『どうか、我らの世界をお救いください……勇者様方』
そんな、漫画でしか知らないような台詞を自分に向けられるとは思わなかった。
私達4人は、仲の良いお友達で。何をするのをいつも一緒で。
そして、何処とも知れない世界へと突如喚び寄せられたのだ。
戦った。
元の世界に帰るために、必死で強くなって武器を振るった。
ゲームに出てくるようなモンスターみたいな生物を殺した。
人を、殺した。
それでも私達は帰りたかった。
なのに────。
『ゴメン……わたし、もうダメみたい……約束、守れな……』
『やだ……アタシ、まだ死にたくない……死にたくないよぉ……』
『彩那だけでも、生き残ってくれてよかった……後は、お願いね……』
皆、居なくなった。
帰って来られたのは、私だけ。
『今日午前10時頃に、1ヶ月前から行方不明になっていた綾瀬彩那ちゃん(8)が海鳴公園で発見されました。彩那ちゃんは身体に傷を負っており、現在海鳴総合病院で治療を受けています。警察は彼女に慎重な事情聴取を行い行方不明になった他の子供達の捜索を────』
とある小学校の教室。
朝のHRが始まる前の時間、生徒達は仲の良い友達と思い思いに談笑していた。
HRが始まる5分前に開いているドアから1人の女子生徒が中に入ってきた。
その生徒が入って来ると一瞬教室が静まり返る。
頭の天辺から首まで肌の露出が殆んどなく巻かれた包帯。
それは昨年度の3学期に復学してきた彼女の毎日の
誰に挨拶する訳でもなく、窓際にある自分の席に着くと、机には見るに絶えない罵詈雑言が書かれている。
『ミイラ女』
『人殺し』
『この学校から出ていけ』
『気持ちわるい』
『死ね』等々
マジックで書かれた物も有れば、彫刻刀で彫られた物もある。
それを特に気にした様子もなく、ランドセルをかけて席に座ると残りの時間を空をボーッと眺めて過ごす。
周りが自分を見てヒソヒソと話すのも、指を差して笑うのも気にせず、ここに居ない者のように静かに過ごす。
それが、綾瀬彩那の日常だった。
いつも通りクラスメイトからのちょっかいもそこそこに学校での時間を過ごし、帰路に着いていると、あまりよろしくない感覚に彩那にしては珍しく険しい顔をする。
「魔力の気配。どうして……?」
もう二度と感じたくなかった感覚に顔を顰める。
「近い……」
荒々しい魔力を感じて彩那は懐から1枚のカードを取り出した。
走りながら久しぶりに魔力を込めると一瞬、彩那の身体が光に包まれ、収まると彼女の身体は別の衣装へと変化していた。
「フッ!」
呼吸と共に体に力を入れると弾かれるように大きく跳躍して魔力の出所に向かった。
高町なのはは神社の階段を登ると願いを叶える宝石、ジュエルシードによって凶暴化した犬の魔獣と対峙していた。
まだ二度目の魔法少女としての活動に戸惑いつつも彼女の杖であるデバイスの指示通りに突っ込んでくる魔獣に対して魔法の盾を展開しようとする。
だが、なのはと魔獣の間に上から何か────いや、誰かが落ちてきた。
「聖剣の守護を」
呟くように口にした言葉と共に手にしている青い刀身の剣で受け止めるように前に出すと、凧形の魔法陣が現れ、魔獣の突進を遮る。
「誰……?」
突然の乱入になのはは思わずそう呟いていた。
背丈からして自分と同じ年くらいの女の子。
自分が魔法少女なら相手の格好は騎士を連想する衣装だった。
紺色のインナースーツに胴体や関節の邪魔にならない部分に鎧を装着し、青いマントを靡かせている。
ただ気になったのは、顔全体に覆われた包帯だが。
「シッ!」
呼吸と共に払うように剣を動かすと、魔獣が弾かれるように吹き飛ぶ。
唸り声と共に地面を転がる魔獣。
警戒を怠らずに剣を構えつつ包帯の少女は此方に質問を投げかけてきた。
「貴女」
「は、はい!?」
話しかけられて思わず背筋を伸ばすなのは。
「アレ、斬って良いのかしら? それとも他に対処法が?」
斬って良いのか? という質問になのはは慌てて訂正する。
「ま、待って! あの子はジュエルシードのせいでああなってしまっただけなの! 封印すれば大人しくなるから!」
「封印、ね。貴女にはそれが出来るという事で良いの?」
顔半分を此方に向けて淡泊な声を返す包帯少女になのはコクコクと頷く。
「そう。なら私が動きを抑えるから、その封印とやらをお願いしても?」
相手の質問になのはは頷く。
思えば、先程守ってもらった時に封印すれば良かったのだ。
突然の乱入者に思わず思考と動きが停止してしまった。
自分の失態に気付き、なのはは気を引き締める。
それを待たずに包帯少女は魔獣へと立ち向かっていく。
「すごい……」
その動きに思わずなのはは感嘆の声を漏らした。
魔獣の攻撃をギリギリのところで避けつつも時折先程のような魔法の盾を展開して敵をその場から大きく動かさないように抑え込んでいる。
だけどその動きになのはも見惚れてばかりもいられない。
与えられた自分の役割を果たさなければ。
「リリカルマジカル! ジュエルシード、封印!」
自身のデバイスであるレイジングハートから放たれた桃色の閃光が魔獣を包む。
これもギリギリのところで大きく下がった包帯少女は呆れとも怒っているとも判断できない声を出した。
「封印と言うから、もっと静かなのを想像してたけど、随分と攻撃的なのね」
「ご、ごめんなさい」
現れたジュエルシードをレイジングハートの中へと収納してなのはは肩を小さくして謝る。
思えば、先に言っておけば良かったと。
突然あんな砲撃を見せられて驚いただろう。
「あ、あの! あなたも魔法使い、なの?」
見た目は大分違うが、先程見せてくれた魔法になのははそう質問する。
相手は困ったように首を振った。
「いいえ。私は"勇者"よ。少なくともそう呼ばれていた者」
これが、新米魔法少女とかつて勇者として喚ばれた少女の出会いだった。