「いぃやぁあああっ!?」
高町なのはは絶叫しながら後ろから迫る脅威から逃げていた。
首から下を黒いローブで覆い、なまはげの仮面を被っている怪人に追いかけ回されている。
怪人がなのはに追いついて手にしている緑色の剣を振るってくる。
「ほ〜らっ! フェイトと戦った時はもっと動きが鋭かったでしょ! ボケっとしてると、胴体から首や手足が離婚しちゃうよ〜」
「ヒッ!?」
掠れた声が出てレイジングハートの長柄で受け止めるなのは。
「そーそー。シールドだけじゃなくて得物でも確りガードしないとね!」
渚がレイジングハートをなのはの腕ごと打ち上げると、なのはも渚の体を蹴って距離を取る。
「ちょっとは手加減してよ渚ちゃんっ!」
「してますとも。ボクが本気で斬りかかったら、とっくに撃墜してるからね。これでもなのはが頑張れば対応出来るギリギリラインで動いてるんだ、ゾッ!」
なまはげの面をした渚が高速で動いて背後から斬りかかる。
「っ!?」
頭に振り下ろされる刃をシールドを張って何とか受け止めるなのは。
「良い反応だね。ここ数日の訓練の成果が出てきたかな?」
シールドと刃がぶつかり合う音が聴きながら、渚がそう呟く。
次に軽く発せられた言葉になのはの心は叩き落とされる。
「それじゃあ残り5分。ちょっと速度上げるね〜。確りとついてくるよーに」
「へ?」
次に真正面に現れた渚がなのはの顎を掌で打った。
ジュエルシード事件が終わって数週間。
なのはは知識はユーノ。戦闘は渚から師事を受けていた。
乾いた綿のように魔法に関する事柄を吸収するなのはは2人にとって優秀な生徒である。
それが災いし、戦闘訓練を受けている最中になのはの悲鳴が止まないのだが。
今もぐったりと死にそうな顔で休んでいる。
「だ、大丈夫、なのは?」
「うん……生きてる……今日もわたし、生き残ったよ……」
フフフ、と笑いながら空元気を絞り出す。
模擬戦と侮るなかれ。
非殺傷設定の無い渚の剣は容赦なくなのはの首などを狙ってきて、時に殺気を叩きつけて殺されるイメージを与えてくる。
今日の模擬戦だけで何度殺される自分をイメージしたか。
流石に本当に斬りそうなら寸止めしてくれたが、恐いモノは恐いのだ。
休んでいるなのはに、ローブとなまはげの面を外した渚が嬉しそうに話に入ってくる。
「大分上手くなったね。日々上達するなのはにボクもドキッとするよ」
「そ、そうかなぁ……?」
訓練が始まってから、いつも一方的な防戦を強いられてきた。
どう上達してるのかイマイチ実感が持てなのだ。
それでもこうして褒められるのはやはり嬉しいと思ってしまう。
渚が満面の笑みで親指を立てた。
「うんうん! 特にツッコミ力がね!」
「魔法の話をしてよ!」
ポカポカとなのはが渚の肩を叩く。
魔法の訓練をしていた筈なのに、いきなり全然関係ない事を言われてなのはも流石に文句を言いたくなった。
なのはの体力が戻ると、別の話題に入る。
「そう言えば、昨日フェイトちゃんからビデオレターが届いたんだ」
「そっかぁ。良かったじゃん!」
「うん!」
ジュエルシード事件の終わりに友達になった少女。
今では互いにビデオレターでやり取りする仲になっている。
「でもボク、なんかあの子に嫌われてる? っていうか避けられてる感じがするんだけど。なんで?」
精一杯取り繕っているが、渚と目が合った瞬間に後退ったのを忘れていない。
しかしなのはからしたらフェイトの反応は当然のモノだ。
「当たり前だよ! 渚ちゃんがフェイトちゃんにやったこと、忘れたの!」
怒った口調で問いかけるなのはに、渚ははて? と首を傾げる。
ジト目を向けながらあの時の事を思い返した。
その日、なのはとフェイトはジュエルシードを1つ賭けて決闘をしていた。
フェイトのデバイスであるバルディッシュがなのはを捉えたその時だ。
2つの金属がぶつかる音。
後から合流した渚がなのはを庇ってフェイトの攻撃を防いだのだ。
フェイトが距離を取る。
「ド素人を一方的に嬲ってもつまらないでしょ。今回はボクが相手をしてあげよう」
「渚ちゃん!」
いきなり現れて選手交代を決める渚になのはが抗議の声を上げる。
それも次に勝手な提案まで出して。
「そっちが勝ったらなのはが持ってるジュエルシードを全部あげる。ボクが勝っても1つだけで良いよ。それくらいのハンデは与えてあげる」
ニヤニヤと人を苛つかせる笑みをする渚にフェイトは警戒心を露わにした。
なのはも勝手にジュエルシードを全部賭けさせられて抗議する。
「そんな勝手に!?」
「ボクが
挑発してくる渚にフェイトはムッと口を曲げるフェイト。
「勝つのは、私です。ジュエルシードの件は本当ですね?」
「いいよいいよー。ま、勝てたらの話だけどぉ?」
絶対無理、と言わんばかりの態度の渚にフェイトがバルディッシュを構える。
フェイトにはジュエルシードを全て貰うことで、彼女達とはもう戦わなくて良い、という一種の安心を得たいという理由もあった。
これ以上、彼女達を傷付けたくない、と考えるのはフェイトの優しさだろう。
「行きますっ!!」
高速移動で渚に迫るフェイトに対して渚は構えすら取っていない棒立ち状態。
そのことに疑問を抱いたが、初撃で仕留める為に全力で大鎌を振るう。
しかし──―。
「えっ!?」
渚はフェイトの横薙ぎに振るわれた鎌に合わせて回避行動を取り、背後に移動した。
そのあまりのデタラメな回避に全力で得物を振るった事もあり、フェイトの身体が一瞬の硬直を見せる。
「くっ!!」
敵の攻撃を喰らう覚悟を決める。
もしくはバインドで拘束されるなら即座に破壊する準備も。
だが、渚の行動はフェイトの予想の斜め上を行っていた。
「ひゃんっ!?」
背後に取った渚はフェイトの脇の下から腕を回し、その薄い胸を揉み始めた。
「お、良い声。感度高めだったりする?」
フェイトの胸を揉みながら、片手が太ももからお尻の肉を指でなぞってから揉む。
「いやー。見れば見るほどすんげー格好だね。ボク興奮してきちゃった! それ、自分で考えたの?」
「ふ、ふざけない──―アグッ!?」
亡き恩師であるリニスがデザインしてくれたバリアジャケットを馬鹿にされて怒りが込み上げるが、お尻の肉をマッサージのように揉まれて変な声が出た。
「けっこうお疲れな感じ? よーしよし。ボクが全身を揉み尽くして血行を良くしてあげよー」
そうして渚がフェイトの身体を揉んでいると、上から怒声が飛んでくる。
「フェイトに、なにしてんだーっ!!」
フェイトの使い魔であるアルフが渚に急降下して拳を振るった。
「おっと」
渚はフェイトの背中を押して突き放してアルフの拳を避ける。
しかしアルフの猛攻は止まらず、次々と渚に拳打や蹴りを繰り出してきた。
「ちょこまか動くなっ!」
それらを防いだり避けたりしながら少しずつ地面に近づき、地に足を付けるとアルフの拳打から腕を掴む。
「甘いあま〜いっ!」
そのまま一本背負いを決めて背中を地面に叩きつけた。
「ギッ!?」
「アルフッ!?」
使い魔が倒されてフェイトの顔に焦りが生まれた。
倒れたアルフが起き上がれないようにお腹に乗る渚。
「こん、のっ! 退きなよっ!!」
「タイマンに邪魔してくるのは感心しないなぁ。ルール違反者には、厳しい罰が必要だよねぇ?」
両手の指をムカデの脚のように動かしながらアルフの胸にロックオンをする。
「ちょっとなにを──―」
「レッツ御奉仕ターイムッ☆」
そこからアルフのあられもない声がその場に響く。
2人の少女は弄ばれるアルフの姿と声に顔を真っ赤にして佇んでいた。
「記憶にございません」
「嘘つかないで!」
誤魔化す渚になのはが怒る。
「まーまー。ボクもこう見えて、反省はしてますよ?」
「ほんとうに?」
イマイチ真剣味のない渚の言動に懐疑的ななのは。
本人は目を閉じて頬を赤らめて言う。
「もっとじっくり……フェイトの身体を味わっとけば良かったってさ……」
「違うでしょ!! それにその言い方スッゴくイヤッ!!」
「え〜。だってさ〜。ボクが真面目に相手したら、実力差があり過ぎてイジメになっちゃうじゃん。適当にからかってやるくらいが丁度良い対応だと思わない? それともなのははボクがフェイトをボッコボコにしてる姿が見たかった?」
「そうじゃないけど〜!」
こう返されてしまってはなのはも返す言葉がない。
この手の言い合いに勝った事がないのだ。
だから気を取り直して話題を変えることにした。
「そう言えば、フェイトちゃん、プレシアさんと少しだけお話出来たんだって。渚ちゃんにお礼を言っておいてって」
時の庭園へ突入した後に渚はプレシア・テスタロッサを単独で捕縛した。
フェイトも気力を持ち直し、母の下へと向かっていたが、その時には既に決着がついていたのだ。
現在時空管理局に連行された彼女は病の治療を受けながら取り調べを受けている。
「フェイトちゃん。お母さんと仲良くなれるといいなぁ」
「そだねー。無理だと思うけどぉ」
どうでも良さそうになのはの願いを否定する渚。
欠伸をする渚になのは視線が険しくなる。
「……なんでそういうこと言うかなぁ」
フェイトとプレシアの関係が上手く行ってないのはアルフから聞いている。
だがもしかしたら、これから仲が修復されるかもしれないではないか。
そう考えるなのはに渚は少し困った様子で頬を掻く。
「だってねぇ? あの人は死んじゃったアリシアって子以外、全部どうでも良さそうだし」
フェイトの事を大嫌いだと切り捨てたプレシア。
彼女は既に自分の事すらも見てはいない。
「あの人は、娘を死なせた世界も、助けられなかった自分も。それに、娘の後釜に座ってアリシアの存在を上書きするかもしれないフェイトも。全部嫌いで憎いんだと思う。もう病気で永くないらしいし。残りの人生アリシアを救えなかった自分とか世界とかに後悔と憎悪で全部呪って死んで逝くんだと思うよ」
「そんなの……」
哀し過ぎるのではないか。
まだフェイトはプレシアを少しでも救おうと頑張ってるのに。
それにそんなにも娘を助けようとした人が、世界の全部を憎んで死んでゆくなんて。
「プレシア・テスタロッサの記憶を全部壊して別人にするくらいやらないと。もうあの人は色んな意味で手遅れだよ。関わるだけ時間の無駄だと思う」
冷酷とも感じる渚の言葉になのはは言葉を失う。
渚の言葉を否定したいのに、心の何処かでプレシアとフェイトの仲が修復されないだろうと考えてしまっている。
それでも何とか反論しようとするなのはだが、そこで別方向からなのはを呼ぶ声がした。
「なのは〜!」
呼んだのはアリサと、横に歩いているのはすずかだった。
手を振って2人が近づいてくる。
「休みの日に2人で何してたの?」
「え、え〜とぉ……」
すずかの当然の質問になのは視線を泳がせる。
先日なのはの両親が経営する喫茶店・翠屋で渚と2人は顔合わせをしている。
最初は渚のノリに面食らっていたアリサとすずかも今はそれなりに慣れた。
それはそれとして、いきなり返答に困る質問をされて咄嗟に誤魔化せないのはなのはらしい正直さと言える。
魔法の事を知らない2人にどう説明するか悩み、つい視線で渚に助けを求める。
それに気付いて渚もコクンと頷いた。
ホッとするなのはに渚が適当に話をでっち上げた。
「実は、最近なのはのお腹がポッコリ出てきたって相談を受けてさ。ちょっと運動させてたんだ!」
ドシャァアッと渚の嘘になのはが顔から地面に転がり滑る。
ちなみにそのでっち上げを聞いた2人の反応はと言うと。
『あぁ……』
「なんでアリサちゃんもすずかちゃんも納得してるの!?」
「だってなのは、最近食べる量が明らかに増えてるじゃない」
「お弁当の中身が1,5倍くらいは増えてるよね?」
魔法の訓練を始めてから頭も体も必要以上に酷使してこれまでの食事量ではカロリーが足らなくなった。
もしも食べる量を増やさなければ太るどころか逆に体重が減る一方だろう。
しかしそんな事を知らない周りから見れば、突然なのはが馬鹿食いを始めたようにしか見えないのだ。
「運動するのは良いけど、食べる量もちゃんと考えなさいよ」
「あはは……」
純粋に心配してくれる親友に愛想笑いで誤魔化しつつ心の中で泣くなのは。2人の後ろにいる渚はというと、ナイスでしょ? と言わんばかりの笑顔をなのはに見せていた。
その笑顔に普段は温厚で自分の事では滅多に怒らないなのはをしてイラッとさせられた。
そこでアリサがなのはの肩に乗っているユーノを見る。
「あんまり動物を外に連れ出すんじゃないわよ。逃げて迷子になったら大変でしょうが」
「うん。でもユーノくん、かしこいから」
「わたしもあんまりオススメしないかな。以前ウチの猫が屋敷から出ちゃったことがあって、探すのが大変だったもん」
アリサの意見にすずかも同意する。
ユーノが本当は人間だという事を知らない2人からすれば当然の意見だろう。
そこで渚がユーノを抱き上げた。
「ボクがユーノに会わせて欲しいって我儘言ったんだよ。なんせ、ユーノは将来ボクのお婿さんになる予定のフェレットだからね!」
突然爆弾発言に4人の頭が真っ白になる。
なのはが念話をユーノに繋げた。
『そんな約束してたの? ユーノくん』
『してない!? してないよ〜っ!?』
「なんか物凄く首を横に振ってるけど……って言うかアンタはフェレットと結婚する訳っ!!」
「照れてるんだよボクには分かる! ユーノは将来大物になりそうだし、今の内に粉かけないと! ボクって意外と守備範囲が広いんだぜ? フェレットでもドンと来ーい!」
「広過ぎるわっ!」
アリサのツッコミなどどこ吹く風でユーノを高い高いしてクルクル回る渚。
この場でユーノが人間だと知っているなのはだけは冷や汗を流しつつ話題に入らないようにした。
それを見ていたすずかが笑みを浮かべてなのはに話しかける。
「面白い子だよね、渚ちゃんって」
「なのは。アンタコイツと居て疲れないの?」
「にゃはは……少し、ね」
そんな少女達に渚が唇を尖らせた。
「失礼だなぁ君達。ボクが本気でハッチャケたら、なのはなんて1週間でストレスで胃に穴が開くのに。昔のボクに比べたら大分落ち着いたんだよ」
「昔ってアンタいくつよ……」
呆れる声で返すアリサの質問に答えず、渚は別の話をする。
「ボクには、綾瀬彩那っていう大親友が居てね。小さい時から何をするにも一緒で、他にも冬美と璃里っていう親友も居たけど。とにかく、ボクはいつもあの子達を振り回してた。でもある日、洒落にならない失敗をしちゃってね。あの時は本気で嫌われたかと思っちゃった」
後悔を滲ませた渚の表情に3人が顔を曇らせる。
「何が、あったの?」
「うん。とあるパーティーに出席してね。慣れないドレスを着て、着飾ってたんだけど、ボクはテンション上がって悪気は無かったんだけど、彩那に後ろから抱きついた拍子に肩の紐の結び目が解けちゃってさ。運悪くドレス諸共ブラまで外れ落ちて。大勢の前で彩那がパンツ姿を披露するハメに……」
「アンタ何してんのっ!?」
「最低……最低だよ渚ちゃん……」
「それ、よく許して貰えたね」
渚のカミングアウトに3人の少女は当然の如くバッシングする。
「あの後すぐに冬美にはグーで思いっ切り殴られるわ。璃里には何時間もお説教喰らうわで大変だったさ。その後の数日間無視する彩那に謝り倒してどうにか許してもらったよ」
危なかったぁ、と遠い目をする渚。
絶縁されてもおかしくないおフザケで、なぜ許されたのか3人には理解出来ない。
「彩那はボクに激甘だったからな〜。登校時間にわざわざ遠回りなのに早起きしてボクを起こしに来てくれる幼馴染みイベントもバッチリ毎日こなしてくれてたしね!」
あぁそうか。つまりそうして甘やかし続けた結界、渚はこんな風になったのかと3人の頭の中の想像が一致する。
そんな3人の心の中など露知らずに渚は自信満々に自分を指差す。
「つまり、あの頃に比べてボクは成長した。精神的には大人の女と言っても過言じゃないね!」
「……アンタ自惚れって言葉知ってる?」
「は? それが今、何の関係があるの?」
アリサの言葉の意味は伝わらなかったらしく、渚は不思議そうに首を傾げた。
そこで時間を確認してヤベッと声を漏らす。
「ゴメン。これから別の約束があるんだ! もう行くね」
ユーノをなのはに返して駆け足でその場を去る渚。
すぐに見えなくなった渚を見て、アリサが呟く。
「相変わらず慌ただしいというか、台風みたいな奴ね」
「はやて〜ちょい遅れた〜?」
「お〜渚ちゃん。いやいや。予定通りやから」
待ち合わせの相手は同じ学校の生徒だが、休学していてたまにしか小学校に来ない少女──―八神はやてだった。
ここ最近、ちょっとした切っ掛けで仲良くなり、今では下の名前で呼び合う仲になっている。
今日は彼女の家に昼食がてらのお呼ばれなのだ。
車椅子に乗ったはやての膝には買い物袋が置かれていた。
「荷物袋持つよ。重そうだし」
「あー。半分だけお願いできるか? なんや、買い過ぎてしもて……」
今日使う食材だろう。
ホームステイしてる人が何人か居るらしく、その人達の分もあるのだろうと察する。
はやての家に案内されつつ渚が話を振る。
「ボクってさ。もう一生働かなくても良いくらい頑張ったから、これからは働かずに誰かに養ってもらいながらずっとダラダラして暮らしたいですってクラスの作文に書いたら先生に怒られたんだけど。理不尽だと思わない?」
「あはは……で? 一生分頑張ったってなにしたん?」
「ちょっと世界を救ってきた」
「それはスゴイなぁ」
渚の言葉を冗談として受け取ってはやては笑う。
脈略はないが、渚の話はいつも面白い。
それでも気になることがあってつい疑問を口にしてしまった。
「渚ちゃんは、淋しくないん? その、お友達が居なくなって……」
訊いてはいけないと思いつつも質問してしまった。
すぐに取り消そうとすると、渚の笑みは先程とは打って変わって穏やかながらも淋しそうだった。
「淋しいよ。皆のところへ行きたいって何度も思った」
その顔を見ると、笑っているのに泣きそうで。
儚く今にも消えてしまいそうだった。
「だけど、それじゃあ本当に皆の人生が無駄になっちゃうから。だからどれだけ虚勢でも、痩せ我慢でも、ボクは幸せだよって言い続けなきゃ嘘だ。それに……」
渚は顔に刻まれた刺青に触れる。
行方不明から帰ってきてからある渚の刺青。
それを大切な物のようになぞる。
「あの子達の事は今も近くに感じてる……大丈夫だよ。皆とはずっと一緒だから。きっと、落ち込むより綺麗事でも勝手な解釈でも、皆がボクが幸せを願ってくれてるって信じられるから」
「……」
自信を持って言う渚にはやては、そう言い切れる渚や彼女達の関係に憧れと尊敬を抱く。
「渚ちゃんは強いなぁ」
「なんせ、ボクは世界を救った女だからね!」
「ふふ。そっかぁ。なら当然やね」
先程の渚の冗談が少しだけ本当に思えてくる不思議。
そう話している内にはやての家に着いた。
「遠慮なく上がってな!」
「おっ邪魔しま〜す!」
玄関を通ると奥からはやての家族が出てきて。
その瞬間、渚の時間が止まった。
「おかえりなさい。はやてちゃん。お洗濯物は入れておきましたよ。はやてちゃんのお友達もこんにちは」
「ハジメマシテ? ドウモコンニチハ?」
「なんでいきなりロボットみたいにカクカクしとるん?」
いきなりカタコトで話し始める渚にはやてがツッコミを入れる。
「ん。あ、いや……うん。スゴい美人が出て来てビックリした。同居してる人って外国の人だったんだね」
「そんな。ありがとうございます」
美人、と言われて嬉しそうに頬を染める女性。
「シャマル。他の子達は?」
「はい。シグナムは道場のアルバイトでヴィータちゃんはザフィーラと散歩に出かけてます。そろそろ戻ると思いますよ」
「そかそか。なら早くお昼の準備せんとな!」
「手伝うよ。
「楽しみやわぁ」
そんなこんなではやてと渚は案内するシャマルを見て、こう考えていた。
(なんでコイツらがここに居るかなぁ)
理由は想像つくが、あまり認めたくなかった。
闇の書と呼ばれる魔法の書。その特性を考えればおそらく──―。
何事も無ければ良いが、もしも雲の騎士が此方の生活を脅かすのならば。
(その時は、どうしてやろうかなぁ……)
珍しく陰鬱な気持ちでキッチンに入った。