世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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畏れ

 未来からやって来たヴィヴィオとアインハルトは待機部屋で焦燥感と無力感で押し黙っている。

 2人は会話もせずに用意されている飲み物やお菓子に手を付けずにいた。

 本当に自分達に出来る事はないのか? ここで待っているだけで良いのか。

 そんな正解の無い疑問だけがぐるぐると頭の中で出たり消えたりしている。

 もしかしたらそれは、未来で強いみんなしか知らない彼女らが自分達と同じ年齢から来る感情なのかもしれないが。

 互いに沈黙だけが過ぎてゆくと、突然ヴィヴィオが立ち上がる。 

 

「アインハルトさん、わたし、やっぱり行きます」

 

「ヴィヴィオさん……」

 

 意外そうな目でヴィヴィオを見る。

 

「なんの役にも立たないかもしれないですけど、このまま待ち続けるのにも耐えられそうになくて。きっとママ達は怒るだろうけど。でも────」

 

 なのは達と出会ったあの事件後に強くなると約束した。

 ここで事件に関わるのは母達が望む強さではないのかもしれない。

 

「でも、きっと最後にはわたしのしたことを認めて褒めてくれると思うから」

 

 あの素敵な母達に恥じない生き方をしようと決めた。

 その誓いの為に行くのだ。

 もちろん、あの戦いを見て恐いという気持ちはある。

 それでも恐怖に足が竦んで立てない自分を高町ヴィヴィオ自身が許せない。

 

「だから、行きます! わたし自身の為に!」

 

「ヴィヴィオさん……」

 

 拳を握って奮起するヴィヴィオにアインハルトは自分の弱さを恥じた。

 アインハルトは自分の手の平を見つめる。

 ここで臆して、自分は何の為に覇王流を極めんとするのか。

 指を1本ずつ折り、拳を作る。

 もしもここで自分が戦わない事で昨日話した誰かを失う事となるのなら。

 

(それは、オリヴィエを失ったクラウス()と同じ過ちの繰り返しになる!)

 

 思い返せば、昨日の彩那の戦いはあまりにも刹那的で危うかった。

 あんな戦い方を続けて、無事で居られる筈はない。

 その事に気づいて握っていた拳に力を込める。

 

「私も……私も行きますっ!」

 

 年若い2人は恐怖から1歩前に歩み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レドと呼ばれた合成獣とその父親である科学者と交戦していたフェイトはその優しさ故の迷いからレドの拳を胸に受けてしまう。

 

「フェイトッ!?」

 

 アルフの悲鳴のような声がやたら遅く聞こえる。

 

「くっ!?」

 

 精神的なショックと肉体の痛みに反応が遅れたフェイトは殴り飛ばされた体に制動をかけるが、間に合わずに誰かの家の塀に衝突してしまう。

 

「かは……っ!?」

 

 殴られたお腹を擦りながらヨロヨロと立ち上がるフェイト。

 バルティッシュを構えつつもその腕は震えている。

 それは決して肉体のダメージだけのせいではない。

 

(しっかりしないと! あの人は過去の記憶(闇の欠片)でしかないんだから!)

 

 そう自分に言い聞かせる。

 だけど、心の何処かで彼を救ってあげたいと考えてしまうのも事実だった。

 倒さなきゃいけないという使命感と救いたいという感情の板挟みに苦しんでいる。

 それが激的にフェイトの動きを鈍らせていた。

 

「ハァアッ!!」

 

 大振りの攻撃を避けて、フェイトはワニの頭にバルディッシュを叩きつける。

 

「終わり、です……!」

 

 砲撃魔法でレドを吹き飛ばそうとする。

 そこで、念話による幼い少年の声が響く。

 

『父さんっ!?』

 

 アルフが先に科学者の方を倒そうと襲っているのをレドが見て、フェイトを押し退ける。

 

「つっ!?」

 

『やめろぉおおおおおおおおおおおっ!!』

 

 念話で初めてレドの叫びを聞き、動揺からアルフも動きを止めてしまう。

 体当たりを喰らって吹き飛ばされるアルフ。

 

「アンタ……!」

 

 自分を改造した父親を守ろうとするレドにアルフは理由が解らず動きが止まる。

 

『アンタ、なんでそんなヤツを守るんだい!』

 

『なんでもクソもあるかっ!! 家族を守るのは当たり前のことだろうがっ!!』

 

 たとえ身体を改造されても、レドは父を守るのだと吠える。

 

『父さんが、お前ら同盟軍を叩き潰す為の力をくれたんだっ!! 子供が親の願いを叶えるのは、当然だろうがっ!!』

 

 ────母さんの願いは、私が。

 

 ふと、去年の自分を思い出した。

 

「そうだよレド君!! こいつらをやっつけたらもっと強く強化してあげるよぉ!! だから僕を守ってくれぇえいっ!!」

 

「コイツッ!?」

 

 レドの父親の笑いにアルフが嫌悪に歯軋りする。

 ワニの口からの咆哮が鼓膜を震わせる。

 アスファルトの地面を蹴り、フェイトへと向かう。

 

「っ!?」

 

 フェイトも構えるがいつものような力強さはなく、何処か頼りない物だった。

 

(迷ってちゃダメだ! 彼らは闇の欠片で現実じゃない!)

 

 そう自分に言い聞かせて奮起する。

 なのに。

 なのに。

 親の為に必死で戦うその姿がどうしても重なって。

 

「フェイトッ!」

 

 心配と焦りの入り混じった声でアルフが叫ぶ。

 解っている。

 解っているのに。

 

 レドの突きがフェイトの胸を打ち抜く。

 大きく後ろに飛ばされながらも姿勢制御をする。

 

「消えろぉ!!」

 

 レドのワニの口からの大量の魔力を使う魔法が発動しようとしていた。

 

「こんのっ!」

 

 アルフが助けようとしてくれているが、恐らくは魔法の発動の方が早い。

 

「ガァッ!!」

 

 その口から砲撃魔法が発射された。

 フェイトの防御も回避も間に合わなくて────。

 

「大丈夫か? フェイト」

 

「クロノ……?」

 

 思わず目を閉じてしまったフェイト。

 目を開けるとそこにはクロノがフェイトを守って立っていた。

 レドの砲撃を防いだクロノは警戒しつつフェイトに話しかける。

 

「エイミィから連絡が来たんだ。ここからは僕が引き受ける」

 

 クロノの存在に安心してフェイトはその場に座り込んでしまう。

 そしてくしゃりと顔を歪めた。

 

「クロノ、私、わたし……」

 

「君達の念話での会話は僕も聞いていた。だから、ここからは僕に任せて休むんだ」

 

 有無を言わせない言動が自分を気遣っての発言だと理解してフェイトを身体を震わせる。

 ポタポタと地面を水滴で濡らして。

 

『なんだお前はっ! 邪魔を、するなぁっ!!』

 

 今度はクロノへと襲いかかろうとする。

 が、途中で大きく転けた。

 

『なっ!?』

 

 見ると、レドの膝から下が氷漬けにされていた。

 

「身体能力や頑丈さは大したものだが、感覚は鈍いらしいな。苦しませずに倒せそうで少しは罪悪感が減りそうだ」

 

 クロノはデュランダルをレドに向ける。

 すると凍らされた脚から上へと氷がレドの肉体を侵食する。

 

『クソッ!?』

 

 ワニの口で唸り、念話でレドの焦りが伝わってくる。

 彼の抵抗も虚しく、全体が氷漬けになるのに、そう時間はかからなかった。

 コツン、とデュランダルで氷漬けになったレドを叩くと、彼の肉体は鏡のように粉々となった。

 

「ヒッ!?」

 

 それを見ていたレドの父親は、顔を恐怖に歪ませて逃げようとするも、クロノがバインドで拘束する。

 

「この、放せ! 僕を誰だと────」

 

 抵抗するが、クロノがデバイスを突きつけると、その顔は恐怖に歪む。

 

「そ、そうだ! 僕は投降するよぉ! それに、君達の軍に僕の知識を存分に活かしてあげよぉ!! 悪い話じゃないだろう?」

 

 命乞いを始めるレドの父親にクロノは小さく息を吐いた。

 

「貴方が闇の欠片で良かった。もしも本当の犯罪者なら、僕も冷静に対処出来ていた自信はない」

 

「ま、待てっ!?」

 

 それだけ告げるとクロノは砲撃魔法で敵を消し去った。

 消えた敵の存在を振り払うようにクロノはフェイトに駆け寄る。

 

「立てるか?」

 

「う、うん」

 

 差し出された手を掴んで立ち上がるフェイト。

 戦闘で役に立てなかった事を落ち込む。

 

「戦えなかったのは、それだけフェイトが優しいという事だよ。気にするな、とは言わないが、必要以上に引きずる事はない」

 

 素っ気ない言葉だが、その中に隠された優しさにフェイトは確かに気付いていた。

 お礼を言おうとすると、別の人物がこの場に飛んできた。

 

「フェイトちゃん! 大丈夫っ!? エイミィさんに言われて応援に来たんだけどっ!」

 

「なのは。うん。大丈夫だよ。クロノが倒してくれたから」

 

 そこでエイミィが通信を開く。

 

『いやー。クロノ君ってば、フェイトちゃんが危ないって知って、血相変えて助けに行ったんだよ〜』

 

「エイミィ!!」

 

『褒めてるんだよ。いいお兄ちゃんしてるねって』

 

 文句を言いたげなクロノをエイミィがあしらう。

 しかしそれもすぐに真面目な表情へと変化した。

 

『それより、みんな! マテリアルとあのキリエって子が海鳴付近の海上に現れたよ』

 

「本当ですか!」

 

「そういう事は先に報告してくれ」

 

 驚くなのはと頭を押さえるクロノ。

 

「分かった。僕達は現場に急行する。いいな?」

 

 確認を取るクロノに全員が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!」

 

 アインハルトは兵士達の鎧に拳を叩き込む。

 

(通らない!)

 

 アインハルトの拳は貫通までには届かず、精々多少の衝撃を内部に伝える程度だ。

 打った感触からして打ち抜く事は出来ると思うが、最大威力を出す為の溜めが絶対に必要であると判断する。

 敵の攻撃は鋭く速い。アインハルトは一旦受けに回ると回避するので精一杯だった。

 

(強いっ!?)

 

 1人1人が間違いなくアインハルトより格上の戦士だ。

 気を抜けばそこから一気に畳みかけられるだろう。

 それでもアインハルトがこの戦闘でまだ殺されていないのは、単に味方の援護のお陰である。

 

「アインハルト! 無理に倒そうとしなくていい! 自分が生き残るのを最優先に!」

 

「はい!」

 

 ティアナの指示にアインハルトは素直に返す。

 射撃魔法での牽制でどうにか命を繋ぐ。

 それを情けないとは思わない。役に立ってないのではないかという疑問も。

 そんな疑問が頭を過ぎれば、それが死に繋がると感じ取っているから。

 反対にティアナの方はアインハルトを高く評価していた。

 

(近接戦ならあたし以上で、スバルやエリオよりちょっと見劣りするくらいね)

 

 それがティアナのアインハルトへの評価だ。

 キャロはやられた彩那の治療に専念してもらっている現状でこのレベルの増援はありがたい。

 

「だぁあああぁっ!!」

 

 破壊力に優れたスバルがまた1人敵を撃破する。

 エリオとアインハルトが敵を引き付けつつ、スバルが単機撃破を狙う。

 ティアナは誰か死なないように視野を広く持ちつつ援護である。

 

(あのバケモノが下がってくれてるからよね)

 

 将軍と呼ばれた男は部下達に手柄を与えようとしているのか、この戦いに参戦して来ない。

 侮られていると思えば怒りも沸くが、今参戦されたら間違いなく詰む状況。

 ついでに逃げようとしてもアレが許さないだろう。

 だから適度に時間を潰しつつ増援待ちに徹している。

 しかし、それが淡い期待だと自覚もしていた。

 

「もうよい。下がれ……」

 

 兵が10を切ったところで将軍が前に出る。

 ただの1歩なのに、その威圧感で数倍は大きな怪物と対峙した気分だった。

 

「女子供と侮ったが、お主らは強いな。流石はホーランドの勇者の部下と言えよう。ならば此方も敬意を持ってわし自らお主らの首を刎ねてやろう。覚悟は良いな?」

 

 鉄の鎧が音を立てて歩く。

 ティアナはマズい状況に唇を噛んだ。

 

(どうする? どう撤退すれば!?)

 

 この場で誰も取り溢さずに逃げる方法を思案する。

 だが、どう考えても1人か2人は犠牲になる未来しか見えない。

 そこでスバルから念話が届く。

 

『ティア。みんなを連れて撤退して。ここはあたしがなんとかする』

 

『はぁ!? スバル、アンタなに言って────!』

 

『もちろん、考え無しに言ってる訳じゃないよ。あたしにはまだ使える切り札があるからね。それを使えば、少しは持ち堪えられる、と思う』

 

 スバルにはこの場でティアナしか知らない秘密がある。

 確かに、それを使えばスバルの戦闘能力は向上して少しはあの将軍相手でも少しは戦えるかもしれない。

 しかしそれは、スバルにこの場で死ねと命じるような物だ

 

『スバルさん……?』

 

 2人の念話にエリオが不安そうにしている。

 

『大丈夫だよ、エリオ。死ぬ気なんてさらさらないから。ちょっと無茶するだけ。ここはあたしに任せて』

 

 明るい声で安心させるように言うスバル。

 深呼吸してから、構えを取る。

 

「行きます!!」

 

 ティアナ達が止める間もなく、敵に向かおうと────。

 

「はいそこまで」

 

 左の足首を掴まれて盛大に転けた。

 

「あ、綾瀬副部隊長っ!?」

 

 転んで打った鼻を押さえながら、起き上がった彩那に驚く。

 

「なにをするつもりかは知らないけど、やめておきなさい。貴女達がどう挑んでも無駄死にするだけだから」

 

 ペッと血の混じった唾を吐いてから立ち上がる。

 

「やはり無事だったか。武器の当たりが浅いとは思ったが……」

 

「生憎と、悪運には自信があるのよね」

 

 バーン将軍の呟きに彩那は聖剣を仕舞い、霊剣を構える。

 斧が当たるあの瞬間に、彩那は身を引いて攻撃の威力を削ぎつつ、鎧の下に薄いシールドを張っていた。

 その威力で急降下していく中で霊剣を引き抜き、肉体自体の強度を強化しつつ、バウンドシールドの応用魔法で地面に激突する瞬間にクッション代わりにした。

 派手にバウンドしていたのはその為だ。

 出血も、将軍にやられた物ではなく、先日の戦闘での傷が開いただけ。

 

(流石に無傷とはいかなかったけど……)

 

 肋骨に罅が入っている。

 その他のダメージの蓄積でもう長時間は戦えない。

 

「あまりお客様の手前、品の無い勝ち方はしたくなかったけど、しょうがないわね」

 

「ほう? それはまるで手段を問わなければいつでもわしを屠れた、とでも言いたげだな」

 

「試してみましょうか」

 

 スバルより前の位置に立ち、霊剣を構えて地面を蹴って将軍へと向かう。

 

「馬鹿め!」

 

 短絡的に真っ直ぐ突っ込んでくる彩那に、将軍は斧を振り下ろす。

 彩那はそれを避けると、振り下ろされた斧を踏み、そのまま将軍を跳び越える。

 

「甘いわっ!!」

 

 背後を取ろうとする敵を追撃しようと動くが、彩那は将軍の後ろに居た兵の背後を取り、その背中を蹴りつけた。

 

「なっ!?」

 

 将軍は自分の方へと流れて行った部下を受け止める。

 そのまま彩那は急接近し、敵兵の首と将軍の右腕の肘から下を斬り落とした。

 首を切り落とされた敵兵は魔力に還り、将軍は斬られた腕を押さえる。

 

「貴様っ!!」

 

 兜で表情は見えないが、きっと憤怒に塗れているだろう。

 

「こんなところでダマになってる方が悪いのよ」

 

 そう告げて彩那は近くに居た兵を魔法で将軍の方へと弾き飛ばす。

 

「くっ!?」

 

 今度は受け止めず、押し退ける形で避け、左腕を狙ってきた彩那の攻撃を防いだ。

 

「ボサッとするなっ!! 散れいっ!!」

 

 将軍の指示に兵達は2人の戦いから距離を取る。

 これで味方を盾にされる心配は無くなった。しかし。

 

「シッ!」

 

「チィ!?」

 

 将軍の右側に回りつつ、剣を振るう彩那。先程より手数が減った事で、彩那と攻守が完全に入れ替わっていた。

 カウンターで左の手首も斬り落とす。

 

「終わりよ」

 

「くっ! この程度で! 貴様らに我が祖国の土を踏ませてなるものか!!」 

 

 両手を失っても戦意を衰えさせないバーン将軍に彩那は憐れみと憤りの視線を向けた。

 

「貴方のお孫さんには悪いけど、やっぱり私達が勝利したのは正しかった」

 

「まだ敗けておらんっ!!」

 

 敗北を認めない将軍に霊剣を向けながら話す。

 

「あの時代、帝国の侵略に抗う為に他国との同盟は必須だった。もう自国だけの問題で終わらせて良い段階はとっくに過ぎていたのよ」

 

 彼らの祖国であるオーバンス国がたとえ勇者を退け、同盟軍を討ち倒したとしても、闇の書を抱えていたベルカのヒンメル王国や帝国の相手では確実に呑み込まれていた。

 

「時代に乗り遅れたあの国は、遅かれ早かれ敗北していたわ。況してや、貴方を失ってすぐに停戦に同意した程度の国なら」

 

 バーン将軍の一強なところがあったあの国は、その将軍を失うとこれまでの反抗が嘘のように白旗を挙げた。

 

「これ以上、過去の存在に時間を割いてる余裕はないの。さっさと消えなさい」

 

「吐かせっ!!」

 

 その巨体を活かして突進して来る将軍。

 彩那は待ち受ける形で構えを取った。

 

(スーパー)勇者斬り……!」

 

 振り下ろした霊剣がバーン将軍の肉体を真っ二つにする。

 

「無念……」

 

 バーンの肉体が魔力へと還される。

 同時にこの場で彼が基点だったのか、残っていた部下達も、あとに続くように魔力となって消えていった。

 

「どういうこと?」

 

 スバルが疑問を口にするが、誰も答えられない。

 彩那が息を切らしてその場に膝をついた。

 近寄ろうとしたが、敵の首と腕を同時に斬り落とした姿が頭を過ぎって躊躇ってしまう。

 ただ1人を除いて。

 

「先生っ!」

 

 アインハルトが駆け寄って彩那を支える。

 

「先生はやめてったら……」

 

 苦笑する彩那。

 その弱った姿に安心して、ティアナ達も彩那に近づく。

 そこでリンディからの通信が入る。

 

『やっと繋がったわ。大丈夫? そこの結界だけやたら強固で侵入や通信が難しかったの。ごめんなさい』

 

 援軍が来る気配がまったく無いのが不思議だったが、どうやら見捨てられた訳ではなかったらしい。

 

「海鳴周辺の海上で例の子達が発見されました」

 

「分かりました。10分程休んだら、向かいます」

 

 そう言うと彩那は懐から小さな注射器を取り出して、自分の首に乱暴に打つ。

 

「って、なにしてるんですか!?」

 

 彩那の突然の奇行にキャロが驚きの声を上げる。

 

「ただの増血剤よ。血を増やさないと……」

 

 あの世界から持ってきた数少ない薬だ。

 まだ戦わないといけないのだ。

 しかし、リンディの指示は彩那からは意外な物だった。

 

『いえ、彩那さんはこちらに戻って来てください。あちらへの対応はクロノ達に任せます』

 

 どう見ても重症な彩那をこれ以上現場に出す訳にはいかないと、リンディは帰還を命ずる。

 しかし、彩那はそれを聞き入れなかった。

 

「問題ありません、行けます」

 

 敵の目的は何であれ、絶対にここで阻止しなければならない。

 なら、戦力を集中させるのは当然だ。

 まだ戦おうとする彩那にその場に居る全員が止める。

 

「無茶ですよ、そんな怪我で!?」

 

「そうです! 早く本格的な手当をしないと!」

 

 スバルとキャロがそう止めるが、無視して動こうとする彩那。

 それにリンディが指示を出す。

 

『あなた達、申し訳ないけど、彩那さんを無理やりでもこっちへ連れて来てください。彼女のこれ以上の戦闘参加は認められません』

 

「は、はい!」

 

「ちょっと!? あなた達!」

 

 取り押さえてくる全員に彩那が身じろぎして抵抗する。

 アインハルトが彩那を羽交い締めして首を締める。

 

「すみません、先生! どうかご容赦を!!」

 

 そのまま彩那を絞め落とした。

 元々出血が酷かった事もあり、彩那はあっさりと意識を手放す。

 

『ありがとう。それじゃあ、彼女をこっちまで送ってください』

 

「はい!」

 

 彩那を抱えて5人は治療班の下へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツヴァイの案内ではやて達がやってきたのは、もう閉鎖されただろうクリニックの建物だった。

 

「ここにリインフォースが……」

 

「はやてちゃん、焦るのは分かりますけど、どうか冷静に」

 

「うん、分かってるよ。こういう時こそ冷静な行動をってクロノ君も言うてたからな」

 

 それでも、連れ去られた家族が心配で堪らないのは変わらない。

 

「先ずは我が突入します。罠の可能性もあるので慎重に行きます」

 

「お願い。ザフィーラ」

 

 頷くと同時に人型のザフィーラが窓から突入する。

 少し間を置いてからザフィーラから念話が送られてきた。

 

『主。リインフォースを発見しました敵の姿はありません。罠の形跡も。恐らくは既に立ち去った後かと』

 

『ほんま?』

 

「はい……」

 

 ザフィーラの念話に3人は顔を見合わせたが、すぐに中へと入る。

 すると、診察台に寝かされているリインフォースはすぐに発見出来た。

 

「リインフォースっ!!」

 

 はやては駆け寄り、リインフォースに触れる。

 表情が動いた後、閉じていた目蓋が開いた。

 

「ある、じ……?」

 

 頭痛を抑えるように頭に手を当てるリインフォース。

 一先ず生きている事に安堵する。

 

「リインフォース、大丈夫か? 酷いことされてない?」

 

「は、い……」

 

 とても疲れた様子を見せるリインフォースだが、瞳の焦点が定まってくると、何かを思い出した様子ではやての肩を掴んだ。

 

「リインフォース?」

 

「我が主! 彼女達を止めてください! 早くっ!!」

 

「ど、どうしたですか!?」

 

 リインフォースの慌てようにツヴァイが首傾げる。

 自分の危機感が上手く伝わらない事に焦りながらリインフォースは言葉を紡ぐ。

 

「永遠結晶……あの子が、目覚める……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱりフォワードメンバーの扱いは難しいわ。
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