「ねぇ、渚ちゃん……!」
「ん~? どったのぉ? 璃里」
「守護騎士はともかく、本当に第二王子まで殺す気なの?」
いくら敵国とはいえ、子供を殺すことに抵抗を覚える璃里。
初めて守護騎士と遭遇した時のこともあり、特に第二王子の件は反対だった。
「捕まえても公衆の前で首を刎ねられる、か……」
やるせなさ気に冬美が呟く。
自分達が殺すか他の誰かが殺るかの違いでしかない。
「ま、もう逃げ切っちゃったかもしれないけどね」
此方は空を飛んでいるが、向こうは見つからないように森の中を移動してるはずだ。
だけどそれなりに時間が経っているのも事実。
「適当に探して見つかりませんでした~って言えば良いよ。王様だって今更ボク達をこんなことで処分なんてしないだろうし。ま、流石に明らかに所在が分かったら────」
そこで大きな爆音が鼓膜を揺さぶり、念話が届く。
『守護騎士と交戦中! 至急応援を頼む! 既に部隊の3割をやられた! 至急応援をっ!!』
切羽詰まった自軍の応援要請に渚はガリガリと頭を掻いた。
隠れて逃げてるのにあんなに大きな音を出すとか、見逃したくてもそう出来なくなってしまった。
「あーもう!逃げるの下手かっ!」
鉄槌の騎士ヴィータはホーランド王国の勇者達に敗れて地面に転がっていた。
シグナムもシャマルもザフィーラもやられてしまった。
カートリッジの弾丸は底をつき、戦えない主を庇っての戦闘は騎士達にとって不利が過ぎた。
まだ息が有ったヴィータの目には敵に詰め寄られて怯えている主の姿が見える。
(やめろよ……!)
既に声を出す力もないヴィータ。
この2年で主と過ごした時間が甦る。
『僕、そういうのは得意なんだよ。うん、凄く似合うね』
そう言って、花で作った冠を被せてくれたこと。
戦いから帰って来た自分達を体調が優れなくても温かく出迎えてくれたこと。
他にもたくさんたくさんの────。
(そいつは、何にもしてねぇだろうがっ!?)
確かにあの国の王を始め、民衆を追い込んでいた。
だけど、
まだ機能する視界から主の姿が見える。
幼い主の口から助けて、という言葉が吐かれる。
助けを求めるその声にヴィータは動こうとするが、その前に緑の剣が主の胸を突き刺した。
剣を引き抜くとその場に崩れ落ちる主。
「ウ、オォオオオオオッ!!」
最期の力を振り絞ってヴィータは主を殺した勇者に飛びかかった。
しかし主を殺した勇者に辿り着く前に、青い剣を持った勇者にヴィータは胸をカウンターで貫かれる。
自分を刺した女を睨んで手を伸ばした。
「チクショウ……」
心臓を刺されたからか、それとも主が死んだからか。
ヴィータはそこで事切れた。
「はやてちゃん!?」
「はやて!!」
絶叫したはやてに拘束を脱したなのはとフェイトは少女の名を呼ぶ。
既に彩那の姿に扮した仮面の男も。自分達を拘束していた仮面の男の姿もこの場から消えている。
はやての足下に出現していた魔法陣と黒いスパーク。
そして光が収まるとそこには別人が居た。
見た目二十歳前後の長い銀髪と赤い瞳の女性。
どこか冷たい印象を与えるその女性は独白するように語り始める。
「また、終わってしまった……せめて、私が私で失くなる前に、我が主の願いを……」
そう語り終えると右手を掲げる女性。
その手の平に膨大な黒い魔力が渦巻く。
「空間攻撃っ!?」
相手が何をしようとしているのか察して驚愕の声を上げる。
「闇に、沈め……」
広範囲の攻撃で自分達を一掃しようとする女性。
球体だった魔力が範囲を広げて襲いかかる。
なのはが前に出てシールドを展開した。
「なのはっ!?」
しかし受け止めたなのはのシールドはフェイトと共に押し流された。
今なら、目の前に居る男性を殴っても許されるだろうか?
闇の書が覚醒した現場を映像で見た彩那はそう思考する。
自分の姿をして同級生を追い詰める場を見れば彩那とてそう思うのは仕方ない。
現在彩那はギル・グレアムが管理する部屋で海鳴の現場を見ていた。
テーブルには紅茶と軽食が置かれているものの、ここ2日間飲まず食わずを貫いていて手をつけようとしない。
そしてテーブルの片隅には彼女のデバイスが入ったポーチが置かれている。
なのは達が心配だが、グレアム提督に聞いておきたいことがあった。
「……質問をよろしいですか?」
「あぁ。構わないよ」
「何故、八神さんを局員として保護し、管理局で治療を受けさせなかったのですか?」
グレアムが闇の書の主である八神はやてを見つけたのは彼女が小学校に上がる少し前の事らしい。
何故それだけの時間が有りながら、はやてを援助しつつ見殺しにするような真似をしたのか。
本来なら早急に彼女を保護して、闇の書の解析と八神はやての治療を行う筈だ。
彩那の質問にグレアムは疲れた老人のような笑みを見せる。
「その答えを、君は既に持っているのではないかね?」
グレアムの返しに彩那は視線を紅茶に視線を落とす。
カップの中の液体には自分の顔が映り、揺らめいていた。
「……そうですか。やはり管理局でも八神さんの治療は不可能だと。貴方はそう判断したのですね」
「ロストロギアの解析には多額の資金と膨大な時間が必要だ。ましてや闇の書ともなれば……解析にかけた瞬間に防衛システムが働き、甚大な被害が出る可能性もある」
闇の書の解析。
魔法が生活の基盤にある管理世界において、闇の書は幾ら資金を投じても惜しくない代物だ。
問題は時間の方。
「私がはやて君を見つけた時、指先程度だが既に彼女の足の麻痺は始まっていた。管理局が彼女の治療を始めてもはやて君が助かる可能性は極めて低い」
時空管理局という組織を深く知っているからこそ、グレアムははやてを助けることを早々に諦めた。
「だから、八神さんを利用して闇の書を封印しようと?」
「私がはやて君を見つけたのは、休暇を利用して日本の京都の観光に来ていた時の事だ。職業柄と言うべきか、魔力の反応を感知した私はそれを辿って事故現場に着いた」
当時の事を思い出して痛ましい表情をするグレアム。
「はやて君は両親の生家に遊びに行く途中で車の衝突事故に巻き込まれたようだ。ご両親はその事故で。即死だった。だが、はやて君だけは無傷で救出された」
「闇の書が、八神さんを守った?」
そうだ、と頷く。
「あの時点で守護騎士達が現れなかったのは幸いだったよ。そうなれば、騒ぎは大きくなっていたからね」
もしくは、そうなったらはやての両親は助かっていたかもしれないが。
「その後は、はやて君の父の友人を名乗り、彼女の保護責任者となった。都合の良いことに、はやて君の親戚は今より軽度だが足の麻痺が始まったあの子を引き取るのに難色を示していたからね」
ギル・グレアムにとって八神はやての境遇はあらゆる意味で理想的だった。
「八神さんの足の麻痺が本格化したことで学校を休学させたのも世間の目から少しでも遠ざける為。1人でも彼女が居なくなって悲しむ人間が減るようにした」
サポートを付ければはやては学校に通えたが、敢えてそうしなかった。
世間から孤立させ、孤独に追い込んだのも全ては闇の書の封印を効率良く実行する為。
もしもギル・グレアムがもっと若く、苦しんでいる誰かを救う為の強い熱意があったのなら、僅かな可能性に賭けて八神はやてを局員として保護し、救う術を模索していたかもしれない。
しかし彼は既に老い、闇の書がもたらすであろう被害の方に目を向けてしまった。
だから彼は八神はやてに手を差し伸べるのではなく、犠牲を彼女1人に留める道を選んだのだ。
勿論、それにまったく心を痛めない訳ではないだろうが。
「闇の書を抱えるはやて君を見つけた時は運命だと思ったよ。世界は私に闇の書の犠牲を終わらせることを望んでいるのだと」
「そうですか」
グレアムの運命論を否定する気はない。
それだけあり得ない可能性を引き当てたのだし、彩那自身、友人達と共にあの世界に喚ばれたのは、運の悪さが引き当てたのだと思っているからだ。
ある程度聞きたい事を聞き終えると、不意にドアが開き、リーゼ姉妹。そしてクロノが現れた。
クロノは彩那を見て目を見開く。
「彩那っ!?」
「どうも……」
クロノの驚きに彩那は平淡な声で返す。
ただ、すぐに冷静さを取り戻したところを見ると、可能性としては考えていたのだろう。
恩師が管理外世界の協力者。それも子供を拉致監禁したなどとは思いたくなかったろうが。
「貴方達はこんなことまで……っ!? いや、今は時間がない。この件は後で追及させてもらいます」
クロノはグレアムに質問する。内容の大半は先程まで彩那と話していた事とそう変わらない。
「見つけたんですね。闇の書を完全に封印する方法を」
闇の書は破壊しても次の主に転生するだけ。
グレアムが見つけた方法は、暴走を始める前に闇の書を主ごと永久凍結させるもの。その後は次元の狭間か、氷結世界に閉じ込めるのだとクロノは推測する。
そして否定しないところを見ると、不正解でもないらしい。
グレアム達の方法に対して八神はやてがそんな罰を受ける程の罪を犯していないと言う。
しかしリーゼ姉妹はその決まりのせいで闇の書の悲劇が繰り返されてきたと叫ぶ。そのせいでクロノの父も死んだと。
クロノは怒ることなく淡々と話す。
「グレアム提督達のプランには致命的な欠点があります。幾ら闇の書を封印し、何処かに隠そうと守ろうと、本気でそれを求める人間が現れれば、見つけ出してしまう。凍結封印自体、解除はそう難しくない。人の怒りや悲しみ。欲望や絶望が、必ず闇の書に辿り着いてしまう」
人間が隠した物ならば、人間に見つけ出せない道理はない。
それが10年先だろうと100年先だろうと必ず。
「現場が心配ですので、失礼します。彩那、君は?」
「行きますよ。ここに居る理由も無いですし」
テーブルに置かれたポーチを手に取って腰に巻く彩那。
出ていこうとする2人にグレアムが呼び止めた。
「アリア。クロノにデュランダルを」
「お父様……」
「もう私達にチャンスはないよ。持っていても、役に立たん」
グレアムに言われてリーゼアリアは観念したようにクロノに待機状態のデバイスを渡す。
「どう使うかは君に任せる。氷結の杖デュランダルを」
デュランダルを手に取るクロノ。
最後にと彩那が口を開く。
「私は、貴方の方法を否定するつもりはありません」
残酷なようだが、1人の少女と世界を天秤に掛けて、後者が重かったというだけ。
感情的に言えば気に入らないという気持ちもある。
子供を犠牲にしようとするやり方が、自分達を勇者に祭り上げ、戦争で人殺しをさせたあの国と重なるから。
「でも出来れば、八神さんから逃げずに、両親を失ったあの子の家族になってあげて欲しかった」
これまで八神はやてはどんな気持ちで過ごしていたのだろう。
誰も居ない家に帰り、ただ生きるだけの生活。
休学してからは文字通り独りぼっちな日々。
たとえそれが利用するためでも、グレアムは彼女の家族になることが出来たのだ。
それをしなかったのは、管理局にはやての存在を知らせない為というのもあるだろうが、それ以上に身近に置くことで決意が揺らぐのを怖れた為。
今更言ってもどうしようもないが、せめて裏切るその時まで、八神はやてを幸せにして欲しかった。
「行きましょう、ハラオウン執務官。海鳴まで一気に跳びます」
彩那は王剣の力で転移した。
「プラズマスマッシャー!」
「ディバインバスター!」
フェイトとなのはが闇の書に砲撃で挟み撃ちをする。
しかし闇の書のシールドを崩す事は出来ずにむしろ防御をしながら別の魔法で迎撃してくる。
「穿て、ブラッディダガー」
逆に闇の書の攻撃を防ぐなのはとフェイト。
ユーノとアルフも戦闘に加わり、数では有利な筈なのに、勝てるビジョンが見えない。
(もしかしたら、これまで会った誰よりも強いかも……!)
そう思ってもなのはとフェイトは諦める事はしない。
戦いながらもどうにか話を聞いて貰おうと説得を続けた。
しかし、そうも言ってられない事態が起こる。
「咎人達に、滅びの光を……」
掲げた手からミッド式の魔法陣が展開し、魔力が集まり始めた。
「あれはまさか……!?」
「スターライトブレイカー……」
なのはの切り札を使おうとする闇の書。
本来ならこの距離で使うような魔法ではなく、並の相手なら止めることが出来るのだが、これまでの戦いから全て此方の攻撃を防がれる可能性が高い。
直接喰らった事のあるフェイトが慌てて指示を飛ばす。
「アルフ! ユーノを!」
「あいよ!」
アルフはユーノを抱えると全速力で逃げ、フェイトもなのはを抱えてその場から距離を取り始めた。
逃げながらアルフが忌々し気に言う。
「なのはの魔法を使うなんて」
「なのはは前に蒐集されてる。その時にコピーされたんだ」
スターライトブレイカーの凶悪さを理解していないなのはがフェイトに問いかける。
「こんなに離れなくても」
「至近距離で食らったら、防御の上から撃墜される。回避距離を取らないと……!」
呑気ななのはの言葉に冷や汗を流すフェイトは焦りと苛立ちの交じった声で断言した。
高速で移動し、ある程度闇の書から距離が出来ると不意に声がかかる。
「これ、どういう状況か説明して貰っても良いかしら?」
聞き覚えのある声になのはとフェイトは上を向く。
「彩那ちゃん!?」
「クロノ!」
突然行方不明だった彩那とクロノが一緒に現れた事に驚く2人。
「彩那ちゃん!? 無事だったの!」
良かったと頬を緩ませるなのは。
フェイトが状況を説明しようとする。
再会を喜びたい気持ちもあるが、今はそれどころではない。
「はやてが闇の書の主で! 彼女がなのはの魔法を……!」
はやてが闇の書の主というのは知っているし、なのはの魔法という言葉と闇の書が集めている魔力にフェイトの拙い説明から大体を察する。
「
舌打ちする彩那。
そこでバルディッシュから報告が上がる。
『左方向300ヤード、一般市民がいます』
バルディッシュの報告になのはとフェイトが思わず息を止める。
「クソッ! こんな時に!」
クロノが焦りつつ指示を出す。
「その民間人の所に急ぐぞ! そうしたら、闇の書の攻撃を全員で防ぐんだ!」
一般市民の反応がある場所へと急行する4人。
すると逃げようとする2つの人影を発見する。
「あの! 危ないのでそこから動かないでください!」
なのはがそう言うと、2人がこちらに振り向く。
「その声、なのは……?」
「アリサちゃん! すずかちゃん!」
取り残された一般市民が親友の2人だったことに驚くなのは。
ついでに地面に着地した彩那を見て更に驚く。
「彩那ちゃんっ!?」
「少しごめんなさいね」
説明している余裕は無く、彩那は聖剣を振るってアリサとすずかを守る全方位のシールドを展開した。
「私が前で防壁を張るわ! だから3人は後ろで2人を守って!」
彩那は聖剣を横に両手で突き出す構えでシールドを張る。
「アンチマテリアルシールド!」
シールドに触れると魔力結合を散らせる特殊なシールドを4重に大きく展開する。
スターライトブレイカーレベルになると完全に無力化するのは無理でも幾重にも張ることで威力を大幅に軽減させる事は出来る。
なのは達も彩那の後ろでそれぞれ密集し、シールドを張る。
それと同時に闇の書がスターライトブレイカーを放った。
本来一直線に向かってくる筈のそれは広範囲の爆撃となって襲いかかってくる。
「防御こそが、私の本業なのよ!」
津波のような敵の攻撃を受けて腕を震わせながら防御する彩那。
1枚が破壊され、2枚目も硝子のように砕かれる。
3枚目が消し去られ、4枚目に皹が入る。
もう少しで最後の1枚が壊されようとする直前に敵の攻撃が収まった。
耐えきった事に一同が安堵の息を漏らした。
彩那は王剣を出して地面に突き刺す。
「一時撤退しましょう」
言うと同時に6人全員が入る魔法陣が足下に展開され、その場から消えた。
それを見ていた闇の書がギリッと歯を鳴らす。
「ホーランドの悪魔……」
おまけ:彩那とヴィヴィオ。
機動六課に保護された謎の少女であるヴィヴィオ。
恐がりな幼い子供であるヴィヴィオに六課のフォワード達は何とか彼女と意思疎通を図ろうと頑張るが、ヴィヴィオが畏縮してしまい、会話にならない。
そんな中で子供の相手に慣れているフェイトにより、少しだけヴィヴィオの警戒心を緩める事に成功する。
そこでタイミング悪く、ある人物が部屋に訪れた。
「ごめんなさい、テスタロッサ執務官。少し聞きたい事が有るのだけど」
やって来た綾瀬彩那にヴィヴィオがビクッと抱いている人形に力を込める。
顔を包帯でぐるぐる巻きにした異様な女が現れて、ヴィヴィオが恐怖で震えた。
そして────。
「びえぇえええんっ!?」
大泣きした。ギャン泣きである。
「もう! 彩那ッ!」
「え? これ私が悪いの?」
フェイトに責められて首を傾げる。
「とにかく今は出ていって!」
「いや、私は貴女に聞きたい事が……」
「そんなの後だよ!」
と、背中を押されて部屋を追い出されてしまった。
それからしばらくして、ヴィヴィオはなのはとフェイトをママと呼び、六課の面々に可愛がられて馴染んでいった。
特に2人を除けば、なのは達が仕事中に面倒を見てくれている寮母のアイナやザフィーラと一緒に居る事が多い。
そんなある夜に。
夜中にヴィヴィオは隊員寮のトイレから出てきた。
一緒に寝ていたなのはに付いてきて欲しかったが、その日は珍しくなのはの眠りが深く、揺さぶっても起きなかった。
フェイトもその日は泊まり込みで居らず、我慢出来なかったヴィヴィオは1人で部屋を出たのだ。
用を足して戻ろうとしたヴィヴィオだが、非常灯しか点いてない寮の廊下は暗く、まだ幼いヴィヴィオはブルッと震えた。
「う~」
それでも部屋に戻ろうとゆっくりと歩く。
「どうしたの? こんな夜更けに」
後ろから声をかけられたヴィヴィオは驚いて転びそうになるも、話しかけてきた誰かが受け止めてくれる。
「危ないわね。怪我はない?」
「う、うん……」
「そう」
ホッとした様子で息を吐くと、膝を曲げてヴィヴィオの目線に合わせる。
(だれだろう……?)
ぼんやりとそんな事を考える。
白いYシャツに制服のスカートという格好の、顔に刺青のある女性。
今まで会った事のない人にヴィヴィオは首を傾げる。
「それで、どうしたの? こんなところで」
「おトイレに……部屋にもどるの……」
拙く説明するヴィヴィオに女性は柔らかく微笑む。
その笑みにヴィヴィオは安心感を覚えた。
(きれいなひと……)
すると女性がヴィヴィオの手を握る。
「それじゃあ、なのはママのところに帰りましょうか。きっと心配しているわ」
「うん……」
そのまま女性に手を引かれて部屋に戻るヴィヴィオ。
部屋の前まで行くと、なのはが部屋から飛び出してきた。
「ヴィヴィオ!?」
「なのはママ!」
ヴィヴィオがなのはに抱きつく。
「もう。何処に行ってたの? 心配したんだよ?」
どうやらヴィヴィオが居ないことに気付いて慌てて起きたらしい。
「高町さんが起きないから、1人でトイレに行ってたみたいよ」
呆れた様子で説明する女性になのはがあっとした顔をする。
「そっか。ごめんね、ヴィヴィオ」
なのはに会って安心したのか、ヴィヴィオは急激な眠気に襲われる。
「ヴィヴィオを連れてきてくれてありがとう、彩────」
最後までなのはの言葉を聞き取る事は出来なかった。
機動六課も解散となり、皆がそれぞれの部署に戻ったり、新たな部署に配属されたりとなって1年が過ぎた頃。
なのははヴィヴィオと2人でまったりとテレビを見ていた。
なんとなく見ていたのは幽霊の特集番組。
心霊スポットを回るバラエティーだ。
ミッドにもこういう番組が在るんだなーと見ていると、ヴィヴィオが不可解な質問をしてきた。
「ねぇ、なのはママァ。ヴィヴィオとなのはママは前に幽霊とお話したことあるよね?」
「はい?」
言って置くが彼女は魔導師である。それもSF寄りの。
霊能力者の類いではないし。断じて幽霊と会った事もない。
「いつママ達が幽霊と会ったのかな?」
「え~? だって……」
ヴィヴィオが身振り羽振り説明する。
六課にいた頃、トイレから部屋まで付いてきてくれた女の人の事を。
話を聞いてなのはは合点がいき苦笑する。
彼女はヴィヴィオが怖がるからとあんまり近づかなかったし、今日まで素顔を見たのもその1回きりだ。
ヴィヴィオの中ではあの時に会った彼女は幽霊と結論付けて勘違いしていたらしい。
「いい? 良く聞いてね、ヴィヴィオ。あの人は────」
1年越しに明かされた真相にヴィヴィオの驚いた声が家に響いた。
「くしゅんっ!?」
「ん? どうしたん、彩那ちゃん? 風邪か?」
「いえ。どうせ誰かが私の悪口でも言ってるんでしょう」
「何で悪口限定なんや……」