世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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番外編3:私達が存在しない部隊【後】

綾瀬彩那とリインフォースが並行世界を移動して5日が経った。

ロストロギアの解析はそれなりに進み、起動方法は大まかにだが理解し、後は確実に元の世界への帰還方法を確立するだけ。

 

「ようやく帰れる目処が立ったわね……」

 

座った状態でんー、と腕を上に伸ばす彩那。

肩や首を回していると、横からリインフォースが珈琲とお茶請けを置いてくれた。

 

「お疲れ様」

 

「お互い様よ。私1人だったらここまで早く解析が進まなかったわ」

 

出された珈琲を飲む。

彩那自身、解析などは得意分野という訳ではない。

それでも最低限解析出来ているのは、リインフォースの知識に依るところが大きいのだ。

ホッと一息吐くと、リインフォースが彩那に質問する。

 

「お前はどう思っているんだ?」

 

「なにがよ?」

 

「この世界でお前が主達と出会わなかった事についてさ」

 

リインフォースの質問に彩那は、あぁ、と相づちを打つ。

 

「あの戦争で死んだか。あの世界に定住したか。それとも私達が存在すらしないのか。気にはなるけど、確かめようが無いもの」

 

もしも勇者の誰かが生きて帰ってきたのなら、ジュエルシード事件か闇の書事件には必ず関わる筈だ。

だから地球に勇者達がいないのは確実だと判断している。

 

(召喚自体がされなかった、という可能性も有るけど)

 

やはり確かめる術が無いため、思考を切る事にする。

 

「そうか。そうだな……」

 

「そもそも。私が地球に帰って来られたのも偶――――」

 

そこで部屋の扉が開く。

入ってきたのは六課のシャリオ・フィニーノ一等陸士だった。

 

「あぁ。ごめんなさいね、本来デバイスの調整に使う部屋を独占してしまって。そちらの仕事に支障はないかしら?」

 

「いえ。それは全然大丈夫なんですけど……」

 

チラチラと彩那の腰に付けているポーチに目をやる。

 

「やっぱり、綾瀬さんのデバイスを見せて貰うことは出来ませんか?」

 

見せる、というのは調べる事を意味する。

彩那の返事は否だ。

 

「ここを貸してくれたのには感謝してるし、何かしらのお礼はしたいと思うけど、お断りするわ。コレは私にとってとても大事な物なの。誰かにポンと渡す事は出来ない」

 

彩那自身、4本の剣を整備する為にデバイスマスターの資格を取得している。

そうでなくとも、ホーランド式の中でも彩那のデバイスはミッド式とベルカ式とはかなり勝手が違うのだ。

そういう理由を除いても、この剣は大切な形見でもある。易々と貸す訳にはいかない。

 

真剣な返答にシャリオはそうですかと肩を落とす。

そもそも彩那達の世界のシャリオにも触らせないのに、同一の別人に触らせる訳がない。

 

「解析も一段落付いたし、シャワー浴びてくるわ」

 

「それなら私も一緒に行こう」

 

後片付けを終えてシャワー室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お」

 

「あ」

 

「ん」

 

はやて、なのは、フェイトの3人はシャワー室の前で偶然鉢合わせた。

 

「なのはちゃんとフェイトちゃんもシャワーか?」

 

「うん。みんなの訓練に関する報告書がようやく書き上がってね」

 

「私は現場検証から戻ってきたところ」

 

「そか?わたしも他の部署との打ち合わせが終わって戻ってきたところなんよ。リインはシャマルのところ」

 

はやてを先頭にシャワー室のドアノブに手を掛ける。

 

「それにしても、2人と裸の付き合いなんて久しぶりやね。2人がどれだけ成長したか部隊長としてしっかりと確認させてもらうわぁ」

 

やや品の欠ける発言をするはやてに2人は軽く警戒する。

はやてが同性の胸を揉むのが趣味な揉み魔なのはある程度仲の良い者なら周知の事実である。

 

「はやて。同性でもセクハラは訴えられるんだよ」

 

「いややわぁ、フェイトちゃん。愛情表現やからな?」

 

「出来れば違う方法を取ってほしいかな」

 

ジト目を向けるなのは。

話ながらシャワー室を開ける。

 

「ん?」

 

そこには黒髪の美女が居た。

 

「貴女達もシャワーかしら?」

 

「いや?誰やっ!?」

 

何事もなく話しかけてくる女性にはやてがツッコミを入れる。

しかし声を聞いてフェイトが気付く。

 

「もしかして綾瀬?」

 

「そうだけど……あぁ……包帯を巻いてないから気付かなかったのね」

 

肯定してブラを外すと脱衣所の篭に入れる彩那。

 

「えぇ……ホンマに?」

 

初めて彩那の素顔を見て戸惑う3人。

彩那は自分の顔について、色々と弄られて醜女となった、と言っていた。

しかし一般的な感性から見て、充分美人の範疇である。気になるのは、両頬と額に喉にと描かれた刺青だが。

そこでシャワー室から先に入っていたリインフォースが出てくる。

 

「すまない綾瀬。シャンプーを忘れて――――」

 

集まっている4人を見回してリインフォースは瞬きをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やや気まずい空気の中でシャワー室で5人並んで使う。

口を開いたのは意外にも彩那だった。

 

「刺青を、見るのが嫌でね。これは私が大切な人達を守れなかった証明みたいなものだから」

 

神剣を扱う為に刻まれた術式であり、親友を失ったからこそ可能になった証明。未だにこの刺青を見続けると、顔を削ぎたくなる衝動に駆られる時がある。

 

「でもビックリしたよ。スゴく綺麗で」

 

「ありがとうテスタロッサさん。お世辞でも貴女に言われると少し自信がつくわ」

 

本人の自己評価が微妙に低いが周囲から見ればフェイトは絶世の美女である。彼女の性格もあり褒められて嬉しくない訳がない。

そこでなのはが彩那に質問する。

 

「綾瀬さん。訊いてもいいかな?」

 

「なにかしら?」

 

「この間、言ってたよね?魔法は好きでも嫌いでもないって」

 

なのはから見て、綾瀬彩那は優秀な魔導師だと思う。

だけど管理外世界の住民である筈の者が、魔法が好きでもないのに態々地球を離れて管理局に身を置くだろうか?

そこが気になった。

 

「高町それは……」

 

リインフォースが止めようとするが、彩那がいいのよ、と首を振る。

 

「少し長い話になるから、シャワー室を出てからにしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

シャワー室で体を洗い終えた後に、なのはとフェイトの部屋に集まってちょっとしたお茶会となった。

テーブルを囲い、はやてが用意した茶菓子とリインフォースが煎れた紅茶が振る舞われる。

 

「この世界に来た時に言ったけど、私は地球とは別の世界に喚び出された事があるの。姉妹みたいに育った親友達と一緒にね」

 

「そんな……」

 

突然別世界に喚ばれる。おそらくはどこかの魔法の世界に。

それはどれだけの恐怖だろう。

 

「細かな事は省くけど、その事件で私は彼女達を失って独り地球へ帰還した。だから帰ってこれても、ちっとも嬉しくなかった。むしろ私なんかが生き延びた事自体が間違いとすら思ってたわ。そんな時に出会ったのが、高町さんだった。ジュエルシード事件でね」

 

その喚ばれた事件というのも気になるが、きっと彩那にとって深い傷なのだろうと聞かない事にした。

 

「最初は碌に訓練も積んでない魔法の素人なのに、スクライア君の力になりたいっていう高町さんが心配で協力してたわ。私も同じ町に住む以上は無関係じゃないしね」

 

「はは……」

 

ジュエルシード事件当初の事を思い出して苦笑いする。

あの時はまだ魔法の素人でたまたまジュエルシードを封印出来る魔力量を持っていただけだ。腕に覚えのある者が居ればさぞ心配だろう。

今のなのはももし、当時の自分のような子に出会ったら、局員関係なくすぐに手を引かせるか、危険の少ない範囲で協力してもらうだろう。

 

「それからジュエルシードに対処しつつ高町さんにちょっとした魔法の手解きをしたの。もっとも、私はあまり教えるのが上手じゃないから模擬戦をしながらアドバイスする感じだったけど」

 

「じゃあ。そっちでは貴女がなのはの師匠(せんせい)なんだ」

 

フェイトの指摘に彩那はそんな大層なモノじゃないと苦笑する。

 

「ジュエルシード事件でのテスタロッサさんや時空管理局との出会い。それから闇の書事件やその他色々。ハッキリ言って私にとって魔法の存在は厄介事を引き寄せる物でしかなかった。当時なら嫌いと言ってたでしょうね」

 

大好きな人達を失った。多くの人達を殺めた。

顔を上げる事が出来ず、俯いて生きていた。

自分にすら無関心になって。

 

「私なんかが幸せになるなんて烏滸がましい。ずっとそう思ってた。だけど私の両親や向こうの高町さん。テスタロッサさん。八神さん。バニングスさん。月村さん。他にもたくさんの人達に幸せになっていいんだよ。幸せになってって何度も諭されたり怒られたりして。ようやく魔法と向き合えるようになったの。色々と苦い思い出が多過ぎて、好きとは言えないけど。頭ごなしに嫌いと否定もしなくなった、という訳よ」

 

一気に喋って渇いた喉を紅茶で潤す。

確かに姉妹のように育った親友達を失ったのは今でも悲しい。

時折生きている事が申し訳なくて辛いと思う時もある。

彼女達の事は一生忘れる事はないだろう。

だけど、その悲しみや苦痛に寄り添い、欠けたモノを埋めてくれる人達に綾瀬彩那は出逢えたのだ。

その奇跡と幸運の価値がどれ程の物か、彩那だけが知っている。

 

「要約すると、私は皆に救われたのよ」

 

最後にそう締め括った。

なんと言えば良いのか分からないなのは達だが、リインフォースが口を開いた。

 

「私も綾瀬には感謝している。この世界に私が居ないと知った時に、怖くなったよ。この10年、主達と過ごす時間が幸せ過ぎて、その可能性がない世界に来て。改めて自分の幸運を噛み締めている」

 

今のリインフォースに戦う力はない。

主とのユニゾンも出来ない、融合機としては欠陥品だ。

それを歯痒く思う事もあるが、主や騎士達と一緒に過ごせる幸福はそれ以上に勝る。

彩那との関係も昔では考えられない変化だ。

 

「ありがとう綾瀬彩那。お前が居てくれたことに感謝する」

 

「どういたしまして、と受け取りましょう」

 

そう言って2人は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お茶会が終了するとリインフォースははやての部屋に訪れていた。彼女に誘われて。

 

「……1つ、ワガママ言うてもええかな?」

 

「なんでしょう?」

 

「今だけ……わたしを主って呼んでくれへん?」

 

はやてのお願いにリインフォースは瞬きをする。

これまで自分達の知る八神はやてと区別する為にはやてさんと呼んでいた。

今でも自分の主は元の世界の八神はやてだと思っている。

だけどきっと、リインフォースはこの為に自分はこの世界に喚ばれたのだと思った。

 

「はい。我が主」

 

はやてを主と呼ぶと、ワナワナと唇を震わせてリインフォースに抱きついた。

 

「ずっと後悔してた……10年前のあの雪の日。リインフォースを救えなかった事を……」

 

罪を告白するようにはやては話す。

 

「悔しかった。貴女が消えることのない可能性を知って。どうしてわたしには貴女を救えなかったんやろって……」

 

綾瀬彩那がこの世界に居ない事が悔しかったのではなく、リインフォースを救える可能性を拾えなかった自分の不甲斐なさが悔しくて堪らなかった。

 

「私はこの世界の私ではありません。だからと言って想像する事しか出来ませんが、きっと幸せだったと思います。最後の主が貴女だった事が」

 

「でもっ!」

 

リインフォースの言葉を否定するように被せる。

 

「わたしはもっと一緒に居たかった!一緒にご飯食べて!お風呂に入って!同じ家で寝て!旅行に行って、管理局でお仕事をして!それでそれで……っ!」

 

堰を切ったように感情をぶつけて話すはやて。

 

「闇の書の罪を、一緒に償いながら、笑って生きてきたかったんや……っ!」

 

目の前に居るのは自分達のリインフォースではない。

それでも話し始めると止まらなくて。

そんなはやての手をリインフォースが開かせる。

 

「その小さな体で、ずっと闇の書(私達)(愚かさ)を背負ってくれていたのですね」

 

優しい声でその努力に褒めるように。

 

「ありがとうございます……我が主よ。貴女は尊敬に値する尊い女性()です」

 

リインフォースの言葉に堪えていた涙が落ちる。

10年前の小さな子供に戻ったように。わんわんと泣き続ける。

彼女のこれまでの頑張りに報いるようにはやての頭をリインフォースは泣き止むまで撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾瀬彩那とリインフォースが来て1週間。彼女達の帰る目処が立った事を報告する。

そこで最後の交流としてなのはからある提案をされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シグナム。いつまでもむくれてんじゃねぇよ」

 

「……別にむくれてなどいない」

 

なのはから出された提案は最後に自分と模擬戦をしてほしいとのお願いだった。

別世界の自分の師匠(せんせい)と戦ってみたい、と。

それで自分の時ははやてに却下されたのに、とシグナムがやや不機嫌になっているのだ。

 

「ごめんなぁ。シグナム。綾瀬さんも一応了承してくれたから」

 

「いえ。ならば、2人の闘いを確りと見届けます」

 

気持ちを切り換えるシグナム。

模擬戦が終わったらすぐに帰る為にロストロギアの鏡はリインフォースが持っている。

2人が帰った後に鏡が不用意に起動しないように完全封印する予定だ。

 

「皆も、ちゃんと見て勉強してね」

 

『はい!』

 

優秀な魔導師同士の戦闘はそれだけで勉強になる。

フェイトは新人達に良く見るように指示をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空間シミュレーターで再現されたミッドの町並み。

なのはと彩那はそこで向かい合っていた。

彩那の手には霊剣が握られており、武器が微妙に違う事に警戒するなのは。

 

『それでは、模擬戦スタートやっ!』

 

はやてからの合図と共に彩那の姿がなのはの視界から消えた。

 

「っ!?」

 

背後に回っていた彩那が剣を振るうがなのはもレイジングハートの柄で受け止めつつ、距離を取る。

 

「アクセルシューターッ!」

 

同時に誘導弾を6つ発射した。

 

「シャインエッジ」

 

彩那も同じ数の誘導刃を生み出す。

互いの弾と刃が高速で移動し、交差する。

目まぐるしく動く魔力の塊を2人は完全に制御しつつぶつけ合う。

魔力の塊が衝突したことで発生する爆煙に互いの姿が隠れようとする。しかしその前に彩那が突っ切ってなのはに接近した。

霊剣を振るってなのはを追い詰める。

防戦一方のなのはは彩那の胸を蹴って僅かに距離を取ると、レイジングハートを向ける。

 

「ディバインバスターッ!」

 

抜き打ちの速射砲を至近距離で放つ。

彩那は桃色の砲撃に包まれた。

観客の大半は勝負はついたと思ったが、彩那は聖剣を手にして防御魔法を展開して防いでいた。

逆になのははその場から姿を消し、ビルの後ろに隠れていた。

今の攻防を分析する。

 

「型は違うけど、剣技はシグナムさん並み。スピードはフェイトちゃん。防御はヴィータちゃんと同じくらいな上に少なくとも誘導弾の操作は私と遜色ないね。うわぁ……模擬戦を挑んだの失敗したかなぁ?」

 

器用貧乏などと言うレベルではない。

完全なオールラウンダーだ。

だからこそ勿体ないなとなのはは思う。

魔法が好きなら、もっと上手く、そして強くなれるだろうに。

 

「久しぶりに、胸を借りる気分だね……」

 

同世代であんなにも強い人が居る事になのはは別世界の自分を羨ましく思う。

エースオブエースと呼ばれても、なのはは自分が管理局で1番強いなどと自惚れてはいない。

それでもその称号を与えられた自負はある。

なのはは距離を取れた優位を活かす為にその場から12発の射撃魔法を撃つ。

以前ティアナにやったように剣で防ぐのかと思ったが、最小限の動きで射撃魔法を避けた。

 

「どんな反射神経かなっ!?」

 

驚きつつも次の手は緩めず、砲撃魔法を撃つ。

左肩を掠めたが、右手に持っている剣がいつの間にか変わっており、金の突撃槍(ランス)の先端から鎖が生み出され、なのはの左腕に絡み付く。

 

「バインド!?だけど――――」

 

「違うわよ。チェーンボム……!」

 

鎖を破壊しようとする前に絡まった鎖が爆発を起こした。

少ない爆発で拘束から逃れるなのは。

 

「今のはちょっと酷いんじゃないかな!」

 

「それについては同感ね」

 

かつての親友の魔法にエゲツ無さに彩那も同意する。

赤い魔剣をなのはに向けると脇に痛みが走った。

先程の射撃魔法をなのはは全て回避されたと思ったが、実は2発だけ脇腹と右の太股に当たっていた。

互いに武器を向けて砲撃魔法が発射されようと――――。

 

 

すると、観客席の方から巨大なホーランドの術式が展開されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如起動した鏡のロストロギア。

リインフォースはすぐにそれを手から放して距離を取った。

いや、リインフォースだけでなく、観客全員がだ。

宙に浮いた鏡から展開されるホーランド式。

そこから吐き出されるように現れたのは複数の機械だった。

 

「ガジェット?」

 

六課の回収目的であるレリックを狙う機械の兵隊を連想するが、明らかに見た目が違う。

大きさはエリオやキャロくらいで四角い胴体に4本の脚が付き、中心にはカメラと思われる穴が2つ縦に設置されている。

そこで高速で飛んで来た彩那が叫ぶ。

 

「早くそいつらを破壊しなさい!!」

 

珍しく焦った様子で叫ぶ彩那。

誰もが呆気を取られている中で、機械が動き出した。

 

「主っ!?」

 

リインフォースがはやてに抱き付いて跳ぶ。

すると下の方のレンズからレーザーが照射された。

間一髪で2人が避けると同時に主が狙われた事にシグナムとヴィータが幾つかの機械を破壊する。

彩那も着地と同時に機械を斬り捨てた。

 

「なんだよこりゃあっ!?」

 

「帝国が昔使っていたヒューマンキルを目的とするオートマトンよ!人間を無差別に攻撃するわ!絶対に演習場から出さないで!市街地に出たら大変な事になる!」

 

帝国が一般市民を虐殺するために使用した殺戮兵器。

幸い個々の能力は大した事はないが、魔法を使えない者には脅威となる。

鏡のロストロギアから今も際限なくオートマトンが吐き出されている。

六課の全線メンバーはすぐにデバイスを起動させてバリアジャケットを纏う。

 

「えぇいっ!!」

 

エリオがストラーダを突き刺し、矛に電撃を発生させて完全に破壊する。

 

「このぉっ!!」

 

スバルもマッハキャリバーでオートマトンの動きを掻い潜り、リボルボーナックルをぶつける。

 

「ティアナさん!」

 

「ありがとうキャロッ!」

 

中には速い個体も存在し、それをキャロがバインドで拘束してティアナが撃ち抜く。

当然隊長達も棒立ちではない。

バルディッシュを手にしたフェイトが通った後のオートマトンは目にも止まらぬ速さで斬られて破壊される。

 

「飛竜、一閃っ!!」

 

シグナムがレヴァンティンを連結刃に変えて複数体を同時に破壊し、取りこぼしをヴィータとザフィーラがそれぞれ潰していく。

オートマトンを潰しながらヴィータが記憶の引っ掛かりを覚えた。

 

「なんかコイツら、見たことある気がすんだけど、なっ!」

 

「口より手を動かせっ!1機たりとも逃がす事は許さんっ!」

 

「わーってるよっ!」

 

 

 

「リイン、いくでっ!!」

 

「はいです!」

 

はやてとリインフォース・ツヴァイがユニゾンする。

 

「シャマル!リインフォースをお願いな!」

 

「はい!」

 

リインフォースは戦えないと聞いているのでシャマルに任せてはやても討伐に乗り出す。

 

「バルムンクッ!!」

 

1ヶ所に集まっていたオートマトンがはやてが生み出した光の剣に貫かれていく。

 

そしてなのはも勿論、射撃魔法や誘導弾を駆使して出てくるオートマトンを片っ端から破壊していた。

 

「綾瀬さん!後何体出てくる?」

 

「ちょっと分からないわね……いえ。どうやら次で最後のようよ」

 

浮いていた鏡からホーランド式の術式が消えて落ちてくるそれをキャッチする。

最後に吐き出されたオートマトンは先程のより圧倒的に大きい。

ザッと4メートル程の巨体なオートマトン。

 

「デカいなら、それだけ当て易いのよっ!!」

 

巨大なオートマトンにティアナが射撃魔法を撃つ。

しかしそれは、装甲に当たる前に掻き消えた。

 

AMF(アンチ・マテリアル・フィールド)!?」

 

魔力の結合を阻害するフィールド。

巨大なオートマトンからレーザーが照射されようとする。

サイズが大きくなったのならその威力も当然上がる。

そんな中で彩那が迷わず突進した。

 

「綾瀬さんっ!?」

 

突進しながら顔の包帯を外してリミッターを解除した。

防御魔法を展開して1人レーザーを受け止める。

 

「今更この程度でっ!!」

 

聖剣を一閃させると同時にレーザーが照射を終えるとオートマトンの上を取った。

 

(スーパー)勇者斬り……っ!!」

 

高速で落下して極限まで研ぎ澄ませた霊剣で一刀両断して見せた。

彩那が着地すると同時に両断したオートマトンの体がズレて崩れ落ちる。

同時に小型のオートマトンも全て排除された。

一息吐いて剣を下げると彩那の顔を見たヴィータが何か言いたそうにしている。

 

「お前、は……」

 

彩菜の素顔を見たことがあるような気がする。

しかし記憶から出てこない。

そのもどかしさと彩那を見て言葉に出来ない敵意が顔を出す。

ヴィータの反応に彩那はある程度察する。

 

「忘れなさい。過去、私達の間に何があったとしても、貴女にはもう関係のない事だわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう帰ってまうの?」

 

「私達が帰らないとこのロストロギアが封印できないでしょう?」

 

いつ起動するか分からない謎道具は早々に封印すべきだ。

名残惜しいが仕方がない。

包帯を巻き直した彩那が肩をすくめて笑う。

 

「でも元の世界にはどうやって?」

 

もしや互いの世界しか繋がっていない、という事は有るまい。

 

「この道具の履歴を辿って、私達の世界に繋げるのよ」

 

繋がった世界の履歴が残るらしく、それを引き出して元の世界に帰る。

 

「模擬戦……中途半端になっちゃったなぁ……」

 

「ごめんなさいね。もう機会無いでしょうに」

 

彩那の謝罪になのはは残念そうに笑う。

 

「リインフォース……元気、でな?」

 

「えぇ。はやてさんも」

 

最後の別れにしては多く言葉にしない。

もう別れの挨拶は済んだし、彼女らを帰さなければならない。

 

「綾瀬さん。リインフォースを助けてくれてありがとうございます」

 

はやてのお礼に彩那は柔らかく笑った。

 

「さようなら」

 

短い挨拶と共にロストロギアを起動させると幻のように2人はこの世界から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六課の事務室では突然消えた2人に局員達は困惑していた。

急ぎ、八神部隊長に連絡しようとすると、再びホーランドの術式が展開された。

術式の光が消えると2人が同じ場所に現れる。

 

「綾瀬副部隊長っ!?リインフォース補佐官っ!?」

 

グリフィスが2人の名を呼んだ事やその様子でこの世界が自分達の世界だと確信する。

 

「私達が消えてどのくらい経つ?」

 

「凡そ、5分程ですが……」

 

リインフォースの質問に答えるグリフィス。

自分達が消えて殆んど時間が進んでない事に安堵する。

 

「あの……いったいなにが……」

 

「八神部隊長達が帰ってきてから説明するわ。ちょっと疲れたから、少し休ませて」

 

「あ、はい……」

 

そう言われれば従うしかないので渋々了承する。

 

 

それから数時間後。海鳴に出張に出ていた面子が戻ってきて。事務室に隊長3人がやってくる。

 

「お土産買ってきたよー。なのはちゃんの実家の喫茶店のケーキや。皆で美味しく食べてなぁ。それとなんか問題は?」

 

事務室の皆にケーキを配るはやて。

グリフィス達がチラチラと彩那とリインフォースを見る。

 

「お帰りなさい八神部隊長。少しだけ問題が。それは後のブリーフィングでお話しします」

 

ケーキを受け取るとはやてがそうか?と首をかしげる。

そのまま彩那は3人を見る。

 

「どうしたの彩那?」

 

「いえ。うん。なんて言うか……ありがとう。貴女達に出逢えてほんとうに良かった」

 

小さく微笑んで突然お礼を言われて戸惑う3人。

 

「ケ、ケーキのお礼にしては感情が籠り過ぎじゃないかな?」

 

「今、凄くお礼が言いたい気分だったから」

 

そう告げると彩那は自分の席に戻ってケーキを食べ始める。

 

「リインフォース。ほんまになにがあったん?」

 

はやての質問にリインフォースは苦笑するだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ:クラナガンの怪人による教育的指導

 

 

「おはようございます」

 

彩那が出勤し、挨拶をするが数人を除いて挨拶もなければ目すら合わせない。

それもいつもの事なので、自分の席に座ってデスクワークを始める。

綾瀬彩那二尉(12歳)が所属する質量兵器捜査一課は局内での不人気部署である。

クラナガンに部署が1つだけだが、出動は年に片手で数える程度で、大半は地道な捜査に費やされ、他の部署よりも給料は低めで昇進の機会も少ない。

しかもいざ出動となればその危険は並の魔導師が起こす事件よりも高く、死亡する局員も当然居る。

しかも他のエリート部署からはナメられる始末。

そんな部署に配属してくるのは変わり者か厄介者と相場が決まっており、しかも部隊自体が男所帯だ。

故に当然――――。

 

「綾瀬二尉」

 

「はい。何でしょう三佐?」

 

「先日の違法薬物の捜査に関する報告書をそろそろ提出してくれ。お前だけだぞ、提出してないのは」

 

「……それなら2日前に提出した筈ですが?」

 

「俺のところには届いてねぇよ」

 

「……」

 

互いの会話から何が起こったのか大体察した。

 

「またか……」

 

「また、ですね」

 

「他人事みたいに言ってんじゃねぇ!」

 

痛くない程度の力でチョップされる彩那。

この部署に配属されて半年。こうした嫌がらせはたまにある。

突然配属されたのが顔を包帯で隠した愛想もない薄気味悪い小娘(ガキ)

もしもこれが同期の高町なのはやフェイト・T・ハラオウン。八神はやてなら彼らの対応も違ったかもしれない。

いつも独りで黙々と仕事をし、自分達より魔導師ランクも階級も上の小娘ときた。不満が出ない方がおかしい。

 

「バックアップは残ってるのですぐにコピーします」

 

「……そうしてくれ」

 

部署の唯一の味方は責任者である三佐だけだ。

しかしこれが長く続くのは非常に良くない。

今はまだ眼を瞑れる軽い嫌がらせで済んでいるが、それがいつ過激なモノになるとも限らない。

大の大人の男が寄って集って小さな女の子に嫌がらせしているという事実はお世辞にも気持ちの良い話ではない。

 

(そろそろ何とかしねぇとな)

 

三佐は頭を掻いて解決案を捻り出す。

本人達で解決するのが1番だったのだが。

 

「綾瀬二尉。ちょっと良いか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼。

質量兵器捜査一課の武装局員は彩那を除いて15名居る。

彼らは訓練の名目で小さな演習場に集められていた。

彩那以外の局員は既にバリアジャケットを纏っている

そこでジャージ姿の綾瀬彩那二尉はメガホンを持って今回の訓練の説明に入る。

 

『それでは模擬戦に入ります。ルールは簡単。5名ずつチームを組んで順番に私の相手をしてもらいます。時間は1組10分。時間内に私を撃墜出来れば終了です。メンバーはそうですね。私から見て左5名ずつで良いでしょう。前に出なさい』

 

階級が上とはいえ新参者のくせに命令してくる彩那に当然反発が起きる。

モヒカンヘアで筋肉質の男が小馬鹿にして鼻で笑う。

 

「おいおい。1人で俺達を叩きのめそうってか?自信過剰もいい加減にっ!?」

 

話している途中に彩那はモヒカンの男に接近して拳を打ち込む。

すると男は捩るように回転しながら飛ばされ、地面に顔から不時着した。

 

『……』

 

沈黙する周囲に彩那は呆れたように呟く。

 

「もう模擬戦は始まっていますよ。さっさと来なさい。10分なんて時間はいらない。3分で決着(ケリ)をつけましょう」

 

彩那は地を蹴って跳び、近くにいた同僚の首に蹴りを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「58秒……5人で1分持たないとは情けない」

 

5人の局員を倒した順に積みながら、そこに尻を乗せる彩那。

三佐の提案は今度の訓練で彩那の実力を示せという指示だった。

男所帯だが、同時に実力主義の単純な面々であるため、実力さえ示せば認めて態度も変わるだろうと。

 

「次。前に出なさい」

 

彩那が指示を出すと先程の光景がフラッシュバックし、ビクッと肩を跳ねる。

ちなみに発案者である三佐も思った以上の光景にドン引きしていた。

彩那はクスリと小さく笑い、同僚を見下した声を発する。

 

「安心なさい。私はこう見えてもテクニシャンですから。今日は全員、足腰立たなくなるくらいに、気持ち良くしてあげましょう」

 

積んでいた同僚から降りて、彩那はクイクイと挑発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから週2回のペースで模擬戦を行い、彩那はその度に同僚達を完膚なきまでに叩きのめし続けた。

その結果――――。

 

 

 

 

「おはようございます」

 

『チーッス!!おはようございます!綾瀬二尉!!』

 

彩那が出勤すると、武装局員を含めた全員が立ち上がって頭を下げて挨拶をする。

席に着くとついこの間まで彩那を軽んじていた同僚達が話しかけてくる。

 

(ねぇ)さん!今日も包帯が決まってますね!」

 

「姐御!珈琲でも煎れましょうか!」

 

(あね)さん!これが今回の報告書ッス!」

 

模擬戦で叩きのめし続けた結果、最初は小娘にやられる事実に屈辱を感じた彼らだが、実力を認めた後は態度が一変した。

これにはつい半月前の出動で質量兵器を所持した犯罪者達の殆んどを彩那1人で処理したのも理由ではあるが。

 

「姐御ぉ!」

「姐さん!」

「二尉殿!」

 

自分を慕って呼び続ける歳の離れた同僚達を見て、珈琲を啜りながら彩那は首を傾げる。

 

「どうしてこうなったのかしら?」

 

 

 




実はやりたかったのは、リインフォースを失ったはやてと生存したリインフォースの出会いだったりします。他はおまけです。
なんで3話もかかった?

本編の次話を投稿したらこの話を1つ上に移動させます。
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