世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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アンケート、意外に渚生存IFの票が多くてビックリ。


語られる真実(4)

「それじゃあ話の続きだけど──―」

 

「ちょっと待ってくれるか?」

 

 話を続けようとすると、クロノが待ったをかける。

 

「どうかしましたか?」

 

「その帝国というのが流刑地の囚人達なのは聞いたが、何故それが各国を相手に出来る程に成長したんだ? その部分がどうしても気になってな」

 

 クロノの言葉に彩那は、あぁ、と声を漏らす。

 そこら辺の話が彩那にとって当たり前の情報になっていたので、思わず流してしまった。

 

「言われてみれば、もう少し帝国について話した方が良いですね」

 

 話す順番を少しだけ組み立て直しながら話し始める。

 

「帝国の発祥が北の流刑地の囚人というのは話しましたが、その大半はとある宗教団体の信者だった者達です」

 

「それは、最初に言っていた禁止された宗教という事?」

 

 リンディの質問に彩那がえぇ、と返す。

 次になのはが質問を続ける。

 

「それってどんな宗教なの? そんなに危ない人達だったの?」

 

 日本人で無宗教の家に生まれたなのはにはどう危険なのかは理解し難いのか、首を捻る。

 

「魔導師至上主義者達の集まりよ。彼らは、リンカーコアを持つ人間を人類の新たに進化した種と謳い、リンカーコアを持たない、もしくは魔法が使えない程に素質が低い者を劣等種と蔑み、過激な者は人間ではなく動物同然の存在と言い切る者も居たらしい」

 

 彩那の言葉に一同。特にアリサやすずかは不快感を露わにする。

 世界が違うと言われればそれまでだが、彼女らは友人が魔法を使えても、それは特技の1つくらいの認識なのだ。

 自分達が魔法を使えないからと言って友達に劣るとは思ってないし、なのは達もそれで自分達を見下してくる事もない。

 そこでクロノが苦々しく口を開く

 

「魔法が技術の根幹にある世界の歪みだな。管理世界でも大なり小なりそうした主張をする者はいる」

 

「あの世界自体、そういう偏見や差別がまったく無い訳ではなかったから、その主張だけなら大した事ではなかったの。だけど彼らの活動はかなり過激だったと聞く。1番の問題は、その団体が活動資金にバラ撒いていたとある薬物だったの」

 

「お薬?」

 

 何やら物騒な単語になのはが首を傾げた。

 

「簡単に言えば、非魔導師の身体を魔導師のモノへと少しずつ書き換える薬。後天的な魔導師を生み出す為の、ね。彼らはそれを非魔導師の救済と謳って各国でバラ撒いていた」

 

 彩那の言葉に皆が驚き、リンディが信じられないとばかりに問いかける。

 

「そんな物が、本当に?」

 

「はい。もっとも、私達があの世界に喚ばれた時には既に世界的に禁止された薬物でしたが」

 

 後天的に魔導師を生み出せる薬。そんな物が実在したとしても、当然それ相応の危険が有るだろう。

 それをシャマルが指摘する。

 

「でも、かなり危険なんじゃないですか?」

 

「えぇ。先ずは魔導師と呼べる程の魔法資質を得られる者は千人服用しても数名。身体が薬に適応したとしても精々Cランク程度。何より、副作用として幻覚症状や感情のアップダウンの制御が難しくなり、内臓機能の低下などの症状が確認されたと聞くわ。それでも、当時は世界各国の非魔導師の十代半ばから二十代後半の若者の間で流行したらしいけど」

 

 その薬を服用する事が非魔導師の若者の間で一種のステータスだったらしい。

 アルフが訝しむ様子でポツリと呟く。

 

「そんな確率も低くてヤバいモン欲しがるもんかねぇ?」

 

「あの世界だと、魔導師ってだけで職業選択の幅が大分広がるから。例えば、車を運転する職なら、魔力の電池で動かすタイプと、デバイスみたいに魔導師から直接魔力を供給するタイプがあって、後者の方が選ばれやすかったり、肉体労働なら魔力による身体能力の強化が使える魔導師の方がやっぱり有利だし」

 

 車ならデバイスのように直接魔力を供給するタイプの方が燃料代が浮くのだ。

 休まず運転するならバッテリー型の方が長く運転出来るし、疲労による事故の確率が低いというメリットもあるが。

 肉体労働はより顕著であり、幼い子供ですら大岩を持ち上げる事も可能なのだから。

 

「とにかく厄介なのは、その宗教団体は各国で見境なくその薬をバラ撒いて活動資金を得たり、薬を安く提供するという条件で信者を獲得したりと当時はかなり大変だったらしい」

 

 非魔導師の多くが薬物中毒に侵された上でカルト宗教の信者となり、薬物の影響で犯罪も激増した。

 

「だから各国はその宗教を禁止指定にして、信者の多くを逮捕。薬を服用しても、犯罪を犯さなかった者を除いて多くの人が北の流刑地に送られる事になった。これは、流刑地の魔法生物への餌が足りなくて、近隣に被害が出ていたのも重なったらしいけど」

 

 国が本格的に動けば宗教団体が敵う筈もなく、細々とは残っても、信者の大半は流刑地送りとなった。

 流刑を免れた者達も長いリハビリ生活と言う名の監視施設に送られている。

 そして送られた信者達はその地で命を落として終わり。その筈だったのだ。

 ここからが本題。

 

「だが、何故その連中が各国に戦争を仕掛けられる程の軍事力を得た? そんな余裕はないだろう?」

 

「あの土地自体、元からそういう環境だった訳じゃなく、数百年前の戦争の影響で気候変動や多くの生物兵器の開発や使用。果ては地球で言う、核に似た危険な兵器も使われたと聞きます。だからあの場所は人間が生きていくには過酷な環境なのは間違いないけど、当時の技術や施設はそのまま遺されていたんです。そして彼らはそこに辿り着いた」

 

 彩那は苦々しくお茶を飲む。

 

「過去に存在した兵器工場を備えた基地。数百年経っても稼動出来る上に、あの施設自体が食料生産や魔法生物を寄せつけない結界も張られていて。北の流刑地で唯一の安全地帯だった。それでも本当に見つけ難い所に隠されるように建設されてたから、見つけられたのは偶然なんだろうけど」

 

 ため息を吐いた彩那にはやてが質問する。

 

「それじゃあ、そこでその宗教団体の人達が武器を作ったんか?」

 

「ちょっと違うわね。流刑地に送られてからすぐに内輪揉めがあったらしくて。トップや幹部連中の大半は集団で私刑にされて死んだらしいの」

 

 元々薬目当てで信者になった者が大半だった為に、刑に巻き込まれた責任を求められて口論から暴力に発展し、下っ端が団結して教祖と幹部を殺害した。

 

「でもまだ上の人達が生き残ってくれてた方がマシだったかもしれない。同じく攻めてくるにしても、まだ交渉の余地があったかもしれないから。受け売りだけどね」

 

 生きていたのが上の者達なら、兵器を量産しても、もっと穏便に事が運んだかもしれない。

 もしくは各国が最初から手を取り合えればあそこまでの騒ぎにはならなかった筈。

 

「それから元宗教団体の人達と他の理由で流刑地に送られた囚人が徒党を組んで数を増やしていき、それから20年近い年月をかけて戦争の準備をしていた。何て言うか、コイン投げを皆でして、全員が裏を出し続けた結果、事態が悪い方向に進んでいった感じかしら」

 

 呆れるように苦笑する彩那。

 そこでユーノが質問する。

 

「その工場って、そんなに凄いの? なら、どうして放置されてたの?」

 

「数百年経ってるにも関わらず、まだ動くし、無人兵器から生物兵器などの色んなデータが残っていた。北の魔法生物も元はそこで人工的に生み出されたモノが汚染された環境に適応したのだし。大昔の戦争が終わった当初は環境汚染の方が酷くて立ち入れなくて放置していのが、時間と共に流刑地へと変わっていった」

 

 そもそも当時の技術自体が過去の戦争の教訓から、多くの技術が封印され、退化していったらしい。

 だからあの工場の兵器技術だけは各国を上回っていたという理由もある。

 だからこそ、それらを覆す為の勇者でもあった。

 

「でもさ、そんなにスゴい兵器が手に入って、長いこと準備してたんでしょう? その帝国の目的ってなんなの? これまでの行動を聞いてても、想像出来ないんだけど」

 

 アリサの疑問は皆が思っていた事だ。

 先程も暴力を振るうために行動しているようだと言った。

 そしてそれはあながち間違ってない。

 

「宗教団体のトップが生き残った方がマシだった、と言ったのはそこに理由があるわ。アイツらはね、自分達が被害者だと思ってるのよ。自分達はカルト宗教に所属していただけの同情される存在で。だから私達をこんな場所に閉じ込めた各国(アイツら)に復讐する権利がある、と。大きな力を手にした結果、元々はただの一般人が大多数だった彼らはそう奮起してあの地を過ごした」

 

 大半が薬によって魔導師の力を得た元非魔導師。それが苦しい薬の服用の果てに魔導師の力を得た途端に各国から流刑にされた。

 そのストレスが爆発してもおかしくはないだろう。

 もしくは、最初こそ団結する為の方便だったのが、口にしていく内に本物の憎悪と狂気にすり替わったのか。

 

「帝国の目的は自国への帰環や賠償じゃない。ましてや世界征服でもない。アイツらはただ、自分達が味わった苦痛を周囲へ当たり散らしたいだけなんだから。だからブレーキなんて無くて、何処までも残酷になれる。自分達にはその権利があって。周りに罰を与えるのが当然なのだから!」

 

 当時の帝国の人間を思い出して嫌悪感から吐き捨てる。

 どいつもこいつも自分は悪くないと繰り返し、戦争の引き金を引き、行った残虐な行為に後ろめたさも反省もない。

 タチが悪いのは、北で生まれ育ったであろう子供までそういう教育を刷り込んだ事だ。

 彩那から滲み出る怒気に息を呑むと、それに気づいて小さく首を振る。

 

「戦争の発端の話はこれくらいかしら。話の続きを始めましょう」

 

 話を元に戻すと皆は改めて表情を引き締める。

 

「ベルカのヒンメルを吸収した同盟軍は帝国と本格的な戦争に入った。と言っても、しばらくは占領された各国の解放を目的に戦っていたけど」

 

「そうか。地理的にも直接という訳にはいかないからな」

 

「どういうこと? リインフォース」

 

「はい。帝国の本拠地は、短い距離ではありますが、海によって隔たれているのです。確か、あの地を踏むには2つの橋か、列車の線路を使う必要があります」

 

「空から行くことは出来ないんですか?」

 

「張られている結界の事もあるが、あの島の周囲は今言った3つのルートを除いて年中強い嵐に覆われている。いくら魔導師でも、無理に空から移動すれば、乱気流に呑まれて海に叩きつけられるか、身体がバラバラになる」

 

「それ以前に帝国に占領された人達を放っておく訳にはいかないもの。今思えば、帝国と本格的に事を構える前にヴォルケンリッター(あなた達)と戦えていたのは運が良かった。お陰で私達の魔法戦闘による技術は格段に向上して、次々と帝国の兵器を退けて各地を解放出来たから」

 

 ヴォルケンリッターという強者との戦闘を得なければ、彩那達の力は大きく向上することはなかっただろう。

 それは単純に魔力操作の技術とか、そういう分かり易い面だけでなく、戦闘に対する心構えと言うか、緊張感というか。

 その前は良くも悪くも上手く行き過ぎていたから。

 それを聞いて騎士達は複雑そうな顔を見せるが、それも当然だろう。

 それに気付きつつも指摘せずに話を進める。

 

「こちらが優勢になっていくに連れて、帝国に恐怖で従っていた各国の兵達も、こちらに投降するようになっていった……のだけれど……」

 

「彩那ちゃん?」

 

 言葉を濁す彩那に不安そうに名前を呼ぶなのは。

 少し思案してから話す事を決める。

 

「帝国に1度降った兵は頭の中に極小のチップを埋め込まれていたの。定期的に処置を受けないと精神状態が不安定になっていって最後には暴れ出す」

 

「えっと……ちょっと想像出来ないんだけど……」

 

「そう、よね……うん。なんて言えばいいのかしら。そのチップは人間の恐怖とか警戒心とか、不安を大きくさせる物で。投降を認めて街で収容出来る建物を借りて1箇所に集まって生活してもらっていたのだけれど。1週間くらい経って、投降した彼らに変化が起きた」

 

「変化? それはどういう……」

 

「最初は同盟軍に保護されていて、凄く安心した様子だったんです。ですが、日を追う事に周囲に怯えだして。それも一斉に。もちろんこちらも彼らにストレスを与えないように接し方には注意を払っていました。問題さえ起こさなければ、ちょっとした酒盛りだって許可していたくらいです。なのに……」

 

 彼らは確かに同盟軍へ降って安堵していた。

 関係だって悪くなかった。

 だが、彼らは漠然とした不安に徐々に蝕まれているようだった。

 

「恐怖からドンドン攻撃的になっていって、こちらの何でもない言動やちょっとした仕草ですら、自分に危害を加える行動だと認識し始めて。食事の配給でトレイにフォークを載せようとしただけで暴力を振るう騒ぎになった。フォークで自分を刺そうとしていると騒いで。それも投降した兵がほぼ一斉に」

 

 彩那の話す異様な事態になのは達は困惑する。

 

「それで取り押さえて調べたところ、彼らの脳にはさっき言った極小のチップが埋め込まれていて。それによって彼らの感情を狂わされていた」

 

 心を弄ぶその行為に身震いしながらもフェイトが質問する。

 

「取り出すことは、出来ないの?」

 

「チップが小さ過ぎて外科手術で患者を生きたまま取り出すのは困難だと結論付けたわ。脳髄とほぼ一体化しているから。他の方法で治そうとしても影響が出るのは避けられないって。運が良くても廃人。殆どは脳髄そのものを破壊してしまう、と」

 

 なんだそれは。

 あまりにも人道というモノを無視した行為に子供達や管理局組は困惑と悲しみを表し、帝国を知る騎士達はアイツらならそれくらいやるだろうと、怒りと不快感を表す。

 それでも、これですらまだ序の口なのだ。

 

「他にも市街地戦で自分達が撤退をする為に無人兵器で一般市民を虐殺させて注意を引いたり、傘下の兵を機械人間(サイボーグ)化させ、記憶も人格も上書きされて、使い捨ての駒にされた者。もしくは過去の技術で魔法生物の合成獣に改造された人だって沢山いた。帝国の愚行を全部話してたら、耳が腐るわよ……!」

 

 思い出し、話している内に籠もった熱を吐き出す彩那。

 

「戦争……殺し合いだからルールや条約なんて不要だって話は聞くけど、本当にそれをやってしまえば戦争の落とし所が失くなって、相手を殺し尽くさなければいけなくなる。そうじゃないと安心できないから」

 

 戦争を終わらせようと握手を求めれば危害を加えてくると確信している相手に和平を結ぼうとする者はいない。

 もはやどの国も帝国との和平など既に諦めていた。

 

「私達も、その頃……ううん、もっと前からホーランドを始めとするあの世界に愛着と、帝国に対する義憤みたいな物が芽生えていたわ。だって日本で生まれ育った年月と同じくらいあの世界で暮らしてたんだもの。故郷に帰って、家族に会いたい気持ちはもちろんあったけど、向こうの生活に馴染んでしまっていたし、今更帰っても、元通りの生活に戻れるのか不安だったのもある。あの時はちゃんと年相応の身体だったしね」

 

 自嘲気味に笑うが誰もそれに続いて笑えなかった。

 故郷よりも突然喚び出された世界に馴染んでしまったという事実は誰も共感ができず、想像も及ばない。

 もしも大きくなった自分を家族に拒絶されたら。そう考えてしまうと胸が締め付けられる。

 すると不意に話が変わった。

 

「冬美ちゃんにはね、恋人が居たのよ」

 

「へ?」

 

 いきなり懐かしむように恋バナらしき話に変わって戸惑う一同。

 

「相手はとある貴族の次男坊で、魔導師としても優秀な上に真面目で頭が良くって。冬美ちゃんとは作戦の立案でいつも意見が食い違って言い合いになってた。けど、そうしている内にお互いを理解して惹かれていったみたい。でも教えてくれたのが、相手から婚約の申し出を貰ってからだったのが淋しかったなぁ」

 

 小さく笑みを浮かべているのに、その視線は次第に下がっていく。

 彷徨っていた手が近くに座っていたはやての手を握る。

 握ってきた手は小さく震えていた。

 

「綾瀬さん……?」

 

「ごめんなさい。少しの間だけ、こうさせて……」

 

「う、うん。かまわへんよ」

 

 ありがとう、と小さく礼を言う彩那。

 笑みを浮かべていた彩那の目尻に涙が浮かぶ。

 

「でも、冬美ちゃんは死んだ……」

 

「……」

 

 いずれは来ると分かっていた筈なのに、彩那から勇者の死を口にされて一同に緊張が走る。

 

「まだ、婚約の返事もしてなかったのに。生きていたかった筈なのに。彼女は多くの人を守ってその命を散らしてしまったのよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国の新型兵器の破壊を命じられた私は、その兵器を破壊する為に空へ空へと飛んでいる。

 正確には、敵の無人兵器を破壊しながら、だが。

 

「衛星砲とかもう魔法じゃなくてロボット物のカテゴリーだっての! ちょっとは世界観守れよ、バッカじゃないのっ!」

 

 グチグチと文句を言いながら私は数十の蟹を連想する敵機を撃墜していく。

 一応護衛の部隊を借りたが、私の速度について来れてない上に、無人兵器相手に苦戦している。

 璃里は衛星砲の次の発射時間と目標の予測を解析班と共に行い。

 渚と彩那は地上で暴れている別の兵器の破壊に回っている。

 今回私に与えられた任務は宇宙に打ち上げられた衛星砲が次を撃つ前に射程内まで移動して狙撃する事だ。

 既に初弾で撃たれた国は大きなクレーターと共に首都が文字通り消え去った。

 街に生活する為の魔力(エネルギー)を供給していた炉を破壊された事によってその熱波で被害が拡大し、数万の人が一瞬で溶解したのだ。

 

「帝国の奴らホンットーに、いい加減にしろってのよっ!!」

 

 この事態を重く見たホーランド王を始めとする同盟軍の首脳達が迅速に命令を出してくれたのが幸いだった。

 魔剣から放出された砲撃魔法を横薙ぎに振るい、10機以上を一気に破壊する。

 衛星砲が届く範囲まで移動した私はデータから算出された方角に魔剣を構える。

 

「大盤振る舞いよ! とっとと墜ちろぉっ!!」

 

 炎を宿した最大火力の砲撃が衛星砲へと向かっていく。

 だけど、私の砲撃は衛星砲に当たる前にシールドに依って防がれた。

 

「なっ!?」

 

 シールドを張っているのは分かっていたが、今の砲撃なら確実に貫通出来た筈だ。

 柄にもなく硬直していた私に璃里から念話が届く。

 

『冬美ちゃん! あの兵器、攻撃を察知してシールドの魔力を集中させて硬度を変化させてるみたいなの!!』

 

「クソッ!? 厄介な物をっ!!」

 

 破るなら全方位から攻撃を仕掛けるのがセオリーだが、今でも直線でやっと届く距離なのだ。

 これ以上移動に費やす時間が有るか? 

 そう考えていると、璃里から最悪の連絡が届く。

 

『衛星砲に熱が入った! 発射までの予測時間は──―凡そ5分っ!? 冬美ちゃん、急いでっ!』

 

『予測される着弾地点はっ!』

 

『たぶん、なんだけど──―』

 

『は……?』

 

 私の質問に璃里が答えを返すと、私は頭が真っ白になった。

 それは、先日私に婚約を申し込んできた彼が率いる部隊が駐在している基地だった。

 真っ白だった頭が沸騰して赤くなる。

 

「ふざけんな! 私に対する嫌がらせかぁっ!!」

 

 偶然だと理解していても、私はそう叫ばずにはいられなかった。

 次の砲撃で確実に撃墜する為に魔剣に魔力を注ぐ。

 しかし、その前に接近する敵を感知した。

 空飛ぶ蟹とは大幅にフォルムが変わり、人型である。

 その姿には見覚えがあった。

 

「サイボーグッ!? こんな時に!」

 

 帝国が吸収した他国の魔導師を使い、機械と融合した肉体を持つ兵士。

 その人格と記憶を消されたり、帝国の都合良く書き換えられて使役される使い捨ての駒。

 だが、その戦闘能力は本物だ。

 生半可な攻撃は通らず、勝てない相手ではないが、今はゆっくりと相手にしている時間がない。

 残り4分を切った。

 

 ──―あぁ、クソッ。詰んだわコレ。

 

 頭の中で幾つモノ展開を予想して私にとっての最適解を選択する。

 そこで彩那から念話が送られる。

 

『冬美ちゃんっ! こっちは片付いたから、位置情報をリンクしてそっちに転移して援護するね! 待ってて!!』

 

 何とも有り難い提案だが、ここに来てそれは無意味だ。

 今から彩那がここに転移しても発射直前が精々。

 それでは意味がない。

 

『彩那。これからはティファナ王女と一緒に貴女が貴族連中の相手をしなさい。彩那が璃里と渚を計略から守ってあげなさい』

 

『なに言ってるの! 冬美ちゃ──―』

 

 もう時間が無いので念話を一方的に切る。

 彩那は自分が私達の中で役割が薄いと思っているが、とんだ過小評価だ。

 だってあの子は私達の役割をどこも務まる子だから。

 策略や計略から身を守る為には、璃里では優し過ぎるし、渚はバカ過ぎる。

 ここで私ではなく、渚か璃里が死んだとしても、彩那が居れば勇者としての部隊は失われない。

 そういう隙間を埋める器用貧乏というか、オールラウンダーが綾瀬彩那だと私は信頼している。

 私はここで選ばなければいけない。多くの人を──―惚れた男を見捨てて自分が生き残るか。

 自分の命と引き替えにして、その人達を守るか。

 そしてもう、私は選んでしまった。

 サイボーグが突進してくる。

 私は魔剣に炎を纏わせて両腕をぶった斬ってやった。

 それに驚いたような仕草をした気がしたが、すぐに距離を取って多数の魔力の弾をバラ撒いてくる。

 

「好都合ね。これをやるのも久々だわ……」

 

 再度衛星砲に魔剣を向けるとサイボーグが射線上に立ちはだかり、攻撃を加えてくる。

 針のような魔力の弾。私は即死する箇所だけを守る。

 時間がなく、周囲の魔力を最速で限界まで集め、節約している魔力もこの攻撃に費やす。

 集束魔法。

 砲撃魔法の中でも攻撃という一点だけなら最上位に位置する魔法だ。これなら、あの鬱陶しい衛星砲のシールドごと破壊できる筈。

 サイボーグの攻撃が私の脚や腹に貫通する。

 眼鏡が壊されて落下していき、左目に破片が刺さった。

 だけど、照準はズラさない。

 馬鹿なことをしていると思う。

 こんな巻き込まれただけの戦争で命を懸けるなんて。

 だけど、好きだと思ったのだ。

 最初は色々と意見が合わなくて喧嘩ばかりだった気がする。

 だけど、意見をぶつけ合っていく内に、不器用ながらこちらを気遣ってくれた事に気付く。

 歩み寄っていく内に子供が夢を語るように軍人として貴族として自国を守りたいと話す姿に惹かれた。

 こんな、可愛げの欠片もない、女に婚約を申し込んだ男だ。

 女を見る目がないと思う。もっと彼に相応しい女など選り取り見取りだろうに。

 だけど、嬉しかった。

 親友達や故郷から引き離してしまう事を申し訳なく思いながらも、この世界に残って欲しいと言ってくれた事が。

 まだ、返事も返してなかったのに、あんなSF兵器で全部消し飛ばすって? 

 

「ふっざけんな! 最期に教えといてあげるわクズども……私はね、帝国(アンタ達)が心底嫌いなのよ……! くたばれっ!!」

 

 集めた魔力の引き金を引く。

 全力で撃った集束魔法は間にいたサイボーグを焼き潰し、衛星砲へと直進する。

 守っていたシールドに止まったのも一瞬。力押しでシールドを抉じ開け、発射直前で貫かれた衛星砲は自らのエネルギーも巻き込んで爆発していく。

 

「は、はっ……ざまぁ……こふっ……!?」

 

 口と大量の血を流すと同時に視界が完全に閉じた。

 落下する感覚はあるが、どこか他人事で。

 ──―あぁ、駄目だこれは。

 そう、冷静に死を悟る自分がいた。

 頭の中に駆け巡るのは姉妹のように過ごした親友達。

 璃里。貴女はあんなに帰りたがってたんだから、絶対死なないで日本に帰りなさい。

 渚。もう、貴女のバカな行動を止めてやれないから、あんまり周りに迷惑かけるんじゃないわよ? 無理だろうけど。

 彩那。私のバトンは、彩那に渡すわね。後は、お願い。皆で帰るって約束、破っちゃってゴメン。

 もう感覚が全然ない。

 だけど意識が閉じる最期の瞬間。誰かが私の体を受け止め、抱き締めてくれた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が現場に到着出来た時には冬美ちゃんが衛星砲を破壊して落下していたの。冬美ちゃんを受け止めたけど、もう、彼女は──―」

 

「そん、な……」

 

 手を握られていたはやてが涙を流す。

 はやての中で宮代冬美は特に仲の良い相手という訳では無い。

 だけど、もしかしたら仲良くなれたかもしれない元クラスメイトの死に様を聞いて無感情で居られる程、感情の鈍い少女ではなかった。

 はやてだけではない。

 涙こそ流していないが、宮代冬美という1人の人間の壮絶な最期に、誰もが胸を痛めている。

 それはかつて敵だった雲の騎士も同様だ。

 多くの人々を守るという尊くも哀しい決断をした勇者に対して心の底から敬意を払う。

 先日、綾瀬彩那は言った。勇者達はその名に恥じない立派な最期を迎えたと。

 その真実を知って、もしもその時に自分達もその戦場で参じる事が出来たならと、そんな都合の良いIFを想像してしまう。

 それがただの自己陶酔だと理解していても。

 しかし、これはまだ最初の犠牲に過ぎないのだ。

 彩那は自分を含めて皆が落ち着くのを待つ。

 全員が気持ちを持ち直したのを確認して話を続けた

 

「冬美ちゃんの魔剣は渚ちゃんが引き継ぐ形になった。衛星砲も流石に2つも製造する余裕は無かったみたい。だけど、次は衛星砲とは違う脅威が現れて──―」

 

 

 

 

 

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