクエスト受けてやってくれないカ?」

「ツッキー……」

「モシモシ?」

「え、あ、すみません! あだ名とかつけてもらったの初めてだったので噛みしめてて……。クエストですよね、是非同行させていただきます! 今日のお礼もあるし!」

「うーん…」

 

 

 そういわれるとなかなか断りにくい。実際レベルも高いほうだし、心配するようなことは起きないだろう。

 交渉成立。パーティ申請のメッセージを飛ばし、受諾され、一時的なコンビが誕生した。

 

 

 

「それじゃあ、しばらくよろしく」

「よろしくお願いします!」

 

 

 

 ツクヨミが帰った後。

 簡単に情報交換を済ませたアルゴも席を立った。

 

 

 

「じゃ、オイラも行くとするかナ」

「ああ、クエストが進んだらまた呼ぶよ」

「……ジャックさァ、攻略組に参加する気はホントに無いのカ? 最近のフロアボスはプレイヤーの成長率より早く強くなってるし、一人でも戦力が……」

「もう辞めたんだ、僕は。悪いとは思うけど攻略組に戻る気は、無い。」

「…………」

「じゃあな! おやすみ」

 

 

 そう言いながらアルゴを出口に誘導すると、何か言われる前にドアを閉めた。

 

そして、言い聞かせるように呟く。

 

 

「いいんだ、これで。彼らのおかげで今があるんだ。僕は、このままで間違ってない」

 




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