『これが、皆の"遺品"です』
病院に訪れた皆の家族にずっと肌身離さず持っていた所持品を渡す。
髪止めやリボン。壊れた腕時計。
持って帰れたのはこれらだけだった。
それらの物品に覚えのある家族は躊躇いがちに娘の遺品を受け取った。
しばらく手にした遺品を見つめていると、親の1人が質問してきた。
『あの、娘達は、どうして……?』
死んだのかという問い。
だけどその質問に彩那は答える事が出来なかった。
『ごめんなさい……』
握っている拳は震え、ベッドのシーツの上に雫が落ちる。
異世界に行って、戦争をさせられて死んだなんてどう説明すれば良いのか分からない。
『ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……』
私なんかが生き残って、のこのこ帰って来て。
『ごめんなさい……』
震える声でそう謝り続けるしかなかった。
「それで高町さん。念話で呼び出してどうしたのかしら? お願いという事だけど……」
念話で急に相談を持ちかけられた彩那は指定された広い公園に訪れた。
既に結界を敷かれ、外部から干渉を遮断している。
なのはは自身のデバイスであるレイジングハートの杖を握って頭を下げた。
「あのね、彩那ちゃん。わたしに戦い方を教えて欲しいの!」
なのはの突然の申し出に目を丸くする彩那。
事情の説明を求めると、先日友人家族らと温泉旅行に行った際にジュエルシードを発見。
その時に以前遭遇した金髪の少女、フェイトと遭遇した。
結果は当然惨敗。
温泉宿付近と賭けに使ったジュエルシードは向こうに確保されたらしい。
「だからね。次にフェイトちゃんに会った時にお話出来るように強くなりたいんだ」
「話をするだけなら私が捕まえても良いけど」
以前少し武器を合わせての感想だが、彩那なら確実にフェイトを捕縛出来ると確信してる。
それを聞いたなのはは申し訳なさそうに首を横に振った。
「それじゃあ意味ないの。わたしは自分の力でフェイトちゃんとお話ししたい。その為には先ず、わたしの事を認めて貰う事から始めるべきかなって」
その為には力が必要だと。
喧嘩はある程度同じレベルでなければ成立しない。
力の差が有り過ぎればそれはイジメとなる。
なのはとフェイト。今のところ2人の共通点はジュエルシードと魔法だけ。
だから先ずはなのはの存在を認めさせなければ話も出来ない。
その為に教えを乞うている。
「ダメ、かな……?」
不安そうに頼むなのは。
「分かったわ。どこまで出来るかは分からないけど、協力する」
「いいの!?」
「私に不利益が在る訳じゃないし。この間は庇って貰ったから。そのお返しに」
庇って貰った、というのは以前月村家への不法侵入の件だ。
あの後に当然家主である月村忍も交えて問い詰められる形となったが、なのはがフォローしてくれたおかげでちょっとした注意程度で済んだ。
「にゃはは……あのときはむしろああしないと……」
なのはからすれば寧ろ庇うのは当然の事で。
その前に助けて貰った訳だし。
このままお礼合戦になっても仕方ないので彩那は話を進める。
「でも私も人に物を教えるのが上手い方じゃないから、どこまで出来るかは保証できないわ」
そもそも教え子を持った事がないのでどうなるかは分からない。
それも格上相手に勝利出来るようにするとなると。
(こういうのは、冬美ちゃんが得意だったんだけどな)
かつての親友を思いながら彩那は自分なりになのはを鍛える方法を考えた。
「取り敢えず、先ずは手本を見せるわね。高町さん、誘導弾で私を思いっきり攻撃してくれる?」
「えぇ!?」
距離を離しながらの指示になのはギョッとする。
「大丈夫だから。出来るだけたくさんで速く動かして私に当ててみて」
彩那の指示になのはは躊躇ったが、彼女を信頼して4つの誘導弾を出して発射する。
まだ余力はあるが、やはり人に向けて撃つのには抵抗がある。
速度を乗せて彩那に向かう誘導弾。
「!?」
しかし彩那はすり抜けるようになのはの誘導弾を避ける。
「この程度?」
挑発とも取れる彩那の言葉に少しだけムッとなり、なのはの4つの誘導弾を加速させた。
だけど円を描いて踊るように動く彩那の体を掠りもしない。
「なら!」
誘導弾を更に増やして彩那に向けて突撃させる。
「……」
それに動じることなく、手を後ろに組んで目を瞑ると、ゆらりと体を揺らして避け続けた。
暖簾に腕押し。
そんな言葉が浮かぶ程にギリギリで。しかし余裕を持って避けている。
数分の奮闘も空しく、なのはの攻撃は1発も当たらなかった。
「こんなところかしら」
フーっと息を吐く彩那になのはは称賛の声を上げた。
「スゴい! スゴいよ彩那ちゃん! どうしたらあんなことが出来るの!?」
感激した様子のなのはに彩那は説明する。
「私達魔法を使える人間は、魔力を感知する能力を持ってる。それを鍛えていけば、今みたいな事も可能になるのよ」
これまでもジュエルシードの発動を感知出来たように、これは延長線上の技術だと説明する。
「それを研ぎ澄ますと、五感よりもはっきり相手の攻撃を察知することができる。逆に相手の魔力防御の薄い部分を狙ったり、遠くに離れた相手でも手に取るように攻撃を当てられるようにもなる。と言っても、私はそこまで遠距離攻撃が得意じゃないから人伝だけど」
かつての親友達の会話を思い出しながら答える。
「この感覚自体は一朝一夕で身に付く物じゃないから、先ずは攻撃に対して目を瞑らない事から始めましょう。今度は私が誘導弾で攻撃するから、出来る限り避けたり防いだりしてみて。あぁ、もちろん怪我をさせないようにギリギリで消すから」
彩那の発言になのはの肩に乗っていたユーノが疑問を口にする。
「あの、そんな手間かけなくても、非殺傷設定にすれば良いんじゃ?」
ユーノの言葉に彩那は目を丸くして首を傾げる。
「非殺傷設定って何?」
「…………えぇっ!?」
彩那の返答にユーノ大きな声を出した。
「ちょ、ちょっと待って! もしかしてそのデバイス、非殺傷設定がないの!」
「うん。だからその非殺傷設定ってなんなのかしら? 話を聞いてるとそれが有るのが当たり前みたいに聞こえるんだけど」
彩那の問いにユーノは更に驚く。
ユーノの説明では魔力で肉体や物体を傷付けるのではなくショックダメージで相手の意識を奪う機能らしい。
もちろんそれも完璧ではないが、人に向ける際にはこの機能が時空監理局によって義務付けられている。
「要するにゴム弾みたいな物かしら? それと時空管理局って?」
「そ、それも知らないの? 次元世界で広く活動してる治安維持組織だよ? 地球みたいに魔法や時空航行技術がない管理外世界ならともかく、魔法を使える人と接点が有れば名前くらいは聞くと思うんだけど……」
あまりの驚きから丁寧な口調からフランクな物へと変わる。
「聞いた事がないわね。ミッド式の使い手とは何度か戦った事があるけど、非殺傷設定なんて便利な物を使ってる魔導師を見たことがないし」
「そんな筈は……」
ぶつぶつと考え込むユーノ。
彩那の中でその事は一旦置いておき、なのはと話を進める。
「時間も限られているし、早速始めましょう。高町さんはとにかく攻撃に対して目を瞑らないこと」
「で、でも危ないんじゃ……」
さっきの話を聞いて物怖じしてしまったようだ。
「ならやめる? 私はそれでもよいのだけど」
言い始めたのはなのはの方。やめたいと言うなら止めはしない。
僅かに躊躇いを見せた物の、なのはは強い意思を瞳に宿す。
「ううん、やって! 遠慮はいらないから!」
「なのはがもしも怪我をしたら僕が魔法で治療するよ」
「なら安心ね。私もそこまで威力を出すつもり無いし」
彩那はポーチに収めているカードを1枚取り出す。
「魔剣の災禍を」
カードはまた別の形だった。
映画の海賊が持っているような剣を1回り大きくして禍々しくした感じの剣。
刀身が赤く、血管が脈打っているような錯覚を覚える。
勇者服に身を包んだ彩那がゆっくりと空へと上がり、なのはに刀身を向けるとナイフの形をした誘導弾が5個生み出される。
「始めましょう」
その言葉が
「ほら! シールドを全体に張って縮こまらない!」
「そ、そんな事を言ったって!」
高速で飛来してくる魔力の刃。
それがなのはの防御を喰い破ろうと襲いかかってくる。
なのはは自分の誘導弾が亀に思える程に彩那の攻撃が苛烈で目を回していた。
しかも形が刃物なだけに余計恐怖を煽る。
最早度胸付けというよりもトラウマを植え付けられそうだ。
「えい!」
敵の攻撃の隙間を突いて距離を取り、なのはも誘導弾を発射する。
しかし、彩那はその場から動かずなのはの攻撃に使っていた誘導刃を自分の方へと方向転換し、襲いかかる誘導弾を相殺した。
「その調子よ。ご褒美にもっと数を増やしましょう」
10を越える誘導刃を出現させた。
「今日はこのくらいにしましょう」
「えっと、まだ大丈夫だよ?」
ようやく目が慣れて攻撃に対して目を瞑らなくなったなのは。
しかし彩那は首を振る。
「ジュエルシードがいつ発動するか分からないもの。余力は残して置かないと。それにそろそろ暗くなるし、遅くなるとご家族も心配するでしょう?」
「そっか。そうだよね」
目の前の訓練に夢中だったが、ジュエルシードの事も考えないといけないのだ。
結界を解き、公園の入り口まで歩く。
「ありがとう、彩那ちゃん。わたしのワガママを聞いてくれて」
「どういたしまして。明日も放課後、この公園で良い?」
「うん! お願い!」
元気良くなのはが返事を返すと、なのはの知らない女の子が話しかけてくる。
「あらー? 誰かと思ったら綾瀬さんじゃない」
近づいてきたのは彩那のクラスメイトである加賀有子だった。
「彩那ちゃん、知り合い?」
「ただのクラスメイト」
「ただの、何てヒドイわぁ。毎日あんなに構ってあげてるのにね」
ニヤニヤと笑みを浮かべている有子の表情をなのはは嫌だな、と思った。
今は親友であるアリサは同じく親友であるすずかのカチューシャを取ってからかっていた事がある。
その時のいざこざがあって仲良くなった訳だが。
有子の今の表情がその時のアリサを思い起こす。
しかし、ここまで悪意に塗れた笑みをなのはは知らなかった。
「学校で友達が出来ないからって他校の子と仲良くしてたのね。あなたも大変ね。こんなのに付きまとわれて」
「どういう、意味?」
突然こちらに話を振られて身構えるなのは。
「知らないのね。まぁ知ってたらこんな奴と一緒に居られないわよねぇ?」
有子の笑みが深まる。
「こいつはね。友達を見捨てて1人だけ生き残った人殺しなのよ」
有子の言葉になのはは理解が追い付かなかった。
それをどう思ったのか、有子は話を続ける。
「綾瀬さんはね。去年友達3人と一緒に行方不明になったの。でも帰って来たのは綾瀬さんだけだった。どうしてかしらねぇ? きっと綾瀬さんが他の子を見捨てたに違いないわ。だって皆そう言ってるもの。その上こんな包帯で顔に巻いて帰って来て。気味悪いったら。私達皆迷惑してるのよ」
胃が重くなるような有子の話と笑みになのはの表情が自然と険しくなる。
「どうして、そんなひどいことが言えるの?」
そうした事件が遭ったとしても、有子の話は憶測ばかりで何の証拠もない。
確かに最初顔の包帯を見た時は驚いたが、それ以上になのはは彩那の素敵なところを知っている。
初めて会った時は助けてくれて、今日もこうして特訓に付き合ってくれてる。
そういう事件が遭ったとして、どうして彩那が悪し様に言われなければいけないのか。
「謝って……」
「はぁ?」
「彩那ちゃんに謝って!」
突然声を荒らげるなのはに有子は鼻で笑った。
「何をムキになってるの? 引くんだけど」
真面目に取り合わず、ふざけた対応をする有子に思わずなのはは手が出そうになったが、直前に彩那がその手を引いた。
「彩那ちゃん!?」
「行きましょう、高町さん」
その場を離れると有子が何か言っていたが、無視する。
有子が見えなくなると彩那が謝罪した。
「ごめんなさい。不快な思いをさせて」
「彩那ちゃんが謝ることじゃないよ」
「さっきのことは忘れて」
「え……?」
「お願い」
少し疲れた声音でそう言われれば、なのはも頷くしかない。
(わたし彩那ちゃんの事を何も知らない)
ここ最近、一緒に行動して相手を知った気になっていたのではないか。
彩那の事を良く知らないのに。
(いつか、話してくれるのかな?)
フェイトだけでなく、目の前の力になってくれる少女の事もちゃんと知りたいと、なのはは強く思った。
非殺傷設定って砲撃魔法みたいなのなら分かるけど、デバイスで直接叩いたり斬ったりする場合はどうなってるんだろ?