魔王学院の不適合者~暴虐の魔王の副官、転生して再び魔王に仕える~ 作:シュトレンベルク
レインはアイヴィス・ネクロンとの接触後、目を覚ましたミーシャとサーシャと先の記憶を奪い取った。二千年前の魔族の因縁にこの時代の魔族を巻き込むのは忍びなかったからだ。
レインはサーシャの魔眼制御を手伝う傍らで、ミーシャとも交流していた。多くの魔族がミーシャとサーシャの関係を知っていたからだ。
ミーシャとサーシャは非常に酷似した根源を持っている。それは、二人がまだ母体にいた時、アイヴィス・ネクロンが自らの得意とする融合魔法の一つ【
しかし、そんな魔法がいつまでも続く訳がない。十五の誕生日を迎えるその日に、ミーシャは消える。正確に言えば、サーシャと一つになる。いずれ消える運命だからこそ、ミーシャはいないモノとして扱われている。
だが、レインにはそれが気に食わなかった。いずれ消えてしまうから、関わらない?そんなバカな話があるものか。たとえ、終末が確定しているのだとしても。それは今を生きているミーシャを蔑ろにしすぎている。
それに、レインは終末をそのまま受け入れる気はなかった。それは、何よりもそれを許せなかった主の意に反しているからだ。それと同じくらい、あの少女たちの不幸を受け入れたくはなかった。
「……どうしたの?」
「何でもないさ。それより、どうした?明日は入学試験だろう」
「平気。レイン以外には負けないと思うから」
「そうだな。今のところ同年代では俺くらいか。サーシャとは互角ぐらいだろうし……錬磨の剣聖とやらは遅くなるって話だったな。他は問題ないか」
レインはそう言いながらミーシャの頭を撫でた。ミーシャはその力強い手に微笑を浮かべる。かつて消えてしまう自分だけれど、確かな愛を向けてくれる人の存在を心に刻みつける。だって、出来ることはそのぐらいしかないから。
「だが、だからと言って油断してはいけない。もしかすれば、明日の受験者にはミーシャをも上回る強者がやってくるかもしれない。少なくとも、二千年前の魔族に比べればミーシャはまだまだひよっこなんだからな」
「……二千年前の魔族はそんなに強かったの?」
「まぁ、皆が皆強かったわけじゃないがな?でも、強い奴は確かにいた。俺の同僚もそうだったし、他にはそうだな。四邪王族も強かったな。結局、我が王には勝てなかったが」
「レインはどうだった?」
「俺か?残念ながら、俺は我が王から負けてもいいという許可を戴いていないからな。俺が生涯で膝を屈したのはただ一人だけ――――我が王だけだ。それはこれからの生活でも変わることはないさ」
誰にも譲ることはない。レインの絶対の自信ともいえるソレを、ミーシャは何度も聞かされてきた。レインが崇拝する絶対王者たるその人物は、この時代ではその名が知られていないと言う。しかし、その人を見ていれば分かるとも言っていた。
だが、その時のレインを見るのはなんとなく嫌だった。どうやってもレインではその人物には勝てないと言われているようで。レインのそんな弱気な姿は見たくなかったのだ。だって、レインは
「まぁ、気にするな。少なくとも、お前の見ている前で俺が負けることはない。それはたとえ、我が王の前でも変わらん。俺は勝つべき時に勝てなかったことは一度もないんだ。知ってるだろう?」
レインが誰かに勝利を約束した時、負けたことはなかった。それはレインにとって数少ない誇りでもあった。ミーシャはそれを知って以降、レインにとってどれだけやる気のない戦いであっても現代にとって重要な戦いであれば約束をしていた。レインの負ける姿など、絶対に見たくなかったからだ。
「なんにしても、だ。俺は明日は直接的には関係ない。行きと帰りには待っているから、明日は頑張るんだぞ?」
「うん、頑張る」
「頑張れ頑張れ。心配はしてないが、ちゃんと入学が決まったらお祝いをしないとな」
レインはそう告げると、撫でていた頭をポンポンと叩いた。レインとしては欠片もミーシャの入学を疑ってはいなかった。しかし、入学する年は暴虐の魔王が転生する年とされている。いくらミーシャでもかの魔王と当たればどうしようもないと思っていた。
まぁ、最悪は自分の権力を使ってミーシャ一人分の席を用意するかぐらいに考えていた。実家の力に加えて、レイン個人の能力を用いればそれぐらいの力を得るのは容易かった。次期魔皇筆頭の呼び声高い魔族。それがレイン・シュティーアである。
それだけの能力を持っているからこそ、レインを誰も罰せない。現在存在する魔皇だろうと、七魔皇老であろうと、レインを害することが出来ないからだ。周りを害そうとしても、いかなる手段かそれを察知して行おうとしたものを滅ぼしてのける。故に余計なことは考えられない。
彼の前には貴族だろうと、魔皇だろうと関係がない。弱きは死ぬしかない。それが二千年前に存在したルールで、それを覆さんと行動していたのがレインたちを始めとした二千年前の魔族たちだ。その志を覆してでも、レインは大切な者たちを守る。
それが故に主たる魔王に滅ぼされるというのなら、是非もなきことだ。罪過と謗られても、否定する気はない。しかし、それでも、守ると決めた者を守るためなら……どんな罪も背負うと決めているのだ。
「さてはて、我が王が見ればどういう顔をなさるのかな」
似合わないことをしていると言うだろうか?
お前らしいことだと言うだろうか?
どう言われるにしても、レインは取るべき道を変えられない。魔王の副官ではなく、レイン・シュティーアとして。大切な誰かの命が消えていくことを許すことはできない。
そして、その翌日。レインは約束通り、ミーシャの入学試験を見に来ていた。少し早く来て待っていたが、校門の方で何やら騒がしい声が聞こえてきていた。
一体何があったのかと思って向かってみると、二組の親が子供を応援しているようだった。微笑ましい光景だと思っていると、片方はミーシャの親代わりだった。相変わらず暑苦しいことだと思いながらもう片方を見ると、レインは目を見開いた。
「あれは……間違いない」
レインが二人に近づこうとすると、多くの魔族たちの眼にレインの姿が捉えられた。そんな多くの魔族たちが口々につぶやいていた。
「おい、アレって……」
「【創滅の魔人】レイン・シュティーアじゃないか?なんでこんな場所に」
「試験に出るつもりなの?勘弁してよ、確か次期魔皇候補筆頭なんでしょ?」
そんな言葉の一切を無視して二人に近づくと、ミーシャともう一人はゼぺス・インドゥに絡まれていた。この程度の小物は問題にもならないだろうが、時間を使わせるのももったいないと思っていた。
「――――失せろ、ゼぺス・インドゥ。この方にはお前如き小物の相手をしている時間などない」
「あん?なんだ、と……レイン・シュティーア!?テメェ、なんでこんなとこに!?」
「俺がここにいることに何か不思議でもあるのか?俺もここの学生になるんだ。いても何ら問題あるまい。そんな事より、俺がお前の奇行に耐えきれなくなる前にとっとと失せろ」
「くっ……覚えてやがれ!」
「心配せんでも覚えておいてやる。名前は出さんがな。……ミーシャ、怪我はないか?」
「大丈夫。特に何もされてないから」
「そうか。何もなかったならいい。それより――――」
レインはミーシャから視線を切り、もう一人の方に視線を向ける。幾ばくかの懐かしさを感じながら、レインはもう一人の男――――アノス・ヴォルディゴードに膝をつき頭を垂れる。
「お久しぶりにございます、陛下」
「元気そうで何よりだな、レイン。ミーシャとは知り合いだったのか?」
「はい。かねてよりの知人……腐れ縁或いは幼馴染のようなものです。もう一人いますが、紹介はまた後日させていただきたく」
「気にするな。お前の話も聞きたい。今日は時間はあるか?」
「陛下のお言葉であればなくとも作りますが、大丈夫です。何なりとお申し付けください」
「相変わらず固いな、お前は」
「臣下の礼にございますれば、ご容赦のほどを」
レインはアノスとのこのやり取りに二千年前の空気を感じていた。懐かしさを感じつつ、その根源の力強さにやはり自分の主はこの人しかいないと再確認していた。
ミーシャはレインが誰かに頭を下げている姿に驚いていた。レインは相手が誰であろうと、頭を下げない傲岸不遜さを持った魔族だった。その態度に相応しい力を持っているからこそ、次期魔皇候補筆頭と呼ばれているのだ。
「アノスはレインのご主人様?」
「ああ、レインは二千年前に俺に仕えていた魔族でな。俺の右腕と共に俺を支えてくれた魔族だ。あれほど強力な魔族は早々いない。あいつがいてくれたおかげで出来た事は多い」
「そうなんだ」
「気になるのか?」
「……レインは二千年前の話はしてくれないから」
「レインもあの時代は好きではないからだろう。多くの死人を出した戦乱の時代だ。思い出もない訳ではないが、それよりもひどい戦いが多かった時代だったからな」
「レインは昔はなんて言われてたの?」
「二つ名の話であれば、そうだな。俺に仕える前で最も有名だったのは――――」
――――【万能の操主】だな。