「なに、これ……?」
高町なのはは目の前の凄惨な光景にデバイスを抱くように握りしめた。
横で飛んでいるヴィータも険しい表情で街────正確には街だった地を見ている。
綾瀬彩那が現状知り得た情報を口にする。
「研究中のロストロギアが暴走したと聞いたけど。僅か1時間でここまで……」
3人は今、ミッドチルダのクラナガンから離れた演習場に来ていた。
なのはとヴィータは演習への参加。彩那は必要な資格試験を受けに。
ロストロギアの解析を主とする研究所でその1つが暴走したと連絡があった。
急遽出動要請を受けて他の局員と共に現場に急行したら、目の前の光景と遭遇したのだ。
簡単に言えば、金属の泥で街の一角が呑み込まれている惨状。
今は結界を張って被害の拡大を防いでいるが、それもいつまで持つか。
「呑み込まれた一角に住んでいる住民の数は凡そ200。1人でも多く遠出しているのを願うばかりね」
彩那の言葉になのはは息を飲む。
これは土砂崩れや大津波と同じだ。呑まれた人間はほぼ助からない。
「データが届いたわ。ロストロギア"思考の鉄"だそうよ。数十年前に発見された意思を持つ金属。最大の特徴は有機物を喰らってドンドン面積を広げていく。浸食型のロストロギア。取り敢えず封印措置を……あぁ駄目ね。術式を解析して即座に喰い破ってくるみたい。だからここまで浸食が進んだのか」
即座に封印しなかったのに疑問があったが、既に破られた後らしい。
「なら、どうすんだ?」
「一応、人間なら脳に該当するロストロギアの
「よし! ならなのは! 先ずはあの泥を吹き飛ばせ!」
「うん! 任せて!」
なのはがレイジングハートを構えて砲撃魔法を放つ。
彩那も魔剣で砲撃魔法を使い、鉄の泥を攻撃する。
それに反応して、泥から触手が伸びてきた。
向かってくる触手をなのははシールドで防ぐ。
一度は防ぐと触手の先端が、姿形を変える。
それは、小さな女の子の顔だった。
「お母さん……お父さん……どこぉ……なんにも見えない……」
「え?」
その姿になのはは集中力を削がれ、シールドの強度が脆くなる。
シールドを喰い破ろうとするそれにヴィータが鉄球でその頭を破壊した。
「ボケッとすんなっ!」
「う、うん……!」
返事はするが、なのはの顔は青褪めている。
事態が動き、街を浸食していた思考の鉄は結界の中心に集まり始め、巨大な柱のような姿になる。
「これは……趣味の悪い事ね」
その柱にロストロギアが呑み込んだ人達の顔が浮き彫りに現れた。そしてその口で言うのだ。
────たすけて、と。
その言葉に心が揺さぶられてなのはが叫ぶ。
「中の人達を助けないと!!」
「待って! アレは呑み込んだ人間を解析して此方の戦意を削ぐための演出の可能性が高いわ! いい? 呑み込まれた人達はもう助からないの!」
「本当にそう言えるの!? もしも、中で生きているなら……」
此方への攻撃を避けながら、議論する彩那となのは。
再び伸びた触手から人の顔が作られる。
「たすけてたすけてたすけてよぉ……!」
「あ、あぁ……っ!?」
そのあまりにも憐れな姿に、なのはの精神は大きく動揺する。
「高町さん!」
彩那が砲撃でその頭を消し飛ばし、なのはの手を握って後退する。
「鉄槌の! 貴女もこっちに来なさい!」
「あ?」
「早く!」
言われるままにヴィータも後退する彩那となのはに続く。
結界のギリギリまで退くと、彩那はなのはに言った。
「高町さん。貴女はこの結界から出なさい。そうしたら、地上本部から応援を呼んできて。それまで、こっちはなんとかするから」
「え?」
「鉄槌の。高町さんの手を引いてあげて。これは命令よ」
「おい!」
階級が上な事を理由にヴィータに命じる彩那。
なのは1人では撤退しない可能性が有るが、ヴィータと一緒なら無理やりでも退くだろう。
リミッターである包帯を外し始める。
「彩那ちゃん……」
「戦えないでしょう?」
呑まれた人間が生きているのか死んでいるのかは不明だが、ああしている以上、なのはには撃てない。
それを自覚してか、なのはは俯く。
「良いのよ、それで。高町さんは優しいから。こういう事態は私みたいな冷血人間に任せなさい」
そんな事はないとなのはは言おうとした。
出会ってから今日まで、どれだけ彩那が自分達を助けてくれたのかを知っている。
今だって不甲斐ない自分の為に汚れ役を買って出てくれているから。
しかしその言葉は、彩那の声で出せなかった。
「なのは」
初めて、自分を下の名前で彩那が呼んでくれたから。
彩那がなのはを抱き締める。
「海鳴の街で、また会いましょう」
そう言って、なのはとヴィータを結界の外へと追い出した。
なのはとヴィータを結界の外に逃がした後に、彩那は顔が浮き彫りになっているロストロギアに砲撃を叩き込んだ。
「さてと。お仕事お仕事」
両手に持った剣を構えて彩那は動いた。
ロストロギア"思考の鉄"が暴走して1時間半。
核の破壊の成功より事態は終結する。
現場にいた魔導師16名の内、7名が殉職。5名が重傷を負う事件となった。
綾瀬彩那二等陸尉はこの事件で重傷。直ぐ様病院に搬送されるも還らぬ人となる。
この事件はクラナガンで起きた最悪のロストロギア事件の1つとして後々まで語られ────。
なのはは現場を急行するヘリの中でガジェットと戦う新人達を見ていた。
同じ映像を観ているフェイトが話しかける。
「問題無さそうだね」
「もちろんだよ、フェイトちゃん。バッチリ鍛えたからね」
とある世界で機動六課が回収するロストロギア"レリック"が発見された。
敵はレリックを狙う機械の兵団。
それらを新人達は問題なく排除している。
もちろん、この程度でやられるようなら実戦になど出していないが。
「でもなのは、心配そうだ」
「そうかな?」
真剣な表情で現場を見るなのはにフェイトは不安な顔をする。
「でも、そうかも。ただ、彩那ちゃんもこんな気持ちで私達を見てたのかなって……」
「なのは……」
久し振りに亡くなった親友の名を口にするなのはにフェイトの顔は更に曇る。
「大丈夫だよ、フェイトちゃん。さ、もう現場に着くし、私達も頑張ろう」
なのはは胸のレイジングハートを握りしめた。
なのは達とは別に六課の新人達の戦闘を見ている者が居た。
十代前半くらいの年齢。頬にかかるくらいに伸ばされた緩いウェーブの黒い髪の少女。
騎士風の鎧と青いマントのバリアジャケット。
『前回はレリックが向こうに取られてしまったからね。ゲームは片方だけが一方的に勝っても面白くないだろう』
「そう」
通信相手の言葉を興味無さげに返す少女。
相手もそれを気にした様子はなく、命令を下す。
『では私の為に、レリックを入手してくれたまえ。だが、相手を殺してもいけないよ。
「了解、ドクター」
ガジェットの8割を破壊し、レリックを入手したところでそれは空から現れた。
新人4人は突然現れた少女に驚いていた。
手には青い剣を持ち、鎧のバリアジャケットを着た少女は戸惑う4人を見ると、呆れた様子で口を開く。
「反応が遅いよ」
それだけ言うと、少女はレリックを持っているティアナに襲いかかった。
「ティアナッ!」
それを相棒であるスバルがシールドを展開して受け止める。
スバルは襲いかかってきた少女に問いかける。
「君、なんなの! いきなりこんな!」
「敵だからに、決まってるでしょう」
言うと、手にしている青い剣でシールドを切断し、脇に蹴りを叩き込む。
「あぐっ!?」
「スバル! この!」
「フリード!」
相棒であるスバルが蹴り飛ばされてティアナが銃型のデバイスを構え、キャロも従えているフリードに指示を出す。
火炎と誘導弾による別方向からの同時攻撃。
少女はシールドを全方位に展開して防ぐ。
一瞬覆われた視界。すると、エリオが突進する。
少女はエリオの突きを打ち落とすように剣を振り下ろし、槍を押さえ込むと、柄の先端で顎を打ち抜く。
「だぁっ!!」
そこでスバルが拳を振るう。
「バウンドシールド」
少女は弾力で弾く特殊なシールドを展開してスバルの拳を受け止めた。
「わっ!?」
弾かれたスバルはティアナの所まで飛ばされ、受け止める形となったティアナは手にしていたレリックの入ったケースを離してしまう。
それを少女が拾いあげる。
「しまった!!」
「任務達成、かな?」
目的を達して背を向けると上空から3つの誘導弾が飛んできた。
「なのはさんっ!」
「みんな、下がって!」
なのはの登場にスバルの頬が緩むも、本人の表情はとても険しかった。
「君は……」
敵である少女を見て、まるで亡霊にでも会ったかのように青褪めているなのは。
そこで少女の足の横から手が生えた。
その手にレリックを渡すようにケースを落とすと、地面に吸い込まれていく。
「あっ!?」
レリックが持ち去られる事に新人達は焦りの表情になる。
なのはも険しい表情でイラついていた。
敵である少女が現れた際にフェイトの制止を聞かずにヘリから飛び降り、最高速度で突っ切ってきたのだ。
局員としては失格かもしれないが、なのはの頭には目の前の少女の事で頭がいっぱいだった。
「霊剣の加護を」
手には聖剣と霊剣が握られ、なのはに向かってくる。
レイジングハートの長柄で2つの剣を捌くと、空へと舞う。
それを追うように少女も飛翔する。
2人が衝突すると、なのはが問いかける。
「君は、誰? どうして────」
その姿で、どうしてその剣を持っているのか。
彩那の殉職後、彼女のデバイスはホーランド式の貴重な資料として管理局が保管している筈だ。
レプリカの可能性も有るが、なのはの記憶と勘が本物だと告げている。
「私は、アヤセアヤナよ」
「────ッ!?」
まるで、自分の罪を突き付けられた気分だった。
一瞬の動揺。
その隙を見逃さず、アヤセアヤナはなのはの肩に霊剣を突き刺す。
「あぁっ!?」
痛みから片目を閉じて呻く。
「心が乱れすぎ」
なのはの体を蹴りで押し、霊剣を引き抜くと同時に遅れてきたフェイトが参戦する。
「なのはぁっ!?」
怪我をした親友を助ける為にフェイトはバルディッシュを後ろから振るう。
しかし、振り返ったその姿は、あまりにも失った親友にそっくりで。
「────ッ!?」
躊躇いが仇となり、思いっきり振るえなかった攻撃はアヤセアヤナに受け流される。
そして戦闘中だというのに彼女は武器を下ろした。
「帰還命令が来ちゃった。ここまでね」
転移魔法がアヤセアヤナの足下に発動する。
「次は、もっと本気で相手をしてほしいな」
残念そうに呟くアヤセアヤナ。
なのはは逃げる少女に手を伸ばす。
「待って!」
「じゃあね。高町さん。テスタロッサさん」
懐かしい顔からの懐かしい呼び声。
小さく手を振って去っていく少女。
アヤセアヤナが去ると、なのはは肩の傷と精神的な乱れから地面へと落ちていく。
「なのは! しっかり!」
その前にフェイトがなのはを抱き止めた。
傷による滲む脂汗を掻きながら泣きそうな顔で呟く。
「待ってよ、彩那ちゃん……」
そう言ってなのはは目と意識を閉ざした。
綾瀬彩那。
中学1年に殉職。
殉職した1番の理由は彼女自身、背中を預けられる誰かを作らなかった事。
彼女の死は友人達に心の傷を負わせる事に。
アヤセアヤナ。
プロジェクトFの技術でジェイル・スカリエッティによって生み出された綾瀬彩那のクローン。
肉体的には彩那の死亡時と同じくらい。中身は5歳程度。戦闘機人ではない。
オリジナルとの大きな違いは顔に刺青が無い事と、戦闘狂の気がある事。
仕事の結果より、過程を楽しむタイプ。
聖剣。魔剣。霊剣。王剣。
綾瀬彩那が殉職した後に魔法史に於ける貴重な資料として管理局が保管したいたが、スカリエッティによって偽物とすり替えられ、アヤセアヤナの手に渡る。
高町なのは。
彩那死亡後しばらくは塞ぎ込んでいたが、後に職務に復帰。
これまでは泣いている子の力になりたい。困っている人を助けたいという気持ちで魔法を使っていたが、彩那死亡後はそうしなければいけない、という強迫観念で動くようになる。
手塩をかけて育てている新人を亡くなった親友のクローンが襲いかかるという本人からしたら、絶叫しそうな状況に。
フェイト・T・ハラオウン。
彩那死亡の事件で自分が居なかった事を悔いている。
アヤセアヤナとの出会いでプレシアが何故自分を受け入れなかったのか少しだけ理解する。
八神はやて。
彩那の死亡後、地上本部の対応の遅さを痛感して改善しようと決意する。
ヴィータ。
彩那死亡の事件で職務放棄と上から責められるも、彩那の命令で現場を離れた事がデバイスに記録されていた為、大きく咎められなかった。
アヤセアヤナはなのはやはやての負担にならないよう自分が止めなければ、と考えている。
スバル&ティアナ。
反抗期に入ると本人達の自覚なしになのはのトラウマを刺激する事に。
エリオ&キャロ。
アヤセアヤナが光落ちするかは事件後の2人の行動にかかっている?
ジェイル・スカリエッティ
アヤセアヤナの生みの親。
アヤセアヤナの存在を彩那の友人達はきっと喜んでくれるだろうとwktkしながら現場を観戦していた。
こんな感じで始めるsts編。
うん、ないわこれ。