世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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番外編と同時に書いてて完成したので。



闇の欠片

 夜、娘を捜していた夫が帰って来た頃にリンディが綾瀬家に訪ねてきた。

 

「彩那さんが見つかりました」

 

 難しい顔でそう告げたリンディに瑶子が目を見開く。

 

「ほ、本当ですか!? 娘は今何処に!」

 

 夫である綾瀬祐司が反応を返すとリンディが案内しますと手招きする。

 そして通されたのはリンディが住んでいる部屋だった。

 どうしてリンディの部屋なのか、質問するより先に彼女が話す。

 

「説明は向こうで行います」

 

 向こう? と質問する前にリンディ宅の景色から何処か厳重な施設の風景へと変わる。

 

「え? え?」

 

 困惑しているとリンディがこちらですと案内する。

 綾瀬夫婦は困惑と恐怖を覚えながらも付いていく。

 

「この部屋です」

 

 自動ドアが開く。

 中にはなのはとフェイトが椅子に座っていた。

 その奥にあるベッドには、最愛の娘が眠っている。

 娘の姿を見た瞬間、瑶子は膝に力が抜けて倒れそうになった。

 

「瑶子っ!?」

 

 倒れる前に夫である祐司が支えた。

 

「……大丈夫。リンディさん。少し、家族だけにさせてもらえませんか?」

 

「もちろんです。フェイトさん、なのはさん」

 

 リンディが部屋に居た2人に退室を促す。

 フェイトは夫妻に頭を下げて退室し、なのはは何かを言おうとしたが、結局言葉にならずに部屋を出た。

 3人になると瑶子が管に繋がれ眠っている娘の手を握る。

 今はただ、娘が生きて居てくれた事に涙が出た。

 

「彩那……」

 

 愛娘の手を握る妻の肩に夫である祐司は手を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 30分程経ってから綾瀬夫妻は今回の件について説明を受けていた。

 魔法の事や次元世界や時空管理局の事。

 今回、とある事件の解決の為に海鳴にやって来た事など。

 そして彩那が今回、管理局員によって拘束されていた事も含めて。

 説明を聞き終えても夫妻は内容の半分も理解できていない。

 それでも確かめたい内容もあった。

 

「リンディさんは、その時空管理局が娘を拐った事を知っていたのですか?」

 

「……いいえ。私も先程息子のクロノから聞かされるまで、彩那さんの所在は知りませんでした。ですが、管理局の人間が彼女に危害を加えたのは事実です。いえ、それだけでなく、これまで彩那さんを危険な事件に関わらせた事も言い訳のしようがありません。本当に、申し訳ありませんでした」

 

 そう言って頭を下げるリンディ。

 綾瀬夫妻からすれば、いきなり多くの情報がもたらされて頭が追い付かないのだ。

 怒りが無いと言えば嘘になるが、それよりも今はただ、娘が生きて帰ってきてくれた事に対する安堵が大きい。

 

「娘の容態は……?」

 

「身体の負担もそうですが、リンカーコアと呼ばれる魔法扱う為の器官が通常では考えられない負荷がかかった痕が有ります。ですが、時間が経てば目を覚ます筈です。信じて欲しいとは言えない立場ですが、彩那さんの容態を看るなら、此方に任せてください。勿論このまま泊まっていただいても構いません」

 

 魔法という自分達の常識とは異なる事態。

 疑う気持ちはある。しかし娘の回復を願うのなら、ここを動かさない方が良いのかもしれない。

 

「……正直に言えば、娘を拐ったのがその時空管理局の方々なら、私達はそちらを簡単に信じることはできません」

 

「はい……」

 

 当然の事だとリンディは思う。

 普通なら今すぐに通常の病院に移せと怒鳴られても仕方ない。

 尤も、今の彩那は動かせる状態ではないので、言葉を尽くして止めるが。

 

「ですが、フェイトちゃんは彩那の友達だと思ってます。だからその保護者であるリンディさん個人を信じたいと思います。どうか娘をよろしくお願いします」

 

「はい。私が責任を持って彩那さんの安全を保証します」

 

 力強い言葉で頷くリンディ。

 次いで祐司が質問する。

 

「リンディさん私からも質問をよろしいでしょうか?」

 

「勿論です」

 

「去年、娘が友人達と一緒に行方が分からなくなった時期がありました」

 

「存じています。尤も、私が知っているのはニュースで取り上げられた程度の物ですが」

 

「そうですか。その去年娘達が消えたのも、その魔法が?」

 

 祐司の質問にリンディは頷く。

 

「確証はありませんが、彩那さんがデバイスを所持してる点など、その可能性が高いと考えています。ですが、詳細は本人が語っていただかないと……」

 

 魔法に関する何らかに巻き込まれたのはほぼ確実だが、内容までは分からない。

 もしかしたら、娘に起こった何かが分かるかもと期待したが、そうではなく肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夫である祐司が着替えなどを取りに戻り、瑶子は彩那の傍に居た。

 静かな寝息を立てて眠る娘の手を握り目覚めるのを待つ。

 そうしていると閉まっていた扉が開いた。

 振り返るとそこには車椅子に乗った少女が居た。

 

「あの……入ってもええですか?」

 

 遠慮がちに問う少女に瑶子は笑顔で頷く。

 近付いてきた少女の名を確認する。

 

「確か、八神はやてちゃんだったわね」

 

「はい。綾瀬さんには、今回うちの子らが迷惑をかけて。それにとてもお世話になりました」

 

 ペコリと頭を下げるはやて。

 本来そう言われるのは誇らしい事かもしれないが、この状況では素直に喜べない。

 はやてはベッドに管を巻かれて眠っている彩那を見ている。

 傷は未だ癒えずに残っている。

 その痛々しい姿にはやては哀しそうな顔をした。

 

「……今の彩那を見ていると想像出来ないかもしれないけど、昔はよく笑う子だったの」

 

 思い出すように話を始める瑶子。

 

「前に、彩那にはとても仲の良い友達が居て。いつも一緒だった」

 

「はい。綾瀬さんとは去年同じクラスでしたから、覚えてます。学校で4人いつも仲良さそうで。羨ましい思うとりました」

 

 はやては去年、まだ学校に通えていたギリギリの時間を思い出す。

 4人はいつも一緒で、楽しそうで幸せそうだった。

 

「渚ちゃん。冬美ちゃん。璃里ちゃん。皆良い子で。特に渚ちゃんとは本当の姉妹みたいに育ったの。彩那はいつも渚ちゃんの後ろについて回っててね」

 

 過去を懐かしむように語る瑶子の話をはやては黙って聞く。

 

「でも、あの事件が遭って、帰って来たのは彩那だけだった……」

 

 声に陰りが表れる。

 

「病院で見た時の彩那は今より酷い怪我をしてて。お医者さんも生きてるのが不思議なくらいだって言ってたの。でも目が覚めてから驚くくらいに回復していって。たぶん、それも魔法だったんでしょうけど……」

 

 本当なら今でも病院にかからなければいけない筈の彩那が僅か1ヶ月で退院した。

 それは喜ばしいことだ。

 しかし。

 

「リンディさんとさっき話して、私はこの子の事を何にも知らないんだなって……凄く恥ずかしかった」

 

 魔法の事も。行方不明の間に何が遭ったのか。

 どうして彩那だけが帰って来てくれたのか。

 どうして目が覚めた時に、あんなにも絶望した声を漏らしたのか。

 

「なんにも話してくれないのよ……それが悔しくて、悲しくて。彩那が話してくれれば、どんな話だって信じるのに。そんなに私達は頼りないのかなぁ……」

 

 支えたいのに。癒したいのに。

 それすら線を引いて遠ざけようとする。

 はやてに溢しても仕方のない愚痴だと分かっていても、つい口に出てしまった。

 それだけ今回の件は精神的に堪えたのだ。

 忘れてと言おうとしたが、その前にはやてが口を開く。

 

「……うちの子らも、わたしに内緒でたくさんの人に迷惑をかけてわたしを助けようとしてくれました。でもやっぱり、話して欲しかったです」

 

 きっと前もって話されていたら、はやては怒鳴って止めていただろう。それが、自分の生命に関わる事でも。

 それでも、騎士達は蒐集を止めなかっただろう。

 

「話してくれなかったのは、わたしとギクシャクしたくなかったとか、心配をかけさせたくなかったとか、色々あると思います。でもそれ以上に、わたしの為にみんなが誰かを傷付けて、傷付いてると知ったら、スゴく気に病んでたと思うんです」

 

 事件が終わった今でも、どうして気付けなかったのか、とか。

 被害者に会ったら、どうすれば良いのか、とか。考えると怖い。

 はやてにのし掛かるその負担が嫌で、口を閉ざしたのだ。

 

「綾瀬さんもきっと、家族を軽く見てるとか、信じてくれないとかやなくて。綾瀬さんなりに壊したくないものや、傷付けたくないもの。守りたいものがあって口に出来んのかなぁって……」

 

 そこまで言ってはやては言葉を止める。

 はやては綾瀬彩那の事を何も知らない。

 かつての親友達のように昔からの付き合いはない。

 なのは達のように濃密な時間を過ごした訳でもない。

 そんな自分が、何を偉そうに言えるのか。

 

「すみません。知ったかぶって……」

 

 しかし瑶子の顔は先程より少しだけ晴れやかだった。

 

「ありがとう、はやてちゃん」

 

 はやては眠っている彩那に話しかける。

 

「目を覚ましたら、いっぱいお話しような。お礼言いたいし、聞いて欲しい話や訊きたい事がたくさんあるんよ。待っとるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたたち、だれ……?」

 

 不思議そうな顔で呟いた彩那の言葉になのはは硬直した。

 痛そうに顔をしかめてベッドから起き上がると、キョロキョロと部屋の中を見回す。

 

「ここ、どこ?」

 

 不安げな表情をする彩那はこれまでとは別人のようで。

 

「彩那、ちゃん……?」

 

 震える声で友人の名を呼ぶ。

 そんな筈はないと思いながら。

 しかし彩那は事態が呑み込めずに困惑するだけだった。

 

「彩那ちゃんっ!!」

 

 なのはが思わず彩那の腕を強く掴むと、痛そうに顔を歪めた。

 

「イタッ!? ちょっと、やめてよっ!!」

 

 彩那がなのはを強く突き飛ばす。

 それをフェイトが肩を抱いて受け止めた。

 自身を抱き締めながら体を縮めて警戒心を露にする彩那。

 そこでフェイトがナースコールで呼んだ医務員や綾瀬夫婦にリンディもやって来た。

 

「彩那っ!?」

 

「お母さん! お父さん!」

 

 家族がやって来た事に安堵の表情になる。

 しかしそれはすぐに不思議そうな顔に変わった。

 

「ねぇ? どうしてそんな厚着してるの?」

 

「どうしてって……」

 

 夫妻も娘の不自然さに気付く。

 これではまるで────。

 

「だって、いまは夏休みだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果を言えば、綾瀬彩那の記憶は去年の夏休みまで退行していた。

 自分が小学校何年の何歳かと質問したら、小学2年生の7歳と答えたのだ。

 それにこれまでとは別人のような雰囲気と振る舞いを見せる彩那に彼女を知る周囲も戸惑っていた。

 

 

 

「なにこれ?」

 

 化粧室の鏡を見て彩那は自分の頬を掻く。

 両頬と額に喉に描かれた凧形の刺青。

 それが全然彩那の好みではないのもあるが、それを見ていると異様に不快な気分になった。

 

『あっ』

 

 化粧室から出ると彩那は自分と同い年くらいの少女2人と鉢合わせる。

 八神はやてとその家族であるヴィータだ。

 はやて達にも彩那の現状は説明されており、余計な刺激は与えないように言われている。

 はやてはどう話を切り出そうかと悩んでいると彩那から話しかけてきた。

 

「八神さんだよね? 同じクラスの」

 

「お、覚えててくれたん? あんまり話したことないのに」

 

「うん。方言で話す子、珍しいから」

 

 はやて自身は海鳴でずっと暮らして居たが、両親が関西出身で自然とそちらの方言が身に付いていた。

 

「あはは。変かなぁ?」

 

「ううん。そんな事ないよ。八神さんの話し方、柔らかい感じがして私は好きだな」

 

「あ、ありがとうな」

 

 自分の話し方を褒められて顔を少し赤くするはやて。

 それとは別に疑問が起こる。

 

(前に会った時はわたしのこと覚えてない言うとったのに)

 

 ジュエルシード事件に巻き込まれ、彩那に助けられた時は覚えてないと言っていたのを思い出す。

 なら、彩那はいつはやてのことを忘れたのか。

 

「え、と……後ろの子は?」

 

「あ、うん。わたしの家族でヴィータって言うんよ」

 

「ども」

 

 はやての紹介にヴィータが警戒しながら頭を下げる。

 彩那は手を軽く合わせて笑みを浮かべる。

 

「かわいい子ね。よろしく」

 

 そう言って握手を求められるとヴィータが反射的に少し下がった。

 

「あ。ごめんね。馴れ馴れしかったかな?」

 

「いえ……」

 

 おずおずと彩那と握手するヴィータ。

 鉄槌の騎士ヴィータにとって綾瀬彩那は敵である。

 昔も今も殺意と敵意をぶつけ合い。互いの武器を交わす。

 だからこそ、普通の女の子のような振る舞いを見せる彩那には違和感しかない。

 

(気持ちわりぃ)

 

 というのが正直な感想だ。

 また、はやても今の彩那に戸惑っていた。

 普段から包帯を巻いて顔を隠し、落ち着いた態度を見せていた彩那。

 その姿に慣れて今の年相応の様子にどう接すれば良いのか少し困る。

 

「八神さん。前は松葉杖突いてたけど、その……足、悪いの?」

 

 訊いて良いのか判らず躊躇いがちに質問する彩那にはやては返す。

 

「あ、うん! 最近はちょっと危なかったんやけど、今は治療が上手くいって大分良くなったんよ。リハビリも始めとるから」

 

 はやての返答にそうなんだ、と胸を撫で下ろす。

 そこで彩那が陰鬱そうに息を吐く。

 

「検査とか、よく分からない質問やテストを1日中されてうんざり……なんなんだろ?」

 

「あぁ。分かるわぁ。わたしも検査の待ち時間や一気に色んな事をやらされると目が回るなぁ」

 

「うん……」

 

 そんな風に話していると職員に彩那が呼ばれる。

 

「綾瀬さん。次の検査の準備が整いました」

 

「はーい。じゃあね、八神さん。後でまた話そうね」

 

 それは奇しくも、眠っていた彩那にはやてが言った言葉と同じだった。

 はやてが彩那を呼び止める。

 

「綾瀬さん!」

 

「ん?」

 

「あのな。わたしの足、ずっと悪くて。でもある人が励まして、背中を押してくれて、守ってくれたんよ。だから!」

 

 そこで口を閉ざす。

 ここから先は、今の彩那に言うべきではないと感じて。

 

「綾瀬さーん」

 

「はーい。じゃあ行くね」

 

「うん。邪魔してごめんなぁ」

 

 彩那は駆け足で職員の下に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 検査を終えて、取り敢えず彩那は自宅に戻す事となる。

 幸い記憶以外はそこまで深刻な状態ではなく、自宅で療養すれば自然と記憶も戻るかもしれないと結論付けて。

 ここ数日に彩那が行方不明だった件は管理局側が責任を持って調整するとの事。

 

 彩那とその母である瑶子は海鳴にある人気のない公園に転移してもらった。

 町を歩くのも記憶を取り戻す切っ掛けになるかも、という理由と、なのはの両親が経営する喫茶店翠屋に行く用事があるからだ。

 娘のゴタゴタで予約していたクリスマスケーキをキャンセルする流れになったのだが、彩那が見つかった事を安心した高町夫妻が代わりのケーキを用意してくれると言ってくれた。

 町を歩きながらそれを取りに行こうと歩く。

 

「お母さん。携帯貸して」

 

 少し移動してから突然携帯をねだる彩那に瑶子は首を傾げる。

 彩那に携帯を持たせたのは行方不明から帰って来た後だし、その携帯も今回拉致された時に壊されてしまった。

 だから母に携帯を求めるのは不思議ではないが。

 

「どうして?」

 

「渚ちゃんとお話したいから」

 

「あ……」

 

 そう言えば、前は夜に渚とよく電話で話していたのを思い出す。

 

「聞いて。渚ちゃん達はね。彩那が眠っている間に事情があって遠くに引っ越しちゃったの。だから、ね?」

 

 何とか誤魔化そうと嘘の説明をする瑶子。

 信じられないと言った様子で戸惑う彩那。

 しかし、そんな娘を見て瑶子は安堵する。

 ようやく、自分の知ってる娘が戻ってきたと。

 顔を包帯で隠し、妙に大人びた態度をではなく、本来こういう子だった筈なのだ。

 

(彩那はこのままの方がいいのかもしれない)

 

 そんな考えが頭を過った。

 それが、この1年ちょっとの娘を否定する事だとしても。

 あんなにも辛そうな顔をする娘よりも、今の方がずっと彩那らしい。

 そう考えていると、町に違和感を覚える。

 まだ時刻は夜の7時前。人が居なくなるにはまだ早い時間だ。

 なのに、人っ子1人見当たらないのはどういう事か。

 恐怖を覚えて瑶子は念の為にリンディに連絡を取ろうとする。

 

「お母さんっ!?」

 

 するとそこで彩那が母親を突き飛ばした。

 同時に2人の間を太い火線が通過する。

 倒れた瑶子が振り向くと後ろの空には見覚えのある少女が宙に佇んでいた。

 

「あぁ。外してしまいましたか」

 

「なのは、ちゃん……?」

 

 瑶子が確かめるように名を呼ぶ。

 だが、相手は瑶子の知るなのはとは髪型や雰囲気はまるで正反対だった。

 黒いセーラー服のような衣装を着たなのはに似た少女は地面に降り立ち、可愛らしくスカートの裾を摘まむと淑女のように頭を下げた。

 

「私は、理を司るマテリアル。シュテル・ザ・デストラクター。砕け得ぬ闇の復活の為……その最大の障害と思われる綾瀬彩那(貴女)を滅殺しに参りました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アースラの1室で談笑していた八神家の面々は突然リンディからの通信を受けた。

 

『休んでいるところごめんなさい。今海鳴で大規模な結界が確認されました。魔力のパターンが闇の書と酷似しているの』

 

「闇の書の魔力の残り滓ですか?」

 

 リインフォースの質問にリンディは頷く。

 

『恐らくはね。同時に正体不明の魔力反応が多く確認されています。クロノや武装局員は既に現場に向かい、フェイトさんとなのはさんには既に協力を要請しました。でも数が多くて全てに手が回りません。ですから────』

 

「我らにもその対処を要請すると?」

 

 シグナムの問いにリンディがえぇ、と肯定する。

 

『勿論これは強制ではありません。断ったからと言って、そちらに不利が働くことはないと約束します』

 

 狡い言い方だとシグナムは内心で苦笑する。

 海鳴。それも闇の書関連ともなれば、自分達が大人しくしてる訳がない事を見越しての要請。

 そして戦えないはやてやリインフォースの事も慮り、こういう言い回しをしているのだ。

 

「分かりました。闇の書が関わっているとなれば、我らも無関係では居られません。私とヴィータ。シャマルとザフィーラが現地へ赴きます」

 

『えぇ。お願いします』

 

 そして、こうして出動を要請する程度には信頼してくれた事にも内心で感謝する

 

「みんな……」

 

 不安そうにしているはやてにヴィータが笑いかける。

 

「大丈夫だよ、はやて。すぐ片付けてくるから」

 

「はやてちゃんはここで私達の帰りを待っていてください」

 

「リインフォース。主を任せたぞ」

 

「あぁ。分かっている」

 

 ザフィーラの言葉に頷くリインフォース。

 それからすぐに海鳴に転送された。

 大きな魔力反応が4つ集まっている場所に。

 その魔力が人の形を成していくと、騎士達に緊張が走った。

 

「おいおいマジかよ……」

 

 ヴィータは舌打ちしてグラーフアイゼンを両手で強く握った。

 

「あの子達は……」

 

 シャマルが険しい表情で指に填めたクラールヴィントを撫でる。

 

「……」

 

 ザフィーラは無言で拳を握った。

 

「我らはほとほと奴らと縁があるな」

 

 シグナムも鞘に納められたレヴァンティンを静かに抜く。

 魔力で生み出されたその人物達。

 最近見慣れた4本の剣。

 聖剣。魔剣。霊剣。王剣。

 それを握るのはかつて自分達を追い詰め、下した勇者達。

 過去の戦争で最強を誇った勇者がここに再現された。

 

 

 

 

 

 

 

 




没案のBOA編だと彩那の記憶がなくなってマテリアルに襲われるのではなく、記憶は失わず、闇の欠片で再現された勇者達に襲わせる予定だった。

BOAの時のマテリアルは純粋な敵キャラって感じだったけど、GODで突然良い子化して当時結構戸惑った記憶。
まぁ、善悪が判るほどキャラの掘り下げがなかっただけなんだけど。
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