世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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どうでも良いですが、自分の中で綾瀬彩那の声のイメージは桑島法子さん。


聖夜(クリスマス)

「第二王子が逃げたぁ!?」

 

「えぇ。生きてる連中に吐かせたけど、守護騎士達と一緒に私らが首都に来る前にラインハルト王子が逃がしたらしいわ。脱出用の抜け道ももう見つけてある」

 

 尋問をした冬美が言うと、渚がボリボリと頭を掻く。

 

「でも、王子って言っても確か10歳になるかどうかの子供でしょ? ほっとけば良いんじゃ────」

 

「ならんっ!!」

 

 会話に入ってきた人物を見て渚はあからさまに嫌そうな顔をする。

 玉座の間に現れたのは、4人の勇者を喚び寄せたホーランド王国の国王だった。

 

「普段は王女様に仕事押し付けて城の中で守られてるだけのくせに何で今になってやってくるかなぁ」

 

「なにか言ったか?」

 

「いーえー。べっつにー?」

 

 睨みを利かせるホーランド王に渚は適当な返事で返した。

 この王様、根っからの悪人という訳ではないのだが、基本臆病なくせに自尊心はそこそこ高く、ある程度のズル賢さも備えている。

 娘のティファナからは平時ならともかく、戦時では働かない無能1歩手前の人、という評価を得ていた。

 

「第二王子を逃がせば、必ずや後の世に(わざわい)となるだろう! 闇の書の騎士共々、捕らえろ! いや、殺しても構わん!!」

 

「要するに第二王子を御輿にして反乱されるのが恐いから対処しろってことね」

 

「冬美わっかりやすーい!」

 

 ケラケラと笑う渚に王様が血管を浮かせて五月蝿い! と唾を飛ばす。

 

理解(わか)っているのか! もしも余に逆らえば、貴様らを故郷に帰す約束を反故にしても良いのだぞ!」

 

「あん?」

 

 感情的に当たり散らす王様に渚が睨みを利かせるとぐっと黙る。

 この戦争を終わらせれば、勇者を元の世界に帰す。

 そういう約束で勇者はこれまで戦ってきたのだ。

 勇者は今、ホーランド王国と連合軍の最大戦力と言っても良い。

 彼女達の神経を不用意に逆撫ですれば、それこそ離反され兼ねない。

 彩那が仕方ないとばかりに話す。

 

「そちらの命令には従う約束ですしね。でもそれなりに時間も経ってますし、私達だけでの捜索は無理です。第一から第三部隊は疲弊してますし、第四部隊をお借りしても?」

 

「勝手にせい!」

 

「んじゃ、行きますかぁ……」

 

 やる気の感じられない猫背で歩く渚を先頭に城の抜け道に移動する勇者達。

 それを見ながら国王は吐き捨てるように呟く。

 

「生贄風情が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァ!」

 

 ヴィータがデバイスである槌で敵兵の頭を潰すと舌打ちした。

 

「城はくれてやったんだ! こっちは見逃せってんだよ!」

 

 ホーランド軍からのしつこい追跡にヴィータが苛立ちを隠せずにいる。

 本来なら転移で近くの世界に移動すべきだが、身体の弱いウィル王子はそれに耐えられない。

 何より近くに人間が住んでる世界が無いのだ。

 だから守護騎士達は主を抱えて森に隠れながら逃走していた。

 カートリッジの弾丸は既に尽きている。

 このままでの長期戦は不利だった。

 シャマルに抱えられているウィルが問いかける。

 

「あの、兄様達は……」

 

 不安そうな主にシャマルが笑顔で答えた。

 

「大丈夫です! 後から追い付いてきますよ!」

 

「あの人はアタシら認めるくらい強ぇんだ! 心配すんな!」

 

「うん……」

 

 最初は素っ気なかったヴィータも、この2年で主に対して大分表情が柔らかくなった。

 今もこうしてウィルに気を遣っている。

 以前なら黙して敵を倒すことだけに集中していただろう。

 しかしウィルの表情は晴れない。

 何も知らない子。だけど頭が悪い訳ではない。

 この状況から自分達の状況を察しているのかもしれない。

 すると、森を駆ける守護騎士を囲うように魔力の鎖が伸びる。

 

「これは……」

 

 ザフィーラが険しい表情をする。

 止まった一瞬でシグナム達の前に渚と彩那。

 後ろには冬美と璃里が立っている。

 主を守る為に戦闘態勢に入るヴォルケンリッター

 渚が首を撫でながら逃げる5人を見る。

 本心から残念だと言うように哀れみの眼で。

 

「もっと遠くに逃げてくれてれば良かったのに」

 

 この2年間の因縁に終止符を打つ為に剣を構える。

 

「これで最後だね。決着、つけようか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンディが借りている部屋のインターフォンが鳴ったのは、夕食を終えた時間だった。

 インターフォンの映像を見ると、そこには顔色の良くない女性。

 綾瀬彩那の母である綾瀬聡子だった。

 リンディはその尋常でない聡子の様子に早歩きでドアを開けた。

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、あの。ウチの子が、彩那がそちらにお邪魔してませんか?」

 

 時間は既に7時を回っており、こっちに居るなら連絡くらいは入れる。

 聡子は焦った様子で続ける。

 

「今日、病院にお見舞いに……でも来てないって……携帯も繋がらなくって……」

 

 不安で震えながら説明しようとする聡子。

 リンディも表情を曇らせつつ問いかける。

 

「警察には?」

 

「はい。夫が先程……すぐに動いてくれると……」

 

 まだ心配するような時間では無いが、彩那は過去に行方不明だった事もあり、警察は事態を重く見てくれた。

 動揺したままに聡子が呟く。

 

「あの子がまた……本当に居なくなったら……私は……」

 

 愛娘が居なくなる事に怯える聡子の肩をリンディが手を乗せる。

 

「彩那さんの捜索は此方も協力します。なのはさんの家には私から訊いてみますので」

 

「はい。ありがとうございます……」

 

 気を落としたまま聡子は娘を案じて震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。確かにその時間にうちの店にやって来ましたが……」

 

 やって来た警察に士郎が対応している。

 一通り聞き込みを終えるとなのはが奥からやって来る。

 

「お父さん?」

 

 険しい表情の父になのはが不安そうに見上げていると、士郎が口を開く。

 

「彩那ちゃんがまだ家に帰って来てないらしい。携帯での連絡も取れてないそうだ。なのは、彩那ちゃんには今日会ったか?」

 

「ううん。今日は会ってないよ」

 

 学校が違うという事もあり、今日は会ってないし連絡も取ってない。

 なのははすぐに念話を彩那に繋ぐ。

 

(念話が繋がらない! どうして!?)

 

 送っても送っても彩那に繋がる様子がなく、レイジングハートが話しかけてくる。

 

『どうやら、相手は魔力を遮断されている模様です』

 

 レイジングハートの報告になのはは顔を青くする。

 魔力が遮断されている。つもり魔法関係の何かに巻き込まれた可能性が高いということだ。

 なのはにとって綾瀬彩那は誰にも負けない少女だと思っていた。

 その彼女が行方不明というのはなのはに強い衝撃を与える。

 

「明日からの登下校はフェイトちゃんと一緒に俺が車で送ろう。何か遭ったら大変だからな」

 

「う、うん……」

 

 士郎の提案になのはは頷くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八神はやてがそのニュースを見たのは自販機で飲み物を購入している途中だった。

 病院のテレビに映されたニュースに聞き覚えのある名前が読み上げられる。

 

『海鳴市に住む小学生の綾瀬彩那ちゃん(9歳)が今日の夕方4時以降の行方が掴めなくなりました。彩那ちゃんが購入したと思われるシュークリームがバス停付近に落ちており、警察は何らかの事件に巻き込まれた可能性が有るとして捜索を────』

 

「綾瀬さん……?」

 

 

 

 

 

 

 

「でも、やっぱり無限書庫は凄いね。探せばちゃんと情報が出てくる」

 

 僅か数日で幾つか闇の書に関する情報を発掘したユーノにリーゼロッテは驚きの声を出す。

 

「アタシとしちゃあ、この短期間に目的の情報を見つけ出すアンタに驚いてんだけど」

 

「それで、現状分かってる事は?」

 

 先を促すクロノにユーノは頷いて報告する。

 

「先ず、闇の書は本来の名前じゃない。本来の名前は夜天の魔導書。魔法研究の為に作られた魔導書みたいだ。ただ、いつの時代からかは分からないけど、魔導書のプログラムに改竄が加えられている。最悪なのは、蒐集を行わなければ主の身体に負荷をかけて蒐集を強要するのと、集めた魔力を暴走にしか使えない点だ。そして闇の書が覚醒したら、主は助からない」

 

 得た情報を簡潔に纏めて報告するユーノにクロノは難しい顔で腕を組む。

 

「対処に関する情報は?」

 

「ゴメン、それはまだ。せめてプログラムが改竄されるきっかけになった事件や犯人。もしくはオリジナルの夜天の魔導書のプログラムが出てこないと……」

 

「そうか。引き続き調査を頼む」

 

「うん。分かった」

 

 そこからユーノはまた調査を再開する。

 するとロッテが場から離れた。

 

「じゃ、アタシは野暮用が有るから、アリアと交代するね。頑張んなよ」

 

「あぁ。分かってる」

 

 出ていこうとするロッテの背中をクロノは居なくなった後も目で追い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(しくじったわね。情けない……)

 

 彩那は何処か知らない部屋に監禁されていた。

 

(まさか、仮面の男が3人がかりで襲ってくるなんて)

 

 バスに乗ろうとバス停まで歩いている途中で突然結界の中に閉じ込められ、そのまま3人がかりの仮面の男を相手にして1分足らずで拘束されてしまった。

 首には機械の首輪が填められており、完全にリンカーコアを封じられている。

 彼女のデバイスの入ったポーチも取り上げられてしまった。

 壁を背にして床に楽な姿勢で座り悩んでいると、部屋の扉が開く。

 現れたのはグレアムの使い魔であるリーゼロッテだ。

 彼女が仮面の男の1人という事は、そういう事なのだろう。

 ロッテは部屋の机を見るとあからさまに不機嫌な顔になる。

 

「朝食、食べとけって言っただろう」

 

「誘拐犯が出した物を食べられる程、肝が据わってないので」

 

 ロッテの言葉に彩那は目を閉じて返す。

 ここに連れて来られて以降、彩那は一切何も口にしていない。

 

「変なモンは入っちゃいないさ。こっちは目的を達成するまでここで大人しくしてて欲しいだけなんだから。食べ物を粗末にするんじゃない」

 

「そういえば、誰かさん達にシュークリームを台無しにされましたね」

 

 はやての為に購入したシュークリームは襲われた際に箱ごと潰されてしまった。

 彩那の言葉にロッテは舌打ちをする。

 

「ああ言えばこう言う」

 

 生意気な彩那にロッテは手を焼いていた。

 眉間にしわを寄せていると、彩那が質問する。

 

「私の剣は?」

 

「……こっちで大事に預からせて貰ってるよ」

 

「そうですか。丁重に扱ってくださいね。もしも粗雑に扱って壊したら、大人しくしていられる自信が無いので」

 

 4本の剣は彩那にとって文字通り自分の命より大事な形見だ。

 もしも既に破壊されていたら、正気でいられる自信がない。

 魔法が使えなかろうが、発狂して暴れだすかもしれない。

 彩那の言葉をどう受け取ったのか、ロッテは溜め息を吐く。

 

「安心しな。全部終わったらちゃんと返してやるさ」

 

「それはそれは」

 

 その全部が何を指しているのかは知らないが、早く来るのを祈るばかりだ。

 冷めた朝食を回収して部屋を去ろうとするロッテに彩那がこれまで考えていた推論を口にする。

 

「闇の書の主は、八神はやてさんですか?」

 

 背を向けたまま、ロッテの肩がビクッと動いた。

 あのタイミングで彩那が襲われた理由。

 守護騎士達がこの世界を移動しない理由。

 その他諸々を考えて辿り着いた結論だった。

 

「……そうですか」

 

 ロッテの反応から察した彩那は目を閉じる。

 どうして嫌な考えというのはこうも外れ難いのか。

 

「……昼に次の食事を持ってくる。今度はちゃんと食べなよ」

 

 そう言って部屋を去って行った。

 1人に戻ると目を開けて天井を見上げる。

 

「本当に、どうした物かしらね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彩那が行方不明になる少し前に、月村すずかが以前から仲良くなった八神はやてという女の子が入院し、クリスマスにサプライズでお見舞いに行かないかという話があった。

 しかし、彩那が行方不明となった事でその話が流れそうになる。

 特に高町家の面々が難色を示したが、月村家の車で送り迎えする事を条件にそのお見舞いの許可が下りた。

 

 病院に着くとなのは、フェイト、アリサの3人は新しく友達になれるかもしれない女の子の存在に大きな期待を膨らませている。

 すずかが病室のドアをノックすると中からどうぞー、という声が聞こえてドアを開ける。

 

「はやてちゃん!」

 

「すずかちゃん! それに……」

 

 話に聞いていたすずかの友人達の登場にはやては驚いて瞬きする。

 中に入り、3人が自己紹介するとはやても自己紹介する。

 

「突然来ちゃってゴメンね」

 

「ううん! すごく嬉しいよぉ! 後でわたしの家族も来るから仲良うしてな」

 

「具合、どう?」

 

「退屈過ぎて別の意味で病気になりそうや」

 

 冗談を言うはやてに思ったより元気そうで安心するすずか。

 お見舞いの花束とクリスマスプレゼントを渡して和やかな雰囲気での会話が流れる。

 会話が一段落すると、突然はやての表情に陰りが出来る。

 

「どうしたの?」

 

「あ、うん。同じ学校の子が行方不明になってるニュースが有ってなぁ。比較的仲も良かったから、ふと心配になって……」

 

 はやての言葉に4人の目が点になる。

 この街で行方不明になった小学生など1人しか居ないからだ。

 アリサが確かめる意味で問いかける。

 

「もしかしてその子って、綾瀬彩那って子じゃない? いつも首から上を包帯でグルグル巻きにして死んだ魚みたいな眼をした」

 

「アリサ。最後のは説明としてどうかな?」

 

「え? だってそんな眼してるでしょ?」

 

 アリサにとって彩那の最も印象に残ったのはその眼だ。

 疲れきった光の無い眼。

 周りも否定できない様子で苦笑いで誤魔化す。

 

「えっと……みんなは綾瀬さんと知り合いなん?」

 

「うん。友達だよ」

 

 胸を張って言うなのは。

 

「はやてちゃんも彩那ちゃんと友達なの?」

 

「うーん。どうやろ? わたし、車椅子になって学校を休むようになって。でもたまに学校に顔出さなアカン日も有って。その時に話し相手になってくれるんよ」

 

 休学してから仲の良かった子達も段々とはやてをお客様扱いするようになり、疎遠になった。

 そんな中でも今年の2学期になってからちょっとしたきっかけで彩那と話すようになった事を説明する。

 

「ニュースで、綾瀬さんの携帯が見つかった言うてたし。やっぱり心配や」

 

「なら友達だ。だって居なくなってこんなに心配してるんだから」

 

 フェイトがそう断言するとはやてはそうかなぁと言いつつも嬉しそうに笑う。

 

「でも、やっぱり心配だよね」

 

「うん。綾瀬さん、行方が分からなくなるんは2回目やし……」

 

「え?」

 

 はやてが何気なく呟いた言葉に4人が小さく驚きの声を出す。

 それは大人達が敢えて子供達に教えなかった事件だ。

 

「2回目って、どういうこと?」

 

「あ、すずかちゃん達は知らんのやね。綾瀬さん、去年の夏休みから2学期の9月の半ばくらいまで行方不明だったんよ。仲の良い友達3人と一緒に」

 

「本当なの、それ?」

 

 なのは達は彩那の部屋に飾ってあった写真を思い出す。

 4人の女の子が仲睦まじく写っている写真。

 

「去年はわたし、綾瀬さん達と同じクラスやったんやけどな。いつも仲良さそうに一緒に居て。でも夏休みで行方が分からなくなって。それで帰って来たのは綾瀬さんだけやった。あの子が復学する頃にはわたしはもう休学しとったし、去年はあまりお喋りする間柄やなかったから」

 

「……」

 

 はやての説明に4人が息を呑む。

 彩那は連絡が取れないくらい遠くに行ったと言っていたが、なのは達は引っ越したのだろうと解釈していた。

 少し空気が重くなると、ノックの後にはやての家族が入ってきた。

 その人達を見て、なのはとフェイト。そしてはやての家族が固まる。

 初めに反応したのはヴィータだった。

 

「なんでお前らがここに……っ!?」

 

 噛みつかんばかりのヴィータにはやてが叱りつける。

 

「こら、ヴィータ! せっかく来てくれたのに、失礼な態度取ったらアカンやろ! あぁ、ごめんなぁ。普段はこんなことないんやけど」

 

 謝るはやてにヴィータが何か言おうとしたが、仲間に念話で止められたらしく、無言ではやての傍に寄る。

 その後は少しギクシャクした空気になってしまったが、それでも楽しいクリスマスは続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院を出た後に、すずかの家の車で送り迎えして貰う予定だったが、なのはとフェイトは何とか説得して先に帰って貰った。

 同じく外に出ていたシグナムとシャマルの後ろに無言で続く。

 誰が闇の書の主なのか。既に予想は付いている。

 病院の屋上に出ると、シグナムとシャマルが事情を話し始める。

 はやての身体を蝕んでいるのは闇の書であり、守護騎士達ははやての真の闇の書の主にする為に蒐集を行っていた事。はやてを助ける為に。

 だけどなのはがそれに反論する。

 ユーノが調べた闇の書については既に2人にも渡っていた。

 

「待ってください! 駄目なんです! 闇の書を完成させても、はやてちゃんは────!!」

 

 事情を説明しようとするなのはにヴィータが空から襲いかかってきた。

 なのははとっさにシールドを展開して防ぐが、そのまま弾き飛ばされる。

 

「やっと全部が終わるんだ。闇の書が完成して、アタシ達ははやてと一緒に静かに暮らすんだ。だから、邪魔すんなぁっ!!」

 

 打った鉄球がなのはに向かうと、直前で爆発する。

 爆発と共に巻き上げる炎。その中から、バリアジャケットを纏ったなのはが歩いてくる。

 

「悪魔が……!」

 

「いいよ、悪魔でも……」

 

 襲われている状況なのに、なのはは少しだけ嬉しかった。

 彩那はヴィータ達を主の命を遂行する道具だと言った。所詮闇の書に付属する人形だと。

 だけど、そうじゃなかった。

 はやてを助ける為にずっと頑張ってきた、そんな素敵な人達。

 それが確信出来て嬉しいのだ。

 

「悪魔なりに、話を聞いて貰うからっ!」

 

 だからこそ、哀しい勘違いを正さなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはがヴィータに襲われると同時にシグナムとフェイトも互いのデバイスをぶつけ合っていた。

 

「1つ、訊きたい事があります! アヤナを拐ったのは、貴女達ですか?」

 

「あの騎士の少女か? 拐ったとはどういう事だ!?」

 

 その言葉にフェイトはホッとする。

 彩那を誘拐したのはシグナム達ではない事に。

 シグナムもフェイトの質問から察したのか首を横に振る。

 

「信じて貰えないだろうが、我らはあの少女に接触していない!」

 

 剣で弾かれてフェイトが姿勢を直す。

 

「信じます。シグナムは、真っ直ぐな人ですから」

 

 フェイトの言葉にシグナムは天を仰いだ。

 

「もしも出会い方が違えば、我らとお前達は共に歩めただろうか? だが、全ては遅すぎた」

 

「遅くはありません! まだ戻れます!」

 

「我らはもう、戻れんのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静まり返った病室ではやては闇の書を撫でる。

 先程までの友達との楽しい時間がより一層に夜を寂しく感じさせる。

 それでも少しだけ明日(みらい)に対して期待が生まれる。

 今回は自分が貰ってばかりだったから、次はちゃんとお返ししよう。どんなお返しが良いか考える。

 

「それにヴィータのあの態度はよろしくないなぁ。次の見舞いでちゃんと理由を聞かなアカン。それでしっかり叱って。わたしが闇の書の主やから」

 

 独り言を続けるはやてが闇の書を抱き締める。

 今日皆との時間を振り返って笑みが溢れた。

 

「次は綾瀬さんも一緒に。今度はもっと話せるとえぇなぁ」

 

 行方不明の少女の無事を願うはやて。

 すると、闇の書が突然はやての腕から離れる。

 

「え?」

 

 驚いていると、闇の書から魔法陣が生まれ、はやては光に包まれた。

 一瞬の眩しさに目を閉じ、光が止むとそこは病院の屋上だった。

 周囲を見渡すはやて。

 そこで、彼女の傍に有った闇の書が空へと移動する。

 それを目で追うと、はやては唇を震わせた。

 

「なん、で……?」

 

 そこには空中で張り付けにされる格好のシグナムとシャマル。それとヴィータが居たからだ。

 その横には鎧を着た、顔に包帯を巻いた少女が浮かんでいる。

 

「綾瀬、さん……?」

 

 彩那の手に闇の書が吸い込まれていく。

 闇の書を手にした彩那はページを開く。するとシャマルとシグナムが苦しみ始めた。

 彼女らの胸からリンカーコアが現れ、蒐集を行うと2人の体が光となって苦しみの声と共に消え去っていく。

 

「シグナムッ! シャマルッ!」

 

 大事な。本当に大切な家族が消えてしまった。

 次にヴィータに向けて蒐集を開始しようとする彩那。

 

「綾瀬さん! やめてっ!」

 

 はやての叫びを無視してヴィータの蒐集は続く。

 

「ウォオオオオオオオオッ!!」

 

 咆哮と共にこの場に現れたザフィーラが彩那に向けて拳を突き出した。

 しかしそれは見えない壁に阻まれ、蒐集のターゲットをヴィータからザフィーラに変更される。

 蒐集されながらも攻撃を繰り出すザフィーラだが、彼のリンカーコアも蒐集が終わり、その場から消え去る。

 そして再びヴィータへの蒐集を再開した。

 苦しむヴィータにはやてが叫ぶ。

 

「やめて! 綾瀬さん! なんでこんなっ!?」

 

「八神さん。貴女は闇の書の呪いでもう助からないのよ」

 

 優しい。しかしどこか冷たい口調で話す彩那。

 

「そんなんえぇ! そんなことよりヴィータを放してっ!」

 

 痛みだした胸を押さえて、ヴィータの解放を懇願するはやて。

 

「とっくに壊れていた闇の書。貴方は、壊れた道具を完全に止める為の生贄。半年前もその為に助けたのよ」

 

「え……?」

 

 半年前の大樹の幹が突然街に生えてきた事件。

 幹に引っ掛かって困っていたはやてを助けてくれた少女(ひと)

 それが全て嘘偽りだったのなら────。

 

「これまでの全部が貴女を闇の書の主として覚醒させる為の親切。ありがとう、八神さん。貴女はとても都合の良い生贄(どうぐ)だったわ」

 

 そこで、ヴィータも完全に闇の書に蒐集される。

 被っていた帽子がはやてのところまで落ちる。

 反射的に受け止めようとしたそれは、はやてが触れる瞬間に霧散して消え去った。

 

「あ、アァッ!?」

 

 闇の書がはやての前で開かれ、彼女の足下に描かれた魔法陣から黒いスパークが発生する。

 

「────」

 

 絶望に濡れたはやての声が屋上に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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