世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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祝福の風(リインフォース)

 綾瀬聡子はこの2日間、行方の分からない娘の無事を祈っていた。

 夫は今も娘である綾瀬彩那の目撃情報を求めて聞き込みを行っている。

 聡子も勿論その手伝いをしていたが、目に見えて疲労が溜まっている妻を見兼ねて、夫が休むように言い含めたのだ。

 しかし満足に仮眠すら取れず、ボーッと淹れた紅茶を飲んでいる。

 

「彩那……どうしてあの子がまた……」

 

 誰も答えてくれない疑問が延々と頭の中で繰り返される。

 1年と少し前、行方不明だった娘が保護され、病院に搬送されたと連絡を受けた時は移動する1分1秒がとても長く感じられた。

 病室に訪れると、そこには全身に包帯を巻かれて眠る娘がいた。

 顔には刺青が彫られていたが、見間違う筈のない大切な娘。

 誰が愛娘をこんな姿にしたのか。

 その怒りは当然沸いてきたが、それでもその時はただ、娘が生きて戻ってくれたことが涙が零れるくらいに嬉しかった。

 入院して3日程経ち、彩那が目を覚ました時は心臓が止まるかと思った。

 目を覚ました娘は不思議そうに自分を見る。

 まるで数年振りに会った知人が誰か確かめるように震える声で訊いてきた。

 

『おかあ、さん……?』

 

 娘の問いに上手く答えられず、泣きながら頷く事しか出来なかった。

 その反応に彩那は気にした様子もなく、疲れを吐き出すように、信じられない言葉を口にした。

 

『なんで……私なんかが生きてるの……?』

 

 誰に向けて言うでもない独白。

 その絶望に塗れた声は今でも忘れる事が出来ない。

 他の子達の家族に遺品と言って持ち物を返し、泣きながら謝り続けていた。

 傷だらけの娘が謝り続ける姿に他の家族は彩那を責めることが出来なかったが、程無くして3つの家は他所へと引っ越す形となる。

 退院して一緒に暮らすようになってから、彩那に違和感を覚えた。

 まるで大人と会話してるような。

 確かに元から際立って明るい性格という訳では無かったが、ここまで物静かで達観した子ではなかった。

 いったい、どんな経験をすればたった1ヶ月でこうまで性格が変わってしまうのか。

 

「でも、そんな事よりも……」

 

 どんなに変わってしまっても、生きていてくれればいい。

 帰ってきてくれさえすれば、それだけで良いのだ。

 

「彩那……どうか無事で……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オールコンサート・フルストライクッ!!」

 

 幾つもの魔法陣を展開する。

 本来は各遠距離攻撃魔法を順々に撃ち込む魔法だが、彩那は全ての魔法陣を同時展開し、一斉発射させる。

 射撃、斬撃、砲撃、砲弾、誘導弾、誘導刃。

 あらゆる遠距離攻撃魔法が雨あられと巨大な敵へと降り注ぐ。

 全て撃ち終え、体の4割が消し飛んだ敵に彩那は接近する。

 

「これで終わりよ! (スーパー)勇者斬りぃっ!!」

 

 神剣を振り下ろして首を両断した。

 離れて数回大きく呼吸する彩那。

 敵が動かなくなったことを確認して意識を別に向ける。

 

「八神さん……」

 

 仕掛けている探索魔法には未だに反応がなかった。

 

「なら!」

 

 彩那は剣を振るって周囲を攻撃し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海鳴の街では未だに闇の書との戦闘が続いていた。

 

「闇の書さん! 話を聞いて!」

 

「話す事など、ない!」

 

 こちらの呼びかけを拒否して攻撃を続ける闇の書になのはは訴え続ける。

 

「あるよ! わたし達みんなが力を合わせれば、きっとはやてちゃんを助けられる! だから戦うのをやめて!」

 

「不可能だ。我が主が闇の書()に選ばれた時からこの結末は決まっていた!」

 

 そこで魔力刃を出した大鎌形態のバルディッシュで接近戦に挑むフェイト。

 

「まだ決まってない! 貴女が勝手にはやての運命を決めないで!」

 

 シールドでバルディッシュの刃を防ぐ闇の書。

 既に闇の書がいつ本格的な暴走に入ってもおかしくない状況。

 むしろ何故まだ暴走が始まらないのか不思議なくらいだ。

 時間がないと彩那が何度も念を押した言葉が重く圧しかかる。

 

(やっぱり、出し惜しみしてる場合じゃないよね)

 

 まだ調整が不充分な為、エイミィから使用を禁じられていたフルドライブシステム。

 少しでも状況の打開に繋がるなら、ここで躊躇っていては駄目だと直感する。

 

「我が主は覚める事のない永遠の夢の中へいる。お前達もすぐに────」

 

「永遠なんてないよ」

 

 闇の書の言葉を遮り、なのははレイジングハートを構える。

 

「変わらないモノなんてないよ。たとえいつか眠るとしても、それは今じゃない」

 

 子供が大人になるように、不変なモノなどない。

 幸福も不幸も、いつかは終わるのだ。

 だから今日、闇の書の悲劇を終わらせる為に。

 

「レイジングハート! エクセリオンモードッ!!」

 

「なのはっ!?」

 

 使用を禁じられていたフルドライブを使おうとするなのはにクロノが非難めいた声を出す。

 逆にフェイトは覚悟を決めたようになのはに続いた。

 

「バルディッシュ! ザンバーフォームッ!!」

 

 レイジングハートの先端が槍状へと変化し、バルディッシュは雷光の大剣を生み出す。

 

「絶対に、終わらせたりしないから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八神はやては夢から意識を覚醒させようとしていた。

 そんな彼女の目元に誰かの手が添えられる。

 

「お眠りください、我が主。貴女が傷付くことのない。夢の中へ」

 

 優しい声だった。

 はやてを心から労り、心配する女の声。

 だから、その声の命じるままに眠りに落ちたい気持ちはある。

 しかし、ここで起きないといけないという直感がギリギリのところで完全な眠りを拒んでいた。

 目蓋を上げなければ、取り返しのつかない事になりそうな、そんな予感。

 なのに、はやての意思とは裏腹にその意識は沈み始めて────。

 

 その瞬間、はやての背後から大きな音と衝撃が走った。

 

「わぁっ!?」

 

 2度寝に入ろうとしたら家に自動車が突っ込んで来たような衝撃にはやては強制的に意識を立ち上げる。

 

「な、なにっ!?」

 

 背後を向くと、そこには見知った。しかし初めて見る姿の少女がいた。

 

「あ、綾瀬さん!?」

 

「八神さん。やっと見つけ……チッ!」

 

 鎧姿に顔に刺青をした同級生が舌打ちをしてはやてのところまで走ると、車椅子から抱き上げる。

 

「貴様っ!? 何故ここに!!」

 

「自分のことは自分でなんとかなさい!」

 

 傍にいた銀髪の女性に対して彩那は遮るように答えになってない答えを返した。

 しかしその理由はすぐに判明する。

 

 彩那がはやてを抱えて飛ぶと同時にその場所に光線が飛んできて車椅子を破壊した。

 

「ビ、ビームゥッ!?」

 

「やっぱり追ってくるのね……!」

 

 忌々しいと彩那が苦い顔をする。

 魔力砲が飛んできた方向に目を向けると、空間の亀裂から異形の生物の頭が入り込んでくる。

 

「な、なんなんアレッ!?」

 

「闇の書の防衛システムの類いよ! 私という異物を排除する為に襲ってきてるの! 倒しても倒しても新しくやって来てね! 主を破滅させるだけのくせになんでそういうところだけは充実してるのかしら!」

 

 彩那は手にしている剣を向けて砲撃魔法を撃つ。

 炎の砲撃を喰らって巨大な頭部が痛そうな声で空間の亀裂から頭を動かす。

 その様子にはやての中で痛そうでかわいそうという感情が過る。

 それが場違いだと理解しながら。

 しかしその防衛システムは壁を壊すように空間の亀裂を広げてこちらに侵入してきた。

 

「それにしても、よく起きられたわね」

 

「いやいや! あんな大きな音立てられて寝てられるほど神経図太くないで?」

 

「あぁ。それもそうね」

 

『────っ!!』

 

 防衛システムが吼える。

 彩那がはやてを抱えたまま身構えるが、相手の目標はこちらではなかった。

 

「あぁっ!?」

 

 闇の書の管制人格。

 彼女に触手が伸びてその体を絡め取る。

 そのまま防衛システムに引きずられる闇の書。

 

「綾瀬さんっ! あの人がっ!?」

 

「まさか! この中だと戦えないの!?」

 

 外側で戦り合った時の戦闘力だと思っていたので、無抵抗で捕まるのが予想外だった。

 

「八神さん! しっかり掴まってて!」

 

「う、うん!」

 

 はやてが彩那の首に腕を回したのを確認して飛翔する。

 突然ジェットコースターに乗ったような恐さにはやては目を瞑った。

 彩那は銀髪の女性に絡まっている触手を斬ると神剣を脇に抱えて乱暴に女性を救出した。

 着地すると彩那は2人を降ろし、刀身に炎を纏わせ、反対の手を前に出す。

 展開した魔法陣から鎖が生まれ、防衛システムを拘束する。

 

「ハァッ!!」

 

 炎を纏った剣を振るうと、自分達と防衛システムの間に炎の壁によって阻まれた。

 

「これで、少しは時間が稼げるでしょ」

 

 突き刺した剣を支えにして疲れた様子で腰を落とす彩那。

 しかし、すぐにはやての方へ視線を向ける。

 

「取り敢えず、現状を簡単に説明するわね」

 

 これまで守護騎士達が八神はやての病気を治す為にリンカーコアの蒐集を行っていたこと。

 しかし、闇の書には重大なバグがあり、それによって文字通り世界の危機に陥っていること。

 それらを止める為に外ではなのはとフェイトが頑張ってくれていることも。

 

「それを解決する為には、八神さんが闇の書────いえ、夜天の魔導書の管理者権限を握る必要があるのよ。ここから先は貴女の決断にかかっていると思って」

 

 まだ9歳の女の子には重すぎる決断だと思うが、ここから先は八神はやてが自分で選択しなければ意味がない。

 そこでバインドを砕こうともがき、吼える防衛システムにはやてはビクリと肩を震わせた。

 そんなはやての肩に彩那が手を置く。

 

「恐がらなくていいわ。アレには危害を加えさせないから」

 

 そこから彩那は自分の事を話し始める。

 

「私にはね。とても大切な友達がいたの。大好きだった。皆の為なら死んだって構わない。そう思えるくらいに」

 

「綾瀬さん……」

 

「でも、守られたのも、助けられたのも私の方だった。大切なモノは、全て手から溢れ落ちてしまった。でも八神さん。貴女はまだ間に合う筈なのよ」

 

「え?」

 

 守護騎士達は人間じゃない。夜天の魔導書が存在する限り、騎士達も消滅しないのだ。

 はやてが管理者権限を手にすれば、再度召喚する事も不可能では無い筈。理屈の上では、だが。

 話を聞いて、はやても語り始める。

 

「綾瀬さん。もしもわたしが居なくなって、みんなに迷惑がかからなくなるんなら、死んでもえぇって思ってたかもしれへん。けど……」

 

 今日のクリスマスパーティーを思い出す。

 両親が生きていた頃と同じくらい幸せな時間だった。

 

「すずかちゃんにアリサちゃん。なのはちゃんにフェイトちゃん。ウチの子らも居て、ほんまに楽しかった」

 

 たとえ誰かの迷惑になっても生きたい、と願ってしまう。

 

「死に、たくないなぁ……もっと、みんなのこと知りたい。クリスマスだけやなくて、他にもやりたい事がたくさん……!」

 

 いつの間にか蓋をして諦めていた想いが噴き出し、嗚咽と共に口に出る。

 彩那はそんなはやてに安心した様子でそう、と相槌を打つ。

 そして肩に置いていた手を頭に乗せた。

 

「その気持ちがあれば、きっと大丈夫。八神さんを助けようとした騎士達。それに今も貴女を救うために頑張っている子達がいる。八神さんは、自分が思っている以上に、周りに愛されてるのよ。だからそんな卑屈にならず、生きてていいの」

 

 優しい声で彩那が告げる。

 次に管制人格の方に話しかけた。

 

「で? 貴女は? まだうだうだ言うつもりかしら?」

 

「私は……」

 

 主の気持ちに応えたい。

 しかし、きっとどうにもならない。そんな感情がせめぎあっている。

 この期に及んでまだごちゃごちゃと悩む女に彩那は呆れて息を吐く。

 

「まぁいいわ。もう少しだけ時間を稼いであげる。オートシールド」

 

 彩那が神剣を地面に突き刺し、引き抜く。

 すると凧型のシールドが生まれ、それを4枚作った。

 それが、はやてと管制人格の周囲を囲んで回る。

 

「これが、2人を守ってくれるわ。必要はないだろうけど」

 

「必要ない?」

 

 振り向かず、鎖から解き放たれた防衛システムに顔を向けたまま答えを返す。

 

「えぇ。私がここに居る以上、アレの攻撃は何1つ、貴女達に通させやしないわ」

 

 そう告げると飛翔し、防衛システムに向かっていく。

 その姿を見ていたいという気持ちもあったが、はやては自分のやるべき事をしなければならない。

 

「ずっと忘れてたことがある……」

 

「?」

 

「お父さんとお母さんが亡くなったあの日、強い光を見た。アレは、貴女が魔法でわたしを守ってくれた光。ありがとぉ」

 

 ようやく言えたお礼。

 管制人格は跪き、はやてと視線を合わせる。

 

「どうかお眠りください、我が主。もうすぐ私の呪いが貴女を殺してしまう!」

 

 それがきっと彼女が主に出来る唯一の奉公だったのだろう。

 だけどそれはもうこれまでにしなければならない。

 

「ごめんな。みんながわたしの為に頑張ってくれとるのに、それを無視して眠るなんてできへんよ」

 

 はやてが管制人格の頬に手を添えた。

 

「それに、ずっと寂しい想いをしてた貴女も救いたい。わたしの為とはいえ、色んな人に迷惑かけたウチの子らもお説教せなあかん。だってわたしは貴女達のマスターやから」

 

 こう考えるとやらなければならない事は山積みだ。

 その事が少しだけ嬉しい。

 

「駄目です。自動防御プログラムが止まりません。外で管理局の魔導師が戦っていますが……!」

 

 泣きながら暴走を止められない自分を責める優しい子。

 だからはやては、外に助けを求める事にした。

 

『なのはちゃん! フェイトちゃん! 協力、お願い!』

 

『はやてちゃんっ!?』

 

 突然念話を繋がれて、なのはとフェイトが驚きの声を出す。

 

『ごめん、2人共、どうにかしてその子を止めてあげて! 魔導書本体からのコントロールは切り離したんやけど、その子が戦ってると、管理者権限が使えへん! 今動いてるのは自動防御プログラムだけやから!』

 

『はやて! アヤナは無事か分かる!』

 

『うん! 今中でも戦ってくれてて、守ってくれてるよ!』

 

 はやてからの報告に念話越しに安心した様子が感じられた。

 そこから念話を切り、自分のやるべき事に集中する。

 

「名前をあげる。闇の書とか、呪われた魔導書なんて呼ばせへん。わたしが言わせへん。ずっと考えとった名前や。強く支える者。幸運の追い風。祝福のエール。リインフォース」

 

 主を閉じ込めていた檻が、音を立てて崩れ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロノがバインドで拘束した管制人格をなのはとフェイトが手加減なしの中距離砲撃を喰らわせて沈黙させた。

 吹き飛んだ彼女を追って飛行する3人。

 少し時間を置いてアリサとすずかを守っていたユーノとアルフも合流するだろう。

 

 その途中で、ベルカ式を表す4つの魔法陣と、白い光が柱となって海と空を貫く。

 その光景に3人は動きを止めた。

 それぞれの魔力光ので編まれた魔法陣の上に立つ、蒐集されて消えた筈の守護騎士達。

 囲まれた4人の中心から八神はやてが姿を現した。

 

「はやてちゃんっ!!」

 

 喜ぶなのはとフェイトにはやてが微笑む。

 

「夜天の光に祝福を! リインフォース! ユニゾン・イン!!」

 

 その声と共にアンダーだけだったはやてに騎士甲冑を纏い、ユニゾンの影響で髪は白髪に瞳は青へと変化する。

 

「どうやら、上手くいったと見て良いのかしら?」

 

 いつの間にか背後にいた彩那になのはとフェイトが振り返る。

 

「彩那ちゃん!?」

 

「アヤナ、無事だったんだ!!」

 

「少し危なかったけどね……」

 

 はやてが管理者権限を握り、自分から出て行ったのは良かったが、部外者の彩那が通れるルートではなかったらしく、仕方なく無理矢理裏口を作って脱出したのだ。

 タイミングがもう少し遅ければ、閉じ込められていたかもしれない。

 甦った守護騎士達を見て安堵するなのは。

 

「ヴィータちゃん達も戻ってこれて良かった」

 

「……そうね」

 

 素直に喜ぶなのは、フェイトと違って彩那は複雑そうな顔をする。

 

「機嫌が悪そうだな。なにか気になる事でも有るのか?」

 

 クロノの指摘に彩那は神剣に一瞬視線を移してから溜め息を吐く。

 

「くだらない嫉妬です。お気になさらずに」

 

 自分の手から溢れ落ちた人達。

 それらを当たり前のように拾い上げたはやてが少しだけ羨ましいと思っただけ。

 いつまでもジッとしてる訳にもいかず、はやて達のところへ移動する。

 

「水を差すようで悪いんだが。時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。状況を確認したい」

 

 クロノ達が接触した事で、はやてに抱きついていたヴィータがはやてから離れ、和やかな空気が引き締まる。

 最後尾に居る彩那を見て、守護騎士達は複雑そうな顔をしているが。

 

「先ずは君達が切り離した闇の書の防衛プログラム。それが形となってもうすぐ暴走が始まる、で間違いないか?」

 

 クロノの指摘にはやてが頷く。

 

「物体化した暴走体は、周囲の魔力や物質を喰らい続けて肥大化を際限なく続けてく。それこそ、この星を喰らい尽くす程に」

 

 はやての説明にクロノは自身のデバイスを見せる。

 

「このデュランダルには、極めて強力な凍結封印の魔法がある。それを使って、暴走体を封印出来るか?」

 

「難しいと思います。主のない防衛プログラムは、魔力の塊みたいな物ですから」

 

「凍結させても再生機能が止まらん」

 

「そうか……」

 

 シャマルとザフィーラの指摘にクロノは特に落ち込んではいない。

 グレアム提督が先程までリインフォースが暴れていた時に封印しようとした時点で予想はしていたからだ。

 

「なら最後の手段。アースラに搭載されたアルカンシェルで暴走体を強制的に消滅させる」

 

「アルカンシェルはダメだ!! そんなもん撃ったら、はやての家まで吹き飛ばしちまうよ!」

 

 ヴィータが腕でバツを作って拒否する。

 その発言になのはがギョッとしてクロノに問う。

 

「クロノ君。アルカンシェルってそんなに?」

 

「あぁ。発動地点を中心に100km単位を巻き添えにする反応消滅砲だ。僕も出来る事ならここで使いたくない」

 

 想像もつかない破壊規模になのはとフェイトも駄目だと叫ぶ。

 彩那も難しい顔をする。

 

「どうにかしてアルカンシェルの破壊範囲を狭める事は?」

 

「すまない。そう手加減の利く兵器じゃないんだ」

 

 全員で悩んでいると我慢の限界だったアルフが大雑把な事を言う。

 

「あーもう!! なんなら、全部まとめてズバーッとやっちまうわけにはいかないのかい!!」

 

「だからその方法を話し合って……」

 

 彩那がそう言いかけるとなのは、フェイト、はやての3人がなにかを思いついてクロノに訊く。

 

「ねぇ、クロノ君。そのアルカンシェルってどこでも撃てるの?」

 

「たとえば?」

 

「今、アースラが居る軌道上」

 

「宇宙空間で」

 

 3人の提案にクロノが驚きのあまり目を大きく開ける。

 だから代わりにエイミィが答えた。

 

『大丈夫! 管理局の技術をナメないで!』

 

 とお墨付きを貰った。

 そこまで行けば作戦が決まったも同然だった。

 

「コアを露出させるまで暴走体への攻撃。コアが露出したら宇宙空間まで対象を転移させ、アルカンシェルで消滅させる。本来なら机上の空論でしかない力押し作戦だが、どういう訳かそれが可能な戦力がここに揃っている」

 

 乾いた笑いが出そうな幸運だった。

 

『みんな!! 暴走体の出現まで2分切ったよ!』

 

 エイミィからの報告に全員が気を引き締める。

 そこではやてがシャマルを呼ぶ。

 シャマルも承知して寄ってきた。

 なにをするのか察した彩那は距離を取る。

 

「治療なら私はいい。自動治癒の魔法が働いている上で下手に他人の魔力に干渉されると逆効果だから」

 

 体の治癒の大半は既に終わっている。

 これ以上の治療は必要ない。

 

「そう、ですか……」

 

 シャマルも彩那に対する警戒心が解けないまま、なのはとフェイト、それとクロノを治療する。

 

「風よ、癒しの恵みを運んで」

 

 シャマルが指輪型のデバイスをかざすと、3人の傷は癒え、バリアジャケットも修復される。

 

「すごい……」

 

 感嘆の声が出るとシャマルが微笑む。

 

「湖の騎士シャマルと風のリング、クラールヴィント。癒しと補助が本領です」

 

 本当に準備が整い、暴走体への迎撃態勢に入る。

 このメンバーで細かなチームワークは無理なので、とにかく強力な攻撃を叩き込む事だけを考える。

 

「ストラグルバインド!」

 

「チェーンバインド!」

 

 先ずはユーノとアルフがバインドで脚の部分を縛り上げる

 

「縛れ! 鋼の軛!」

 

 ザフィーラの軛が落とされ、暴走体を突き刺した。

 反撃に転ずる暴走体の攻撃を回避しつつ、各々が最大の攻撃を開始する。

 出し惜しみは必要ない。デバイスに残っている全てのカートリッジを使う。

 ヴィータのデバイスであるグラーフアイゼンがこれまでにない巨大なハンマーへと変化する。

 

「轟天爆砕!! ギガントシュラークッ!!」

 

 振り下ろされた槌が暴走体の障壁を破壊する。

 音を立てて最初の障壁が砕け散る。

 しかしそれも時間をかければ元に戻ってしまうだろう。故に間を置かずに次の攻撃が繰り出される。

 シグナムは剣の柄尻と鞘を合わせる。

 するとその姿を弓に変え、弦を引く。

 

「翔けよ、隼っ!!」

 

 放たれた矢は炎の鳥へと変化し、次の障壁を焼き払う。

 そして次はフェイトがザンバーフォームのバルディッシュを構えていた。

 

「撃ち抜け、雷神っ!!」

 

 振り下ろす巨大な雷の刃が両断する。

 最後の防壁は────。

 

「エクセリオンバスターッ!!」

 

 フェイトの攻撃に合わせて砲撃魔法を撃つ。

 

「ブレイク……シュートッ!!」

 

 容赦なく最後の壁を破壊する。

 しかし暴走体もただ的になるばかりではない。

 煙に隠れた触手が動きが止まっているはやてに狙いを定めていた。

 巻き上げられていた煙を払ってはやてに砲撃が撃たれる。

 

「はやてぇ!?」

 

 ヴィータの声が響く。

 誰もがはやての心配をするが、それは杞憂に終わった。

 彩那がはやてを守る形でシールドを展開していたから。

 

「ありがとな、綾瀬さん……」

 

「貴女達への攻撃は通さないと言ったでしょう。やりなさい!」

 

 彩那の号令にはやては頷いた。

 

「彼方より来たれ宿り木の枝! 銀月の槍となりて撃ち貫け! 石化の槍ミストルティンッ!!」

 

 はやてが放った光が暴走体を貫き、そこから石化していく。

 同時にクロノが動いた。

 

「凍てつけ! エターナルコフィンッ!!」

 

 凍結魔法が暴走体を凍らせていく。

 はやてが使った石化の魔法も含めて暴走体は殆んど身動きが取れなくなった。

 そこでなのはから念話が届く。

 

『フェイトちゃん! はやてちゃん! 彩那ちゃん! 合わせて!!』

 

 なのはの念話に3人が頷く。

 4方向に移動した少女達はそれぞれ魔法の準備に入る。

 

「全力全開! スターライトォ────」

 

「雷光一閃! プラズマザンバー!!」

 

 なのはとフェイトが各々が今出来る最大の攻撃魔法を準備する。

 それは彩那も例外ではない。

 

「勇者の裁きをここに……ブレイブシャイン・エクスキューション……!」

 

 宙に浮いた神剣の両端を挟むように手で覆い、魔力を込める。

 すると光に覆われて巨大な球体になっていく。

 そしてはやてはただ1人哀れむように暴走体を見ていた。

 

「ごめんな。おやすみな。響け、終焉の笛! ラグナロクッ!!」

 

 4人が充分な魔力を溜めて同時に魔法を解放した。

 

『ブレイカーッ!!』

 

 巨大な2つの砲撃と斬撃。そして球体が4方向から暴走体を襲う。

 それらを受けた暴走体はその体を蹂躙され、両断され、撃ち貫かれ、内側から崩壊していく。

 コアが完全に露出し、それをシャマルとユーノ、アルフで宇宙へと転送させる。

 誰もが緊張が走る中、やがてエイミィからアルカンシェルによりコアが完全に破壊された事が報告された。

 全員がホッとする中で、はやてが突然意識を失った。

 そしてもう1人。

 

「あ、ぐ……は、あぁああああっ!?」

 

「彩那ちゃんっ!?」

 

 神剣は4つの待機状態に戻り、彩那は勇者服すら消えて苦しみ始めた。

 そのまま意識を失い、落下していくところを近くにいたクロノが受け止める。

 

「アースラ! 彩那と八神はやての転送を最優先に!!」

 

 クロノが指示を出すと早急に転送された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最低限の検査を終えて八神はやての家族であるヴォルケンリッターは今後について話していた。

 

「お前達が消えることはない。先に消えるのは私だけだ。尤も、それもまだ先の話ではあるが」

 

 リインフォースは自分達の現状を語る。

 4人の守護騎士はプログラムから切り離された為に消滅を免れた。

 本来なら管制人格であるリインフォースが居る限り、闇の書が復活する危険性が有るため、自ら消滅しなければならなかった。

 しかし────。

 

「あの少女が散々闇の書の中で暴れてくれた影響か、私と闇の書の呪いは完全に分離してしまった。お前達のようにいつまでもとはいかないし、力の大半を失ってしまったが、生きていく事だけは出来そうだ」

 

 そこに自嘲するような含みはない。ようやく重い荷物を下ろしたような解放感だった。

 シャマルがリインフォースに質問する。

 

「それは、いつまで持つの?」

 

「分からない。1年後かもしれないし、10年後かもしれない。ただ魔法を使えばそれだけ寿命を削る事になるだろうが」

 

 もはや彼女に融合騎としての力もない。

 今度はリインフォースから質問をする。

 

「ホーランド……いや、綾瀬は?」

 

「分からん。主はやては我らの身内という事で容態を知れたが、綾瀬の方の情報は私達まで回ってこない」

 

 はやての方は、今まで眠っていたリンカーコアを急に使用した事による負担で意識を失っただけ。直に目を覚ますと言われた。

 それはシャマルも同意見だ。

 

「でもよ。おかしくねぇか?」

 

「なにがだ?」

 

「ホーランドの勇者……だってアレはもう300年以上も前の戦争だったろ! なんでそんな奴が地球(ここ)にいんだよ! それにアタシらが知ってる年齢とも一致しねぇし」

 

 闇の書の呪いから解放されたせいか、過去の事も大雑把にではあるが思い出せた。さっきまではそんな状況でもなく問えなかったが。

 結局その疑問の答えをこの場にいる誰もが出せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綾瀬彩那が海鳴で保護された時、彼女は五感の全てが麻痺していた。

 故に意識は有るが反応を返す事が出来ない状態が数日続いていたのだ。

 それが初めて神剣を使った時の後遺症である。

 だからこそ綾瀬彩那も神剣を使うリスクを甘く見積もっていた。

 今回で2回目。神剣によってもたらされる代償が同じだと勝手に思ってしまったのだ。

 今回の代償は────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、なのはとフェイトは眠り続ける彩那の見舞いに来ていた。

 彩那はこの2日間眠り続けている。

 綾瀬夫妻にはリンディを通してアースラまで来てもらい、既に事情を話しているがその時の事は別の機会に語る事になるだろう。

 次元航行艦とはいえ、地球より数段上の医療技術を持つアースラの方が治療に良いと判断した。

 勿論綾瀬夫妻はいつでも見舞いに来れるように手配してある。

 なのははお見舞いに買った花を花瓶に差す。

 

「アヤナは、こうなるって分かってたのかな?」

 

「たぶん、ね……」

 

 暴走していたリインフォースを1人で同等に戦える力。

 それが何のリスクもないとどうして思ったのか。

 そう思うと、自分に対しても彩那に対しても怒りが沸いてくる。

 互いに話すことなく管に巻かれている彩那を見ていた。

 

「ん……」

 

 すると、ゆっくりと彩那の目が開かれる。

 

「彩那ちゃん!?」

 

「な、なのは!?」

 

 なのははベッドに身を乗り出す。

 それをフェイトに注意された。

 

「?」

 

 不思議そうに周囲を見る彩那。

 

「ここはアースラの医務室だよ、アヤナ」

 

 フェイトがナースコールを押してここがどこか説明する。

 しかし、2人は彩那の様子に違和感を覚える。

 特にその眼だ。

 彩那はどこかいつも疲れた眼をしていた。

 アリサ曰く、死んだ魚のような眼。

 なのに今は、幼子のように純粋な眼に見える。

 不安そうな眼でなのはとフェイトを見ている彩那。

 どうしたんだろうと不思議に思っていると、彩那の口が動いた。

 

「あなたたち、だれ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




闇の書事件終了。
次回からはゲーム版のBOAとGOD編に入ります。
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