世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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堪忍袋

 八神はやては小学3年生の2学期に入り、初めて学校に登校した。

 休学扱いと言っても年がら年中登校しないわけではなく、決められた日には担任に近況や渡された問題集の提出に赴いている。

 

「はぁ……」

 

 少しだけ憂鬱な気分で息を吐くはやて。

 まだ自身の脚が元気だった頃、それなりに友人も居り、毎日が楽しかった。

 しかしある日、突然脚に痛みが走り、救急車で運ばれてからは八神はやての脚はポンコツになった。

 両親は既に亡く、父の知人を名乗る男性に親の遺産の管理や援助を受けてどうにか生活してきた。

 しかし不自由な脚と保護者が近くに居ない危険性から周りの勧めもあり、休学扱いとなる。

 

(今やと完全に学校でお客様やからなぁ)

 

 以前は仲の良かった友達も脚が不自由になったはやてに対して遠慮がちな態度になり、学校にもたまにしか訪れない事からいつしか居場所が無くなった。

 

「ま、今はわたしにも家族が居るからえぇけどなー」

 

 今年の誕生日に突然やって来た"家族"を思って頬を緩める。

 校舎に入り車椅子な為いちいち靴を履き替えなくていいことを楽だなと思いつつ中を移動する。

 廊下まで車椅子を上げたところで下駄箱に備え付けられているゴミ箱。この中に気になる物が入っていた。

 

「ポーチ?」

 

 腰にかけるタイプのポーチが押し込まれるように捨てられていた。

 

「まだ全然使えそうやけど……」

 

 首を傾げるはやて。

 

「うーん。誰かが間違って落としたのかもしれへんし。先生に預けた方がえぇかな?」

 

 そんな事を考えながら拾ったポーチを膝に置くと車椅子での移動を再開する。

 曲がり角まで半分程の距離を移動すると、突然何かを打ち付けるような大きな音がして、驚きからはやては肩を小さくした。

 

「な、なんや?」

 

 音がした教室まで移動する。

 するとそこには顔全体に包帯を巻いた少女。

 

(綾瀬さん?)

 

 以前助けてもらった同級生が教室後ろ側で加賀有子という少女を倒して椅子の脚で拘束していた。

 どういう状況なのか分からず困惑するはやて。

 綾瀬彩那は手にしている箒の柄を加賀有子の顔に向けて鋭く突き下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ポーチが無い)

 

 ランドセルと一緒に机の横に掛けてあった彩那のデバイスを収めたポーチが無くなっていた。

 周囲に見回すと、大半がこちらが視線を合わせると申し訳無さそうに顔を逸らすのが半分。元々視線を合わせてないのが4割。

 そしてクスクスと彩那を見て嘲笑しているグループ。

 ポーチ自体は彩那の魔力に反応して開く仕掛けなので、中だけ抜かれなかったのはそのお陰かもしれない。

 呆れから息を吐き、加賀有子のグループに近づく。

 

「私のポーチを返してくれるかしら?」

 

 手を出してそう問いかける私に加賀有子は鼻で笑う。

 

「はぁ? アンタのポーチなんて知らないわよ。冤罪を被せるのやめてくれるー?」

 

 友人達とケラケラ笑う加賀有子。

 しかし今回ばかりはそれで引き下がる訳にもいかない。

 

「私のポーチを返してくれるかしら?」

 

 先程と同じ言葉を繰り返す。

 その態度に向こうは少しだけムッとなった。

 

「だから知らないって言ってるでしょ! 無くなったなら勝手に探しに行きなさいよ!」

 

 いつもならすぐに引き下がるのに、今回はしつこいのが気に食わない様子だ。

 だがそんな事はこちらにも関係ない。

 

「私のポーチを返してくれるかしら?」

 

 3度目の正直という言葉がある。これで素直に返さないのであれば────。

 

「いい加減にして! 気味悪いったらっ!?」

 

 加賀有子が彩那を押し退ける。

 大して姿勢も崩れなかったが。

 睨んでくる加賀有子に彩那は小さく息を吐いた。

 

「仕方ないわね」

 

「なに。やっと理解したの? 顔も悪いなら頭も悪いのかしら?」

 

 鼻で笑う少女。

 しかし彼女は勘違いをしている。

 彩那は穏便に済ませるのを諦めただけだ。

 

「少々暴力に訴える事にするわ」

 

「はぁ────っ!?」

 

 それは正に一瞬の出来事だった。

 加賀有子の肩を掴んだ彩那はそのまま足を引っ掻けて、仰向けに倒す。

 後頭部を打たないように配慮したが、背中はそれなりに痛いだろう。

 大の字になって倒れた加賀有子に近くに在った椅子を持ち上げて少女の体を拘束し、かつ恐怖を与えるように音を立てて突き立てる。

 肩を掴んでからここまでで2秒未満である。

 事態を理解できず硬直している間に掃除用具のロッカーから箒を1本取り出し、ガンッと椅子に片足を乗せる。

 そのまま加賀有子に箒の柄の先端を向けた。

 

「ちょっ!?」

 

 彩那は容赦なく箒の柄で下を突く。

 しかし突いたのは加賀有子の顔ではなく、首筋にギリギリ掠らない位置だ。

 中々に良い音を立てて教室の床を突く。

 

「私のポーチは?」

 

「や、やめ────ひっ!?」

 

 再度突く。今度は耳のすぐ横を。

 

「何か勘違いをしているようだけど。私は別に貴女達が怖くて無言を貫いてたんじゃないのよ。ただ単にどうでも良かっただけ」

 

 授業中への嫌がらせや給食にゴミや虫を混ぜられようと、上履きや教科書を隠されようが、綾瀬彩那にとっては些細な事だった。

 だから放置した。

 彩那にとって、加賀有子達への興味や関心は0に限りなく近い。

 

「でもアレに手を出すのは許さない。もう1回訊いてあげる。私のポーチは?」

 

「あ、あ、あぁ……」

 

 恐怖から舌が上手く回らなくなっているようだ。

 何度か突けば慣れるだろうと再度箒を持ち上げる。

 そして突こうとした時に教室の外から声が届く。

 

「綾瀬さんっ!?」

 

「?」

 

 外から声を出していたのは数ヶ月前にとある事件で救助した車椅子の少女だった。

 彼女は手に持っているポーチを見せる。

 

「コレ、ですか?」

 

 彩那は一瞬目を見開き、加賀有子に視線を移す。

 椅子を元に戻し、箒をロッカーに仕舞うと、八神はやてからポーチを受け取った。

 

「ありがとう、八神さん。助かったわ。後でお礼をするわね」

 

 そう頭を下げると何事も無かったかのように自分の席に戻る。

 

「どうしたの!?」

 

 騒ぎを聞きつけた教師がやって来る。

 加賀有子が起き上がった。

 

「せん、せい……」

 

 恐怖から解放された加賀有子が事態を説明しようと起き上がる。

 しかし急激に恐怖が弛緩された彼女に変化が起きた。

 

「あ……」

 

 加賀有子の股間から黄金色の液体が広がっていた。

 教室内が再び騒ぎとなる。

 しかし彩那は一切視線を向けずに自身のポーチを腰に着けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾瀬さんっ!」

 

「八神さん?」

 

 はやてがソワソワして待っていた事に目を丸くする。

 

「どうしたの? いつもは30分も学校に居ないと聞いたけど」

 

「だ、だって……あんなことがあって、気になるやん」

 

 そう? と彩那は返す。

 

「問題ないわよ。怪我はさせてないし、加賀さん達が私に嫌がらせをするのはいつもの事だから」

 

 あの後、教師に連れられ小さな空き教室で事情説明が行われた。

 加賀有子達は彩那が突然暴力を振るってきたと説明した。

 ポーチが戻ってきた以上、そういう事にして終わっても良かったのだが、正義感か罪悪感の強いクラスメイトの1人が加賀有子達が彩那のポーチを隠したことを証言。

 これまでの事もあり、現在親を呼び出し中という名の休憩である。

 

「それにしても本当にありがとう。これは本当に大事な物だから」

 

「そんなに、大事な物なん?」

 

「えぇ。この中に有るのは、私の大事な親友達の形見だから。だから手放せなくって」

 

 彩那の言葉にはやては彼女の友達が現在も行方不明であることを思い出す。

 しかし彼女は形見と言った。ならもう他の子達は……。

 

「お礼がしたいのだけれど……」

 

「お礼? いやいや! 全然気にせんでえぇよ! むしろわたしは少し前に助けてもろたし!」

 

 急に木の幹がコンクリートを突き抜けて増殖する災害? が起きた時に助けてくれたのが彩那だ。

 それに比べればポーチを拾ったくらいではお返しにならない。

 

「それこそ気にする必要はないけど。うん、ならそうね。お互い様って事で貸し借り無しにしましょう」

 

「あ、うん。そーしてくれると」

 

 そこで彩那の母が到着する。

 

「彩那ちゃん!」

 

 駆け足で近寄ると彩那の母は娘に抱きつく。

 

「またイジメられたの! かわいそうに! 許せないわ!」

 

 歯軋りする母に彩那が訂正する。

 

「嫌がらせを受けただけよ」

 

「同じことやろ」

 

 ついはやてがツッコミを入れる。

 それを聞いて彩那の母が目を丸くした。

 

「あ、初めまして綾瀬さんのお母さん。わたし、一応同級生の八神はやて言います」

 

「も、もしかして彩那ちゃんのお友達!?」

 

 何やら感動している母にはやてが困惑していると彩那がアドバイスする。

 

「もう少しで相手の親も来るだろうし。帰れるなら帰った方が良いわよ」

 

「あ、うん。そうさせてもらうな? 家族も待たせとるし」

 

 言うとはやては車椅子を返した。

 何やら後ろで彩那の母がまたねーと手を振っているので愛想笑いを返す。

 

 

 校庭を出て少ししたところで彼女の家族2人が居た。

 

「はやて!」

 

「ヴィータ、シャマル待たせてごめんなぁ」

 

「いえ。でも今日は少し時間がかかりましたね。何かありましたか?」

 

「うん。少し同じ学年の子とお喋りしてて。お友達言うと少し違うけど、仲良くなれたらえぇなぁ」

 

「はやてなら、すぐに仲良くなれんだろ!」

 

「あはは。ありがとな、ヴィータ」

 

「さ、帰りにスーパーによって帰りましょう。シグナムやザフィーラも家で待ってます」

 

「うん。行こか、シャマル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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