世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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番外編1ー2:お食事会【後】

「日本のバームクーヘンは本場ドイツの物とは別物らしいわよ」

 

「うん。なんで餃子の皮を作りながらバームクーヘンの話をしとるん?」

 

「特に理由はないけど? それとコレは餃子じゃないわよ」

 

「そぉか?」

 

 そんな風に意味のない会話をしながら2人は互いに自分の料理を作る。

 リインフォース・ツヴァイの発案で始まった食事会の準備の真っ最中である。

 

「果物を潰して塩揉みした物をチーズと一緒に皮に包んで揚げるのよ。ホーランドでは定番のオヤツね」

 

「おぉ。彩那ちゃんのホーランド料理も久々やな」

 

 偶に彩那はホーランドやその世界にあった料理を作ってくれる事がある。

 後でレシピを教えてもらう約束をしながら料理を続ける。

 そこで普通の子供サイズになったリインフォース・ツヴァイが大きな銀のトレイを持って近付く。

 

「はやてちゃん! ハンバーグのタネ、終わったですよー!」

 

「おぉっ! 早いなぁ、リイン。偉いでぇ」

 

 煮込み料理を作っていたはやてがツヴァイの頭を撫でるとえへへっと気持ち良さそうに目を細める。

 そんな八神家の末っ子の様子に癒やされていると、彩那が揚げ物をし始めると同時にリインフォース・アインスがはやてに指示を求める。

 

「主。サラダとおにぎりの方は終わりました。次は何をしましょう?」

 

「それじゃあ、リインに煮込みハンバーグの作り方を教えてあげて。リイン、アインスの言う事をちゃんと聞くんやで?」

 

「分かりましたです! 八神部隊長!」

 

 ビシッと敬礼するツヴァイにはやては腕を組んでウンウンと頷く。

 しかし、敬礼を解くと、このキッチンで異様な雰囲気を醸し出している場所を不安そうに指差す。

 

「はやてちゃん。そろそろフェイトさんを止めなくて良いんですか?」

 

「ん? えぇんちゃう? 作業が捗っとるのは事実やし」

 

 そこには無駄に気合の入ったフェイトが凄い勢いで料理を作っていた。

 

「エリオはいっぱい食べるからもっと用意しないと。キャロは普通だけど訓練後ならお腹空いてるよね? アレも作らなきゃ! コレも作らなきゃ! それで栄養バランスも考えて……ああああっ!? 時間が足りないよぉ!」

 

 ここ最近、捜査ばかりでエリオやキャロとはあまり触れ合えてなかったフェイトが2人の為に一生懸命料理をしている。

 その種類たるや、幾つもの和洋中の料理を同時に作っていた。

 

「昨日の内に下拵えが済んでいたとはいえ、相変わらず2人の事になると爆発力が凄いわね」

 

「ちょっと違うで、彩那ちゃん。なのはちゃんも込みや」

 

「あぁ、そうね」

 

 フェイトの中で、今回の主役であるティアナとスバルの優先度が下がっているのを確信しつつ、彩那はパスタを茹でている間にソースを作る。

 はやても次の料理に取りかかった。

 そこでツヴァイが不安そうに呟く。

 

「ティアナとスバルは大丈夫でしょうか?」

 

「さぁ? でもここまでお膳立てしてもまだ、自分のやり方だけに拘るなら、それ相応の処遇を覚悟してもらわないと」

 

 冷たい彩那の言葉にツヴァイがビクッと肩が跳ねた。

 それにアインスの方がフォローする。

 

「気にするな、ツヴァイ。綾瀬は高町の事を信頼しているから突き放すような言い方をしているだけだ」

 

「せやで。なのはちゃんなら意固地になってるティアナの心を解してくれる思うからここで料理してるんや。そうやなかったらとっくに別の方法で解決しとるよ」

 

 この主従からの信頼に彩那の麺を茹で加減を見ながら息を吐く。

 

「買い被りよ。専門に任せた方が上手くいくと思ってるだけ。大体、何とか出来るのなら最初からしてるわよ」

 

 彩那の返答にはやてが、え〜、とニヤニヤと笑う。

 

「でも、彩那ちゃんが勝手に解決したらなのはちゃんは自信が揺らいで傷付くやろ? それに直接の上司であるなのはちゃんより彩那ちゃんを信頼されるのも上手くない。だからどんな形にせよ、なのは隊長がティアナの心を解す形で事を収めたかった。違うか?」

 

 はやての推測に彩那は麺を茹でている鍋の火を止めてから話す。

 

「ついでにここで私が手を出し過ぎると、高町さんの教導官としての評価に響くのよ。1人で解決する必要は無いけど、最終的に教官である高町さんに何とかしてもらわないと」

 

 今回のような少ない人数を集中的にする教導は初めてなのだ。全てが上手くいかないのは当たり前。

 帳尻合わせに周りの手を借りるのも間違ってないが、なのは自身も生徒と向き合って解決しなければ意味がないのだ。

 

「要するに、高町さんの生徒なんだから、貴女が面倒見なさいって事よ。必要以上に口出しすべきじゃないわ」

 

「あははは! 彩那ちゃんはスパルタやなぁ!」

 

 だがその言葉が信頼の上で成り立っている事を知っている。

 着々と料理が仕上げながら彩那はティアナに関して話す。

 

「そもそも色々とズレてるのよね、今のあの子は」

 

「と、言うと?」

 

「執務官を目指してるなら、現役にテスタロッサさんが居るのだから、本人にアドバイスをもらうなり、勉強を見てもらうなり出来るでしょう。テスタロッサさんも頼まれれば断らないでしょう?」

 

 突然話を振られてフェイトが正気()に戻って答える。

 

「うん。ティアナが執務官希望って聞いてたから、もしも試験に関して質問されたり、勉強を見てほしいってお願いされたら時間を作るつもりだったよ。それに、これからの評価次第だけど、六課解散後は執務官補佐としてスカウトする気だったし」

 

 フェイトにはシャリオ・フィニーノ一等陸士という補佐は居るが、彼女は事務関係専門だ。

 一緒に現場に出られる補佐も探していて、ティアナさえ良ければスカウトするつもりだった。

 

「捜査で忙しかったテスタロッサさんに気を使ったにしても、執務官になるつもりなら、チャンスを活かせる行動力がないと難しい。戦闘に関しても、せっかく教導官がいるのだから、意見を訊けばいい。先日フレンドリーファイアしかけたばかりなのに、どうして失敗した時の事を考えないのかしら?」

 

 それだけならティアナが勝手に暴走して自滅した、で済む話だが、六課の立場上、それだけでは済まない。

 かなり強引に人員の引き抜きと部隊の設立をした六課は、地上部隊からの印象があまり良くない。

 対AMFの新人教育も仕事の内容に組み込まれている以上、簡単に放り出す訳にもいかない。

 ティアナ自身は紛れもなく真面目で優秀であり、向上心もある。生徒としては理想的な人物だ。

 そんな局員を教導出来ませんでした、とあっては、高町なのはの教導資質を疑われる事になるだろう。

 そして、それを理由に地上本部から色々な横槍が入り、活動を制限される可能性もある。

 

「今更やけど、ティアナ1人の為に今回のパーティーはちょっと大袈裟やない?」

 

「私も思った。彩那らしくないっていうか」

 

 大事な時期とはいえ、1人の隊員の為に優遇し過ぎている。

 いつもなら、その場で解決すれば、口出ししないのに。

 ツヴァイの案とはいえ、ちょっとらしくないと2人は思っていた。

 

「……久しぶりに八神さんの手料理が食べたくなったからって言ったら信じるかしら?」

 

「それは嬉しいけど、騙されんよ」

 

 そんな個人的な理由で態々パーティーをする許可など出さないだろう。

 じーっと見つめられて彩那は小さく息を吐く。

 

「昨日の夜、ランスター二士とナカジマ二士を説得してて思ったのよね。私、2人を本気でどうにかしようと思う熱意も愛着もないんだなって」

 

「えぇっ!?」

 

 彩那のカミングアウトにツヴァイが両手を上げて驚く。

 昨日理詰めで2人を止めようとしたが、2人への関心の無さに彩那自身がビックリした。

 

「上司として忠告や警告はするわ。仕事だもの。でも、なにがなんでも2人の無茶を止めたい、とか。今後の心配とかどうでもいいのよね。私個人としては」

 

 なのは達と違って身内というか、味方に対して無条件に親身に接する訳では無い。

 それは彼女が薄情なのではなく、彩那の中で親密さが一定のラインを越えないと本当の意味で身内とは判断しないからだ。

 

「だから、高町さんに任せた面もあるのよ。私みたいに立場だけで接する人間より、親身になってくれる人の方があの子達には合ってるでしょうし」

 

 言葉だけではどれだけ理屈の上で正しくても納得しないだろう。

 彩那自身、そこまでの情熱はない。

 心が伴ってなければ、どれだけ言葉を尽くしてもきっと届かないだろう。

 

「それとこのパーティーに何の関係が?」

 

 アインスの質問に彩那がうん、と頷く。

 

「コミュニケーション不足はスターズだけの問題じゃないって事よ」

 

「どういうことですか?」

 

「この部隊って上は私達昔馴染みで固めてるけど、下はそうじゃないでしょう? ライトニングの2人もそうだし。この部隊で初対面の人も多いわ。何より、前線の隊と後衛もあまり話さないじゃない」

 

 デバイスの調整を請け負っているシャリオ・フィニーノなどを除いて、前後の部隊の人間でグループ分けされて交流が少ないと彩那は感じていた。

 

「もう六課(ここ)での業務にも慣れてきて、余裕が出てきた頃合いよ。そろそろ隊全体で親睦を深めるのも悪くないわ。六課解散後は、それが大事な人脈(パイプ)に繋がるでしょうしね」

 

 まだ自分の仕事に精一杯で人脈づくりにまで気が回らない者には良い機会だろうと思う。

 これから仕事の危険度も増す可能性が高く、時間が取れる時にお互いを知っておく事も必要だろう。

 

 彩那の説明にツヴァイが感心する。

 

「そこまで考えてたんですか?」

 

「ツヴァイ曹長も、今日は色んな隊員から話を聞きなさい。階級はともかく、貴女が1番経験不足なんだから」

 

「はいです!」

 

 向けられた彩那の言葉にツヴァイが気持ちのいいくらい元気良く返事する。

 はやてが彩那の背中をバシバシと叩いた。

 

「いやー、流石は✕✕歳! 頼りになるわぁ!」

 

「え? それ今言っちゃうの、はやて!」

 

「……まぁ、別にそれくらいでは怒らないけど。年齢云々を持ち出したら、八神さんの家族は相当なものだと思うのだけれど?」

 

 彩那がアインスに視線を向けると本人は苦笑して誤魔化し、はやては肩をすくめた。

 

「ウチの子らの人生経験は偏っとるから仕方ないやろ?」

 

 そんな風に、和やかな雰囲気で料理が完成していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛い目をみた、ですか……」

 

「うん。私の教導官としての失敗談かな?」

 

「なのはさん?」

 

 なのはは笑みを浮かべでいるが、そこには明らかな哀しみが浮かんでいる。

 

「管理局に入局して私が戦技教導官を目指したのは、私が戦技を教える事で、危険な任務に就いても皆が無事に帰って来られるようにって思ったから」

 

 なのはの実力なら、武装局員として一緒に任務を行う仲間を守れただろう。

 だが、それはあくまでも共に任務をこなす者達に限られる。

 それよりも、局員1人1人の実力を底上げした方が、より多くの局員を守れる。

 なにより、技術を教えて成長する教え子をみたいと思ったからだ。

 

「でもやっぱり最初は上手くいかなかったよ。先輩の補佐として教導に参加したけど、あまり真面目に私の話を聞いてくれなかったからね」

 

 話を聞いてくれない、というなのはの言葉にフォワードメンバーは驚く。

 エースオブエースと呼ばれるなのはの教導を真面目に受けない局員が居るなんて、と感じたのだ。

 しかしそれは近年のなのはしか知らない者の感性である。

 

「戦技教導って、素人を基礎から鍛えるんじゃなくて、ある程度経験のある局員が、より上の技術を学ぶ為の場だからね。その時の生徒は私よりも皆歳上で、管理局の歴が長い人達ばかりだったから。子供の私から技術を教わるのに抵抗のある人も多かったんだよ」

 

 高町なのはは当時から局内で有名だったが、一方でその功績に疑問視する者も少なくなかった。

 ジュエルシード事件と闇の書事件。

 まだ10にもなっていない小娘が、そんな大きな事件解決に多大な貢献をしたなどと、誰が信じられるのか。

 

「当時は、どうしたら私の話をちゃんと聞いてくれるのか、結構真剣に悩んでたなぁ。でもそんな中で、私の教導を真面目に聞いてくれる人が居たんだよ」

 

 苦い記憶を掘り起こして話すなのは。

 

「年齢は当時の私よりも少し上くらいで歳が近かった事や、魔導師としての戦闘スタイルが似ていた事。同性だったのもあって、話しやすかったのもあってね。スゴく真面目に私の教えを受けてくれたの」

 

 他の人が真面目に取り合わない中で確りと話を聞いてくれる生徒。

 なのはがその局員の指導に熱を上げるのは当然の流れだった。

 

「私が子供の頃にしてた訓練とか色々とアドバイスしたよ。でもね、今思い返すと中途半端だったんだ」

 

 当時のなのははまだ地球の学生であり、任務で飛び回っている事も多かった。

 その人物に付きっきりでいられる訳がない。

 子供の頃になのはがやっていたリンカーコアに負荷をかけたり、イメージによる模擬戦。

 子供とは思えない密度の訓練は確実になのはの魔導師としての実力を向上させたが、それはあくまでもレイジングハートという優れたインテリジェンスデバイスを有して初めて成立する。

 

「その人は私が教えた訓練を試して、魔導師としての実力を伸ばしていったの。それに浮かれたみたいで」

 

 強くなっていく実感を欲しさに、訓練にのめり込んでいった。

 それこそ、休息も忘れてただひたすらに訓練を続ければ強くなれると信じて。

 

「ある日、訓練の終了間近に緊張の糸が切れたらしくて意識が曖昧になった結果、事故が起きて大怪我を負ったの」

 

「!?」

 

 静かに話すなのはに聞いていたフォワードメンバーは驚きの表情になる。

 

「休むのを疎かにして無茶な訓練を続けたのが原因だね。続いてた集中力が切れて訓練中に事故を起こしたの」

 

 ティアナの息を呑む雰囲気を察したが、敢えて彼女個人ではなく、4人に視線を当てる。

 

「幸いなのは、その事故に巻き込まれた人が居なかった事かな。これが実戦だったら大問題になってたよ」

 

 なのは自身、その訓練で教え子、と呼んでいいのかは微妙なところだが、その人が墜ちて心臓が止まりそうな程のショックを受けたのは事実だ。

 そこでティアナが恐る恐る質問する。

 

「それで……その人は……?」

 

「うん。命に別状は無かったし、日常生活を送る分には問題無かったけど、武装局員としてやっていくのは難しいって。リハビリを続ければ復帰出来るかもしれなかったけど、魔導師として技術の伸び代が1番ある時期は完全に逃すからね。他にも色々と理由があって局を辞めたよ」

 

 たった1度の失敗で管理局を去っていく。

 それは、未来に希望が溢れている子供達にとって恐ろしい想像である。

 

「お見舞いに行った時は遠回しに非難されたよ。どうしてもっとちゃんと教えなかったんだって。局員としては罰せられる事はなかったけどね」

 

 なのはがやったのはあくまでもアドバイスの範囲であり、その訓練を課した訳ではないし、本人の力量は間違いなく上がっていた。

 問題は、自身の限界を考えない訓練量なのだ。

 少なくとも管理局はそう判断した。

 しかし、なのはの中ではそうではない。

 

「人に物を教えるって。その人の人生の一部に責任を負うって事なんだって思ったよ。少なくとも、私の生徒で居る内は。だから半端な事をしちゃ駄目なんだって」

 

 事故を起こした責任の一端は間違いなく自分にあるとなのはは言う。

 自分がその人の局員としての人生を滅茶苦茶にしたのだと。

 そこでなのははティアナに目を合わせると、彼女は無意識に体を小さくした。

 

「強くなる為に無理をするのは必要だよ。私自身、そうして強くなっていったのは否定できないしね」

 

 だけど、彼女には頼れる愛機(デバイス)と、本当に無理をしている時には力づくで止めてくれる友達がいた。

 

「だけど、無理を重ねるっていうのは、体にしろ心にしろ苦痛を与え続ける行為なんだよ。限界の見極めを間違えたら、必ず取り返しのつかない事になる」

 

 そして、自分の限界というのは、意外にも判断しづらい。

 まだ余裕なのに無理だと思う人も居れば、限界に達してもまだ、と無理を重ねてしまう人も居る。

 

「だから私は、自分の教え子には先ず壊さない、壊れない教導をしたいと思ってます。訓練は勿論、どんな任務でも無事に帰って来られるように。長くこの仕事を続けられるように。少し遠回りに思えるかもしれないし、地味な訓練で強くなっている実感は得にくいかもしれません。だけど、必ず成長させると約束します。もう、あんな想いはしたくないからね。ティアナ」

 

「は、はい!」

 

 名前を呼ばれて思わず姿勢を正す。

 だが、なのははティアナを叱責せずに優しい目で微笑む。

 

「もしも私の訓練に不満があるなら、言ってくれれば考えるから。もちろん、全部に応える事は出来ないけど、なるべく希望には沿うつもりだよ。だから、今回みたいな無茶は控えてほしいね」

 

「はい……申し訳ありません」

 

 ようやくティアナは心から今回の件を詫びる。

 なのはの話を聞いて、自分が壊れる可能性に恐怖を覚えたのと、なのはが自分の将来を考えて真剣に指導をしてくれていた事を実感したからだ。

 

 話が一段落した事でなのはが別の話をする。

 

「それじゃあ、ティアナ。後で綾瀬副部隊長に謝りに行こうか。ケジメとして」

 

「へ?」

 

 何故そこで副部隊長への謝罪という話になるのか。

 首を傾げるティアナにヴィータが息を吐く。

 

「オメー昨日、副部隊長に言っただろうが。“なにも失敗したことのない。失ったことのない貴女に、凡人の私の気持ちなんて理解できない”ってな。アレ、かなり問題のある発言だからな」

 

「……──―っ!?」

 

 数秒かけて自分が言ったことを思い出して羞恥からティアナは顔を真っ赤にさせる。

 それを聞いたエリオとキャロは、え? そんなこと言ったんですか? という顔でティアナを見ている。

 上司に向かってあの発言はない。

 アレこそ自分が冷静さを失っていた証拠だと頭を抱えたい気分だった。

 

「まぁ、なんだ。副部隊長も別に気にしてねぇと思うぞ。キレてんならアタシらが全力で止めねぇとだし」

 

 ヴィータの言葉になのはも苦笑いをしつつ肯定する。

 

「そうだね。だけどティアナ。綾瀬副部隊長は大切な人を失う悲しみや痛みを誰よりも知ってる人だよ。だから形だけじゃなくて真面目に謝ってほしいかな?」

 

 なのはの要望にスバルがおずおずと手を挙げる。

 

「それってどういう……」

 

「こういうお仕事だからね。長く勤めれば、それだけ失敗や辛い思いもしてきたってこと」

 

 妹を狙撃で誤射した事で自信を失くし、武装局員から身を引いたヴァイス。

 血の繋がった母を失ったフェイト。

 それにエリオやキャロも。

 管理局に所属をしているかはともかく、生きていれば何かを失ったり、失敗する経験は大小問わず付くものだ。

 

 ──―私は、生きていてもいいのかな? 

 

 自分が生きていてもいいのか。それすら自信が持てなくなるくらいに心に傷を負った優しい人。

 あの時の哀しみに満ちた声は今もなのはの耳に残っている。

 それから場を和ませる為の冗談なのか。それとも脅しなのか判らない事をヴィータが言う。

 

「ちなみにアタシは昔、副部隊長に爆殺されかけた事がある。下手に怒らせて殺されんなよ?」

 

「え?」

 

 勿論教え子達は引いていたが。

 はやてから念話が届いたなのはが手を叩く。

 

「それじゃあ、訓練はここまでにして、着替えようか。会場の準備も整ったみたいだし」

 

「会場、ですか?」

 

「うん。今日は特別。部隊長達が美味しい食事を用意してくれてるからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆も、そろそろ六課の業務に慣れてきた頃やと思って、この親睦会を計画しました。今日は前も後も関係なく、交流を行い、六課が解散した後も交流が続いてほしいと思ってます』

 

 そんな部隊長の挨拶からパーティーは始まった。

 パーティーが始まってしまえば各々で立食形式の料理を取り、食事を楽しみだす。

 

「わぁ! このパスタ! 今まで食べたことないけどおいし〜!」

 

 自分の皿に盛り付けたパスタを満足そうに食べている。

 

「はい! 最初はピリッとして辛かったけど、噛んでると癖になりますね!」

 

「う。わたしにはちょっとこの辛さは苦手かも」

 

 エリオも絶賛するが、キャロには少し苦手な辛さらしい。

 そこでフェイトが近付く。

 

「ならキャロ。こっちを食べてみて。私が作ったんだよ」

 

「あ。はい。こっちの方がわたしは好きです」

 

「エリオも食べて見て」

 

「はい! でも僕達だけじゃなくてフェイトさんも食べてください」

 

 フェイトは子供達との触れ合いが海鳴以来であり、嬉しそうだ。

 

 手当たり次第料理を載せているスバルが手を止めているティアナに話しかける。

 

「どうしたの、ティア? 早くしないと無くなっちゃうよ?」

 

「その原因の大半がアンタだけどね。ちょっと食べたことのない料理がチラホラあるから驚いて」

 

 ティアナが今食べている揚げ物は中身が肉類かと思ったら果物で、美味しいが驚いた。

 

「それ、綾瀬副部隊長が作ったやつや」

 

 突然話に入ってきたはやてに2人はビックリした。

 

「これ、綾瀬副部隊長がつくったんですか! 食べたことのない料理ですけど美味しいです」

 

「うん。今回はわたしやリイン姉妹。フェイト隊長や綾瀬副部隊長とか。アイナ寮長も。とにかく沢山作ったから遠慮せんで食べてな」

 

「はい!」

 

 胃袋を掴まれたスバルが嬉しそうに返事する。

 はやては近くのテーブルに置かれてる料理を盛って食べる。

 

「あの、八神部隊長。綾瀬副部隊長が何処に居るか知りませんか? 見当たらないんですけど」

 

「綾瀬副部隊長なら、ちょっと古巣の方から連絡が来て、その対応にな。すぐに戻ると思うよ?」

 

「そう、ですか……」

 

 昨日の件で謝罪しようと思ったのだが、タイミングが悪かったらしい。

 

「なんの話かはともかく、そんなガチガチに緊張しとったら、お話するの大変やない?」

 

「う! ……分かってます」

 

 だが、昨日の失礼な態度を思い返してどうしても尻込みしてしまうのだ。

 その様子にはやては仕方ないなぁ、と苦笑する。

 

「ならわたしが耳寄りな情報を教えたるよ? 彩那ちゃんは実は──―」

 

「その先を口にしたら、八神部隊長。貴女の恥ずかしい過去をマスコミに流すわよ?」

 

「……ごめんな。やっぱり言えん」

 

 突然現れた彩那がそう囁くと、はやては滝のような汗を流して言おうとした事を止めた。

 

(え? え? 八神部隊長はなにを言おうとしたの!? それに恥ずかしい過去って?)

 

(ア、アタシが知る訳ないでしょっ!?)

 

 恐怖するスターズの2人。

 彩那はティアナに視線を向ける。

 

「それで? ランスター二士は私に話があるそうだけど? 外で話した方がいい?」

 

「は、はい。その方が」

 

 パーティーの場で謝罪すると場の空気を壊してしまうかもしれない。

 なにより、大勢の前で頭を下げるより、2人っきりの方が気分的に楽だった。

 

 会場を出て少し歩くと、彩那が手の平で何度か掴むような動作をして解放するように広げると、2人を包むように青い光の壁が現れる。

 

「音を外に漏らさないだけの結界よ。勝手に追ってきて盗み聞きしそうな人が何人か居そうだし。プライバシーの観点からね」

 

 彩那の勘は正解であり、曲がり角で数人が2人を見守っていた。

 

「それで話って?」

 

「その……すみませんでした! 昨日は本当に!」

 

 頭を下げるティアナに彩那はうん、と頷く。

 

「分かりました。ランスター二士の謝罪を受け入れましょう」

 

 あまりにもアッサリと赦されてティアナは呆けた表情になる。

 不思議そうにしているティアナに彩那は肩をすくめた。

 

「元々そんなに気にしてないのだし、貴女からの謝罪があったならケジメとしては充分でしょう。でも気をつけなさい。ここは色々と特殊だからそれで済んだだけで、他所で昨日みたいな事を口にしたら、人間関係が最悪になって、仕事が出来なくなるわよ」

 

 顔に巻かれた包帯の奥にある表情は一切揺らがず、感情がまったく読めない。

 そこで思い出した様子で彩那はティアナに助言する。

 

「そういえば昨日、私が特別だと言ったけど。それが必ずしもプラスとは限らないのよ。むしろ、強くなる上でデメリットも多いと思うわ」

 

「デメリット、ですか?」

 

「そう。たとえば、ミッド式は使い手が多いでしょう? だからその分、参考に出来る資料や相談出来る人も多いという事よ。逆にホーランド式は使い手が少ない。というか、管理局では私以外の使い手はいない筈だから、なにをするにも1から自分で試行錯誤する必要があるわ」

 

 なんせ、普通は当然の機能として使える筈の非殺傷設定すらなく、搭載には時間と労力をかけたのだから。

 

「執務官を目指すなら、自分と周囲の“差”よりも“違い”を意識なさい。そうでなければ、局員として長続きしないわよ」

 

 他人の自分より優れた部分を羨ましがって、コンプレックスを発症させてばかりでは、さぞや生きづらいだろう。

 それに執務官になる事もゴールではない。

 そこから執務官で在り続ける為に実績を積み上げていく事が必要なのだ。

 

「少し前にある人に言ったけど、焦りと自棄で力を求めても碌な結果にならないわよ」

 

「……はい」

 

(こんなものかしら?)

 

 ティアナの様子からもう大丈夫だろうと判断し、手を軽く叩いて結界を消す。

 

「それじゃあ会場に戻りましょう。お節介な人達の対応は任せるわね」

 

 曲がり角で様子を伺ってる者達を指差す彩那。

 それに気付いて向こうは、げっ、と表情を引きつらせるが、バレないとでも思っていたのだろうかと少し心配になる。

 ただ、その中になのは達が居ないのが少し意外だった。

 隠れている他のフォワードとシャーリィの相手を任せて彩那は会場に戻る。

 

「お。戻ってきた。彩那ちゃんの分は確保しといたよぉ」

 

「ありがとう」

 

 料理を盛り付けた皿を渡される彩那は礼を言う。

 リインフォース姉妹が作ったミニハンバーグを食べつつなのは達を見る。

 

「どうしたの、彩那ちゃん」

 

「いえ。貴女達が様子を見に来なかったのがちょっと意外だったから」

 

「まぁ、彩那ちゃんなら上手くやってくれると思ったし?」

 

「うん彩那がこれ以上ティアナを追い詰めるとは思わないからね」

 

「……信用されてて嬉しいわ」

 

「いややわぁ。信頼って言うてほしいで?」

 

「そうね」

 

 はやての言葉を適当に流す。

 なのはが彩那に話しかける。

 

「彩那ちゃん、覚えてる? 私が教導で失敗してしばらく落ち込んでた時に言ってくれたこと」

 

「私、なにか言ったかしら?」

 

「ひどいなーっ!? 私、彩那ちゃんの言葉でまた戦技教導に戻ろうって思えたんだよ!」

 

 軽く拗ねるような仕草をするなのは。

 皆に話したあの件。

 その後、なのははしばらく誰かに物を教えるのが怖くなり、教導の研修や仕事から遠ざかっていた。

 代わりに新装備のテストや、ヴィータやフェイトなどと各世界を飛び回っていた。

 そんなある日に彩那から言われたのだ。

 

『それで、高町さんは大きな失敗をするたびに、別の場所に逃げるつもりなのかしら?』

 

 責めたり、失望する響きはなく、学校の部活動を辞めるのか、と訊くような感じだったと思う。

 

『高町さんの中で諦めがついたのなら、私からはなにも言う気は無いけど、それでいいの?』

 

 皆が気を使ってその話題に触れない中で1人切り込んできた。

 

『失敗して臆病になるのは分かるけど、その経験があるから活かせる事もあると思う。少なくとも、管理局は貴女の再起を望んでいるのでしょう? ここで辞めてしまうのは勿体ないわ』

 

 あれ以上教導から遠ざかると、また1から再研修しなければいけなくなるギリギリだった。

 もしかしたら彩那自身も誰かに頼まれていたあの話をしたのかもしれないが。

 それからなのはは再び教導の仕事に携わるようになった。

 先輩達は喜んでくれたし、何も知らない外野はなのはの訓練を受ける事に忌避感を覚えていたが、それも彼女が実績を積んでいく事で消えていった。

 

「ありがとう、私がここで最高の教え子の教官になれたのは、あの時の彩那ちゃんのおかげだよ」

 

 だけど、いつまでも彼女に甘えている訳にもいかない。自分ももう、守られている立場ではないのだから。

 そこで、ティアナ達が会場に戻って来た。

 

「あの子達は私が責任を持って育てるからね。心配しないで」

 

「そう願うわ」

 

「うん!」

 

 手を繋いでいたわけでもないのに、親の手から離れるような感覚をなのはは自覚する。

 少しの淋しさと嬉しさを胸になのはは戻ってきた教え子達のところへ歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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