世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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過去を断つ

 その少女は、生まれつき身体が弱かった。

 いつ死んでもおかしくない身体。

 生きていても熱や不調で苦しむだけの存在。

 碌に食事も摂れず、入浴や排泄行為ですら誰かの手を借りなければままならない虚弱さ。

 当時の夜天の書の所有者は彼女を救う術を求めた。

 しかし夜天の書にも、病に侵された彼女を救う術を載せてはいなかった。

 だから────。

 

「大丈夫だよ……夜天の書が在る限り。君は生死に囚われない永遠の存在となる。私がそうして見せる」

 

 椅子に座る少女の手を男は取る。

 

「私が生み出したこのエ……で。君をきっと救うから。だから、夜天の書が完成するまでもう少しだけ待ってほしい。私の愛しい娘……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィータの巨大な槌がなのはに襲いかかる。

 迎撃しようとレイジングハートを構えるが────。

 

(ダメ!? 溜めの無い抜き撃ちじゃ、押し負けちゃう!)

 

 回避も間に合わないと判断し、シールドが破壊されるのを覚悟で少しでも威力の軽減に努める。

 

(一瞬だけでいい! 耐えてっ!)

 

 防ぐ一瞬にカートリッジを使ったシールドを再構築する。

 それでも破壊されるだろうが、直撃を喰らうよりはマシだ。

 そう覚悟して全力の防御魔法を展開する。

 しかし────。

 

「ラケーテンハンマーッ!!」

 

 デバイスのジェット噴射で独楽のように高速回転した本物のヴィータが、横合いからギガント・シュラークを殴りつけた。

 逸れた攻撃になのはも急いで安全圏に移動する。

 

「無事か! なのは!!」

 

「ヴィータちゃん!」

 

 頼もしい救援になのはは安堵から頬が緩む。

 近づくなのはにヴィータは飛ばされたヴィヴィオの方を指差す。

 

「こっちはいいから、アイツの方を見てやれ。コイツはアタシが潰す」

 

 アイゼンを構えながら過去の自分に視界に入れる。

 

「でも2人で戦った方が……」

 

「あぁん? アタシが過去の自分に敗けるとでも思ってんのかよ?」

 

 ガンつけてくるヴィータに、なのは後ずさる。

 

「そ、そうじゃなくて。2人の方が早く決着がつくし、安全でしょ?」 

 

 過去のヴィータとはいえ、戦って現在のヴィータ無傷で勝てるとは思えない。

 しかし、そんななのはの心配をヴィータは鼻を鳴らす。

 

「余計な気遣いだってんだ! オメーは早くあっちの方を看てやれ! 娘なんだろ? なのはママ」

 

 最後にからかうような口調で話すヴィータ。

 それがなのはを気遣ってのものだと理解して態とらしく頬を膨らませる。

 

「もう。ママはやめてったら……気をつけてね」

 

 お言葉に甘えてなのははヴィヴィオのところへ行く。

 それを見届けてからヴィータはここまで攻撃してこなかった事に疑問を感じながら闇の欠片の自分に向き合う。

 すると、向こうは頭を押さえて警戒心剥き出しでヴィータを見ていた。

 

「なんだテメェは……」

 

 あぁ、なるほど。突然自分が現れて混乱してたのか。

 

「別に、なんだっていいだろ。やることは変わりねぇんだから、なっ!!」

 

 ヴィータは加速して闇の欠片の自分の撃退に入る。

 槌を振り下ろし、相手は防ぐ。

 自分と戦える機会など本来はないのだ。

 シグナムなら自分と戦えて喜ぶかもだが、生憎とヴィータはバトルジャンキーではない。

 厄介な強敵として早々に排除するのみだ。

 

「だりゃあぁああああっ!!」

 

 アイゼンを握る手に力を込めて弾き飛ばすと、カートリッジの弾丸を排出する。

 攻撃の威力の上がったハンマーで過去の自分を潰そうと襲う。

 

「このっ!」

 

 闇の欠片のヴィータはシールドを張って防ぐ。

 相手は自分だ。どれくらいの魔力と密度で防壁を張れば防げるのかは感覚で判断できる。

 そう、思っていた。

 

「なんだとっ!?」

 

「あめぇっ!!」

 

 闇の欠片のヴィータのシールドを本物のヴィータは破壊して見せる。

 その勢いのまま偽の自分に迫るが、ギリギリのところで回避されてしまった。

 

「ちっ」

 

 逃げられた事に舌打ちする本物のヴィータ。

 闇の欠片のヴィータは不思議がっているが、そもそもこの戦いは対等ではない。

 闇の書事件後のこの数ヶ月。デバイスであるグラーフアイゼンのシステムは最新の物へとアップデートし、パーツもより良い物に交換されている。

 カートリッジシステムを搭載したレイジングハート程の強化はされてないが、デバイスの強度は上がり、変形に要する時間も0.7秒短縮された。

 何よりデバイスに流れる魔力の経路が見直され、より効率の良い運用が可能になっている。

 それにヴィータ自身も、あの時代から闇の書の騎士として活動していた経験値の違いがある。

 負ける要素はない。

 それでも、過去のヴィータが現在のヴィータに勝っているモノがあるとすれば────。

 

「な、めんなぁっ!!」

 

 闇の欠片のヴィータが破れかぶれにも見える突撃を行なう。

 敵の攻撃を避けて本物のヴィータがアイゼンを振るった。

 当然相手はシールドを張って防ぐ、と思われた。

 

「ハァッ!?」

 

 騎士甲冑の籠手で防御し、片手持ちのアイゼンが本物のヴィータの側頭部を強打する。

 

「つっ!?」

 

 反射的に移動して直撃は避けたが、頭にダメージを負ったことに変わりはない。

 追撃をかけてくる敵に、ヴィータは槌の柄と柄をぶつけて防ぐ。

 

「バカかっ! なんて戦い方しやがる!」

 

 闇の欠片のヴィータの左腕は完璧に潰した。その戦闘では使い物にならないだろう。

 肉を切らせて骨を断つ、というが、あまりにもリスクとリターンが釣り合ってない。

 

「温いこと言ってんじゃねぇ! 勝たなきゃ意味がねぇんだ!! 敵を倒さなきゃ、アイツを、主を守れねぇだろうがっ!!」

 

 片腕とは思えない力で本物のヴィータを弾き飛ばす。

 この無茶が、過去のヴィータが現在のヴィータに勝っている点だ。

 現在の主である八神はやての方針によって今の守護騎士達は敵を倒し、戦闘に勝つだけでなく、生き残る事も優先している。

 あの優しい主が悲しまないように。

 しかし過去のヴィータは違う。

 戦争なのだ。

 敗北は全てを失う事を意味する。

 主を守る為に全てを投げ打つ覚悟で敵を討ちに来る。

 勝たなければ。敵を倒さなければ意味がないのだ。

 かつての自分だからこそヴィータはその気持ちが痛い程に理解出来た。

 だから────。

 

「こっの……バカやろうっ!!」

 

 敵の得物を掻い潜ってその胸にアイゼンを叩き込む。

 

「ガハッ!?」

 

 闇の欠片のヴィータは地面に勢いよくその体を叩きつけられた。

 すぐに立ち上がろうとするが、ダメージでよろめく。

 そんな過去の自分にヴィータは最後の構えを取る。

 

「はやてと同じ。あいつだってきっと、アタシらに傍に居てほしかったんだよ」

 

 身体が弱く、闇の書の主としてしか周囲に認められなかった王子。

 自分らを送り出す時に見せていた淋しそうな表情が頭に過る。

 

「戦いで敵を倒すだけじゃ意味がねぇんだ。ちゃんと帰ってこないと、主を泣かせることになるんだ」

 

 過去の自分にではなく、現在の自分に言い聞かせて戒める。

 あの王子が勇者に殺された時に見せた怯えは、自分を襲う危機だけではなく、騎士達が殺された嘆きも含まれていた筈だ。

 繰り返す訳にはいかない。

 

「ありがとよ。過去の自分(お前)に会って、大事なことを再確認出来たぜ────じゃあな」

 

 トドメの1撃を振り下ろした。

 

「クソ……」

 

 悔しそうな、憎々しげな表情でヴィータに手を伸ばしてくるが、その手は取らなかった。

 大きく息を吐いた後に、なのはとヴィヴィオの下へ飛ぶ。

 ヴィヴィオは壁を背にして、休んでいた。変身魔法も解けている。

 

「大丈夫か?」

 

「はい。この子が上手く防御し(まもっ)てくれました」

 

 飛んできた鉄球が当たる箇所のバリアジャケットに大幅な魔力を振り分けた事で、思ったほどのダメージはなかった。

 

「たく。無茶すんなよな。下手したら、怪我だけじゃ済まなかっぞ」

 

「ヴィータちゃんったら」

 

 助けに来てくれたヴィヴィオに悪態つくヴィータをなのはが嗜める。

 そこでエイミィから通信が入った。

 

『なのはちゃん!!』

 

 慌てた様子のエイミィになのはは目を丸くする。

 

『すぐに救援に向かって! フェイトちゃんが! フェイトちゃんがっ!!』

 

 その言葉だけでなのはは地面を蹴って飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オォオオオッ!!」

 

 かつての主の兄であるラインハルトの攻撃を捌くシグナムは、その強さに感嘆していた。

 ラインハルトは相手がシグナムだと気付いていない。

 ただ国と弟を守る為に槍を振るっていた。

 

(あぁ……貴方はこんなにも強かったのか)

 

 彩那が言っていた。ラインハルト王子は勇者2人がかりで倒したと。

 その評価に嘘は無かった。

 シグナムはラインハルトの槍を防ぎつつ反撃に転ずる。

 

「紫電一閃っ!」

 

 振るわれた刃は受け止められ、逆に突きを返された。

 ラインハルトの強さにシグナムは嬉しさと申し訳無さが胸に広がる。

 苛烈な攻めだ。

 後の事などまったく考えていない、破滅を受け入れ、生き残る気すら無いからこそ出せる力。

 その力のなんと憐れで悲しい物か。

 

(いや、私にそう思う資格は無いか……)

 

 国を守る事も、彼の最期の願いすら叶える事が出来なかった。

 そんな感傷に浸っている一瞬、ラインハルトの槍がシグナムの横腹を掠める。

 

「つっ!?」

 

「シグナムさんっ!?」

 

「下がってろ! お前達がどうにか出来る相手ではない! それに、この方との決着は、私自らがつけなければならん!」

 

 心配して援護しようとしてくれる局員を制止する。

 心遣いはありがたいが、それを今受け取る訳にはいかない。

 レヴァンティンの中にあるカートリッジを全て吐き出す。

 ラインハルトもそれに応えるようにカートリッジの弾丸を吐き出した。

 

「終わりにしましょう、ラインハルト王子。貴方の悪夢を……」

 

 地を蹴ったのは同時だった。

 

「紫電一閃っ!!」

 

「オォオオオオォオオッ!!」

 

 剣と槍の衝突。

 

「ハァアアッ!!」

 

 炎を纏ったレヴァンティンとラインハルトの槍は拮抗を見せていたが、それも刹那の時間。

 槍に罅が入り、シグナムの剣は押し込まれていく。

 鉄が砕ける音と共に剣の刃は王子の体へと進み、その肉体を両断した。

 炎に包まれるラインハルト王子。

 

「フィン……」

 

 幻を視るように手を伸ばしたが、それは呆気なく崩れていき、魔力として霧散して消える。

 それを見届けたシグナムは目を閉じて黙祷した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボロ雑巾のようになった彩那。

 それを追ってバーン将軍はその巨体を地上に下ろす。

 彼はティアナ達に向かって叫ぶ。

 

「勇者を引き渡し、投降せよ。さすれば命だけは助けてやろう」

 

 バーンの言葉にキャロが彩那の頭を抱きかかえる。

 その行動が彩那の引き渡し拒否を示していたし、他の者も同意見で構えを取る。

 そもそも彼らは闇の欠片によって再現された存在だ。

 投降を示したところでその国自体が存在しない。

 故に選択肢など初めから無いのだ。

 

(とはいえ、勝ち筋がまったく見えないわね)

 

 先程までの2人の戦いを見て自分達が勝てると思えるなんて驕ってはいない。

 戦えば確実に殺される。

 

(あんなの、AMFを纏った隊長達みたいなもんじゃない!)

 

 心の中でそう愚痴りつつも勝つまでとはいかないが、時間を稼ぐ道筋を頭の中で構築する。

 ティアナ達の態度にバーン将軍は顎を撫でる。

 

「その意気や良し! と言いたいところだが、愚かだな」

 

 憐れむように言うと、部下達に檄を飛ばす。

 

「何をしている! あの雑兵を早く片付けろっ!! そしてあの勇者をわしの前に持って来い! あの娘の首はわしが刎ねる!!」

 

『おぉおおおおおおぉおおおおおおっ!?』

 

 将軍の檄に周りの兵達も士気を高める。

 その異様な熱気にティアナ達は圧されていた。

 どんな因縁があるのかは知らないが、子供の首を嬉々として落とそうと奮起する彼らの心情が理解できないが為に。

 

()け! 我が精鋭達よっ!」

 

 将軍の合図で鎧の軍勢が動く。

 しかし────。

 

「ハァアアアッ!!」

 

 上空からその将軍を目掛けて拳が振るわれた。

 

「甘いわ」

 

 だがその拳は斧によって楽々と防御された。

 拳を防がれた彼女は体勢を変えて跳び、ティアナ達の近くに着地する。

 

「くっ!」

 

「アインハルト、貴女……」

 

 増援としてやって来たのは、ヴィヴィオの友人であるアインハルト・ストラトスだった。

 

「先生……」

 

 構えを取りつつ、アインハルトは倒された彩那の事を気にするも、すぐに敵に視線を戻す。

 

「すみません。私もヴィヴィオさんも、自分達だけ安全なところで持ってるなんて出来ませんでした」

 

 恐い、という気持ちは当然ある。

 だけど、ここで逃げたらこれまで自分が鍛えてきた覇王流が本当に嘘になってしまう気がして。

 それに自分達の時間軸でお世話になった人達の危機に知らんぷりするなどアインハルトには出来なかった。

 

「いいえ、ありがとう。少しだけなんとかなりそうな気がしてきたわ」

 

 具体案が出た訳ではないが、戦力が1人でも増えるのはありがたい。

 

「キャロは綾瀬副部隊長の手当を! 他はここを全力で守り切るわよ!」

 

 勝つ必要はない。

 他の援軍が来てくれるまで持ち堪えるだけで良いのだ。

 周囲に被害を出さず、生き残る事こそが自分達の勝利条件なのだから。

 

「行こう、ティア!」

 

「えぇ! メインはアンタよスバル! 気合入れなさい!」

 

 デバイスを構えてティアナもまた仲間も自分の勇気をふり絞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたです!」

 

「ほんまか!?」

 

「ハイです! この街の廃病院らしき場所にアインスの反応を確認しました!」

 

「ありがとうな、リイン!」

 

 皆が戦っている最中、はやて達は連れ去られたリインフォースの捜索に当たっていた。

 リインフォースの後継であるツヴァイには、先代のリインフォースとある程度の情報共有を目的とするリンク機能があり、それを使って彼女の居場所を捜せないか昨日から試していた。

 向こうも結界を張っている為に時間はかかったが、ようやく反応を見つけた。

 シャマルがそこで目的の確認に入る。

 

「それじゃあ、私達も行きましょう。目的はあくまでも戦闘を避けてリインフォースの奪還。相手を倒そうとするの禁止ですよ、はやてちゃん」

 

「分かっとる。待ってて、リインフォース。今度は必ず助けるよ!」

 

 はやてはデバイスの杖を強く握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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