世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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再戦

「う、あぁ……はぁ、はぁ……」

 

 目の前に熱を出して苦しんでいる主がいる。

 生まれつき身体の弱い主の世話を命じられたシャマルは彼の額にある濡れた手拭いを水に浸して絞り額に乗せる。

 

「ごめんね……」

 

 小さくそう呟く主にシャマルは瞬きした。

 

「何を謝るんですか?」

 

「僕がこんなにも弱いから……」

 

 ベルカ・ヒンメル王国の第2王子であるウィルは生まれつきの身体が弱かった。

 こうしてすぐに熱を出し、寝込むのも日常茶飯事な程に。

 

「今日も、僕が熱を出さなきゃ、シャマルもヴィータも出撃出来たでしょう? そうしたらこの間みたいに怪我をする事も無かったのに……」

 

 先日の戦闘でホーランド王国の勇者と戦闘になり、シグナムとザフィーラが負傷した。

 シャマルとヴィータはウィル王子の護衛として残っていた。

 勇者とは戦場での遭遇も増え、ここ最近ではどちらが勝つかは分からなくなってきている。

 それだけ、あの少女達の成長速度に対する警戒が増していた。

 

「ゴメン。ゴメンね。邪魔してばかりで……」

 

 心底悔いるようにウィル王子は呟く。

 せめて自分が普通の身体なら、邪魔にはならなかったのに、と。

 それに、と続ける。

 

「みんなが、闇の書から出てきて、説明してくれた時に、思ったんだ。これで、お父様達が僕を見てくれるかもしれないって」

 

 闇の書から守護騎士が出現するまで、ウィル王子は放置状態だった。

 何も期待されず、ただ生かされるだけの王子。

 戦争が始まってからは家族と顔を合わせることすら稀だったという。

 だがそれも仕方のない事かもしれない。

 まだ10にもならない子供が、家族の愛情を求める事を、いったい誰が責められるだろう。

 実際守護騎士が現れて、ウィルの家族は彼との時間を設けるようになった。

 ウィルが守護騎士の待遇向上を求めていたのも、そのお礼であり、罪滅ぼしだったのだろうと今は思う。

 熱にうなされているウィル王子の額に置かれた濡れた手拭いを交換する。

 

「ありがとうございます。でも気にしなくて良いんですよ? 私達は主を守る為の騎士で道具なんですから」

 

「それは、違うよ……」

 

 ウィル王子がシャマルの手を握った。

 

「確かに、みんなは人間じゃないかもしれない。でも、人間扱いとか、そういうのは別の問題だと思う。だってこんなに、僕達と、変わら……」

 

 先程飲んだ薬が効いてきたのだろう。

 ウィル王子は目蓋を落として眠りに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三角巾を取った後に彩那は毎日左腕の調子を確かめている。

 

「握力はまだ弱いけど、日常生活には問題無しね」

 

 動かせば痛みが走るが、いざとなれば無視すれば良い。

 なのは達はあれから独自に訓練している様だが、人間数日で劇的に強くなる筈もない。

 もしもまたヴォルケンリッターと戦闘になれば、カートリッジシステムを考慮しても勝率は3割届くかどうか。

 

「……それだけでも凄いことなんだけどね」

 

 カートリッジシステムを搭載した初見での戦闘ならそれなりに良い勝負をすると思う。

 だが、回数を重ねれば必ず向こうは対応力を上げてくる。

 

「やっぱり初戦で仕留めるべきだったわ」

 

 ポストから朝の郵便物を取ると下りてきたエレベーターの扉が開く。

 

「あ……」

 

 中からフェイトが出てきた。

 

「おはよう、テスタロッサさん。今日から登校だったわね。制服、とても似合ってるわ」

 

「ありがとうアヤナ。それとおはよう」

 

 彩那の挨拶と世辞にフェイトも当たり障りなく返す。

 世辞と言っても別に嘘を言っている訳では当然ない。

 

「アヤナは準備しなくていいの?」

 

「私はギリギリにしか登校しないから」

 

 フェイトと違って学校が近場である彩那はいつも遅刻ギリギリである。というか、数分くらいなら既に半分以上遅刻していた。

 正直に言えば、彩那はフェイトが苦手だ。

 なのはやリンディなど誰かが間に入ってくれている時は良いが、こうして2人っきりになると、プレシア・テスタロッサを殺害した事を強く思い出す。

 

(なによりも、アレは仕方がなかったと思ってしまう自分が穢く思えて……)

 

 だから、フェイトと2人になるのが少し怖い。

 いっそ責めたり(なじ)ったりしてくれた方が楽だったのだろうか? 

 そんな失礼な事を思っていると、思い出したようにフェイトが頼み事をしてきた。

 

「アヤナ。お願いが有るんだけど、いいかな?」

 

「私に?」

 

「うん。バルディッシュが直ってアヤナが本調子になったらで良いんだけど、私と本気で模擬戦してくれないかな?」

 

 突然の申し出に彩那は瞬きする。

 

「この半年でなのはが送ってくれた模擬戦を見て、学ぶ事が多そうだと思ってたから。それにシグナム達と闘う為にも近い実力があるアヤナと訓練するのはきっと意味があると思う。ダメかな?」

 

 言っていること理解出来る。

 だが、何か裏が有るのではと考えてしまう自分に嫌気がする。

 

「私で良ければ……」

 

 彩那の返答にフェイトの顔がパッと明るくなった。

 

「それよりも長々と喋ってて大丈夫なの?」

 

 彩那の言葉に今度は慌てた様子を見せる。

 

「ゴメン! 待ち合わせに遅れる!」

 

 そう言って駆け出して行くフェイトに手を振って見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 職員室を通ると八神はやてと遭遇した。

 手には何やらプリントを持っている。

 

「綾瀬さん。お久しぶりやね~」

 

「そうね。今日はどうしたの?」

 

「うん。もうすぐ冬休みやろ? だから宿題を取りにきたんよ」

 

「それはご苦労様」

 

 軽く労うとはやては嬉しそうに笑う。

 

「ちなみに綾瀬さんは長期休みの始めに宿題を終わらせる派? 終わる頃に一気にやる派?」

 

「休み前に終わらせる派」

 

「それはルール違反やなぁ」

 

 こんな会話ですら楽しそうに笑うはやて。

 そこで彩那ははやての肩に虫が停まっていることに気付く。

 

「八神さん。動かないで」

 

 だから彩那ははやてに付いた虫を払おうとした。

 

「っ!?」

 

 しかしはやてはその手を払った。

 

「え?」

 

 その時はな見せたはやての怯えの表情。しかしそれはすぐに困惑へと撤回される。

 

「あ……ご、ごめんな! そんなつもりじゃ……」

 

 払った際に手にしていた宿題のプリントがばら撒かれる。

 自分の手を見つめて何故彩那の手を払ったのか理解できない様子だ。

 ただ彩那の手が近づいた瞬間に言い様の無い恐怖が沸き上がってきた。

 気不味くなった空気で彩那はばら撒かれたプリントを拾う。

 

「はい」

 

「あ、ありがとう……」

 

「さっきの事は気にしてないから」

 

「うん。ホンマにごめんなぁ……」

 

 本当に申し訳なさそうにしゅんとして謝るはやて。

 その場は互いに何を言う訳でもなく別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 守護騎士達は結界内で管理局の魔導師と敵対していた。

 ただ本格的な戦闘には突入しておらず、結界内に居るシグナムは仲間が揃うのを待っているし、管理局は張られている結界を突破するのに手こずっている。

 烈火の将シグナムがビルの屋上で仲間を待っていると、背後からゾクリと悪寒が走った。

 頭で考えるより先にデバイスであるレヴァンティンを背後に剣を振り抜く。

 すると敵の剣と衝突した。

 

「チッ。鋭いわね」

 

「お前は……」

 

 顔に包帯を巻いた、主と同じ年頃の少女。

 前回シグナムが対峙した時は包帯は解かれていたが、ヴィータの戦闘記録からその姿は知っている。

 背後から斬りかかろうとした事を卑怯とは言わない。

 むしろ、これまで接近に気付かせなかった事を称賛する気持ちすらある。

 相手が僅かに距離を取ると、呆れた様子で話し始める。

 

「まさか、本当にこの世界に残っているとは思わなかったわ。余程、この世界から離れたくない理由でも有るのかしら?」

 

「それを貴様に言う必要が有るのか?」

 

「無いわね。興味もないし。だけど遭遇した以上、貴女達はここで確実に潰す」

 

 聖剣を構える彩那。

 これ以上の会話に意味がない。

 ぶつけ合うのは言葉ではなく、互いの殺気と手にした武器(デバイス)のみ。

 遠い過去より、そういう関係なのだから。

 動いたのは彩那からだった。

 コンクリートの地を蹴り、一足でシグナムへと斬りかかる。

 互いがぶつかり合い、交差すると戦いの場は空へと移った。

 

「ハァッ!!」

 

「シッ!!」

 

 剣のぶつかり合う音が響く。

 シグナムの振り下ろしを捌き、彩那が突きを繰り出すとシグナムは首を動かして避ける。

 剣が何度も衝突し、距離を取ってはまた接近する。

 鍔競り合いになると、彩那の顔が僅かに歪む。

 

「つっ!」

 

 シグナムの体を蹴って再度距離を取った。

 

(思った以上に左腕に力が入らないわね。これじゃあ二刀を扱うのは無理か)

 

 自分の状態を把握し、霊剣に切り替えた。

 

「どうやら左腕に不調を抱えているようだな。そんな状態でよく私の前に出てきたものだ」

 

「言ってなさい。すぐに斬り伏せてやるから」

 

 左腕に不調を抱えているにも関わらず強気な態度を崩さない敵。

 その心意気はシグナムの好むところだ。ましてやそれに見合う実力も有るのだから尚更に。

 

「我らには我らの成さねばならぬ事がある。その為にも、貴様のリンカーコアも蒐集させてもらう」

 

 剣を構え直すシグナム。

 しかし彩那の口から出されたのはまったく予想しない事だった。

 

「……ベルカ・ヒンメル王国第一王子ラインハルト及び第二王子ウィルは私が殺した」

 

 その言葉を聞いた瞬間に頭の中で何かが過る。

 

 ────シグナムは、強いね。

 

 自分を心から信じ、その身を預けてくれた。

 まだ幼く、守らなければいけなかった誰か────。

 

「ッ!!」

 

 シグナムの雰囲気が殺伐としたモノに変化する。

 瞳には殺意を宿し、剣を握る手が強くなる。

 気付けば、その首を狙って剣を振るっていた。

 一瞬の憎悪から一気に頭が冷える。

 シグナムの渾身の1撃を防いだ彩那はそのままレヴァンティンをいなすと、体を1回転させて逆に斬りかかる。

 その攻撃をシグナムは大きく後退して避けるが、腹部が斬られ血が流れた。

 

「浅いか……」

 

 ポツリと呟く彩那。

 シグナムは斬られた腹部を押さえつつ困惑した表情を見せる。

 

(私は今、何をしようとした?)

 

 今代の主の未来を血で汚さない為に、守護騎士達は基本殺人などの行為を禁じている。

 だから蒐集は出来る限り魔法生物で行っていた。

 それは管理局と衝突するのを避ける意味もあったが。

 しかしシグナムは今、本気で彩那の首を落とそうとした。

 

「お前は、誰だ……?」

 

「答えるつもりはないと、言った筈よ」

 

 そこで彩那に向かって鉄球が飛んできた。

 シールドを展開して防ぐが、踏ん張りが利かず弾き飛ばされた。

 

「シグナム! ボサッとすんじゃねぇっ!!」

 

「あ、あぁ。すまない……」

 

 叱責するヴィータにシグナムが謝罪する。

 彩那の背後にはザフィーラが到着していた。

 前回の焼き増しになった展開に、彩那は包帯の結び目に手を掛ける。

 

「さてと。それじゃあ、前回の続きといきましょうか」

 

 そこで結界の上空から何かが転移してきた。

 直接送り出されたのだろうソレを見て彩那が声を上げる。

 

「あの子達っ!?」

 

 上空から落ちてくるなのはとフェイト。

 彼女達は落下しながらバリアジャケットを纏って戦場に介入してきた。

 なのはがヴィータを。フェイトがシグナムを攻撃して彩那から引き離す。

 いつの間に結界の中へと入ったのか、アルフやユーノ、そしてクロノも参入していた。

 アルフがザフィーラ側に付く形で彩那を守護騎士から遠ざけると、なのはから念話が送られてくる。

 

『聞いて! わたし、この子と1対1だから!』

 

『マジか!?』

 

『マジだよ』

 

 なのはの提案にクロノが驚愕し、ユーノが苦笑交じりに返す。

 新型のバルディッシュを構えたフェイトも同様の提案をする。

 

『私も、シグナムと1対1で戦いたい』

 

 それに当然彩那は反論する。

 

『待ちなさい! 幾らデバイスにカートリッジシステムを組み込んだだけで対等に戦える訳じゃ────』

 

『でも、アヤナもまだ左腕が治り切ってないんでしょ?』

 

『彩那ちゃんばかりに無茶をさせる訳にはいかないから!』

 

『────っ! 生意気言って!』

 

 左腕の事を指摘されて苛立つ彩那。

 見ればアルフもザフィーラと1人で戦う気らしい。

 だが彩那からすれば守護騎士相手に決闘など却下である。

 どうにか3人を説得しようとすると、彩那に向かって別の乱入者が現れた。

 突然現れた仮面の男は彩那の顔を掴んで移動した後に、建物に向かってブン投げられた。

 建物に衝突する前に体勢を整える。

 

「こんな時に……!」

 

 すぐに彩那はユーノとクロノに念話を送る。

 

『仮面の男の仲間が結界内に居る可能性が有るわ! そちらで探してもらえる?』

 

『分かった!』

 

『この場に居ない守護騎士と闇の書の主もだ!』

 

 守護騎士達から引き離された事で結果的になのは達の望む形となってしまった。

 仮面の男が話しかけてくる。

 

「今度こそ、貴様のリンカーコアを蒐集させてもらう」

 

「……」

 

 彩那の中で何かがプツリと音を立てて切れたのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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