ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜 作:明石雪路
2024年10月25日 ??時
「あと少しだ。頼むぞ人族の鍛冶士よ」
「はいはい、どうも。依頼主殿」
薄暗い地下室で、缶を通して話したような、金属のエフェクトのかかった声がした。
そして、その声にくたびれた声で答えながら鍛冶用のハンマーを降り続ける男がいた。
何百回と降り続けた腕に乳酸が溜まることはないが、同じ事を延々と続けていると流石に精神がすり減っていく。
「ほら、もう少しだぜ。レイジャー」
ギルメンが背中を叩き、レイジャーと呼ばれた鍛治士は「オウ」と薄く笑って返事をした。
仲間のカーソルはオレンジだ。
彼は、オレンジギルド「クラッシャーズ」の鍛冶師である。
オレンジギルドとは基本的に街に入れない。メンバーの一人をグリーンで維持して補給させる手もあるが、流石に全員分の装備をNPC鍛冶屋にいちいち持ち込むわけに行かない。それに店売り品でPKを行うとアシがつく危険もある。結果として堅気でない連中は仲間に鍛冶師を用意するというわけだ。他にも生産職を兼ねているメンバーはいる。どいつもこいつもスキル熟練度は高いが、志は人殺しや窃盗と言った最低なヤツばかりだ。
レイジャーにとっては最高の仲間達だが。
レイジャーが最後の一叩きをしたとき、インゴットがライトエフェクトを放ちながら形を変えた。
輝きながら鉄塊が変化し、やがて1本の左腕となった。
「素晴らしいな」
その腕を見て、影は満足そうにうなずいた。そして右腕でそれをつかみ、肩に埋め込んだ。
少し金属がこすれる音がするが、スムーズに稼働している。
「ああ、これで後は右腕と左足、胴の一部だ。ありがとう、そしてまた頼むぞ、人族の鍛冶師よ」
「マジかよ畜生ッ」
レイジャーが金槌をすてて大の字に寝転がる。このクエストのためには鍛冶だけで無く、インゴット集めにもかなりの時間と費用がかかる。途方もない作業だ。
先ほど背中を叩いた護衛の男が口を開けて大きく笑い、転がった金槌を投げ返した。
「仕方ねえよ、コレもクエストクリアのためさ」
レイジャーがため息を吐きながら起き上がると、傍らの椅子に座っていた「依頼主」が頭を上げていた。
「客が来たぞ、お前達の仲間が招待したようだ」
レイジャーと護衛の男は、上司のお気に入りのコップでも割ったかのような気まずそうな顔をした。
「マジですか? えっと……オレらの仲間がすみません」
「問題はない。私も出る。体の調子も見たいしな」
ガシャリ、と金属音を鳴らしてその影は立ち上がった。
2024年10月25日:11時
足跡は道なき道の先、森の中を突っ切って続いていた。
痕跡をたどってしばらく歩くと、森の中にポツンと建つ教会があった。周囲は完全に森。道なんてものは続いて居らず、隔離されているような場所だ。まるで森をくりぬいて、そこに教会を置いたような、そんな場所。日の光が木漏れ日から差し込み、高名な写真家なら是非とも画にしたい光景だろう。そういえば写真クリスタルでアインクラッドを撮影して回るギルドもいるらしい。
教会の見た目はどう見ても古びているのに、どこか品があるのが印象的だった。凜としていると言うべきか。
索敵スキルによって可視化された足跡は教会の入り口まで続いている。
「こんなところに教会があったなんて」
「普通にやってたら気がつかないよなあ」
ここに来るには索敵スキルを高めたメンバーを含め、シュマルゴアや対人戦に秀でたパーティでないとたどり着けないだろう。先ほどの推測である、かなり難易度が高いクエストであることが証明されてしまった。
「とりあえず、コレを飲んでおいて」
僕は耐毒ポーションを2本取り出すと、一つをツクヨミに渡した。
「さっきもピックに毒が塗ってあった。万全を期して行こう」
ツクヨミはうなずいて一飲み。僕も呷ると、瓶をそっとポーチにしまった。
身軽な僕がドアをチェック。異常が無いことを確認してガントレットに包まれたドアノブに手をかけた。ツクヨミは盾とハンマーを構えて後ろを警戒しながら入る。
中は思っていたより整っていた。信者を健気に待ち続ける椅子や祭壇は突然の来客に押し黙った。
人影は一つも見られない。
「さっきの人たち、何処に行ったんでしょう?」
「祭壇の裏。足跡が少し視える」
足跡は消えかかっているが、確かに祭壇の裏側まで続いている。
ツクヨミがゆっくりと近づいていく。壁や床を撫でて、
「床の下に空間があるみたいです」
「わかった。空けてくれ」
ツクヨミがハンマーを振り下ろすと、ドゴォ!! と穏やかでない音を立てて床下の空間が露わになった。
「もう少しお淑やかな方法は無かった?」
「床が弱かったんです。多分……」
「まあ良いよ、僕が合図するまで待って」
もごもご言い訳するツクヨミに肩をすくめ、僕は階下へ飛び込んだ。
一秒ほど落下してスーパーヒーロー着地。音を殺すことに成功したが、膝にダメージが入った。HPバーが少し削れた。
「アーオ、格好つけなきゃ良かった」
僕の降りた場所から通路が続き、右手に折れている。壁は土を削った後に木材の柱で固定した作りになっており、壁にはヒカリゴケが並んでいた。このコケは明かりに反応して消え、暗いと勝手に光を灯す不思議植物である。
マズいポーションをすすりながら、通路を少し歩く。思ったよりも地下には広がっていないようで、通路を折れてすぐに鉄のドアがあった。
穴の方に戻って手を振ると、脇にツクヨミが着地した。
ガシャーン!! と鎧がぶつかり合ってやっぱり穏やかじゃない音がした。金属音が地下通路に木霊する。
「今潜入ミッション中だとわかっててこれかッ?」
「さっきやっちゃったし良いかなって……ごえんなあいアウアウアウアウ」
生意気言ったので頬をぐにんぐにん引っ張ってやった。
「……まあ、ツクヨミの言うことも一理あるか……?」
どうせあちら側も追っかけられていることはある程度想像出来ているだろうし、いっそ相手の罠ごと踏み潰す気分で行った方が良いのかもしれない。後、女の子のほっぺたグニグニはセクハラに該当するのかもしれない。
「悪かったよ、ちょっと警戒しすぎた。もっと気楽に行こう。注意を払いながらね」
ツクヨミを解放すると、ドアの方へ歩き出した。
再び索敵スキルを発動。案の定中に四つの影が確認出来た。だが、
「もう一人居るな。誰だろう?」
「誰かが捕まっているとか?」
「シルエットとしてはただ座っているだけっぽい。奴らの仲間と認定すっか」
確認完了。僕は無刀流ソードスキル〈火砲〉、ツクヨミは片手メイスソードスキル〈ショートスイング〉をそれぞれ発動。同時にソードスキルを喰らった鉄扉は体を折りながら部屋の中に吹き飛ばされた。
突入すると、五人が武器を構えてこちらを扇状に囲んでいる。
四人は先ほど襲ってきた四人。僕に結構なダメージを与えられたからか、少し緊張して見える。そして彼らの真ん中に立っているのは、
「良く来たな、人族の剣士よ……。おや、どちらも剣士では無いのか?」
鉄仮面で顔を隠した、謎のNPC剣士だった。片手には長すぎるほどの長剣が一振り。
NPCやモンスターの強さの測り方は、カーソルの色だ。標準は赤で、強くなるほど濃くなり、弱いほど薄くなる。
今目の前にいる剣士のカーソルはクリムゾン。今すぐ逃げたくなった。
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