世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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激突【後】

「主……」

 

 現在、リインフォースの主である八神はやてが1人で戦闘を行なっている。

 自分に危害が及ばないように、少しずつ家から距離を離していた。

 こういう時に役に立てない自分に歯痒さを覚える。

 しかし。

 

「あれは、何だ? どうなっている?」

 

 自分によく似た小さな融合騎。

 それが今、はやてのサポートを行なっていた。

 確かにはやてには融合騎が必要で。いずれ自分を参考に新たな融合騎の造りだそうという話は家族としていた。

 だがそれはまだ先の話で、完成どころか基礎設計すら出来ていない。

 なのにあれはまるで、当然のようにはやてとユニゾンした。

 まるで、未来からでも来たかのように。

 まさか、という否定と、もしかしたら、という疑念が頭の中で繰り返される。

 本来なら馬鹿馬鹿しいと否定するところだが、時間移動という前例を聞いた以上はその可能性を切って捨てる事は出来ない。

 そんな思考に囚われていると、ベランダの柵に知らない誰かが着地した。

 

「お邪魔しま〜す!」

 

 ピンク色の髪と、同じ色のバリアジャケットに身を包んだ知らない少女。

 見た目は10代半ばから後半くらいだろうか。

 彼女は両手に持った銃の片方をリインフォースに向けてくる。

 

「永遠結晶を手に入れる為……ちょ〜っと付き合ってもらうわよ。闇の書の管制人格さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相手の集束砲の気配になのはが選択したのは逃げではなく相殺だった。

 ビルの屋上でなのはも集束魔法の準備に入る。

 だが、その判断が失敗だったと感じている。

 

(やっぱり、後から魔力を集め始めたんじゃ……!!)

 

 集束魔法は周囲にバラ撒かれた魔力を集めて砲撃などの攻撃に転化する技術だ。

 ならば当然、バラ撒かれた魔力が多く、広い場所を陣取っている方が有利である。

 勿論、先に魔力を集め始めた方が有利なのも言うまでもない。集束砲撃同士の撃ち合いなら、という条件は付くが。

 本来ならフェイト戦のように相手を拘束、もしくは闇の書の暴走体のように確実に当てられる相手に使う魔法である。

 それだけ隙の大きい必殺技なのだ。

 なのはとてこの場で回避を選択したいところだが、そうはいかない理由が出来た。

 

(ここで撃たれたら、他所で戦ってる局員さんたちが巻き添えになる!)

 

 直射線場に闇の欠片と戦っている武装局員の存在をレイジングハートが教えてくれた。

 距離が離れているので、普通なら届かないか当たらないと思うだろうが、なのはは彼女の功績を知っている。

 

(空で宇宙にある衛星を撃ち落とした人だ! これくらいの距離、確実に当ててくる!)

 

 だからここでなのはが相殺しなければ、大勢の局員が命を散らす結果となる。

 そしてなのはとて無策で集束魔法を選択した訳ではない。

 

「レイジングハート! カートリッジの弾丸を、全部使ってっ!!」

 

 なのはの指示にレイジングハートはカートリッジ内の全ての弾丸を薬莢として吐き出す。

 後出しの不利を、弾丸を全て使う事で補う。

 

(これを撃ったら、レイジングハートが動かなくなっちゃうけど!)

 

 ただでさえ負担の大きい集束砲に加えてカートリッジも全て使うのだ。

 クリスマスでの戦いの後もレイジングハートが完全に戦闘不能となり、大がかりなメンテナンスを必要とされた。

 しかし、こうしなければ確実に押し負ける。

 

(魔力が向こうに取られてる!?)

 

 それは、集束の練度が冬美の方が上だという証明。

 自分で考えて編み出し、絶対の自信があった集束の練度で負けているという事実に悔しさから唇を噛む。

 そこで、なのはの周囲に急激に魔力が増えだした。

 

「ティアさん!?」

 

「魔力はこっちでバラ撒きます! なのはさんはそれを全部受け取ってください!」

 

「は、はい!」

 

 1人で対処しなきゃと思っていた矢先に思わぬ援護を受けて、なのははコクコクと頷く。

 互いに魔力を集め、奪い合い、魔法が完成したのは同時だった。

 

「全力全開! スターライトォ、ブレイカーッ!!」

 

「オールコンサート・フルストライクッ!!」

 

 一点集中で撃たれたなのはのスターライトブレイカーと複数の魔法が放たれるオールコンサート・フルストライクがぶつかり合う。

 使っている魔力は冬美の方が上。

 しかし、一点突破に集中しているスターライトブレイカーと違い、オールコンサート・フルストライクは複数の攻撃が発射されている事で個々の威力は劣っている。

 しかし、次々と放たれる魔法がスターライトブレイカーの威力を削いでいった。

 ぶつかり、弾けた魔力が周囲を破壊する。

 

「くぅうううっ!?」

 

 スターライトブレイカーの威力が削り取られ、逆になのはの方が押されていた。

 

(ここであの人を倒せなかったら!)

 

 その後を想像してなのはは歯を食い縛り、少しでも砲撃を敵に届かせようと力を込める。

 しかし、ジリジリと退いていくの自分の方で。

 そこでティアナがなのはの背中を支える。

 

「ティアさん!!」

 

「持ち堪えてください! そうすれば、アタシの相棒が、必ずっ!」

 

「はい!」

 

 ティアナの応援になのはは足腰に力を込める。

 

(もう少し! もう少しでやり過ごせる……!)

 

 自分の役目は集束砲撃による被害を相殺する事となのはは只管に堪える。

 互いの魔力のぶつかるエネルギーが尽き、その衝撃でなのはとティアナが吹き飛ぶ。

 

「キャッ!?」

 

 支えていたティアナがなのはを抱きかかえてビルの屋上に転がる。

 

「ありがとうございます……」

 

 ティアナにお礼を言うが、彼女はなのはを見ていなかった。

 

「決めなさいよ、スバル!!」

 

 その言葉と同時に冬美のところまで魔力のレールが敷かれ、スバルがローラーブレードで走る。

 

「でぇえええいっ!!」

 

「っ!?」

 

 冬美がシールドを張るが、彼女の右手のナックルに破壊された。

 

「チッ!?」

 

「逃さない!」

 

 通り過ぎたスバルが再度冬美に向かいつつ、別の魔法を展開する。

 それは、砲撃魔法だった。

 

「一撃必倒ッ! ディバインバスターッ!!」

 

 零距離から砲撃魔法が無防備の冬美へと直撃した

 放たれた砲撃が冬美の体を消し飛ばす。

 

「えぇっ!?」

 

 スバルとしては非殺傷設定の攻撃で昏倒させるつもりだったのだが、体に大きな穴が空いた事に引いた拳と共に顔面蒼白となる。

 しかし、その異常に気付く。

 穴の空いた冬美の肉体が硝子細工のように崩れてしまった。

 

「どう、なってるの……?」

 

 そこでなのはから念話が届く。  

 

『その人は、闇の欠片……魔力によって生み出された誰かの記憶の再現なんです。だから大丈夫。殺したりとか、そういう事じゃありません』

 

 よく解らないが、つまり訓練などで使うシミュレーションによって生み出されたガジェットのような物だろうか? 

 とにかく、殺してないというなのはの言葉に安堵するスバル。

 

 なのはも、ビルの屋上でレイジングハートを立てて座っていた。

 

「わたし達……ここで一旦リタイアだね」

 

 レイジングハートは戦闘不能の状態になってしまった。

 なのは自身もリンカーコアを始め、身体への負担が大きい。

 

(この人達のことは気になるけど……悪い人じゃないよね)

 

 そう結論づけてなのははリンディに連絡を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 綾瀬彩那は魔法戦闘に於いて、自身を天才だと自負している。

 それは自惚れでもなんでもなく、自身の功績から導き出した客観的な評価だ。

 凡百など束になっても敵わず、かつての戦争で仲間と共に数々の強敵を屠ってきた。

 もしも彼女が凡人なら、大抵の魔導師は人間以下だ。

 下手な謙遜は自分だけでなく、周囲を、そして身内すら貶める事になると知っているから彩那は自身が魔法戦闘での天才である事実を否定しない。

 しかし、それはあくまでも凡才から見た視点だと思っている。

 中には、その天才ですら羨む本当の天才が存在する事も彩那は知っていた。

 高町なのはとフェイト・テスタロッサが正にそうだ。

 彩那から見ても、2人は魔法を扱う為に生まれて来たと言っても過言ではない。

 魔力という点では八神はやての方が上だが、魔法を扱うという点では劣る。

 彼女の力は夜天の騎士達が揃って真価を発揮するのだから。

 そして森渚もまた、彩那にとって本当の天才だった。

 

(対応され始めてる!)

 

 彩那の剣は少しずつ渚に対して慣れに依る余裕を与えていた。

 渚の剣を防ぐと同時に押さえ、斬り返そうとするが──―。

 

「ちょいさーっ!」

 

 間の抜けた叫びと共に肘を蹴って無理やりこっちのバランスを崩してくる。

 

「慣れてきたよ! 彩那の剣に!」

 

「くっ!」

 

 回転斬りをする渚の剣を彩那は防ぐが、そのまま力づくで弾かれた。

 元より、子供の肉体に戻って素の身体能力が劣っている上に身体強化の魔法でも渚の方が練度が数段上なのだ。

 魔力だけなら彩那に軍配が上がるが、その他の要素が負けているのが致命的過ぎる。

 

(それに渚ちゃん、勘が良すぎるから!)

 

 昔から渚は危機察知能力がズバ抜けて高かった。

 ある種の未来予知に近いくらいの精度で。

 味方の時は頼もしかったが敵に回るとここまで厄介だとは思わなかった。

 

「仕方ない……」

 

 彩那は接近してきた渚の剣を防ぐと共に押さえ込む。

 

「それは、もう慣れたって──―」

 

 彩那の剣は基本、相手の攻撃を防ぎ、押さえ込み、斬り返すの3動作だ。

 相手が遠距離型ならまた違うが、近接戦闘ではそうなるように動く。

 聖剣で渚の剣を押さえ込むところまではさっきまでと同じだが、霊剣を取り出して突きを繰り出した。

 

「とっ!?」

 

 野生の勘なのか、不意打ちだった筈の2本目の剣を渚は回避して見せる。

 

「霊剣!? やっぱり見間違いじゃなかった?」

 

 一旦後ろに退いた渚が驚いた顔になる。

 

「本当なら私の聖剣だけで倒したかったけど、渚ちゃん相手に出し惜しみしてる余裕はないから!」

 

 言うと、魔剣を取り出して砲撃魔法を撃つ。

 

「魔剣まで!? 反則だよ反則!!」

 

 などと言いつつも砲撃はあっさりと回避して見せる。

 回避した先を鎖で搦め捕ろうとするが、それが爆発する術だと察して、すぐに上空へと方向転換する。

 急な方向転換に負荷がかかり、苦しげな表情をしたが、彩那は追撃の手を緩めずに砲撃を放つ。

 

「だぁもぉっ!?」

 

 それを霊剣を盾代わりにして防ぎ、反撃に出る。

 

「ハイパー勇者斬りぃっ!!」

 

 魔力で刀身が彩那に向かって伸びる。

 避けようと動いたがある事に気付き、シールドを張って防いだ。

 

「くっ!?」

 

 その力に無理やり押し出される彩那。

 伸びた霊剣の刃はこの戦いを観戦していた2人のところで止まった。

 

「あ……」

 

 この戦闘に圧倒されていた2人は庇ってくれたのだと気づくのに1拍遅れた。

 

「そこから動かないでください。下手に動かれたら守れないので」

 

 それだけ言うと、渚のところへ向かう。

 何か言いたそうに手を伸ばそうとした事に彩那は気付かなかった。

 今度は彩那から攻める。

 聖剣と霊剣を振るい、渚と斬り結ぶ。

 この時間が、少しでも長く続いて欲しいという願いと、早く終わって欲しいという願いが彩那の中で交錯している。

 戦いという形でも、再び渚と触れ合える時間が惜しく、斬りたくないという気持ち。

 そして反対に、闇の欠片で再現されたとはいえ、かつての親友との戦闘が辛く、早く終わらせたいという気持ち。

 どっちも本心からの気持ちだった。

 

(それに、思ったより精神的にキツい……)

 

 偽物と割り切る事も出来ず、こうして長々と戦うのは精神的な負担が大きい。

 早々に決着をつけなければ、こちらが先に参ってしまう。

 

「こ、のっ!!」

 

「おっとっ!」

 

 鍔迫り合いで渚を弾き飛ばす。

 すると構えを直してから渚が提案する。

 それはもう、遊びを終えるような気軽さで。

 

「そろそろ終わりにしよっか」

 

「うん……そうだね」

 

 いざそう提案されると淋しいという気持ちが湧く。自分の今の全てが弱さだと理解していても。

 彩那は聖剣だけを握る。

 

 一呼吸入れて、動いたのは同時だった。

 渚の振り下ろしを受け止めると、体を引いて突きに切り替えてくる。

 その突きを、彩那は左の手の平で受け止めた。

 

「うわイッタァッ!?」

 

 手の平に刺さった刃が、手の甲と勇者服の篭手まで貫通する。

 鍔のところまで届くと、離さないように握り込む。

 

「捕まえたよ、渚ちゃん……」

 

 馬鹿な手段だと思ったが、速度で優る渚を逃さない為には、この方法しか思いつかなかった。

 肉を切らせて骨を断つ。そんな戦法を実演する彩那に驚いた一瞬、反撃に聖剣を渚の胸へと突き刺した。

 

「あ……」

 

 吸い込まれるように聖剣の刃が渚の胸に突き刺さると、納得したように呟く。

 

「そっかぁ……やっぱり、夢なのは、ボクの方だったんだね……」

 

「……」

 

 今更、何を言えばいいのか、少し迷う。

 だけど、伝えたい事は1つだけ。

 

「ありがとう、渚ちゃん。最期まで私を守ってくれて……」

 

 自分の生よりも、最期まで綾瀬彩那の生を選んでくれた親友に対する感謝だけだった。

 その言葉に渚が小さく微笑んだ気がした。

 確認する前に渚の肉体を構成していた魔力が雪解けのように儚く消え去っていった。

 残ったのは、渚に刺された手の傷だけ。

 森渚が完全に消え去ったのを確認し、彩那はイレギュラーであろう2人のところへと戻る。

 

「お待たせしました。先ずは名前からお訊きしても?」

 

 事情を訊こうとすると、金髪の少女から答えた。

 

「はい。高町ヴィヴィオ、です……」

 

「高町……?」

 

 苗字に疑問を持つと、もう1人の少女も名乗る。

 

「ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルドです。あの、お怪我は……」

 

「あぁ」

 

 チラッとアインハルトが彩那の左手の傷を見る。

 確かに血がダラダラ垂れているのを見るのは精神衛生状良くないし、出血が続くのは危ない。

 左手の勇者服を解除して顔に巻いていた包帯を巻き、治療魔法と合わせて応急処置をする。

 

「それじゃあ……──―!?」

 

 彩那がバッと反対方向の空を見る。

 そこから慌てた様子で飛び立とうした。

 

「あの!?」

 

「別の局員をすぐに向かわせます! こちらと争う気がないなら、そこで大人しく待っててください!」

 

 それだけを告げると、本当に脇目も振らず行ってしまった。

 

「えぇ〜っ!?」

 

 放置されたヴィヴィオの声が海鳴の空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐう……っ!?」

 

 刺された聖剣を引き抜く痛みをフェイトは唇を噛んで耐える。

 

「フェイトさんっ!?」

 

 再び斬りつけてこようとする彩那に、エリオが庇うように敵に背を向けて抱く。

 しかし、左右からのバインドにその刃が振るわれる事はなかった。

 

「これ以上、フェイトを傷付けさせるかいっ!!」

 

「エリオ君! 早くストラーダをっ!」

 

「うん!」

 

 エリオはフェイトを抱えて距離を取りつつ、弾き落とされた自身のデバイスを拾う。

 

「つっ!?」

 

 動いた摩擦にフェイトは刺された右腕の痛みに苦痛の声を出す。

 その声に、エリオが心配そうに声をかけてきた。

 

「大丈夫ですか!? フェイトさん!」

 

 どうして彼がフェイトの名前を知っているのか、などの疑問はあったが、それよりも今は自分の状態を確認するのが先だった。

 

(バルディッシュを振るうのは、ちょっと難しいかな……)

 

 刺されたのは左腕だ。利き手でないとはいえ、片腕を潰されれば、大型の武器であるバルディッシュで接近戦を挑むのは自殺行為だ。

 相手が綾瀬彩那なら尚の事。

 だが、戦線から退くつもりは毛頭ない。

 

「ねぇ、君……」

 

「は、はい!」

 

 緊張した様子で返事をするエリオ。

 そう。先程相棒と思しき少女がエリオと呼んでいた。そしてあの少女はキャロ、と。

 名前で呼びたいが、フェイトは2人に直接名前を教えて貰った訳ではない。それはこの戦いの後に取っておこうと思う。

 

「私……長くは戦えそうにないんだ。協力してもらって良いかな?」

 

「あの、フェイトさん。フェイトさんは、傷の手当てを優先してください。僕達が、あの人を倒します」

 

 エリオの提案に、フェイトは首を横に振る。

 勇ましいのは結構だが、それは驕りだ。

 多分だが、この2人よりもフェイト1人の方が強い。

 それなのに彩那を。それもこっちを殺しにかかってる彼女を倒せるとは思えない。

 

「ダメだよ。アルフと君達だけじゃ、アヤナは絶対に倒せない。みんなで協力しないと」

 

「アヤ、ナ?」

 

 アヤナと聞いてエリオが信じられないようにバインドを解除し、アルフと接近戦をしている女性を見る。

 その反応に疑問が増えたが、フェイトは提案する。

 

「時間を稼いで欲しい。準備が整ったら、念話で合図するから……下がって一瞬だけで良いからアヤナの動きを止めて。後は、私が必ず決める」

 

 辛そうに息を吐きながらの提案にエリオは、はいと頷いた。

 その返事にフェイトは歳も近そうだし、もう少し砕けた感じに接してほしいな、と思った。

 念話でエリオにしたのと同じ説明をアルフとキャロにもする。

 

『よっしゃ! アイツの鼻を明かしてやんな! フェイト!』

 

『分かりました! 時間稼ぎに徹します!!』

 

 返事が返ってきて、フェイトは大技の準備に入る。

 

「これを使うのは、あの時以来だ」

 

 ジュエルシードを賭けて、本気の1対1の決闘をした時以来。

 それからは、フェイトの戦闘スタイルとの噛み合わない等が原因で、使う機会も無かったが、今の状況でフェイトが出来る最大の攻撃。

 

「バルディッシュ。カートリッジを全弾使用。プラズマランサー・ファランクスシフトッ!!」

 

 なのはの時はフォトンランサーで使った魔法を、上位であるプラズマランサーで撃つ。

 幾つものプラズマランサーが準備(セット)され、彩那に照準を定める。

 その間、向こうの戦闘は本当に紙一重で見ていて冷たい汗が流れた。

 アルフの腹部が斬られ、突進するエリオは避けられて背中を斬られる。

 キャロが回復などでフォローをしているからまだ死者を出してないだけ。

 急がなければ、誰かが死ぬのは時間の問題だ。

 

『こっちの準備は整った! 3人とも、お願い!!』

 

 一瞬でいい。動きを止めれば後は数で押し切る。

 

「でぇえいっ!!」

 

 エリオの攻撃を彩那は蹴り飛ばして聖剣の切っ先をフェイトに向ける。

 魔法の攻撃が来る、と身構えると、その前に彩那はバインドに拘束される。

 

「フェイトさんっ!!」

 

 キャロの援護にフェイトは心の中で感謝する。

 

「撃ち、砕けぇええええぇぇっ!!」

 

 ファランクスシフトが一斉に彩那に向かって行く。

 シールドを張られたが、防がせるつもりはない。

 

(今回は、絶対に決める!!)

 

 1つ1つの雷槍に彩那のシールドを貫くイメージを乗せて撃つ。

 爆発によって生じた煙幕が彩那の姿を隠すが、それで目標を外すヘマはしない。

 小さな雷槍を全て撃ち尽くし、最後にバルディッシュを一回り大きくした雷槍を準備して投げる。

 

「スパーク……エンド!」

 

 直撃した手応えを感じながら、肩で息をするフェイト。

 これで決まらなければ、こちらが詰む。

 煙が晴れると、ボロボロになった鎧。その状態のまま、ゆっくりと構えを取る。

 仕留め損ねた、と判断して緊張が走る。

 アルフとフリードに乗ったキャロがフェイトを守るように移動する。

 しかし。

 

「あ……」

 

 彩那の手から聖剣が落ち、同時に集まっていた花弁が散るようにその形を崩して消えた。

 完全に彩那だった存在の魔力が消えると緊張の糸が切れて墜ちそうになった。

 

「フェイト!?」

 

 その前に、アルフが抱き止めてくれた。

 

「ありがとう、アルフ。怪我は?」

 

「こっちはかすり傷だよ! フェイトは自分の心配をしな!」

 

 怒られながら、ゆっくりと、降下する。

 

「今、治療します!」

 

 地上に下りたフェイトにキャロが治療魔法をかける。

 エリオも心配そうにして近付いてきた。

 

「君達は……」

 

 質問をしようとすると、本物の彩那から念話が届く。

 

『テスタロッサさん。今、動けるかしら?』

 

 少し焦った様子の声だった。

 

『アヤナ? ゴメン。遭遇した闇の欠片は倒したんだけど、怪我しちゃって。戦闘を続けるのは難しいと思う。だけど、手伝いが必要なら──―』

 

『戦闘じゃなくて。事情は分からないけど、そっちの世界の住民と思しき人と接触したの。座標を送るから、動けそうなら迎えに行ってあげて。位置的にテスタロッサさんが近いから』

 

『そんなのアヤナが自分でやればいいじゃないか!』

 

 先程まで、彩那を模した闇の欠片と戦っていたせいか、ややキツい物言いでアルフが反論する。

 

『そうしたいのは山々だけど……八神さん。いえ、リインフォースが危ない!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八神はやてと羽根井璃里の戦闘で罠に絡め取られたはやては、チェーンボムの爆発を喰らう。

 しかし、爆発したのは最初だけで、すぐに爆発音は収まった。

 その原因はすぐに気付いた。

 

「凍っとる……」

 

 はやてを囲っていた鎖は全て凍らされていた。

 それが出来る人物ははやての中で1人しかいない。

 

「はやて、無事か?」

 

「クロノ君!?」

 

 デュランダルを手にしたクロノが、はやての無事を確認して安堵の息を吐く

 

「それにしても、凍らせれば爆発を防げると踏んだが、予想が当たって安心した」

 

 前々からこの鎖を凍結させれば爆発しない。もしくは威力を削げるのではと思っていた。

 助けられたはやてはくしゅん、と小さくくしゃみをする。

 

「クロノ君。助けてくれたんは嬉しいんやけど、すっごく寒いよぉ。こんなん風邪引きそうや」

 

「助けて貰って第一声がそれか! なら、さっさとそこから離れろ!」

 

「うん……」

 

 鎖の檻を出るはやて。

 

「彼女は勇者の1人か?」

 

「うん。羽根井璃里さん。彩那ちゃんの大切なお友達」

 

 辛そうに答えるはやてに、クロノはそうか、と構える。

 

「ここからは僕が引き受ける。はやては下がって援護を頼む」

 

「分かった。頑張るよー!」

 

 自分1人で良いとカッコつけたいところだが、未知の敵を相手に1人だけで戦おうとするほど馬鹿じゃない。

 頼れる仲間が居るなら頼る。それだけだ。

 そもそもアースラでは周囲との実力差から単独での戦闘が多いクロノだが、本来時空管理局とはそういう組織だ。

 羽根井璃里は変わらずブツブツと呟いている。

 

「帰りたい……帰らないと……もう、殺すのは……!」

 

 王剣を振るうと、誘導刃がクロノとはやてに襲いかかる。

 

「させるかっ! スティンガーレイ!!」

 

 クロノも射撃魔法を撃ち、敵の攻撃を相殺する。

 爆発に乗じて相手に接近する。

 しかし。

 

「ぐあっ!?」

 

「クロノ君!?」

 

 クロノが進んで行った先で、突然爆発が起こった。

 ツヴァイが慌ててはやてに情報を送る。

 

『はやてちゃん! ここら一帯にたくさんの見えない機雷がバラ撒かれてます! 1つ1つの威力は大したことはないですけど……』

 

「それ、どんな風にバラ撒かれとるか分かるか?」

 

「はいです! 今、2人のデバイスに送信しました!」

 

「おーこれは……多っ!?」

 

 璃里の周囲に近付かせないとばかりに大量の機雷が設置されていた。

 

「なら!」

 

 クロノが全身を覆うシールドを張りつつマシンガンのような射撃魔法を撃ちながら接近を試みる。

 

「羽根井さん、ごめん……バルムンクッ!!」

 

 はやての周囲から弧を描くように魔法が撃たれ、クロノの進路上にある幾つかの機雷を予め爆破していく。

 接近に成功したクロノが璃里と鍔迫り合いになった。

 

「早く戦いを終わらせないと……もう、あんなのを見るのは……っ!!」

 

 クロノを弾き飛ばし、射撃魔法を撃ってくる。

 回避に徹していると、はやてが魔法の準備を終えていた。

 

「クロノ君、退いて! クラウ・ソラス!」

 

 はやてが撃った魔法を璃里はシールドを張って防ぐが、同時に衝撃波によって弾かれる。

 

「くっ!? 邪魔を、しないでっ!!」

 

「させるか!!」

 

 はやてを攻撃しようとする璃里を、クロノが射撃魔法で牽制する。

 

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフトッ!!」

 

 無数の刃状に形成された魔力が一斉に璃里へと襲いかかる。

 しかし、即席で発動した魔法は、本来の威力には遠く及ばない。

 次の手を考えていると、高速で璃里に接近するはやてを見た。

 

「バカか!? 何をしてる!!」

 

 いくらクロノの攻撃で気を散らしてるとはいえ、はやてが接近戦など危険過ぎる。

 下がれ、というクロノの忠告を無視して、はやては真っ直ぐに璃里へと向かった。

 

「なのはちゃん直伝! ACSマニューバー!!」

 

 前面に魔力を集中させて突撃するはやて。

 しかし相手もそんな攻撃を許す程甘くはない。

 王剣の先端がはやてへと向く。

 

(間に合わんかっ!?)

 

 迎撃される未来を想像するが、急停止は出来ず、そのまま突っ込む。

 そして璃里がはやてを討とうと──―。

 

「え!?」

 

 はやては呆けた声を出す。

 確実に迎撃されると思ったのに、はやての杖の先端が璃里の胸を貫いていたのだ。

 

「こ、ども……?」

 

 その言葉に、はやては璃里が何故一瞬攻撃を躊躇ったのか理解した。

 彼女は子供を討つ事を躊躇し、動きを鈍らせたのだ。

 彩那が言っていた羽根井璃里は、勇者の中で1番優しい人だったと。

 子供と戦っている事に気付いて動きを鈍らせてしまうくらいに。

 はやては刺さった杖を引き抜き、璃里を抱き締める。

 

「ごめんな、羽根井さん。助けてあげられなくて……」

 

 もう終わった事で、はやてに出来る事は1つもない。

 だけど、哀しむ事は出来るのだ。

 はやてに抱き締められ、眠るように璃里は目を閉じる。

 すると、魔力が光の粒子となってはやての腕から消えた。

 

「羽根井さん……」

 

 胸の痛みを自覚してはやては祈るように手を組んだ。

 そこでクロノに小突かれた。

 

「イタッ!?」

 

「何だあの無茶は。無謀にも程がある! 後で説教だからな?」

 

「はぁい……」

 

 自分でも無茶をした自覚があり、肩を落とすはやて。

 そこでツヴァイが焦った声を出す。

 

『はやてちゃん! 家から誰か出てくるです』

 

「え? リインフォース……ってなんや!?」

 

 家の方に視線を向けると、バインドで拘束されたリインフォースが、ピンク髪の誰かに連れ去られようとしていた。

 

「ゲッ! もう気付いた?」

 

「あなた誰や!! リインフォースを放して!!」

 

「ごめんなさいね〜。永遠結晶を手に入れる為に、この人をちょっと借りるから〜」

 

 謝るようにウインクしてピンクの女性は逃げる速度を速めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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