ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜   作:明石雪路

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〈無刀流〉

 

 僕に向かってきたのは、オレンジの槍使いとグリーンの片手剣士だ。

 

「シャア!!」

「おっと……痛!!」

 

 

 槍使いが僕と間合いをとって牽制してくる中、剣士が隙を突いて攻撃を加えてくる。小太刀で防いでいくが、10合に一度の割合で攻撃を食らってしまう。

 どちらも装備のグレード的にレベルは僕には及ばないだろうが、チームプレイが厄介だ。

おまけに槍はヌラリとテカっている。毒でも塗っているのだろう。

僕はコイツらを、『負けはしないが勝つのに時間がかかる相手』と結論づけた。

 

 

 ツクヨミの方はどうだろうか。

 そちらを見ると、攻防を繰り広げている様に見えて、ツクヨミの方が僅かに劣勢っぽい。先のシュマルゴア戦でわかったことだが、ツクヨミは基本的に反射で戦っている。

 モンスターは戦略を立てて攻撃を仕掛けてくるわけではないので、ツクヨミはその攻撃に対してアドリブで反撃しているのだ。つまり反射神経の化け物。見てから躱すか防御を行い、反撃。スペックの並ぶモンスター戦に関しては無類の強さを誇るだろう。

 逆に言えば、将棋のように先を読んで攻撃を仕掛けてくるPKには弱い。あちらはプレイヤーを殺すために効率的に攻撃してくるので、こちらも先を読んで対応しなくてはならない。だがツクヨミは反射で攻撃する上にそのハンマーも直線的。対人戦に慣れていないのだろう。今も躱され、弱攻撃を食らっている。

 ツクヨミは、二人がかりでじりじりと攻められ続け、アーマーは赤いパーティクルで染まっている。ダメージこそ即死は無いだろうが、直に打ち合いも出来なくなるだろう。

 そしてツクヨミがHPをゼロにして死ねば、向こうの二人も僕を狙うだろう。4対1で勝てるかと言われれば……ちょっと自信が無い。

 

 

結論。今の僕らは死ぬかもしれないピンチ。

 

 

 1番は僕が目の前の二人を倒してツクヨミを助けに行くことだが……。攻めあぐねているこの状況だと難しい。

 

 

否。僕にはまだ切り札がある。そいつを切るしか無い。

 

 

「ツクヨミ! 10秒持ちこたえといて!!」

 

 

僕は叫ぶと、投擲用ピックを槍使いと剣士の頭部に投げつけた。二人がガードした隙に、近くの廃屋に飛び込む。

 ボロボロの民家の中で、左手を振ってウィンドウを呼び出す。小太刀の装備を外し、『防具タブ』をタップ。目的の装備を呼び出すと、腕と足が少し重くなった。その手でスキル欄を呼びだし、武器スキルを変更。全ての操作を変更し、×マークを叩いてウィンドウを閉じると、僕は民家を飛び出した。

 正面から二人。奥でツクヨミと戦うオレンジが二人。

 

 

 僕は腰のチャクラムを掴むと、正面の二人に向かって投げつけた。

投剣スキル、〈スナップショット〉。手裏剣やチャクラムなどの円形投擲武器に作用するスキルで、フリスビーの要領で投げつけることが出来る。さらにチャクラムという武器特有の手元に戻る効果とチャクラムの回転で、剣士と槍使いに連続命中して手元に戻った。目と首に命中。目は目眩、首は出血ダメージが発生しやすい弱点だ。一時的に敵二人を行動不能に成功。

 

次はツクヨミの方だ。姿勢を崩して膝をついたツクヨミに、湾刀が振り下ろされようとしている。絶対にさせない。

 先ほどの物よりも強固なガントレットに包まれた拳がイエローのライトエフェクトを纏い、全身がゲームのアシストによって加速する。

 

 僕の体は稲妻のごとき速度で湾刀使いを襲撃した。

 ソードスキル〈雷鳴〉。上位突進技。

 紫電の一撃を喰らい、湾頭使いが大きく吹っ飛ばされた。何が起こったかわからないというような顔をするもう一人の片手剣士の顔貌にハイキック〈鎌鼬〉をたたき込み、脳震盪ならぬ〈目眩〉状態に陥らせた。

 

 

「あの、ジャックさん、武器は……」

 

 ハンマーを拾い上げて立ち上がったツクヨミが恐る恐る尋ねる。

 体術スキルにしては明らかに威力が高すぎるし、ごまかすことも出来ないだろう。

 

「エクストラスキルだよ。〈無刀流〉」

「無刀、流。攻略組のキリトさんの〈二刀流〉と関係があるんですか?」

「さあね。とりあえず今はコイツらを片付けよう」

 

 

 半身になって右腕を突き出し、左手を胸の前に置いて構える。

 目眩でふらついていた片手剣士Bが頭を振って剣を構え、チャクラムを喰らった槍使いと片手剣士Aもこちらを睨みつけている。湾頭使いも草むらから戻ってきた。

 

 

 これで2対1が二つから、4対2の構図になった。だが、対人戦闘に不慣れなツクヨミを戦わせるわけにいかない。

 

 

「仕方ない。僕があいつらを纏めて相手しよう」

 

 

 僕の舐め腐った台詞に切れたか、片手剣士二人が襲ってきた。Aはソードスキル〈レイジスパイク〉、Bはソードスキルは出さずにAの後ろから隙を狙おうと追従している。

 

 レイジスパイクは低姿勢で放たれる突進技だ。リーチは〈ソニックリープ〉に劣るが、低い姿勢から攻撃するため、避けにくいというメリットがある。

 

 

 だからそのまま蹴り上げた。無刀流蹴り技ソードスキル〈噴炎〉。吹き上がる火山の様に放たれた右の前蹴りは、剣士Aが剣を振る前に命中した。顎を思い切り蹴り上げられてソードスキルが中断。空中でクルクル舞って病葉当然に落っこちる。

 Bが構わず〈バーチカル〉を繰り出したので、無刀流攻防一体ソードスキル〈渦巻〉で迎え撃つ。腕をねじり、回転させて放つ拳は腕の回転によって刃を受け流し、顔面を殴りつけた。

 どちらの攻撃もクリティカルヒット。彼らのHPが4割ほど削られた。

 

 続けて槍使い達にも追撃しようとしたところで、唐突に煙幕が視界を遮った。湾刀使いか槍使いの仕業だろう。

 

 索敵スキルを発動させたが、煙の向こうに居るはずのPK連中が見えない。煙玉に混ぜ物でもしたか。

 晴れた頃には四人とも逃走し、姿は見えなくなっていた。足跡から追跡スキルで追うことは出来るが、急いで追いかけて変な罠を踏むのも嫌なので、ここは敢えて追わないでおく。

 

 

 やっと一心地ついてポーションを一気飲み。隣を見ると、ポーションの空き瓶を握りしめてツクヨミがへたり込んでいた。

 

 

「結構危なかったですね……」

「ホントにな。何とかなって良かったよ」

「街を出る前に武器を出してなかったの、無刀流があるからだったんですね」

「そだよ。出来れば秘密にしといてくれる?」

「あ、それはもちろん大丈夫です!」

 

 

 まあ、このソードアートオンラインというゲームで武器無しスキルなんて流行らないだろうけどね、と心の中で付け加えた。無刀流はこれまで育ててきた武器スキルを否定するようなものだからだ。僕の場合は短剣に体術も合わせる戦闘スタイルだったから忌避感なく受け入れているが……。

 

 

 それはさておき。

 

 

「今回のイベント。これまでとはかなり趣が違ったな」

「?」

「片手剣士の一人。僕のことをまあまあ斬ってくれたけど、カーソルカラーが変わってなかった。つまり変わらないようなアイテムを使っているか、『この村でプレイヤーを攻撃してもカーソルが変わらない』ように何かの保護を貰っているかだ。」

「……イベントクエストとか」

「そう。つまりさっきの鎧騎士側のクエストと、どっかの誰かのクエストでパターンを選べるんだ。三層のエルフクエみたいに。そして、ルート同士でバトルすることがある。クエストログ見た?」

「えっと……。『シュマルゴア討伐後、謎の襲撃を受けた。犯人を特定し、何が起きているのか突き止めよう』……」

「そういうことだ。僕の追跡スキルを使えばあいつらが何処に向かったかわかる。君は一旦帰れ。僕はこのまま追うよ」

「な、なんで。私も行きます!」

 

 

 自分だけ帰るのが不服なのか、食い下がるツクヨミに僕は続けていった。

 

 

「だってPvP慣れてないだろう。レベル差があっても技量で出し抜かれたら終わりだ。死んじまうよ」

「……今さっきの戦闘で対人戦のコツが大体わかりました。私も連れて行ってください!」

 

 

 そう決意の固まった眼差しで見られると、あまり強く言えなくなってしまう。

 

 

 

「じゃーーー……あ、行くか……。転移結晶と回復結晶は取りやすいところに入れといて」

「はい!」

「んじゃ、行こう」

 

 

 僕たちは、足跡を追って森の中に進んでいった。

 




〈無刀流〉スキルについて何か質問があったら感想欄にて答えたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。
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