ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜 作:明石雪路
2024年10月25日:PM4時
「お名前は」
「エニグマシェイド」
「武器ハ」
「両手斧」
「レベル」
「65。だが対人戦闘には慣れてる。NPCバトルコロシアムでは12連勝したこともあるぜ」
(なあ、コロシアムってPvP練習用の、15層の端にあるトレーニング施設のことだよな)
(ああ、最大50人のヤツ)
「あっはっはっは、最高」
僕は彼の履歴書にバッテンの判子を押した。
「名前」
「サーマデップ」
「武器とレベル」
「片手斧。77」
「おお、いいね」
「強いヤツと戦えるんだって? 全員ぶっ殺してやンよ」
「……例えばなんだが。敵が5人、何かしているところをアンタは見つけた。どうする?」
「飛び出して全員殺す」
「帰れ」
チームアップを計画した次の日。前日の夜に臨時パーティ募集の掲示板に求人を貼り付け、集まった野郎どもの面接を行ったのだが、どうも芳しくなかった。
その後も三人ほど面接を行ったが、レベルが低いか人の話を聞かない奴らばかりだ。
「なんで変なヤツしか来ないんだ」
「だから言ったロ。暇してるかギルドにも入れないはぐれ者しかいないっテ」
「そうだけどさあ……。そだ、ツクヨミは?」
「『キチンとこちらのお手伝いをしたいので、休暇届を出してきます』だってサ」
「律儀だね。……さて、どうすっかな」
「ショージキ、適当にハイド出来て逃げ足速いヤツ何人か雇うのもアリだと思うケド」
アルゴの提案は一理あった。本質を見失ってはいけないのが、クエストクリアに戦闘の必要性は絶対ではないからだ。クエストの抜け穴を見つけることで、一度も剣を抜くこと無く終わるクエストもある。だが、僕は否定した。
「今回のクエストにはオレンジギルドが係わってるし、ボスはクソ強NPCだ。戦わずに終わることはありえないと思う。だから、僕とツクヨミしか戦えるヤツがいないのは避けたい」
「ムム」
アルゴは瞑目して、腕を組んだ。情報屋の彼女は将来有望な人材やギルドを何人も把握している。だが、将来性があるだけで現在十分な強さを持っているわけでは無いのだ。レベル90の僕ですら苦戦する奴らに対して呼び出したくはないのだろう。
「鬼強いヤツに心当たりはあるが、今は誘いづらいんだよナ……。もう一つの、タイマンはそこそこでスニーキングミッションと搦め手が得意なヤツにツテがあル。オレっちはそっちを当たってみるヨ。ジャックはアテ無いのカ?」
「うえ~っと……」
苦虫を10匹くらい噛みつぶしたような僕の表情を見てアルゴはにやりと笑ってからかいモードに切り替わった。
「声かけづらいのカ? オネーサンが手伝ってやろうカ?」
「そんなんじゃなくてね。コンビなんだけど、片方は絶対来る。もう片方がなー、渋りそうなんだよなー」
「へえ、誰ダ?」
「
ラフィンコフィンというギルドがあった。活動内容はプレイヤーを殺すこと。プレイヤー同士で殺し合わせたり、自分たちで殺したり、モンスターに殺させたり。
ゲームでの死が現実の死に繋がるSAOでそういうことをするって事は、殺人鬼集団てことだ。
半年くらい前に攻略組で討伐隊を組んで壊滅させたらしいが、死人が出まくってそれはそれはひどい有様だったらしい。知っている人間に聞くと必ず嫌な顔をされる。聞いた僕も嫌な顔をした。
僕は討伐作戦がどんなだったかは知らなかったが、なんで作戦が組まれたかは知っていた。
本格的にラフィコフィを壊滅させよう、と団結したのにはある事件があった。
フロアボス討伐中の襲撃だ。バグザムと呼ばれるラフィコフィの元幹部が仲間を数人引き連れ、当時攻略中だったボス部屋に乱入してきたんだ。
隊列を組んで作戦通りに戦闘を続けていたレイドは半壊状態に陥った。プレイヤーはボスの攻撃とPK共の攻撃の板挟みになり、HPだけで無く士気も大きく削られた。
ゲラゲラ笑いながらPOTローテ中の重戦士達に襲いかかる彼らが悪魔に見えたと言う。
後の取り調べでわかったことだが、これはラフィンコフィンの総意では無く、バグザムの単独行動であったらしい。
なんにせよコレがきっかけで、攻略組は本格的に殺人ギルドの撲滅に乗り出した。結果はさっき言ったとおり。
でも、僕が言いたいのはそこじゃない。なんとフロアボス討伐の襲撃という前代未聞の事態だが、死人は一人も出なかったんだ。
理由は二人の剣士。襲撃してから十数分後に再び飛び込んだ二人はPK集団を切り伏せていった。彼らがPK集団を他の攻略組に襲わないように庇い、そして戦い続けたためにレイドは再び持ち直した。
ボスが倒され、攻略組の一人がバグザム達の方を見たとき、バグザムの頭部が落っこちてポリゴン片になったのを見たんだと。
「それで私たちは、その二人の所に向かっているんですか?」
「そだよ」
PM5時
僕とツクヨミは、70層の草原をテクテク歩いていた。この層は二層のように草原が広がっているのが特徴だ。二層と違うのは、草原は主街区のある中央エリアだけで、周囲は黒々とした森で覆われている点だ。草原のモンスターのレベルはそこそこだが、森の方は化け物クラスのモンスターがポップする。クエストはホラー系が多い。赤ずきんとか白雪姫をモチーフにしたヤツ。
「ほら、見えてきた」
森の入り口付近に柵で囲われたエリアがあり、その中に小屋が建っている。
近くで羊型モンスターの毛を剃る人型アバターが見えた。カーソルは緑。
「おーい、シャル! シャーロック! ロードジャックだよ」
僕の声が聞こえたのか、彼は羊毛を刈り終えて羊を放すと立ち上がり、こっちを見た。
こちらの姿を確認すると嬉しそうに笑ってハサミをオーバーオールのポケットにしまい、右手を振った。左腕の袖は風にたなびいている。
彼の名はシャーロック。隻腕にしてPKすら殺す、対人戦のエキスパートである。
「連れは今出かけていてね。私しか居ないんだ」
「丁寧にどうもね」
「ありがとうございます」
片手で器用にコップを三つ運ぶと、席に着いた僕たちの前に置いた。中には良い匂いを漂わせるオレンジの、紅茶らしき液体が入っている。
「相変わらず器用だな」
「この状態で2年だよ? 嫌でも器用になるさ」
僕とシャルは笑ったが、ツクヨミは恐る恐るといった様子で手を上げた。
「あの、シャルさんの左手は……」
「ああ、これね。私はFNC判定がでたんだ」
右手で空っぽの左袖をつまむと、なんともない様に言った。
FNC(フルダイブノンコンフォーミング)とは、ナーヴギアのようなフルダイブ型ゲームで稀にある障害のことである。五感の不備が主な障害だが、稀にシャルのようにアバターの四肢に不具合が起きることもある。
「始めて買ったフルダイブゲームで不具合が出て、一度ログアウトしようにも出られなくなって。初めは苦労したものだ。ギルドの採用試験も受けさせてくれないし」
「ホントはめちゃくちゃ強いのにな」
「そうだったんですか。そのとき軍があったら受け入れていたのに」
「前身のALSには一時期入ってたよ。でも訓練部隊から格上げてくれなくて辞めた。それから不適合者を集めてギルドを組んだんだ。」
「そんなにいるんですか?」
「5人もいなかったけどね。今は二人だ」
「……その、お悔やみを」
「いや、いいんだいいんだ。もう終わったことだし、気を遣わせて悪かった」
神妙な面持ちになったツクヨミに慌ててフォローするシャーロット。ゴホンと咳払いすると、僕に話を振った。
「そうだ、今日は何しに来たんだ? ただ顔を見に来たわけじゃないだろう?」
「ああ、今日は協力を頼みに来た。デカいクエストだ。腕の立つヤツがいる」
「ああ」
「敵は人型サイズの超強いNPCと、あー……そのだな、オレンジギルド」
「何? オレンジ?」
その言葉を聞いた途端にシャルの顔は曇った。
「私たちはもうプレイヤーと戦うのは止めたんだ。斬らない殺さない。だからこうして外れの牧場で狩りと酪農で暮らしてる。君にも言ったはずだ」
「そうだな、知ってる」
「じゃあなんでその話を持ってきた?」
「このクエストはヤバい感じがするからだ」
「具体的に」
「マップから村が一つ消えた。これまでに無い馬鹿みたいに強いNPCが出てきて、他のプレイヤーと戦うのが必須プロセスになってる」
「そんなのはこれまでにもあったろう。エルフクエとか」
「あれは結果的にそうなるだけで、やりようによっては躱せる。今回は違う。確実にPvPをこなさないといけない。僕らが強くなかったら死んでたかも。」
「……」
「頼むよ。敵NPCは下層の迷宮区を回って何かを企んでる。それが何かはわからないが、その先にオレンジギルドが参加したくなるほどの何かがあるのは確かなんだ!」
シャルはしばらく黙考して、
「……条件がある」
「出来ることならなんでも」
「私たちと戦え」
おっと、少年漫画みたいな展開になってきたな。
「君たちが私たちより弱い場合、我々の戦う負担が大きくなる。必然的に、私たちが殺さざるを得ない状況になりやすいと言うわけだ。それは御免被る。だから、『私たちが安心できるほど強い』ことを証明してくれ、ロードジャック、ツクヨミさん。」
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