世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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語られる真実(6)

 手元に届けられた1枚の紙を険しい表情で見て、ティファナ・イム・ホーランドは息を吐いた。

 

(フユミとリリィが立て続けに殉職。ならこれから私がやるべき事は……)

 

 小さく息を吐いて、夜風に当たろうと窓を開ける。

 

「やっほー!」

 

「ひゃあぁっ!?」

 

 何故か森渚が上下反対で顔を出してきた。

 驚いて尻もちをつくティファナ。

 

「な、ななななななっ!?」

 

 なんで、と口にしようとするが、驚きのせいで上手く喋れない。

 渚は逆さまのままティファナに話しかける。

 

「入っていい? 2時間くらい王女様が窓を開けてくれるの待ってたんだけどー」

 

「2時間もっ!?」

 

 馬鹿なんじゃないだろうか? あぁ、馬鹿だったな、この人は。と落ち着く為に咳払いをし、さっさと入るように言う。

 

「よっと!」

 

 猿のような器用さで部屋の中に入る渚。

 

「それで、こんな夜更けにどのようなご要件で?」

 

「夜にお姫様部屋にお忍びで来るなんて夜這いに決まってんじゃん。も〜。そんなこといわせないでよ〜」

 

 頬に手を当ててクネクネと体を動かす渚にティファナは冷めた視線を送る。

 

「そういう事はアヤナにでもやってください」

 

「いやー。前のパーティーの件からガードが堅くってさぁ」

 

「あぁ……って自業自得じゃないですか!」

 

 ベルカ・ヒンメルを攻略して事後処理も終わり、落ち着いた頃、長くまとまった休みもなく、張り詰めていた事もあり、戦勝パーティーが行われた。

 街でも祭りが行われる大規模な催しだ。

 その最中に渚がやらかした。

 意図した事ではないが、彩那にベタベタ抱きついて、誤ってドレスの肩紐を解いてしまったのだ。

 運悪く、ブラも一緒に外れてしまい、しかも会場の様子は生放送されていた事もあり、綾瀬彩那の裸が大多数の衆目に晒される事態になってしまう。

 

「よく、彼女はナギサを赦しましたね……」

 

「見縊ってもらっちゃ困る! これで縁切りされるほどボク達の友情は脆くないさ!」

 

「良いこと言ってる風ですが、何日も床に額を付けてアヤナに謝っていたのは知ってますからね?」

 

 渚との会話に疲れを覚える。

 

「その件はともかく。本当にアヤナの傍に居なくても良いのですか? リリィも殉職して、相当参ってるように見えますが」

 

「よく気がついたね。表向きは平静を装ってたのに」

 

 立場が人を作る、という言葉がある。

 彩那も兵士達の士気を下げないように表向きは毅然とした態度を貫いていた。

 しかしティファナも10年も共に過ごした間柄だ。それくらいの変化は見破れる。

 

「今はお互い心の整理をするためにも……ね。それよりも王女様に訊きたいことがあるんだー」

 

 ニコニコと笑っていた渚の表情が真剣なモノへと変わった。

 渚はカード状態の霊剣と魔剣を取り出す。

 

「コレについて、ボク達に隠してる事があるなら、教えてほしいなってね」

 

 その質問に、ティファナは心臓が掴まえられた気がした。

 

「やっぱり何か知ってるね。ボク、頭は良くないけど、察しは良い方だと思うんだー」

 

「……」

 

「魔剣を使うようになってから、冬美の存在を近くに感じる気がした。最初は感傷かなって思ってたけど。彩那も、王剣を手にして、璃里の事を感じるって言ってた。何か知ってるなら教えてくれると嬉しいなぁ?」

 

 渚の射抜くような視線にティファナは後退る。

 だけど、その質問をされれば、ティファナの返答は決まっている。

 

「私も、最初から全てを知っていた訳ではありません。お父様から勇者の剣についての真実を聞いたのは、冬美が殉職した後だったのです。信じては、もらえないでしょうが……」

 

「……信じるよ。友達だから。そうじゃなきゃ、ここに訊きにくる意味がないからね」

 

「ありがとうございます」

 

 そこからティファナは勇者の剣に関する自分が知る全てを話し始めた。

 全てを聞き終わった後に渚は天井を仰ぐ。

 

「生贄、か……結局この国は、ボク達を元の世界に還す気なんてなかったわけだ……ハハ、笑えねー」

 

 まいったな~、と呟く渚。

 

「ごめんなさい……」

 

「謝んないでよ。別に、王女様が発案した訳じゃないんだからさ」

 

「ですがっ!」

 

 それでもこの国が、これまで戦争を終わらせる為に身を粉にして戦ってくれた少女達を裏切っていた事には変わりない。

 この国の王女として責任を感じずにはいられなかった。

 

「それじゃあさ。1つだけ、お願いしてもいいかな? ティファナ」

 

 王女様、ではなく名前で呼ぶ渚に、ティファナは少しだけ驚く。

 

「もしもボクが死んで、まだ帝国と戦う必要があっても、彩那を犠牲にするのは、止めてほしいな」

 

 これまでに無いくらいに弱気で縋るような眼で頼んでくる渚。

 自分が死んだ後、彩那まで生贄にされたら、それはもう本当に救われない。

 その時は、勝手に喚び出されて、死んでしまった、という結果しか遺せない。

 勿論この世界の人達からすればそれで充分なのだろう。

 だけど渚達からすれば、それは何の意味もない。

 こんなお願い、きっと聞き入れて貰えないのは渚も分かっている。けれど頼めるのはティファナ王女だけだった。

 

「えぇ。約束しましょう。最後の勇者は絶対に生贄にはしないと」

 

 意外なティファナの言葉に渚が顔を上げる。

 

「何にせよ、勇者の剣を使いこなすには、貴女方が培ってきた経験が不可欠です。ですから私は、王族の血を引く者全てのリンカーコアの魔力資質を調べました。その中で1人だけ、条件を満たす者が居ます。既にその方もこの話を承諾してくれています」

 

 微笑んで答えるティファナに渚は安堵した様子で力を抜く。

 

「そっかぁ……」

 

 誰かが生贄になるのは変わりないが、身勝手でも、親友が犠牲になるよりはずっと良い。

 

「ですが、犠牲が出ないにこした事はありません。どうか二人共無事、戻って頂きたいと願っています」

 

「も、もっちろんだよ!! ここまできて死ぬとかジョーダンじゃないからね!」

 

「ひゃっ!?」

 

 いつもの明るさを取り戻して抱きついてくる渚。

 

「頼んでみるもんだね! 王女様さいこー! 結婚して!」

 

「ふふ。そうですね。無事に戻ってきたら考えておきます」

 

 いつもなら、馬鹿な事を言わないで下さいと一蹴するが、今日は何故か反発してこない。

 思った反応と違って渚は不思議そうにするが、用事が済んで窓の手摺に足を乗せる。

 

「それじゃ! ボクは帰るね! 色々とやることあるし! 帝国の奴らをコテンパンにして帰ってくるから!」

 

「えぇ。勝利の吉報をお待ちしてます!」

 

 イヤッホー! と叫びながら空を飛んで帰っていく渚を見送り、ティファナは窓を閉めると、再び紙に視線を戻す。

 

「彼女達をこの戦争に巻き込んだ王族の責任を取らないと。それに、私が居なくなっても、(エリザ)がいる。私が、命を惜しむ理由はありません」

 

 紙を引き出しの中にしまう。

 その紙には、こう記されていた。

 

 ティファナ・イム・ホーランド。

 リンカーコア魔法資質・Sランク。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「璃里ちゃんが亡くなって少し間を置いてから帝国の本拠地である元流刑地への侵攻が始まった」

 

 時間を置いたのは、衛星砲と移動要塞によって被害を受けた同盟軍の立て直しと、彩那と渚の2人のメンタルケアに時間をかけて万全を期したかったから。

 

「衛星砲と移動要塞は元々過去の戦争の遺物を引っ張り出した物だから、そう簡単に造れる代物じゃなかったのも理由ね。移動要塞を攻略した時に拘束した帝国の幹部から聞き出したから間違いない。実際向こうもかなり追い詰められていたみたい」

 

 侵略していた国々は同盟軍によって次々と解放され、元々存在していた過去の遺物達も底をつき始めていた。

 

「流刑地だった北の地に、中継地点になるような街や砦は無かったけど、逆にそれが同盟軍の進軍を一気に進ませる結果となった。現地の魔法生物もいたけど、流石に本気で乗り出した同盟軍の前ではそこまで高い脅威じゃなかったのもある」

 

 損害0とまではいかないが、それでも順調に敵の本拠地まで移動出来た。

 

「でも、その本拠地ってスゴく見つかり難い場所に在ったんだよね? そこはどうしたの?」

 

「そうそう。相手だってそんなに簡単に話してくれないでしよ?」

 

 エイミィとアリサの質問に対して彩那はそれはもう、優しげな、寒気すら感じる笑顔で返す。

 

「口を割らせたわ。多少手荒な手段を使って」

 

「多少?」

 

 彩那の返答になのはが表情を引きつらせる。

 当時、これまでの非道や勇者が2人も失った事から同盟軍の帝国に対するヘイトが最高値まで高まっており、その幹部ともなれば穏やかな手段ばかり取ってはいられない。

 彩那も渚も直接手を下していないが、情報を吐かせる為にかなり暴力的な手段を行なった。

 

「だから、敵の本拠地を見つけるのはそう難しくなかったの」

 

 帝国が戦争前から備えていた兵器も、既に残りは極少数。

 無人兵器やサイボーグ。操られた魔法生物や元宗教団体の魔導師達。

 どれも同盟軍の物量と士気の高さが押していた。

 10年以上続いた戦争。その地獄にようやく終止符を打つ機会が訪れたのだ。

 同盟軍の士気が最高潮まで高まるのは必然。

 

「だから、後は主だった面子を捕えれば、全て終わる。その筈だったのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手向かう者は殺せ! 逃げる者にも容赦するな! 此方の指示に指先1つ逆らう者は全て斬り捨てろっ!」

 

「子供とて情けをかけるなよ! ここで温情を見せれば、後々厄介な事になるぞ!」

 

 帝国の非道を理解し尽くした同盟軍は一切の言葉を交わさずに帝国の者達を捕えて、僅かでも抵抗する素振りを見せれば殺害した。

 いっそそれは、虐殺と呼んでもいい苛烈さだったかもしれない。

 そんな中で渚と彩那は暴走しているサイボーグを片付けていた。

 

「これでぇ、ラストォっ!!」

 

 集団で襲ってきたサイボーグの最後の1体を渚が斬り捨てる。

 彩那が近くの兵に話しかける。

 

「帝国の王はまだ見つかりませんか?」

 

「はい! 別部隊からの報告はまだ」

 

「そうですか」

 

 既に半日近く戦闘が続いており、大半の帝国人の拘束。もしくは殺害が終わっている。

 だけど、トップは未だに見つかっていない。

 今回の突入に関しては同盟軍。つまり各国から選抜された優秀な兵士が参加している。

 だからか自国の為に戦果を上げようと躍起になっており、手柄の争奪戦が起きている事は否めない。

 それでも足の引っ張り合いが起きないのは、それだけ帝国に対する憤りが強く、最大戦力である勇者の存在が抑止力になっている事が大きい。

 

「まったく! 王様ってのはどこも奥に引っ込むのが好きだよね! さっさと出て来て終わらせてくれればいいのにさ!」

 

 愚痴る渚だが、彩那も同意見だ。

 

「私達は先行した方々同様に奥へと進みます! 捕らえた帝国の方々を先に順番に詰めて輸送を始めてください! 何かあれば、念話で指示を出します!」

 

 綾那の指示に部隊の1つを任されている女性の隊長が進言する。

 

「許されるのなら、勇者様方と共に行く事を許可してくださいませんか?」

 

「なんで?」

 

「……私は、移動要塞での戦闘で、リリィ様に助けて頂きました。だから、同じ勇者様である御2人方を今度こそお守りしたいのです」

 

 彼女はきっと、璃里に助けられて自分が生き残ってしまった事を後悔しているのだろう。

 だから護衛として汚名を濯ぎたいと思っている。

 だけどそんな自己犠牲は無用だ。

 

「だからこそ、戦場を離れてください。璃里ちゃんが助けた命、ここで何かあれば、私達が彼女に合わせる顔がありません」

 

「しかし!」

 

「だ〜か〜ら〜。護衛なんていらないの! それに、この戦争が終わった後の方がやること多いでしょ! そのエネルギーをそっちに回しなよ!」

 

 戦争が終われば勇者は元の世界に戻る。

 だから戦争のせいで乱れた治安を守るのはこの世界の者達の仕事だ。

 出来る限り生存させなければならない。

 

「ほら! 行った行った! こんなところで長々と話してる余裕ないんだから!」

 

 渚が女性の尻を叩いて追い返す。

 

「貴女方は……いえ、どうか御武運を」

 

 一礼して去ってゆく女性兵士。

 

 反対方向に渚と彩那も足を進めた。

 ようやく、この戦争を終わらせて地球に帰る事が出来る。

 その事実に鼓動が高鳴り、逸る気持ちを抑えきれない。

 移動中に念話で帝国のトップを発見したと連絡が入った。

 

「ミッド式のアメイシア国からだね」

 

「帝国の王様も逃げ回ってるみたい。絶対に捕まえて、この戦争の責任を取らせよう!」

 

 自国以外の軍にも報告を怠らないのは流石と言うべきか。

 此方もすぐに向かうと念話で返す。

 

「もうすぐだよ! もうすぐ全部終わる!」

 

「うん!」

 

 そう。帰るのだ。

 もう戦争だとか、殺し合いだとか、そんな地獄とは完全に縁をきる。

 これで、最後に──―。

 帝国の王が居たのは施設内の奥の奥とも言える薄暗い区域だった。

 

 そこで王は1人、各国の兵士や騎士に憎悪を向けられていた。

 護衛と思われる者は既に斬り捨てられている。

 痩せこけた顔で聖職者が着そうな白いローブに身を包んだ50そこそこの男性。

 それが、世界を混乱に陥れたこの国のトップだった。

 拘束に乗り出そうとした兵士に相手は威嚇程度の魔法を撃ってくるが、そんな物はこの場にいる誰にも通じる筈がない。

 フーッフーッと警戒心の高い猫のような呼吸で癇癪を起こしている。

 

「お前達が悪いくせに! 俺達がこの地に追いやられて、どれだけ恐怖だったか! 俺達は騙されただけの被害者なのにぃ!!」

 

 王の癇癪にまともに取り合う者は当然ながらここにはいない。

 同情を寄せるには、帝国は無用な被害を広げ過ぎた。

 渚がひょっこりと前に出る。

 すると王の顔が更に真っ赤に染まった。

 

「知っているぞ! 貴様ら、ホーランドの魔女だな! この悪魔めっ!! 貴様らさえ居なければっ!!」

 

 唾を飛ばしてこちらを罵倒するが、まともに相手をするつもりはない。

 さっさと捕らえて、牢獄から処刑台に送るだけだ。

 

「捕らえましょう」

 

 彩那がバインドで拘束しようとすると、王が後ろにある機材に触れながら叫ぶ。

 

「ボイド! まだか! 早くアレを起動させろぉ!!」

 

「ボイド?」

 

 首を傾げる渚だが、彩那はその名前に聞き覚えがあった。

 

(ボイド……ボイド・マーストン! 魔導師の身体に作り変える薬を開発した、あの!)

 

 嫌な予感がする。周囲を見渡すがやはり誰もいない。

 もしかしたらこの部屋の外から何らかの行動をしているのかもしれない。

 

「渚ちゃん! ここをお願い! すみません、何人か私と一緒にボイド・マーストンの捜索に──―」

 

 そう指示を出そうとするがその前に壁だと思っていた扉が開く。

 開いた扉の奥から現れたのは2人。いや、1人と1体だ。

 1人は王と同じくらいの長身の男性。その横には大きなガラスケースに入った人型の“ナニカ”がいた。

 

「ボイド!」

 

 現れたその人物に王が安堵と期待感で声を弾ませた。

 

「いやいや。流石は遺物の封印装置。解除するのに些か手間取ってしまいましたよ」

 

 そう言って横のガラスケースを撫でる。

 

「貴方が、ボイド・マーストンですか?」

 

「如何にも。そういう貴女はホーランドの勇者ですね? お噂は此方の耳にも入ってますよ」

 

 この危機的状況にボイドは一切緊張した様子はなく、世間話をするように話しかけてくる。

 

「これを見つけるのに苦労しましたよ。過去の戦争で先人達が制御不能と判断し、封印するしかなかった究極の魔法生命体。再生、適応、進化を永遠に繰り返し続ける兵器」

 

 パネルを操作してその兵器を解放しようとする。

 彩那が指示を飛ばす。

 

「各員、一斉に攻撃魔法を! 彼らを殺しても構いません!」

 

 出来れば捕らえたかったが、ここで様子見して事態が悪化するよりマシと判断した。

 帝国の兵器。それも過去の異物なら、衛星砲や移動要塞のように危険な代物でないと何故断言できるのか。

 各国の兵士達が彩那の指示に迷うことなく従うのは彼女の勇者としての功績故。

 容赦など必要ない。

 そもそもここにいる全員が彼らの死を願っているのだ。許可が出たのなら、躊躇う理由はない。

 一斉に発射された魔法による攻撃。

 衝突した魔力の霧散によって視界が奪われる。

 視界が晴れるまで凡そ3秒。ゾクリとした感覚に従って勇者2人は動いた。

 渚と彩那が左右に避けると同時に白いナニカが兵士の首を掴んでそのまま握力で圧し折った。

 

(速いっ!?)

 

 叫ぶ間もなく殺される兵士。

 姿を確認すると、それは確かにガラスケースに入っていた人型だった。

 全身白く、大きさは成人男性くらいか。

 顔には鼻も耳も目すらない。辛うじて口があり、人間に似た頭部と認識出来る程度。

 敵、と判断した兵士達の判断は早かった。

 即座に数人がバインドで拘束し、その上から3人の騎士が斬りかかる。

 しかし、その敵は力づくでバインドの拘束を破り、騎士の1人を掴むと、その口を大きく開き、一口で噛み砕く。

 残りの2人が背後から背中に刃を突き刺すが、上半身だけがぐるりと回る。

 

「ひっ!?」

 

 そのあり得ない動きに騎士の1人が剣を抜くが、もう1人は驚きから逃げるのが遅れ、白い敵に抱きつかれて全身の骨を砕かれた。

 

「ごめんなさい……!」

 

 彩那が動き、抱きつかれている騎士ごと鎖型のバインドで拘束する。

 

「チェーンボムッ!」

 

 親友が得意とした魔法で爆発を起こす。

 爆発による視界が晴れる前に渚が動いた。

 

「ハァッ!!」

 

 霊剣と魔剣の二刀を振るい、即座に距離を取る。

 

「手応えあり!」

 

 斬った感触を確信する渚。

 確かに今の斬撃で首と片腕を斬った。

 しかし。

 

「うっそぉ……」

 

 白い敵は落ちた腕を雑にくっつけ、ボールでも持つように頭部を拾うと、こちらに向けてくる。 

 大きく開いた口から砲撃魔法が発射された。

 その攻撃に数名が巻き込まれて、体の一部が消え去って死んだ。

 そして落とされた筈の頭を乗せるようにしてくっつけた。

 

「なんだよアレはぁ!?」

 

 兵士の1人が皆の思いを代弁する。

 その疑問に答えたのは、王の方だ。

 

「ふはははははっ!! どうだ! それこそがこの基地を造り上げた先人が創った究極の生体兵器だ! 殺れ! この不届き者共を殺し尽くせぇ!!」

 

 大声で笑いながら生体兵器に命令する王。

 

(ボイド・マーストンが居ない!)

 

 死体も見当たらない。

 この混乱に乗じて逃げたと考えるのが普通だが。

 それよりも今はこの化物を倒すことが先決だ。

 生体兵器が兵士の1人に襲いかかるのを2人の勇者が阻止する。

 

「下がってください!」

 

「しかしっ!?」

 

「邪魔だってば!」

 

 こんな大人数が固まっていたら、敵の餌食になるだけ。

 渚が生体兵器に魔剣を突き刺す。

 

「斬っても駄目ならさっ!!」

 

 突き刺した魔剣が体の内側から魔力の奔流を作り、上半身を消し飛ばす。

 腹から上が無くなり、流石に死んだかと思ったが、ボコボコと泡立つように怪我した箇所が蠢き、元のに戻る。

 

「もう生物の範疇を超えてるわね……」

 

 ぐにゃり、と腕が動くと鋭利な鞭のように伸び、数名の兵士を軽々と切断した。

 それを見た彩那は念話で指示を出す。

 

『敵のトップを連れて撤退してください! アレは、私達が相手をします!』

 

 同士討ちの可能性を考慮すれば、渚と2人で戦う事が望ましい。

 足手まといは必要ないのだ。

 勇者2人を残して行く事に後ろめたさがあったようだが、何とかこちらの指示に従ってくれる。

 生体兵器を無視して何人かが帝国の王様を拘束する。

 

「俺に触るな! このグズ! 早くこのゴミを片付けっ!?」

 

「なっ!?」

 

 生体兵器は腕を伸ばすと、守るはずの王とその直線にいた兵士ごと貫いた。

 血を吐いて倒れる敵のトップ。

 無事な兵もすぐに離れる。

 

(まさかこいつ! 敵味方の区別がついてないの!?)

 

 そうなら、もしも外へ出れば無差別な殺戮が始まるかもしれない。

 

「貴様ぁ!!」

 

 仲間が殺られた事に憤慨した一部の兵が生体兵器に向かっていく。

 

「やめなさい!!」

 

 彩那の制止は意味を成さず、高速で伸縮し、動く腕が細切れにしていく。

 

「早く撤退をっ!!」

 

「はい!」

 

 彩那が急かし、この場に自分達以外を退かせる。

 

「この! 手抜きデザインのくせに!」

 

 渚が敵の腕を掻い潜り、再び首を刎ねようとするが、直前に口から砲撃が発射された。

 ギリギリのところで後方に跳んで避けるが、無傷とはいかなかった。

 

「あぐっ!?」

 

「渚ちゃんっ!?」

 

 彩那の悲鳴が響く。

 避けたところで敵の腕が渚の左脚の膝から下が切断された。

 脂汗を滲ませつつも霊剣の魔法で無理矢理痛覚と出血を抑える。

 

「ナメんなっ! 空を飛んでれば、脚なんて無くても問題ないんだよ!!」

 

 魔剣で砲撃を撃ち返す。

 生体兵器の右肩から胸を撃ち抜く。

 同時に彩那も背後に回って反対の腕を斬る。

 

(殺し切れないなら、動きだけでも……!)

 

 王剣を突き刺し、壁に固定しようと試みる。

 だが、切り離した筈の腕が動き、彩那の身体を貫いた。

 

「あっ……」

 

「彩那っ!?」

 

 彩那の首を刈り取ろうとする鋭利な腕。

 その攻撃から助ける為に渚が彩那を突き飛ばした。

 

「っ!?」

 

 その代償として、渚の左腕が落とされる。

 そこからの渚の判断は早かった。

 魔剣を口に咥えて回収し、彩那を抱えて転移による離脱を選択。

 その際に体にも穴を空けられたが、もう少し逃げるのが遅ければ、2人まとめて殺されていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 咄嗟に選んだ転移先は、進軍中に見つけた小屋だった。

 たまたま遺された建物に念の為に転移の目印を仕込んでおいたのが幸いした。

 心臓と肺を貫かれた彩那と、左の腕と脚を失った渚。

 救助を待っていたらおそらくは2人とも助からない。

 選ばなければならない。

 自分の命か、友の命かを。

 そして、渚は自らの選択を迷う事はなかった。

 勇者の剣の本来の力の一端を解放。

 その魔法で渚は傷付いた彩那の心臓と肺の怪我を自分に移す。

 自分が居なくなった後の彩那を心配しつつも死なせたくなくて、迷う事なく心臓と肺の状態を逆転させる。

 

「最後に、ぜんぶ押し付ける形になって、ゴメンね……でもボクも、この剣の1本になって見守っているから。彩那……君が、最後の、勇者(きぼう)……だよ……」

 

 強がりだった。

 親友に情けない最期を見せたくなくて。

 それでも、彩那ならきっと、大丈夫だと信じている。

 痛みがもう感じられない。

 目も耳も、もう動いてるのか分からない。

 肉体から意識が剥がれていくのが分かる。

 彩那には聞いて欲しくないが、それでも最期に弱音が溢れてしまった。

 

「で、も……や……ぱ、りさ……しにたく、ながっだなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人目の勇者の死が語られ、場の雰囲気は一層重いモノとなる。

 

「渚ちゃんは足を引っ張った私を助けてくれた。その上、命まで助けてくれた。自分を犠牲にして……」

 

「彩那ちゃん……」

 

 それは違うよ、となのはは言おうとした。

 だが、肩を震わせて俯いた表情で涙を流す彩那に、それを口にする事が出来なかった。

 

「生き残る筈だったのは私じゃなかった。生き残るべきだったのは、私じゃなかったのよ……」

 

 繰り返して戒めるように彩那はそう呟いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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