「はぁ~。ようやくフェイトちゃんとアルフの裁判が終わったね~。思ったよりも刑が軽くてホッとしたよ」
「嘱託魔導師の資格を取ったのが大きかったからね。精神鑑定も問題ない」
元々母親の役に立ちたいとジュエルシードを集めていたフェイトだ。
本来進んで自分から犯罪を犯す人間ではないし、むしろそこら辺を確りと自覚させれば同年代より潔癖な子供だ。
今までは母親に逆らえない家庭環境と本人の意思の弱さが足枷となっていたが、高町なのはという友人を得た事と、アースラでの生活がフェイトを成長させた。
まだすぐに変われたり強くなれたりする訳ではないが、あの年齢の子供にそれを求めるのが酷というものだ。
「ユーノ君もお疲れ。フェイトちゃんの裁判に向けて優位な証言をしてくれてありがとうね」
「フェイトの事情は理解してましたからね。なのはからも頼まれてましたから」
事件後のしばらくはフェレットとして高町家に居候していたユーノだが、アースラが本局に戻れるタイミングでフェイトの裁判に出る為に海鳴を離れた。
本来ジュエルシードを強奪しようとしたフェイト達を訴える事が可能な立場にいたが、被害届を出さず、むしろ同情的な発言をしたことも軽い判決になった原因の1つでもある。
そんな話をしていると、話題の人物が食堂にやって来る。
フェイトとアルフが人の少ない食堂に入るとすぐにクロノ達を見つけて近づいてくる。
「フェイトちゃん、裁判お疲れ様。まだ少し窮屈な思いをするけど、それもじきに終わると思うから、それまでの我慢だよ」
「ありがとうエイミィ。でも窮屈なんて思ったことはないよ。皆がとてもよくしてくれたから」
アースラに居た頃からクルーには親身になって貰った。
そのお陰か、事件で負った心の傷も徐々に塞がっている。
それは、母と姉の遺体を確りと弔う事が出来たからかもしれない。
「そうだ。フェイトに郵便物が届いてたよ。なのはからだ」
こうしてなのはとはビデオメールで繋がっているのもフェイトが立ち直れた要因の1つだろう。
なのはの友人であるアリサとすずかの2人とも会う約束をしている。
袋の中には3枚のディスクが入っている。
1枚はなのはとアリサ、すずかの3人が撮られたビデオメール。
2枚目は魔法などの話をするための物。
そして3枚目は────。
「なのはと彩那の模擬戦が記録されている」
書類整理を終えたリンディは砂糖とミルクたっぷりの緑茶を口にして一息吐いていた。
「フェイトさんの裁判も無事終了。後は後見人を見つけるだけね」
ジュエルシードに関する事件も本当の意味で終えた事に安堵しする。
寛いでいるとインターホンが鳴り、相手を確認して扉を遠隔操作で開けた。
「久しぶりね、リンディ」
「レティ……」
最近仕事が忙しくて会えなかった友人に会って肩の力を抜く。
「今回の任務で随分と面白い子達に会ったそうじゃない」
「面白いって……まぁ、否定はしないけど」
管理局からすれば確かに彼女らはこちらに引き込みたい人材だろう。実際リンディもそれとなく管理局に興味を持ってくれるように接した。
結果、なのはは戸惑いつつも好意的だったが、彩那の方はあまり良い反応は返って来なかった。
尤も、当然の反応かもしれないが。
「ホーランド式、ね。管理局創設前に失われた術式体系の1つだと思うのだけれど。それが魔法技術と縁のない管理外世界に使い手が居るなんて、不思議な話よね」
レティの言葉にリンディは険しい、と言うよりも考え込むような仕草を取る。
「リンディ?」
「……実は事件後に少しだけ彩那さんについて調べてみたの」
プレシアが起こした次元震の影響ですぐに本局に帰る事が出来ず、時折遊びに来るなのはとユーノとの親交を深めつつ、また、フェイトの裁判に備えていた。
綾瀬彩那について調べると言っても日本の、ましてや地球とは違うところから来たリンディに調べられる事には限りがあり、切っ掛けになったのは日本のニュースを見ていた時だ。
それはある事件の特集だった。
夏休み、複数の家族がキャンプに訪れており、仲の良かった4人の少女達は同じテントで夜を明かしていた。
しかし朝になるとその少女達は忽然と姿を消していた。
大人達は朝早くに散策でもしているのかと思ったが、一向に姿を見せない子供達に心配になり親達は捜索。警察も呼ぶ騒ぎに発展。
しかし4人の子供を発見する事は出来なかった。
キャンプ場から子供の足で帰るなど不可能な筈。しかし結局子供達は発見できず、警察も範囲を広げて捜索に尽くしてくれた。
その1ヶ月半後。
海鳴の公園で1人の女の子が全身傷だらけの血塗れで倒れているのを日課のジョギングをしていた老夫婦が発見。直ぐ様病院へと搬送された。
それが行方不明になっていた少女の1人だと判明。
残り3人の少女は未だ見付かっておらず、現在も目撃情報を求めると言った感じに締められていた。
行方不明になった少女達の名前は────。
森渚。
羽根井璃里。
宮代冬美。
そして、綾瀬彩那。
「行方不明だった間に何が遭ったのかは分からないけど、彼女の心に深い傷が残ったのは確かだと思う。それと、彩那さんが使っている4本の
そこから先は気が重くなり口に出来なかった。
レティの方も察して険しい表情になる。
「スゴく優しい子なんだと思う。事件の時はなのはさんやユーノくん。そしてフェイトさんの事も気遣っていた。それに頭も良い」
初めて彼女達と対面した時にリンディは遠回しに彩那達から協力を申し出るように誘導した。
管理外世界、それも子供をこちらから協力させるのは色々と体裁が悪いからだ。
海上でフェイト達がジュエルシードを暴走させた時もなのはと管理局が衝突しないように案を出す。
そしてプレシア・テスタロッサの殺害も。
「ただ、自分を蔑ろにしているところが少し心配ね」
プレシアを1人で対峙しようとしたのはクロノを含めたあの場の者達を1番の危険から遠ざける為。
プレシアを殺害したのも自分ではなくフェイトとアルフを守る為。
そしてその結果、フェイトに憎まれても仕方がないと思っている。むしろそれは当然の権利だとすら考えている節がある。
だからアースラへと帰還した時にフェイトが見えなくなるまで倒れなかったのだ。
「まるで汚れ役は自分が引き受けるべきだと思っているみたいだったわ」
いったいどんな経験をすれば幼い少女がああなってしまうのか。
「別に、全てを話して欲しいと思ってる訳じゃないの。もちろん話してくれるのなら聞くけど。ただ、彼女の心の傷に寄り添ってくれる誰かが居てくれたらと思うわ」
リンディの話を聞いてレティが呆れた様子を見せる。
「貴女も大概お節介ね」
皮肉るようなレティの言葉にリンディは苦笑する。
「とにかく綾瀬彩那さんが使うホーランド式。本格的に調べようと思ったら無限書庫で調べる事になるかもね」
無限書庫。
本局に置かれている膨大なデータベース。
殆んど手付かずに積み上げられたデータから目的の情報を探そうとすれば、それは専門のチームを立ち上げて調べる事になるだろう。
「前線もそうだけど後方も常に人手不足。いい加減あそこも整理しないといけないのだけど」
余裕がないとレティは天井を仰いだ。
なのはと彩那の模擬戦闘。
画面の中でなのはが誘導弾と砲撃で応戦しているが、その全てに対処されている。
誘導弾は全て相殺、防御、回避と対応され、砲撃は直前で狙いから外される。
彩那が接近すればそこで勝負が決まってしまう。
今も、画面内でなのはが関節技を極められて腕をタップしている。
「なのは、一方的だね……てか、本当にランクを落としてるのかい?」
一緒に見ていたアルフが目を細めて感想を述べる。
「包帯もしてるし間違いない。それに画面内でも彼女は強い魔法を使っていないからね」
クロノも模擬戦の映像を冷静に分析していた。
実際彩那がなのはに威力勝ちしている映像はない。
基本遠距離から仕留めようとするなのはと接近戦に持ち込もうとする彩那の図が出来上がっている。
中には結界内のビルの中に逃げ込んで追ってきたところをバインドで拘束したりしている。
強いのは理解していたが、それ以上に戦いを運ぶ上手さに目を見張る。
ずっと黙って観賞していたフェイトがクロノに質問する。
「ねぇクロノ。私も近い内に地球に行けるんだよね?」
「ん? あぁ。まだしばらくは手続きや決めなければいけないこともあるが、そう遠い話じゃない」
「そっか」
画面に映る、顔を包帯で隠した少女を見る。
フェイトは拳をグッと握った。
「うん。決めた」
【A'S編予告】
「何だテメエは?」
「ハァ……あの時、ようやく片が着いたと思ったら、またその顔を見る羽目になるなんてね」
「彩那ちゃん……?」
「下がってて。大丈夫。私がコイツらを、全員始末して終わりよ……!」
残された勇者は再び雲の騎士と対峙する。
勇者と騎士の因縁。
「やめてよ……! ここにはもう戦えない人達ばかりで……助けるって約束した子達が居るんだからぁあああぁああっ!!」
「……邪魔だ」
フェイトとの再会。
「彩那。お願いがあるんだけど。私と戦ってくれないかな? 本気で」
「……」
知らずに深まる仲。
「今度から綾瀬さんのこと、アヤアヤって呼んでえぇ?」
「断固拒否するわ」
「え~」
かつての主。
「コレ、あげるね」
「あの……」
「シグナム達がこの国を守ってくれるお礼。いつもありがとう」
「4本の剣は元々、1本の剣だった。本来の力を引き出す為に必要な犠牲はとっくに払っている。始まりにして究極の剣を抜くのはこれで2回目。さぁ、ここから先は化物同士の潰し合いよ!」
次回からASに入ります。