ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜 作:明石雪路
2022年10月25日:AM9時
次の朝。三層主街区ズムフトにて
「今更だけど、軍の方は良いの?」
「他の少尉さんに頼んだので、大丈夫です」
僕とツクヨミは、装備を整えて集合していた。
僕は革防具〈ジャケット・オブ・トワイライト〉、両腕にはガントレット、両足には高い防御力を誇る鉄製のブーツを履いている。
ツクヨミの方は頭からつま先まで全身厚手のプレートアーマーに円盾を背負い、腰には金槌を大きくしたような片手メイスを装備。いかにもタンクといった装備である。
主街区を出発し、村へ向かう。
特に何もない一本道なので、トラブルなんてのはない。三層と言えばゲームとして序盤も序盤、ダイパで言うクロガネシティだろうか? こんなところでギミック山盛りだったら
おそらく全員死んでいる。死ぬことを除けばゲームとしては最高なんじゃなかろうか。
しばらく歩いたところで、ツクヨミが言った。
「あの、武器は装備しないんですか?」
「あっ、そうだね。ごめん」
すっかり忘れていた。慌ててアイテムウィンドウを操作して武器を取り出した。腰にポップしたのは、刃渡り45センチほどの小太刀だ。固有名は〈天津雪風〉。鋭さと出血ダメージ付与率アップにが嬉しいモンスタードロップ品である。耐久値が少ないため魔剣には一歩及ばないものの、短剣のなかではかなり性能の高い一品である。
「最近体術スキル上げに武器をしまって戦ってたから。うっかりね」
「なるほど。私も体術はとってますけど、全然上がらないです」
そういうツクヨミの腰には、でっかいハンマーが吊ってある。
メイスを初めとした打撃武器共通の特徴は『壊れにくい』ということだろう。刃を持たないため、刃毀れの概念がないのである。鉄の塊と薄い鉄の板、どちらが破損しやすいか考えればわかりやすいかもしれない。モーニングスター等のトゲトゲが付いていたら別だが、少なくともツクヨミのハンマーは平たい面で殴るタイプであるため、かなり丈夫だろう。
つまり武器ロストが発生しづらく、拳に頼る機会が来ないと言うことだ。タンクの場合はメインウェポンを無くしたら盾で殴れば良いし、キックするほど足は上がらない。
「まあ、ハンマーも盾も持ってるタンクじゃ体術を使う機会は少ないよな」
それでも体術スキルをとってしまうのは、「武器がなくなったらどうするのか?」という仮定への回答と言えるだろう。あるに超したことはないというか、精神安定剤みたいな物だ。
しばらく歩いたところで、件のクエストNPCが気にもたれて座っているのが見つかった。
近づいていくと、彼もしくは彼女がボロボロの状態なのがわかる。全身右腕は失われており、甲冑はヒビと棘で突き刺されたのか穴で一杯だった。鎧の隙間からは血が少しずつ流れている。
とりあえず索敵スキルで周囲にモンスターも不審なものもないことを確認してから、鎧騎士の元に歩いていった。
僕たちが近づいてきたことに気がついたのか、緩慢な動きで頭を上げた。
「すまない、旅の者……。私の村は厄災によって滅ぼされてしまった。村のみんなの仇そしてほかの街のために、ヤツを退治してはくれないだろうか……」
「引き受けるよ。そいつは僕らがぶっ飛ばす」
僕がそう答えると、騎士は「ありがとう」と呟いて、ポリゴン片となった。
ログに新しいクエストが追加され、『散っていった騎士のため、村に行って厄災を討伐しよう』と情報が更新されていた。クエスト名は、『破滅の始まり』。
「随分と物騒なクエスト名ですね」
「ああ、ただのスローター系のクエストならもっと簡単なものになるはずだ」
例えば、変なマスクを着けたオーガを殺すクエストなら『謎の殺人鬼を追え』みたいな。
「このクエストは結構長くなりそうだ。こっからは警戒レベル高めで行こう」
ツクヨミはガシャリと兜をならしてうなずいた。
植物系mobを狩りながらさらに歩いて行くと、ついに騎士の村にたどり着いた。
この村には特に特徴的なものはなかったはずだ。三層攻略の時には補給やメンテのポイントとして多くのプレイヤーが入り浸っていたはずだが、1年以上前に攻略されて以来、プレイヤーの出入りはほとんど無くなり、NPCだけがプログラムに沿った毎日を送っている……はずなのだが。
「やっぱり誰もいませんね」
「うーん。まさか圏内がここまで荒れるとは。てか圏内ってインフォメーション出ないな」
僕たちの目の前には、荒廃した村だったものが広がっていた。
ほとんどの家屋が半壊か全壊しており、無事な建物は一つも無い。商品が耐久値を全損して消滅したのか、露店らしき残骸の周りには空箱が転がっている。ぽつりと転がったボールがえも言われぬ空虚さを醸し出している。
「とりあえず災厄を探そう。どんな奴かもわからn」
「GGYAAAAAAAAAAAAA!!!!」
僕の台詞を遮って、モンスターの咆哮が村を駆け抜けた。
索敵スキルを使うまでもない、村に沿って流れる川の方からだ
だが、僕らが向かう前に癇癪持ちがこちらに走ってきた。
それは、簡単に言うならドラゴンだ。四足で歩くそいつの背中から首回りにかけてハリネズミのような棘がびっしりと生えており、それ以外は鱗で覆われている。長い尻尾で家をぶっ壊しながらエントリーしたドラゴンの近くにHPバーが三本現れた。
固有名は、〈Poison dragon:Syumarugor〉。シュマルゴア、だろうか。
シュマルゴアは白濁した瞳で僕らを捕捉すると、再び咆哮を轟かせた。
「ツクヨミがタンク、僕が殴る! 戦闘開始!!」
「はい!!」
僕らが武器を抜刀し、シュマルゴアが顎を開いて襲いかかった。
ツクヨミの強さは、ハッキリ言って予想外だった。
シュマルゴアは背中の棘を発射し、動きを止めてから攻撃するという戦法をとってきた。
ツクヨミは威嚇によってタゲを集中させるので、その棘が一気に襲いかかってくるのだが、それらを全て盾で弾き飛ばす。棘を打ち切って出来た隙を見逃さずに接近し、前足をハンマーで連続殴打。ハンマーの強化を速さに振っているのか、重量のある武器とは思えないほどの連続攻撃で、シュマルゴアの前足を赤いパーティクルで一杯にした。片手メイスは他の武器よりもノックバック効果が高い。ツクヨミは尋常でない攻撃量によって何度もシュマルゴアを仰け反らせ、反撃の機会を与えなかった。
極めつけに、踏みつけによる地震をハンマーの上位ソードスキル〈アースクェイク〉(地面を打ち付けて周囲のモンスターを転ばせる)で打ち消し、そのまま追撃するという荒技を披露。
僕も攻撃に参加していたものの、正直ツクヨミの方がダメージ効率が良かったように思う。なんせシュマルゴアは斬られたそばから鱗が傷口を覆うのだ。
言い訳させてもらうと、短剣はエンチャントや手数、急所へのクリティカルでダメージを稼ぐ戦い方が基本となるので、デカくて筋肉勝負を挑んでくるモンスターとは相性が悪いのだ。勝てないわけじゃない。時間があれば一人でも勝てるよ。ホントだよ。
結局LAもツクヨミがゲットし、ハンマーで鼻っ柱を思い切りぶっ叩かれたシュマルゴアは巨大なポリゴン片となって爆散した。
「経験値が美味しいですね」
「ああ、うん。」
ちゃっかりLAを取ってしまったことを申し訳なく思いつつドロップ品をチェック。何故か〈腐敗した~~〉という劣化した素材アイテムがいくつかと、
「なんだこれ、〈隷従の楔〉?」
試しにオブジェクト化すると、一本の短く、細長い板が現れた。先が細く、だんだん太くなるようなデザイン。太い方には何かが書かれた包帯が巻かれていた。指でつまんで持ち上げると、なんともまがまがしい殴り書きの書かれた包帯がはためいた。
「何か書いてありますね」
「良く読めん。テキストはなんて書いてあるかなーと。『フォールンエルフによって作られた呪いの楔。打ち込んだモンスターを自在n
そこまで読んだところで、つまんでいた楔が衝撃と共に弾き飛ばされた。同時に、ツクヨミの兜がカン! と金属質な音を立てて揺れた。
一瞬だったが、僅かに見えたのは投擲用ピックだ。1000パーセント襲撃である。
ツクヨミは既にハンマーと盾を構えている。
つーか台詞遮るの2回目だ。1話の間に二回とかあるか?
ピックの飛んできた方向を見ると、二人のプレイヤーがこちらに駆けてきているのが見えた。頭部のカーソルはオレンジ。カーソルをイメチェンするには他のプレイヤーを襲うしかない。つまり堅気でない連中が挟み撃ちする形でこちらに武器を抜いて向かってきている。
あんまり笑えないトラブルだ。
「ジャックさん! そっちはお願いします!」
「ツクヨミ! そっち頼んだ!」
戦闘開始。僕は再び小太刀を抜いた。
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