世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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ル○○「死ぬことは恩返しじゃねぇぞ!そんなつもりで助けてくれたんじゃねぇ!生かされて死のうとするなんて、弱ぇ奴のやることだ!」


神剣

「手術は終わりましたよ、勇者アヤナ」

 

 ホーランドの技術者に手術の終わりを告げられて彩那は裸の体にシーツを巻かれて起こされる。

 鏡を見るとそこには今までには無かったホーランド式を表す凧形の刺青が両頬と額。それと喉元に描かれている。

 

「これは勇者の剣本来の力を引き出し、制御する為の術式です。これでアヤナ様は真の勇者として神の剣を振るうことが可能になりました!」

 

「そうですか……」

 

 興奮気味に説明する技術者達とは反対に、彩那は気怠そうに体を曲げる。

 冬美と璃里と渚。そして王女であるティファナを生贄にして完成した勇者の剣。

 その真価を発揮する時が来て、技術者達は嬉しそうだ。

 本来振るう筈だった王女より、実戦経験豊富な彩那が手にする方が彼らにとって都合が良いのかもしれない。

 そこで手術室の扉がバンッ! と音を立てて開かれた。

 

「エリザ王女……」

 

 それはティファナ王女の妹である第二王女だった。

 まだ幼い少女は泣きそうな険しい表情で手術室に入ってくる。

 扉と彩那が座る手術台の中間で止まったエリザは震える唇で訊いてきた。

 

「アヤナ様……アヤナ様が姉様を殺したって……うそですよね。だって、おふたりはあんなに仲がよくて……」

 

 誰かがエリザにそう言ったのか。

 そんな筈はないとエリザは彩那を信じてくれている。

 だけど────。

 

「えぇ。そうよ。ティファナ王女は私が殺した。聖剣にリンカーコアを捧げる為に」

 

 待機状態の聖剣を手にして告げる彩那。

 慕っていた姉が自殺したとは言わなかった。

 エリザは信じられないとばかりに首をゆっくりと横に振り、彩那の言葉を呑み込むと、悲しみの表情が怒りに変わった。

 そして手にしていた小さなペガサスの置物を彩那に投げる。

 それは、少し前に彩那が誕生日プレゼントでエリザに贈った物だった。

 硝子細工だった置物は床に落ちて片翼が砕ける。

 

「この裏切り者っ!!」

 

 手術室にエリザの怒声が響く。

 彩那に近づいたエリザが体を揺さぶってきた。

 

「返せよ! 姉様を返してっ!!」

 

「……」

 

 責め立てるエリザを彩那はされるがまま黙っている。

 

「返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せぇっ!!」

 

 泣きながら返せと続けるエリザに、彼女の従者がやって来た。

 

「エリザ様!?」

 

 従者が彩那からエリザを引き離し、手術室から退室させた。

 それを見ていた技術者達が彩那に問う。

 

「よろしいのですか?」

 

「いいですよ、別に……どうでも……」

 

 憎める相手がいた方が、エリザにとって良いだろうと判断して。

 

(私がさっさと死んでいれば良かったのだし)

 

 ティファナ王女が死ぬ前に、彩那が死んでいれば、彼女が自殺する必要はなかった。

 そういう意味ではティファナ王女が死んだ責任は彩那にも有る。

 

(それに……)

 

 壊れたペガサスの置物を見る。

 

 ────もっともっと私を責めて欲しい。

 ────もう二度と立ち上がれないくらい体も心もズタズタに。

 ────この戦争が終わったら、生きる意志がなくなるくらいに。

 

 全部失くしてしまった。

 帰る理由も、生きる理由すらもない。

 誰にも聞こえない声量で呟く。

 

「大丈夫……全部終わったら、私もみんなのところに逝くから。だから少しだけ待っててね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇の書が放ったスターライトブレイカーを防いだ後に彩那が転移した場所は町を見渡せるビルの屋上だった。

 

「この魔法陣の中は外から認識されない結界を張ってあるけど、そう長くは持たないと思う。休憩がてらに意見を擦り合わせましょうか」

 

 闇の書を対処する事は一致しても、やり方が違えばお互いが邪魔になりかねない。

 しかし周囲はそう落ち着いてはいられなかった。

 

「ちょっと! 何が起きてるのか説明しなさいよ! 特に彩那! アンタ今までどこに居たの!? それに何よその顔!」

 

 突然こんな事態に放り込まれた混乱から彩那の顔の刺青を含めて説明を求めるアリサ。だが彩那はその要望を却下する。

 

「悪いんだけど、本当に時間がないのよ。説明なら後日高町さんとテスタロッサさんに訊いてもらえるかしら?」

 

『えぇっ!?』

 

「アンタもしろ!」

 

 説明を丸投げされてなのはとフェイトが声を上げ、アリサが怒声を上げる。

 そこですずかが彩那に問いかける。

 

「彩那ちゃん、もしかして凄く疲れてる?」

 

 言葉の端々に疲労の色を察してすずかが訊くと彩那は溜め息を吐く。

 

「ここ2日間、何にも口にしてないから少しね……」

 

 結局、出された食事には一切手を付けずにここへ来たので空腹と疲労がとてつもない。

 自業自得と言えばそれまでだが。

 それですずかは鞄からチョコレートを取り出す。

 

「あの、もし良かったら」

 

「ありがとう……」

 

 車で移動していたすずかとアリサは、途中で買い物をする為にコンビニで降りたのだが、運悪くそのタイミングで結界内に取り残されてしまった。

 チョコレートを一口食べると彩那が本題に入る。

 

「現状、私達が取れる手段はそう多くない。まず1つは、闇の書の主である八神さんを殺害。それで今回の闇の書事件は一応解決する」

 

「だ、だめだよっ!」

 

「何を言うの、アヤナッ!?」

 

 彩那の言葉に反応するなのはとフェイト。

 特に母が殺されているところを見ているフェイトとしてはまったく冗談に聞こえない。

 

「なら、2つ目の案で、ハラオウン執務官のデバイスには闇の書を永久封印する術式がある。それで闇の書を封印する」

 

「おい僕は────」

 

「扱いに馴れたデバイスではなく、デュランダル(それ)を手にしているのはその事態を想定しての事でしょう?」

 

 彩那の言葉に黙るクロノ。

 いくらグレアム達の計画を否定しても、闇の書が完全に暴走すれば使わざる得ない事も覚悟している。

 

「もし、その封印をしたらはやてちゃんは?」

 

「死ぬ訳じゃない。だけど、闇の書と一緒に永久に眠る事になる」

 

 五十歩百歩な結末の予想に苦い表情になる。

 

「それじゃあダメだ。意味がない。全部はやてに押し付けて終わりなんて、そんなの酷すぎるよ」

 

 絞り出すようにフェイトは自分の気持ちを吐露する。

 

「それにアヤナ。もしはやての命を奪うなら、自分がって思ってるよね? 母さんの時みたいに。それも、嫌だ」

 

 きっと彩那はそれが出来るとフェイトは思う。

 本当にどうしようもなくなったら、それを選べると。

 それを強さと呼べるのかはフェイトには分からないが。

 

「フェイトちゃん……」

 

「なら、別の案が必要ね。直接対峙して2人はどう思った?」

 

 情報が必要な為、彩那は2人に訊く。

 

「闇の書さんは、はやてちゃんの願いを叶えるって……」

 

「八神さんの願い?」

 

「うん。シグナム達を消されて、全てが夢であればいいって」

 

「そう」

 

 その前にやることが有るでしょうにと頭を押さえる彩那。

 クロノが難しそうに意見を口にする。

 

「闇の書に攻撃行動の停止と八神はやての解放を通告するのがセオリーなんだが……」

 

「それは素敵な案ですけど、望みは薄いでしょうね。向こうは此方を殺す気で攻撃してますし。ハラオウン執務官は女性を口説くお自信が?」

 

「その言い回しはやめろ! だがやはり此方に従う可能性は低いだろうな」

 

 意見が詰まり、彩那は別の場所に居るユーノに念話を繋げる。

 

『スクライア君』

 

『彩那!? 良かった無事で!』

 

『再会を喜ぶのは後にしましょう。それよりも闇の書について調べていた貴方に訊きたい事があるの』

 

 闇の書に対する対応策はないかと問いかける。

 当然ユーノは難しい表情をする。

 

『……ごめん。確実と言える方法は見つからなかった。でも、もしかしたらだけど、闇の書の主の意識が浮上すれば、或いは』

 

『今まで覚醒した後で闇の書の主が意識を取り戻した事は?』

 

『見つからなかった。だからこそ主が意識を取り戻せば、闇の書のプログラムに介入して主導権を握れる可能性がある。そうじゃないと夜天の魔導書を改竄出来た理由が説明出来ない』

 

 念話に割って入ってきたクロノの質問に答えるユーノ。

 彩那がなのはとフェイトに話しかける。

 

「聞いてたわね、2人共」

 

 コクンと頷くなのはとフェイト。逆にアリサとすずかは何が? と目を丸くする。

 なのはが意見を言う。

 

「ならやっぱり、闇の書さんとお話してはやてちゃんを起こしてもらうしかないかな?」

 

「いえ。もう少しだけマシな方法があるわ。私が闇の書の内部に侵入して、八神さんを直接起こす」

 

「そんな事ができるの?」

 

「一応ね。私が使うのは初めてだけど、前例はある。私の存在をデータ化して闇の書の中へと侵入させる。ただ、八神さんの意識の在る場所に直接行けるわけじゃないから、捜索には時間がかかる。それに内部に侵入するのにも足止めが要る。バインドとかで最低でも3分……いえ、2分は拘束して欲しいわね」

 

「2分……」

 

 先程の戦闘でアルフとユーノがバインドで拘束したが、一瞬で解除されてしまった。

 2分でも難しいように思える。

 

「でも、やるしかないよね」

 

 覚悟を決めたようになのはは表情を引き締めた。

 

「でも忘れないで。時間がないのよ。闇の書はいつ八神さんの体を破壊して暴走するか分からない。成功する可能性はかなり低いわ」

 

 彩那が闇の書の内部に侵入出来たとしても、八神はやてを見つけられるか分からない。闇の書の管理権限を掌握できるかも未知数。

 正直、殺害や封印の方がまだ可能性が高いくらいだ。

 

「でも、彩那ちゃんははやてちゃんを助けてくれるんでしょう?」

 

 至上の信頼を彩那に寄せるなのは。

 

「だって彩那ちゃんは勇者だからね。きっとはやてちゃんを助けてくれるよ」

 

「酷い殺し文句ね……」

 

 苦笑する彩那。

 結局勇者など、人殺しの兵器と同じなのに。

 

「そろそろ向こうがこっちに気付く頃ね。先に行ってて。こっちも準備に取り掛かるから」

 

「2人はエイミィに安全な場所へと移動させる。なのはとフェイトも安心して戦いに挑んでくれ」

 

「アリサ。すずか。巻き込んじゃってゴメン。説明も出来なくて」

 

 謝るフェイトにアリサは仕方ないなとわざとらしく息を吐く。

 

「説明してる時間は無いんでしょ? 色々と訊きたい事も有るけど、今は我慢するわ。でも後で絶対に話してもらうからね! 特に彩那! アンタ逃げるんじゃないわよ!」

 

「その余裕が有ったら」

 

 指差すアリサに彩那は肩を竦めた。

 結界を解除すると同時にアリサとすずかの足下に転移用の魔法陣が出現する。

 

「あの! 事情はよく分からないけど、みんながんばって!」

 

 すずかの応援と共に2人がその場を去る。

 離れた位置にいた闇の書が此方に向かってきている。

 

「わたしは戦いながら闇の書さんとお話してみる。確かに聞いてくれないかもだけど、だからってこっちが諦める理由にはならないもん」

 

「うん。少しでも可能性があるなら試したい。それではやてを助けられるかもしれないし」

 

「……好きになさい」

 

 あれだけ説明しても希望を捨てない2人の諦めの悪さに観念する彩那。

 なのはとフェイトは向かってくる闇の書と戦うために飛び立つ。

 

「僕はてっきり、君が八神はやての殺害や封印を勧めるかとおもったが……」

 

「……八神さんが悪くないのは事実ですから。それに犠牲になるなら────いえ、なんでもないです」

 

「? 先に行ってる。君も出来る限り急いでくれ」

 

 クロノも飛び立つと、彩那は待機状態にある残り3枚の剣を取り出す。

 

「さて、やりますか」

 

 4本の剣を全て展開し、手に持った聖剣の左右に宙に浮いた霊剣と魔剣。前に王剣が位置する。

 誰に聞かせる訳でもなく、彩那は語り始めた。

 

「元々、4本の剣は1つの剣だった。先史魔法文明の遺産。今で言うロストロギアであるこの剣を解析した事でホーランド式。そしてホーランド王国が生まれた」

 

 4本の剣から強い光が生み出される。

 

「この剣こそが始まりにして辿り着く集結の形。4人の生贄と束ねる者を揃えて、神の剣は姿を現す」

 

 4本の剣を覆う光は段々と範囲を狭め、1本の剣の影が光の中に作り出された。

 完成を待ちながら彩那は思う。

 

(この戦いで犠牲になるのなら、それは私からであるべきよ)

 

 八神はやては巻き込まれただけ。彼女自身は誰も殺していない。

 死ぬ順番があるならば、先ずは人殺しである自分から死ぬべきだ。

 そうでなければあまりにも理不尽過ぎる。

 

「行きましょう、皆。ここからは、ロストロギア(怪物)同士の戦いよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇の書との戦闘を再開しながらなのは達は彼女に話しかける。

 

 

「聞いてください闇の書さん! わたしたちは、はやてちゃんを助けたいんです!」

 

「闇の書が完成した以上、主が助かる道はない。私はただ、主の願いを叶えるだけだ」

 

「全てを無かったことにしたいってこと! 確かにあの時はそう思ったかもしれない! けど、はやては心の底からそんな事を望むような子じゃない!」

 

 会ったのは今日初めてだが、八神はやてが心からこんな事を望むとは思えずフェイトは反論する。

 

「止まれ! これ以上は本当に取り返しの付かない事になるぞ!」

 

「既に手遅れだ。私が、闇の書と呼ばれた時から……」

 

「まだ終わりじゃない! 終わらせたりしない!」

 

 なのはが叫び、溜め無しで砲撃魔法を撃つ。

 シールドで防御されるが、背後に回ったフェイトがバルディッシュを振るう。

 

「この、駄々っ子!」

 

 接近してのフェイトの攻撃を受け流され、勢いのまま流される。

 姿勢を立て直そうとするも、フェイトの体がバインドで縛られた。

 

「お前達も、闇に沈め……」

 

 闇の書の手の平に魔力の球体が生み出される。

 フェイトを呑み込むほどの大きさに膨れ上がった魔力が放たれる。

 

「フェイトちゃん!?」

 

「フェイト!!」

 

 なのはとクロノが助けようとするが、間に合わない。

 爆発する魔力。周囲に余波が響く。

 爆煙が消え去ると、そこにはフェイトを守る為にシールドを展開している彩那が割って入っていた。

 しかしその姿はこれまでとは些か異なっていた。

 勇者服が青を基調としていたのが、今はマントを含めて白に変化している。

 何よりの変化は手にしている剣だ。

 今まで使っていた4本の剣とは違う5本目の剣。

 形状は聖剣に似ているが明らかに違う。

 切っ先から柄まで純白の神々しい剣。

 

「神剣の、祝福を」

 

 手にした剣を構える彩那。

 闇の書はそんな彩那を見て拳を握った。

 

「ホーランドの悪魔……!」

 

「また懐かしい呼び名ね」

 

 戦争時代、活躍が広まるにつれて彩那達にはホーランドを頭に様々な2つ名が敵国に付けられた。

 勇者。

 魔女。

 悪魔。

 蹂躙者。

 破壊者。

 etc.

 味方にとって有り難い存在が敵にとってはそうではないという例である。

 

「さてと。始めましょうか。終わりの始まりを」

 

「幾ら貴様でも、私には────」

 

「そういうのはいいのよ」

 

 いつの間にか闇の書に接近した彩那が彼女の頭を掴んで移動すると、ビルに向かって投げ飛ばした。

 あまりの速度と力技に周りが茫然となる。

 

「来なさい。少し遊んであげるわ」

 

 なのは達がバインドをかけ易いように引き付けようとする彩那。

 闇の書が彩那を睨む。

 

「また……また貴様は我らの主を殺すのかっ!!」

 

 憤怒の表情に変わった闇の書は彩那に襲いかかった。

 神剣で迎え撃つ彩那。

 突進した闇の書は彩那を押さえ込み叫ぶ。

 

「覚えているぞ! あの時! あの時代で! 騎士達と幼い主をお前達が手にかけた事をっ!!」

 

「……うるさいわね」

 

 彩那が静かに嫌悪感を滲ませて神剣で闇の書を払う。

 

「その主を、今見殺しにしてる人に何も言われたくないのよ」

 

 このまま時間が過ぎれば八神はやては確実に死ぬ。

 それなのに、主を助けようともせずに暴れ回っている闇の書に彩那は苛立ちを募らせていた。

 

「癇癪を起こした女の戯言に、誰がまともに耳を傾けるか。馬鹿馬鹿しい……! 貴女の自己満足に八神さんを巻き込まないでよ」

 

「私は主の為に……っ!!」

 

「八神さんが助けられないから、代わりに彼女の願いを叶えて、自分は主の為に頑張ってるんだっていう免罪符が欲しいだけでしょう? 独善も甚だしい」

 

 距離を取った彩那は刃の先端を闇の書に向ける。

 すると横並びに魔法陣が2つ展開される。

 

「イフリートキャノン……」

 

 炎による極大の砲撃魔法が発射され、闇の書を吹き飛ばした。

 撒き散らされた炎が建物にも伝わり、幾つかの建物を焼く。

 

「あ……」

 

「やり過ぎだ!? 君は八神はやてを殺す気か!!」

 

 思った以上に出力を出してしまった。

 苛立ちから冷静さを取り戻した彩那にクロノが叱りつける。

 

「アヤナ! 本当にはやてを殺す気はないんだよね!」

 

 肩を揺らしてきて問うフェイト。

 非殺傷設定の無い彩那のデバイスでは本当に殺害しかねないのだ。

 

(やっぱり、神剣の出力調整は難しいわね)

 

 神剣を見ながら内心で息を吐く。

 まだ使うのは2回目。しかも前は手加減不要のバケモノだった為に、力を抑えて戦うのはこれが初めてなのだ。

 

(殺してはないと思うけど……)

 

 派手な攻撃だったが、あの程度で殺せるのなら可愛いモノだ。

 彩那の予想は正しく、バリアジャケットが少し破損しているが、息1つ乱していない。

 

「なんと言われようと、私は我が主の願いを叶える。それだけが私が主に出来るただ1つの────」

 

「今よっ!」

 

 彩那の合図にクロノ、なのは、フェイトが同時にバインドをかける。

 

「大人しくしてて、闇の書さん!」

 

「この程度の拘束でっ!」

 

 闇の書が即座にバインドを破壊しようとする。

 そこで彩那が闇の書に急接近し、神剣を彼女の胸に突き立て────いや、刃が吸い込まれる。

 

「後はお願い」

 

 そう告げると彩那がその場から光の粒子となって姿を消す。

 

「1分15秒……2分も要らないじゃないか」

 

 おそらくは彩那が成功させたのだろうと察してクロノは胸を撫で下ろす。

 不思議そうに自分の手の平を見つめる闇の書。

 彩那は自分の役割を果たす為に赴いた。

 だから残った者達も出来ることをしなければならない。

 

「闇の書さん! お話を聞いて欲しいの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇の書の内部に侵入した彩那は自分の肉体(そんざい)を再構築させた。

 

「さて、八神さんを探すとしましょうか。それに……」

 

 彩那は周囲を見回す。

 真っ暗闇で視覚が意味を成さず、明かりを照らす。

 

「闇の書の完全破壊。外からは無理でも内側からなら或いは」

 

 外からどう破壊しても転生してしまう闇の書。しかし内側からならその転生機能本体を見つけて破壊する事も可能かもしれない。

 彩那が闇の書の内部への突入を進言したのはそういう理由もあった。

 もちろん八神はやての探索が最優先だが。

 

「取り敢えず、探索魔法を走らせて……」

 

 魔方陣を展開し、はやてや闇の書の根幹のシステムを探り始める。

 それから少しして。

 

「ん?」

 

 膨大な魔力反応を上から感知する。

 上を向くと、巨大な何かが降ってきた。

 

「なっ!?」

 

 急いで落下範囲から外れる為に移動する彩那。

 振り返って確認すると、強いて言えばそれは桁外れに大きな亀だろうか? 

 翼や蛇の等が無数にくっ付いており、大分歪な形だが。

 相手の出方を窺っていると、蛇の口から砲撃が撃たれる。

 その攻撃を回避しながら舌打ちした。

 

「まぁ! 友好的な存在なわけないわよね! 外部からの侵入を排除する防衛システムってところかしら!」

 

 彩那は蛇の首に近付いて斬り落とす。

 しかし首を落としてもすぐに再生を始める。

 その機能に彩那は顔をしかめた。

 

「帝国の古代兵器といい、なんでこういうのって再生能力が当たり前に付与されてるのかしら! ズルいったら!」

 

 今度は複数の蛇の頭が一斉に彩那に狙いを付ける。

 発射された砲撃の網目をすり抜ける形で回避行動を取る彩那。

 しかし蛇が頭を動かす事で砲撃が迫ってくる。

 

「クソッ!」

 

 悪態を吐いてシールドを張って迫る砲撃を防いだ。

 砲撃が収まると、多数の鎖が全ての蛇の首に絡み付く。

 

「こっちにはオーバーSランク5人分のリンカーコアが有るのよ! この程度の攻撃でっ!!」

 

 神剣は生贄として捧げた4人のリンカーコアを使用者と連結して扱う事を可能にする。

 それにより、そこらの高ランク魔導師とは比べ物にならない魔力を扱えるようになる。

 

 

 

『璃里の戦い方ってボク達の中で1番(いっちゃん)エグくない?』

 

『あぁ。それ、私も思ってたわ。バインドで縛って爆殺とか。罠を張って一気に吹き飛ばすとか。顔に似合わずエゲツない戦法取るなって』

 

『酷いよ! ねぇ、彩ちゃん! 2人共酷いよね!』

 

『……ごめん、私も実はそう思ってた』

 

『そんな!』

 

 

 

「チェーンボム!!」

 

 縛った蛇の首が同時に爆発する。

 続いて敵の上空に巨大な魔法陣を出現させた。

 

『でも、冬美って名前なのに魔力が炎に変換されるのって変なのー』

 

『別に良いでしょ。使えればなんでも』

 

『ほら、冬美ちゃん怒りっぽいし?』

 

『あ、なるほど』

 

『張っ倒すわよアンタら!』

 

 

 

「インフェルノジャッジメント!」

 

 巨大な炎の剣が出現し、敵の真ん中に突き刺さる。

 痛みはあるのか、苦痛で吠えた。

 

 

 

『渚ちゃん。斬るときにスーパーとかハイパーとかたまに付けてるけど、なにか違うの?』

 

『気合い!』

 

『……』

 

『ちょっと冬美! そのバカにしたような視線やめてよ! 冗談だから!』

 

『じゃあやっぱり違うんだ』

 

『勇者斬りは身体能力を限界まで上げて斬ってるの。スーパーは加えて霊剣にも魔力を最大まで注いで斬ってる。ハイパーは魔力の刃を伸ばして斬りつけてるよ。その分威力は落ちるし、燃費は悪いけどね』

 

 

「ハイパー勇者斬りぃっ!!」

 

 魔力により伸びた刃が巨大な敵を両断した。

 神剣の特権。捧げたリンカーコアの持ち主の戦闘経験を使用者にフィードバックさせる。

 魔法戦闘の経験の同化と言っても良い。

 しかし敵も再生を始めている。

 防衛システムは彩那が斬ったパーツが球体となって襲ってきた。

 

「チッ!」

 

 

『あの鉄槌の騎士の攻撃、どうやったら防げるかな? いくら硬さを増しても壊されるんだよね』

 

『なら、弾いちゃえば良いんじゃない? ゴムみたいにさ』

 

『渚ちゃん。今わたしのどこを見て言ったの?』

 

『術式の組み立て、手伝いましょうか?』

 

『うん! お願い! 冬美ちゃん。璃里ちゃん』

 

『ボクはー?』

 

『なにか美味しい物買ってきて』

 

『ラジャー!』

 

 

 

「バウンドシールド!!」

 

 彩那はバウンドシールドで自分の倍以上ある球体を受け止める。

 バウンドシールドに衝突した球体は巨大な敵へと跳ね返り、上から落ちる形で球体が敵に落ちる。

 潰された防衛システムに対して呟く。

 

「悪いけどね。ここからは、戦闘をする気ははないわ。一方的に蹂躙させてもらう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回彩那が闇の書に侵入出来たのは、原作でフェイトを取り込んだのと似たような魔法を使ったからです。
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