ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜   作:明石雪路

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次回最終回です。


ラストバトル!

 

 

〈トーラス族の宝石〉

 雷の力を秘めた、黄金色の宝石。力ある者の元へ向かう性質を持つ。トーラス族の長は数年ごとに石によって選ばれる。相応しくないものが手に持つと途端に天雷に焼かれてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツクヨミは、視界を埋め尽くす真っ暗闇でもがいていた。カイサラのイビルトレントの種子の能力によって全身が強く締め付けられ、まったくと言っていいほど動けない。ニルーニルの鎧とそのバフがあればどうにかなったかもしれないが、先ほど時間制限が来て解除されてしまった。

 

 

 ただでさえ視界の狭い兜が根でさらに見えなくなっている。おまけに息が苦しくなってきた。窒息によるダメージはまだないが、モタモタしていたらじきに死んでしまう。

 

 

 朦朧とする意識の中、兜の隙間、さらに木の根の隙間から満月が見えた。

 

 

 そういえば、母からきいた私が生まれた日もこんな日だったという。丸くて、蒼白く輝くきれいな満月。きっと満月は私が生まれた日なのだろう。ならば今日も、私がツクヨミとして生まれなおした日だ。

 この世界で、自分が自分のために戦う戦士ツクヨミとして生まれた日。皆のためでなく、絶対に助けたい誰かのために戦うツクヨミが立ち上がった日。

 

 

 

 ならばこんなきれいな満月の日に死ぬわけにいかない。おまけにプレイヤーが6千人近く死ぬなんて最悪だ。

 

 

 

 

 ならば絶対に諦めるわけにいかない。ジャックはまだカイサラと戦っているはずだ。

 指に力を籠め、ほんの少し引きちぎり、耐久値のなくなった手の中の木片を消滅させてスペースを作り、またちぎって……それを繰り返して最終的に腕を開放すれば脱出できる。

 

 

 

 

 

 そうやって少しずつ『木の根を掘り』少し大きめに木の根をちぎり取ると、耐久値を全損させようと思い切り握りつぶす。木の根の破片はポリゴン片となって霧散し、ツクヨミの手の中に何かが残った。

 

 

 どうやら宝石のような小さい凹凸だ。そして、

 

 

 全身を沸騰させるような痺れる衝撃が右手から全身に広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の拳を躱され、クロスカウンターの要領で鋼鉄の拳が頬にめり込んだ。

 

 

 頭から地面に転がり、経験から無意識的に受け身をとる。

 

 

 つくづく自分は馬鹿だと思う。敵のメンタルセラピーを行い、あろうことか強化してしまった。

 見てみれば一瞬も動きを見逃さんとカイサラがこちらを観察している。

 追撃してこないのは、地面に転がって何をするかわからないジャックよりも正面に構えたジャックのほうが対応しやすいと考えているからか。……一瞬でも長く戦いたいというのもあるだろう。

 

 

 上等だ。全力で付き合ってやる。そして…勝つ!!

 

 

 鋭く息を吐いて踏み込む。爆発的な加速に乗って打ち込まれた右拳と片手剣がぶつかり合い、月明りよりも眩い火花を散らす。

 

 

 ソードスキルは使わない。外した時、わずかな隙間も見せることはできないからだ。それは、カイサラにとってもお互い様だった。打撃属性という有効攻撃タイプかつ無刀流という超攻撃的なソードスキルを持つジャックの拳はカイサラに通用してしまう。

 

 

 必死に互いの牽制を捌き、躱しながらチャンスをうかがい続ける。互角…否、ジャックがわずかに不利だった。

 

 

 隙を突いて鳩尾を狙った右拳を打ち込む。ジャックはその拳をフェイントにタックルに移すつもりだったが、あろうことかカイサラは真正面から右ストレートを受け止めた。それどころかその攻撃に合わせて片手剣をジャックの脇腹に差し込む。本来ならば…SAOであっても地面をのたうち回ってもおかしくない攻撃というのに、なんという冷静なカウンターか。

 

 

(畜生、普通なら躱すようなフェイクに引っかからねえ。むりやりぶち破って斬ろうとしてくる!)

 

 

 カイサラの鋼鉄のボディならではの戦い方だ。首から下が鋼鉄のカイサラは急所というものが存在しない。プレイヤーや人型モンスターならではの〈動脈のある部位を斬られると大ダメージ〉が発生するとか、〈腱を斬られると動きが鈍る〉とか、そういった弱点部位やそれにともなうデバフがないのだ。

 

 

 完璧な後の先。ダメージこそ通るものの、それ以外が通らない。

 

 

(なら、これしかないな)

 

 

 『最高威力のソードスキル』を『クリティカル』で『弱点の頭部』に叩きこむ。

 

 

 そのためには…。

 

 

 

 全速力で走りながら、ジャックは腰のポーチから最後の投擲武器を抜いた。〈天津雪風〉。ジャックの持つ最後の投擲武器。義眼のある右側から回転して襲い掛かるように投げつけてやれば0.1秒でも隙が出来る。そこに無理やり攻撃をねじ込めばいい。

だが、

 

 

「ここだ」

 

 

 振りかぶった時点でカイサラは至近距離にいた。あらかじめジャックがダッシュしながら短剣を抜くと予想していないとあり得ない動きだ。

 

 

「貴様が〈無刀〉でなくなる瞬間を待っていたぞ」

 

 

 

 すでにシステムは投擲モーションを捉え、ジャックの左腕はライトエフェクトを纏って動き始めている。。

 

 

〈無刀流〉は武器を持たない場合に攻撃をはじき返すほど驚異的な威力を発揮する。だが

その補正は他の武器を持っている間は発動しない!!

 

 

 

 

〈投剣スキル〉によって手元を離れる寸前の〈天津雪風〉を躱し、カイサラの振るう〈ドールフル・ノクターン〉はジャックの左腕をグシャグシャに切り裂いた。長い戦闘によって耐久値を減らしていたガントレットは一閃に耐えきれず、食い込む刃によって腕の内側に沈み込み、斬られた。

 伸ばした腕に切り込まれ、上腕の半ばまで埋まる。

 

 

 HPが面白いように減少し、イエローゾーンギリギリで止まる。

 

 

 勝利を確信した表情を浮かべるカイサラを見て……ジャックは、無理やり口角を釣り上げた。

 

 

「貴様、なぜ笑って……」

「やっと……! デカい隙を見せて間合いに入ったな!!!」

 

 

 

 ジャックは右拳を握っていた。投擲に合わせてカイサラが向かっていた時も、自分の左腕がぶったぎられる瞬間も、堅く硬く拳を握っていた。

 

 

 驚異のNPCカイサラならこの隙を突くと予想していたから。そして案の定〈超接近していて剣を振りぬき、左腕に刃を深く埋めた状態〉のカイサラが目の前にいる。やることは一つ。

 

 

「オオオオオラアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

 全身全霊の無刀流単発重攻撃〈震天魁砲〉を叩きこむ!!

 角度的に頭部は狙えない上に、前回はカイサラの〈ヴォーパルストライク〉と打ち合って押し負けている。しかし今、『武器を振るった後』で『脇腹』に『全力』でぶち当てれば……!!

 

 

 インパクト。

 目の前の強敵を打ち砕く。その一心で放たれた驚天動地の一撃は、カイサラの脇腹にクリティカルで打ち込まれた。インパクトの瞬間、拳とボディが爆発し極彩色のパーティクルが周囲一帯に弾け広がる。

 

 

 光の爆発が月明りを吹っ飛ばし……。

 

 

 

 気づけば、ジャックは拳を振り切った状態で立ちすくんでいた。左手は一定ダメージを超過したため、耐久値がロストして肩から先が無くなっている。肩の付け根から血のような赤いダメージエフェクトが零れ落ちていた。

 右腕のほうも無事とは言い難く、ガントレットは人差し指と小指の装甲が無くなっていた。おまけに〈無刀流〉ならではのデメリット、ソードスキルのクールタイムに加えて重量超過による一時的な麻痺も発生し、思うように動かない。

 

 

 回復結晶は尽きている。ポーチに手を突っ込み、適当なポーションをそっと掴み、震える手で煽った。

 

 

 目の前20メートル先にカイサラは倒れていた。HPは最後のバーのレッドゾーン一歩手前といったところか。まだ息はある。とどめを刺さなければならない。

 

 

 ジャックは一歩踏み出して……そこで倒れていた人影がむくり、と動いた。

 

 

(クリティカル、だったはずだ)

 

 

 ジャックは右腕だけで構えた。

 

 

 

 その立ち上がった姿をなんというべきなのか。

 

 

 完全に胴体を砕けかねないほどの亀裂が入っているが、むりやり保つかのように木の根が全身にわたって巻き付いている。限界を迎えていたのか左腕は折れてなくなっていたが、補填するかのように腕のように成長した樹木がゆっくりと生えていた。

 植物に取り憑かれたロボットのようだ。

 

 

 

「まだHPは残っている。楽しいなあ……戦うぞ、もっともっと戦うぞ!」

 

 

 

カイサラは。

 

 

 右目の潰れた表情で、原形もとどめぬ状態で、〈剥伐のカイサラ〉にはあり得ない様相で。とてもうれしそうに言った。

 

 

 

 足元の樹を操作して跳躍、一気に距離を詰めて飛び掛かる。ジャックはなんとか右足に意識を集中させてカウンターを構えたところで…

 

 

 

 

 カイサラは突如として横から激突した何かに轢かれた。小気味よく吹っ飛ばされて地面を転がる。

 

 

 

 カイサラを轢いたその正体は、

 

 

「ツクヨミ!」

 

 

 盾を前面に構え、体のあちこちから電流を零すツクヨミだった。

 鎧の隙間に細かい根っこが引っかかっている。…が、それらは煙を出して焼け焦げて落ちた。

 なんだ、全身が高熱を発しているのか…?

 

 

「お待たせしました、あとは任せてください…って言いたいんですけど」

 

 

 ツクヨミは兜の面を跳ね上げ、冷や汗たっぷりに言った。

 

 

「今全身に電気流れてる状態なので、あんまりこの状態保ちません!!」

「え、は、どういうことなの?」

「さっきこれを掴んでからこんな感じで」

 

 

 そういってツクヨミは盾の裏の左手を開いて見せた。そこには光り輝く黄色の宝石が握られている。

 

 

「それ、トーラス王の雷の宝石じゃね!? なんでツクヨミが」

「わかりません! さっき木の根っこに縛られてるときに掴んだのがこれで、そしたら雷で根っこが焼け裂けてそれで」

「蹴り落とした宝石はこのデカい樹に飲まれてここまで来たのか…。雷を撃ったりできるか!?」

「撃つ? いや、思い切り握りしめると」バチバチバチ!!「こ、こんな風に稲妻が流れるだけで狙ったところに撃つとかはちょっと」

 

 

「ハンマーの女戦士! 貴様もやはり生きていたか!」

 

 

 ギシギシと不気味な音を立ててツクヨミは勢い良く立ち上がった。

 

 隻眼を爛々と輝かせて、ジャックとツクヨミに左腕代わりに生えた木剣を向ける。

 

 

 

 

 ジャックの頬を液体オブジェクトが伝う。

 カイサラはすでにHP的にも体の状態的にも死に体だというのに、勝てる気がしない。

 ジャックは片腕を失っているし、右手両足の耐久値もほとんど多くない。

 ツクヨミをメインに、ジャックがサポートしながら戦うか? 否、そもそもこの足場ではカイサラはイビルトレントの種子でいくらでも罠を張れるのだ。素早さのある俺ならともかく、ツクヨミではすぐに足を縛られて終わりだ。雷の宝石で焼いて突破できるとしてもその雷の力がいつまでもつか…。

 

 

 

 瞬間、ジャックの脳裏に天啓ともいえるアイデアがひらめいた。これが上手くいけば、一気に隙ができるどころかカイサラを高確率で仕留めることができる。おまけにわずかな確率で仕切りなおせるオマケつき。

 しかし、この作戦こそ不確定要素が多すぎる上に失敗すれば二人とも死ぬ。

 

 

 

 針の穴を通すどころか針の穴があるかもわからない策だが、もし通るのなら。

 

 

 

 ジャックはツクヨミに簡潔に、カイサラに聞こえない声量で何をすべきかだけ伝えた。 

 

 

 ツクヨミは驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。

 

 

「いくらでも策を講じろ、それを突破した時でこそ私は勝利を確信できる」

「そいじゃ、お言葉に甘えるか…ツクヨミ!」

 

 

 

 ツクヨミは宝石を宙に弾くと、ハンマーを振り下ろした。

 

 

「でえええりゃああああああ!!!!」

 

 

 片手メイス振り下ろし単発技〈ジャイアントスタンプ〉。巨人の一歩と呼ぶべき偉大な衝撃はトーラス王の黄金の宝石を地面にたたきつけ、木っ端みじんに破壊した。

 

 

 光の爆発。

 

 

 瞬間、内包していたエネルギーが爆発し膨大な雷を四方にまき散らす。

 

 

 嘗ての二層のボス、〈アステリオス・ザ・トーラスキング〉のデトネーションを彷彿とさせる…否、それ以上のスパークが巨大樹深くを駆け巡り、焼き裂いてゆく。

 

 

 

 

 

 雷神の一撃はレドレス城を飲み込んで天にそびえた巨大樹を駆け抜け、焼き切り裂いた。

 

 

 

 真ん中から地上500メートル付近まで裂けたことによって均衡の崩れた巨大樹はバキバキと悲鳴を立てて傾き始める。真っ二つに割れた巨大樹は外側に向かってそれぞれ倒れ始める。

 

 ツクヨミは盾を地面に突き刺して転がり落ちないようにこらえていた。

 

 

 ジャックもだんだんとキツくなる傾斜に耐えながらカイサラの方を見ると、彼女もやはり地面に左腕を突き刺し…というより木の根と化した腕を『接続』していた。

 

 

(まずい。あいつは今無尽蔵に植物を生成・成長させられる。あのままじゃまたこの巨大樹が再生される!)

 

 

 

 ジャックは脳みそが急速に冷え込んでいくのを感じた。時間がだんだんとゆっくりに感じられ、思考は余計な感情をそぎ落として、デジタルに自分のすべきことを提示してくる。

 やることは、やるべきことは一つしかない。

 できるのは自分だけで、今が千載一遇のチャンス。

 

 

 

 

 わかっている。だからその前に言わなくちゃ。

 

 

 50層で自分を逃がしてくれたあの人の様に。ニカッと笑って快活に。 

 

 

 

「ツクヨミ!」

 

 

「は……はい!?」

 

 

「短い間だったけど! 協力してくれてありがとな!」

 

 

 

「え!?」

 

 

 唐突にお礼を言われ、困惑するツクヨミ。ガクンと盾を突き刺した巨大樹が揺れて目線を離し、戻した時には隻腕の無刀流使いは居なくなっていた。

 

 

 ジャックは駆け落ちていた。垂直に近づく傾斜を蹴り、宿敵めがけて弾丸となってカイサラに突きこむ。

 

 

 

「ハハッ、ここで飛び込むか!」

 

 

 

 犬歯をむき出しにして笑うカイサラにとびかかり、右腕を絡めとって勢い任せに巨大樹から引き剥がした。カイサラとジャックの二人分の重さに耐えきれなかった木の根がちぎれ、落っこちる。 

 

 

 

 

 ふわりとした浮遊感。実に半日ぶりに、ジャックは再びアインクラッドの上空から転落した。

 

 

 

 カイサラも自分もこのまま落下すれば確実にHPを全損させて死ぬだろう。

 

 

 だが、何もしないわけがない。

 

 

 ジャックよりも少し遅れて落下したカイサラは左腕の木を変形させて、一つの弧を作り出していた。この端と端は細い樹の蔦のようなものがピンと張られている。これは、弓だ。

 

 

 木の枝でも生成してクッションを作れば助かるかもしれないというのに、カイサラはジャックを殺すための武器を生成していた。

 

 

「まだ戦いの最中だぞ? 転落死なんてつまらない決着は絶対にありえない」

 

 

 

 そしてカイサラは右手で弦を轢き、生成した木芽矢じりの矢を構える。残った右目に映るジャックは。

 

 

 

 拳をまっすく腰だめに構えていた。右拳にイエローのライトエフェクトが集まり始める。

 

 

〈雷鳴〉。一気に距離を詰める単発ソードスキル。システムアシストによって推進力を与えれたジャックは、物理法則を無視して直上に飛翔した。同時に放たれるカイサラの矢。

 

 紙一重で方向を少し変えて躱しながらジャックは飛んだ。しかし繰り出された拳はカイサラを外し、カイサラと同じ高さになったあたりでスキルは止まった。

 

 

 拳は外れた。この後ジャックはクールタイムによって動けなくなり、そのまま地面に叩きつけられて死ぬ。と、普通なら予測する。

 

 

 

 だが人外の高速の思考速度と、拡張した思考能力をもつシンギュラリティの到達点のカイサラはそのような甘ったれた結論は出さなかった。

 

 

 一度アインクラッドの天蓋から叩き落し、万全の自分との決闘にすら退かなかったこの宿敵の最後で最高の切り札。そのカードで私は確実に死ぬ。

 

 

 

 ジャックは体を捻ると、右足に意識を集中させた。銀色と金色が入り混じったライトエフェクトがジャックの足に集まってゆく。

 

 

〈無刀流〉ソードスキル最後の特徴。両手両足はそれぞれ別にクールタイムが設けられる!!

 

 

 ライトエフェクトに照らされて見えたカイサラは薄く笑っていた。

 

 

 

「御見事」

 

 

 

 そして、オーバーヘッドキックの要領で天地を逆さにして放つ絶体絶命の一撃。

 

 

 

〈月輪〉。縦方向に回転して蹴りを放つ縦全方位型ソードスキル。

 

 

 

 カイサラの腹に叩きこまれた鋼鉄のつま先はかろうじて崩壊を防いでいた蔦を破り、ヒビを押し広げ、やがて体を割って蹴りぬかれた。

 

 

 

 カイサラの体は腹を中心に崩壊し、ただの鉄塊となって落下していく。

 

 

「ああ、負けてしまったか……」

 

 

 上半身、それも左腕と右目をなくした状態になったカイサラは高速化した思考速度でこれまでのデータを振り返っていた。だが、思い出すのは最近のことばかりだ。

 

 

 

「せっかく私はやりたいことが見つかったのに、結局死ぬのか」

 

 

 HPはもうない。落下する前に消えてしまうだろう。

 

 

「だがまあ、最期に自分の意思で戦えてよかった」

―あのぞくぞくした戦いを、またやりたかったな……。

 

 カイサラは満面の笑みを浮かべそして――ポリゴン片となって霧散した。

 

 

 

 ジャックは無抵抗に落ちていた。もはや体一本動かせない。左足こそ動かせるものの、だからどうすればいいのか。システム的にも動けないが、それがなくとも脳のスタミナが一滴も残っていないとわかる。

 

 

 

「よくやったほうか……。」

 

 

 これでアインクラッドは守られた。クリアこそまだまだ先なものの、少なくとも急にゲーム機に水ぶっかけられるみたいな災厄は避けられたわけだ。

 

 

 

 ――やったよ、リーダー、みんな。見ててくれたかな。あの時に自殺とかしなくてよかった。ツクヨミも助かったし。

 

 

 

 ――って、一回飯行ってクエストやったからってもうあの人のこと気になってるのかちょろいな、僕。

 

 

 ――噂をすればツクヨミが僕に向かって走って、走って……走って?

 

 

 

 だんだんと視界の情報によってクリアになっていく思考。やっぱり見間違いじゃなく。

 

 

 ツクヨミが、巨大樹の側面を走り落ちている。

 

 

 

「ツクヨミ!?」

「ジャックさん!! こっちに!」

 

 

 ツクヨミはそういうと、稲光と共に爆発した。

 

 

 あの雷のエフェクトは、あの宝石を持っているのか。

 驚異的な跳躍でジャックのほうに飛びつくと、強く抱きしめた。鎧がゴリゴリとジャックを削って超痛い。

 

 

「な、どうするんだ、このままじゃ二人とも死ぬぞ!」

「大丈夫ですよ、今、()()()()()()()()()()()()()()()()から」

 

 

 そういってツクヨミは盾を地面に向かって構えた。

 

 

 まさかツクヨミは。

 

 

「地面との激突をパリィする気か!?」

「ハアアアアアアアア!!!」

 

 

 盾を下に構えて盾がライトエフェクトを纏う。

 

 

〈ビッグガード〉パリィの持続時間をブーストする盾ソードスキル。

 

 

 

 地表が近づき、木に飲まれて廃墟になった城の屋根が大きく見えてくる。

 

 

 

 そして激突寸前、ジャックは硬く目を瞑った。

 逆にツクヨミは全神経を集中させて目の前を見据える。

 

 

 屋根に激突する瞬間、パリィ発動。ダメージ0。続けて床。パリィ発動。ダメージ0。続けて……。

 

 

 

 ガラガラと石が崩れる音がして、ジャックはそっと目を開いた。

 HPはイエローゾーン。ポーションの遅い回復によってやっとグリーンゾーンになったところだ。

 パーティーメンバーリストのツクヨミもグリーンゾーンだ。

 なんならガーディアンズのメンバーも全員生きている。

 

 

 覆いかぶさっていたツクヨミが地面に転がり、兜の面あてを外し捨てた。

 

 

「た、助かったぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

 

 ツクヨミは一安心といった様子で深く息を吐いた。彼女は、城を突き破りながらすべての激突にパリィを発動させ、地上数百メートルからの落下から人ひとり抱えて生き延びたのだ。

 

 

 超人的な偉業にジャックは思わず笑いが零れる。

 

 

 結局、助けてもらってばかりだな。

 

 

 

 

 

 まっすぐにぶち破られたレドレス城の天井から、アルゴが頭を出した。

 

 

「へーいジャック、生きてるカ?」

 

 

 

 ジャックは、緩慢な手つきでピースサインをつくった。

 

 




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