魔王学院の不適合者~暴虐の魔王の副官、転生して再び魔王に仕える~   作:シュトレンベルク

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対抗戦

 一週間後――――2組の生徒たちは、班別対抗試験のためデルゾゲード魔王学院の裏側にある魔樹の森へ来ていた。薄気味悪さの漂う深い森が広がっており、渓谷や山が見える。その広大な土地は、魔法の訓練をするのには適していると言えた。

 

「それじゃ、二班に分かれて、早速班別対抗試験を始めます。最初は、サーシャ班」

 

 エミリアがそう口にすると、サーシャが前に出る。このクラスの中では七魔皇老の直系であり、皇族の代表と言ってもいいサーシャはエミリアにとってはこれ以上ない希望だろう。その最たる相手であったレインがアノスに下っている現状は特に。

 

「皆さんにお手本を見せてあげてください」

 

「わかったわ」

 

 そんなエミリアの期待を感じているのか、ふっとサーシャが微笑する。

 

「じゃ、相手の班は……」

 

 サーシャはアノスをじっと睨んでいた。そんな顔をしなくとも、アノスが逃げるわけがない。レインはそう思っていたが、口を出す必要もないだろうと黙っていた。

 

「俺がやろう」

 

 アノスのその言葉と共に、レインとミーシャも一緒に前に出た。

 

「では、最初はサーシャ班とアノス班による班別対抗試験を行います。結果は成績に影響しますから、手を抜かず、しっかりやってください」

 

 その言葉と共に、エミリアとサーシャ班とアノス班以外の生徒たちはその場を離れていった。これから行われるのは<魔王軍(ガイズ)>を用いた判別対抗試験は模擬戦闘そのもの。一歩間違えれば、命を落とす危険もある。

 

「覚悟はいいかしら?」

 

 <破滅の魔眼>で強気にサーシャが睨んでくる。アノスはそれを堂々と受けとめ、レインは飛んできたその魔力を<創滅の魔眼>で相殺した。

 

「誰にものを言っている?」

 

「相変わらず、偉そうな奴だわ。ちゃんと約束は覚えてるわよね?」

 

「ああ」

 

「口約束じゃ信用できないわ」

 

「それはこちらも同じことだ」

 

 アノスが<契約(ゼクト)>をかけようとすると、サーシャは同意せずにそれを破棄した。

 

「信用できないと言ったのはそっちのはずだが?」

 

「あなたの<契約(ゼクト)>じゃ、どんな契約を割りこまされるかわかったものじゃないわ」

 

「ふむ、ではどうする?」

 

「その子にやらせなさい」

 

 サーシャはレインの隣にいるミーシャを指名する。ミーシャには何の意味もないことは分かっているが、飛んでくる<破滅の魔眼>の魔力を相殺するレインはちらりとミーシャに視線を向ける。ミーシャはただじっとサーシャの事を見つめていた。

 

「……わたしでいい……?」

 

「ああ、別に誰がやっても問題ない」

 

 ミーシャは手の平をかざし、<契約(ゼクト)>の魔法陣を展開する。魔法文字で条件を記すと、サーシャはそれに調印した。両者の同意がない限りは、決して違えることのできない魔法契約が結ばれる。

 

「陣地はどちらがいいかしら?」

 

「好きに決めればいい。どこでも同じだ」

 

「そ。じゃ、東側をもらうわ」

 

 必然的に、アノス班の陣地は西側となった。とはいえ、アノスやレインたちからすれば、陣地がどちら側だろうと大した違いはないのだが。

 

「ねえ。覚えてなさい。その傲慢な態度、後で後悔させてあげるわ」

 

 ぷいっと振り返り、サーシャは班員たちを引き連れて、魔樹の森の東側へ去っていった。

 

「俺たちも行くか」

 

「……ん……」

 

「かしこまりました」

 

 三人は適当に歩き、森の西側に辿り着く。そこでしばらくの間、待機していた。空を見上げると使い魔であるフクロウから<思念通信(リークス)>が飛んできた。

 

「それではサーシャ班、アノス班による班別対抗試験を開始します。始祖の名に恥じないよう、全力で敵を叩きのめしてくださいっ!!」

 

「茶番のような謳い文句だな」

 

「今の魔族にとっては誰もがそういう認識ですので、致し方のない事かと」

 

 アノスにしてもレインにしても、決して好戦的な性質ではなかった。ただ昔は戦わなければ生き残れなかった、というだけにすぎない。ただ戦うことが何かを得るという目的のためには効率的だったというだけだ。

 

「……作戦は……?」

 

「といってもな、こちらは三人。向こうは三十人だったか?作戦なんてあってもなくても一緒だからな」

 

 術者であるアノスは<魔王(キング)>、サーシャは<築城主(ガーディアン)>、レインは<魔導士(メイジ)>のクラスについている。七つあるクラスの中で三つしか使っていない現状、作戦など立てても意味がないというのがレインの感想だった。

 

 それにサーシャの班がどれだけの人数がいたとしても、アノス或いはレイン単騎で覆せる規模だ。ミーシャ一人では難しいだろうが、そもそも<築城主(ガーディアン)>は単騎で戦うクラスではないので仮定すら無意味だろう。

 

「どうなさいますか? アノス様」

 

「ふむ、悩みどころではあるな……ちなみにミーシャだったらどうする?レインも何か上げてみろ」

 

「私もですか?私であれば遠距離殲滅魔法で一方的に撃滅するぐらいでしょうか?まぁ、それ以外でもどうとでもなりましょうが」

 

「わたしのクラスは築城主(ガーディアン)。<創造建築(アイビス)>の魔法が得意……<創造建築(アイビス)>で魔王城を建築する。魔王城は加護により魔王(キング)の能力が底上げされる。魔導士(メイジ)の魔法威力も上げられる。籠城には有利」

 

「妥当な戦術だな。この場にいる面子全員の力を上げることもできるしな」

 

「しかし、それだけに向こうもこの策は読んでいるでしょうね」

 

「……じゃあ、どうする……?」

 

「向こうが絶対に予想していない策で裏をかく」

 

「……どうやって……?」

 

 あくどい顔をしているな、と思いながらレインはアノスの言葉を聞いていた。とはいえ、それだけをしていた訳ではない。この大地に流れている魔力をこちら側に集めてきていた。

 

 大局には影響しない程度ではあるが、相手から優位を奪う手段である。その魔力をレインを介してミーシャに流す。ミーシャは急に増大化した魔力に驚きながらも魔王城を創りあげる。その強度は現代では比べ物にならないほど固く重かった。

 

「ふむ、素晴らしいじゃないか。しっかりと重そうな城だ」

 

「……レインが魔力を融通してくれたおかげ」

 

「それを差し引いても、という奴だよミーシャ。最近の魔族は魔法に対する警戒ばかりで、軽そうな城しか創らないからな。<創造建築(アイビス)>を用いて創るなら、両者をこなして当然なんだからな」

 

 レインからしても警戒が疎かすぎるとしか表現できない城だ。アノスであれば簡単に攻略できる程度の障害でしかないだろう。事実、<転移(ガトム)>で移動したアノスは城を悠々と持ち上げ、振り回した上に投げ飛ばしていた。

 

「よく飛んでるな」

 

「……レインなら同じことできるんじゃないの?」

 

「まぁ、出来るだろうが……する意味がない。落第点の城だからな。ご自慢の魔法防壁ごと叩き潰すさ。ああやっているのは、陛下の温情だろうな」

 

「……どういうこと?」

 

「陛下であれば、魔法の一つであの程度の城を粉砕するのは容易い。それを態々、問題点を指摘しつつ実行しておられる。問題があることを実際に証明している訳だ。お優しいことだ」

 

 レインならば態々そんなことはしない。問題など自分で気づくべきだし、気付くことが出来ないのなら死ぬしかない。弱点を突かれるのなら、その弱点をカバーする手法を確立させておく。そうでなければ、神話の時代では生き残れない。

 

「だが、今の時代には今の時代なりの矜持があるようだな」

 

 レインの視線の先では、横倒し状態になった城から巨大な魔法陣が展開されていた。それは今の時代の魔族では発動させる事の難しい高等魔法――――火属性最強魔法(・・・・・・・)である<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>の魔法陣だった。

 

「サーシャの奴、賭けに出たな」

 

「……アノスは大丈夫?」

 

「問題あるまい。あの程度の木っ端の群れ程度ではいくら束ねようと、陛下に届きうるはずがない」

 

 一つの属性の頂点に位置する魔法。そんな肩書きが付く以上、<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>発動の難易度は極めて高い。上位層であれば一人でも発動できるだろうが、それ以下となれば複数人以上で発動できるか否かという難易度なのだ。

 それを発動できれば術師としては一流と呼んでもいい。しかし、相手は<暴虐の魔王>たるアノス・ヴォルディゴードなのだ。どれほどの術者が集まってこようと蹂躙できるだけの力の持ち主なのだ。勝負の土台にすら立てる筈がない。

 

 サーシャたちの放った<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>は何の破綻もなく、レインの眼からしてもきちんと発動していた。しかし、アノスの放った一筋の炎――――火属性の基本魔法(・・・・・・・・)である<火炎(グレガ)>によって吹き散らされ、そのまま城が焼き尽くされた。

 

「サーシャは……無事脱出できたようだな。いや、班員全員気絶してはいるが、生きているな。その辺りは及第点、というべきか」

 

「……大丈夫そう?」

 

「問題なさそうだな。今も元気に陛下を睨みつけているよ」

 

「……アノスは大丈夫そう?」

 

「無用な心配だな、それは。陛下もサーシャと同じ瞳を持っているし、反魔法の規模が違う。今のサーシャ程度ではどれほど時間をかけたとしても、陛下に傷一つつけることはできないだろう」

 

 事実、アノスはサーシャの<破滅の魔眼>を同じ<破滅の魔眼>で相殺していた。これ以上はどうにもならないだろうとレインは瞳を閉じた。そして隣で心配そうにレインを見るミーシャを安心させるように、ポンポンと頭を叩いてから撫でる。

 

「勝負はついた。サーシャもこれ以上戦っても陛下に勝てないことは分かりきっているはずだ。後は試合終了の合図を待つだけだろうさ」

 

 実際、エミリアから試合終了の方が入り、ミーシャは創造した魔王城を消滅させる。そしてレインの方に視線を向けると、先ほどアノスの手によって焼き尽くされたサーシャ側の魔王城に手を向けた。次の瞬間、黒い影が奔り黒焦げの魔王城はバラバラに裁断された。

 

 それが何であるのか、ミーシャは詳しくは知らない。しかし、【創滅の魔人】と呼ばれる要因の一端があの魔法であることは知っている。それ故に、レインは畏れられている。既存の魔法ではない独自の魔法によって、数多の命を奪う姿を多くの者が見ているからだ。

 

 得体のしれないものは怖いものだ。しかし、その力を守るためにのみ使っているからこそ、まだレインに向けられる感情は畏怖で留まっている。けれど、もしその力が味方に振るわれることになれば、その感情はたちまち恐怖へと変貌する事だろう。

 

「そちらは終わったのか? ミーシャ」

 

「……ん。終わった」

 

「そうか。それなら、俺たちもこの場を離れることとしよう。他の連中に迷惑をかけるのも問題だろうしな」

 

 もしそうなったとしても、レインはきっと気にしないのだろうとミーシャは思っていた。レインからすれば他者が自分に向ける感情など至極どうでもいい。自分がやらなければならない事を、ただ淡々とこなしているだけにすぎない。

 戦場で感情を露わにする必要はない。感情論で敵を倒すことのできるなら、誰も苦労などしないのだから。感情に脳機能を回している余裕があるなら、思考を常に動かし続けるべきだと考えている。しかし、それは感情がないという訳ではない。ただ前面に出さないだけなのだ。

 

 心が痛まないわけではないし、何も感じていないわけでもない。でも、それを切り替えて動いているだけ。けれど、他の魔族たちはそれを勘違いしている。だから、魔人などとレインの事を呼称するのだ。アレは自分たちと違うのだと、そう思うために。

 

 しかし、レインとて一つの命なのだ。苦しいと思うことも、辛いと思うことも、はたまた楽しいと思うこともある。しかし、それを人々は理解しようとはしない。レインもまた理解を求めようとは思わない。だが、ミーシャはそれが悲しいと思う。

 

「ん? どうしたんだ、ミーシャ?」

 

「……なんでもない」

 

「そうは思えないが……まぁ、良いさ。ほら、行くぞ」

 

 レインがミーシャに手を差し伸べ、ミーシャはその手を取る。その手にぬくもりを感じる。だからこそ、どうしようもなく思ってしまう。自分(ミーシャ)がいなくなった時、彼を理解してくれる人は果たしているのだろうか、と。

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