世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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異邦人達

 その人と出会ったのは、私がまだ闇雲に強さを求めていた時だった。

 その日は、ようやく得た聖王オリヴィエの複製体(クローン)と冥府の炎王イクスヴェリアの手掛り。

 それを持っていたノーヴェさんと接触した時の事だった。

 幾つかの問答の後に、私はノーヴェさんに闘いを申し込む。

 最初は乗り気ではなかったノーヴェさんだったけど、少しの手合わせの後に防護服(バリアジャケット)を纏う。

 ノーヴェさんは強かった。

 その時の手合わせは僅かな時間だったが、一瞬でも気を抜けば私の方がやられていただろう。

 足具のデバイスによって読み難い軌道を描きながら、向かってくる。

 

「ベルカって国自体、もうとっくに終わってんだよっ!!」

 

 そう叫びながらノーヴェさんが突進してきて──―。

 

「そこまでになさい」

 

 突然、現れた女性がノーヴェさんの蹴りと私の拳をシールド魔法で防いでいた。

 その人物を見て、ノーヴェさんが顔を引きつらせた。

 

「あ、彩那さん!? なんで……!」

 

 どうやらノーヴェさんとその女性は知り合いらしく、しどろもどろになっている。

 しかし、見れば見る程に私から見ても怪しい格好の女性だった。

 髪の毛すら見せないくらいに巻かれた包帯に、管理局員の制服。

 そのあべこべさに、失礼かもしれないが、私よりもその女性の方が不審者に見えるのではないだろうか? 

 

「仕事帰りにたまたま。事件が一段落ついて、さっきまでランスター執務官と一緒にね。それよりも……」

 

 すると女性がノーヴェさんの顔を鷲掴みにした。

 

「JS事件からまだ4年。いくら管理局預かりになったとはいえ、路上喧嘩とはいい度胸ね。また隔離施設で更生カリキュラムを受けたいの?」

 

「いや、違いますって!? 突っかかってきたのは向こうで!」

 

「そう? 私には、貴女の方から攻撃したように見えたのだけれど?」

 

 確かに、接触したのは私からだが、攻撃したのはノーヴェさんの方からだった。

 

「せめて、相手から先に攻撃させて、正当防衛の言い訳が出来るくらいの頭は使いなさい! 貴女達はまだ、些細な事で局から切られても文句は言えないのよ!」

 

 それでお説教は終わったのか、掴んでいた手を外し、私の方を向く。

 

「貴女が最近ここら辺で格闘技者に喧嘩を売って回ってる子ね。そこの署まで顔を貸しなさい。今なら、事情聴取と厳重注意で済ませられるわよ?」

 

 面倒そうにこっちを見る女性。

 その時の私はノーヴェさんと私の攻撃を同時に苦も無く防いだその女性に興味を移していた。

 こちらが構えを取ると、その女性は目を細める。

 

「……やめておきなさい。なにが目的かは知らないけど、後々面倒になるだけよ。それに、向かってきたところでその拳は私には届かない」

 

 その言葉が、私のこれまでを全て否定された気がした。

 私は女性に接近して、拳を打つ。

 防護服を纏ってない人に当てるつもりはなく、寸止めをして危機感を煽るつもりだった。

 しかし私の拳が勢いに乗る前に、手の平サイズの防壁に防がれる。

 

(見たことのない魔法体系! でもっ!)

 

 関係ない、と熱くなった私はドンドン力と速度を上げるが、全て威力を殺されて受け止められてしまった。

 

「捕まえる前に訊いておくけど、何故こんな事を? 強い相手と闘いたいなら、別の道もあるでしょう?」

 

 力の押し合いになりながら私は答えを返す。

 

「弱さは、罪です。弱い王では、何も守れません」

 

「勇ましいわね。どっかの王様に聞かせてあげたいわ。でもね」

 

 苦笑しつつ、その眼は鋭く私を見る。

 

「それは、誰かを守っている人間が口にして良い言葉だわ」

 

 相手の言葉と同時に私は必殺の構えを取った。

 防御を突破する為の攻撃を。

 

「覇王──―断空拳っ!!」

 

 私の拳が女性の防壁と衝突する。

 

(打ち砕く!)

 

 その想いで全力の拳を放った。

 しかし、当たった防壁はこれまでと違い、硬いが弾力のある、ゴムタイヤでも殴ったような感触だった。

 拳の威力がそのまま返され、私は弾かれる。

 地面に転がった私はそのまま鎖型のバインドで拘束される。

 

「こんなものかしら」

 

 パンパンと手を払うと、私を担いだ。

 

「貴女にはこれから近くの署まで、事情聴取を受けてもらいます。はぁ。明日、久しぶりの休みなのに、絶対食い込むじゃない、コレ。ノーヴェ、貴方も来なさい。ギンガかチンクを呼んで」

 

「は、はい!」

 

 ビシッと背筋を伸ばすノーヴェさん。

 後で聞いた話だが、昔更生施設で女性が鞭役をしていたらしく、上下関係が叩き込まれた結果、今でも逆らえないのだとか。

 

「さて。人の休暇を台無しにしてくれた責任を取る覚悟は、当然あるのよね? お嬢さん」

 

 それが、もう少し後に私が先生と呼ぶ女性。綾瀬彩那さんとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで結界内に人がっ!?」

 

 シグナムの闇の欠片と対峙していた彩那は突然現れた2人の少女に困惑した。

 その隙を見逃す筈はなく、レヴァンティンの刃が迫る。

 

「こ、のっ!」

 

 聖剣で防ぎ、下に刃を押さえ込むと、斬り上げる。

 斬撃を避けられたが、その間に霊剣へと切り替えた。

 

(あの子達のところへ向かったら追撃で巻き込みかねない! ここで決着をつけないと!)

 

 蛇骨剣か弓か。

 突然現れた2人を庇える確実な保証が無い以上、このまま接近戦で仕留める必要がある。

 上がった剣速に、シグナムも合わせて剣速を上げる。

 この時に彩那はミスを犯した。

 最初から包帯を外さずに魔力出力に制限をかけていた事。

 見知らぬ2人の安全を気にして動きの精細さが欠いていた事。

 そして内心の焦りにより、シグナムの動きを読み間違えた事だ。

 

「ハァッ!!」

 

 気迫を剣に乗せて振るわれる。

 彩那はそれを防ぐが、2撃目に鞘による突きが胸に強打される。

 

「つっ!?」

 

 痛みで一瞬だけ顔を歪めるが、すぐに繰り出されるであろう3つ目の攻撃に意識を向ける。

 振り下ろさせるレヴァンティンの刃。

 

「ちっ!」

 

 防御の構えを取るが、間に入った金髪の女性が腕をクロスさせた上に防御魔法で防ぐ。

 

「くぁ……っ! 重いっ!」

 

 苦しそうにシグナムの斬撃から彩那を庇う女性。

 同時に上から碧銀の髪の女性が拳打を放つ。

 

「覇王断空拳っ!!」

 

 金髪の女性を蹴り飛ばし、碧銀の髪の女性の拳を防ぐ。

 その隙だけで彩那には充分だった。

 シグナムが碧銀の女性を遠ざける前に彩那が斬り伏せる。

 

「えぇっ!?」

 

 彩那がシグナムを斬った事に金髪の女性が驚くが、その驚きはすぐに別の物へと変わる。

 

「消えた……?」

 

「アレは、魔力で形作っただけの偽物です。それよりも……」

 

 彩那は2人から事情を聞こうと霊剣を下げる。

 

「時空管理局東京局部所属の嘱託魔導師、綾瀬彩那です。助けて頂いてありがとうございます。ですが、ここは管理外世界です。お2人は、管理世界の住人のようですが、渡航許可の確認をさせて頂きます。宜しいですね?」

 

 助けてもらって要求するのは何だが、それはそれ。これはこれである。

 変身魔法で姿を変えているのはおそらく、それが彼女らの戦闘スタイルなのだろう、と思うが、確証はない。

 渡航許可を示せる物の提示を求めるが、2人は困ったように互いを見合わせている。

 

「その。わたし達もどうしてここに来たのか分かってなくて……」

 

「信じてもらえないかもしれませんが、気が付いたらこの町に居たんです」

 

 2人の証言に彩那は少し考える。

 

(何かの事件や事故に巻き込まれた?)

 

 嘘を言っているようには見えないが、先ずはリンディかクロノに指示を仰ぐ必要があるだろう。

 

「分かりました。なら先ずはバリアジャケットの解除を──―」

 

 バリアジャケットの解除を要請しようとするが、近くで魔力が集まるのを感じて舌打ちする。

 

「次から次へと。すみませんが、下がっていてください」

 

 手にしている霊剣を構える。

 魔力で形作られた人物を見て、彩那は息を呑んだ後に、奥歯をギリッと、鳴らした。

 

「そう。本当に図々しく人の思い出を土足で踏み荒らしてくれる」

 

 彩那と同じ霊剣を手にする十代後半くらいの少女。

 その少女がこちらを向く。

 

「彩那?」

 

 闇の欠片によって生み出された森渚が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高町なのはは闇の欠片によって生み出されたフェイトを討ち倒す。

 

「母さん……」

 

 謝罪するように母を呼ぶジュエルシード事件の頃のフェイト。

 ひたむきに頑張りつつも決して報われなかった親友を倒した事になのはは胸を痛める。

 

「ごめんね」

 

 消える瞬間の彼女に謝ると、レイジングハートから報告が上がる。

 

『マスター。近くに新しい反応が2つ現れました』

 

「次の闇の欠片さん?」

 

『いいえ。生体反応です』

 

「えぇっ!?」

 

 もしかしてクリスマスの時のアリサやすずかのように民間人か結界内に取り残されてしまったのだろうか? 

 だがレイジングハートの現れた、という表現に違和感があるが。

 

「と、とにかく急がなきゃ! 闇の欠片さんに襲われたら大変な事になる! レイジングハート! 案内をお願い!」

 

 レイジングハートに案内を任せてなのはは現れた生体反応の場所へ急行する。

 なのはが近づくと向こうも気付いたのか、声をかける前に振り向く。

 青い髪のショートヘアとオレンジ色の髪のツインテール。

 どちらも十代半ばくらいの少女に見えた。

 何より驚いたのは、2人がデバイスとバリアジャケット姿である事だ。

 向こうも驚いた様子でなのはの名前を呼ぶ。

 

「なのはさん!?」

 

「でも子供?」

 

 2人がなのはの事を知っている様子なのと、知らない歳上の人からさん付けされた事にビクッと肩が跳ねた。

 だがとにかく事情を聞かなければ、と口を開こうとするが、魔力を感知して咄嗟にその方向にシールドを展開する。

 向かってきた灼熱の砲撃になのはは2人を守る意味でも気合を入れる。

 砲撃をやり過ごすと2人に声をかけた。

 

「大丈夫ですか!」

 

「は、はい!」

 

「なんとか」

 

 無事な様子になのはは胸を撫で下ろしてから砲撃が飛んできた方角に顔を向ける。

 先ず視界に入ったのは見覚えのある赤い剣。

 それを手にした十代後半程の眼鏡をかけた女性だ。

 

「ミッド式か……となると、アレイシア王国? それともスタイエット共和国かしら?」

 

 手にしている剣を構える女性。

 なのははその女性の事を知らない。

 しかし、それが誰なのかは察しがついてしまった。

 

「宮代、冬美さん……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かい、フェイト?」

 

「うん。闘ったのは辛かったけど、それ以上に嬉しかったんだ。またリニスに会えて」

 

 フェイトとアルフは先程まで、闇の欠片によって生み出された、師であり、母の使い魔だったリニスと戦闘していた。

 最後、強くなったフェイトとアルフを褒めて消えていったリニス。

 今、幸せだと教えると嬉しそうに笑ってくれた。

 アレが闇の欠片によって作られた偽物だと理解していても、もう会えないと思っていた人に会えたのは嬉しかった。

 自分達が知らない間に逝ってしまった家族を、ようやく看取れた気がしたのだ。

 そこでバルディッシュから報告が入る。

 

「アルフ! 近くにまた闇の欠片が!」

 

「よしきた! さっさと全部終わらせてやろうよ、フェイト!」

 

「うん!」

 

 2人が現場に急ぐと、既に戦闘が始まっていた。

 

「誰だい、アレ?」

 

「分からない。どっちも闇の欠片の可能性も──―」

 

 フェイトが口にした可能性はバルディッシュによって否定される。

 赤い髪と桃色の髪の子供には生体反応がある事をバルディッシュが教えてくれる。

 

「なら、助けてやんないと!」

 

「行こう、アルフ!」

 

 3人の戦闘に割って入る。

 もう片方の闇の欠片が生み出した人物をフェイトは知っている。

 年齢は違うが、手にしている聖剣。年齢は違うし、顔にホーランド式の紋様はないが、知っている顔だ。

 

「アヤナ……」

 

 勇者時代の綾瀬彩那と対峙してフェイトはバルディッシュを持つ手に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リインフォース。ヴィータたちはどれくらいで戻ってこれる?」

 

「正確な時間は分かりませんが、まだしばらくかかると思われます」

 

「そか。はぁ。わたしもなのはちゃんみたいにすぐに戦えたら良かったんやけど……」

 

 なのはが魔法と出会ってすぐに戦闘が出来ていたという話を聞いて、現在待機を命じられている自分が情けなくなる。

 はやてもここ数ヶ月で訓練を積んできたが、まだ単独で戦闘を任せられる程ではない。

 

「すみません、我が主。私が不甲斐ないばかりに」

 

「あ〜。そういう意味やないんよ。気にせんといてな」

 

 リインフォースと融合(ユニゾン)が出来ればはやても戦闘に参加出来たかもしれないが、大事な家族に無理をさせるつもりはない。

 ここでなにを言ってもリインフォースの負担になると考えたはやては話題を変えることにする。

 

「疲れてみんなが(ウチ)に寄るかもしれんし、飲み物とちょっとつまめるお菓子でも用意しよか?」

 

「そうですね」

 

 庭に居たはやては中に戻ろうとする。

 そこで聞き覚えのない声で誰かが自分を呼んだ。

 

「はやてちゃーんっ!!」

 

「うえぇっ!? ちっこいリインンッ!?」

 

 現れたのは、子供になって妖精サイズになったリインフォースだった。

 予想もしなかった相手にはやては声を上擦らせた。

 

「どうなってるですかぁ! リインは全然わからなくてぇ!?」

 

「いや、わたしもよく分からんけどな? ところで貴女は誰? リインフォースの関係者?」

 

「リインはマイスターはやての融合騎(ユニゾン・デバイス)。リインフォース・ツヴァイです!」

 

「えぇ……?」

 

 一生懸命説明してくれているが、まったく分からない。

 ツヴァイ、という事はリインフォースの関係者なのだろうか? 

 そもそもリインフォース自体がはやてが付けた名で。

 混乱していると、ツヴァイが目に涙を溜めて助けを懇願してくる。

 

「エリオとキャロが大変なんです! いきなり海鳴に来たと思ったら、知らない人に襲われたです!」

 

 だから助けて欲しいと言う。

 ツヴァイははやての反応を察知してここまで飛んできたのだと。

 理由は飲み込めきれないが、助けを求められたのなら、やる事は決まっている。

 

「我が主……」

 

 止めようとするリインフォースにはやては首を振る。

 

「この状況で動けるんがわたしだけなら、放って置くのはアカンやろ? それに、1人で戦うつもりはないよぉ? 現場に着いたらその人たちと協力するつもりや」

 

「はい! エリオもキャロもとっても強いですよ! はやてちゃんが手伝ってくれれば百人力です! リインもお手伝いするです!」

 

「そっかぁ。なら急がなアカン──―」

 

「主っ!?」

 

 リインフォースがはやての体を抱いて部屋の中へと跳ぶ。

 するとそこには長い鎖が襲いかかってきた。

 

「お怪我は?」

 

「だ、大丈夫。ありがとな、リインフォース」

 

 はやてがリインフォースから体を離してデバイスである杖を握って庭に戻る。

 

「はやてちゃぁん」

 

 ツヴァイがはやての顔の横に移動する。

 視線が鎖を辿って向くと、はやては目を大きく開く。

 それは、知っている人物だ。

 手にしているのは金の突撃槍。

 かつてのクラスメイトだった少女。それが成長した姿だった。

 

「羽根井さん……」

 

 闇の欠片がもたらした再会にはやては身を縮こませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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