世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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一休み

 彩那が出て行った後、部屋の中には重苦しい沈黙が漂っていた。 その沈黙を破ったのはクロノだった。

 

「まさか時間を移動していたとは。もしそれが本当なら頭が痛いな……」

 

 彩那がこれまで自分の事を最低限しか話さなかった事情を理解する。

 信じて貰えると思ってなかったろうし、信頼関係が構築されてなかった段階でそんな話をされても質の悪い冗談としか受け取れなかっただろう。

 未だに半信半疑なのだから。

 何せ彩那の話した事が真実なら、これからの行方不明者には次元世界だけではなく、時間移動までも考慮しなければならないのだから。

 

「もっとも、上は簡単に信じはしないだろうが……」

 

 今までの常識を覆す情報なのだ。ある程度客観的なデータが無ければ信じる筈もない。

 彩那自身、理由は分からないがなのは達と肉体の見た目がそう変わらないのだから余計に。

 

「だが、納得出来た面もある。魔導師としての技術もそうだが、彼女は出会った時から君らの保護者として動いていたように見えたからな」

 

 なのはとユーノを見てクロノは小さく笑う。

 クロノがなのはに接近しているのを見て距離を取らせようとしたり、その後のアースラでの会話。ジュエルシードの回収でも常に2人が怪我をしないように立ち回っていた。

 闇の書事件でも自分が最も危険な状況に立ったのは、実力もそうだが歳上としての意識からかもしれない。

 クロノの言葉を聞いてなのは達はどう反応すれば良いのか分からずに戸惑う。

 次に言葉を発したのはすずかだった。

 

「はやてちゃんは、学校で彩那ちゃんと他の子達と去年一緒のクラスだったんだよね? はやてちゃんから見て、どんな子達だったの?」

 

 すずかの質問にはやては、んーっと考え込む。

 

「前にも言うたけど、あんまり話したことはないから、大したことは話せへんよ?」

 

「うん。それでも聞いてみたい」

 

 フェイトにも促されてはやてはもう1年半前の彼女達を記憶として掘り返す。

 

「森渚さん、言う子が中心のグループで、いつも一緒やったなぁ。その森さんが中々に曲者というか、おもろい子で」

 

「て言うと?」

 

「うん。2年生に上がったばかりの頃に、体育館の壇上に上がってクラスごとに校歌を歌う行事があったんやけど、そこで森さんが1人デスボイス調で歌い出して、あの時は驚いたわぁ。でもすぐに辛くなったのか、むせたところを宮代さんにお腹を殴られて退場させられて。他にも……」

 

 話を聞く限り、何を考えているのかイマイチ読めない子、というのは一同理解する。

 そこで何かを考え込んでる様子のなのはにアリサが話しかける。

 

「どうしたのよ、なのは」

 

「あ、うん。彩那ちゃんの話を聞いて、自分だったらどうしてたのかなって思って」

 

 それは皆が考えていたが口に出すのを躊躇っていた事だ。

 首に下げたレイジングハートに触れながら考え込むなのは。

 

「場合によっては、なのは達が喚ばれてた可能性も有った訳だしね」

 

 高い魔力資質という点ではなのは、フェイト、はやても合致している。もしもある日、友達が行方不明になったらと考えてアリサは苦い表情になる。

 もっとも、ホーランドへの召喚は他にも条件があるのでなのは達が呼ばれる可能性は殆んど無いのだが。

 だが、突然これまでとは全く別の場所に連れ去られ、戦う事を強要されたら。

 故郷に帰る為とはいえ、その為に武器を手にして人を殺める選択が出来るだろうか? 

 なのは達は自身の武器(デバイス)が不必要に他者を傷付けない事を知っている。

 だからこそ、全力で相手とぶつかる事が出来た。

 だがもしも、この魔法(ちから)が人の命を奪う物ならば、どれだけ才能が有ろうと────いや、有るからこそ使えなかったかもしれない。

 甘いと思われようと、やはり人を傷付け、死に至らしめる行動を肯定出来る程、なのは達の倫理観は緩くない。

 だからこそ、もしも彩那と同じ状況に陥ったら。そう考えずには要られないのだ。

 

「下手したら、誰の庇護も受けずに見知らぬ世界で放り出されてた可能性も有ったと思う。彼女達が勇者の話を受けざるを得なかったのは、そういう事情も有るんじゃないかな。次元だけじゃなくて、時間にも干渉するなら相当な魔力(エネルギー)が必要な筈だし」

 

「そんな……」

 

 ユーノの推測に誰もがそうなった場合の事を考えた。

 何も分からない見知らぬ場所で置き去りにされ、仲の良い友達だけで寄り添っていても、生きてゆけるかどうかは別問題。

 生きる為に選ばざるを得なかった心中を思うと胸が痛む。

 ましてやその友達すら失ったのならなおのこと。

 

「生き残る筈だったのはわたしじゃなかった。生き残るべきだったのはわたしじゃなかった……」

 

「はやてちゃん?」

 

「あ、うん。綾瀬さんが言うたんよ。今にも泣きそうな顔で。意味は、まだ分からんのやけど……」

 

 自分が死ぬべきだったとまで言った彩那。いったい何が彼女をそこまで追い込んだのか。

 

「……」

 

「ヴィータちゃん、どうしたの?」

 

 沈黙が重たい中で、腕を組んで考え事をしているヴィータに気付いてなのはが話しかけ続ける。

 

「やっぱり、彩那ちゃんに怒ってる?」

 

「ん? あ、いや……大丈夫だ。なんとも思ってないって言ったら嘘になるけど、あの2人の遺体を大事に扱ってくれたって知って。ホッとした。考えてたのは別の事だ」

 

「別のこと? それっていったい……」

 

 フェイトの言葉にザフィーラが引き継ぐ。

 

「帝国の事か」

 

「あぁ。アタシらが居たヒンメルを打ち破ったって事は、次に帝国の奴らとホーランドの同盟軍がぶつかる筈だろ。あの勇者達が帝国の奴らに3人も殺られたのが気になって」

 

 ヒンメルを退けた以上、同盟軍と帝国が本格的に衝突を意味する。

 だが確かに帝国は厄介な敵ではあるが、質も量も兼ね備えた同盟軍に所属していた勇者が殺されるだろうか? 

 勿論、戦争である以上は何が起こっても不思議ではないが。

 そこでシグナムが嫌悪感を表情に滲ませながら口を開く。

 

「帝国の事だ。真っ当な手段で戦ったとは限らん。むしろその可能性の方が高いだろう」

 

 吐き捨てるシグナムにはやてが不安そうに見つめる。

 

「そんなに酷いんか? その帝国って」

 

「……はい。さっきも言いましたが、彼らの最大の武器は常軌を逸した容赦の無さです。わたし達も何度か帝国と戦いましたが、正直、皆さんにはあまり聞かせたくありません」

 

 聞かせたくないと言いつつ、これからある程度覚悟させる為にシャマルは敢えて自分達が対峙した帝国との戦闘を口にする。

 

「私達が参戦した戦闘で、先ず現れたのは帝国が吸収した他国の兵でした。彼らは自国の民を人質に取られて戦わされていました」

 

「ひどい……」

 

 元々流刑地から出てきただけの帝国の兵というのはそう多くない。

 故に彼らは他国の兵を徴用して前線に投入する必要があった。

 

「えぇ。でもそこまでならまだ理解は出来ます。問題は、帝国は吸収した他国の兵士を本当に捨て駒としか扱わなかったんです」

 

「それは、どういうことだい?」

 

「言葉通りだ。アイツらは、敵兵だったアタシらごと、後ろの砲台で味方の筈の兵を吹き飛ばすんだよ。しかも楽しそうに笑いながらな!」

 

「奴らにとって最初から帝国の人間ではない者はただの道具なのだろう。ヒンメルではないが、帝国の支配から解放しようと動いたとある国が小さな村を救出しようとした際に、村に仕掛けられた広域破壊の術式を仕込まれていて、文字通り村ごと敵を葬った事例は幾つも確認されている」

 

「滅茶苦茶じゃないか……」

 

 帝国の行動にクロノが苦い顔になる。

 それはもう、勝利の為に手段を選ばないとかそういう話ではない。ただ破壊と殺戮その物が目的に思える。

 

「どうして、その帝国はそんなことが出来るん? いくら酷い土地に送られたからってそんな……」

 

「申し訳ありません主。当時闇の書が覚醒したのは戦争が始まって大分経った後でして。我らも戦争の原因や経緯に関しては詳しく無いのです」

 

 リインフォースが申し訳無さそうに答える。

 闇の書の元である夜天の書は魔法の蒐集と研究が目的の魔導書だ。

 当時調べたのならともかく、そうでなければ歴史の細かな部分など知りようがない。

 騎士達も主の命と敵を倒す事以外は無関心な面もあったのも原因ではあるが。

 はやては自分の体を抱く。

 渚を始めとし、自分をカレー作りに誘ってくれた優しい子達。それがこれから凄惨な死に方をするかもしれないと思うと胸が傷んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホーランドの勇者は例外を除いて貴族達とは仲がよろしくない。

 その例外というのが大半は軍に所属する兵士達だった。

 

「あ〜生き返る。久し振りのまともな食事だ〜」

 

「この世界のレーションやカップ麺は美味しくないもんね……」

 

 渚の言葉に彩那が苦笑いを浮かべる。

 遠征の際に配給される食事がとにかく不味い。

 クッキーのような菓子に似た固形食はまだマシだが、カップ麺は最悪である。

 硬いグミのような弾力の麺に旨味がなく、最早痛いとしか感じない辛さか、脳が溶けるのではと思うほどに尋常ではない甘味しかないのだ。

 この世界の軍人はこの不味さを笑いのネタにして食べているが、日本のカップ麺に慣れ親しんだ勇者達にはとても食べられた物ではない。

 一応製作会社に投資をして味の改善を求めているが、マイナス100点がマイナス70点になった程度である。

 滞在している町の宿泊施設の料理に舌鼓を打っていると、三十代後半の男性が話しかけてきた。

 

「少し、いいか?」

 

「オズワルド隊長。どうかしましたか?」

 

 隣に座ってきた部隊を指揮する男性に璃里が何かあったのか疑問に思ったが、違うと手を振って返す。

 

「すまんな。今回も1番危険な役回りを任せる事になって」

 

「いつものことじゃん」

 

「渚、アンタ少しはオブラートに包みなさい」

 

「いや、良いんだ。私達が力不足が君達に迷惑をかけていることに変わりはない。むしろ、ハッキリ言ってくれた方がこちらも楽と言うモノだ」

 

 渚の態度に不快感を出さず、むしろ当然とばかりに受け止める。

 

「だからこそ、もしも本当に危険だと判断したら自分の命を優先するんだ。上層部はともかく、これまで一緒に戦った我々は君達を元の世界に帰したいと思っているよ」

 

 勇者が召喚された当初から軍に居る者は、彼女らを娘か妹のように扱い、接してくる。

 それでも召喚された当初は反発もあったが、それも結果で納得させた。

 

「直にこの戦争も終わるだろう。今更かもしれないが、君達は自分の命を優先してくれ。こんな、君達にとって本来無関係な戦争で命を落とす事はない」

 

 真剣な表情で言うオズワルドに勇者達は困惑する。

 隊長の言葉に呼応するように他の兵士達も話に入ってきた。

 

「これまで世話になってきたんだ。だから絶対に死なないでくれよな。そうでなきゃ、俺達がみっともない」

 

「貴女方にはずっと助けられてきました。もう充分です。故郷に帰る事を優先してください」

 

「その為だったら俺らを盾にしたっていい。絶対に死ぬな」

 

 これまでこの戦争に付き合ってくれた感謝と、死なないでくれという頼みを口にする戦友達。

 しかしその想いとは裏腹に、勇者達は命を落とす事になる。

 

 だけど、この時に彼らが口にした言葉と想いに嘘はなかったのだと、知るのはもっと後の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人気のない場所で休んでいた彩那は誰かが近づくのを感じて閉じていた目蓋を開く。

 

「リンディさん……」

 

「隣、良いかしら?」

 

 彩那が頷くとお礼を言ってリンディは隣に座る。

 先に口を開いたのは彩那からだった。

 

「本音を言うと。余計な事を話してるんじゃないかって思ってるんです。高町さん達に重荷を背負わせて」

 

 話すにしても、まだ子供である彼女達には早かったのではないか? 

 そんな迷いが話しながら過ぎってしまう。

 彼女達の顔を見れば判る。彩那達に起こった悲劇に心を痛めてくれているのが。

 こうして話しているのは、1人隠し事をしている自分が楽になりたいだけではないのか。そんな風に考えてしまうのだ。

 

「そうね。あの子達は優しいから、心の中で悲しんでいると思う。だけど同時に嬉しいとも思っている筈よ」

 

「嬉しい?」

 

「えぇ。あの子達はずっと彩那さんの事を知りたい。力になりたいって思っていた。それが少しだけ叶ったんですもの。それに彩那さんも、フェイトさん達のこれからを心配して自分の過去を話してくれているのでしょう? それは決して余計な事ではないと思うわ」

 

 フェイトとはやて。もしかしたらなのはもだが、これから時空管理局の局員として魔法に関わっていくのなら、彼女達が想像も出来ない悪人や理不尽と対峙する日も来る。

 自ら体験する事と人伝に聞くのとでは違うが、その時に自分の経験を話しておく事がなのは達にとって何かしらのプラスに働けばと思って話しているのだ。

 それは決して無駄でも余計でもない。

 

「そう、でしょうか……」

 

「えぇ。きっと」

 

 頷くリンディ。

 どう返すべきか分からず、誤魔化すように彩那は話題を変える。

 

「そう言えば前に、私にも管理局に来てほしいと遠回しに誘ってくれましたが、やめた方が良いですよ。私みたいな人殺しは」

 

 警察組織である管理局に自分のような人殺しが馴染むとは思えない。必ずどこかで問題を起こす。

 しかしリンディの意見は違うようだ。

 

「ヴォルケンリッターを受け入れている時点でそれは通用しないわ。問題点があるなら改善すれば良いのだし。彩那さんならそれが出来ると思う。でもそうね。貴女に今必要なのは、心の傷を癒やす事よね」

 

 公人としてはすぐに管理局に入局してほしいと思うが、私人としては、今は心を休めてほしいと思っている。

 綾瀬彩那という戦力は魅力的だが、彼女の人生を損なってほしい訳では無いのだ。

 

「ゆっくり考えて答えを出して欲しいの。貴女が納得出来る未来を」

 

 もしかしたら、傷は一生癒えず、彩那が心から笑える日は来ないかもしれない。

 だけど、なのはを始め、彩那に寄り添ってくれる者もいる。

 彼女達との交流がその傷を埋めてくれる事を願っていた。

 もちろんリンディに出来る事が有るなら力になりたいとも思う。

 

「そろそろ時間ね。戻りましょうか」

 

「はい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彩那とリンディがブリーフィングルームに戻ると、緊張した表情で皆が待っていた。

 

「アヤナ。リンディ提督と何の話をしてたの?」

 

「ただの世間話よ」

 

 フェイトの質問に対してそう返すと自分が座っていた椅子に座り直す。

 

「それじゃあ、話の続きを始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




活動報告にも書きましたが、最近体調がおかしくて、次の投稿も時間がかかるかかるかもです。
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