初めて友達が死んだ。
棺の中で眠る冬美ちゃんを見てもイマイチ現実感が湧かなかった。
綺麗に化粧を施されて眠る彼女は今にも起き出しそうだ。
璃里ちゃんは献花する花を手に既に涙を流している。
渚ちゃんは俯いて握り拳を震わせていた。
この世界に来てそれなりの年数が経過している。
共に戦場に立ち駆け抜けた人達は誰もが冬美ちゃんの死を悼んでくれた。
だが遠巻きには心無い声もある。
『まったく。決戦も近いというのに、勇者に欠落なんて』
『新たな勇者を喚ぶにもな……』
『こちらの予定を狂わせてからに』
そして次に聞こえた言葉に思わずカードになっている聖剣に手が伸びた。
『あれだけ優遇してやったというのに、死んでしまっては価値がない。とんだハズレだったな、アレは』
勝手に呼び出して、戦争をさせた癖にこの言い草。
普段冷静に振る舞っていた冬美ちゃんがこの世界に喚ばれてどれだけ傷付いたか。
当たり前の生活を奪われた私達の気持ちを知りもしないで。
聖剣を抜いて暴れたくなる心境になると、パチン、と頬を張る音がした。
冬美ちゃんの死を侮辱した貴族の頬を叩いたのは私達と同い年の少女であり、この国の王女であるティファナ・ホーランドだった。
『この国の。そしてこの世界の為にと戦いに身を投じてくれた勇者に対して、何と言う事を言うのです。貴方のような方が我が国に居る事は恥です。即刻、この場から立ち去りなさい!』
毅然とした態度で貴族を睨む王女。
しどろもどろ言い訳をしていたが、王女が騎士に命じて退席させた。
『我が国の者が申し訳ありません、勇者様方』
そう言って頭を下げる王女。
彼女とは年齢が同じであることからプライベートでは気心知れた友人だった。
この世界に喚ばれた頃はよく一緒に行動していた。
ティファナ王女が棺に献花する。
『ごめんなさい、フユミ。せめて貴女を、故郷の地で眠らせてあげたかった』
涙は流さなかったが、その姿は本当に冬美ちゃんの死を悲しんでくれているのだと、少しだけ救われた。
彩那は親の目を盗んでジュエルシードの現場へと急行していた。
ここ最近帰りが遅かったり、家を抜け出していることがバレた。
過去に行方不明になった彩那は両親からの多大な心配をされている。
今でこそある程度の自由が許されているが、この世界に戻った当初はほぼ監視されているのと変わらない程に側を離れたがらなかった。
なのはとの訓練を早めに切り上げるのはそういう理由もある。
感覚からジュエルシードの暴走は治まっているようだが。
現場と思われる公園に着くとそこには、黒いコートを着た少年がなのはに
(まずいっ!?)
なのはのピンチにぞっとして大急ぎで1本の剣を抜く。
「魔剣の災禍をっ!」
「んっ?」
黒いコートの少年は直前で彩那に気付き、振るった1撃をデバイスで防御するが、力ずくでなのはから距離を取らせた。
「くっ!? なにをっ!!」
「彩那ちゃん!?」
「遅れてごめんなさい。援護をお願い!」
誘導刃を4つ生み出し、黒コートの少年に向けて発射した。
刃が3つ先行し、少年が咄嗟に張ったシールドに直撃する。
派手な爆発を起こし、目眩ましをして背後に最後の1つが迫る。
「ナメるな!」
直前で誘導弾を撃ったことで相殺し、同時に接近した彩那の剣をデバイスで受け止める。
「おい! これ以上の攻撃は、公務執行妨害になるぞ!」
「何を警察みたいな事を!」
一旦距離を取って構えを直す。
何故かフェイト達は撤退したらしい。
(仲間じゃない?)
なのはが挟まれていたことで焦ったが、もしかしたらフェイトの仲間ではない可能性が浮上する。
そこでユーノが声を上げた。
「待って彩那! 彼は時空管理局の局員だよ!」
以前聞いた組織の名前に彩那は警戒を解かないまま、ゆっくりとなのはの近くまで移動する。
睨み合う状態が1分続いたが、相手の方が構えを解いた。
「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。君達には今回の事件に関して説明を求めたい」
相手の態度から嘘は感じない。
あの世界でそれなりに悪意と嘘に揉まれた彩那には人を見る目にはそれなりに自信があった。
だがそれでも疑問がある。
「私や高町さんと然して変わらない男子に見えますが?」
ユーノに念話で確認を取る。
管理局に対してある程度信用出来る情報源が彼だけだからだ。
『うん。管理局っていうか、次元世界では僕達くらいの年齢の子が仕事をするのは珍しいけどそれなりに居るよ。執務官はかなりのエリートだけど』
僕達、という事はユーノも彩那達と同いくらいの年齢なのだろうか?
後で訊いて見ようと思っているとクロノが眉間にしわを寄せて少し不愉快そうな表情になる。
「何か思い違いをしているようだが、僕はこう見えても14だ」
『えぇっ!?』
なのはとユーノが声をハモらせて驚く。
彩那も声にこそ出さないが瞬きをして呆けた顔になる。
本人も顔や背丈が低く見られる外見を自覚しているのだろう。それ以上は態度に出ることはなかった。
しかし、管理局という組織が自分達にとって害がないと判断して警戒を解く理由にはならず、膠着していると、空間にテレビ画面の映像のような物が映し出される。
その枠からは、緑色の髪の女性が映っていた。
その人物がこちらに話しかけてくる。
『時空管理局提督リンディ・ハラオウンです。どうやら複雑な事情があるようですが、どうかこれまでの経緯を聞かせてもらえませんか? もちろん、あなた方に危害を加えない事をお約束します』
それを聞いても引かない彩那にユーノが念話で話しかける。
『この人達が管理局なら手荒いことはしないと思う。僕も向こうに確かめなきゃいけない事があるから』
ここは従って欲しいという旨を話す。
そこまで言って武器を納めた。
これ以上膠着していても仕方ない面もある。
「分かりました。そちらに従います」
案内されたのはアニメにでも出てきそうな宇宙戦艦みたいな物の中だった。
それと先程の戦闘はフェイトを捕らえようとして動いたクロノが彼女に攻撃しようとしてそれを止めようとなのはが割って入ったらしい。
それが離れた所から見た彩那には挟み撃ちにしているように見えただけ。
(巨大ロボットとか置かれてたりして)
そんな馬鹿な妄想をしつつも、ここまでの道順を頭に入れている。
すると途中でクロノが足を止めた。
「君達も、もうバリアジャケットを解いて楽にしてもらって構わない」
言われてみれば、いつまでも戦闘状態で居られると向こうが安心できないのだろう。
実際クロノの方も先ほどの黒コートではなく、ジャージのような服に変わっている。
すぐにバリアジャケットを解除しようとするなのはに念のため警告しておく。
『ここでバリアジャケットを解くのは構わないけど、すぐに再装着出来るように気構えていて。本当に私達にとって味方なのか、まだ分からないから』
『え? う、うん。分かった』
彩那となのはが同時に防護服を解き、私服に変わる。
「その顔の包帯は?」
「昔、顔に傷を。それに醜女の素顔なんて見ても気を悪くするだけでしょう?」
「……それは失礼」
どうやら、素顔を隠すための偽装だと思っているようだ。
まぁ、首から上の殆どに包帯が巻かれているので、不審に思うのも無理はないが。
そこでクロノの視線がユーノに移る。
「君も、いつまでその姿でいるんだ?」
「あ、そうですね。ずっとこの姿で居たから」
そう言ってフェレットが発光すると中の影がだんだんと大きくなり、人型のシルエットを映す。
それが収まると出てきたのは、なのは達と同い年くらいの中性的な見た目の少年だった。
「え? えぇっ!? どういうこと~」
ユーノの姿に1人混乱するなのは。
その反応にユーノもアレ? と首を傾げる。
「初めて会った時、こっちの姿だったよね?」
「違う! 違うよ~!? フェレットの姿だった! そ、それに彩那ちゃんは何で平然としてるの! もしかして知ってたの!」
「いいえ。ただ、スクライア君の魔力の感じから偽装が施されているのは分かってたから。高町さんも知っているものかと思って」
彩那の言葉になのははどう返せば良いのか分からず頭を抱えている。
「君達の中で食い違いがあったようだが、悪いがそれは後にしてくれ。艦長を待たせてるんだ」
尋問室のような狭く暗い場所にでも案内されるのかと思ったが、通されたのは異様な場所だった。
そこそこの広さのある部屋で何故か畳が敷かれている。
盆には急須や湯呑みが置かれている。
その室内になのはも彩那も唖然としている。
その中心に座っているのはリンディと名乗った先程の女性。
「こちらの要請に応えて頂きありがとうございます。お名前をお聞きしても?」
「あ、はい! ユーノ君のお手伝いをしている高町なのはです!」
「同じく、綾瀬彩那です」
「2人に手伝ってもらっている、ユーノ・スクライアです!」
そこからはユーノが先ず、今回の事件の経緯を説明した。
もちろんこれまで2人が関わった経緯を含めて。
単独でジュエルシードを封印しようとしたユーノの行動をクロノは無謀と口にする。
(そう思うなら、もっと早くに来て欲しかったけど)
フェイト達が介入してくる前もジュエルシードは暴走していた事件。
そのどれもが、大きな被害をもたらす物だった。
それらをユーノ達なりに最小の被害で食い止めたのだから、無謀の一言で切らないで欲しい
そこからはロストロギアと呼ばれる遺物に関する説明を受ける。
失われた世界に遺された技術の結晶。
それは時に世界さえ滅ぼすことの可能な危険な物だと。
その説明を終えるとリンディが決定を口にした。
「これより、ロストロギアであるジュエルシードの回収はアースラが全権を持ちます」
その決定になのはとユーノが驚く。
「君達もこれまでの事は忘れて、それぞれの生活に戻ると良い」
クロノもこちらを気遣う口調でそう言っていた。
これも当然の事だ。
ちゃんとノウハウがあり、対処出来る組織があるのなら、そちらがどうにかする方が確実だろう。
素人が手出しして事態を悪化させる方が問題だ。
当事者の感情はともかく。
そこで、これまで無言だった彩那が手を挙げた。
「少し、よろしいですか?」