魔王学院の不適合者~暴虐の魔王の副官、転生して再び魔王に仕える~   作:シュトレンベルク

6 / 9
従者の持論

 数日後、レインは届いた制服を身に纏った。その制服の肩には十芒星のマークが描かれていた。これは学園に通う生徒としては前例のない制服であると言えた。

 

 このマークは学園の入学試験の結果を示している。より明確に言うなら、魔力測定と適性検査の結果だ。その上で多角形や芒星の頂点が増えるほど、優良という扱いになる。その点で、レインは規格外の評価を受けている。

 ちなみに、レインは偽りの魔王の名を毛嫌いしており、一度として他人の前で口に出したことはない。それはレインと顔を合わせた七魔皇老全員が認知していた。だからこそ、この評価は純粋な実力によって得た評価である。

 

 誰よりも魔王を信奉せず、しかし誰よりも強き魔族。学園に入学したとしても、教師とて彼を抑える枷にはなりえない。誰よりも傍若無人で、誰よりも傲岸不遜で。しかし、魔族が滅びる選択だけはしない。

 

 どれだけ相手の事を嫌っていたとしても、自分の誇りを損なうようなことはしない。自分が自分だと誇れる在り方を貫き続ける。それはレインが二千年前から通してきた筋だ。

 その結果、どんな評価を受けたとしても。それは自分自身の責任で、その事に誰かの評価は関係ない。自分で誇ることのできない結末を、自分で選んでしまうというのは嫌だから。自分の誇れる結末を得るためなら、どんな苦労も厭わない。それこそ――――己の死ですらも。

 

「さて、俺のクラスは……ここか。……?」

 

 レインが自分のクラスに入ると、何やら静まり返っていた。その状態に首を傾げつつも、後ろの方に座っていたアノスとミーシャの前の席に座った。そこでアノスの肩元のマークを見て苦笑を浮かべた。

 

「おはようございます。アノス様。ミーシャも」

 

「ああ、おはよう」

 

「おはよう」

 

「アノス様の制服はそうなりましたか。らしいマークですね?」

 

「お前はそう思うか?」

 

「はい。ただ他人を思うだけの輩よりも、己を貫くあなたの方がよほどらしい。それに、そのマークの呼び名は神々どもによく呼ばれたものではありませんか。何を気にすることがありましょう」

 

 アノスの肩元に刻まれたマークは十字。魔皇を育てる学院である魔王学院において、このマークは魔王族という魔族であるにもかかわらず、魔王への適性がないと判断された者――――即ち、不適合者のマークである。

 魔王への血統を継ぐ者である皇族派に対する痛烈な皮肉と言える。しかし、それこそが魔王だ。ありとあらゆる条理を退け、自分のルールを押し付ける。アノスの場合はそれが平和を望んでいただけの事なのだ。

 

「そもそも、そんなマークに何の意味がありましょう。魔王への適性がどれほどあろうと、圧倒的な力の前には総て脆く崩れ去るものでしかない。そんな物を誇ることにどれほどの意味があるというのか……ほとほと疑問でしかありません」

 

 激烈なまでの皇族批判。これを言ったのがアノスであったのなら、誰かしら文句を言っただろう。しかし、そう口にしたのは他ならぬレイン・シュティーア。最も魔皇に近い、現在確認されている魔族の中では随一の力を持っている魔族だ。

 魔王の副官たるティルヘウスの家に生まれた異端児。圧倒的な才覚を持ちながら、決して皇族派としての誇りを持たず市民と気軽に接する。虐げられた者は皇族・平民問わず助ける。それ故に、表立ってはいないがファンクラブが立ち上がっている。

 

「このような物はただの指標でしかない。本当に重要なものはもっと別の場所にある。少なくとも、私はそう思っています」

 

 魔王への適性などというものに、どれほどの価値があるというのか?本当に自分が守るべき大事なものはそんな物なのか?

 

――――いいや、否だ。

 

 魔王が魔王たるのは、その存在が由縁だ。であるならば。本当に守らなければならないのは自分自身。そして、自分自身の在り方ともいえる誇りだ。それ以上に大切なものはない。

 

 もちろん、その誇りを守るためなら何をしても良いとは言わない。力が足りなければ、いずれその誇りを守るためにしてきた事の報いを受けるだろう。しかし、報いを受けるとしても構わないと思える誇りを抱けたなら、きっと後悔はないだろう。他ならぬレインはそう思っていた。

 

「自分らしく生きていければ、適性などどうでもいい。結局、その者はその者にしかなれないのですから。他に何を気にせよと仰るのか、甚だ疑問ですね」

 

「……レインらしい」

 

「そうなのか?」

 

「……昔からレインは自分に自信を持ってる」

 

「当然だろう。自分自身に自信を持つことを出来ない奴が、何をなせる。魔王が魔王たり得るのもそういう理屈だ。誰かの足跡を追い続けることに意味はない。自らの道を自らの意思によって進む。それが前人未到であるからこそ、その者に魅せられるんだ」

 

 歴史に名を遺す英雄とはそういう物だろう。誰しもがその足跡に焦がれる。何故、暴虐の魔王がこれほどまでに慕われているのか?それは平和のために命を懸けた在り方に憧れたからだ。届かぬまでも同じように誇れる自分でありたいと願ったからだ。

 

「多くの者を魅せる事が出来る者を人は尊ぶ。それは人も魔族も変わらない。だから、俺は自分を誇る。俺が誰かに憧れられる者であるために」

 

 その言葉にアノスは少し表情を歪めた。それは本当に微細なもので、隣に座っていたミーシャにも気付かれないほどの本当に短時間の変化だった。しかし、その変化に気付いていたレインはアノスにそんな表情をさせてしまったことを申し訳なく思っていた。

 

 そんな顔をさせたかったわけではない。ただ、あなたのやったことは決して無駄ではなかったのだと、そう言いたかっただけなのだ。アノスが、レインが命を懸けて守った千年は決して意味のない物ではなかったのだと、そう言いたかっただけなのだ。

 

 二人が命を懸けたからこそ、この平和はある。二千年後まで二人の名は、形は違えども残った。それは二人が自分自身を示し続けた結果だ。そんな二人の旅路が、足跡が、後に続く者たちの心に響いた結果なのだ。

 レインは自分たちの行動が間違っていたとは思っていない。それはアノスも同じことだろう。その上で、目の前に広がるこの気の抜けた風景は二人の献身の報酬なのだ。それをどうか喜んでほしいと、レインは思ったのだ。

 

 そんなことを思っていると、黒い法衣を身に纏う女性が入ってきた。その女性はレインの姿を見ると少しびくつきながらも、黒板に名前を書いていく。そこにはエミリア・ルードウェルと書かれていた。

 

「2組の担任を務めます、エミリアです。1年間よろしくお願いします」

 

 ミッドヘイズを修める魔皇エリオ・ルードウェルの娘。この学院の教員を務めるだけあって、実力はそれなりかとレインは思っていた。あくまでも、現代基準でしかないが。

 

「早速ではありますが、まず初めに班分けをします。班リーダーになりたい人は立候補してください。ただし、これから教える魔法を使えることが条件になります」

 

 エミリアは黒板に魔法陣を描いていく。それは魔族の使う魔法としては代表的な魔法<魔王軍(ガイズ)>の魔法陣だった。

 

「初めて見たと思いますが、これは<魔王軍(ガイズ)>という魔法です。簡単に言えば、術者を王として、配下の軍勢に特別な力を与えるものです。実践は授業で行います。今日は魔法陣を描き、魔法行使ができるかどうかのみ判定します。魔法行使ができた人には班リーダーの資格があります」

 

 エミリアがそう言うのは<魔王軍(ガイズ)>の魔法特性のためだ。この魔法は術者が被術者に魔力や魔法効果を付与し続ける魔法だ。

 これは指揮官クラスの魔族なら誰でも使うことが出来る。そのため、ここで班リーダーになった者とそうでない者とを分ける事で、魔皇を目指す資格があるかどうかが振り分ける腹積もりなのだ。

 

「それでは、立候補したい方は手を挙げてください」

 

 その言葉にアノスが手を上げる。レインはそれを至極当然だと受け止めていたが、周りの者はそうではなかった。通常、白の制服を着る魔族は混血で、班のリーダーに立候補することが出来ないからだ。

 

「アノス君でしたか。残念ですが、あなたには資格がありません」

 

「なぜだ?」

 

「あなたが混血だからです」

 

「混血だからといって、純血に劣る理由にはならないな」

 

「それは皇族批判ですか?」

 

「下らん問いをするなよ、エミリア・ルードウェル」

 

「……レイン・シュティーア。あなたは立候補しないのですか?」

 

「何故?俺より適任がいるのだ。その方の下に就けばいいだけの話だろう。まぁ、それはどうでもいい。<魔王軍(ガイズ)>が使えれば問題ないんだろう?だったら、それの確認だけすればいいだろう。無駄な手間をかけるなよ」

 

「無駄ではありません。混血は純血に劣るということは、我らが始祖が立証しています。それの逆を立証できない彼を班のリーダーとして認めるわけにはいきません」

 

「では、それが立証できれば問題ないのだな?」

 

「出来るものなら、どうぞ」

 

 その言葉にアノスはふっと笑みを浮かべる。二千年前はただの口約束を<契約(ゼクト)>によって確実な約束にするのが当然だったからだ。ちなみに、<契約(ゼクト)>は約束を守らないと契約者自身の根源を滅ぼすという魔法だ。

 

「その言葉、<契約(ゼクト)>させてもらったぞ」

 

「え、そんな……いつの間に……魔法行使を……?」

 

 もちろん、そんな事実を知らないエミリアはアノスの行動に慌てふためく。そんなエミリアを無視し、アノスは黒板に描かれた<魔王軍(ガイズ)>の魔法陣を見る。

 

「この<魔王軍(ガイズ)>を開発したのは皇族か?」

 

「ええ」

 

「術式の欠陥を見つけた」

 

「まさか。ありえませんね。<魔王軍(ガイズ)>の魔法術式は二千年もの間、この形で伝えられています。誰も欠陥など見つけたことがありません」

 

「ちょうど二千年前に見つけたんでな。転生している間は修正できなかった」

 

 そう告げたアノスは魔法陣の三箇所を書き換えた。たったそれだけの事で、魔法効率を一割も上げた。更には魔法効果を二倍にも上昇させている。流石の一言だとレインは思っていた。

 

「そんな……たった三箇所書き換えただけで、これは、魔力効率が一割も良くなって……魔法効果が一.五倍……?こんなことって……」

 

 魔法陣を見て呆然とつぶやくエミリアの姿を見て、教室にいる生徒たちがどよめきの声を上げる。

 

「……あいつ……何者なんだよ……?」

 

「初めて見た魔法陣の欠陥を指摘して、書き換えるなんて……そんな話、聞いたこともないよ……大体、学生は魔法研究の基礎にだって触れてないのに……」

 

「しかも、魔力効率が一割増しで、魔法効果が一.五倍って……」

 

「世紀の大発見だろ、これ……」

 

 レインは驚きすぎだとも思ったが、これが現代の常識だしなぁとも思っていた。確かに、アノスのやった事は決して簡単な事ではない。だが、そこから他には効率を上げる方法はないか?効果を伸ばす方法はないのか?それを探求しなくては先はない。

 

「惜しいな」

 

 アノスの言葉にエミリアがアノスの方を振り向く。アノスは魔法陣に触れながら、間違いを訂正していく。

 

「魔法効果は二倍だ。この魔力門が、三つの魔法文字と干渉を起こし、根源へ二度働きかける韻を踏む」

 

「あ……」

 

 アノスの説明でようやく気がついたか、エミリアは恥ずかしそうに身を小さくした。自分の不明を生徒に指摘されたのだ。エミリアとしてはプライドを甚く刺激された事だろう。余計な事をしなければいいが、と思いながらレインは見守っていた。

 

「なんなら、俺が代わりに教師をやってもいいぞ」

 

「……り……」

 

「ん?」

 

「立候補を許可します……席に戻ってください」

 

 アノスが自分の席に戻ると、エミリアは空気を入れ替える意味も含めて軽い咳払いをする。

 

「立候補者は起立してください」

 

 その言葉にアノスを含めた五人の生徒が立ち上がる。この中の面子で人を率いるに足るものがいるとすれば、アノスともう一人――――レインのもう一人の幼馴染といえるサーシャ・ネクロンぐらいだろうとレインは思っていた。

 

「それでは、班分けを始めます。班リーダーに立候補した生徒は自己紹介をしてください。それじゃ……サーシャさんから」

 

「ネクロン家の血族にして、七魔皇老が一人、アイヴィス・ネクロンの直系、破滅の魔女サーシャ・ネクロン。どうぞお見知りおきを」

 

 そんな言葉と共にスカートを掴み、優雅にお辞儀をする。レイン自身は魔眼制御の心得以外ではお茶を一緒にしたりぐらいで、勉強などの類は関わっていなかったが、相当頑張っていたんだな。と思えるほどにサーシャのソレは堂に入ったものだった。

 

 レインがそんなことを思っていると、アノスがミーシャにサーシャとの関係性について聞いていた。ミーシャにとっては語りにくい話であるとは思ったが、詳しい話をするわけにはいかなかった。それがアノスの激情に触れるのは確定だからだ。

 

「アノス君。あなたの番ですよ」

 

「暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴードだ。言っておくが、貴様らの信じている魔王の名前は真っ赤な偽物だぞ。本当の名はアノス・ヴォルディゴードという。もっとも、信じないのだろうが、まあ、責めはしない。ゆくゆくわかることだからな。よろしく頼む」

 

 その言葉に拍手を送ったのはレインただ一人で、他の者は不適合者がと口にしていた。無論、レインに睨みつけられると即座に黙り込んだが。

 

「以上で全員の自己紹介が終わりました。それでは班リーダーに立候補していない生徒は、自分が良いと思ったリーダーのもとへ移動してください。まだよく知らないでしょうから、第一印象で構いません。班には人数制限がありませんので、大人数の班になることもあります」

 

 その言葉で生徒たちは立ち上がり、自らが良いと思った班リーダーのもとへ移動を始める。誰もがレインはリーダーに立候補しないのかと思っていたが、睨まれるのも嫌なので黙っていた。

 

「またいつでも班を変更することは可能です。ただし、班リーダーは班員を班に入れるかどうか選ぶことができます。また班員が一人もいなくなった場合、班リーダーは資格を失います」

 

 要するに統率力、カリスマ性をはかる目的だ。暴虐の魔王であれば、臣下がいるのは当然だからだ。多くの者たちはサーシャの班に入りたいと近づいていく。レインとミーシャは席から立ち上がることなく、そのまま待機していた。

 

「二人はどうする?顔見知りなのなら、あいつの班に行くか?」

 

「御冗談を。私の上に立つ者は御身以外にはありえない。よくご存じでしょうに」

 

「……私もアノスの班がいい……」

 

「そうか?」

 

「……ん……」

 

「それは助かる」

 

 アノスの言葉に、ほんの少し照れたようにミーシャは言う。

 

「……友達だから……」

 

「そうだな」

 

 そんな二人を見ていたレインだったが、ある気配が近づいてくるのを感じそちらに視線を向けた。そこにいたのは、つい先ほど噂されていたサーシャだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。