ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜   作:明石雪路

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ラストリゾート

 城より高く飛んだシャーロットの視界に、目を疑う光景が広がっていた。

 

 レドレス城のいたるところから突如として、そして場所を選ばず地面を貫き生えた木は城をゆっくりと絞りつぶすように渦を巻きながら一本の巨大樹を形成させ始めた。

先ほどまで城を囲っていた炎は黒々とした木々に城ごと握りつぶされており、ブスブスと数か所で力なく燻ぶるのみである。

 

 

竜巻のごとくねじれて成長する巨大樹はただひたすら、真っすぐにアインクラッド八層の崩れかけた天蓋へと上昇していく。

 その圧倒的な巨大さは畏敬の念を抱かせるほどだった。

 

 大規模なマップデータの上書き。たった一体のNPCによってここまでの変化が起きるものなのか。

 

 

 上昇が止まったシャーロットは自分が自由落下を始めたタイミングで成長を続ける巨大樹の表面に刀を突きさし、表面を斬りながら減速して着地した。

 

 

『どうだった?』

「この城を中心に巨大な木が成長してる。このままだと我々も飲み込まれるかも」

『イビルトレントの種子?』

「わからない。ただ、火はとっくに鎮火済みだ。表面を斬った感じ燃えそうな気もしない。もしこれがクエストの進行イベントだとして、木を破壊するには……斬るしかないようだ。」

『kるちえ切るの?』

 

 

 ドラゴンが驚いてタイプミス。無理もなかった。現在この樹木は直径50m近くあるのだ。おまけに成長を続けるなどと、どうすれば倒せるというのか。

 ガーディアンズ1の斬撃をもつシャーロットならではの策ではあるが、あまりの現実性のなさゆえか本人も自分の発言を確認するように言葉を切りながら話す。

 

 

「掘削機が、起動できない場所にすれば、大聖堂は守れる。だから……」

 

 

 だが、アルゴだけは

 

 

「いや、このクエスト攻略手段はもう一つあるゾ」

 

 

そういったアルゴの瞳がライトグリーンに輝いている。

 

〈索敵〉〈視力〉二種複合スキル〈千里眼〉。

 

 視界に映るのは。

 

 

「マジに頼むゾ……ジャック、ツクヨミ」

 

 

 「おわあああああああ!?」

 

 

 一瞬気を失った間にどういう有様だ。ジャックは謎のねじれ巨大樹にぶら下がった状態で目を覚ました。

 思い出すのは半日前の転落事故。背筋どころか全身がゾワゾワする。そこでジャックはジャケットが不自然に引っ張られていることに気が付いた。

 

 

「あ、ジャックさん起きましたか」

 

 

 上から声が聞こえてゆっくり振り向くと、黒髪をおろしたツクヨミがこちらを見て安堵の表情を見せた。〈夜の主〉から借り受けた伝説級の鎧は青白いラインを浮かび上がらせている。

 

 

「ツクヨミか、助けてくれてありがとう。僕どうなってる?」

「私が盾を木に突き刺してつかまってて、片手でジャックさんを掴んでます。ゆっくり木にしがみついてください」

「……STR値えぐくない?」

「でも、さっきより力がはいらなくて」

「嘘!」

 

 アバターに乳酸がたまることはないが、一定時間以上可能荷重以上のものを持ち続けると体が動かなくなるクールタイムが発生することがある。

 ジャックは慌てて短刀を抜いて巨大樹にしがみついた。

 

 

「で、状況は?」

「ジャックさんがカイサラの動きをとめて、私が頭を殴ろうとしたら急に成長した木に防がれました。カイサラがジャックさんを引き剥がして、私を殴ってから叫んだと思ったら彼女を中心に木が成長して、私は急いでジャックさんを掴んでひっついて今です」

 

 

「じゃあ、あと20メートルくらい上にいるボスを殴りに行けばいいってわけだ」

「はい!」

 

 

 

 

 巨大樹頂上。

 

 

 カイサラの目の前には黒々とした光沢を放つ無機質な物質があった。浮遊城アインクラッド、8層の天蓋である。現在は正方形で何度もくりぬいたのような歪な穴があるが、反対側と開通するほどではない。この向こうには9層があり、そしてリュースラの大聖堂があり、この城を飛行させている仕組みの一つ〈魔法石〉がある。

 

 

 

 この穴をきれいに開けることが出来れば、カイサラの悲願は達成される。

不思議と秋空のような晴れ晴れとした気分だった。本来ならば木々も清流もないこの場所で平気でいられるはずがない。全身が重くなり、立っていられないほどの脱力感にさいなまれるはずなのだ。

巨大樹の上にいるものの、こんな悪魔の樹霊などという魔物の遺体でエルフの呪いを超克できるわけがない。体の8割以上を金属に置き換えても木々から離れることが出来なかったというのに、今は何も感じない。

 

 

 結局はエルフだろうが何だろうが気持ち次第で容易に変質するものなのだ。こんな自己が確立していない存在など、木っ端と変わらない。いてもいなくても同じだ。

 

 

 だからこそ、この虐殺に意味がある。自分が何者であれその結果だけは変わらずに普遍的なものとして残り続ける。だからこそ取り組む意義がある。

 

 

 カイサラは胸部に意識を集中させた。セットされた黄金のキューブが徐々に光を貯め始める。

 

 

 今だ。そう思った瞬間、ヒュオンと大気が切り裂かれる音がした。

 

 

 素早く振り返ると、円盾が眼前に来ていた。防御は間に合わない。側頭部を捉えた円盾は跳ね返って持ち主のもとに戻った。

 

 

まただ。

 

「カイサラ、貴女の野望はここで止める!」

「僕たちはもう負けねえ、決着をつけるぞ!」

 

 

 

「…………! やはり! 貴様たちか!」

 

 

 犬歯をむき出しにして、カイサラは吠えた。

 




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