世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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何故かAS編に入ってから彩那の名前が彩菜になってたので修正しました。


子供達の決意

 彩那がヴィータの体を斬り付け、鮮血が舞う。

 

「チッ!」

 

「オラァッ!!」

 

 舌打ちする彩那に反応するようにヴィータがデバイスを振るい反撃する。シールドの上から弾き飛ばされると後ろに居た冬美が止める。

 

「ごめん、浅かった」

 

「えぇ」

 

 空の上を8人2組に分かれて戦っていた面々が集まる。

 ザフィーラがヴィータに話しかける。

 

「大丈夫か、ヴィータ?」

 

「こんくらい掠り傷だ! それにしてもコイツら! 戦う度に手強くなりやがって!」

 

 守護騎士との遭遇し始めた頃は勇者側の敗走が多かったが、今ではその実力は拮抗している。

 どちらが勝つか分からない程に。

 そこでシグナムが苦い表情になった。

 

「撤退だ。東の砦が落とされた。此方は陽動だったらしい」

 

「クソッ! あそこを落とされたら、もう後はねぇってのに!!」

 

 元より兵の数ではベルカ側よりホーランドとその同盟国が圧倒しているのだ。

 一騎当千の守護騎士を抑えられればそれだけで戦況は傾く。

 膠着する騎士と勇者。

 

 しかしそれを見ていたはやての目を誰かが覆う。

 すると周囲の景色が夜の空のように暗くなる。

 

『そろそろお目覚めになる時間です。我が主』

 

「だれ?」

 

『私は、闇の書の管制人格。我が主、貴女の騎士達を思う気持ちが、かつての闇の書の記録に精神を紛れ込ませてしまった。申し訳ありません』

 

 現れた誰かの説明にはやては唇を震わせながら質問した。

 

「今のは、昔本当にあったこと?」

 

『そうです。かつての騎士達の記録の断片』

 

「ありえへん……ありえへんよ……」

 

 昔、と言うのがどれくらい前なのかは分からないが、何故彩那とその友人がこの場に居たのか。

 それに年齢も違う。

 そっくりさんの可能性も有るが、確かに彩那と呼ばれていた。

 名前まで同じなどあり得ない。

 

『……あの者に我らの主である事は悟られないようお願いします。気付かれてしまえば、あの少女はきっと貴女を殺しに来るでしょう。先程の時代の主のように』

 

 すると今度は辺りが明るくなる。

 はやてはこの場の別れをなんとなく察して振り返ろうとする。

 

「待って! まだ訊きたい事がっ!」

 

『どうかお気をつけください。────あの勇者(悪魔)に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー」

 

 はやては目を覚まして上半身を起こした。

 

「あれ?」

 

 何かとても悲しい夢を見ていた気がするのに、まるで覚えてない。

 すると一緒に寝ていたヴィータが起き出した。

 

「ふあ……おはよう、はや……はやて?」

 

 寝ぼけ眼だったヴィータがはやての顔を見て一気に目が覚める。

 

「どうしたんだよはやてっ!?」

 

 ガバッと起き上がるヴィータにはやては何がと首を傾げる。

 そこでようやく、はやては自分が泣いている事に気付いた。

 指で自分の涙を拭う。

 

「なんやろ。なんや怖い夢でも見たんかなぁ?」

 

 どうして涙を流しているのか気付かず、はやては傍にいるヴィータを抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(本当に引っ越してきた……)

 

 彩那の住んでいるマンション。同じ階の2つ離れた部屋には今、引っ越し業者が出入りしている。

 

(それにしても段取りが早いわね)

 

 騎士達の襲撃から1日置いてコレである。

 マンションの廊下ではリンディが綾瀬家に挨拶しており、なのはとフェイトが部屋から見える外の景色にはしゃいでいる。

 2人の少し後ろで彩那は肩に乗っているフェレット形態のユーノと話していた。

 

「何で態々その姿に? てっきりスクライア君もここで暮らすのかと思ってたけど」

 

「いや、実はなのはが……」

 

 どうやらなのはの中でユーノが地球に居着く=フェレットになるという認識らしく期待の視線に抗えなかったらしい。

 説明しても良かったのだが、結局ジュエルシード事件の時と同様の生活をするようだ。

 

「御愁傷様」

 

「ははは。まぁ、慣れてるからね」

 

 人間がペット生活に慣れるのもどうなのだろうか? と思ったが、本人が気にしてないのならそれ以上は何も言わない事にした。

 そうしてる内に呼ばれていたアリサとすずかがやって来た。

 

「いらっしゃい、2人とも」

 

 リンディに案内されて中に通される。

 2人は彩那を見て目を丸くする。

 

「って、なんでアンタは怪我してんのよ!?」

 

「あぁ。ちょっとコンビニに行こうとしたらバイクと衝突して」

 

 彩那の吊るされた腕を見て驚いたらしい。

 ちなみに普段の包帯姿も既に2人や高町家の方々にも知られている。

 彩那の怪我は骨を折ったとは言わず軽い打撲で三角巾は念の為と両親に言ってある。

 それでもいきなり怪我をした彩那に両親は大泣きだったが。

 

「大丈夫なの?」

 

「明日には三角巾も取れるわ」

 

「次は全身包帯とかないでしょうね?」

 

「アリサちゃん……その冗談はわらえないよ……」

 

 なのはのジト眼にアリサは別に冗談で言った訳じゃないわよ、と肩を竦める。

 現状から本当にそうなる可能性が有るので本当に笑えない。

 話題を変える意味でフェイトが彩那に話しかける。

 

「アヤナも同じマンションなんだよね」

 

「えぇ。ここから3つ離れたところ。来る? 何にも無いけど」

 

「いいの!?」

 

「なんでそんなに驚いてるのよ……」

 

 別に部屋に見られて困る物など置いてない。

 むしろ、何にも無さ過ぎて両親に心配されるほどだ。

 彩那が自分の部屋に案内すると本人の言うとおり、最低限の物しか置かれていない。

 寝る為のベッドに勉強をする為の机とクローゼット。

 まだ引っ越して来たばかりだと言われても信じてしまいそうだ。

 

「本当に殺風景ね」

 

「何か買ったりしないの?」

 

「どうにも最近は物欲と言うか、物を持とうとする意欲が湧かなくてね。私物の大半は捨てるか仕舞ってしまったから」

 

 地球に戻ってから物を持つことに意味を見出だせなくなっていた。

 自分にはこのポーチの中にある形見だけ有れば良いと思えてしまう。

 そんな彩那に両親はあれやこれやと勧めてくるが、今のところ心を動かされる物は無かった。

 部屋を見ているとフェイトが机に飾られてある写真立てを指差す。

 写真には、彩那を含めた4人の女の子が写っている。

 

「この子達は?」

 

「友達よ。私の大切な……」

 

 どこか淋しそうに写真に触れる彩那にフェイトが質問する。

 

「そうなんだ。ここには呼ばないの?」

 

「えぇ。連絡が取れないくらい遠くに逝ってしまったから」

 

 彩那の言葉の意味を正確に読み取れた者はこの場には居なかった。

 それから翠屋に移動して高町夫妻とリンディが話している。

 フェイトの学校は何処にするのか、という話題になり、なのは達と同じ聖祥大附属小学校に転入する事になったらしい。

 キャッキャッと喜ぶ中でフェイトが制服を抱きながら彩那に近づく。

 

「アヤナもよろしくね」

 

「え、と……学校が違うから私に出来ることはないと思うけど?」

 

「そうなの?」

 

 てっきり彩那も同じ学校だと思っていたフェイトが瞬きして驚く。

 

「うちの小学校は結構荒れてるし、テスタロッサさんみたいな目立つ容姿の子はちょっと居心地が悪いかもね」

 

 彩那の言葉になのはがハッとなる。

 ジュエルシード事件の頃に会った彩那のクラスメイト。

 

「もしかして、まだあの子に何か言われてるの?」

 

 悪意を持って接してきた女の子を思い出して眉間にしわを寄せる。

 

「加賀さんのこと? 彼女とは2学期が始まった頃に色々とあって、今は大人しいから。高町さんが心配するような事はないわ」

 

「ほんとう?」

 

「えぇ。心配してくれてありがとう」

 

 ポーチを隠されてお灸を据えたあの日、加賀有子は教室で失禁した事で彩那とは別にクラスで孤立している。

 今でも此方を睨んでくるが、今更そんなものが気になる訳もない。

 いずれはそれらが風化し、元に戻るかもしれないが、今のところその兆候はなかった。

 良かったとホッとするなのはと話についていけてない3人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは今回の事件であるロストロギア"闇の書"に関するミーティングを始めます」

 

 アリサ、すずかと別れて再びリンディの部屋に集まると現地組だけのミーティングが始まる。

 先ずは闇の書がどういうロストロギアなのかリンディが説明する。

 守護騎士と呼ばれる魔力による疑似生命体を有し、主を渡り歩いて転生を繰り返す。

 蒐集により他者のリンカーコアから魔力を奪い取って頁を埋める。

 1番厄介なのは、その集めた魔力が破壊以外に使われた記録が無いこと。

 

「何度破壊しても別の主の下で覚醒する。非常に厄介なロストロギアだわ」

 

 苦い表情で説明を終えるリンディ。

 次にエイミィが破壊されたなのはとフェイトのデバイスについて発言する。

 

「フェイトちゃん、なのはちゃん。2人のデバイスの修理なんだけど、ちょっと難航してて」

 

「え!?」

 

 エイミィの報告に驚く2人。

 それ程までに自分達のデバイスの損傷が激しかったのだろうかと心配したが、エイミィが否定する。

 

「バルディッシュとレイジングハートの2機がCVK-792。つまりカートリッジシステムの導入を進言してるの。設計図まで送り付けてきて」

 

「カートリッジシステム……それってあの人達が使ってた」

 

「うん。自分のマスターを守れなかったのがよっぽど悔しかったんだろうね。それで、2人的にはどうかな? カートリッジシステムを搭載するなら、使用者である2人の許可も必要なんだけど」

 

 元々繊細なインテリジェンスデバイスとカートリッジシステムの相性は良くない。

 デバイスと使用者の両方に負荷を生じさせるし、最悪戦闘中にデバイスが自壊する可能性もある。

 だから敢えて彩那は反対する。

 

「私はお勧めしない。確かにパワーアップは見込めるだろうけど、長期的に見て2人の負担が心配ですし」

 

 ホーランド王国でもカートリッジシステムの研究はされたが、結局形にならず終いだった。

 守護騎士達とのデバイスの差が埋まるかもしれないが、その為だけに安易な強化に頼るのは賛同しかねる。

 

「2人なら時間をかければ必ず強くなれます。下手にリスクを冒す必要はないかと」

 

「その点は僕も賛成だ。カートリッジシステムはまだ安全性が確立されたシステムじゃないからね」

 

 彩那の意見にクロノも同意する。

 そんな中で2人が出した結論は────。

 

「お願いします。レイジングハートにそのシステムを付けてください」

 

「バルディッシュにも。お願いします」

 

 2人の決断に批難するような視線を送る彩那。

 それに気付いて自分の意見を述べる。

 

「ごめんね。彩那ちゃんが心配してくれるのは解るけど、わたしはヴィータちゃん達とお話ししたい。その為に、力が必要だと思うの」

 

「それに、バルディッシュ達の気持ちを無駄にしたくないから」

 

 なのはとフェイトの想いを聞いて取り敢えず引き下がる彩那。

 彼女達が自分で考え、自分で決断したなら、余程の事がない限り否定したくないのが本音だ。

 それでもやはり心配を止められないが。

 話がまとまった事でエイミィがパンと手を叩く。

 

「それじゃあ、担当の子にメールを送っとくね」

 

 言って自分の端末を操作するエイミィ。

 そして話題は次に移り、クロノが彩那に質問する。

 

「彩那。君に聞きたい事がある。君は闇の書を知っているのか?」

 

 彩那が騎士達に対して並々ならぬ敵意を持っているのは察している。

 なのはは確かに彩那がヴィータの胸を刺したと本人の口から聞いた。

 だけどそれは色々と矛盾する。闇の書は十数年単位で活動するロストロギアだ。

 1分くらいの沈黙の後に彩那は口を開く。

 

「……前に何度かアイツらと交戦した事があります。その時は守護騎士達を破壊して、主を殺害して終わらせました」

 

 心底苦い思い出を吐き出すように話す彩那。

 

「ちょっと待て。それはいつの事だ! 前の闇の書の事件ではまだ君は生まれても居ないだろ!」

 

 もしかしたら海鳴で交戦する前に彩那が襲われていたのかとも思ったが、主を殺害したと言うなら、今回とは別件という事になる。

 

「さぁ? ただ私が知ってるのはアレらが高い戦闘力を有している事と闇の書の主の安全を最優先に動く事。蒐集に関しては私達の時はあんまり積極的じゃありませんでした」

 

 はぐらかすように話す彩那。

 そこでアルフが割って入る。

 

「ちょっと待ってくれよ。そん時の主を殺したって言ったけど、ならアイツらはアンタを恨んでるんじゃないかい?」

 

 前の、とはいえ主を殺されたのなら、守護騎士達の方が復讐してきそうだが。

 敵意を持っているのは彩那側というのが変に感じた。

 

「あっちは主が替わる度に記憶がリセットされてるのかもね。それと、殺った殺られたはお互い様よ。こっちだって何人も仲間や非戦闘員を殺られた。それに……」

 

 初めて守護騎士と遭遇した時の事を思い出す。

 向こう側からすれば裏切り者だっただろう幼い兵士。ただ高い魔法資質を備えていたというだけで兵隊にされ、捨て駒にされそうだった子供達。

 たとえ裏切り者でも、戦う力なんて殆んど無かった子供を惨たらしく殺したのだ。

 戦争だった。

 こちらも殺したのだから、向こうだけが悪いなんて思ってないし、恨み辛みを言うつもりもない。

 だが、何もかもを水に流せるかと問われれば絶対に否だ。

 今も武器を向けてくるなら尚更に。

 他者からみれば、どっちもどっちだったとしても。

 

「命令を貰えば顔色1つ変えずに無抵抗の人達を殺せる奴らよ。今回は蒐集の為に加減はしてたけど、次は本気で殺しにかかって来ると見るべきだわ」

 

 守護騎士の危険性を口にする彩那。

 そこからはなるべくなのはとフェイトは一緒に行動する事。

 学校が違う彩那もまた、何かあれば絶対に念話で連絡を取る事を約束させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彩那が帰った後もなのははフェイトの部屋で話していた。

 

「アルフから聞いたんだけど……私達がやられた時に、私となのはが無事だったことに、スゴく安心して泣いたんだって」

 

「……うん」

 

 その事はなのはもユーノから聞いた。

 自分達が死んだと思って酷く動揺していたことも。

 

「フェイトちゃん。わたしね。彩那ちゃんとヴィータちゃん達を戦わせたらいけないって思うの。そうしたら、きっと哀しいことになる」

 

 あんなにもピリピリしている彩那が守護騎士達と戦えば、どっちが勝っても後味の悪い結果になる。

 そういう確信めいた予感がなのはにはあった。

 自分の力が足りないのは理解している。

 きっとこの選択も彩那にはきっと物凄く心配をかけるものだとも。

 だけど────。

 

「だから、ヴィータちゃん達とは私達が戦おう。哀しいことを起こさせない為に」

 

 なのはの決意にフェイトも力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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