世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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これにて番外編6は終了です。次回から本編に戻ります。


番外編6:ズレた世界線(5)

 高町なのははミッドチルダ上空に現れたゆりかごの内部への侵入に成功し、襲いかかってくるガジェットの群れを次々と撃破していた。

 

(いくらなんでも数が多過ぎる!? それに硬い!!)

 

 なのはですら撃破に多くの魔力を割かなければならない。

 1機なら大した事がなくとも、数で攻められればそれだけ魔力を喰う結果になる。

 

 思うようにゆりかご内部を進めない事に苛立っていると、なのはの目の前に通信が開かれる。

 

『は〜い。そこまで〜。ここからは立入禁止ですよ〜』

 

 通信を繋いできたのは眼鏡をかけた甘ったるい声の女性だった。

 警戒を解かず、マニュアル通りの投降を呼びかけようとするがその前に向こうが口を開いた。

 

『陛下……いいえぇ。貴女の娘さんは今は大事なお客様への対応中ですの。諦めてそのままお帰りくださいますぅ?』

 

 陛下、がおそらくはヴィヴィオの事だろう。しかしお客様というのは? 

 疑問に思いつつも警戒していると、女性から別の画面に切り換わる。

 そこには拐われた筈のヴィヴィオと、何故か彩那が同じ部屋に居た。

 思いがけない映像に思考が止まっていると、玉座に座っていたヴィヴィオの苦痛の声が聞こえた。

 

「ヴィヴィオッ!?」

 

 映像の中にいるヴィヴィオの名を呼ぶ。

 光が止むとそこには大きく成長したヴィヴィオが立っていた。

 突然の事態に呆然とする彩那にヴィヴィオが迫る。

 無防備な状態だった彩那は顔を殴られて後ろに飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(危なかった……)

 

 大人の身体になったヴィヴィオに突如殴られた彩那。

 とっさに後ろに跳んでダメージを最小限に抑えたが、どうしたものかと倒れたまま考える。

 

(ヴィヴィオのあの様子。何らかの洗脳措置でも受けてる?)

 

 魔法による一時的な洗脳ならともかく、かつて帝国がやっていたような脳にチップを埋め込むタイプの洗脳なら彩那にはどうしようもない。

 そして彩那にはそれを識別する手段もない。

 

「本当にどうしましょう────か、と……!」

 

 追撃をかけてきたヴィヴィオの踵落としを後転で躱し、立ち上がって後ろに下がって距離を取る。

 更に追ってくるが、彩那はあくまでも防戦に徹する。

 

「本当に困ったわね……」

 

 反撃してヴィヴィオを殺してしまっては目も当てられない。

 だが、このまま防戦だけ繰り返していてもジリ貧である。

 

「趣味の悪い事ね」

 

 そう舌打ちすると、真っ直ぐと拳を突き出してくる。

 彩那はヴィヴィオの視界から外れるように体の外側へと独楽回りで背後を取り、背中を押した。

 同時にバインドが発動して拘束する。

 しかし────。

 

「くっ……こんなもの!」

 

 彩那が発動させたバインドは強制的に解除される。

 バインドの破壊ではなく解除だ。

 破壊は相応の魔力が有れば馬鹿でも出来る単純かつ手早い攻略法だ。

 しかし解除となると話は変わる。

 術式、もしくは魔力の綻びを見つけて自身の魔力で消しさる。

 絡まった糸をハサミで切るのが破壊で、解くのが解除と説明すれば解りやすいか。

 破壊に比べて魔力はかなり少量で済むが、術式に対する深い理解力が物を言う芸当だ。はっきり言って、実戦で使うには非効率的な対応だと言わざる得ない。

 

(ヴィヴィオにそんな知識が有るとは思えないし、そもそもこの世界だとホーランド式自体が絶滅危惧の(マイナー)術式の筈)

 

 ミッドチルダに来て暇潰しに調べたが、現在の術式の大半がミッド式とミッド式とベルカ式を合わせた近代ベルカ式の術式が大半。

 ホーランド式などは少なくとも機動六課では名前すら発見出来なかった。

 手にしている霊剣から聖剣に得物を替える。

 防戦に徹するのは悪手だが、かと言ってヴィヴィオを斬り捨てる訳にもいかない。

 

(非殺傷設定とやらの話を聞いた時は人道的かつ生温いと思ったけど……なるほど。こういう時には欲しくなるわね)

 

 無い物ねだりをしつつ構えていると、彩那の前に空間モニターが現れる。

 

『ふふふ。どうですかぁ? 陛下のお力はぁ?』

 

 腹の立つ甘ったるい喋り方。

 彩那は一瞥しただけで早々に無視を決め込む。

 

『あらぁ。そんな態度でいいんですかぁ? 陛下のこと、気になりません?』

 

 こうして話している間にもヴィヴィオは彩那を攻撃してくる。

 射撃魔法や誘導弾。砲撃魔法に対処しながら思考する。

 

「ママを、返せぇえええぇえっ!!」

 

 悲痛な叫びと共に繰り出される猛攻をとにかく捌く。

 ヴィヴィオの言葉に頭の中で疑問符を浮かべながらとにかく打開策を練る。

 

「ニードルバインド……!」

 

 王剣を抜き、魔法による無数の針が射出される。

 肉体ではなく、脳から発信される四肢を動かす信号を封じるバインド。そう言えば聞こえは良いが、性質は射撃魔法に近く、射程距離が短い上にシールドを張れば簡単に防げるので、普通に拘束した方が早く、王剣の本来の持ち主もあまり使わない魔法だった。

 ヴィヴィオの肉体に無数の魔力針が刺さる。

 

「あぁ……!?」

 

 四肢への命令が断たれ、膝をつく。しかし────。

 

「こんなものぉっ!?」

 

 即座に針の効果は打ち消され、こちらに踏み込んできた。

 

(いくらなんでも早すぎる……!)

 

 本来なら数分は動きは封じられる筈だが、明らかにヴィヴィオの魔法に対する対応力が異常だ。

 困惑していると、繋がったままの通信相手が自慢気にはなしてくる。

 

『聖王の鎧がその程度で無力化出来る訳ないわよねぇ』

 

 聖王の鎧。

 彩那の知らない単語だ。

 かつてベルカの戦争を終わらせたゆりかご。

 その起動(キー)としてここに居る聖王オリヴィエのクローンであるヴィヴィオは、ゆりかごから供給される無尽蔵に等しい魔力と高度な魔法解析能力。そしてそれらを十全に扱う戦闘力が付与される。

 などなどを嬉々として説明してくれる眼鏡女。

 

「まったく。闇の書といい、ベルカは厄介な物ばかり遺して……!」

 

 忌々しいと言いたげに眉間にしわを寄せる彩那。

 ゆりかごとかいう兵器も、必要がなくなったらとっとと解体すれば良かったのに、と思う。

 だが、これがなければヴィヴィオが生まれる事もなかった事を考えると難しい問題だと考え直す。

 ヴィヴィオの左右の順に砲撃魔法が発射され、彩那はシールドでそれを防ぐ。

 

『ゆりかごのコアとして覚醒した陛下は絶対無敵。貴女程度がいくら抵抗しても、陛下を止める事は不可能よぉ』

 

 挑発する眼鏡女に反応している余裕はなく、彩那はヴィヴィオの攻撃を捌き続ける。

 しかし、相手がヴィヴィオという事もあり、彩那の中の迷いが判断を鈍らせていた。

 ヴィヴィオの砲撃が相殺される形で彩那のシールドを無力化する。

 距離を取るより速く、ヴィヴィオは彩那の頭を掴んで腹に拳をめり込ませる。

 

「っ!?」

 

 肋骨の折れる痛みに呻く間もなく、ヴィヴィオは彩那を床に叩きつけた。

 ヴィヴィオは追撃にと拳を振り上げるが、彩那にはそれが不自然なスローモーションに感じる。

 肉体(からだ)に上手く力が入らない。

 

(違う。綾瀬彩那()自身の心が戦う事を拒んでいるのね)

 

 ヴィヴィオ相手に戦う理由が見い出せない。

 そもそも、今更自分に生きる意味を見い出せない。

 もう充分に頑張ったのだ。

 ここで、全て投げ出して楽になって、誰に責められる事があるだろう? 

 ほら、振り下ろされる()が目の前に────。

 

 

 

 ────こらーっ! なにやってんだ彩那ーっ!! 

 

 

 突然、頭の中に1番大切な人の声が響いた。

 その声で反射的に体が動き、床を転がると、逆立ちの体勢でヴィヴィオの体を蹴って距離を取る。

 

「いまの、は……」

 

 懐かしい。そう思えるような時間はまだ経過していない。

 あんな声はただの幻聴だ。彩那自身そう理解している。

 それでも。それが叱責でも、あの声を聴けた事がこんなにも嬉しい。

 

「そうよね……皆から繋いで貰った命だもの。簡単に手放したら駄目よね……」

 

 仕方ないなぁ、と内心で苦笑する。

 そこで眼鏡女が話しかけてくる。

 

『どうしたのかしら〜? 真面目に戦ってくれないとこっちもこまるんですけどぉ』

 

「……聖王は絶対無敵と言ったわね。なら多少の攻撃は意味を成さないと思っていいのかしら?」

 

『ふふふ。えぇえぇ。今の陛下には誰も敵わないわよ』

 

「信じましょう」

 

 右手に霊剣。左手に魔剣を持つ。

 ようやくやる気になったのねぇ、と通信越しに囁くが無視。

 

「行きましょうか」

 

 ヴィヴィオのところまで跳び、霊剣を振るう。

 腕で防御されるが刃が通らない。

 そこから零距離砲撃を行う。

 反動で距離が出来、魔力による爆発で視界が一瞬だけ塞がる。

 しかし、開けた視界の先に居たヴィヴィオはまったくの無傷だった。

 

「なるほど。ベルカの戦乱を終わらせたというのも、まったくのでまかせじゃなさそうね」

 

「うぁああぁああああぁぁっ!!」

 

 吠え猛るヴィヴィオが向かってくる。

 魔剣から聖剣に切り替えて彩那はヴィヴィオの攻撃を捌く。

 違うのは、今度は彩那の方も反撃に転じている点だ。

 

「甘い」

 

 ヴィヴィオの大振りな蹴りをしゃがんで回避すると同時に足払いをかけ、体勢を整える前に霊剣を斬り上げる。

 後方に吹き飛ぶヴィヴィオだが、やはりダメージを負っている様子は見られない。

 今度は彩那が追撃をかけると、射撃魔法の連発で足止めを試みるが、速度を落とさずに僅かな隙間を縫って接近する。

 

「シッ!」

 

 霊剣と聖剣の両方で、回避困難な速度で連撃を加えた。

 だが、攻撃が通っている様子は見られない。

 

(頑丈過ぎる。確かにこれなら大抵の攻撃は無力化出来る)

 

 ヴィヴィオを観察しながら舌打ちすると、連撃の速度を緩めた隙を突いて砲撃魔法を放ってきた。

 聖剣を盾にしても吹き飛ばされる。

 

『あらら? もう終わりかしら〜?』

 

 期待外れと言わんばかりに外野が鼻で嗤う。

 だがそこで、暴力的な魔力の荒波が発生した。

 

『な、なに!?』

 

 焦る声。

 魔力の発生地点の中心から1人の少女が1歩前に出た。

 先程まで身に着けていなかったバリアジャケット()

 そして右手には純白の剣を手にしている。

 

「神剣の、祝福を────」

 

 綾瀬彩那は剣の切っ先をヴィヴィオに向ける。

 

「ゆりかごとやらと同じ。1つの戦争を終わらせた力。どちらが上か比べてみましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなのよコレは……っ!?」

 

 彩那とヴィヴィオの戦闘を眺めていたナンバーズのクアットロ。

 さっきまでの嘲笑と打って変わり、今その表情は驚愕と焦りで歪んでいる。

 あの白い剣を握ってから、ヴィヴィオは防戦一方を強いられていた。

 現に今もヴィヴィオは手も足も出ずに打ちのめされていた。

 聖王のクローンがやられるなんてあり得ない。

 その固定観念が打ち破られようとしている。

 その時に、クアットロのいる部屋の天井が突き破られた。

 現れたのは時空管理局のエースオブエース高町なのは。

 ゆりかご内の大半の戦力をなのはに送り、足留めに費した。

 しかしそれらを突破してなのははここに現れたのだ。

 ボロボロになったバリアジャケットに、荒れた呼吸のままなのはは告げる。

 

「……貴女を、拘束します」

 

 クアットロが何か実行に移すより速くその身をバインドにかけた。

 しかしクアットロは笑みやめない。

 

「失敗したわね、エースオブエースさん。貴女の娘を助けたかったら、先ずはあっちに行くべきだったわぁ」

 

 ヴィヴィオが何らかの処置で洗脳されている事を察したなのはは、クアットロの捜索に入った。

 向こうから見せられた戦闘を見て、彩那ならそう簡単にやられないと踏んで。

 本当はヴィヴィオと彩那を止めたかったが、先ずヴィヴィオの洗脳を解かないといけないと判断したのだ。

 ヴィヴィオが居る部屋より、こちらの方を先に発見したという理由もある。

 だが、それがミスだったと悟る。

 白い剣を持ち始めた彩那はヴィヴィオを圧倒していた。さっきまでの拮抗が嘘のように。

 ヴィヴィオのバリアジャケットが破壊されて倒される。

 なのにヴィヴィオは諦めずに立ち上がった。

 

『負け、ない……わたしが、ママをたすけるんだぁああぁあっ!!』

 

「ヴィヴィオッ!?」

 

 もうやめて! と叫ぶ前にヴィヴィオは彩那に向かって拳を突き出す。

 

『バウンドシールド』

 

 しかしその想いをあしらうかのように彩那はシールドを展開し、それを殴ったヴィヴィオが逆に弾き飛ばされた。

 

『あぁっ!?』

 

 床に転がって倒れ伏すヴィヴィオ。

 そんなヴィヴィオの上に乗り、逆手に構えた剣をヴィヴィオに向けた。

 

『解放してあげる。貴女の見ている悪夢から────』

 

「彩那、やめてっ!?」

 

 モニター越しに叫ぶなのは。

 だがその声は向こうには届かず、彩那はヴィヴィオの胸にその白い刃を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彩那が大きく息を吐いてヴィヴィオから剣を離すと、大人だった体が魔力で発光し、元の子供に戻った。

 小さくなったヴィヴィオの体を背負う。

 脱出するにも突然転移させられた為に出口が分からないのが問題だ。

 魔法による内部構造の探査をかけつつ足で出口を探す。

 

「彩那っ!!」

 

 少し進んだ先で目尻に涙を溜めたなのはと遭遇した。

 

「高ま、ちっ!?」

 

 なのはが駆け足で近づくと、彩那の頬を張る。

 パン、という小気味良い音と不快な痛みが彩那の耳と頬を刺激する。

 

「どうして……」

 

 信じていた。

 彩那の戦闘力────ではなく、ヴィヴィオを心配する気持ちは同じだと。

 なのに優勢となるやあっさりとヴィヴィオの胸を貫いたのだ。

 ママを助けると叫んだヴィヴィオの声がまだ耳に残っている。

 真っ先に駆けつけなかった自分にも後悔で胸が締め付けられた。

 もう遅いと知りながら。

 

「ごめん……ごめんね、ヴィヴィ────」

 

ケホ……

 

 愛娘に触れようとすると、その小さな口から集中しなければ聞き逃してしまいそうな小さな咳が聞こえた。

 

「ヴィヴィオ……?」

 

 なのはが名前を呼ぶと、ヴィヴィオの目蓋が吐息と共に開かれ、オッドアイの瞳がなのはを捉える。

 

「マ……マ……?」

 

「ヴィヴィオッ!!」

 

 彩那が背負っていたヴィヴィオを抱き締めるなのは。

 どうして、と疑問に思っていると彩那が説明する。

 

「最初はヴィヴィオに使われた術式(システム)に介入して、無理やりスイッチをオフにしようと思ったのですが、私はベルカ式には詳しくないので失敗しました。だから、リンカーコア自体に負荷をかけて強制的にシステムダウンを起こさせました」

 

 言うなれば、複数の家電製品を一気に使って家のブレーカーを落とすような物。

 かなり乱暴な解決方法だが、彩那にはそれしか思いつかなかった。

 

「リンカーコアにかなりの負荷がかかったので、どんな後遺症を残したかは判断出来ません。リンカーコアが回復したら、またさっきのようになる可能性もあります。だから、専門の機関で早く診察した方が良いでしょう」

 

 はっきり言って治療などは専門外なので、現状ヴィヴィオにどんな影響を残すかは判断出来ない。

 説明を終えると、なのはが恥ずかしそうに頬を赤らめる。

 

「ご、ごめん! 痛かったよね?」

 

 なのはは自分が叩いてしまった頬を撫でる。

 

「どんな理由があっても、ヴィヴィオを傷付けたのは事実ですから」

 

 リンカーコアに介入する為に神剣の切っ先で胸を刺した。

 引き抜いたと同時に一応は治したが、おそらく傷は残るだろう。

 

「子供を傷付けられて怒れる高町一尉は良いママだと思いますよ?」

 

「……」

 

 彩那の言葉にさっきとは別の理由で頬を赤くする。

 ヴィヴィオを本当の意味で引き取るかで悩んでいたようなので、少しは後押しになっただろうか? 

 そこで、彩那は痛みから胸を押さえた。

 

「あ、やば……」

 

 バタン、と彩那がその場で倒れる。

 なのはが彩那の体を揺すって何度も名前を呼ぶが、苦しそうに胸を押さえている。

 

(やっぱり、神剣の使用は……)

 

 過ぎた力の代償。

 リンカーコアがズタズタにされるような苦痛に彩那は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言って、後にJS(ジェイル・スカリエッティ)事件と呼ばれるその事件は、その規模に対して死傷者はあり得ない程に少なく解決した。

 その最大の理由は首謀者であるジェイル・スカリエッティが不要な殺人を望まなかった点だ。

 生命に敬意を持っている、というのは本当らしく、無駄な血は好まなかった。

 それは、倫理道徳的な理由ではなく、彼のポリシーによる物だが。

 

 ゆりかごの中に居た者達は動力炉を破壊したヴィータは八神隊長が。

 なのは、ヴィヴィオ。そして彩那。ついでにクアットロも、援護に来たスバルとティアナによって救助された。

 ナンバーズやスカリエッティも局員の奮闘により、全員逮捕され、今後の処遇は裁判に委ねられる形となる。

 

 誘拐されたヴィヴィオは、まる1日眠った後に、療養中のなのはやフェイトと過ごしていた。

 彩那が言ったようにリンカーコアには多大な負荷がかかったが、ヴィヴィオの年齢の事もあり、医者の言う事を聞いて治療に専念すれば問題無しと判断された。

 埋め込まれていたレリックもスカリエッティの研究所から押収した資料を参考に、摘出に成功している。

 

 

 

 

 綾瀬彩那はまだ目を覚ましていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょうど朝日の光が窓から射し込む時間。医務室のベッドで寝かされていた彩那は目を覚ました。

 数日寝ていた事で筋肉が固まり、少し動きづらい。

 彩那は起き上がり、目的の物を探す。

 

「あった」

 

 御丁寧に彩那の(デバイス)は、備え付けられている小さな棚の引き出しに入れられていた。

 

「神剣の後遺症から思ったより早く回復したわね……」

 

 乱暴に点滴の針を抜く。

 機動六課は悪い場所ではなかったが、正直しばらく宮仕えはごめんである。

 

「さようなら」

 

 誰にも気付かれないように、彩那は窓を音もなく開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはとフェイトはヴィヴィオと手を繋いで朝早く、彩那の眠る医務室に向かっていた。

 

「あやな、今日は起きてくれるかなぁ」

 

「うん。きっと起きるよ」

 

 ヴィヴィオの疑問にフェイトが返す。

 このやり取りも、彩那のお見舞いへ赴くたびに繰り返される会話だ。

 ヴィヴィオは正式になのはの養子となる準備を進めている。

 そして。

 

(彩那も、受けてくれると嬉しいんだけど……)

 

 ついで、という訳ではないが、なのはは彩那も養子、もしくは保護責任者になるつもりだった。

 しっかりした子だとは思う。

 だがしかし、これからは子供として誰かの庇護は必要だろうと考えた結果だ。

 地球の日本出身のようだが、どういう訳か故郷に帰るのに消極的に思えた。

 今後どうするのか決めるまで、ヴィヴィオと共になのはが面倒見ようと思った。

 勿論、本人にその気があれば、だが。

 医務室までもう2部屋、というところまで来ると、我らが部隊長の怒声が響き渡った。

 

「あんのガキャーッ!!」

 

 なのはとフェイトが顔を見合わせてから急いで医務室に急ぐ。

 

「どうしたの、はやてちゃん!」

 

「なのはちゃんにフェイトちゃん……」

 

 やって来た3人に、シャマルが困った様子で頬に手を当てている。

 

「どうしたのやない! これ!!」

 

 はやてが1枚の紙を見せてくる。

 そこには日本語でこう書かれていた。

 

 "お世話になりました。綾瀬彩那"

 

「あの子、逃げよったんや!」

 

「えぇっ!?」

 

「ここ数日眠ったままでしたので、油断しました。そもそも逃げ出す事自体想定してませんでした……」

 

 落ち込むシャマルにはやてが質問する。

 

「シャマルは4時頃に1回彩那の様子を見に来たんやろ?」

 

「はい。正確には4時半頃に」

 

「今が6時ちょい過ぎやから、大体1時間くらいか? 流石に飛行魔法とかで大胆に逃げたら誰か気付くやろうし」

 

 ブツブツと考え始めるはやて。

 ヴィヴィオが不安そうになのはを見上げる。

 

 洗脳されていたとはいえ、ヴィヴィオは彩那を傷付けた事を後悔している。だから目を覚ましたらすぐに謝りたかったのだ。

 

「大丈夫だよ、ヴィヴィオ。彩那は必ず連れて帰るから」

 

「そうや! 六課総出で捜索や! あのなめた小娘を、首根っこ引っ掴んででもわたしの前に引き摺り戻しぃ!!」

 

「それは悪役の台詞だよはやて!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 緊急で全員叩き起こされた六課の隊員達。

 JS事件後の初任務は逃げ出した重要参考人の少女の捜索。

 1週間丸々と続いた捜索は、ミッドチルダの首都クラナガンを始め、周辺世界にまで及んだが、足取りを掴む事は出来なかった。

 ミッドチルダ未曾有の大事件を解決した部隊はこの失態により、評価を著しく下げた事をここに記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数年後。

 

 高町ヴィヴィオはこの4年間で魔法格闘技者として順調に成長していた。

 今は無人世界で訓練合宿として旅行に訪れている。

 ヴィヴィオにとっては友達や最近知り合った年上の格闘技者との訓練。

 なのはやフェイトにとっても懐かしい部下達と身体を鍛え直す機会である。

 1日目を終えた夜にフェイトがなのはに話しかける。

 

「みんな良い子だから、あまり手がかからないね」

 

「うん」

 

 類は友を呼ぶというか、基本的に手のかからない子供達だ。

 水を1杯飲んだ後にフェイトが最近は話題にしなかった事を口にする。

 

「彩那は……今どうしてるかな?」

 

 フェイトの疑問になのはは笑みが一瞬消える。

 愛娘を助けてくれた少女。

 機動六課から姿を消してからこの4年間、未だに消息は掴めていない。

 いくつかの目撃情報はあった物の、フェイトが動いた時には既にその地を離れているのだ。

 これは、フェイト達を避けていると言うより、その地に長く留まらないのが原因と思われる。

 彩那が居なくなった当初はヴィヴィオが自分の所為だと責めていたが、次第にその自責も緩和されていった。

 

「なんていうか、不思議な子だったね。今では本当に彩那の存在が居たのかたまに自信が無くなるよ」

 

 飛ぶ鳥跡を濁さず、という言葉が在るが、あの子は正にそれだった。

 自信無さげなフェイトになのはが首を振る。

 

「居たよ。ちゃんと彩那は。ヴィヴィオを助けてくれた」

 

「なのは……」

 

 ヴィヴィオを助けてくれた少女の存在を誰にも否定させないとでも言うようになのはは静かだが強い口調で言う。

 

「それに、彩那が居たっていう証拠はヴィヴィオがちゃんと形にしてくれたしね」

 

「?」

 

 ウインクするなのはにフェイトは首をかしげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、大人と子供の交えた6対6のチーム戦が行われていた。

 両チーム、試合を楽しみつつ全力を尽くしている。

 その試合もヴィヴィオと年上の友人であるアインハルトの攻防で決着の時を迎えようとしていた。

 互いに拳と蹴りの応酬。

 地力に勝るアインハルトがヴィヴィオの防御を崩す。

 

「ここです! 覇王断空拳っ!」

 

 全力で振り抜く必殺の拳。

 それがヴィヴィオの胸を穿とうと迫る。

 

「バウンドシールドッ!」

 

 ヴィヴィオの手の平に展開された小さなシールド魔法。

 硬いゴムを殴るような感触にアインハルトは腕を弾かれてバランスを崩した。

 かつてヴィヴィオを救ってくれた少女が使った防御魔法。

 それがやけに頭に残り、2年かけて術式を完成させたが、発動がわりとシビアなので、この合宿で師匠であるノーヴェにようやく使用許可を貰ったのだ。

 大きな隙が出来たアインハルトにヴィヴィオが、今だ! と踏み込む。

 

「一閃必中! アクセルスマッシュッ!!」

 

 全力の拳をアインハルトの顎に突き上げた。

 地面に転がったアインハルトが大人の姿から元の子供の姿へと戻る。

 つまり────。

 

『試合終了〜! 青組の勝利です!』

 

 審判をしていたメガーヌから勝敗をアナウンスされる。

 

「やったぁっ!!」

 

 勝った喜びからヴィヴィオが両拳を空に掲げた。

 初めて使った魔法が決まった事と勝利の喜びを全力で表現している。

 空を見上げながら、心の中で自分を救ってくれた少女に話しかける。

 

(わたし、少しは強くなったよ。いつか、あやなにも今のわたしを見てほしいな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第97管理外世界【地球】。

 日本の海鳴という町に1人の少女が公園に座っていた。

 

「結局、故郷に戻ってくるのね……」

 

 この数年、色々な世界を見て回ってきた。

 傭兵みたいな、基本的に荒事で生計を立てていた。

 それにも疲れて、生まれ故郷に戻ってきたのはただの気まぐれ。

 特に意味はない。

 もしくは彩那が自覚してないだけで郷愁のような気持ちがあったのかもしれない。

 記憶を頼りに足取りがかつて暮らしていたマンションの前に立つ。

 

「馬鹿馬鹿しい……」

 

 今更家族に会える訳もない。

 つまらない未練に苛立ってくる。

 その場を立ち去ろうとすると、マンションの入口から男の子が出てきた。

 男の子の方は12歳()の彩那と同い年くらいだろうか? 

 その男の子に階段から下りてきたのだろう母親らしき人が息を切らせて後ろから呼び止める。

 

「こら! お弁当忘れてるわよ! 今日必要だって言ってたじゃない!」

 

「あー! ごめんごめん! サンキュー!」

 

 謝りつつもお弁当を受け取り、乱暴に鞄に入れると、急いでいるのか、早足でマンションから遠ざかって行く。

 まったく、と眉間にしわを寄せていると、女性が彩那の存在に気付いた。

 彩那は咄嗟に帽子を深く被って会釈し、その場を離れようとした。

 

「彩那……?」

 

 名前を呼ばれてビクッと肩が跳ねる。

 彩那が逃げるより早くその女性は近づいて帽子を取る。

 

「やっぱり……彩那なのね?」

 

「どう……して……」

 

 分かったのかと訊こうとするが、上手く唇が動かない。

 本来なら20を過ぎている筈の自分。今の自分とは年齢が合わない筈だ。

 だから人違いだと拒絶しなければならない。

 ならない、のに。

 

「間違う筈ないでしょう。ずっと捜してたのよ?」

 

 両肩を掴まれて揺さぶられる。

 視線を上げて顔を合わせると、そこには人目も憚らず涙を流す母が居た。

 母は、帰ってきた娘を抱き締める。

 

「おかえりなさい、彩那……!」

 

 それだけ。

 それだけの言葉で彩那の目に涙が溢れてくる。

 

「ただ、いま……お母さん……!」

 

 15年経った時計の針を戻すように、彩那は声を上げて泣いた。

 

 

 

 

 

 





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