魔王学院の不適合者~暴虐の魔王の副官、転生して再び魔王に仕える~   作:シュトレンベルク

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幼き才児たち

 転生してから数ヶ月、レインはこの世界の常識を徹底的に調べ上げた。主よりも先に転生することになった以上、主の知らぬことを伝えるのが副官である己の役割だからだ。しかし、それのみに専念することは彼にはできなかった。

 

「なぜ、態々こんな手間を……」

 

「申し訳ない。でも、これも純血に近い者の役割だから……」

 

「暴虐の魔王は純血の魔族に宿る?とんでもない伝承だ。そんな訳がない事は分かっているだろうに」

 

 暴虐の魔王が転生するために必要な器に、純血か混血かどうかなど関係がない。相性の問題はあるだろうが、魔王の根源を宿せる器であれば問題ない。レイン自身は自分の血族に転生できるように、自らの魔法式を弄っていたが、かの魔王がそんな事をしていないのは確定的に明らかだ。

 

「そんな小細工をあの方が用いる訳がない……」

 

 魔王とは何か?力か?称号か?権力か?立場か?――――いいや、否だ。そのどれでもない。アノス・ヴォルディゴードがアノス・ヴォルディゴードとして存在すること。それそのものが魔王としての存在証明。敵対するものすべてを滅ぼしつくす者――――それこそが暴虐の魔王だ。

 

「こんなパーティーに一体どれほどの価値があるというのか、皆目見当がつかないな」

 

「レイン、君がパーティーに納得していないのは分かるけど、あまり大っぴらにしないでくれよ?私にも立場があるんだから」

 

「分かっているさ、父上。でも、愚痴ぐらいは許してくれよ。俺は俺なりに思うところがあるんだから、さ」

 

「ハハハッ……分かるよ。私も思うところはあるしね。でも、パーティーの終わりに母さんが鶏肉入りのドリアを用意しているそうだから、それを楽しみに乗り切ろうじゃないか」

 

「!今日の夕食はドリアなのか、父上!」

 

 ドリアはレインの大好物だ。主の大好物だったキノコ入りのグラタンと同じくらい、鶏肉入りのドリアはレインにとっての好物だ。時には好物話で主と喧嘩したこともあるぐらいの好物だ、と言えばどれほど好んでいたかが分かるだろうか?

 

「そうだよ。だから、今日は頑張れるかい?」

 

「ああ!母上の作るドリアは俺の大好物だからな!」

 

「そっか……それじゃあ、今日はよろしく頼むよ」

 

 レインたちは皇家の一族だったが、その家名は元々の家名であるシュティーアではなかった。どころか、魔王の副官であるレイン本人も全く別人の名前となっていた。

 

 

 暴虐の魔王アヴォス・ディルヘヴィアに仕えた魔王の副官の名は――――レヴィア・ティルヘウス。

 

 

 それが認知されている魔王の副官の名前だった。自分の名前が間違って伝わっていることはどうでも良かったが、主の名前が変わっている事に転生直後は怒り心頭だった。いや、今も怒りが収まっている訳ではない。ないが、それを他人にぶつけるのは大人げないと思っただけだ。

 

 そして、今は暴虐の魔王が残した魔族――――現代では七魔皇老と呼ばれる【アイヴィス・ネクロン】の一族であるネクロンが主催しているパーティーに参加している。なんでも今のネクロンの世代が暴虐の魔王が転生してくる年代らしい……が、レインにとっては眉唾もいいところだと思っていた。

 

「(あの御方が凡人の思い通りに動くものか。そんな存在であるのなら、この俺を超えて暴虐の魔王などと名乗れるはずがない)」

 

 レインの生涯で唯一敗北を喫した相手、それこそがアノス・ヴォルディゴード。万民が畏怖し、レインが膝をついて頭を垂れた存在なのだ。いかなる障害も自らの意思で切り開いてきたあの王が、凡人の考え通りに動く訳がない。

 

「それにしても……どこにもいないな。パーティーには参加していないのか?」

 

 パーティーに参加している参加者のどれも、それほど噂されるような存在には見えない。参加者よりもよほど強力な根源が家の中に見えていた。誰にも気づかれずにひっそりとパーティー会場を抜けると、その根源が見えた場所に向かった。

 そこには二つの根源が見えた――――見えたのだが、どうにも違和感を感じるような根源だった。根源は一つ一つ違ったものである。たとえ、双子の兄弟であったとしても根源は確実に違う。しかし、見える根源は似ている。まるで一つの根源が二つに分かれているかのように。

 

「なんとまぁ、酷い有様だな……」

 

「「ッ!?」」

 

 部屋を覗いてみると、そこは惨憺たる有様だった。家具を始めとした様々な物が壊れていた。それも何かに叩き壊されたというよりは、内側から破壊されたようにも見える。この独特な破壊のされ方に、レインは覚えがあった。

 それを確認しようと、少女たちに近づこうとした瞬間――――少女の瞳に魔力が集中した。

 

「来ないで……!」

 

 すると、その眼に映した総てを破壊する【破滅の魔眼】が猛威を振るわんとした。それを放った直後、少女の方が愕然とした表情を浮かべた。その視線の先には体に付いた埃を払ってはいるが、無傷の装いを呈している少年がいたからだ。

 

「ふむ、やはり【破滅の魔眼】か?その魔眼をその年で制御するのは厳しいだろう。実際、今の俺にも相殺できるレベルか」

 

「あなた、この眼の事を知ってるの……?」

 

「もちろん、知っているとも。俺はその眼を持つ御方を王と仰いだ経験がある。まぁ、それとは別にその魔眼を持った奴の世話もしたことあるが……いらん話か」

 

 レインはそう言いながら、改めてその眼を覗き込む。その独特な紋様はまさしくかつての王と同じ紋様だった。その力はまだまだ弱弱しいものだったが、確かにその片鱗を覗かせていた。

 

「おっと、自己紹介が遅れたな。俺はレイン。レイン・シュティーアだ。名を、聞かせてくれるか?」

 

「……ミーシャ。ミーシャ・ネクロン」

 

「……私はサーシャ・ネクロン」

 

「なるほど。ミーシャとサーシャか。お前たちはパーティーには参加しないのか?」

 

 ネクロンを名乗っていることから、二人は直系の血筋なのだろう。その割には出てこないのか、とレインは不思議に思っていた。若干興奮しているため、この時代の魔族が少女の魔眼にも抗えないほど弱いと気づいていないのだ。

 

「……ん~、まぁ、いいか。どうでもいい話だしな。それよりもお前たちの話が俺は聞きたいな」

 

「私たちの、話……?」

 

「ああ。俺は二千年前の世界から転生してきた。しかし、どうもこの時代の魔族は弱きに過ぎる。だから、ある程度の実力者とは友好を深めておきたい」

 

 単純な暇つぶしであり、純粋な期待でもある。記憶が蘇っていないだけで、目の前にいる二人が二千年前の魔族の転生体である可能性はある。なかったとしても、暴虐の魔王によって作られた七魔皇老の内の一人の血を継ぐ存在だ。成長する可能性はある。仲を深めておくのは悪いことではない。

 

「その代わり、俺の思い出話をしてもいいし、その魔眼の制御に協力してもいい。望むことがあるのなら、それに協力するのは吝かじゃない」

 

 

「……困るな、あまり勝手なことをされては」

 

 

「人が気分良くお喋りを楽しんでいたというのに……邪魔をするのがお前の流儀か?アイヴィス・ネクロン」

 

 レインが扉を開けると、そこには骸骨が装束を纏っている一人の魔族が立っていた。その男こそ、暴虐の魔王が作った七体の魔族が一体――――アイヴィス・ネクロンだった。レインとしては久方ぶりの再会だったが、機嫌のいいところに虫を刺されたのは苛ついていた。

 

「貴様と私は初対面のはずだが、随分と馴れ馴れしいのだな。見知らぬ魔族よ」

 

「……根源を見ただけで相手を識別することもできなくなったのか?この二千年でそんなにも頭を劣化させたのか?」

 

 レインは肉体年齢を急速に成長させる【成長(クルスト)】の魔法を用いて、二千年前の姿まで肉体を成長させる。魔王の副官と呼ばれたころまで成長したレインはアイヴィスを睨みつける。

 

「【成長(クルスト)】か。中々に優秀なようだが、それがどうかしたのか?」

 

「なんだと……?仕方ない。少し手荒にいくぞ」

 

 レインはアイヴィスの認識速度を超えた速さで詰め寄り、その顔面を掴む。そのまま過去の記憶を呼び起こす【追憶(エヴィ)】で記憶を読み取る。この魔法で読み取ることのできない記憶はないだろう。物理的に失われていない限りは(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「アイヴィス、貴様……我らが敬うべき王を忘れたか」

 

「忘れた、だと?暴虐の魔王を、この我が忘れたとぬかすか」

 

「ならば、何故お前の記憶には偽の魔王の名前しかない。お前はあの御方に作られた魔族であろうが。この世界に産み落とされた時、最初に見たのはかの魔王の姿だろう。本来の真なる魔王の姿も思い出せない貴様が、偉そうな口を利くな!」

 

「ッ!」

 

 レインの圧力が増していく。その圧力に耐えきれず、サーシャとミーシャは気絶した。アイヴィスは気絶することはなかったが、レインの逆鱗に触れたことを理解した。

 

「もしや、他の七魔皇老どもも同じ始末だというのか……?ああ、こんな事ならば、貴様らに後を任せるのではなかった。俺が、この時代まで魔族たちを見守っていた方がよほどマシだったろう。貴様らは、この俺から……魔王の副官から何を学んだというつもりだ?言ってみろ、アイヴィス!」

 

 レインにとって、暴虐の魔王に仕えた時間は誇りだ。世界の平和のために命を懸けたあの魔王に仕えることが出来たのは喜びだ。だからこそ、魔王と自分がいなくなった後、しっかりとこの国を支えていけるように七魔皇老を始めとした多くの魔族に教育を施した。

 そんな自分の事を忘れる。それは極端に言えば、どうでもいい。しかし、自らの造物主であり、この国の礎を築き、平和のために命を落とした魔王を忘れるというのは業腹では収まらない。文字通り、逆鱗を逆撫でされたかのようだった。

 

「我らが貴き魔王猊下を、アノス・ヴォルディゴード陛下を忘れるとは何事だ!?アヴォス・ディルヘヴィア?そのような紛い物を尊ぶなど言語道断だ!かの御方の名を忘れる根源など不要だろう。根こそぎ滅ぼしてくれようか!?」

 

 その激怒は冷静沈着を旨にしていたレインらしからぬもの。この場にもしアノスがいたのなら、珍しいこともあったものだという表情をしただろう。しかし、レインからすれば至極当然で当たり前のことでしかない。

 

 これが現代の魔族であったのなら、ここまで怒ることはなかっただろう。現代の魔族たちはそういう風に教育を受けている。本来の魔王の姿を知らず、それ故に偽物の名前を本物と信じている。

 

 しかし、アイヴィスは違う。アノス・ヴォルディゴードの手によって作られた魔族の一人。それがアイヴィス・ネクロンだ。造物主の姿を忘れ、剰え偽物の魔王が本物であると信じきっている。そんな不忠がどこにあろうか?

 

 これがもし、何かの策略であったなら。無用の心配だろうが、本来の魔王であるアノスを何某かの脅威から守るためなどの理由があったなら。ここまでは怒らなかった。

 

 だというのに、これはなんだ?後を任せるために教育をした者が、かの魔王を忘れている?そんな愚かな事があってたまるものか。そんな奴がこの世に存在することを放置しておけるものか。

 

「しかも、貴様。あの子たちにしたことの意味が、分かっているのか!?そのような外道、あの魔王陛下がお許しになると思っているのか!?思っているならば、今すぐにその場で頭を垂れろ。完膚なきまでに滅ぼしつくしてくれるわ……!」

 

 レインがそう言い切ると、腕に雷炎が迸る。空間は凍り付きながら、されど次瞬には氷が砕け散るかのような音が響く。ミーシャとサーシャには一切、害を及ばせることなく。しかし、全ての殺意がアイヴィスを貫いていた。

 

「……思い出せない。しかし、身体が覚えている。貴様は確かに、我と縁があったようだな」

 

「そうか。その程度は思い出したか。それで、どう言い逃れするつもりだ?」

 

「――――言い逃れするつもりはない」

 

 その言葉が出てくるのと同時に、レインがアイヴィスの顔面を殴りぬく。アイヴィスの身体が壁にめり込み、動けなくなる。しかし、レインはそこから追撃をすることはなかった。

 

「言い逃れをしなかったのは褒めてやる。言い逃れなどしていれば、即座に貴様の根源を滅ぼしていた。その上で、元教導官としてお前に命じてやる」

 

 レインはそう言いながら、アイヴィスの顔面を掴んで無理やり壁から引きはがす。そして、倒れこんだアイヴィスに【契約(ゼクト)】を突きつける。

 

「我らが報じるべき魔王陛下が――――アノス・ヴォルディゴード陛下がこの時代に現れるまで。貴様は俺の前に姿をさらすな。この契約(ゼクト)には強制力はない。しかし、この契約(ゼクト)が破られたのを確認次第、俺は貴様を滅ぼす」

 

「……了解した」

 

 アイヴィスはレインの契約(ゼクト)に調印すると、そのまま姿を消した。その姿を見送ると、壊れた部屋を直して【逆成長(クルスラ)】を用いて元の年齢まで姿を戻した。

 ミーシャとサーシャが完全に気絶しているのを確認すると、起き上がるまで待つことにしたのだった。

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