世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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番外編6:ズレた世界線(4)

「本当に殺されるかと思ったんだからぁ!!」

 

 ナンバーズの1人であるセインは泣きべそを掻きながら叫んだ。

 やられたルーテシアとガリュー。それで目標であった聖王の器の確保に動いたセイン。

 最重要のヴィヴィオと仲間であるルーテシアの回収には成功したが、ガリューと外でやられた仲間の拾う隙や時間は確保出来なかった。

 騒ぐセインに姉妹の1人であるノーヴェが鬱陶しげに返す。

 

「どうせ非殺傷設定でオメーも捕まるだけだろうが」

 

「そうでもないわよぉ?」

 

 そこでクワットロが端末を片手に会話に加わってきた。

 

「捕まったオットーとディードの戦闘記録を見てみたけど、中々にボロボロみたいねぇ。特にディードは両腕を切断されたみたい。非殺傷設定ならそんなこと起きないもの」

 

 どこか可笑しそうに笑うクワットロにウェンディが口を歪に曲げる。

 

「うへ! 両腕ッスか。容赦ないッスね。でも管理局がそんなことして良いんスか?」

 

 基本管理局は警察組織であり、犯罪者だから殺して良い。重傷を負わせて良い、という事はない。

 あくまでも捕縛が原則である。

 勿論例外は存在するが、滅多に許可されないからこそ例外なのだ。

 その為の非殺傷設定でもある。

 そこでナンバーズの主であるジェイル・スカリエッティが記録データを見ながら話に入ってくる

 

「ふむ。それにしても私も知らない魔法体系の術式だ。実に興味深い。使っている術式だけでなくその子自身もね」

 

「あら? Dr.はこの子に興味津々ですかぁ?」

 

「とてもね。戦闘データを見る限り、この少女は躊躇う事なくオットーとディードに重傷を負わせている。その表情には快楽も悔恨もない。ましてや無知や純粋さからくる無関心でもない。私が望む戦闘機人の精神状態に極めて近いのだよ」

 

 まだ生まれて間もないナンバーズ(姉妹)達が臆する事なく他人に害を与えられるのは、そういう教育がされてないからだ。

 

 目的を達成する為の教育と身内が仲違いしない生活環境。

 それが彼女らの全てだった。

 だから、まだ幼い姉妹達は敵を討つのに容赦がない。

 しかし映像の中に居る少女はどうか。まるで歴戦の兵士のような眼で敵を射抜いている。

 スカリエッティは笑みを深めて映像を消した。

 

「セイン。1つ頼めるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハッハッ。よぉやってくれたなぁ、このお転婆娘は〜」

 

 八神はやて部隊長は綾瀬彩那の両頬抓って引っ張ったり、こね回しながらお説教中だった。

 

「アレから管理局の色んな人達に説明要求とか大変やったんやで?」

 

 そこから階級が上の者や年輩の局員達への対応が大変だったと愚痴られる。

 

「そもそも、彩那が相手を大怪我させたせいで、シャマルが手術室独占してる状態やから隊員の治療はみんなですることになったんやからな!」

 

 敵魔導師を2人確保に成功したが、1人は全身火傷な上に腹を刺され、もう1人は両腕を切断という大怪我。

 彩那を撃った狙撃手は自ら撤退した。

 敵魔導師2人の手術をシャマルが今同時並行で行なっている。

 

「なにか言うことは?」

 

 額に青筋を立てながら笑顔で訊いてくるはやて。

 

「……部隊の人数に対して専門の医師が湖の騎士1人しか居ないという体制自体が問題では?」

 

「は・ん・せ・い・しろ言うてるんや!」

 

 再び彩那の両頬をぎりぎりと引っ張る。

 ちょうど10秒引っ張ると、手を離して大きく息を吐く。

 

「……ありがとうな」

 

「?」

 

「彩那が動いてくれたおかげでこっちの被害が最小限で済んだこと。特に、外で戦ってたシャマルとザフィーラはもっと大きな怪我をしてたと思う。その点だけは感謝しとるんよ」

 

「自分の身を守っただけです。それに……」

 

 ヴィヴィオを連れ去られた、と言おうとして口を閉ざした。

 それを察しているのかいないのか。はやては彩那の額にデコピンする。

 

「かわいくないなぁ。変に気にせんで、子供は素直に感謝を受け取っておけばえぇんよ」

 

「……」

 

 はやてが言葉に彩那は黙っていると、シャマルから通信が届く。

 

『はやてちゃん。2人の手術が終わりました。幸いにも処置が早く出来たおかげで一命を取り留めました。もう大丈夫です』

 

「そか。お疲れ様、シャマル。一先ず2人の怪我の様子を報告してくれへん?」

 

 一瞬彩那の方を見たはやて。

 自分が負わせた怪我を聞かせるか迷ったが、聞かせるべきだと判断した。

 

『はい。髪が短い子の方は幸い臓器など大切な器官は避けて刺されています。火傷の方は、しばらく包帯は取れませんし、ここの設備だけで万全な治療は不可能です。もっと専門の医療施設で年単位の皮膚再生の治療とリハビリが必要かと。そういう意味では髪の長い子の方が軽傷です。両腕を切断されてますが、鏡合わせみたいに綺麗な切り口で、繋ぐのも比較的容易でした。それでもやっぱり長い期間のリハビリは必要ですが』

 

「そう……分かった。とりあえず今は休んでな。そっちの子達は1時間くらいしたら別の部署に引き取ってもらうから」

 

『はい……それじゃあ』

 

 そうして通信が切ると、画面外から聞いていた彩那に視線を戻す。

 

「と、いうことや」

 

「はぁ……そうですか」

 

 気のない返事を返す彩那に、はやては再び青筋を立てる。

 はやてから見て、彩那のこの他者を傷つけることへの無関心さが危うく思えるのだ。

 

「そもそも、非殺傷設定ならそこまで大きな怪我にもならなかったやろ? 刺したり腕を斬るなんて普通なら死んでても────」

 

「? 非殺傷設定って何ですか? 剣なのだから、斬れるのは当たり前でしょう?」

 

 本当に、心の底からの疑問を口にしたのだと理解る。

 はやて達にとっては当たり前の機能。

 それをこの少女は知らないと言ったのだ。

 はやてはその事に背筋が冷たくなるのを感じた。

 そもそも彩那のデバイスは未知の魔法体系である事から解析が殆ど進んでいない。

 それ故の見落とし。

 未知の術式と彩那自身が反抗の姿勢が無い事から解析が後回しにしがちだった面もある。

 頭を押さえて少し考える。

 

(デバイスを取り上げようにも1度返ってきた以上、簡単にこっちに預けたりはせぇへんやろな……)

 

 以前大事な物だと言っていた。

 それをまた簡単に手放したりしたりはしないだろう。

 

(それにあちらさんにあれだけ損害を与えた以上、自衛能力を取り上げる方がマズいかもしれへん)

 

 敵が彩那を狙ってくる可能性もある。

 もちろんそうさせない為の手は打つが、はっきり言って彩那の安全に割ける人手はない。

 なまじ、新人であるフォワード達が期待よりずっと育ってくれた為にこれから行う反撃から外す事は出来ない。

 だからと言って非殺傷設定を知らない。おそらくはデバイス自体に搭載されてない子供を自衛の為とはいえ戦わせるのは────。

 はやてがどうするべきか悶々としていると、別のところから連絡が入る。

 

「……彩那。わたしはこれから大事な話があるから席外してな。なのはちゃんも話したいことがあるゆーてたからすぐに来てくれる筈や」

 

「分かりました」

 

 立ち上がると一礼して部屋から出ていく。

 重い息を吐いた後にはやて通信を開いた。

 

「クロノくん。頼んでた件、なんとかなりそか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 はやてが言ったようになのははすぐにやって来てくれた。

 

「彩那」

 

 笑顔で迎えに来てくれるなのは。

 しかし、ヴィヴィオを守る事が出来なかった手前、申し訳なくて少しだけ顔を合わせづらい。

 それでも言わなければいけない。

 

「すみません。ヴィヴィオの、こと……」

 

「うん……」

 

 彩那に前を歩いているなのはが頷く。

 

「責めないんですか?」

 

「責めないよ……責められない」

 

 今度は立ち止まって返す。

 それは状況的に仕方なかったと思っているのか。それとも元々彩那にそこまで期待してないという意味なのかは判らない。

 なのはが振り向き、屈んで彩那と目線を合わせる。

 

「ヴィヴィオが連れ去られたのはちゃんと対策しなかった私たちの責任。彩那は六課のみんなを守ってくれたでしょう? それだけで充分だよ」

 

 なのは小さく笑い、頭を撫でられる。

 しかしその手は、僅かに震えていた。

 

「ヴィヴィオは、私が必ず助け出すから。彩那は心配しないで待ってて」

 

 自分自身の不安を抑え込むようになのははそう言った。

 それからなのはに連れられて移動すると、そこにはフェイトとエリオにキャロが居た。

 3人は、敵が回収し損ねたガリューが拘束されている部屋の前で立っている。

 

「3人とも、どうしたの?」

 

「どうしたって訳じゃないんですけど……主と引き離されてかわいそうだなって」

 

 召喚師であるキャロはガリューが取り残されてここに居る事に思う事があるようだ。

 

「敵の戦力が減ったのはいいことだって理解はしてるんですけど。早く、あの子に会わせてあげたいんです」

 

 エリオはガリューとその主が早く再会出来るのを願っている。

 そんな中、フェイトが難しい表情で膝を折り、彩那に話しかけてきた。

 

「彩那。どうしてあんな酷いことをしたの?」

 

「あんなこと?」

 

 フェイトの質問の意図がいまいち理解してない彩那が首を小さく傾げる。

 彩那の反応にフェイトは心配と苛立ちの表情で両肩に手を置く。

 

「相手の魔導師にしたことだよ。あそこまでする必要はなかったでしょう?」

 

「あぁ」

 

 歩きながら非殺傷設定について聞き、管理局では犯罪者とはいえ、敵を殺すような攻撃は御法度らしい。

 それが大前提な為、彩那のした事が過剰に感じるのだろう。

 

(訓練中にエリオやキャロ(この子ら)も容赦なく攻撃出来てたのはそのお陰か)

 

 先程まで話していたなのはがなにかを言おうとしたがそれを止める。

 正直に言うしかないな、と彩那は弁明を始めた。

 

 

「私は非殺傷設定について知りませんでした。でも殺すつもりはなかったんですよ。即死でなければ、湖の騎士が必ず助けると確信していたので」

 

 まぁ、死んだのなら仕方ない、くらいは思っていた。とは口にしない。

 それに敵を戦えなくするなら、恐怖を刷り込むのが1番手っ取り早い。

 彩那の言い訳にフェイトの眉間のしわが更に深まった。

 

「あの子達にだって、心配する家族が居るかもしれないんだよ。その人達に彩那が恨まれるかもしれない」

 

 幼い子供に諭すように言い聞かせてくる。

 フェイトの言っている事は分かる。

 ホーランド所属として戦場を駆け、敗戦国への当たりは象徴だった勇者に向いた。

 兵士とはいえ家族を奪われた遺族になじられ、物を投げつけられる事も少なくない。

 だがいつしか、傷付くよりも慣れてしまい、受け流す術に頼るようになった。

 もちろんそれで、辛くない傷付かないという事はないが、真正面から相手の怨嗟を受け止め続ければこちらが壊れてしまう。

 

「みんなを守ってくれたことは偉いし嬉しいけど。やり方を間違えたら取り返しのつかないことになるんだよ」

 

 なんだかんだで六課の中で1番彩那の心配しているのはフェイトだ。

 それは生来の気質なのか。それとも接した時間が1番長かったからか。 

 どちらにせよ、損な性分だなと心の中で苦笑する。

 

「私はこういうやり方しか知りません。それが貴女達と相容れないと言うなら、この戦いが終わった後に好きな理由で私を牢に入れればいいでしょう」

 

 シャマルにも言ったのと同じ事を伝える。

 彩那はそれでも構わなかったし、この戦いが終わった後、何らかの処分は免れないだろうな、とは思っていた。

 別にそれで構わない。

 守りたかったモノが全てこぼれ落ちた今となっては────。

 そんな彩那の様子にフェイトは言葉を重ねようとするが、そこで端末から通信が入る。

 呼び出しが入ったようだ。

 まだ言いたい事があったフェイトは仕事を無視する訳にもいかず、ここを離れる事にした。

 ここが正念場なら尚更に。

 

「彩那。事件が終わったらちゃんと話そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機動六課は廃艦処分が決まっていた次元航行艦であるアースラを使ってジェイル・スカリエッティ一派の逮捕に動く。

 非戦闘員は六課の宿舎から避難所に移動して待機。

 その中には彩那と長時間の手術で疲労したシャマルも含まれる。

 少し広めの部屋に座って彩那は考えていた。

 

(さて。どうしたものかしら)

 

 ここを抜け出すのは簡単だが、抜け出してどうするか。

 そもそも抜け出す意味があるのか。

 ヴィヴィオを助けに行く、というのも当然考えたが、彩那が独断で動けば六課に迷惑がかかるのは避けられないだろう。

 自衛の為に動いた前回とは違うのだ。

 はやてからも、くれぐれも勝手な行動は控えるようにと頬を抓られながら注意された。

 目を閉じて今出来る事を考える。

 無意識の内に魔力を感知する感覚が研ぎ澄まされていく。

 その感知が探知となり、魔力反応に引っかかった。

 彩那は霊剣を手にして迷いなく床に突き立てた。

 

「うひゃあぁああああぁあっ!?」

 

 と、床下から物体を無視して人が現れる。

 それをヴィヴィオを拐った敵の魔導師だった。

 

「な、な、な、なにすんの!?」

 

「敵だと思ったから。とりあえず刺してみようかと」

 

「怖っ!?」

 

 冷たい視線で見てくる彩那に床下から現れた敵魔導師がジリジリと後ろに下がる。

 やられた仲間の報復、という感じではないが、さて。

 彩那が切っ先を向けたまま少しずつ距離を詰める。

 その緊張感に耐えられなくなったのか、手にしているなにかを投げてきた。

 

「ゴメンッ!」

 

 彩那はそれを打って遠くへ飛ばそうとしたが、その前に投げた球体から術式が発動する。

 

(転移魔法っ!)

 

 そう気付いた時にはもう遅く、彩那の体はこの部屋とは何処か別の場所へと跳ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眩しい光が収まり、視界が回復すると、そこは見知らぬ場所だった。

 機械の部屋。

 ただ、その部屋の奥にある玉座には、知っている顔が座っていた。

 

「ヴィヴィオ……」

 

「あやな……?」

 

 名前も呼ぶとヴィヴィオが反応する。

 理由は分からないが、とにかく今はヴィヴィオを取り戻そうと動く。

 しかし、その前に膨大な魔力がヴィヴィオの中から発生し、吹き荒れる。

 

「────なにが……っ!?」

 

 魔力による発光現象。

 数秒続いたそれが収まると、そこには20歳前後にまで成長したヴィヴィオがいた。

 黒いジャケットとアーマーが付けられたバリアジャケット。

 

「ヴィヴィオ……?」

 

 恐る恐る名前を呼ぶと鋭い眼つきで彩那を見てくる。

 次の瞬間、床を蹴ったヴィヴィオが一直線に迫ってきた。

 

(速いっ!?)

 

 ヴィヴィオの拳が彩那の顔を目がけて突き出された。

 




本編では覇王の末裔。
番外では聖王のクローンと戦闘。
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