世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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番外編6:ズレた世界線(2)

 気が付くと彩那は薄暗い場所に立っていた。

 辺りには誰も居らず、周囲を見回すと、彩那の友達が居た。

 

(みんな、待ってっ!?)

 

 上手く声が出ないそれでも友達のところへ行こうと動くが、体の至るところに巻き付いた鎖によってそこから動けずにいる。

 なのに、みんなはどんどん遠ざかっていくのだ。

 

(ねぇお願い! 置いていかないでよっ!!)

 

 声が出ない。

 念話が使えない。

 みんなの姿が遠くなって消えていく。

 

(この────!)

 

 巻き付いている鎖を壊そうとするが、それが鎖ではない事に気付く。

 彩那を捕えていたのは白骨化した骨だった。

 

(あ……)

 

 後ろを振り向くとそこには夥しい白骨死体が地面を蠢いている。

 それらが一斉に彩那に襲いかかってきて────。

 

 

 

 

 

 

 彩那が目を開けるとそこはここ数日ですっかり見慣れた天井だった。

 

「また……同じ夢、なのね……」

 

 彩那はうんざりして大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで前回の戦闘での現場検証の報告は終わりやけど、何か質問や意見はあるか?」

 

 六課内の定期会議ではやてが報告書の読み終える。

 ここ最近、戦闘の規模こそ小さいが機動六課の出動は増えていた。

 しかし敵の目的は未だ見えず、市民に被害が出ないように動くのが現状だ。

 それから新人の訓練報告や他の部署との連係、地上本部への対応などを話し合う。

 一通り部隊内の話さなければならない連絡事項を終えた後に、はやてはフェイトに質問する。

 

「それでフェイト隊長。例の子の様子はどう?」

 

 先週、突如現れたあやせあやなと名乗った少女について。

 その質問にフェイトは小さく首を振る。

 

「ごめん。たまに会話にはなるんだけど、ほとんど自問自答してる感じで……」

 

 既に3回目の訪問となったが、まともな意思疎通には至っていない。

 時折フェイトの質問に答える事もあるが、今のところ自分の殻に閉じ籠もっている感じだ。

 暴れたりなどはしないが、今のところコミュニケーションに手詰まり感がある。

 

「お土産にお菓子とかも持って行ってるんだけど、手を付けた様子もなくて」

 

 危険度が低いと判断されてあやせあやなにお土産を持参する許可を病院側から下りたが、触れた形跡もなく、フェイトが置いた場所に放置してあった。

 病院の職員に聞いたところ、こちらが指示しないと殆ど動こうとすらしないらしい。

 話を終えるとはやてが口を開く。

 

「それでなんやけど。そのあやせあやな? を六課(うち)で引き取ろう思うんやけど。どやろか?」

 

 はやての提案に基本彼女に反対しないヴィータがバンッと机を叩いて立ち上がった。

 

「本気かよ、はやて!?」

 

 突然シグナムを襲った者を保護しようと言うのだ。この場にいる全員が驚きを隠せずにいる。

 

「傷も多少は残っとるけど、もう退院しても大丈夫やそうやし。病棟は別やけど、あの病院には一般の人も入院や通院もしとるからいつまでも預けとる訳にもいかん。もちろん担ぎ込まれた過程が過程やから、魔力を封印する手錠をかけた状態で来てもらうけど。フェイトちゃんの意見は?」

 

 手錠をかけられているジェスチャーをしながら1番長く接したフェイトの意見を訊く。

 意見を求めるはやてにフェイトは少し考えて答える。

 

「私は賛成かな。今のまま心を開いてくれるとは思えなくて。環境が変われば少しは心境の変化もあるかもしれない」

 

 病室に閉じこもったままでは何も進展しない。

 このままでは心を腐らせていくだけな気がする。

 あやせあやなの存在が気になるのもあるが、それ以上に心配だった。

 フェイトの意見を聞いたはやてが頷く。

 

「わたしとしても、その子の話を聞いて、色々と説明しておきたいこともある。そういう意味でも会ってみたい」

 

 闇の書は既に終わりを迎え、夜天の書の騎士としてはやての傍にいる。

 あやせあやなが闇の書とどんな関わりが有るかは分からないが、そこら辺は話しておきたい。

 その後にどう思うかは分からないが、まぁその時はその時だと思う事にする。

 そこでこれまで黙って話を聞いていたなのはが口を開く。

 

「う〜ん。ここに連れてくるなら、ヴィヴィオと仲良くしてくれないかな。歳も同じくらいなんでしょう? フェイトちゃん」

 

「おい」

 

 なのはの脳天気な発言にヴィータが目を細めた。

 どんな理由であれ、シグナムに剣を向けて圧倒した相手だ。幼子を近づけるなど論外だろう。

 

「うん。解ってるよ、ヴィータちゃん。だから私自身もその子と話してみたいなって」

 

 善い子か悪い子かはその時に判断すればいいと言うなのは。

 

「シグナムの意見は?」

 

「私は賛成です。あの娘が暴れれば、止められる者はそうは居ないでしょう。こちらで保護出来るならそうするべきかと」

 

「……言っとくけどな、シグナム。いくらこの前コテンパンにされたからっていきなり襲いかかるような真似すんなよ?」

 

「失礼な。そんな主はやての顔に泥を塗るような真似をするか」

 

 釘を刺すヴィータの言を否定するシグナム。

 安心していたら、しかし、と付け加える。

 

「機会が有れば、剣を交えたいとも思っている。あそこまで殺意を滾らせた剣を受けたのは久しぶりだからな」

 

 平和な時代を生きるフェイトやシャッハと剣を交えている時とは違う、戦場を駆けた者が纏う剣筋。

 それは今のシグナムにとって得難い存在だった。

 そんな危ない期待を膨らませる将に対してヴィータは頭を抱えた。

 

「ダメだこいつ。全然分かってねー」

 

 そんな呟きが漏れるくらいに。

 会議を締め括るようにはやてが手を叩いた。

 

「それじゃあ、あやせあやなちゃんは六課で預かるゆーことで。フェイトちゃん、送り迎えお願いな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手錠をかけられたまま病室を出るように指示される。

 

(これは……とうとう何らかの処罰が下るのかしら?)

 

 どこか他人事のようにそんな事を思う。

 別の部屋に案内されるとそこにはこの世界に来て何度か会いに来ていたフェイト・テスタロッサ・ハラオウンという名の女性が待っていた。

 

「それではハラオウン執務官。後はよろしくお願いします」

 

「はい。任せてください」

 

 最小限のやり取りの後に彩那はフェイトの女性に黒い車へと乗せられた。

 車内でフェイトが事情を説明し始める。

 

「ごめんね、いきなりで。貴女はこれから今私が所属する機動六課って部署で預かる事になったの。病院にいつまでも置いておく訳にもいかないし、生活面での安全は保証するから」

 

「監視、ですか……」

 

 彩那の言葉にフェイトは困ったように眉を動かす。

 違う、と言いたいところだが、実質そうなのだから否定は出来ない。

 

「ごめんね。出来れば、その手錠も外してあげたいんだけど、病院に搬送された経緯が経緯だから」

 

「構いません。私には、似合いのアクセサリーです」

 

 付けられた手錠を眺めて言う彩那。

 

(もしかして、この子なり冗談だったのかな?)

 

 そんな訳ないという考えと、そうであってほしいという想いがフェイトの中で同時に起こる。

 手錠を似合うなんて評するなど、まるで犯罪者だと言っているようではないか。

 話題を変える意味もあって、これまで気になっていた事を質問した。

 

「あやなってもしかして、地球の日本出身?」

 

「!?」

 

 それまで殆ど感情の変化を示さなかった少女が驚きの表情でフェイトを見る。

 その反応が答えだった。

 

「やっぱり。私もね、数年前の中等部を卒業するまでは日本で暮らしてたんだよ」

 

 世間話程度に話をするが、生憎と相手からの反応は返ってこなかった。

 ただ震えるように俯いていて、しばらく見ていた手の平を組む。

 その意味をフェイトが知る筈もない。

 

「大丈夫? もしかして車酔い?」

 

「だいじょうぶ、です……」

 

 辛そうにそう答える彩那。

 そこから会話が弾む事も無く、フェイトの車は宿舎に着いた。

 予定通りにフェイトは彩那を部隊長室まで案内する。

 中にはこの部隊の代表である八神はやてとその家族であるヴォルケンリッター。そして実働部隊であるスターズの隊長の高町なのはも揃っている。

 仲間を傷つけられた騎士達から警戒心が伝わってきたが、彩那は無視してやり過ごす。

 ここで揉め事を起こしても誰の得にもなりはしないし、彩那自身にもうそんな気力はない。

 最初に過去の経験からシグナムに斬りかかったが、その熱もとっくに冷めた。

 今はただただ心が気怠く、それに引っ張られるように体も鈍重。

 要するにどうにでもなれという自棄に支配されている。

 そんなやや緊張感のある空気の中でいつも通りに柔らかな笑みを浮かべて八神はやてが話しかける。

 

「はじめまして。この部隊の長を任されとる八神はやてです」

 

「はじめまして。綾瀬彩那です」

 

 簡単な挨拶を済ませるとはやてが彩那の手を見て謝罪した。

 

「ごめんなぁ。その手錠も外してあげたいんやけど。色々と不便やろ?」

 

「別に。問題ありませんよ」

 

 手錠と言っても、大の字とまではいかないが、それなりに腕は広げられる。

 魔力を封じる事に秀でた手錠なのだろう。

 その代わり、魔力を扱えない以上、今の彩那は見た目通りの運動能力しかない。

 暴れたところですぐに取り押さえられるだろう。

 

「そか。それより、フェイト隊長に教えてもらったんやけど、あやなも日本人ってほんま?」

 

 おそらくは念話で報告を受けたのだろう。"も"と言うからには名前通り彼女も日本人なのだろうと推測する。

 その推測を肯定するようにはやては頷く。

 

「わたしとそこのなのは隊長も地球の日本出身です」

 

 はやてはそう言いながら1枚の紙に自分の名前を書く。

 

「数字の"八"に神様の"神"で八神。それにひらがなではやて。貴女の名前も書いてみてくれへん?」

 

 紙を逆にしてペンと一緒に彩那に渡す。

 ペンを手に取って自分の名前を書いた。

 綾瀬彩那、と。

 もう日本語などとっくに忘れて書けないと思っていたが、特に意識せずに自分の名前を書く事が出来た。

 書かれた名前を見て、はやてが少し大袈裟に驚いて見せた。

 

「おぉ! 結構難しい漢字やのによく書けたなぁ。わたしの周りはひらがなの名前の子が多かったから逆に新せ────てうえぇっ!?」

 

 名前を覗き込んでいたはやてが驚きから素っ頓狂な声を上げる。

 ポタポタと、彩那の目から涙が溢れ落ちていたから。

 

「そう……これが、私の……」

 

 涙を流したまま、紙にひらがなやカタカナ。それと全然別の名前を書き始める。

 紙の白い箇所をインクの黒でどんどん埋めていき、もう字を書けるスペースが無くなってもその上から塗り潰す形で書き込み続ける。

 まるで、文字を書く事を噛みしめるように延々と。

 

「うん。忘れてない。忘れてないよ、みんな……」

 

 その呟きにどんな意味が有ったのか、本人以外には知りようがない。

 白かった紙は彩那が書き続けた文字で真っ黒に変わっていた。

 

「すみません、動揺しました」

 

「いや、うん。別にえぇんやけど。えっと……色々と書いとったけど、綾瀬彩那、でえぇんよな?」

 

「はい……」

 

 ペンから手を放すと、スーッと表情が無に戻る。

 はやてはその変化が生来の物ではなく、訓練された感情のコントロールだと直感した。

 

「お互いに名前も分かったことやし。先ずはコレな」

 

 机に並べられたのは4枚のカード。待機状態である彩那のデバイスだった。

 

「勝手にやけど調べさせてもらってな。でも解析は殆ど進まなかった。ある程度深いところまで解析をかけると、強制的に弾かれてな」

 

 魔法体系がミッドチルダ式やベルカ式とも異なる事もあり、ただでさえ難航してる上に閉じ籠もるようにしてこちらのアクセスを拒否してくる。

 インテリジェンスデバイスでもないのにだ。

 

「返して、いただけませんか?」

 

 デバイスからはやてに視線を移して頼む。

 しかし、はやての反応は芳しくなかった。

 

「う〜ん。わたしとして返してあげたいんやけど、ちょっと難しい。このデバイスに使われてる術式がわたしらの知らない魔法式なのもあるけど、彩那は曲がりなりにも局員に襲いかかった経緯があるからなぁ」

 

 珍しい魔法の保存や解析は管理局の義務だ。

 その上、目の前の少女はシグナムに斬りかかった、という前科がある。

 幸いにして死人こそ出なかったが、それでも彩那が局員を問答無用に襲ったのは事実だ。

 その事実を軽く見るべきではない

 

「お願いします。それは、大切な人達から預かった、大事な物なんです」

 

 そう言って彩那は頭を下げる。

 その姿に困ったように腕を組むはやて。

 

「どっちにしろ手続きも含めて今すぐ言うんは無理や。それでどうやろ? 彩那はしばらく六課の預かりになる訳やけど、その態度次第でデバイスを返しても問題無しと判断すれば返しますってことでどやろか?」

 

 要するに、問題を起こすなっという事だ。

 

「分かりました」

 

 彩那の方も不満を一切出さずに合意する。

 というより、もっと酷い扱いを受けると思っていたので拍子抜けしたくらいだ。

 そしてここからがはやて個人としての本題だった。

 

「うん。それでな。わたしの家族のことやけど……」

 

 はやては10年前の闇の書事件の顛末を話せる限り説明する。

 偶然闇の書の主に選ばれたはやてが9歳の誕生日に魔導書を偶然起動させた事。

 その後はしばらく平穏に過ごしていたが、はやてが闇の書の呪いによって死に近づいていった事で騎士達ははやてに禁止されていたリンカーコアの蒐集を開始。

 しかし、闇の書を完成させても残るのは集めた魔力を使っての暴走であり、その世界の崩壊を意味していると知ったのが、事件の終盤であった事。

 それから管理局の活躍といくつかの奇跡によって闇の書のバグは取り除かれ、元の夜天の書へと戻った事など。

 今は管理局員として働きつつ、贖罪の道を歩んでいる事も。

 

「そういう訳やから、もう闇の書は存在しないんよ」

 

 かなり掻い摘んでの説明だったが、彩那は最後まで聞き終える。

 綾瀬彩那と闇の書にどんな関係があるのかは分からないが、やられたからやり返すなど、当然NGである。

 彩那は視線を動かして騎士達を見回した後に考えるように顔を手で覆う。

 

「そう、ですか……」

 

「彩那?」

 

 彩那自身は闇の書が新しい主へと転生を繰り返す事は知っていても、暴走の事までは初耳だった。

 はやての話を信じるなら、既に闇の書────夜天の書は無害な魔導書と言える。

 それに、少なくとも彩那は騎士達の主への忠誠心は知っている。

 彩那はじっとはやてを見た。

 

「えっと……どしたん?」

 

 今の彩那は見た目が子供とはいえ、武器を向けた者を上から抑えつけるようとせず、出来る限り言葉を尽くして理解と納得を得ようとしている。

 それだけで、人格的に優れた人物に思える。

 

(前に敵に捕まった時は……やめましょう。思い出しても不快になるだけだし)

 

 思えば面会に来てくれていたフェイトも、仕事とは思えないくらいにこちらを気にかけていた、気がする。

 

「貴女のような人が主なら騎士達は大丈夫でしょうね」

 

 もしもその勘が外れたのなら、それは彩那自身に人を見る目が無かっただけの話。

 彩那の言葉に取り敢えずは納得してくれた物とはやては判断する。

 

「あはは。ありがとな。それじゃあ話を次に進ませるけど、彩那は地球の日本出身みたいやし。今すぐやないけど、いずれ日本に帰れるように手続きするつもり。だから住所とか教えてくれへん? ご家族に連絡も入れんと」

 

 はやてとしては、地球で暮らす友人やハラオウン家に頼ってどうにか彩那を親元に返すつもりだ。

 しかし彩那本人の反応は芳しくなかった。

 

「……今、日本は何年ですか?」

 

「え? 西暦の話? なら確か、20××年やったかなぁ。それが?」

 

「そう、ですよね。もうそれくらい……」

 

 小さくなった自分の手を見る。

 もしも自分の肉体が年相応なら。もしくは10年前のあの日から殆ど進んでなければ、帰る事が出来たかもしれない。

 だけどもう。

 

「帰れません。今更、帰ったところで意味がないので……」

 

 自分が娘だと信じてもらえるかどうか。

 俯く彩那に対してはやては問題を先送りにする事にした。

 

「う〜ん。事情はよう分からんけど、気が変わったらいつでも言うてな? 力になるよ?」

 

「……はい……ありがとうございます……」

 

 そこではやてが話を締め括る。

 

「それじゃあお話はここまでにしよか? フェイト隊長は彩那を部屋に案内して。なのは隊長とヴィータは昼から訓練やろ?」

 

 解散と手を叩く。

 フェイトに部屋へ案内するね、と手を引かれる。

 部隊長室を出たところで、小さな女の子が近づいてきた。

 

「ママ!」

 

 金髪でオッドアイの少女がなのはに抱きつく。

 

「なのはママ。お話終わったの?」

 

「うん。だけど、これからみんなの訓練だから、ね?」

 

 困ったように告げるなのはにオッドアイの少女は不満を呑み込むように、うん、となのはから離れる。

 それを申し訳なさそうにしているなのはが何かを思い付いた様子で手を合わせた。

 

「良かったら彩那。ヴィヴィオと一緒に遊んでくれないかな?」

 

「は?」

 

 なのはからの提案を理解するのに時間を有した。

 その提案にヴィータが焦った声を出す。

 

「正気かよなのは!」

 

「大丈夫だよ、ヴィータちゃん。ザフィーラも見ててくれるし」

 

 そこからは念話で何かしらのやり取りがあったのか、渋い顔で納得するヴィータ。

 2人の念話を終えた後にヴィータがデバイスを突き付けてくる。

 

「もしも怪しい真似しやがったら容赦しねーからな」

 

 静かに警告された。

 

「で、どうかな? 彩那……」

 

「……分かりました。そちらが構わないのでしたら」

 

「うん。ありがとね」

 

 特に断る理由無かったので引き受ける事にした。

 

「じゃあ、彩那の部屋に案内するから、そこで遊ぼうか」

 

 そう言ったフェイトに部屋まで案内された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で? どう思う?」

 

 彩那達を退室させた後に、はやては椅子の背に体重を預けて隣に立つシグナムとシャマルに意見を求めた。

 

「はい。以前私と戦った時とは大分印象が変わりますね。どうにも疲れ切った様子です」

 

「そうね。まるで戦場から帰ってきた兵士みたい」

 

 シャマルの例えにはやては心が重くなるのを感じる。

 正直、想定よりもずっと心に何かを抱え込み、壊れそうな感じにどう接するべきか迷ってしまった。

 どうしたら、あの歳の子があんな絶望に塗れた眼になってしまったのか。

 

「しばらくは様子見やね。あの答えじゃ、帰れない理由があるのか、それとも帰る所が無いのかよう分からんし」

 

 どうしたもんかなー、とはやては頭を悩ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう。ここをこう折って────」

 

 ザフィーラ監視の下で、彩那はヴィヴィオに折り鶴を教えていた。

 折り紙を用意したのはフェイトで、彩那を部屋に案内した後にこの場をザフィーラに任せて自分の仕事に向かってしまった。

 彩那が指を重ねてヴィヴィオが折り鶴を折れるように誘導する。

 そうして完成した1羽の鶴。

 

「今度は、1人で折ってみましょうか」

 

「う、うん!」

 

 サポート無しで今度はヴィヴィオ1人で折り鶴に挑戦する。

 2枚失敗したが、3枚目でやや不格好ながらちゃんと折り鶴が完成した。

 自分だけで折れた鶴を手に載せて嬉しそうに眺めるヴィヴィオ。

 

「よく出来ました」

 

 そう言って頭を撫でてあげると、くすぐったそうだが、目を細めて受け入れてくれた。

 

「教えてくれてありがとう」

 

 ────ありがとうございます、アヤナおねえさま! 

 

 その笑顔に、かつて慕ってくれて、最後には傷つけてしまった少女顔がチラついた。

 

「これをあげたら、ママ喜んでくれるかなぁ?」

 

「えぇ。きっと喜んでくれるわ」

 

 彩那は小さく笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機動六課に世話になって数日。彩那は毎日のように行われている訓練を見学していた。

 ガジェットと呼ばれる無人機と戦う4人。

 それを眺めながら、自分ならどう戦うかを脳内でシミュレーションする。

 あの日にヴィヴィオの遊び相手を任された彩那だが、付かず離れずの距離を保っていた。

 決して邪険にはしないが、自分から近づく事もしない。

 むしろあの折り鶴の件からヴィヴィオから話しかけてくるくらいだ。

 脳内シミュレーションを終えると、フェイトが近づいてきた。

 

「ここに居たんだ」

 

「すみません」

 

「謝らなくていいけど、ヴィヴィオが探してたから」

 

 そういえば、ミッドチルダ語の読み書きを教える約束をしてたか。

 

「すぐに戻ります」

 

「……ヴィヴィオとは、どう?」

 

「問題ない、と思います。良い子ですねヴィヴィオは」

 

 私と違って、とは口にださない。

 

「でも、彩那は自分から近づかないように見えるから。もしかして、思うところがあるのかなって」

 

「純粋にあの子の事は好きですよ。嫌いになる理由も無いですし。ただ……」

 

「ただ?」

 

「好きだから、側に居るのが怖いんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして。

 機動六課の部隊長である八神はやてを筆頭に、ミッドチルダの地上本部に出向く。

 

「ママ……」

 

 中々離れようとしないヴィヴィオに困った顔で彩那に娘を預けるなのは。

 

「ヴィヴィオをお願いね、彩那」

 

「はい」

 

 まだ1か月も経ってないのに、随分と信用されたな、と思う。

 

 それから。

 それから────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はやて達が地上本部に向かって数時間が経過した。

 彩那はヴィヴィオに絵本を読み聞かせていると、嫌な感覚に襲われる。

 虫の知らせ、とでも言えばいいのか。

 

(なにか、嫌な予感がするのよね……)

 

 六課宿舎の寮母をやっているアイナが菓子とジュースを持ってきてくれたと同時にそれは起きた。

 突然襲ってきた爆発音と揺れ。

 

「きゃっ!?」

 

 倒れそうになったヴィヴィオを咄嗟に抱き止める。

 シャマルが部屋に入ってきたのはそれから2分後の事だった。

 

「みんな、無事!!」

 

「なにがあった?」

 

 ザフィーラがシャマルに問いかけると、慌ただしい様子で説明を始める。

 

「今、この宿舎周辺に大量のガジェットが転移して現れたの! 急いで避難を! 私とザフィーラは外に迎撃へ!」

 

「承知した」

 

 シャマルの様子にヴィヴィオが身を震わせた。

 そこで再び爆発による揺れが起きる。

 只事ではない事態に、彩那はシャマルに話しかけた。

 

「湖の……この手錠を外しなさい。魔力の封印を解くだけでも良い」

 

「彩那ちゃん?」

 

「私なら、そのガジェットを1人でも殲滅してみせる。なんにせよ、戦力は1人で多い方がいいでしょう?」

 

 戦力の大半が留守にしている状況で、守護と補助がメインの雲の騎士2人では包囲されているらしい現状を守り切れるかは微妙だ。

 彩那が加わるだけで大幅に被害を減らせるだろう。

 

「……」

 

 もしも騎士達に、ホーランドの勇者と戦った記憶が有れば、規則や権限を無視してでも彩那の提案を呑んだかもしれない。

 

「駄目よ。彩那ちゃんはヴィヴィオちゃんの側に居てあげて。外の敵は私達でなんとかするから」

 

 そこで彩那を安心させる為にか笑みを見せる。

 

「大丈夫。みんなもすぐに戻って来てくれる。それに、私達も簡単にやられる程やわじゃないわ」

 

「我らが居る限り、これ以上敵の好きにはさせん。行くぞシャマル!」

 

「えぇ!」

 

 時間が無いと迎撃に出る騎士2人。

 

「待ちなさい! くそ……!」

 

 魔力の封印されたままの状態に苛立ちを募らせる。

 

「さぁ! 早くこっちへ!」

 

 アイナに促させるままにヴィヴィオを連れて奥へ奥へと避難する。

 途中で何人かの局員と合流して行動を共にした。

 外からの攻撃は続いているらしく、あちこちで建物の崩壊は始まっている。

 局員達がまだ子供であるヴィヴィオと彩那を気遣いつつ、安全な場所へと誘導してくれていた。

 しかし、その移動も突然の魔法攻撃により中断させる。

 

「見つけた……」

 

 感情に乏しい声と共に現れたのは、長い紫色の髪の少女。

 その横には、細身の甲冑、と最初は思ったが、おそらくは人型の魔法生物らしき敵が立っていた。使い魔か何かだろうか? 

 

「2人?」

 

 コテン、と首を傾げると少女は誰かと通信を繋ぐ。

 

「ドクター。子供が2人……どっち? それとも両方?」

 

『それ……金ぱ……の……たの…………こ……しは……』

 

 通信相手の声はよく聞き取れなかったが、金、という単語から狙いはヴィヴィオだと推察して背に庇うように立つ。

 

「どいて。わたしたちの目的はそっちの子。あなたじゃない」

 

 態々忠告してくる敵に威嚇するように構えを取る。

 ほぼ魔力が使えない今の状態では無謀だと理解をしているが、だからと言ってヴィヴィオを差し出す選択肢は論外だ。

 

「邪魔……ガリュー、どかして」

 

 指示を出された人型の魔法生物は一足で彩那に近づき、その拳打を振るってきた。

 

「……つっ!?」

 

 経験と勘から手錠の鎖で受け止めるがパワーが違い過ぎてそのまま吹き飛ばされ、壁に打ち付ける。

 

「彩那ちゃんっ!?」

 

 ヴィヴィオを庇うように抱きしめていたアイナが悲鳴のような声で彩那を呼ぶ。

 

「ガリュー。早くその子を……」

 

 そうしてガリューと呼ばれた魔法生物の手がヴィヴィオに迫ろうして────。

 

「案外、安物なのね、手錠(コレ)……」

 

 壁に叩きつけられた彩那がよろよろと膝立ちをして、ペッと赤の混じった唾液を吐く。

 見れば、ガリューに打たれた鎖には僅かなヒビが入っていた。

 

「鎖にヒビが入ったくらいで封印の術式が緩まるなんてね。まぁ、お陰で助かったけど」

 

 先程まで抑え込まれてた魔力が少しだけ扱えるようになり、僅かな魔力を身体能力の強化に回す。

 

「んっ……くっ、ハァッ!!」

 

 鎖を力ずくで引き千切ると、完全にリンカーコアが自由になった。

 深く空気を吸い、吐き出した後。今度は彩那が一足でガリューの所まで跳び、防御の上から蹴り飛ばす。

 

「ガリュー」

 

 信じられない様子で少女は蹴り飛ばされた使い魔を見る。

 すぐに立ち上がるガリューに彩那は手をクイックイッと動かして挑発する。

 

「来なさい。誰を相手にしているのか、骨の髄まで刻み付けて後悔させてあげるわ」

 

 

 

 

 

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