やりたいことを全部やろうとすると倍の長さになりそうなので、前中後に分ける事にしました。
────ある勇者の最期。
「此度の戦い、大義であった」
戦争を終結させ、傷の癒えた綾瀬彩那は用意されたドレスを着てホーランド王に謁見していた。
「少しやつれましたね」
「お互いにな」
彩那の指摘にホーランド王は苦笑して返す。
戦争終結の事後処理ではなく、愛娘を失ったショックから精神的に大きな負担がかかったせいだ。
彩那の方も、以前からあった柔らかな表情ではなく、ただ虚ろな瞳で王と向かい合っていた。
ホーランド王から話を切り出す。
「汝を呼んだのほかでもない。これからの事についてだ」
「これから? 私を元の世界に送還してくれるのでしょう?」
そういう約束だった。
もう元の世界に戻る理由は薄いが、戦争が終わった以上はこの世界に留まる理由もない。
しかし────。
(みんなの亡骸を、せめて家族の元に返してあげないと……)
それが生き残った自分が最後にやるべき義務だと思った。
彩那の言葉に今思い出したとばかりにくつくつと笑う。
「送還……送還か……」
「?」
訝しむ彩那に王はもう隠す必要はないと真実を口にした。
「不可能だ。お前達を喚び寄せたあの遺物は、元々指定した条件の者を次元を越えて此方に喚び込む為の物。送還する機能など、最初から備わっていない」
王の言葉に彩那は肩を震わす。
地球に帰る事を夢見てずっと戦争に参加し、多くの人を殺めた。
あの日々は、いったいなんだったのか。
約束の反故に彩那は怒りを表す。
「なら私達は何の為にずっと────」
「この戦争を終わらせる為だ」
彩那の怒りに対して王は何の感情も示さず断言する。
「汝らは元々、神剣を抜く為に喚んだ生贄に過ぎん。その聖剣には、汝のリンカーコアを使う筈だった」
そんな事は知っている。
だけどもう、自分達の役割は終わった筈だ。
「本来は完成した神剣をティファナが使い、この戦争に終止符を打つ。そうして生み出させた
だから初めから勇者達に真実を話すなど必要なかったと言う。
ティファナ第一王女と勇者達は親友と呼べるほど仲睦まじいのは誰もが知っていることだ。
戦争で倒れた勇者。
親友の想いを受け取り、神剣を手にした王女が悪である帝国を討つ。
帝国の暴挙が度を越していた事もあり、それを討ったのがホーランドの王女ともなれば、各国の民衆にも受け入れられやすい。
その為の英雄譚を用意し、ティファナを担ぐ予定だったのだ。
「だが我が娘は、汝らに入れ込み過ぎた」
この国と世界の為に戦ってるくれる同い年の
「汝にはこれから各地で燻っている争いの芽に対処してもらいたい。帝国の残存勢力や、他にも併合出来ずに小規模の反乱を起こしている勢力が残っているのだ」
「……私に、まだ人を殺してこいと仰られるのですか?」
怒りを抑えてどうにか質問する彩那に王は首を横に振る。
「最早勇者が直接出動する必要もない。汝はただ、全線に赴く兵士達を慰撫してくれれば良い。それだけで兵達の士気も高まろう」
勇者達の実績と信頼は既に崇拝の域に達している。
その勇者が居なくなれば、軍部への影響は計り知れない。
「勇者の次は
「この戦争を終結させた汝の軍部での発言力は余よりも上なのだ。汝が望むものは全て用意しよう。汝がこれからもこの世界と国の為に尽力してくれることを願う」
王は話を打ち切った。
王との謁見を終えた後、彩那は用意された客室で窓の外を見ていた。
「中々にうまくいかないものね……」
最後に戦った帝国が封印していた古代の生体兵器。
それと相討ちにでもなるつもりだったが、重傷は負ったものの運悪く生き延び、ホーランド兵に保護された。
「どうしたものかしらね……」
このまま野に下り、どこかでひっそりと生きて往くのか。
それとも、元の世界に帰る方法を探し続けるのか。
思案しているとドアをノックする音がした。
開けると、そこには第二王女であるエリザが立っていた。
「アヤナ様……」
エリザは姉を失って以来、部屋で塞ぎ込んでいると聞いたが。
こうして部屋の外に出てきてくれた事に安堵する。
何か喋ろうとするエリザだが、言葉に出来ずに彩那に涙ぐんで抱きついてきた。
「エリザ王女」
神剣を扱うための手術後のやり取りから憎まれていると思っていた。
それでもこうして触れてくれるのなら。
彩那がエリザの頭を撫でようとした。
すると、背中から激痛が走る。
「え?」
確認すると、回されたエリザの手には隠し持っていたのだろうナイフが握られており、それが彩那の背中を刺していた。
彩那を突き飛ばして離れると、震える手と泣きそうな顔でエリザが呟く。
「ティファナ、お姉様……かた、き……」
そこで咳と共に血を吐いた彩那を見て、ビクッと体を縮こませた後に部屋の外に逃げていく。
痛みで倒れる彩那。
(偶然だろうけど、良いところに刺してくれるわね……)
霊剣の魔法を使えば治癒することも可能だが、そんな気は更々起きなかった。
それどころか安堵している自分がいる。
(やっと、楽になれる……もう私……頑張らなくていいんだ……)
もう誰も殺さなくていいのだと思えば、心が随分と軽くなる。
こんなにも楽な気分はいつ以来か。
視界が暗くなった瞳から水滴が落ちるが、彩那はその事に気付かない。
「や……と、みんな……ころに、逝ける……ね……」
重くなる目蓋に抗わず、とある世界の綾瀬彩那は目を閉じた。
新人達と予期せぬ来訪者である綾瀬彩那との模擬戦が始まる前に、遠くから見守っている。
そんな中ではやては家族である騎士達が険しい顔で訓練場を見ている事に気づいた。
「どうしたん、みんな。怖い顔して?」
「あ、いえ……彼女の剣を見た瞬間に怖気が走ってしまって」
「言葉にすると難しいのですが……此方にあの刃を向けられていると錯覚をしました」
シャマルとシグナムが難しい顔で彩那を見ている。
しかしやはり理由が分からず、騎士達は模擬戦の見学に集中する。
空中に浮遊しているリインフォース・ツヴァイがアインスに質問する。
「あの、アインス。ホーランド式とはどのような術式なのですか?」
自分が生まれる前に消えてしまった
アインスとしても自分の妹と微妙に違う対応を楽しみながら会話をしている。
「そうだな。戦闘で言えば個人よりも集団戦を得意とする傾向がある。勿論例外はあるが。基本的に個人の役割をはっきりさせ、1つの隊自体が1つの生き物のように連携を取って行動をする。数が増えれば増えるほどに厄介さを増す。戦争を意識した術式。ホーランド式でしか見れない特異な戦術や魔法も幾つか存在します」
かつてのホーランド王国との戦いを思い出してアインスは説明する。
その説明を聞いてはやてが難しい顔をする。
「うーん。それならあの綾瀬さんが1人で戦うのは不利なんちゃう?」
「いえ。彼女は例外です。綾瀬はとある理由から戦闘で使うホーランド式の魔法を殆んどを修めてますから」
そこでアインスは模擬戦を始まる彩那を憐れむような、労るような視線を向ける。
「もう失われた世界。大陸で長く続いた戦争。それを終わらせた4人の勇者の
その言葉と同時に模擬戦が開始された。
フォワードメンバーに対して受け身で対応する彩那。
防御魔法で不自然な程にスバルを弾き飛ばし、エリオの槍も捌きつつ一瞬の隙を突いて無力化。
フリードをバインドで拘束しつつ、向かってきたスバルは跳躍で回避する。
次にティアナが複数の射撃魔法で攻撃したが、あろうことか手にしている剣で全て斬り伏せた。
そのあまりにも非現実的な防ぎ方に誰もが唖然としている中で彩那はティアナの傍に着地し、首筋に刃を当てた。
それと同時になのはによる模擬戦終了の声がかかった。
バリアジャケットを解除したところで見学していた面々が近付いてきた。
終わってみれば、5分も経っていない。
リインフォースが彩那に話しかける。
「相変わらず余裕そうだな」
「まさか。最後のは少しひやりとしたわよ」
逆に言えば、少しひやりとする程度だったという訳だ。
惨敗と呼べる結果にヴィータが叱咤する。
「ったく。情けねーぞ、オメーら!」
『す、すみません!』
ヴィータに怒られて肩を小さくするフォワード陣。
ただ、形式として叱っただけで本心から怒っている訳ではない。
なのはも苦笑しつつフォローする。
「でも、アレは仕方ないかな。最後のはビックリしたけど」
「私の本職は質量兵器や違法物の密輸の取り締まりだから。実銃を相手にする事も多いのよ、だからアレくらいはね」
「え!? 銃器相手に同じ事出来るん?」
やはり、純粋な速度で言えば拳銃の方が速いのだ。
それに銃の弾丸は小さく剣などで防ぐのは難しい。それならバリアジャケットやシールドで防いだ方が安全だ。
「いえ。弾くと危ないから普通に避けますよ。以前、高町さんの御家族に剣を見て貰っていた時期もあって、色々とアドバイスしてくれて、参考になりましたし」
漫画などでよく銃弾を斬る描写があるが、あんなことを出来ても弾が2つに増えるだけである。
避けるか防ぐかした方が安全なのだ。
なのはが魔法の事を家族に話した後には剣を扱う事から高町家の剣士に興味を持たれた。
そこで色々と指導を受けた結果、銃器などの対処にも長ける事となった。海鳴に帰った際には今でもお世話になっている。
彩那が質量兵器を取り締まる部署に身を置いている理由の1つだ。
「しかし、相変わらず非殺傷設定が仕事をしてないな。苦手意識は未だに払拭出来ないか?」
「遠距離ならともかく、近接戦ではどうしても違和感がね」
何やら物騒な話をしている2人。
「どゆこと?」
「ん? あぁ。非殺傷設定の事ですか? 元々私の剣には非殺傷設定が付いて無かったんですよ。ホーランド式との食い合わせが悪いらしくて、中々組み込めなかった。形になったのが、闇の書事件から1年以上経った後だったかしら」
リインフォースの魔導の知識とユーノ・スクライアが無限書庫から発掘してくれたホーランド式の情報。
それらによってようやく彩那のデバイスに非殺傷設定が追加された。
「だからか、非殺傷設定が手に馴染まないんですよ。剣は斬れてこそですから」
刃を振り下ろせば敵が斬れるのが道理。
打撃に近くなってしまう非殺傷設定は、どうにも感触が馴染まない。
逆に言えば、それだけ人を斬る感触が馴染んでしまったということだが。
彩那の発言にフェイトが眉間にシワを寄せる。
「それって、誰かを斬りたいってこと?」
「物騒な事を言わないでください。ただ馴染まないだけです。誰かを斬りたい訳じゃないし、殺すのも嫌いですよ。戦うことも含めて」
元々彩那は戦うことが好きではない。
模擬戦などの誘いも出来る限り断って逃げていたくらいだ。
「じゃあ私はロストロギアの解析に戻りますけど、良いですよね?」
「あ、うん。ありがとね、こっちのお願いを聞いてくれて」
「いえ」
それだけ返して建物の中に戻っていく彩那。
去っていく後ろ姿を見てはやてが本気とも冗談ともつかない事を言う。
「んー。クールビューティーみたいな感じ? いや、顔わからんから判断できんけど」
ロストロギアの解析など、一朝一夕で出来る筈もなく、難航を極めている。
その間、彩那とリインフォースは自然とその並行世界の六課と交流を持つ事になった。
ティアナ・ランスターは4人がかりで綾瀬彩那に敗れてから相棒のスバル・ナカジマと共に自主訓練に励んでいた。
既に夜遅い時刻まで自主訓練を続けるティアナにスバルがそろそろ切り上げるように説得する。
「ティア~。いくらなんでも根を詰めすぎだよ! そろそろ戻ろ」
「……分かった。スバルは先に戻ってて。アタシはもう少し続けるわ」
「それじゃあ意味ないよー」
意地になって訓練を続けようとするティアナにスバルは困った様子を見せる。
綾瀬彩那という予期せぬ異邦人と模擬戦を行ったあの日、自分の弾丸はあっさりと防がれた。
プライドの高い彼女はその事が許せず、一心不乱に訓練に励んでいる。
そしてスバルはそんな彼女を心配しているのだが、どうにも伝わっていない。
そんな2人に声がかけられる。
「そうね。そろそろ休んだ方がいいわ」
「わぁっ!?」
突如声をかけて、ヌッと現れた素顔を包帯で隠した女性。綾瀬彩那にスバルは声を出して驚く。
彩那の手には缶の飲み物が握られている。
それを2人に差し出した。
「どれを飲む?」
「あ、ありがとうございます!」
コーヒーとオレンジジュースとスポーツドリンクの3つに、断る事が出来ずにスバルがオレンジジュース。ティアナがスポーツドリンクを手に取る。
「えっと……綾瀬さんはどうしてここに?」
「ずっと座っていて、腰が痛くなったから気分転換を兼ねた散歩よ。そうしたら、貴女達が見えたから」
差し入れにきたと言う。
流れ的に休憩となった間を持たせる意味でスバルが彩那に話しかける。
「あの! 綾瀬さん!」
「ん?」
「綾瀬さんはこことは違う六課から来たんですよね?」
「そういう事になるわね」
「じゃあ、そっちとこっちで何か違いって有りますか?」
スバルの質問に彩那は少し考える。
「私とリインフォースが居る事を除いて違いはないと思うわ。他の人員の変更もないし」
強いて言えば彩那が就いている地位にグリフィスが就いているくらいか。
「そういえば、昼間に訓練を見学した時に思ったけど、こっちだと最新式の空間シミュレーター使ってるのね」
「そっちはちがうんですか?」
「えぇ。六課が本格的に運用される前に高町一尉から
最新式の空間シミュレーター。それは確かに魅力的だが、何の実績もない新人の訓練に使うには贅沢すぎると却下したのだ。
貸出とはいえ、最新というのはそれだけ値が張る。
フォワードメンバーの訓練プランを見ても、最新式の物でなければならない理由もない。
初めて長期に面倒を見る子達に最高の環境を与えたいのは理解するが、此方としては無駄な出費を抑えたかった。
それに新人相手にそんな優遇をすれば、タダでさえ六課を嫌っている地上本部の方々との軋轢が酷くなる可能性もある。
という理由は口にせずに今度は彩那から話題を振る。
「頑張っているようだけど、少し根を詰めすぎじゃないかしら?」
既に就寝してもおかしくない時間だ。
そんな時間まで訓練を続ければ、身体を休める時間を大幅に削る事になる。
「訓練なんて、しっかり休んで食事を摂りながら身体を作っていく物でしょう? 限度を超えるのは逆効果だわ」
「……ご忠告感謝します。でもアタシは貴女と違って凡人ですので、無理にでも詰め込まないと周りについていけないんです」
「ティア!」
流石に棘のある言い方にスバルが釘を刺す。
本人もバツが悪そうに顔を背けた。
彩那本人は毛程も気にしてないが。
「そうね。確かに私は天才だわ。魔法戦闘に於いて凡人には程遠い」
自慢する訳でもなく、さも当然と言わんばかりの態度にティアナは苛立ちを募らせる。
「自分で言いますか?」
「過大評価は論外だけど、過小評価は自分だけでなく、身近な人間の評価も下げる結果になるわ。それだけよ」
彩那が凡人なら、高町なのはやフェイト・T・ハラオウンも凡人扱いだろう。
そんな評価をさせる訳にもいかないので、彩那は同じ事を言われれば同じように返すだろう。
「それが、私にとって"幸福"なのかと問われれば首を傾げるところけど」
「どういう意味ですか?」
スバルの疑問に彩那は一瞬だけ色々なことを振り返る。
「高過ぎる才能を持つ人間はその人にしか立てない舞台を用意されていることが往々にしてあるのよ。本人の意思に関わらず、その舞台に引きずり込まれる事を幸福とは言わないでしょう」
それは、才能に寄り添って生きてゆくのではなく、才能に使われて未来を決められるという事だ。
八神はやてという少女が居る。
もしも10年前の事件で彼女以外が闇の書の主だったのなら、今でも闇の書は転生を繰り返していただろう。
振り返れば、結果的に八神はやては闇の書が起こす悲劇を終わらせる為の装置だったと言える。
もっとも、八神はやてはその過程にあった苦しみを受け入れ、家族が出来たのだからむしろお釣がくると思っている非常にポジティブな思考の持ち主だが。
そして彩那も────いや、彩那達ももし、魔法の才能が無ければ、今でもかつての親友達と共に笑って、平凡な人生を歩んでいただろう。
少し脇道に逸れた思考を戻し、2人に警告する。
「経験から言わせてもらうけど、焦りと自棄で得た力の先に有るのは自滅だけよ。もっと自分を労りなさい」
部外者である彩那が言えるのはこのくらいだろう。
棒立ちになっている2人から離れる。
その途中で高町なのはと遭遇した。
「盗み聞きは感心しないのだけど」
「にゃはは……ちょっと、入りづらくて」
なのはも2人にそろそろ切り上げるよう言おうとしたタイミングで先に彩那がやってきたのだ。
「余計な事をしたかしら?」
「ううん。むしろ注意してくれて助かったかな」
なのはだとどうしても上司としての命令になってしまい、反感を持たれる可能性もある。
それはそれとして、先程の話で少し気になる事があった。
「綾瀬さんは、魔法が好き?」
「いいえ、好きでも嫌いでもないわ。私にとって魔法は、生活していく為の技術よ」
彩那が管理局に身を置いているのは、その方が生きやすいからだ。
魔法の才能が非凡である彩那は地球で暮らすより、管理世界で暮らす方が問題が少ない。
勇者時代やジュエルシード事件から始まったこの10年。彩那はようやく自分の舞台を降りて生き方を選べるようになったのだ。
「それでも、魔法に関わって良かった事があるとするなら」
「?」
彩那は小さく笑みを浮かべる。
「高町さん達と出逢えたこと。それだけは、間違いなく幸運だったと思ってるわ」
自分に言われた訳ではないその言葉に、なのはドキリとした。
おまけ。
海鳴に現れたロストロギアが探査魔法に引っ掛かる間にスーパー銭湯に訪れていた。
はやて達は湯船に浸かりながら親友のすずかとアリサを交えて仲良く会話をしている。
「それにしても、彩那の奴はやっぱり来なかったわね」
「久しぶりにみんな揃って顔合わせ出来ると思って楽しみにしてたんだけどね」
「ごめんなぁ、2人共」
「そーよ。アンタ達、全然揃って戻って来ないんだから。彩那は学校も違ったから余計に集まり難かったし」
不満を漏らすアリサにフェイトがそうだったね、と苦笑する。
「彩那も聖祥大に来れば良かったのにね。どうしてだろ?」
フェイトの疑問にすずかが答える。
「ほら。聖祥大って大学までのエスカレーター式でしょ? 管理局に就職を決めてたから、義務教育期間だけ通うのは勿体ないって」
「うっ! 耳が痛い……」
その言葉になのははバツが悪そうに顔を背けた。
聖祥大は私立であり、それなりに高い学費である。
両親も娘が大学までスムーズに卒業し、将来の事を見据えて入学させたのに、中等部で卒業して本格的に局員として活動を始めてしまった。
それを責められたことはないが、家族からすれば色々と思うことは有ったかもしれない。
まぁ、学校とは極端に言えば社会に出るまでの準備期間である。
既に管理局に就職していたなのはが、学生に見切りを付けるのも仕方ない。
それにスケジュール的に局員と学生の二足の草鞋を履くのがキツかったのも事実だ。
少し落ち込むなのはにはやてが話題を変えた。
「それはそれとして。彩那ちゃんが居ないからこそ今、みんなに相談したい事があるんよ」
「なに? アイツなんかやったの?」
「うーん。ちょっと思い付かないよ」
アリサの疑問にフェイトはこめかみに指を当てて思い返す。
綾瀬彩那は優秀な局員である。
問題を解決する事はあっても、問題を起こす事はない。
後方担当であることから前線で無茶もしていない。
「そういう話やなくて……」
はやてが物凄く深刻な顔で告げる。
「わたしはまだ、彩那ちゃんの胸を揉んだ事がない」
『……』
親友達が間を置き、シグナムとヴィータが少しだけはやてから距離を取る。
「なのはちゃんの教え子達、みんな良い子そうだよね」
「素質もスゴいんだよ。教えた事をドンドン吸収してくれて────」
「ちょっ!? 無視せんといて! 特にすずかちゃんにスルーされるのが1番堪えるわ!」
「はやて。アンタまだそんな事してたのね……」
呆れるアリサ。
「でも、そう言えばはやてちゃん、彩那ちゃんの胸を揉んでるの見たことないね」
「いや。小学6年の頃に少し驚かそ思て、後ろから近づいて揉もうと挑んだことはある。でも……」
「でも?」
「両手首の骨を外された。それも反射的に……」
『……』
予想外のオチに友人達が固まる。
「すぐにシャマルのところに駆け込んで治してもらったけどな。彩那ちゃんにも何度も謝られたわ」
「そこまでされたのなら諦めようよ……」
フェイトの言葉にはやてはアカン! と眼をくわっと大きく開く。
「六課終了期間までに1回くらい彩那ちゃんの胸を揉む! それが目標の1つやっ!」
大々的に宣言するはやてに友人達はこう思った。
"駄目だコイツ。早くなんとかしないと"