世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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GOD編開始。


綾瀬彩那の敗北

 空間シミュレーター内の模擬戦で彩那は自身の不利を悟っていた。

 

(この状況は流石にマズいわね……)

 

 冷静に襲いかかってくる桃色の誘導弾を回避しているが、徐々に追い詰められつつある。

 

(短期訓練のメニューを終えて、何か掴んだのかしら? これまでよりやり難い)

 

 今日の対戦相手であるなのはとフェイトの成長に戦慄を覚えつつ彩那は回避に徹する。

 今の彩那はAAランクの魔力出力で模擬戦をしている。

 少し前までは2人を相手にAランクの魔力出力でやりくりしていたが、流石に勝ち逃げするのが難しくなった為に少しだけリミッターを緩めているのだ。

 なのはの誘導弾から逃げ切るとフェイトがバルディッシュを振るってくる。

 

「やぁっ!」

 

 気合と共に振るわれたバルディッシュを聖剣で受け止めると、すぐに距離を取り、再度突っ込んできた。

 

(ヒット&アウェイの判断が良くなったわね)

 

 こちらが鍔迫り合いを誘うと律儀に付き合ってくれる事が多かったが、今日は1度攻撃を行うと即座に退いてしまう。

 速度ではフェイトの方が上なので、これでは捉えるのが難しい。

 

(となると……)

 

 数回フェイトの攻撃を受けてタイミングを覚える。

 ここだ、というタイミングを見計らい、バルディッシュに聖剣を引っ掛けて動きを止める。

 

「なっ!?」

 

 驚きで動きが硬直したフェイトに、右手に用意していた霊剣を出して振るおうとした。

 そこで、違和感に気付く。

 

(あ。これは駄目だわ)

 

 振るわれようとした霊剣を止めて蹴りに切り替える。

 だが、急遽動きを変えた事で、その隙にフェイトには逃げられてしまった。

 

(この模擬戦で霊剣は使わない方が良さそうね)

 

 そう判断して霊剣を仕舞う。

 向こうの作戦としては、フェイトが彩那の注意を引き付け、攻撃力のあるなのはで撃墜する算段なのだろうが。

 

「ちっ!」

 

 上からなのはの射撃魔法の雨が襲う。

 シールドを展開して防ぎつつ、安全圏まで逃げようとするが、フェイトの方もハーケンセイバーを放って来た。

 不規則な軌道で向かってくる斬撃は直線的な射撃や砲撃魔法よりも避け難い。

 迎撃にも間に合わないと判断してハーケンセイバーの方にもシールドを展開し、接触と同時に爆発させ、その反動と爆煙を利用してなのはの攻撃範囲から脱出する。

 しかし、甘かった。

 

「ハァッ!!」

 

 体勢を整える前に、フェイトが接近してバルディッシュを横に振るう。

 遠心力を利かせたフェイトの攻撃にバランスを崩した状態の彩那では勝負にならず、なんとか聖剣で受け止めたものの、そのままフェイトに力任せに弾き飛ばされた。

 

「しまっ!?」

 

 設置型のバインドに捕まり、桜色の魔力に拘束される彩那。

 すぐに解除しようとするが、その上で金色のバインドが追加される。

 

(これは完全に詰んだわね……)

 

 冷静な部分がそう判断すると、フェイトがなのはに向けて叫ぶ。

 

「なのはっ! あとはお願い!」

 

「任せてフェイトちゃん! ディバイィン……」

 

 デバイスに溜め込んだ魔力が解放される。

 その照準の先には確かに彩那を捉えていた。

 

「バスタァーッ!!」

 

 桜色の魔力が容赦なく彩那の全身を包んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

『WINNER』

 

『やったぁっ!!』

 

 デバイスからの勝利宣言を受けてなのはとフェイトが互いの手を合わせて大喜びする。

 そこでエイミィから通信が入った。

 

『やったねー! 2人共に。彩那ちゃんの方は大丈夫?』

 

「問題ありません。もう起き上がれます」

 

 倒れていた彩那が上半身を起こすと、エイミィがさすが、と頷く。

 

『それじゃあ、ゲートを開くから、帰ってきて!』

 

 転移用の魔法陣が出現し、アースラに戻ると、そこには友人であるはやて、アリサ、すずかの3人と、その後ろにははやてのかぞくである騎士達が出迎えてくれた。

 

「3人ともお疲れさま。すごかったよ」

 

「毎回思うけど、完璧に現実離れしてるわね」

 

 すずかとアリサが戻って来た3人を労う。

 

「彩那ちゃんも惜しかったなぁ」

 

「いいえ。2人の成長は私の予想を完全に上回っていたわ。この間受けたっていう短期訓練で何かあった?」

 

 視線をなのはとフェイトに向けると、嬉しそうに話してくる。

 

「うん! 短期メニューで指導してくれた人が、AAランクの魔導師なのにわたしとフェイトちゃんの2人がかりでも全然勝てなかったの!」

 

「その訓練の後に、問題を出されたんだ。自分より強い人に勝つには、相手より強くならなきゃいけない。その矛盾に対する答えをね」

 

 なるほど、と頷く彩那とは対照的にアリサが首を傾げる。

 

「なにそれ?」

 

「その問題を出された後に模擬戦の映像を何回も確認して気付いたんだけど、その人は、わたし達の得意な戦い方を全然させてくれないの」

 

 なのはの説明を聞いてすずかが、意見する。

 

「つまり、自分に有利な状況を作るってことかな?」

 

「それも正解。だけど、向こうの方が経験が圧倒的に上だから、そう簡単にいかなくて」

 

「だからね。とにかく自分が1番得意なことだけに徹してみようって思ったの」

 

 自分に有利な状況を作るにはそれなりに経験がいる。向こうの方がその経験値が上なのだから、尚更難しい。

 ならもっとシンプルに。自分が1番得意な事に集中したらどうかと2人は考えたのだ。

 

「私は速さが1番自信があるから、今回はとにかくアヤナに捕まらないようにスピードで撹乱しようと思って」

 

「わたしの砲撃魔法の威力なら、ランクを落としてる彩那ちゃんの防御を絶対に突破出来るって思ったから。後は動きを止める為にフェイトちゃんと2人でバインドで捕まえることに集中してたんだよ」

 

「要するに、自分の得意分野で攻めて、彩那ちゃんに勝とうとしたわけやね。勉強になるなぁ」

 

「まだ総合力だとどうしてもアヤナに勝てないからね。でもこれならって部分でやってみた」

 

「ちょっと賭けの部分もあったけど、彩那ちゃんに勝つにはこれしかないと思ったの。それにフェイトちゃんとなら、お互いの弱点を補い合えるから」

 

 今回の模擬戦に関して自分達の作戦を語る2人。

 それが一段落すると、リインフォースが彩那に話しかける。

 

「ところで綾瀬。今回搭載した非殺傷設定の術式はどうだ?」

 

「駄目ね。実戦じゃあ、使い物にならないわ」

 

 肩をすくめてそう返す。

 

「魔力の供給率にムラがあるとすぐに殺傷設定に切り換わってしまうのよ」

 

 今回の模擬戦の目的はコレである。

 ここ数ヶ月、彩那のデバイスに非殺傷設定の機能を追加する為に頑張ったが、いまのところ難航していた。

 

「まぁ、最初の頃みたいにデバイスを起動させただけで術式が消去されるよりはいいけど、戦闘中に流す魔力を変えるだけで使えなくなるんじゃ話にならないわ。コレなら無い方がマシよ」

 

「ベルカとミッドの非殺傷設定の術式を参考にプログラムを組んでみたが、駄目か」

 

 リインフォースが次のアプローチを考える。

 彩那のデバイスに非殺傷設定を組み込む作業はユーノやアースラ局員達も手伝ってくれているが、ホーランド式との相性が悪いらしく、実戦レベルへの完成はまだ先になりそうだ。

 

「それと……」

 

 躊躇いがちに何か言おうとしたが、言葉を止めてしまう。

 

「どうした? 正直な意見を言ってもらわないとこちらが困る」

 

「えぇ。純粋魔力による攻撃はまだしも、直接斬りつける時の感覚は馴染まないなって思ったのよ」

 

 剣というのは斬れてこそ。

 斬り捨てるつもりで振るった筈なのに、与えるのは痛みだけという感覚には未だに違和感が大きい。

 ずっと戦場で敵を斬り捨ててきた彩那にはその感覚が不思議でならない。

 彩那の意見にシグナムが確かにな、と苦笑する。

 

「私もそれには同意だな。たまに武器として心許なく感じる。だがまぁ、慣れてゆくしかあるまい」

 

「そうね」

 

 闇の書事件が終わるまで、守護騎士達のアームドデバイスにも非殺傷設定が備わっていなかった。

 それらを扱うようになったのは、管理局に所属してからだ。

 彩那とシグナムの会話に子供達はなんとも言えない表情になる。

 なのはやフェイトからすれば、相手を必要以上に傷付けずに済む非殺傷設定はむしろ大切で頼もしく感じるが、真逆の感想を持つ2人がちょっと怖く思える。

 これは、駆け抜けて来た戦いの性質の違いだろう。

 微妙な空気になってしまった事で、彩那が話題を変える。

 

「八神さんはもう、新しい学校に馴れたかしら?」

 

「うん! すずかちゃんたちだけやなくて、クラスの皆えぇ人ばかりで助かってるし、楽しいよ」

 

「そう」

 

 安心したように彩那が息を吐く。

 学年が1つ上がったのを機に、はやてはなのは達と々学校に転校した。

 その際にクラス分けで離れてしまったが、すずかとは同じクラスだと聞いて安心した。

 

「わたしとしては、彩那ちゃんの方が心配なんやけど。また何かされてないか?」

 

 以前の状況を知るはやてからすると、今の彩那の現状の方が不安でいっぱいだ。

 

「2回も行方不明になったからか、用事がない限り生徒どころか教師も私に話しかけて来ないもの。問題なんて起きようがないわ」

 

「それが問題だって気付きなさいよ!」

 

 腫れ物扱いされている事をまったく問題にしてない彩那にアリサが頭を抱えた。

 

「う〜ん。やっぱり、彩那ちゃんも聖祥大付属(ウチ)に来ない? みんな揃えば楽しいよ」

 

「せっかくのお誘いだけど、遠慮しておくわ。別にあの学校に愛着は無いけど、未練はあるから」

 

「?」

 

 彩那の言い方に皆が首を傾げる。

 親友達と一緒に入学して通った学校。

 せめて自分だけはそこで卒業したいという感傷である。

 

「まぁ、無理強いはしないけどね。それより! これから遊びに行くんだから、彩那はその悪目立ちする包帯は外しなさい!」

 

「えぇ、そうね」

 

 去年よりも賑やかな年度の始まりに、彩那は小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が訪れた海鳴の町を高層ビルから1人の少女が見下ろしていた。

 薄いピンク色の長髪が風で揺れる。

 

「ここが、地球……」

 

 夜でも明るく照らされ、賑やかな町並みに少女は息を吐く。

 平和そのものの世界を見ると、死に近付いている自分の故郷と比べて嫉妬の気持ちが沸き上がるのだ。

 それが理不尽な怒りだと理解していながら。

 

「目的は永遠結晶の確保。先ずは夜天の主ちゃんと接触しないとね」

 

 自分を鼓舞するように言葉を発し、端末に纏めたデータを確認する。

 その中に、高町なのは。

 フェイト・テスタロッサ。

 八神はやてなどの名前と顔写真が表示されていた。

 

「そして……」

 

 おそらくは今回少女が目的を達成する為の最難関となるであろう人物に視線を移す。

 惑星エルトリアに伝えられたホーランド王国最後の勇者。

 

「綾瀬、彩那……」

 

 

 

 

 

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