ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜   作:明石雪路

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破壊の種子

 

 

「貴様……水棲馬の水晶を盗んだのか!」

「そうだよ! そうなっちゃ、水の供給どころか消火も防火も出来ないなあ!」

 

 

 そう叫んだ瞬間、ジャックの背後、玉座の間から一望できるレドレス城の一端から火柱が上がった。

 

 

『あの城って全部壊したらダメなの?』

 

 

数時間前。作戦会議中、そんな提案をしたのは右手でダンベル(クソ重。ダンベルカール百回こなすとSTR値1増加。)を持ち上げながら左手でテキストを打ったドラゴンだった。

 相変わらずパワフルな発想をもつドラゴンに、アルゴが苦笑しながら答えた。

 

 

「確かに掘削機を設置する場所が無くなれば御の字だケド、そりゃ無理だヨ。あの城よく見ると細い木の根が張って崩れにくくなってるし、カイサラの腕に水を大量生成できる水晶があるんダ。叩いても燃やしても時間かかるだろーし、だったらボスをボコりに行った方が早いかナ」

 

 

『でも、出来たらアドとれるよね?』

『ドラゴン。もしかして君、やったことないからって城を壊したいだけなんじゃないかい?』

『(/ω\)』

 

 

 シャルの突っ込みにウインクと頭こっつんで返事するドラゴン。

 

 

「一応、拙者たちお手製の発破を使えば何とかなるであろうが……」

「とりあえず用意だけしとくか、ストレージに嵩張らないだろうし」

 

 

 とりあえず風魔忍軍とジャックが持っていくということで特に期待もしていないサブプラン〈破城槌計画〉が組まれたわけだが……。

 

 

「状況が変わった。準備ってのはしておくもんだな……!」

 

 

 ジャックは仮想の汗をぬぐって不敵に笑った。

 現在、コタロー、イスケ、ドラゴン。シャーロットの四名は城を駆けめぐって破壊工作を行っていた。ドラゴンとシャーロットは城の壁を叩いて斬って壊して崩し、コタローとイスケは張り巡らされた木の根に着火しまくっている。忍者に至ってはついでに堀に毒だの油だのを流すという環境破壊付きである。

 

 

 

城中で火の手が上がり、空気が熱気を孕み始める。

それは穢れを知らない自然の中で生まれ、清らかに生きるエルフにとってのカタストロフィを意味している。

 

そして、カイサラは。

 

 

 両目を見開き、呼吸困難に陥ったかのように胸を搔き抱きながら膝をついていた。

 胸部にしまわれた黄金のキューブは明滅し、光が揺らいでいる。

 

 

 これは、エルフは周囲の木々や水を失い力を失っている証左である。

 

 

 

「チャンスだ、このまま畳みかける!」

「ハイ!」

 

 

 千載一遇のチャンスを逃すはずもなく、ジャックとツクヨミが駆けだした。

 

 

「来るな……!」

 

 

 カイサラが苦し紛れに剣を振るい、飛来する斬撃を放った。だが、本調子でなかったために半端な威力となった斬撃はツクヨミの円盾によるパリィで相殺される。

 

 ツクヨミの背後から高く跳躍し飛び越えたジャックが踵落としを繰り出した。ガードで掲げた左前腕は蹴り落とされ、バランスを崩して倒れ込む。衝撃で黄色の宝玉が落ちて転がった。

 

 

 

 

 

 拳を躱しても、ハンマーが頭を殴る。ハンマーを受け止めても、下段蹴りが姿勢を崩す。

 

 

 卓越したコンビネーションによって滅多打ちにされたカイサラは意識が朦朧として考えが纏まらなくなっていた。そのような経験は今まで体験したことがなかった。

 

 

 ずがん!! とジャックのつま先がこめかみを捉えた。リアルならば一瞬で意識を刈り取られてもおかしくないほどの会心の一撃。リアルさを追求したSAOにても変わらず、カイサラのHPバーの名前の横にバッテンマークの目をした人型のアイコンが灯る。〈脳震盪〉状態付与。

 メタルアームから〈ドールフル・ノクターン〉が零れ落ちた。

 

 

 

 メインウェポン喪失。黄の宝石、蒼の水晶ロスト。全身にひび割れ、欠損多数。

 カイサラの思考プログラムはこの窮地を打開するため、これまで蓄積されたメモリから類似データや有効と思しきを高速で検索していた。

 

 

 初めて戦った記憶……否、記録は里の近くに現れたシュマルゴアの討伐任務だ。我が主ノルツァー閣下が勇猛果敢に立ち向かい、見事毒竜の首を掻きとったのだ。自分はシュマルゴアの眷属である亜竜スタンピードをやっと一匹倒しただけだったが……。

落ち込む私の頭に節くれだった手を置き、言葉をくださった。

 

 

「――――――――」

 

 ……なんと言ってくださったのだったか、思い出せない。〈私の根幹を作った大事な言葉〉なのは確かだ。

 

 

 

 

次は六層でのリュースラの騎士との戦闘だ。筋はよかったが、技量も力も足りていなかった。その場にいた黒衣の剣士も、亜麻色の細剣士も類まれな闘志を秘めていたが、相手にならないことは明らかだった。

何故か、そのあたりからの記憶は鮮明になっている。

そして九層にて黒衣の剣士と再び対峙した。

 

 

 幾度も互いの剣を鳴らし、最期には胴を斬られて崖から落ちた。

 

 

 

必死にもがき流れ着いたのは川の下流の中洲だった。片腕を失い、木も生えていないこの場から脱出が不可能と悟った私は、中洲のいつ誰が暮らしていたかも分からないボロボロの空き家で半年近く過ごしていた。

常に記憶を振り返り……ふと、少しずつ矛盾を感じ始めていた頃。

 

黒ポンチョの男がドアを開けた。

 

 

 

 

『酷い話だよな』

『アンタは必死に戦ったってのに』

『結局はやられ役で死んでいくなんてさ』

『オレらならアンタを超COOLな何かにしてやれるぜ?』

 

 

 

 

 

 

「捕まえた!」

 

 

 ジャックがカイサラの背後から飛び掛かり首を絞めた。果たして首から下を鋼鉄に置き換えたカイサラに有効かは不明だが、動きを抑えられればそれでいい。

 

 

「これでどうだ!」

 

 

 ツクヨミがライトエフェクトを纏うハンマーを頭部に打ち込む……否、届いていない。人とも金属とも違う重たい感触がハンマーを通して返ってきた。これは黒々とした木の幹だ。突如として現れた二メートル近い木がカイサラを守ったのである。

 

 

「いつの間にこの木が……?」

「私は、私になる……」

 

 

 

 目の前のツクヨミの顔面を兜ごと殴り飛ばし、背後のジャックに肘鉄を打つ。流れるような手つきで首に回されたジャックの腕をつかみ、力任せで雑な背負い投げで放り投げた。

 

 

「この浮遊城を落とすことで、私は無二の私となる……! この悲願は、『私』が初めて抱いたこの悲願は、必ず成し遂げる!」

 

 

 左腕の甲に残った最後の種子。植物の無尽蔵の成長を促すイビルトレントの種子は生きているかのように黒紫に脈動した。

 

 

 

 

「アルゴ! あとどこを破壊すれば城は崩れる?」

「メインの柱は全部やったヨ! あとはデカい衝撃を与えれば……」

『おk!私が地下でソードスキルを打ち込みまくる!』 

 

 

 城の一階でガーディアンズが破城槌計画の最後の大詰めに入ろうとしたとき、城が揺れ始めた。不穏な気配を悟ったシャーロットはドラゴンに

 

 

「様子がおかしい。ドラゴン、私を上げてくれ」

「上げるって何するのサ?」

 

 

 アルゴの問いに二人は行動で示した。

 

 

 ドラゴンが大剣の腹を上に下段に構え、シャルが飛び乗る。そして、思い切り振り上げた。

 剣にのっていたシャーロットは

 シャーロットの敏捷値とドラゴンの筋力値あってこその偵察技である。

 

 

そして周囲一帯を一望できるほどの高さまで飛び上がり、シャーロットは見た。

 

 

「城が、巨大な木に飲まれてる……」

 

 

 渦を巻くように大量に生えた根が、城を握りつぶしながら天を目指す様を。




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