魔力はOPでシャマルが込めてる描写あるけど、弾丸その物とか。
「彩那っ!?」
彩那が目を覚ますと、泣き顔の渚が彩那を呼ぶ。
「良かった! 目が覚めて! 君、4日も起きなかったんだよ!」
「よっ……いつっ!?」
起き上がろうとすると痛みが走った。
その様子に渚が慌てて止める。
「ダメだよ! 本当に酷い状態だったんだからさ!」
彩那の傷はもう少し発見が遅れていれば命の危険があったという。
魔法による治療と外科手術を丸1日費やしたのだ。
まだ完全に傷は癒えてないし、痛みも引いてない。しばらくは車椅子生活だろう。
「りり、ちゃん……は……?」
「大丈夫だよ! 璃里も無事! 昨日には目を覚ましたから!」
親友が無事だった事に安堵して大きく息を吐く彩那。
だけど同時に涙が流れた。
「彩那……?」
「ごめ……なぎさちゃ、ん……ベルカ、からの、ひとたち……まもれなかった」
痛みで上手く動かせない口を動かして説明する彩那の手を渚は握る。
何も言わずに、ただ泣き止むまで、ずっと。
数日後にはベッドから降りて車椅子での生活が可能になった彩那は病院内を移動していた。
顔馴染みになった看護師に車椅子を押して貰いつつ中庭に出る。
花壇が手入れされた中庭には先に璃里が来ていた。
「彩ちゃん」
彩那に気付いた璃里が慣れない松葉杖でこっちに来る。
璃里は彩那より早く意識を失ったお陰で既に車椅子を卒業していた。
「ここに居たんだ」
「うん。中庭には
璃里とそうして話していると、不意に顔を俯かせる。
「今回、わたし達、何にも出来なかったね」
「……」
ベルカ式を基とするヒンメル国の騎士に完膚なきまでに敗退した彩那と璃里。
アレが噂に聞く闇の書の騎士だと入院後に聞いた。
「一緒に居た子達も全然守れなくて。生き残ったのは6人だけ……守って、あげたかったのにね」
国に捨て駒の兵士として使い潰される筈だった子供達。
大人数名と子供達を守れなかった事実に璃里は心を痛めている。
言葉をかけようとする彩那だが、その前に渚の声が届く。
「お! 居た居た! おーい! 彩那~! 璃里~!」
振り向くと、冬美と子供と手を繋いだ渚がやって来た。
「病室に着いてもいなかったから探したわ。もう動いて大丈夫なの?」
「うん。心配かけてごめんね、冬美ちゃん」
「無事ならいいのよ。驚きはしたけどね」
安堵する冬美。
そこで彩那が渚と手を繋いでいる男の子を見る。
それに渚が気付いてその子の肩に手を置いた。
「この子。2人が守った子だよ。今はホーランド内の施設に入ってもらってる。本当は連れてきちゃダメなんだけど、どうしてもって」
だから連れてきちゃったと笑う渚。
男の子が1歩前に出て頭を下げた。
「今回はありがとうございました。生き残ったオレたち、孤児院でとても良くしてもらってます。勇者さまがたのおかげです」
「そんな……」
2人からすれば、生き残れたのは運であり、多くの死者を出してしまって任務失敗のような物だ。お礼を言われる立場ではない。
「オレたちは、国に残っても、いずれは前線で捨て駒にされるだけでした。オレらだけでも生き残れてラッキーって思ってます。もちろん仲間が殺されたのは悔しいし、泣きましたけど、それはあなたたちのせいじゃない。だからあんまり気にしないでください」
勇者のせいではないと想いを伝えてくれる男の子。
そんな彼は自分の決意を口にする。
「オレ、あと2年したらこの国の軍学校に入れるんです。そこに入学しようと思ってます」
「どう、して……?」
せっかく生き延びたのに、どうしてまた死地へ向かうような真似をするのか。
「一緒に生き延びた弟との生活もありますし、この戦争を少しでも早く終わらせる為に、出来ることをしたいんです」
「そんな事、考えなくて良いんだよ? ただ幸せに生きてくれればそれで! 死んじゃった人達もきっとそれを……っ!」
璃里がどうにか思い止まらせようと話すが、男の子の決意は固かった。
「もう決めたことですから。それで、軍学校を卒業したら、今度こそ足手まといになりません。オレは────」
そこで男の子の体を璃里が抱きしめる。
まだ幼い子供にそんな決意をさせてしまったのが申し訳なくて。
だけど、その心意気が嬉しくて。
だから、早く戦争を終わらせないと、と強く思ったのだ。
話の途中で顔を伏せていた彩那は気分を切り換えるように小さく首を振って話を続ける。
「北側と違って南側は比較的平和だったのが幸いして、ホーランドが持ちかけた同盟に近隣諸国の大半は判を押したわ。軍事力の低い国は守る見返りとして食糧その他の物資を安く提供する事でね。勿論ホーランドのやり方に反発する国もあったけど、勇者という暴力装置のお陰で早々に白旗を挙げたわ」
ホーランド自体が南側で最も大きな国。その上勇者という規格外の戦力を手にした事で同盟軍の中心になるのも自然な成り行きだった。
「私達が召喚されて4年。実戦に投入されて3年は小競り合いのような戦場が殆んどで、命の危険を感じるような戦いは片手で数える程度だった。だけど北側は帝国がジリジリと侵略を進めて勢力圏を拡大していって、次第に自国を見限って南側に逃げる避難民が急増した。その対応もあって、同盟軍の侵攻は遅れが出たけど、これはまぁ、余談かな」
帝国の暴挙はまだ被害を被ってなかった他国にも知れ渡っており、少しでも距離を取ろうと多くの人が移民を決行した。
帝国の暴挙を止めるという名目で同盟軍を結成してる関係でそこから逃げてきた彼らを突き放す選択肢はなく、移民者達の生活を整える事を当時は優先された。
「それで、同盟軍と帝国に挟まる形────と言っても、まだ他にも幾つかの国もあったけど。とにかく侵攻する過程でどうしても押さえておきたい国があった」
彩那の説明に守護騎士達がピクリと反応する。
「規模はそこそこだったけど、その国には優秀な魔導師が多く、軍需産業に秀でていて、何よりもデバイスに使う鉄や魔力を通すために必要な質の良い
「ベルカ……」
はやて達の視線が守護騎士に向けられる。
「採れた鉄や希少金属。それと他国に兵を貸す傭兵業で経済を回していた国で、反面食糧は他国の輸入に頼っていた面があったの。だけど戦争が始まってしばらくしてから、輸入先の国が帝国に占領されてしまって。同盟軍としては不足した食糧の供給の代わりにヒンメルの兵と技術。そして鉱山から採れる鉄の提供を申し出ていた。だけど……」
当時の状況を思い出しながら説明する。
「同盟に対して互いが提示した条件が噛み合わなかった事。同盟軍がその強大さを楯に上から目線での交渉してしまった事からヒンメル側のプライドを刺激して中々同盟の締結は行われなかった」
それでも、同盟軍側が圧倒的に優位だったのには変わりない。
帝国の脅威はすぐそこまで迫っていた。それを迎え撃つ為に同盟軍への参加はヒンメルにとっても必要だった。
「それでも時間をかけて同盟締結に話が纏まりかけた頃に、ヒンメル側が渋々納得してた条件を全て撤回。自分達が有利になる条件を突き付けてきた」
「ど、どうして!? 話は纏まりそうだったんだよね!?」
なのはの驚きに彩那は守護騎士達に視線を向ける。
「ヒンメルの第二王子が闇の書の主だったらしくてね。いつの頃に闇の書が起動したかは知らないけど、守護騎士を自国の戦力に組み込んだあの国は、各国に戦いを仕掛けてきた。と言っても、最初は帝国が占領した国の解放だったけど」
皆の視線が守護騎士に向けられる。
「帝国に支配された土地を解放したのはまだしも、同盟軍に参加していた国にも攻めてきて、開戦という流れになった。というのが
あまり視点が偏るのも良くないと感じた彩那は守護騎士に話を訊く。
そうですね、とシャマルが話し始めた。
「私達は政治方面には殆んど関わっていないので詳しいことは語れませんが、同盟の締結に当り、幾つかの鉱山の所有権の譲渡を要求されたのが痛手だったようです。それと、戦闘を仕掛けてきたのは同盟軍側からだと聞いてます」
「ん?」
「どういうこと? 彩那の話じゃ、攻めてきたのはベルカ側なんだよね?」
幼くとも考古学者だからか、ユーノが興味深そうに確認してくる。
彼からしたら歴史の生き証人と話していてテンションが上がってるのかもしれない。
しかし彩那はそれをスルーする。
「そこはやめましょう。話の本題ではないし」
「いいの?」
「ここで結論を出すのは不可能よ。どっちから手を出したかなんて、今更な話だわ」
「そうですね。あの時代、どちらから攻め込んでもおかしくありませんでした」
彩那とシャマルの言葉にユーノが少し残念そうにする。
だが、当事者達がやったやってないで揉め、話が長引くのも良くないと理解しているのでそれ以上ユーノは何も言わなかった。
「同盟軍側は開戦当初、半年も有ればヒンメルを降伏、ないし同盟の再締結に持ち込めると判断していた。けど守護騎士という戦力を得たヒンメルの強さは此方の予想を上回っていて、同盟軍側が勝利を収めるのに2年という月日を有したわ」
互いの領地を奪われては奪い返すのを繰り返した。
帝国を含めて対処しなければいけない国が他にも存在した事で中々戦況が変化しなかったのだ。
「守護騎士の強さはまさに一騎当千だった。ヒンメルとの開戦当初は、私達勇者でも騎士達に惨敗を繰り返す程に」
「彩那が……?」
「当時の私達は今程の実力はなかったから。初めて騎士と遭遇した時は一方的にやられたわ」
昔の事を思い出して陰鬱な気持ちになる彩那。
逆にシグナムは懐かしそうに呟く。
「懐かしいな。戦場で遭遇する度にお前達は別人のように実力を向上させていった。1年も戦いが続いた頃には互いの実力差は拮抗していた」
「そうね。そういう意味ではあなた達と戦い続けたお陰で私達も自身の実力を伸ばせたと言えるわ」
自分より圧倒的格下ばかりを相手にしていた。
守護騎士との戦闘は気を引き締め、実力を大きく伸ばす切っ掛けになった。
そこではやてが質問する。
「ウチの子らと綾瀬さんはどんな感じに出会ったん?」
何気なくしたはやての質問にヴィータは顔を逸らし、彩那は目を細めた。
その空気の変化を感じて子供達は戸惑う。
「ヴィータちゃん?」
「……なんでもねぇよ」
過去の自分達の所業を今の主である八神はやてに知られたくないという感情を堪える。
彩那も話すかどうかしばし考えてから口を開いた。
「あまり気持ちの良い話ではないけど。ヒンメルは守護騎士を前線に出して領土拡大を行っていた。だけど、拡がる領土に対して圧倒的に兵が足りなくなっていったの。それで、魔導師資質の高い者。それも孤児の子供を優先的に徴兵していたのだけど。そのせいで食糧を始めとした生活消耗品が不足して、末端の兵はかなり扱いが悪かった。だから一部の大人がもうこんな扱いはゴメンだと、同盟軍側に一緒だった子供達も含めて身の安全の保証を求めて投降したの。こちら側はそれを受け入れ、一時的にホーランドに招く事が決まった。ベルカ式やカートリッジシステムの情報を手土産にね」
あまり気持ちの良い話ではない、という戦争なのだから当たり前の前置きを一応してから話す。
「投降したのは大人子供含めて70人ちょっと。大半が徴兵された子供で、渚ちゃんと冬美ちゃんは投降を阻止しようとするベルカ兵を足止めする殿に。私と璃里ちゃんは投降した兵を連れて天然の地下洞窟からヒンメル領の外を目指した」
「……」
「長い洞窟を抜けて、ヒンメルと国外の境目にある森に辿り着いたの。そこに流れていた川で休憩を取っていると、待ち構えていたのか、鉄槌のと守護獣の2人に強襲された」
「ヴィータ……ザフィーラ……」
困惑した様子ではやてが2人を見るが、当の2人はそれに気付かないフリをしていた。
「私と璃里ちゃんは何とか投降した人達を守ろうと奮闘したけど、相手にならなくて。生き残れたのが不思議なくらいの大怪我を負ったわ。投降してきた兵は隠された数名の子供を除いて殺された」
殺された、という過激な言い方は主であるはやてや親睦を深めている他の者達に対して、彩那なりにした無意識の当て付けだったのかもしれない。
ヴィータが何か反論しようとしたが、ザフィーラが肩を掴んで小さく首を振る。
事実を言い訳せず肯定するように。
そこでフェイトがシグナムに質問する。
「シグナム達はその時……」
「あぁ。私とシャマルは主であった王子の護衛と看護だな。生来より身体の弱い方ですぐに熱を出していたからな。戦争が本格化する前まではシャマルと、他の誰か1名が護衛に就いていた」
「そうでしたね。でも今思えば……」
「シャマル?」
「いえ。何でもないです。彩那ちゃん。お話を続けてもらえませんか?」
「そうね」
シャマルの中で過った可能性。それはフィン第二王子の身体の弱さが闇の書の呪いに起因していたのではないかという予想だ。
当時はまだはやての時程に闇の書の呪いの歪みが深刻ではなく、シャマルが気付けなかっただけなのではないか、という想像。
だが、これも今更確認する術はないのでシャマルは胸の内にその想像を仕舞う事にした。
そこでクロノが彩那に問いかける。
「君が騎士達を必要以上に敵視していたのはその事が原因か?」
「それもありますけど、何度も戦って数多くの仲間を殺されましたし、殺しました。後ろに居る王族貴族はともかく、前線の兵とは良好な関係を築いていたので。お互い様ですけど、割り切るには中々……」
苦笑いを浮かべる彩那にクロノは想像する。
もしも闇の書事件の際に騎士達が問答無用で局員や被害者の命を奪っていたら、感情的にならず、職務に徹する事が出来たのか。
恐らくは無理だろうと結論付ける。
「とにかく、ヒンメルとの戦争初期は戦力の中核を担っていた私達が騎士達に敗走を続けて幾つかの領土を奪われたけど。私達の実力が向上した事で少しずつ風向きが同盟軍側に傾いていった」
「それは、どうして?」
「私達が騎士達の足止めをしている間に同盟軍の兵がヒンメルの兵と戦う。あの国は優れた魔導師、騎士は多く居たけど、それ以上にこちらとの兵力差が大きかったから」
すずかやアリサがさっき言ったように、戦争は基本数である。
規格外の高ランク魔導師を除けば、やはり数が多い側が有利なのだ。
「同盟軍の侵攻が進むに連れて、鉱山や食糧の生産地。それとヒンメルに物資を輸出していた国への圧力。それらの
補給を絶つのは基本であり、戦争中にそれらの行為を咎められる事ではない。
しかし餓えと寒さに苦しむ人々を見て心が痛まないという事はない。
そこでシグナムとシャマルが補足を入れる。
「そちらが物流を止めたお陰で、こちらは転移魔法で買い付けを行う始末だったからな。転移では移動時間を短縮出来ても一度に運べる量はそこまで多くないし、コストもかさむ」
「それに、運んだ物資は王城が殆んど独占してしまって、市民の方々に配られるのは本当に最低限でした」
「同盟軍としてもそれが目的だったからね。怒りの矛先は目に見える物資を独占する王族達に向けさせる為の」
その為に間者が情報操作をしていたと聞いたのは、ヒンメルとの戦いが終わった後だ。
「それで、私と渚ちゃんが部下と一緒に城へ突入した。奥へと進んで第一王子のラインハルトを討った。ただ、その間に騎士達と当時の主である第二王子が逃亡したと知って。その追撃に、ね……」
騎士達に説明を求める彩那。
最後に彼と言葉を交わしたシグナムが話す。
「ラインハルト王子は弟を逃がす為にあの場に残った。あの方は言っていたよ。自国の拡大を狙わずに父の首を刎ねて自分が王となり、同盟に参加すべきだったと。それを出来なかった自分も責任を取る為にここに残ると。弟を我らに託して」
「それは、違うよ……」
そこでフェイトが言葉を搾り出す。
「どんな理由があっても、家族を殺すなんて選択肢は間違ってると思う。私は戦争をしたことがないし、それで傷付く人が減るならって考えも理解は出来る。だけど、家族を殺すべきだったなんて選択は私には受け入れられない……!」
もしも今のフェイトがジュエルシード事件の時間に戻ったのなら、きっと母を止めるだろう。
母がもたらす被害を知って無知なあの頃のように手を貸す事は出来ない。
だけど、その命を奪うことはきっと出来ないし、思い付きもしないだろう。
たとえ、どれだけ甘い考えだとしても、フェイトには彩那のように命を奪うという選択は出来ないのだ。
それが、どれだけ多くの人を救う選択だとしても。
「だって、子供に……家族に死ぬべきだった、なんて思われるのは、悲しすぎる」
「フェイトちゃん……」
握っているフェイトの手に包むように重ねるなのは。
そのお陰か、険しかったフェイトの表情が少しだけ和らぐ。
そこでシグナムが彩那に問いかけた。
「1つ訊きたい。ラインハルト王子は強かったか?」
その最後を訊かないのは、きっと彼は勇敢に戦って死んだのだと信じているから。
「えぇ。勇者2人で戦って彼を斬った、という答えでは不満かしら?」
「いや。充分だ。礼を言う」
短い時間、黙祷するシグナム。
彩那は話を戻す。
「とにかく、逃げた第二王子を追撃することになったのよ」
「逃がす訳には、いかなかったの?」
なのはの質問に彩那が首を振った。
「私達としてはそれでも良かったのだけど、ウチの王様がどうしても捕らえるか殺すかしろって煩くてね。地球への帰還を楯にされたら、従わない訳にもね」
「あ……」
肩をすくめる彩那になのは達の表情は険しくなる。
子供を勝手に喚びだして、
友達にそんな事をさせるホーランドの王様に沸々と怒りが沸き上がってくるのだ。
「それなりに時間は経ってたし、見付からなければいいな、とは思ったわ。だけど……」
「見つけてしまったのね……」
「はい。そこで騎士達と最後の戦いで4人を斬りました。カートリッジの弾丸も尽きていて、思ったよりも時間はかからなかったです。主だった第二王子もその時に斬り捨てました」
そこで、ギリッと奥歯を鳴らしたヴィータが立ち上がり、彩那の胸ぐらを掴んだ。
「……」
「……アイツは、身体が弱くて、戦争の事だって何にも知らなかったんだ」
「えぇ。そうでしょうね」
「アタシらさえ殺せば……アイツまで殺す必要はなかっただろっ!!」
守護騎士が居なければ、第二王子はただの子供だ。
だが、ホーランドや同盟軍側からすればそうではない。
「あの子が生きていれば、いずれヒンメル再興の御輿にして反乱を起こす人間が現れないとも限らない。何よりも市民の憎悪の矛先が王族に向いていた以上、生かして居てもろくな事にならないわ。それに、闇の書が残る以上、どんな災厄をもたらすか分かったモノじゃない」
それを見越して、渚はあの子供の命を絶ったのだ。
もしも生きている事が知られれば、両親同様に処刑しろと周囲が騒ぎ立てただろう。
最悪、自国の人間だった者に私刑にされる可能性もある。
闇の書という危険なロストロギアが暴走しないとも限らない。
後付けになるが、あの場で殺せたのは僥倖だったと今は思う。
だが、かつての主を殺した1人が、他人事のような態度をする事がヴィータを苛立たせた。
「で? このままどうするの? 殴る? 首を絞める? 好きになさい。貴女にはそうする理由と権利がある」
「テメェ……!」
挑発とも取れるその言葉に話の前にはすまいと決めていた、拳を振り上げた。
「ヴィータ! アカン!!」
はやてが止めようとするが、その前にリインフォースがヴィータの手首を掴む。
睨んだ眼で振り返ると、リインフォースが小さく首を振った。
「私が言えた事ではないかもしれないが。ヴィータ、主を悲しませるな」
ヴィータの視線がはやてに向き、悔しそうな表情のまま彩那から手を放す。
「クソ……」
両手で顔を覆って下を向くヴィータ。
はやてがそんな家族の肩を抱く。
リインフォースが彩那に質問した。
「あの子の遺体は、その後どうなった?」
「宗教が違くて申し訳ないけれど、遺体は私達が引き取って、支援していた教会に兄弟共に埋葬させて貰ったわ。海の見える静かな教会よ。あそこなら遺体を辱しめられる事がないと思って」
「そうか……あの子は、城の外に殆んど出たことがなかったからな。兄共々、海を眺めながら安らかに眠れるだろう。手厚く葬ってくれた事を感謝する」
「リインフォース……」
礼を言うリインフォースの後ろ姿をはやてが哀しそうに見つめる。
えぇ、と礼を受け取った彩那が話を切り替えた。
「少し、休みましょう。ここまで一気に話して疲れたわ」
「あ……そうだね。かれこれ2時間以上話してるし。飲み物や新しいお菓子も用意してくるね!」
手を合わせて努めて明るい声でエイミィが言う。
「それじゃあ、15分後に続きを聞かせて貰おうかしら。それでいい?」
「はい。ではそれで」
休憩の指示を出すリンディに彩那も頷くと、自分が居ては休めないだろうと部屋を出た。