世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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sts本編はやらないのでちょっとだけ書いた。


番外編1:クラナガンの怪人

 綾瀬彩那一等陸尉。

 高町なのはなどと同じ地球出身の魔導師。

 現在第一管理世界クラナガンで質量兵器の密輸や違法所持者に関する捜査を中心に活動する捜査官である。

 若くして一等陸尉の階級を与えられた彼女だが、他の同期達と違い、取材などのメディアに出演する事はまったく無い。

 それは綾瀬一尉の首から上が包帯で厳重に巻かれている、という見た目だからだ。

 彼女の素顔を知るのは旧知の者達だけで、職場の同僚すらその包帯の下を拝んだ者は居ないと噂されている。

 そんな綾瀬一尉に付けられた通り名が"クラナガンの怪人"である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綾瀬彩那は報告書を纏めていた。

 ここ数ヵ月の調査で判明した質量兵器の密輸組織をようやく逮捕に踏み切れた。

 売り捌く筈だった銃器や違法薬物を押収し、リスト化。犯人達の身元確認などが報告書として作成される。

 

「今日は早く帰れそうね」

 

 同僚が淹れてくれたコーヒーを飲みながら呑気にそんな事を口にする。

 すると、部署の扉が開かれた。

 

「どうも~。綾瀬捜査官居ります~?」

 

 入ってきたのは旧知の1人である八神はやて二等陸佐だった。

 呼ばれて一旦作業を中断してはやての下へ向かう。

 

「お久しぶりです、八神二佐。私にどのような御用件で?」

 

 敬礼をしつつ用件を訊ねると、はやては手をヒラヒラさせた。

 

「イヤやわー。そんな堅苦しい。いつもみたいにはやてちゃんって呼んでええんよ?」

 

 

「今は仕事中ですので。それと、私がそう呼んだ覚えが無いのですが……」

 

 冷ややかな視線を向けられてはやては苦笑して頬を掻いた。

 

「それはそれとして。これからご飯いかへん? 真面目な話とゆーか、相談があるんよ」

 

 真面目な話、と言うのであれば断る理由はない。

 

「分かりました。私も報告書を書き上げなければなりませんので、定時以降で宜しいですか?」

 

「いや、自分で誘っといてなんやけど、アレ終わるん?」

 

 山積みになっている書類の束を指差すはやて。

 就業時間まで後2時間しかない。

 その質問に彩那は当然のように言う。

 

「終わるか、ではなく終わらせますよ、絶対。どちらにせよ早く帰るつもりでしたし」

 

「頼もしいなー」

 

 友達の言葉にはやては苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅れてごめんなさい」

 

「いやいや。早いくらいやよー」

 

 指定されていた料亭に到着して個室に案内されると先に来ていたはやてが居た。

 

「いやー、それにしても相変わらず包帯取った時のギャップがスゴいなぁ。美人度で言えばフェイトちゃんとタメ張れるんちゃう?」

 

「つまらない世辞は要らない。それより話って?」

 

「世辞やないけど。先ずは食事を楽しんでからにせぇへん?」

 

「八神さんが猫なで声ですり寄ってくる時は面倒事が舞い込んで来るって決まってるから、先に聞いておかないと楽しめないのよ」

 

 彩那の台詞にはやてが視線を反らして頬を掻く。

 

「ヒ、ヒドイなぁ。でも、うん。先ずはこれ見て」

 

 渡されたリストに目を通す。

 それが何なのか理解しつつ彩那はこう返した。

 

「同窓会の出席名簿?」

 

「あはは。嫌味がキツいなぁ」

 

 彩那の言葉にはやては怒る事無く返された名簿をしまう。

 

「これはいったい何のおふざけかしら? どう考えても戦力過多よ。大体ランク制限で通らないでしょ、そんな部隊の面子」

 

 はやてが新しい部隊の設立に走り回って居た事は彩那も知っている。話も前に来たが、やんわりとお断りした。

 はやての騎士である雲の騎士を集めるのはまだ良い。

 だがその上になのはやフェイト。それに今は一線を退いているが狙撃の名手であるヴァイス。

 どう見ても戦力が異常だ。

 はっきり言って彩那まで引き入れたい理由が分からない。

 

「どれだけ危ない組織を相手にするのかしら? 今のところ思い当たる節が無いのだけれど」

 

「うん。実は魔王軍を相手にせなアカンようになってなぁ。是非勇者様のお力添えをー」

 

「ふざけてるならこの話は切るわよ」

 

「あーゴメンゴメン! でも今は言えんのは本当やから」

 

 要するに、守秘義務なのだろう。

 

「正直に言うとな、彩那ちゃんには直接の戦力よりも部隊運用のサポートに期待してるんよ。勿論、切り札として手元に置いておきたいのはあるけど」

 

「……」

 

 観念したように話始める。

 

「面子を見て分かるように、上役は皆わたしと旧知の面々やろ? うちの子らは基本意見は述べても反対はせぇへん。なのはちゃんやフェイトちゃんも。むしろ、後出しジャンケンみたいにむりやり正解に持っていきそうやね」

 

 それはそうだろう。

 例えはやてが判断ミスをしても、彼女らなら結果で黙らせられる。

 

「それにわたしが部隊長やからな。きっとかなり規律の緩い部隊になると思う。その時にキチンと締めるところは締められる人が欲しいんよ。上が団結し過ぎてなぁなぁになりそうなところを叱ってくれる人。問題が起きた時に、公正な目で意見を言える人。そういう人材で真っ先に思い付いたのが彩那ちゃんやった」

 

 八神はやては基本厳しさで人を引っ張るタイプではない。

 その人柄で、力に成りたいと思わせる雰囲気が彼女の魅力であり、武器である。

 

「買い被りよ。私だって判断を失敗する時はあるわ」

 

「でも、わたしが間違ってる思ったら、絶対止めてくれるやろ?」

 

 友達だからと流されず、周りに睨まれても自分の意見を言ってくれる。

 

「わたしが始めた部隊やからな。失敗してわたしが責任を取るのは当然。でも、着いてきてくれた子達に飛び火せんように守ってくれる。そんな補佐が欲しいんよ」

 

「……随分と煽ててくれるわね」

 

「それだけアヤアヤが魅力的なんや」

 

「その呼び方はやめて」

 

 軽く注意して息を吐いた。

 

「でもランク制限はどうするの? 今は基本Aランクで活動してるけど、それでも規定を超えるでしょう?」

 

「うん。だからもっとランク下げてほしい」

 

「出来なくはないけど……」

 

 まぁ後方担当ならランクを下げても問題ないか、と考え直す。

 

「期間は1年。生半可な成果じゃあ、高ランク魔導師を多く遊ばせたと判断されるわ。そうなると、ただでさえ風当たりの強い八神さんは追い込まれる事にもなるわよ」

 

「ふふ。そういう心配をしてくれるの、嬉しいなぁ。でも大丈夫や。皆が協力してくれるなら」

 

 信じてます、と言わんばかりのはやてに彩那は難しい顔をした。

 結局自分も、彼女には甘いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機動六課が始動し、今日も出現したガジェットの撃退や新人の育成に精を出している。

 そんなある日の事。

 

 

 

 

「今日も疲れたねーみんなー」

 

 訓練を終えてシャワー浴びてクラゲみたいにふやふやした表情のスバル。

 まだなのはの訓練に慣れてない新人達は食堂に向かっていた。

 その途中で自分達の教官を発見する。

 

「アレ、なのはさんですね。一緒に居るのは────綾瀬副部隊長?」

 

 顔に包帯を巻いたその姿を見間違える筈もない。

 

「何か、なのはさんが謝ってるみたいですね」

 

 そこで向こうがこちらに気付き、なのはがバツの悪そうに苦笑いすると、2人は近付いてくる。

 

「皆はこれからご飯?」

 

「はい! あの、何かあったんですか?」

 

 スバルの質問に彩那が答える。

 

「大した事じゃないわ。高町一尉のカートリッジ使用率が多めだから、少し使用を控えてくれるよう言っただけよ」

 

 カートリッジは当然部隊の資金から補充される。

 使うなとは言わないが、節約出来るのならそれに越した事はない。

 何よりある程度安全性が確立したとはいえ、負担がかかることには変わりない。

 そうした心配からのお小言であるため、なのはも反論しづらかった。

 そこでティアナが念話を繋ぐ。

 

『そう言えば、綾瀬副部隊長もなのはさん達の幼馴染みだったわね。チビッ子達は前から知り合いなんでしょう?』

 

『えっと……僕はフェイトさんに引き取られて少しした後に1度だけ。地球のお店でご飯を御馳走になりました』

 

『わたしは去年の誕生日に。素敵な服をプレゼントしてくれました』

 

 どうやら2人共に1回しか会ったことが無いらしい

 

『それじゃあ2人は綾瀬副部隊長の素顔を見た事あるの?』

 

『ありませんね』

 

『わたしもです』

 

 すると、スバルが手を挙げる。

 

「あの! どうして綾瀬副部隊長は顔を隠してるんですか?」

 

『スバルゥウウウウウウウッ!!』

 

「わぁっ!?」

 

 念話で大声で叫ぶティアナにスバルが地声で驚く。

 

『アンタバカなの!? いくらなんでもデリカシー無さすぎでしょ!!』

 

『え? だ、だって気になったから……』

 

 2人の様子を察した彩那が話に入る。

 

「良いのよ、ランスター二士。こんな格好をしていれば、気になるのは当然だもの。むしろ説明をしていない私に問題があるわね」

 

「え、えーと……」

 

 自分が悪かったという彩那にティアナは困惑する。

 少し考える様子を見せて、包帯の巻かれた頬に触れる。

 

「私が包帯で顔を隠してる理由ね。実は子供の頃に学校でイジメを受けていて、ある日危ない薬品を顔にかけられて酷く爛れてしま────」

 

「ストーップ!! 彩那ちゃん! やけにリアリティのある嘘を真顔で吐くのは止めようね! 皆引いてるからっ!」

 

「あら?」

 

『嘘なんですかっ!?』

 

 なのはのツッコミに新人達が声をハモらせた。

 

「うん。彩那ちゃんが包帯を巻いてるのはそういう理由じゃないから。素顔はかなりの美人さんだよ」

 

「顔に見られたくないモノが有るのも昔嫌がらせを受けてたのも本当だけどね。事実を言うと、この包帯自体が私にとってリミッターの役割が有るのよ」

 

「リミッター、ですか?」

 

 首をかしげる新人達になのはが補足した。

 

「うん。彩那ちゃんは術式とデバイスの関係で通常のリミッターは弾かれちゃうの。だからこの包帯で無理矢理リミッターをかけて貰ってて」

 

 正確には彼女が使う4本の剣。

 それを起動させると本人の意思に関わらず、強制的にリミッターを解除してしまうのだ。

 だから仕事中は滅多なことでは包帯を外さない。

 

「私はこの部隊での仕事はあくまでも部隊運営の補佐役だから、余程の事態に陥らない限りは前線には出ないつもり。あなた達も体を壊さない程度に頑張りなさい。もしも度を越えて無茶をするなら────簀巻きにして吊るしてでも止めるわよ?」

 

 最後の方のギロリとした視線に新人達は背筋を寒くした。

 その様子になのはが苦笑する。

 

「そんな無茶は私がさせないよ」

 

「心配なのよ。高町一尉の教え子だから」

 

「ひ、ひどい……」

 

 まるでなのはの教え子だから平気で無茶をする、みたいな物言いに眉をヒクヒクさせる。

 

「それじゃあ、私はこれで」

 

「あれ? 行っちゃうの? 久しぶりに一緒にご飯でもって思ったんだけど」

 

「これから八神部隊長に提出しなきゃいけない書類と打ち合わせがあるから。えぇ。とっても大切なお話が……ねぇ?」

 

 最後の方にやや語気を強めた言い方にはやてが何かしたのかな? と感じた。

 新人達に明日も訓練頑張ってとエールを送りその場を離れる彩那。

 2人の様子を見て、キャロが思った事を口に出す。

 

「なのはさんと綾瀬一尉って姉妹みたいですね」

 

「そうかな? でも、彩那ちゃんは私のお師匠様なところがあるから、ちょっと頭が上がらないのはあるかも」

 

「そうなんですか!?」

 

 なのはのカミングアウトにスバルが驚きの声を出す。

 食堂へ移動しつつ、懐かしむように話を始めた。

 

「魔法自体は別の人に教えて貰ったけど、魔法での戦い方は彩那ちゃんに教わったよ。まぁ、彩那ちゃん曰く、私は優秀過ぎてつまらない生徒って言われちゃったけどね。だから、本気で怒られたのは1回だけだったよ」

 

「なのはさんがですか!?」

 

 エリオの驚きになのははやはり恥ずかしさと懐かしさの混じった笑みで頷く。

 

「昔ね。魔法を学ぶことや仕事が楽しくって、疲れとか全然気にならずに働いてた時期があって」

 

 上手く行き過ぎていて、ハイになっていたのだ。なまじ優秀だったからこそ、周りもなのはの疲労に気付かなかった。

 というよりも、信じたくなかったのか。

 

「それで、ある任務に出る寸前でいきなり彩那ちゃんにバインドでグルグル巻きにされて、実家に戻された事があったんだ。その後に今までの疲労が噴き出て、熱で倒れちゃった。お見舞いに来てくれた彩那ちゃんにはその時に怒られたよ。でも怒鳴ったりするんじゃなくて、こっちを真っ直ぐ見て、言い訳を1つ1つ潰してくるから、スゴく堪えたなぁ」

 

 反論を理詰めで切られ続けたのだ。

 当時子供だったなのはかなりしょんぼりと落ち込んだ。

 

「でも最後に、取り返しのつかない事になる前に気付けて良かったってスゴくホッとしてた」

 

 昔からそうだ。

 ジュエルシードの事件の時も。闇の書の時も。

 此方の意見を聞きつつも本当に危ないと判断したら止めてくれる。

 

「今はああいう格好をしてるからビックリするかもしれないけど、本当に優しい子だから。あまり怖がらないであげてね」

 

 友人を自慢するようになのはは言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少しの時間が流れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は言ったわよね? 度を越えた無茶をするなら、簀巻きにしてでも止めるって」

 

 自主訓練に明け暮れていたティアナとスバルは突然彩那に後ろからバインドで拘束されて空中に吊らされていた。

 クラナガンの怪人と呼ばれる綾瀬彩那一等陸尉は手にしている王剣でポンポンと2人の頭を叩く。

 

「さてと。高町一尉とヴィータ三尉も呼んで、お説教といきましょうか」

 

 ギロリと睨みつつも口元をつり上げる彩那に2人はブルッと背筋に寒気が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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