世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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喫茶翠屋へのお誘い

『さて。私達も魔法とやらに触れて半年が経った。それぞれ武器に合った戦い方を学び、自分の戦闘スタイルも確立しつつある。だが、弱点を放置して良い理由にもならない。だから私達が互いに教えられる事は教え合うべきだと思う。いいか?』

 

『はーい』

 

 冬美の言葉に他3人が返事をする。

 先ずは渚を指差す。

 

『渚。お前は接近戦闘を得意とするが、どうだ?』

 

『ん? んー。ビュンって近づいて相手の弱そうなところをズバッと斬る感じ?』

 

『……彩那は?』

 

『えっと……敵の攻撃が来るタイミングと狙ってる場所は何となく分かるから、後はバリアを展開してるかな』

 

『璃里』

 

『術式を見れば大体どんな効果か予想出来るよね? だから後は魔力で干渉すれば大丈夫だよ……』

 

 3人のフワッとした説明に冬美が頭を押さえる。

 その態度に渚が不満げな顔になる。

 

『なら、冬美はどうなのさー』

 

『あぁ。細かなところは魔剣任せだが。敵のリンカーコアを感じ取って距離を算出。後は角度調整をだな────』

 

『ゴメン。細かすぎて難しいよ』

 

 彩那の言葉に冬美がムッとなる。

 苦笑して璃里が締め括る。

 

『要するに、皆揃って教えるのに向いてないってことだね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「懐かしい事を思い出すわね」

 

 ジャージ姿で公園のベンチに座っている彩那。

 走り終えてボーッとしていると、昔の事が過るようになった。

 すると一緒に走っていたなのはが到着する。

 

「ゴ、ゴール……」

 

 地面に倒れ込むように目的の場所に着くなのはだが、すぐに熱せられているアスファルトからすぐに立ち上がった。

 既に学校は夏休みに突入しており、彩那となのはの師弟関係も続行中である。

 もっとも────。

 

「ここ最近、全然魔法を教わってないの……」

 

 彩那にやらされている事は基本筋トレである。

 模擬戦すら週に1回のペースだ。

 

「そもそも、私が教えられる事は限られてるのよね。それよりも今は土台作りの方が大事よ。テスタロッサさんと再会したら、戦う約束もしてるんでしょ?」

 

 フェイトとはあの事件以降、ビデオメールなどでやり取りしてるらしく、それで再会したら模擬戦をする約束をしたらしい。

 

「格上に勝てるのは一流の資質って言うけど、高町さんの戦い方は負担も大きいのよ。だから先ずは体を壊さないように身体作りから始めないと」

 

 別に模擬戦に敗けたからと言って失うモノが有る訳で無し。

 将来的に魔法に関わるのかは知らないが、体を鍛えて損する訳でもない。

 

「とにかく今は砲撃魔法とかでかかる負担や疲労を抑えないと」

 

「う~ん。特に痛かったり疲れてたりはしないんだけど……」

 

「そういうのは、自覚した時点で手遅れな事が大半よ。大体、魔法なら自主的に特訓してるんでしょう? この間も、収束砲を改良してやらかしたでしょう」

 

「うっ……」

 

 実際、なのははリンカーコアに負荷をかけたりレイジングハートによるシミュレーション戦闘を行ったりしている。

 この間、その成果で組み立てたスターライトブレイカーの改良版を試し射ちした結果。ユーノの結界を破壊して綺麗な桃色の光が柱になっているのをマンションから見た時は手にしていた飲みかけのコップを落としてしまった。

 とにかく、彩那からなのはに魔法の訓練をする必要が殆んどないのだ。

 そういう意味では彩那の方針はなのはの足りない部分を補っていると言える。

 

「私達の年齢で変に筋力を付けるのはダメだけど、最低限は鍛えておかないと。今はジュエルシードの時とは状況が違うし、長期間でゆっくり強く成れば良いのよ」

 

 焦る必要も無理をする必要もない。

 今はゆっくりと魔導師としての高町なのはの器を形作っていけば良い。

 

「それとも、誰かに襲われる予定でもあるの?」

 

「そんな物騒な予定ないよ!」

 

 彩那の質問になのはが頬を膨らませて否定する。

 冗談とも本気とも判断できない台詞を言った彩那はここから見える海と空を眺める。

 

「~~~~♪」

 

 彩那の口から歌が紡がれる。

 ゆったりとした音調。

 歌詞の1文1文が蒸せ返る夏をイメージさせる。

 大切な夏の思い出を抱き締めるような。

 そんな歌を。

 

(でも、どこか哀しい歌……)

 

 それは歌自体が、というよりも、ジュエルシード事件で彩那がプレシアに言ったことが引っ掛かっているからかもしれない。

 

 ────ずっと思ってた。どうして私なんかが生き残ってしまったんだろうって。生き残る筈だったのは私じゃなかった。生き残るべきなのも私じゃなかったのに。

 

 自分は勇者になんて成りたくなかったと言った彩那。

 あの時の後悔を乗せるように吐き出された言葉が今も引っ掛かっている。

 

 5分程の歌を歌い終えると彩那はなのはの方へと向いた。

 

「体も休まったでしょう? 高町さん。またね……」

 

「ちょっと待って!」

 

 去って行こうとする彩那をなのはが呼び止めた。

 不思議そうな顔をする彩那になのはが確認する。

 

「今日の約束。覚えてるよね?」

 

「約束? 何かあったかしら?」

 

 首を傾げる彩那になのはの視線は鋭くなる。

 

「あったよ! 今日のウチの喫茶店に来てくれるって約束だったでしょう!!」

 

「え? アレ本気だったの? てっきりその場限りのお誘いかと……」

 

「そんなイジワルしないよ!」

 

「あぁ、うん。そうよね。高町さんはそういう事は言わないわよね。ごめんなさい」

 

 彩那からすれば、自分を招待するメリットがないと思っていたのだ。

 なのはとしては、普段からお世話になっている友達に少しでも恩返しが出来ればと思ったのだが。

 

「確か、3時頃にその翠屋という喫茶店だったかしら。うん覚えてるわ」

 

「絶対来てよ! 約束したからね!」

 

 やたら気合いの入ったなのはに彩那はうんうんと頷いた。

 その様子になのはが息を吐くと思い出したように次の提案をする。

 

「それとね。彩那ちゃんも今度フェイトちゃんとのビデオレターを撮らないかな? フェイトちゃんも話したがってたし……」

 

 以前にも同じ事を誘われた事があるが、彩那の返答は同じである。

 

「ごめんなさい。私はテスタロッサさんと会うつもりはないの。加害者と被害者は会うべきじゃないと思うから」

 

 時空管理局(リンディ・ハラオウン)から正当防衛が認められたとはいえ、彩那がフェイトの母親を殺害した事には変わらない。

 それは言い訳のしようのない事実だ。

 そんな彩那になのはが続ける。

 

「フェイトちゃんは、彩那ちゃんの事を恨んでないよ。むしろ、ああいう行動を取らせて申し訳ないって言ってた」

 

「そう。そうなの……でも……」

 

 ────返せよ! 姉様を返してっ!! 

 

 昔、妹のように可愛がっていた少女の憎しみに染まった声を思い出した。

 

「彩那ちゃん?」

 

 顔半分を手で覆う彩那になのはは心配そうに声をかける。

 

「とにかく、逃げるようだけど私はテスタロッサさんと会う気はないのよ。私、臆病者だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 喫茶翠屋のカウンター席にはなのはとアリサとすずかが座っていた。

 

「あのさ。アタシらが紹介してもらうのに何でなのはがソワソワしてるのよ」

 

「にゃはは……友達に友達を紹介するってなんか照れ臭くて」

 

「そう? でもなのはちゃんからお友達を紹介してくれるの、楽しみ」

 

 友人のアリサとすずか飲み物を飲みながら待っていると客が少なくなっていき、時間の空いた父の士郎が話しかける。

 

「以前のボランティアで知り合った子だって言ってたな。どんな子なんだ?」

 

「うん。スゴくしっかりした子だよ。わたしも何度も助けて貰っちゃった。それと────」

 

 一瞬言い淀むなのはだが、すぐに言葉を続ける。

 

「顔に大きな傷が有って、見られたくないから包帯を巻いてるんだけど、驚かないであげて欲しいかな」

 

 本当は刺青なのだが、そう説明する。

 なのはの不安にアリサが眉間にしわを寄せた。

 

「そんなの気にしないわよ。大事なのは中身でしょ、中身」

 

 当然だとばかりに言ってストローに口付ける。

 そうこう話している内に翠屋の入店扉が開く。

 入ってきたのはなのは達と同い年の少女。

 頬にかかるくらいの長さのウェーブの黒髪。

 緑色のワンピースを着た可愛らしい女の子だった。

 その客を見た瞬間驚きからなのはが声を上げる。

 

「彩那ちゃんっ!?」

 

「高町さん。いくらご両親のお店でも大きな声を出すのは感心しないわよ?」

 

 軽く注意されて恥ずかしさから口を手で押さえる。

 なのはが驚くのも無理もない。

 ジュエルシード事件で殆んど外そうとしなかった包帯を取り、顔に刻まれた4つの刺青も消えているのだから。

 

『流石にいつもの姿だとお店にも迷惑がかかるかもしれないから。刺青は魔法で隠してるのよ。スクライア君が使っていた変身魔法の簡易版ね』

 

『だったら、普段もそうしたら良いんじゃないかなぁ』

 

『前にも言ったでしょう? アレは私のリンカーコアの出力を抑えたり、外部に魔力を察知させ難くしてるって。そっちも念の為にね』

 

 念話で話してみると、アリサが声をかけてきた。

 

「ちょっと! いつまで2人で突っ立ってるのよ!」

 

 確かにここで立っていてもお客や店員の邪魔だろう。

 なのはに案内されるままに席まで移動すると、座る前に頭を下げた。

 

「初めまして。綾瀬彩那です。以前高町さんにはお世話になりました」

 

 彩那が挨拶すると、なのはの両親である士郎と桃子が瞬きする。

 

「綾瀬、彩那ちゃん……?」

 

「はい。多分そちらが知っている綾瀬彩那かと」

 

 行方不明だった彩那が発見された際には海鳴だけでなく、それなりに大きなニュースとして全国規模で放送された。当然新聞にも。

 彩那自身、まだ行方不明の少女達の捜索という名目で記者などにストーカー紛いな付きまといをされた事もある。

 まだ風化してるとは言えない話題なので、高町夫妻が思い至るのも無理はない

 

「お母さん?」

 

「あぁ、ごめんなさい。彩那ちゃんね。今日は楽しんで行ってね」

 

「ありがとうございます」

 

 お礼を言って席に座る。

 なのはが自分の親友を紹介する。

 

「彩那ちゃん。こっちに居るのがわたしのお友達のアリサちゃんとすずかちゃん」

 

「月村すずかです。よろしくね、彩那ちゃん」

 

「アリサ・バニングスよ」

 

「えぇ。よろしく」

 

 すずかが友好的な態度で。アリサは彩那を品定めするような視線で自己紹介する。

 すずかが気になっていた事を質問する。

 

「えっと。なのはちゃんから顔に傷が有るって聞いてたけど。あ、答えたくないならいいんだよ」

 

「実は顔に火傷の痕が有るんだけど、今はメイクで隠してるの」

 

 頬に指を当てながら答える彩那。

 

(よくそんな嘘がポンポン出てくるなぁ)

 

 慣れた感じに誤魔化す彩那に複雑な気持ちを抱くなのは。

 和やかな雰囲気の中でなのはの家族や友人との会話を楽しむ。

 その中でジュエルシード事件について魔法を絡めずに要点だけを纏めて滑らかに話す彩那になのはは感心すると同時に言い表せない怖さから口を引きつらせたが。

 彩那も翠屋の菓子を気に入り、お土産に幾つか包んで貰った。

 そうしてお喋りも終わり店を出る。

 

「高町さん。今日は誘ってくれてありがとう」

 

「うん。良かったらまた来てね」

 

「今度一緒に遊ぼうね、彩那ちゃん」

 

 そうした話をしているとアリサが彩那を指差す。

 

「それと、次に会う時はその胡散臭い笑みはやめなさいよね」

 

「アリサちゃん?」

 

 突然の発言にすずかが首を傾げる。

 

「アタシ達を不愉快にさせないようにって、ずっと気を使ってたでしょ。会話も当たり障りのないようにって一歩引いた感じで。桃子さん達も気付いてたけど。上手く言えないけど、なのはの顔を立てすぎなのよ」

 

 アリサの指摘に彩那は笑みを止めていつもの無表情に戻す。しかしその表情にはどこか感嘆の念が込められていた。

 

「まさか気付かれるなんて。高町さんもそうだけど、類は友を呼ぶと言うか。うん。小学生と話してる気がしない」

 

「アンタに言われたくないわ」

 

 彩那の返しにアリサが呆れたように頭を掻く。

 

「言い訳になるかもしれないけど、さっきまでの時間が楽しいと感じたのは事実よ。私にとってそう感じるのは珍しい事なのよ」

 

 海鳴に戻ってきてから、彩那は以前ほど楽しいと思うことは無くなった。

 いつも暗くて重い何かが心の枷となっている。

 今日はそれが少しだけ軽くなった気がした。

 

「ごめんなさい。不快な思いをさせたなら謝るわ」

 

「別にそんなんじゃないわよ。ただ、もう少し自分を出しても良いんじゃないって話」

 

「それは……」

 

 アリサに指摘されて困ったように口ごもる。

 小さく首を振ると会話を切り上げて逃げるように去って行った。

 それにアリサがはーっと息を吐く。

 

「初対面でちょっと踏み込みすぎたかな?」

 

「アリサちゃん」

 

 少しばかり責めるようななのはの視線にゴメンゴメンと謝る。

 

「悪い子じゃないってのは分かるのよ。ただ、本心から楽しもうとしてなさそうなのが気になって」

 

 何事も楽しまなければ損である。

 なのに彩那は自分から心の壁を作り、一定の距離を保とうとする。

 それがアリサには気になった。

 

「ま、それならそれでこれからそんな壁が作れないくらい振り回してやるのも楽しそうだけどね!」

 

「もう。アリサちゃんったら」

 

 要するに彩那にももっと楽しんで欲しいという事だ。

 隠し事をするなとかそういう話ではなく、もっと心から笑って良いのだとアリサは思う。

 変な気遣いや遠慮ばかりされたらこっちまで疲れてしまう。

 

「それに、見たいじゃない? 本心から笑ってる彩那を」

 

 そう言ってアリサはウインクした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分を出しても良い、か……」

 

 自室で写真立てを手にしながら彩那は息を吐く。

 写真には4人の少女が心から笑っていた。

 

「そんな資格はないのよ……」

 

 楽しいとか幸せとか。

 たった1人だけ生き延びてしまった自分がそれを甘受する資格は無い。

 写真の中に居る親友達を犠牲にして生き延びた自分が、どうして心から笑えるだろうか。

 写真を胸に当てて抱き締める。

 

「ねぇ。どうして生き残ったのが私だけだったのかな?」

 

 何度もした自問。

 机の上には小さな雫が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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