世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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悪夢

「なんて無茶をするんだ君はっ!」

 

 時空管理局の本局。その医務室で治療を浮けている彩那にクロノ・ハラオウンが険しい表情で怒った。

 魔力による爆弾を作り爆発を起こしてバインドを破壊する。

 そんな一種の自殺行為に周りが怒るのは当然だ。

 

「……テスタロッサさん達のお見舞いに行かなくて良いんですか?」

 

「誤魔化すな! いったい何を考えている!」

 

「すみません。高町さんとテスタロッサさんがやられたのを見て早く助けに行かないとと思って。2人の容態は?」

 

「リンカーコアが縮小している以外は軽傷だよ。そのリンカーコアも時間が立てば元通りになるだろう。それよりも君の方がよっぽど重傷だ」

 

「そうですか」

 

 ホッとした様子で吐息を漏らして目を瞑る。

 その様子にクロノは眉を動かす。

 

「本当に反省しているのか?」

 

「私の友達は片方の手足を切り落とされた状態で私を逃がす為に奮闘してくれましたよ。だから左腕を折ったくらい、大した事じゃないです」

 

 同じくらいの事を出来なければ、亡くなった親友達に申し訳が立たない。

 ギプスで腕を固定し、吊るされた状態にして貰うと、医者の方からその考えにお叱りを受ける。

 生返事を返してからクロノに質問する。

 

「それにしても、よくテスタロッサさん達を此方に来させましたね」

 

 なのはからフェイトに下された刑については聞いていたが、ジュエルシードの事件からそう日が経っていないフェイトとアルフをユーノが一緒とはいえよく派遣したモノだ。

 最悪、逃亡されるリスクもあったろうに。

 勿論フェイトが今更そんな事をするとは彩那も思っていないが、幾ら何でも行動の制限が軽過ぎるのではないか。

 少なくとも、ユーノではなく正規の局員も監視役として一緒に行動させるべきだと思う。

 

「一応2人には嘱託魔導師の資格もあるし、放って置くと勝手に飛び出して行きそうだったからな。それに君達に一刻も早く救援が必要だとも思った……って器用だな君も」

 

 片手で首から顔に包帯を巻く彩那にクロノが感心とも呆れとも判断できない表情をする。

 フェイト達の派遣は本当に特例みたいな物だったのだろう。これから書類作成が大変そうである。

 

「2人もそろそろ目を覚ます頃だろう。一緒に来るか?」

 

「是非」

 

 彩那は座っていた診察台から立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう、ヴィータちゃん」

 

「あぁ。大分楽になった。サンキュ、シャマル」

 

 誰も居ない建物に身を隠したヴォルケンリッターは大きく負傷したヴィータの治療を再開していた。

 治療を終えたヴィータが肩をぐるりと回したりして体調を確認する。

 

「殆んど治ってると思うけど無茶はしないで。幾ら私達でも何でもすぐに治る訳じゃないんだから」

 

「分かってるよ」

 

 ヴィータとて優秀な騎士だ。自分の状態くらい把握している。

 

「でも、ちんたらやってる余裕はねぇだろ。早くしないとはやてが……」

 

 今代の闇の書の主の状況を思ってヴィータは眉間にしわを寄せる。

 自分達にはもう時間がないのだ。

 それが分かっているからシャマルもそれ以上は言わない。

 シグナムが話題を変える。

 

「今回の蒐集対象は強敵だったな。特に────」

 

「あの(デバイス)を4本持った変な奴だろ。クソッ!」

 

 今回の失態を思い出して床を殴り付けるヴィータ。

 最初は顔に包帯を巻いた変な奴だと思ったが、すぐにそれを解く。

 殺傷設定のまま振るわれる剣と魔法。

 その実力もこれまで相手にしてきた連中に比べて群を抜いていた。

 それだけでなく、自分達の事を何やら知っている様子だった。

 その全てが薄気味悪く感じる。

 ザフィーラがそこで会話を止めさせる。

 

「そろそろ戻るぞ。あまり遅れれば主に心配をかける」

 

「あぁ、そうだな」

 

 建物を出て家に帰る。

 玄関を開けると中から車椅子の動く音が聞こえてきた。

 

「おかえり、みんな。もうご飯出来とるから、手を洗って来てな」

 

 いつもと同じ柔らかい笑顔で出迎えてくれる主。

 ヴィータが靴を脱いで近寄る。

 

「今日の夜ご飯は何?」

 

「今日は中華に挑戦してみたんよ。麻婆豆腐や。テレビでやってたのが美味しそうでなぁ」

 

 最近、一緒に居る時間も減って寂しいだろうに。

 それを表に出さずに笑って出迎えてくれる優しい主。

 

(絶対に助けるんだ、はやてを)

 

 ヴィータは首に下げている待機状態のデバイスを強く握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さて。これはどういう状況かしら?)

 

 ユーノとアルフとも合流して蒐集されたなのはとフェイト2人の部屋に訪れると何故か抱き合っているなのはとフェイトが居た。

 こちらに気づいて驚いた表情をする2人。

 

「失礼しました」

 

 部屋の中には入らずにドアを閉める。

 

「水を差すのもなんだし、少し時間を潰しましょう」

 

「そうだな」

 

 クロノも賛成して一旦解散の流れとなる。

 すると中から慌てた様子でなのはとフェイトが出てきた。

 

「待って! 何で出ていくの!?」

 

「違うから! 疚しい事なんて何にもないから!」

 

 必死に弁明するなのはとフェイトに彩那が話す。

 

「久々の再会に水を差すのも何だと思って。私も以前は数週間離れ離れだった友達と久しぶりに再会したら抱き付くくらいはしてたし。普通の事よ」

 

 勇者として参加した戦争時代に別々の任務を請け負い、1、2週間離れる事もあった。

 再会した際には互いに生きていた喜びに抱き合うなど普通にしていた。

「それに、もしも本当にそういう関係だったとしても良いんじゃないかしら? 私の知人に40代の男性同士で結婚した人も居るし」

 

「何だその地獄絵図」

 

 彩那の言葉にクロノがボソリと呟く。

 心の中で当時の事を思い出して気分を悪くした。

 何せ片方は執事風のナイスミドル。もう片方は身の丈2メートル近い、顔に多くの傷を持つスキンヘッドの筋肉質な男性のカップルだ。

 結婚式に呼ばれた際にはその異様な空間に参加者達は何とも表現し難い珍妙な顔で祝福した。

 その表情は、スキンヘッドの男がウェディングドレスを着ていたのも原因だろう。

 その結婚式に璃里は気分が悪くなって途中で退席した。

 冬美がティファナ王女にこちらではこういうのが普通なのかと質問すると、王女が半泣きで違います! と必死に弁明していたのを思い出す。

 渚だけはシンバルを叩く猿の玩具みたいに爆笑しながら手を叩いていたが。

 あの結婚式に比べれば、9歳の女の子が抱き合うなどむしろ微笑ましいくらいだ。

 

「仮に2人がそういう関係になっても私は気にしないわ。将来貴女達って養子でも取って3、4人で仲睦まじく暮らしそうだし」

 

「だから違うんだってばー!」

 

 慌てた様子で近付いたなのはが彩那の肩を掴むと痛みで顔を歪める。

 それに気付いたなのはが慌ててごめんと手を離すとバランスを崩す。

 

「大丈夫?」

 

「えぇ。ありがとう、スクライア君」

 

 転びそうになった所をユーノが支えてくれた。

 ユーノから体を離すとなのはとフェイトが苦しそうな表情をする。

 今度こそ病室に入る。

 

「アヤナ、その腕は……」

 

「ん? あぁ。少しね。大丈夫よ、2、3日もすれば日常生活に支障は無くなるし、1週間以内には戦闘復帰が出来るようになるから」

 

 努めて軽い口調で話す。

 実際、霊剣の効果で治療を続ければそれくらいに完治する筈だ。

 しかし2人の表情は暗かった。

 

「わたし達があの子達に墜とされちゃったから……」

 

 なのはがポツリと呟く。

 足手まといと言われた直後でそれを証明するように撃墜されたことに気を落としている。

 

「気にしなくていいわ。むしろ私があの仮面の連中を退けられなかったのが問題だったのだから」

 

 彩那からすれば元よりなのは達を雲の騎士と直接対決させる気はなく、むしろ自分が仮面の男に苦戦した事が悪いと言う認識だ。

 フェイトが話を変えてくる。

 

「彼女達が使っていた術式……私達の物とは違っていた」

 

「あれはベルカ式と呼ばれる術式よ。砲撃魔法みたいな遠距離、広範囲の攻撃をある程度度外視して近接による対人戦闘に特化した術式。もちろん使い手によりけりだけど。特に特徴的なのはカートリッジシステムと呼ばれる強化装備ね。魔力を込めた弾丸を内蔵し、それを消費する事で瞬間的に力を底上げする。ただ、カートリッジシステムは術者とデバイスに大きな負担がかかるから、他では採用されてなかった筈だけど」

 

 そこで彩那がクロノをチラリと見る。

 

「あぁ。それで間違いない。今の主流はミッド式だし、ベルカ式の使い手はミッドに比べて少ないからね。ベルカ式だからと言って、必ずカートリッジを採用してる訳じゃないし、整備も含めて扱いが難しい」

 

「だから、2人が敗けたのは、なるべくしてそうなっただけよ。気にする事じゃないわ」

 

 彩那なりの慰めだったが、2人は不満そうだった。

 しかし敗北は事実なので、反論できない様子だ。

 ユーノがなのはとフェイトのデバイスについて話す。

 

「なのは、フェイト。レイジングハートとバルディッシュの事だけど。正直、あまり状態が良くない。今は自動修復中だけど、交換しないといけないパーツが幾つかある。あ、でも安心して。パーツの方は管理局が手配してくれるってエイミィさんが」

 

 騎士達との戦闘で2人のデバイスは大きく破損した。

 フェイトはともかく、なのはは自己修復では補えないレベルでデバイスを破壊されれば、修理する為のアテが殆んどない。

 管理局の方で修理を請け負ってくれる事に安堵すると共にそんな状態にしてしまった事に申し訳なく思う。

 時間を確認してからクロノがフェイトに話しかける。

 

「フェイト、そろそろ面談の時間だ。すまないがなのはと彩那も一緒に来てくれ」

 

「理由をお聞きしても?」

 

 彩那側からは特にフェイトの面談に顔を出す理由がない。

 これが相手側の興味本位だけなら断るくらい許されるだろう。

 あからさまに嫌そうな態度を取る彩那にクロノが説明と説得を始める。

 

「今回の件でグレアム提督が2人の意見を聞きたいと仰ってるんだ。頼むから来てくれないか?」

 

「……分かりました」

 

 そう頼まれれば彩那としても断りづらい。

 なのはと違って怪しいところの多い彩那の面談も兼ねているのかもしれない。

 ユーノとアルフとは別行動となり、目的の部屋へと案内される。

 中々に立派な部屋に、初老の男性と左右には使い魔と思われる女性が並んでいた。

 使い魔2人が何やら異様な眼で彩那を見る。

 顔の包帯のせいかとも思ったが何か違う気がする。

 

(ひと)を珍妙な生物でも見るような眼ね)

 

 襲ってこない限りはこちらも事を構える必要もないと警戒しつつ気にしない素振りをする。

 

 穏やかに4人を迎え入れたグレアム提督に紅茶を振る舞われる。

 彼は端末からなのはと彩那のデータを見ながら懐かしそうに彼が管理局に関わった理由を話し出す。

 グレアム提督も地球出身であり、イギリス人らしく、日本にも訪れた事があるらしい。

 50年くらい前に偶々負傷した管理局の人間を助けたのが始まりだったらしい。

 懐かしそうに思い出しているグレアム。

 

「あの世界には魔法資質を持つ者は殆んど居ないが、稀に私や君達のように高い魔力を持って生まれてくる者が居るんだ」

 

 そう締め括るとフェイトの方を向いた。

 

「フェイト君の保護監察官という立場だが、形だけだよ。君の人柄や生い立ちはリンディ提督から聞き及んでいるからね。ただ1つ約束してくれ」

 

 一拍置いてから続けるグレアム提督。

 

「君の友人や君を信頼してくれる人達。その人達を決して裏切らないと誓えるなら、私は君の行動に何の制限を課すつもりはない。約束してくれるかね?」

 

「はい。もちろんです」

 

 一瞬なのはの方を見て強く頷くフェイト。

 その答えに満足した様子のグレアム提督。

 そしてグレアム提督は4人を見回してからもう1つの本題に入る。

 

「今回の闇の書の事件はクロノが所属するリンディ提督達の管轄となるだろう。彼らが地球。それも日本を中心に活動している事はこれまでの調査で判明している。そこで現地住民である2人の意見を聞きたい。特に綾瀬彩那君」

 

「何故私なのでしょうか?」

 

「君の事もリンディ提督から聞いてるよ。魔導師としての優秀さもだが年齢に見合わぬ思慮深さを持っているとね」

 

「過大評価ですよ」

 

 そう前置きしつつ半分飲んだ紅茶のカップを置く。

 

「そうですね。闇の書の騎士達についてはもうこちらに接触する可能性は低いと思ってます」

 

「えぇっ!?」

 

 彩那の推測になのはが驚きの声を上げる。

 クロノやフェイトも同様の表情をしている。

 

「何故そう思うのかね?」

 

「今回の戦闘で管理局は本格的に海鳴の周辺を警戒と捜査をするでしょう。私ならそうなる前に別の拠点に移ります」

 

 ヴォルケンリッターは兵士としては優秀だが、管理局と真っ向から戦えば恐らくは敗北する。勿論管理局側に相応の損害を与えるだろうが。

 対人特化のベルカの騎士にとって、物量戦はあまりにも分が悪い。

 

「それでも拠点を移さないのなら、それなりの理由がある筈です。考えられるのは、先立つ物、要するにお金とかの問題。もしくは管理局が介入してきても問題ない切り札か、組織の傘下に身を置いて居るのか。他に考えられるのは……」

 

「?」

 

 話を止める彩那に周囲が訝しむ。

 

「いえ、幾ら何でもありえませんね。以上の理由から拠点を移す可能性が1番高いと思われます。どちらにせよ、次の目撃情報次第ですが」

 

 自分の意見を自分で潰して話を終わらせる。

 

(ヴォルケンリッターが、主に黙って蒐集活動をしている場合。だけどあの騎士達は、基本主の命令を最優先に動く筈。あの戦争中でも蒐集より敵を倒す事を優先していた。なら、今回も主の意思の下で動いている筈だわ)

 

 過去の経験からそう判断する彩那。

 

「それよりも私は今回戦闘に介入してきた仮面の男の方が気になります。騎士達と仲間という訳では無さそうですし、目的が読めません。それに……おそらくですが、仮面の男は最低でももう1人居ると思われます」

 

「どう言う事だ? 君と戦って居たのは1人だろう?」

 

 彩那の推測にクロノが質問する。

 

「私が戦闘した人と、バインドをかけた者は別人です。魔力の流れを別方向から感じましたから。それに、あの姿。正体を隠す他に自分達が複数人で動いている事を誤魔化す意味も有ると思います」

 

 事態が進めば当然局側も気付くだろうが、そんなちょっとした隠蔽も必要としているのは、捜査の撹乱を狙ってか。

 自分の考えを述べるとグレアム提督は感嘆の息を吐いた。

 

「なるほど。リンディ提督が君を評価する理由が分かったよ」

 

「どうも」

 

 飲み干したカップを置く。

 彩那からすればグレアム提督の称賛は過大評価だ。

 彩那は必要だったからこういう考えを張り巡らせるようになっただけ。

 要するに経験だ。

 本来こうした事に向いてるのは別の子なのだ。

 話が終わり、最後にクロノとグレアム提督がちょっとした話をして退室した。

 

 4人の少年少女が部屋を出ると、プハッとグレアム提督の使い魔の1人、リーゼロッテが息を吐く。

 

「何なのあの娘。本当に9歳? ちょっと頭と行動がおかし過ぎでしょ!」

 

「まさか私のバインドにも気付いていたなんてね……」

 

 苛立ち紛れに声を荒らげるリーゼロッテと警戒心を高めるリーゼアリア。

 リーゼアリアがグレアム提督に進言する。

 

「お父様、あの少女は内密に拘束するべきだと思います。今ならばそう難しくはないと思います」

 

「そうだよ! 大体、()()()と同じ学校の同級生ってだけで厄介なのに」

 

 ジュエルシード事件に関わった魔導師がまさか、自分達が監視している少女と同じ学校の同級生と分かった時は肝が冷えた。

 幸いその少女は滅多に学校に行かないので会う機会が殆んど無いのが救いだが。

 まるで1本の棒の上を歩いているような気分だ。

 

「いや、ここで彼女を拘束すれば、そこからクロノ達が私達の計画に気付く可能性がある」

 

 人間1人を拉致して拘束するのは思う以上に手間である。

 ましてやハラオウン親子の眼を完全に騙せると思うのはあの親子を過小評価し過ぎだ。

 もしも綾瀬彩那を拉致するなら、こちらの計画が発覚しても問題ない状況になってからだ。

 

「嫌だな。年を取ると、こういう汚い案ばかり思い付く」

 

 デスクに置かれた写真を見る。

 そこには車椅子の少女を囲うように1つの家族が笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロノ、フェイトと別れてユーノとアルフが自販機の前でエイミィと話しているのを見つける。

 エイミィにジュースを奢って貰い、話の輪に入る。

 レイジングハートとバルディッシュの修理用パーツは既に手配し、明日には届く事を教えて貰いなのはが安心した表情をした。

 エイミィの案内でエレベーターに乗ると、リンディがフェイトを養子にする話を提案していることを話してくれた。

 

「フェイトちゃん、プレシア・テスタロッサが亡くなって天涯孤独になっちゃったでしょ。それにあの事件とか色々とね。だから艦長から提案したみたい」

 

 刑が軽いとはいえフェイトが犯罪を犯したのは事実だ。

 これから先、彼女をそういう眼で見る者は当然出てくるだろう。

 その時、フェイトを守ってくれる保護者は必要だ。

 それが局内で地位のある人間なら尚良い。

 

「フェイトちゃんも今、気持ちの整理をしてるみたい。2人は、どう思う?」

 

 エイミィの問いになのはは少し考える。

 

「とっても良いと思います」

 

「私は、その件に対して感想を持つ資格が無いので」

 

 彩那の言葉になのはとエイミィは気まずい表情になる。

 理由はどうあれ、プレシアを殺害したのは彩那であり、それは覆らない事実だ。

 そんな人間が、誰々が親になってくれるの? 良かったね、などと言える筈もない。たとえここに本人が居なかったとしても。

 

(むしろ、会えば恨み言の1つや2つ、言われると思ったけど)

 

 フェイトの中でその件に対して気持ちの整理が出来ているのか、それとも今は蓋をしているのか。

 

(何にせよ、私もヴォルケンリッター(あいつら)をとやかく言えないのよね)

 

 恨まれているのは自分も同じだ。

 勇者をやっていた頃に、人から怨みをぶつけられた事は何度もあるが、慣れる事はない。

 ブリーフィングルームに着くとリンディから今回の事件の説明がされる。

 現在アースラが使えないため、地球に仮の拠点を置き、闇の書に関する捜査を行う。

 現地にはリンディとクロノ、そしてエイミィが派遣されること。

 そして最後にとんでもない爆弾が投下される。

 

「ちなみに仮拠点の場所はなのはさんと彩那さん両名の保護も考えて、彩那さんが暮らしているマンションと同じ住まいになります」

 

「は?」

 

 この時の彩那の間の抜けた表情と合わさるように包帯が緩んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(これは、夢やな……)

 

 八神はやては自分が夢の中に居る事を自覚する。

 何処とも知れない場所で触覚が無く、自分は空の上に立っているのだ。

 普段はポンコツな脚が動かせるのもそれを決定づける要因だった。

 ただ、見ている風景はかなりリアルだった。

 見下ろすと、剣や槍、杖を持った者達が戦っている。

 中には見たことの無い生物が混じっている。

 

(まるでファンタジー世界の戦争映画の中に居るみたいや……)

 

 そんな事を思っていると、はやての背後から大きな爆発が起きた。

 

「なに!?」

 

 夢だと思っても、爆発に思わず身が小さくなるはやて。

 爆発が収まり、その向こうを見る。

 

「シグナム……みんなっ!?」

 

 戦っていたのは彼女の愛する家族だった。

 自分が贈った服とは違う、鎧を身に纏い、誰かと戦っていた。

 そしてその相手もはやての見知った顔だった。

 

「綾瀬さん……それに……」

 

 知っている。

 まだ自分が小学校に通っていた頃に彼女達はいつも一緒だった。

 遠巻きにだが、いつも見ていた仲良し4人組。

 だけど年齢が違う。

 自分と同じ年の筈の彼女らは今は中学生くらいに見える。

 

「必殺、(スーパー)勇者斬りぃっ!!」

 

 渚がシグナムに斬りかかり、防がれると弾き返す。

 バランスを崩した渚に斬りかかろうとするが、シグナムの周りを光る鎖が取り囲む。

 

「いい加減にしてよ! チェーンボム!!」

 

 鎖が一斉に爆発を起こす。

 

「シグナムッ!?」

 

 夢だと思いつつも攻撃を受けた家族の名前を叫ぶ。

 爆発が収まると、鎖との間に入ったザフィーラが魔法の防壁で防いでいた。

 

「なんなん? これ……」

 

 酷い夢だ。

 家族と同級生が殺し合いをしてるなんて。

 

(はやく、こんな夢覚めて……)

 

 そう祈るはやてだが、別のところでは彩那とヴィータ、シャマルが戦っていた。

 

「風よ!」

 

 シャマルが起こした風にヴィータと鍔競り合いをしていた彩那が吹き飛ばされる。

 そこに追撃をかけるヴィータ。

 

「ブッ潰れろぉっ!!」

 

 ヴィータが彩那にハンマー振り下ろす。

 

「やめっ!?」

 

 止めようとするが、ここからでは届かない。

 そもそも触れられるのかも分からない。

 

「リミットコンサート・デュオストライクッ!!」

 

 冬美の赤い剣から炎のレーザーが幾重にも撃たれ、最後に大きな炎の砲弾が発射された。

 横合いから撃たれたそれは彩那に追撃をかけようとしたヴィータに直撃する。

 

「ぐっ!」

 

 防御はしたが、炎の熱と爆発に落下するヴィータ。

 

「彩那っ!!」

 

「うん!」

 

 今度は落ちるヴィータに彩那が剣を向ける。

 

「綾瀬さんっ!! やめてっ!?」

 

「死ねぇえええええっ!?」

 

 はやての叫びは届かず、彩那の剣はヴィータの体を斬り付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はやてが見てる夢は勇者と雲の騎士の小競り合いです。
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