世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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番外編4:勇者達の休日

 勇者達4人は王都に大きな屋敷が与えられている。

 最初は城に個室を与えられていたが、渚が駄々をこねて無理に街に近い屋敷を買い取った。

 そんな屋敷に来客が訪れた。

 

「今から旅行に行きませんか?」

 

「……いま、朝の4時前なんですけど?」

 

 突然訪問したティファナ王女に冬美は腕を組んで不服そうに返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔導列車に揺られながら6人の少女がはしゃいでいる。

 

「王女様王女様! 今回の旅費、本当に全部そっち持ちでいいの?」

 

「大きな声で王女王女言わないでください。えぇ。これは貴女方に対する報酬だと思ってください。ここ最近は本当に頑張ってくれてましたから」

 

 ティファナの答えに渚がやったぜ! とガッツポーズをする。

 

「その代わりと言ってはなんですが、護衛もお願いしますね?」

 

「任せて! 帝国の奴らが襲ってきても返り討ちにしてやるから!」

 

 上機嫌に鼻唄を唄いながら窓から見える景色を堪能している。

 璃里が本を読んでいる冬美に小声で話しかけた。

 

「なにかあったのかな?」

 

「どうせまた王様と口論にでもなったんでしょ」

 

 いつもの事よ、と気にも止めない。

 むしろ反応したのはティファナの方だった。

 ガシッと璃里の肩を掴む。

 

「そう! そうなんですよ! お父様が今回どんな馬鹿な事を口走ったと思います!!」

 

 そこから今回の会議で話題となったのは、つい先日まで争っていたベルカ式を操るヒンメル王国の事についてだ。

 

「帝国近くに在る鉱山を閉鎖して破壊するって言うんです! あそこの資源的価値もそうですが、今あの鉱山を閉鎖したら、どれだけの人が路頭に迷うか!」

 

 短絡的に考えて、とプリプリ怒っている。

 そこで冬美が本を読みながら質問する。

 

「それで? 結局どう結論が出たの?」

 

 結論が出なければ、態々旅行など誘わないだろう。あまりにも無責任過ぎる。

 

「……しばらくはアーツ様が鉱山の責任者として駐在兵を用意してくれるそうです。吸収したベルカの兵士もそこそこに」

 

「あの強欲爺か」

 

 名前を聞いて冬美が心底不快感を表す。

 アーツ・オク・ルギア。

 ホーランド王国の最上位貴族の1人で、齢120を越えても当主の座を退かない老人である。

 性格は金と権力をこよなく愛する強欲爺。

 金になると判断すれば口を出してくる。

 それだけなら別に良いのだが、この世界に勇者として召喚された当初、色々と無理難題を押し付けられたのを根に持っている。

 ちなみにホーランドでは王族貴族での名は個人名・王族貴族の階級・家名となっており、イムは王族を表し、オクはその1つ下でこの国の最高位貴族の階級を表す。

 

 そこで窓を眺めていたティファナの妹のエリザがはしゃいだ様子で姉の腕にしがみつく。

 

「おねえさまおねえさま! 外がどんどん流れてゆきます!」

 

 列車からの景色に感動してはしゃぐ妹に、ティファナが叱る。

 

「コラ、エリザ! 座席の上で跳ねるんじゃありません!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 姉に叱られてシュンとなるエリザに、渚がまぁまぁ、と宥める。

 

「せっかくの旅行に口煩いお説教は無しだよ。エリザも謝れて偉いねぇ。ボクなんて、悪いことをしても大抵謝らないからさ!」

 

「ドヤ顔で言うことじゃないよ、渚ちゃん」

 

 渚がエリザの頭を撫でると気持ち良さそうにえへへと笑う。

 10も歳が離れたエリザは勇者が召喚された数年後に産まれた王女だ。

 だからか、皆の妹、という認識が強い。

 そこで今まで冬美同様に本を読んで黙っていた彩那が話しかける。

 

「エリザ王女は、魔導列車は初めて?」

 

「はい! こうして旅行に連れていって貰えるのも初めてです!」

 

 エリザが産まれた時には戦争がかなり激化しており、旅行など行っている暇も余裕もなかった。

 既に大半の国が帝国に支配下にあるか、ホーランド王国を中心とした同盟軍となった今だからこそ、一部の地域なら旅行にも行けるようになった。

 少しずつではあるが、大陸の平和が戻りつつある。

 彩那がエリザの手を取る。

 

「旅行中は何があっても私達が守る。だから思う存分旅行を楽しんでね。誰かに迷惑をかけなければ何も言わないから」

 

「はい! ありがとうございます! アヤナねえさま!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とうちゃ~くっ!」

 

「とうちゃ、わっ!?」

 

 列車を降りる際に人の下半身程の高さの階段を飛び降りる渚の真似をしようとするエリザを璃里が止める。

 

「それは危ないからやめようね。エリザちゃん」

 

「は~い、リリィおねえさま……」

 

 ちょっと残念そうにするエリザ。

 彩那が渚を叱る。

 

「渚ちゃんも! エリザちゃんが真似するような危ないことはしないの!」

 

「ウッス。サ~セン」

 

 緩い敬礼のポーズを取って適当な言葉で謝る。

 今回の旅行で王女呼びは危険を呼ぶ可能性があるため、列車内で禁止された。

 

「ティファナおう……さん。これからの予定は?」

 

「予約したホテルに行って、荷物を預けましょうか。それから少し遅い朝食を、と考えてます」

 

 5時の列車に乗って3時間。まだ食事を摂ってない。

 

「それから遊戯園に行きましょう」

 

 遊戯園というのは、日本で言う遊園地の事だ。

 勇者達が知る乗り物と似た物も在れば、こちらでしか体験出来ない物もある。

 あと、地下にはそこそこ大きなカジノやその他の娯楽施設も存在する。

 1泊2日の旅行には丁度良い。

 

「それじゃあ、ホテルい────」

 

「ざっけんなよ、オラァッ!!」

 

 渚の言葉の前に野太い男の声が響く。

 見ると、男女のカップルに男が突っかかって揉めているようだ。

 三角関係の男女のもつれな様子。

 

「……着いたばっかで気分悪くしてくれるわね」

 

「問題が大きくなる前に止める?」

 

 苛立った声の冬美に彩那が提案するが、渚がチッチッチ、と人差し指を左右に動かす。

 

「男連れじゃん。外野がちょっかいかけるのは余計なお世話って奴さ。ほっとこほっとこ」

 

 渚の言葉にエリザが不思議そうに質問する。

 

「なぜ男の人がいたら手をだしてはいけないのですか?」

 

「エリザ、いい質問だね。基本(オス)って生物は(メス)より強く生まれてくるんだよ。なら女を守るのは男の義務であり、女からの評価を上げるチャンスでもある。それを邪魔しないのは外野の心構え(マナー)であり、男女関係の常識(ルール)ってもんさ!」

 

「そうなんですね! 知りませんでした!」

 

「妹に変な常識を吹き込まないでください!!」

 

 渚のとんでもない理屈を聞いて素直に感心するエリザにティファナが怒鳴る。

 そうしていると璃里がトントンと渚の肩を指で叩く。

 

「でも渚ちゃん。男の人が1人でこっちに逃げてくるよ?」

 

 どうやら彼氏と思われる男は自分の彼女を置いて逃げるを選択したらしい。

 それを見た渚が男の顔に飛び蹴りをお見舞いした。

 倒れて気絶させられた男性を見て彩那が額に手を添える。

 

「……手を出さないんじゃないの?」

 

「自分の彼女を放って逃げる玉無し野郎なんて即制裁されて当然でしょ。まったく。猛獣を前にしても自分が食われてる間に彼女を逃がすくらいの気迫ぐらい持ってほしいよね!」

 

「無茶苦茶言わないでください……」

 

 渚自身、本気でそんな事を思っている訳ではなく、思い付いた事をノリで話してるだけである。

 今言った事も数時間すればスパッと忘れるだろう。

 そんな事をしてる間に彼氏という名の盾を失った女性を助ける為に冬美が絡んでいる男の腕を掴む。

 

「別にアンタが誰をナンパしようと勝手だけど、こっちの気分を害さないでくれる?」

 

 冬美が相手の腕を捻り上げる。

 そして男にだけ聞こえるように呟く。

 

「潰すぞ」

 

 本当に殺さんばかりに威圧されてビビった男は冬美の手を振りほどいて逃げていく。

 

「こっわ~。冬美に睨まれたら誰でもお漏らしちゃうね!」

 

「バカな事を言ってんじゃないわよ」

 

 そこで彩那が絡まれてた女性に声をかける。

 

「お怪我はないですか?」

 

「あ、はい。あの、そろそろ退()いてあげてくれると……」

 

 退く、というのは渚が踏んづけている女性の彼氏についてだ。

 渚が蹴り倒した男性の体をグリグリと踏みつけている。

 

「こんなダメ男な彼氏なんて捨てて、ボク達と一緒に遊ばない? おねーさん」

 

「アンタがナンパしてどうする」

 

 渚の物言いに呆れる冬美。

 それに女性はあははと笑う。

 

「彼氏じゃないですよ。この子は弟です」

 

「え? そうなの? うわー。姉を見捨てて逃げるとかなおさら引くわー」

 

 女性の弟から降りると気絶している弟を女性が起こす。

 頭を振って目を覚ますと、渚を見て激昂する。

 

「このア、マッ!」

 

 向かってくる弟さんにアッパーを食らわせると指をボキボキ鳴らす渚。

 

「向かってくるの勝手だけど、ボクってばちょー強いよ? 怪我を増やしたくないな、らっ!?」

 

 冬美が渚の頭に拳骨を落とす。

 

「問題を長期化させるな、このバカ!」

 

「すみません。この子の事は珍獣か何かだ思って大目に見てください」

 

「それどういう意味!?」

 

「はいはい。渚ちゃんは大人しくしててね。いや本当に」

 

 姉弟に璃里が頭を下げて彩那が渚を抑える。

 それから不服そうにしている弟を促して去っていく姉弟。姉の方は終始お礼を言っていた。

 それをずっと眺めていたティファナが質問する。

 

「もしかしていつもこうなんですか?」

 

 あまりにも慣れた様子の勇者達。

 まぁね、と苦笑している。

 

「渚ちゃんは町に出掛ける度に2、3回は揉め事を起こしたり巻き込まれたり自分から突っ込んだりするから」

 

「この間もゴロツキとチンピラの喧嘩に飛び込んで、喧嘩両成敗ー! とか言いながら20人近く黙らせてたわね」

 

「だってしょーがないじゃん。あそこで放っておいたら周りの人にまで飛び火するかもしれなかったし」

 

 実際、渚の慈善事業活動は荒事だけではなく、町で迷子になった子供やお年寄りの世話をしたり、子供達と遊ぶついでに面倒をみたりなども含まれている為、ちょっとした人気者扱いもされてたりする。

 知らなかった渚の素行に頭を抱えるティファナ。

 それに彩那が肩に手を置く。

 

「慣れると思いますよ? 悪いことばかりじゃないですし」

 

「変な慰めはいりません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石王族と言うべきか取ったホテルはここら辺では最も人気の高いホテル。

 そこでただでさえ広い2つの部屋の壁をくり貫いて繋げて更に広くした6人で過ごせる特別な部屋を取っていた。

 

「おー。これなら枕投げができるね!」

 

「なんですか、枕投げって?」

 

「よくぞ訊いてくれたね! 枕投げとは友達同士の旅行で夜に行う定番のイベントだよ! 寝るまでひたすら枕を投げ合う地球の遊びだよ!」

 

「なんですかその苦行!?」

 

「っていうか、地球って一括りにすんな」

 

 渚の説明にティファナが驚き、冬美がツッコミを入れる。

 ちなみに日本には厳密なルールを設けた全日本枕投げ大会という物が実在したりする。

 それはそれとして、こんな高そうなホテルで枕投げをする勇気は渚以外にはない。

 

 荷物を置いて朝食を摂る。

 

「ん~おいしい~!」

 

 感情表現な豊かな渚が注文した料理を本当に美味しそうに食べる。

 他の子達も自分の料理に舌鼓を打つ中で幼いエリザはサラダにある苦手なトマトをフォークで転がして避けている。

 それに気付いたティファナが妹を叱る。

 

「エリザ。好き嫌いせずに食べなさい」

 

「う~」

 

 エリザが視線で助けを求めるがこれに関しては同意なので口出しするつもりはない。

 

「しつれーい」

 

 そんな中で渚がエリザのサラダの中にある2切れのトマトの1切れをフォークに刺して食べた。

 驚いたのはその場にいる全員。

 渚の実家は老舗の高級料亭であり、本人もこれで食事のマナーに関しては幼い頃から叩き込まれている。

 そんな渚が断りもなく誰かの料理を取るのは珍しい。

 ドレッシングのかかったトマトを食べると頬に手を当てて満足そうにする。

 

「ドレッシングがトマトの酸味を和らげてくれて食べやすいね。これならエリザも食べられるんじゃない?」

 

 本当に美味しそうにトマトを食べる渚を見て好奇心からか、意を決してエリザもトマトを食べると驚いた様子でゆっくりと喉に通す。

 

「思ったよりも食べやすいです……」

 

「うん! 1つ取っちゃってごめんね」

 

 ニコニコと食事を続ける渚。

 こういう時だけはやたらと大人びて見えるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やって来ました遊戯園! ボク、飛竜(ワイバーン)に乗って見たかったんだよね! 行こ! エリザ!」

 

「はい!」

 

 この施設では人工物の乗り物の他に、人が乗れるように飼育された飛竜や大狼などの騎乗も出来る。

 早速渚がエリザを肩車して別行動を取る。

 

「じゃあ私は適当にブラブラして、気になった施設で遊ぶわ。2時くらいに合流すれば良いんでしょ?」

 

「はい。何かあれば念話で連絡をお願いします」

 

「りょーかい」

 

 なんだかんだで楽しむ気満々の冬美も単独行動を始める。

 彩那が璃里はどうするのかと訊こうとすると、彼女は難しい顔で俯いている。

 

「リリィ?」

 

 ティファナが声をかけると、ハッと顔を上げた。

 

「ご、ごめんなさい! その、帝国との戦況が気になっちゃって」

 

 帝国。この戦争の発端であり、今も各地で地獄を生み出していると言われる最低最悪な国。

 ホーランドがベルカの土地と戦力を押さえたことで、互いに準備期間となり、今は大規模な戦いこそないが、それでもどこかで誰かが、酷い目に遭っているのかと思うと、素直に楽しめない自分が居た。

 そんな璃里の肩に彩那は手を乗せた。

 

「だからこそでしょう? 私達は機械じゃないんだから。どこかで倒れる前に責任を持って遊ばなきゃ。最後まで戦って、役目を全うする為に」

 

「彩ちゃん……」

 

「それに地球に帰って、私達が普通の女の子に戻る為にも。こうした時間は必要だと思う」

 

 おそらくはまだ数年この戦争は続く。心が完全に荒事に染まる前に、自分達が何の為に戦っているのかを確かめる時間は必要な筈だ。

 でも璃里は優しいから自分の知らないところで傷ついている誰かを想像してしまう。

 

「だから、今は遊ぼうよ。身体だけじゃなくて、心も癒す為に、ね?」

 

「そう、だよね……うん! ならわたし、買い物がしたいから見てくるね!」

 

 璃里もその場から離れる。

 彩那とティファナが残った。

 

「列車では護衛を頼みましたが、アヤナも自由にして良いんですよ?」

 

「貴女を1人にする訳にはいかないでしょう。それに、1人で回るよりも話し相手が居た方が楽しいですから」

 

 彩那がティファナに手を差し出す。

 

「"守護の勇者"綾瀬彩那が僭越ながら、貴女の護衛を務めさせて頂きます。どうぞお手を」

 

 照れながらも芝居かかった口調の彩那にティファナは小さく笑って手を重ねた。

 

「えぇ。頼みます勇者アヤナ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからそれぞれ好きに行動して遊戯園の中を楽しんだ。

 ジェットコースターに似た絶叫マシンやら観覧車やら。

 やはりこういうテーマパークだと発想が似るのか、似たような乗り物が多い。

 そして約束の時間となり、集まると。

 

「エッグ……う、うぅ~」

 

「なんで妹が泣いてるんですかっ!?」

 

「いやー。ここのお化け屋敷(ホラーハウス)ちょー怖いね。ボクもちょっと泣きそうだったよ……すっごいリアル……」

 

 幻術魔法を用いたホログラムの完成度は凄まじい物があった。

 幼女(エリザ)と一緒に入ったのは失敗だったなと反省する。

 恐怖で泣いている妹にティファナが手を握って話しかける。

 

「エリザ。他にはどんなところへ行きましたか?」

 

「……まずはナギサねえさまといっしょににワイバーンに乗りました。ナギサねえさまは、ワイバーンの扱いがお上手なんですよ。それからわたしも小さなユニコーンに乗せて貰いました。それから。それから……」

 

 指折りながら回ったところを話してくれるエリザにティファナが微笑む。

 

「楽しかったですか?」

 

「はい! とっても!」

 

 話している内に恐怖も和らいだのか、満面の笑顔になる。

 昼食に行こうとすると、エリザが手を伸ばす。

 

「ティファナおねえさま。手をつないでもいいですか?」

 

「えぇ。もちろんです」

 

「じゃあ反対は私と手を繋いでくれる?」

 

「はい!」

 

 そう言って彩那とも手を繋ぐエリザ。

 離れないようにしっかりと手を握っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1日中遊び回って疲れたのか、エリザはベッドに入るとすぐに眠りに入った。

 それを眺めながら璃里は頬を緩ませる。

 

「かわいい」

 

 冬美は眼鏡を外して眼鏡ケースにしまう。

 

「こんなに気兼ねなく遊んだのはいつくらいかしらね」

 

 そんな中で難しい顔をしている渚に彩那が声をかける。

 

「どうしたの渚ちゃん?」

 

「さっき皆で大浴場に行ってさ。同い年の筈なのに格差の違いにショックを受けてるのさ」

 

 フッと遠くを見て笑う彩那。

 それに冬美が首を傾げる。

 

「格差ってなによ?」

 

「決まってんじゃん! コレだよ!!」

 

 彩那の背に回って胸を揉み始める。

 

「ちょっと、渚ちゃん!?」

 

「皆揃いも揃ってたわわに実って! ボクだけ男の子みたいに平坦なんだよ!? 璃里に至っては1番背が低いのにおっぱいは1番大きいってどういうこと!?」

 

「渚は栄養が全部筋肉にでも行くんでしょ」

 

「ひどいっ!? 泣くよボク!!」

 

 エリザを除く5人の中で1番背が高いのは冬美。その次にティファナと彩那が同じくらいの身長で渚、璃里に続く。

 ちなみに胸のサイズを数値化すると1番が璃里で冬美と彩那が同じくらい。それよりも少し小さいのがティファナ。そして渚となる。

 

「ア……ッ!? そろそろ離れてよぉ、なぎさちゃ……!」

 

「フワハハハッ! 君の弱いところは知り尽くしているのだよ彩那君! このままぐでんぐでんにしてやろっ!?」

 

 冬美が渚に蹴りを入れてベッドから落とす。

 

「頭打った~」

 

「自業自得だ。もうすぐ寝るんだからバカな事をやってないの」

 

 その様子に璃里が苦笑いを浮かべている。

 逆にティファナは寝ている妹の頭を撫でながら俯いている。

 

「本当に、皆さんは仲がよろしいのですね」

 

「小さい時からの付き合いですから」

 

「そんな貴女方を、ホーランド王国(私達)が巻き込んでしまった……」

 

 懺悔するように握り拳を作る。

 

「この世界の問題は、私達が自ら解決しなければならなかったのに……なのに皆さんに多くのモノを背負わせてしまった。ホーランドを。この世界をさぞ憎んでいるのでしょうね……」

 

 ずっと溜め込んでいた膿を吐き出すティファナ。

 勇者達と個人的に仲を育んできたからこそ、ホーランドの王族として彼女達を巻き込んだ責任を感じている。

 王女としての立場と友人として立場に揺れながら。

 

「うん。すごく恨んでるよ。当たり前じゃん」

 

「渚ちゃん」

 

 当然と言わんばかりの渚に彩那が窘めるような声を出す。

 しかしそれを渚は首を横に振る。

 

「何度も話し合った事だよ? あの夏休みにこっちに喚び出されて7、8年かな? 大事な子供時代を奪われて、恨んでないって彩那は言えるの?」

 

「それは……」

 

 口をつぐむ彩那。

 それは自分達を喚び出すのに直接関与してないティファナに言うのは憚られた。

 

「今更元の世界に帰れても、ボク達の居場所があるのか、とか。家族や世間にどう説明したらいいんだろ、とか。不安でいっぱいだよ。戦争するのも嫌になって、何処かに逃げようって話し合った事だって何回もあるよ」

 

 人を殺すのは嫌だ。

 それでも戦争を続けているのは故郷への未練があるから。

 だけどどうしようもなく、現実から逃げたくなる時もある。

 そんな渚の心情を聞いて、璃里も自分の気持ちを口にする。

 

「わたしは、やっぱり地球に帰りたいです。家族の下に。たとえ渚ちゃんが言うように、もうわたし達の居場所がなかったとしても」

 

 おそらくは4人の中で1番強く帰還を望んでいるのは璃里だ。

 だから普段は控え目な発言の彼女にしては強く主張する。

 続いて冬美も軽く手を挙げて自分の意見を言う。

 

「私はきっと皆ほどは帰ることへの執着はないかな。何だかんだで長くこの世界で暮らしてて、愛着もあるし。家には弟も居るから、親も皆の家よりは心の傷は浅いと思う。もちろん帰りたくない訳じゃないけどね。それに……」

 

 何処か艶のある表情を一瞬だけ見せる。

 

「どうしたのさ? 変なところで区切らないでよ」

 

「いえ。なんでもないわ。とにかく、帰れないなら帰れないで仕方ないとは思ってる。ただどの道、帝国の連中は放っておく選択肢が無いから絶対に叩き潰すけど」

 

 冬美の宣言に渚がこわーっと笑う。

 最後に彩那に視線が集中する。

 

「……私は。私も帰りたいな、地球に。みんなで」

 

 親友達への依存度が1番高い。

 だからこそ1人ではなく4人全員で帰りたいと思っている。

 いや、もしかしたら4人一緒なら帰るのは二の次なのかもしれない。

 

「思い返してみると、この世界に喚ばれて、悪いことばかりじゃなかったよね。行き着けの店が出来て、一緒に戦う兵士の人達も良くしてくれる。それに、ティファナとも友達になれた。うん! 辛い事は多かったけど、全部が全部酷かった訳じゃないね!」

 

 1人で結論を出すと、渚は部屋にいる仲間を見回す。

 

「帝国を黙らせれば戦争は終わる。ボク達勇者4人。そして後ろをティファナが支えてくれるなら、なんだって乗り越えられる! ボクはそう信じてる。だからもう少しだけ頑張ろう! 後の事はそん時に決めればいいさ!」

 

 迷いも後ろめたさも全て吹き飛ばすように笑う渚。

 それはまるで、太陽のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝早く彩那が目を覚まして部屋を見回すと、そこにティファナの姿がなかった。

 それに焦って慌ててベッドから降りる。

 部屋を出ると、朝早く人気のないサロンに居た。

 

「ティファナさん。心配しましたよ」

 

「あ。ごめんなさい。こうして皆で旅行に行くなんて初めてだったでしょう? 名残惜しくて、少し感傷に浸ってました」

 

「そう、ですか……」

 

 ティファナが無事だった事に安堵する彩那。

 これまでの事を思い返すようにティファナが呟く。

 

「貴女方は本当によくやってくれました。当初の私達の想定を越えて」

 

 立ち上がったティファナが彩那の肩に額を乗せる。

 

「あの……」

 

「私達は貴女達を……本当は……」

 

 震える声。その意味を彩那には分からない。

 だけど。

 

「いつか……もしもティファナさん達が地球に来られるようになったら。是非遊びに来て下さい。歓迎しますよ」

 

 彩那達をこの世界に喚び寄せたのなら、ティファナ達が地球に旅行感覚で来る事も可能かもしれない。

 

「渚ちゃんの実家は料亭……えっと、レストランで。他にも、私達の故郷をエリザちゃんと一緒に知って欲しい。案内しますよ」

 

 励ましてくれる彩那にティファナは彼女の手を握った。

 

「ありがとう、アヤナ。この世界に喚ばれたのが、貴女達で良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ。どうせなら、1週間くらい遊び倒したかったかもー」

 

「昨日散々カジノでボロ負けした奴が何言ってんの? 金が底をつくわ!」

 

「渚ちゃんギャンブル向いてないよ……」

 

「えー? たった数時間だけで判断しないでよー! 次はきっと勝てる!」

 

「ギャンブル依存性になる人の考えだよ、それ」

 

「ティファナねえさま! いつかまた、みんなで遊びにきましょうね!」

 

「えぇ。そうね」

 

 魔導列車に乗りながら昨日の思い出話に花を咲かせる面々。

 不意に彩那が渚の手を握った。

 

「彩那?」

 

「戦争を1日でも早く終わらせようね」

 

「もっちろん! ボク達が揃えば、絶対に敗けないよ!」

 

「うん!」

 

 

 

 彼女達はまだ知らない。

 後に起こる悲劇と喪失。そして別離と絶望を。

 

 今はまだ、何も────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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