世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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お試し封印

『……実は、婚約しないかと話が来たんだ』

 

 王都内にある高級料亭の個室で冬美ちゃんが相談してきた。

 その話に席を立って反応したのが渚ちゃんだった。

 

『え? えぇえええぇええっ!? 誰!! 誰と!?』

 

『あ、あぁ。第二部隊長からだけど』

 

『第二部隊長ってあの貴族の次男さん!! わぁ! 玉の輿だね!』

 

 キャーキャーと騒ぐ渚ちゃんとは対象的に、私と璃里ちゃんの反応は落ち着いた物だった。

 

『やはり2人は気付いていたのか?』

 

『そうなの!』

 

『う、うん。冬美ちゃんとあの人がいっしょに居るところをよく見かけたから』

 

 私の言葉に璃里ちゃんがコクコクと頷く。

 その反応に渚ちゃんが不満そうな顔をする。

 

『何で教えてくれなかったのさ!』

 

『色恋沙汰なんて吹聴することじゃないかなって……』

 

 璃里ちゃんの言葉に渚ちゃんが自分だけ気付かなかった事の羞恥からテーブルの食事を口に詰め込む。

 

『それでどうするの? 返事は』

 

『うん。悩んでる。この世界に来てもうかなり経つ。帰りたい気持ちは当然有るが、この国にもそれなりに愛着があるからな』

 

 戦争に巻き込まれたが、この世界での出来事全てが嫌な思い出ばかりじゃない。

 親しい友人もそれなりに出来た。

 そして地球に帰れば、2度とこの世界には来られない。

 皆で地球に帰ろうという私達との約束もある。

 だから冬美ちゃんは迷っている。

 

『ボクはどっちを選んでも応援するよ』

 

『渚……』

 

『離れ離れになるのは淋しいけど、それが冬美が本心から選んだ答えならね。どんな形であれ、幸せになってくれるのが1番だもん』

 

『ありがとう。まだ答えは出ないが、私なりに真剣に考えるつもりだ』

 

 冬美が食事を続ける。

 その後は3人で冬美ちゃんを質問責めにした。

 でも、この時は考えもしなかった。

 この1週間後に、冬美ちゃんが●んでしまうなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も高町なのはは綾瀬彩那の訓練を受けていた。

 彩那が生み出した小さな魔力の刃達を回避、もしくは撃ち落とす。

 例えばこんな風に。

 なのはは全力で上昇し、追ってくる魔力刃を集める。

 振り返ると同時に砲撃魔法を撃つ。

 

「ディバインバスター!」

 

 1ヶ所に集まっていた彩那の魔力刃は一網打尽にされる。

 しかしここで油断してはいけないと経験で知っている。

 

「そこだね!」

 

 背後から迫った彩那がなのはに聖剣を振り下ろすが、防御魔法で防ぐ。

 防がれると彩那は即座に剣を離し、一瞬で左側に移動して剣を振るう。

 そして止まることなく今度は右に。

 まるで縄が巻き付いてくるようだとなのはは思った。

 彩那の攻撃は日に日に苛烈さを増し、今もこうして防戦一方だった。

 

「ハァッ!」

 

 なのはに蹴りを見舞い、バランスを崩したところで斬りかかろうとした。

 

 ピピピピピピ。

 

 訓練終了の合図である電子音がレイジングハートから鳴る。

 その音に彩那は剣を止めた。

 

「あ、ありがとうございました~……」

 

 地面に降りたなのはは疲れた様子で大きく息を吐き出す。

 へとへとだが、2時間も休憩すれば充分に元気を取り戻すだろう。

 近くの自販機で小さいペットボトルの飲み物を購入する。

 

「スポーツドリンクで良かったら」

 

「ありがとう……」

 

 ありがたく水分補給をするなのは。

 なのはがボトルを飲み終えると彩那が話しかける。

 

「それにしてもスゴいわね、高町さん。たった数日でここまで上達するとは思わなかった」

 

「うん。どんどん上達して、僕が教えられる事もすぐに無くなりそうだよ」

 

 2人に褒められて照れるが、なのはとしてあまり実感がない。

 

「うーん。わたしとしてはいっぱいいっぱいで目を回してるんだけど」

 

「そうなるように毎日追い込んでるもの」

 

(今、サラッとスゴいこと言った……)

 

 頼んだのはなのはからなので文句はないが、当然のように言わないで欲しい。

 

「私が魔法を覚え始めた頃はこうは行かなかったわ」

 

 その台詞になのはは興味を覚える。

 

「聞いて良いかな? 彩那ちゃんがどうして魔法と関わったのか」

 

 その話題にはユーノも興味があるのか顔を上げる。

 しかし彩那は首を横に振った。

 

「ごめんなさい。あの時の事はあまり思い出したくないの。楽しかった事や嬉しかった事はそれなりにあるけど、それ以上に辛い思い出が多すぎるから」

 

 空に向かって重たい息を吐く。

 

「そっか……」

 

 だからなのはもこれ以上は訊かなかった。

 きっと、今無理に訊こうとすれば、彩那を傷付けてしまうと思って。

 彩那が傷付かずに心の内を明かして貰える方法をなのはは知らなかった。

 

「それじゃあ高町さん。何もなければ、また明日」

 

 いつも通りの別れの挨拶。

 彩那が見えなくなるとなのはも立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて無茶を……!」

 

 空を疾走しながら彩那は毒づいていた。

 ジュエルシードが在ると思われる場所に魔力をぶつけて強制的に発動させる。

 反応した数にも依るが、良くて複数のジュエルシードの発動。

 悪ければ、暴発する可能性もある。

 そうなれば、結界を敷いても表側への被害が出る可能性がある。既に隔離結界は敷かれており、その一部を切り取って中へと侵入した。

 

「彩那!」

 

「スクライア君、状況は?」

 

「うん! 分かってると思うけど、魔力を当てて無理矢理ジュエルシードを発動させたみたいだ! 今はなのはとあのフェイトって子が闘ってる! 幸い、発動したのが1個だけだったみたいだけど」

 

「そう。なら、術式が違うから出来るかどうか分からないけど、私がジュエルシードを封印してみるわ。少なくとも、魔力の暴走を抑える事くらい────」

 

「どりゃあぁあああああっ!?」

 

 そう言ってカードになっている剣に変えようとすると、雄叫びと共にオレンジ色の髪の女性が襲ってきた。

 跳んで避けると、向こうが舌打ちをする。

 

「フェイトの邪魔はさせないよ!」

 

 動物の耳と尻尾を生やした女性。

 

「使い魔か。嫌な事を思い出すわね」

 

 小さく息を吐く彩那。

 彼女が居た世界では戦争の真っ只中であり、当然その中には常軌を逸した作戦を取る勢力もあった。

 例えば、契約した使い魔の身体の中に敵に触れたら自爆するように術式が組まれ、次々と自爆特攻させられる、とかだ。

 爆発の規模は使い魔のリンカーコアによって異なり、1体の爆発で3人の兵が殺された事もある。

 と、今は関係の無い過去に浸るのを止め、聖剣を抜く。

 

「アンタが以前フェイトの邪魔をした奴かい!」

 

「アレの所有権がスクライア君に有る以上、邪魔してるのはそちらだと思うのですが……」

 

「ごちゃごちゃとウルサイんだよ!」

 

 突撃してくるフェイトの使い魔であるアルフ。

 上空ではなのはとフェイトが派手に闘り合っている光景が見えた。

 

(これ以上派手に魔力を発散させてジュエルシードを刺激したくないわね)

 

 なのはにもそう言いたいが、そうなれば即座にフェイトに撃墜されるだろう。

 力の差は歴然なのだから。

 彩那は身長差を利用しつつアルフの拳を回避に徹した。

 

「このっ!」

 

 焦れて回し蹴りを繰り出してくるが右腕で防御する体勢を取る。

 

「バウンドガード」

 

 手の甲の部分に展開された凧形の魔法陣。

 硬度ではなく、弾力で弾く。

 バランスを崩したアルフに彩那はクルリと回り、伸びたマントが相手の頭部に巻き付く。

 混乱している敵の鼻っ面に肘鉄を叩き込んだ。

 

「た~っ! このヤロッ!?」

 

 巻き付いたマントが解けると鼻を押さえて恨めしそうに彩那を見る。

 このまま大人しくなるまで叩きのめすのは時間がかかりそうだと判断してユーノに機を見て拘束するように念話で伝えようとする。

 しかしその前に事態が動いた。

 なのはとフェイトが同時に発した砲撃がジュエルシードを挟んで衝突し、影響を受けたジュエルシードの魔力が暴れ回る。

 

「ちっ!」

 

 聖剣を戻し、別の剣を取り出し、ジュエルシードへと走る彩那。

 フェイトも此方に来ているが、初動の早かった彩那の方が先に辿り着く。

 

「王剣の支配をっ!」

 

 カードが形を変える。

 それは金色で切っ先に続く刀身が筒のような円形。突撃槍を小さくしたような剣だった。

 逆手に構えた彩那がジュエルシードに王剣の切っ先が触れる。

 

(こんな魔力が暴発したら、どれだけの被害になるかっ!)

 

 自分の予想に冷や汗を掻きつつも、暴走する魔力を抑える事に全力を注ぐ。しかし荒々しい魔力の波は止まらない。

 

(仕方ない、封印を解いて――――)

 

 そう考えた直後。彩那の体がジュエルシードから弾かれた。

 

「彩那ちゃんっ!?」

 

 大きく吹き飛ばされた彩那を心配するなのはだが、本人は綺麗に着地して見せた。

 暴走していた魔力は穏やかな水面のように鎮まり返っている。

 そしてジュエルシードを手にしたのは近くに居たフェイトだった。

 だがその顔は嬉しさよりも、申し訳無さの方が目立っていた。

 

「あの……────!」

 

 一瞬何かを言おうとしていたが、止めて身を翻して空へと飛び去って行く。

 アルフも念話で指示されたのか、この場から去ってしまった。

 なのはとユーノが近づくと、彩那は剣をカードに戻す。

 

「ごめんなさい。ジュエルシードを取られてしまったわ」

 

「アレは仕方ないよ。魔力の暴走を止められただけでも良しとしないと」

 

「そう言ってくれると、ね」

 

 なのはの方は自分達の戦闘でジュエルシードの暴走を引き起こした事を気にしているようだ。

 だから、彩那はなのはの頭を撫でた。

 

「あの子とちゃんと闘えてたわね。ここ数日の特訓は無駄じゃなかったみたいで良かったわ」

 

 彩那なりに場を和ませようと発した言葉。

 

「うん……ありがとう彩那ちゃん」

 

 だからなのはも笑ってそう返した。

 

 

 

 

 

 




次回は管理局の登場回です。
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