世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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捕獲開始

 アインハルトが目を覚ましたのは、管理局の東京支部が借りている部屋だった。

 

「あ、目が覚めましたか?」

 

「ヴィヴィオ、さん……」

 

 起き上がり、頭を押さえて何故自分が寝ていたのか思い出す。

 

「あぁ……私、先生に……」

 

 打たれて気絶した事を思い出す。

 そこでヴィヴィオの後ろにいたシャマルが椅子に座り、アインハルトに触れる。

 

「眠っている間に検査をしましたが、特に後遺症を残すような怪我は見つかりませんでした。もう起き上がっても問題ありません。彩那ちゃんが上手く倒してくれたから」

 

「そう、ですか……」

 

 歳下の女の子に手加減された上に手心まで加えて貰った。

 実力差は理解していたつもりだったが、実際に完敗されるとプライドが傷つく。

 掌を見つめていると、控えていたなのはが前に出た。

 

「あの……少し訊いてもいいですか?」

 

「はい。どうしましたか?」

 

「その……どうして今、彩那ちゃんと試合しようと思ったんですか?」

 

 誰かは訊いてくるだろうと思っていた。

 アインハルトは深呼吸をして落ち着いてから話す。

 

「先日、私達は先生の戦っている戦場を共にしました。でも、とても一緒に戦った、と誇れる物ではありませんでした」

 

 彩那は常にアインハルト達に気を配っていたし、1番の強者との戦いには何の役にも立たなかった。

 

「……」

 

 そんな事はない、と言いたかったが、その戦闘を見ていないなのはが言える事ではない。

 

「あの年齢であの強さは異常です。あまりにも完成され過ぎている。だからなのか、それとも別の理由があるのかは判りません。だけど私が言えるのは、先生はきっと、戦いで誰も信じてないと思ったんです」

 

「信じてない……?」

 

 なのはの反芻にアインハルトは頷いた。

 

「さっきの試合で確信しました。あの人は本当に危機が迫った時、誰にも頼らずに自分だけが1番危ないところを引き受けてしまう。自分独りだけが傷つく選択をきっとしてしまう」

 

 アインハルトの言葉になのはは思い当たる節がある。

 ジュエルシード事件の終盤、プレシア・テスタロッサを単身で止めに行った時。

 闇の書事件では、何度も自分が危険に晒される選択をした事。

 

「だから、もしもそんな事態になったら、あの人を……先生をお願いします」

 

 頭を下げるアインハルト。

 その態度はどこまでも真剣だった。

 彼女なりに綾瀬彩那を本気で心配している。

 

「だい、じょうぶです。そんなこと、絶対にさせません」

 

 綾瀬彩那は大切な友達だ。

 たとえなのは自身に至らないところはあっても、独りで無茶させるなんて事は絶対にさせない。

 そう約束してなのははアインハルトに頷く。

 

「なのはママ……」

 

 なのはの表情にヴィヴィオは言葉に出来ない不安を感じた。

 

「そろそろ行きますね! アミタさんが捕まえた妹さんの尋問が始まりますから!」

 

「あ……」

 

 部屋を出ていくなのは。

 先程の言葉に嘘はない。

 彩那を独りで戦わせるなんて絶対にさせない。

 だけど。

 この時の話をもっと深く自分の胸に刻み込まなかった事を、高町なのははずっと後の未来で、後悔する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリエ・フローリアンは拘束された状態で椅子に座らされていた。

 

「あの〜もうちょっと丁寧に扱ってほしいんですけど〜」

 

「我慢してくれ。というか、そんなことが言える立場か?」

 

「ですよね〜」

 

 おどけた様子で肩をすくめるキリエ。

 この部屋には今、キリエとクロノ。そしてアミティエだけだった。

 キリエから質問を口にする。

 

「……マテリアルの子達は?」

 

「彼女らは、砕け得ぬ闇を助ける為のプログラムを作っている」

 

 現在技術に覚えのある者達が総出で砕け得ぬ闇を助ける為のプログラムを作っていた。

 他は傷を少しでも癒す為に身体を休めている状況だ。

 

「こちらの質問にも答えて欲しい。君は闇の書の深い部分。砕け得ぬ闇についてどこまで知っている?」

 

「……」

 

 黙秘するキリエにクロノは少しだけ眉間にしわを寄せる。

 管理局側からすれば、拘束さえすればキリエへの用は殆ど無い。

 砕け得ぬ闇への対処中に邪魔されては敵わないだけだ。

 私情を挟むつもりはないが、仲間を傷付けた彼女への悪感情はある。

 

「キリエ、話してください。これ以上口を噤んでも、事態が好転しないのは理解しているでしょう?」

 

 アミティエからしたら、妹が管理局に協力して、少しでも心象を良くしたいのだろう。

 だが、キリエからしたらここは他所の世界。それも過去だ。

 目的を果たせば去る世界の事を気にするなど馬鹿馬鹿しいと思っているとクロノは予想する。

 

(まぁ、半分は決めつけなんだが……)

 

 本当にキリエがそう思っているのかはクロノに測れる筈もない。

 ただ、そうであってくれれば都合が良かったのだ。

 自分の故郷を救う為なら地球がどうなろうとどうでも良い。

 プレシア・テスタロッサのようにそう考える人間ならば、自分も1人の局員として心を乱さずにキリエと向き合える。

 そんな風にキリエ・フローリアンを悪者にして楽な方へと考えてしまう思考にクロノは疲れているなと心の中だけで溜息を吐いた。

 そこで念話で簡単な報告が届く。

 

「砕け得ぬ闇が見つかったらしい」

 

 口にした報告に姉妹が驚きの顔をする。

 幸い砕け得ぬ闇は結界内から出ておらず、何もせずに動かない様子だ。

 

(だが、彼女が結界の外で本格的に暴走しだしたら……考えたくもないな)

 

 アレが外で暴れだしたら、この世界だって黙ってはいないだろう。

 軍隊が出動し、暴れている砕け得ぬ闇を攻撃するかもしれない。

 自分達管理局の人間だって同類に思われて引き金を引くだろう。

 それに先ず被害が出るのは戦場下で暮らす海鳴の人間だ。

 彼らは何ひとつ事態を把握出来ずに命を落とすだろう。

 絶対に結界内で事を終わらせなければならない。

 

「アミティエ。悪いが彼女の取り調べはここまでだ。君の力を貸して欲しい」

 

「もちろんです! 先に行って下さい。私は妹ともう少しだけ話があるので」

 

「分かった。だが急いでくれ」

 

 席を立ち、2人きりにしてくれたクロノに感謝しつつキリエと向き合う。

 

「キリエ……貴女は、この先どうするつもりですか?」

 

「どうするって、もうどうにもならないでしょ」

 

 管理局に捕まり、キリエはもう動きようがない。

 事件が終わった後に、犯罪者として牢屋行きになるか。それとも厄介払いで姉と共にエルトリアに帰されるか。

 どちらにせよもうキリエは動けない。

 それを知って、何を聞きたいのか。

 

「キリエは本当に、エルトリアを救う為ならはこの世界がどうなっても構わないと思ったのですか?」

 

「それ、は……」

 

 姉からの質問にキリエは押し黙る。

 あの時は感情的になって叫んだが、もしもこの世界が砕け得ぬ闇によって多大な犠牲が出たら。

 それでも自分の意思を押し通せたかと問われれば。

 何も答えないキリエに、アミティエは小さく息を吐く。

 

「事件の後、貴女の沙汰は、管理局の人達に任せるつもりです。もしもキリエが管理局で刑に服することになったら、私もこの世界に残ります」

 

 その言葉にキリエは、ハッと顔を上げる。

 

「管理局のお手伝いでもしながら、キリエが出てくるのを待ちます。お姉ちゃんですから。妹の不始末の一端くらいは背負いますよ」

 

「……アミタのそういうところが嫌いなんだってば」

 

 姉はいつも聞き分けの良い子で、正しくて……そしてどうしょうもなく家族に甘い。

 だから、エルトリアで大人しくしてて欲しかったのに。

 

「ごめんなさい。でもキリエ。貴女がどうなっても、先ずは話し合いましょう。これまでキリエがどう思っていたのかを。私もちゃんと話しますから」

 

「ダメでしょ、それ。私らとは別に未来から来た子達はどうするの?」

 

 彼女らが帰るには、アミティエとキリエのどちらかは必要だ。

 自分の贖罪に巻き込んで長々とこの時代に残しておく事は出来ない。

 1度帰ってしまえば、簡単にこちらに来る事も出来ない。

 それを指摘するとアミティエの言葉を詰まらせる。

 

「う!? そ、それは……あ、後で考えます! とにかく今は、目の前の事に全力を尽くすだけです!」

 

 そう言って立ち上がり、部屋を出て行こうとするとキリエの方から声をかけた。

 

「王様の紫天の書は、システムU-Dを制御する為に造られたデバイスなのよ」

 

「キリエ?」

 

「少なくとも、私が調べた限りではね。だから、砕け得ぬ闇を止める鍵は王様が握ってる。私があの子達を懐柔しようとした理由」

 

 ディアーチェが居れば、後はどうにかなると思っていたと言う。

 

「分かりました。話してくれてありがとう、キリエ」

 

 少しだけ声を柔らかくしてアミティエは部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ。今回の作戦の説明を始めます」

 

 リンディがモニターの前で主力メンバーへ説明を始める。

 

「現在、目標は海鳴の街の海に近い位置で行動を止めています。理由は不明ですが、これは絶好のチャンスです」

 

 映像には空で蹲っている砕け得ぬ闇が映されている。

 

「我々の目的は彼女の説得による投降の呼びかけ及び、それが失敗した場合の力づくでの拘束となります。海鳴の街に住む市民の安全を最優先に、です。ではディアーチェさんとシュテルさん。説明をお願いします」

 

「うむ」

 

「承りました」

 

 リンディに呼ばれてディアーチェとシュテルが前に出る。

 ディアーチェが手にしている箱を開けると、中には4つのカートリッジの弾が入っていた。

 

「これは、砕け得ぬ闇の中にある永遠結晶エグザミアと奴のリンカーコアの繋がりを一時的に封じる為の弾だ。時間が限られていたので、4つしか作れなんだが」

 

「むしろ、この短時間で4つも作れたことに感心するんだけど、効果が出る条件は? 馬鹿正直に当てればなんとかなる訳じゃないんでしょ?」

 

 彩那の疑問にシュテルが頷く。

 

「はい。この弾の効果を発揮するには、彼女の防御を抜いて弱らせ、エグザミアに直接弾丸の中に込められた術式を撃ち込む必要があります」

 

「あの子を相手に……」

 

 あれだけの圧倒的な魔力を弱らせる。そんな事が本当に可能なのだろうか? 

 やや気持ちが弱くなっている面々に彩那が発破をかける。

 

「戦闘記録を見た感じ、相手は魔力こそ膨大だけど、戦闘は素人よ。大丈夫、距離を取ってひたすら攻撃を叩き込み続けて。敵の防壁を剥がしていくのよ」

 

 どれほど硬い防壁でも、必ず限界はくる。

 要するに、力押しで相手の魔力供給を上回る勢いで攻撃を叩き込み続ければ良いのだ。

 

「正直、これだけのメンツというか、火力が揃ってどうにもならないなら、戦略兵器か、大量の質量兵器を持ってくるしかなくなるからな。そうなったら、海鳴の街の被害は計りしれない。なにがなんでもここで食い止めるぞ!」

 

 クロノの言葉に全員が気を引き締め直す。

 そこでティアナが発言する。

 

「それで、そのカートリッジを誰が使うんですか? カートリッジシステムを積んでいるデバイスを持ってる人なのは当然ですけど」

 

「我らが作ったのだ。全て我らが、と言いたいが、作戦を成功させるなら、分散した方が良かろう。1つはシュテルに預ける。他3つはそちらの好きにするが良い」

 

 そう言って弾丸の1つをシュテルに渡すディアーチェ。

 

「分かりました。必ずや王の期待に応えて見せましょう」

 

「うむ」

 

「シュテルんがんばれー!」

 

 わいわいとするマテリアル達。

 クロノが皆に意見を求める。

 

「出来れば、戦闘スタイルをなるべくバラけさせたいな。どう思う?」

 

「火力の問題がありますからね。高町さんとシグナム。後は、ナカジマさんがセオリーでは?」

 

「うえぇっ!? あたしですか!?」

 

 突然彩那から指名されて、スバルが素っ頓狂な声を出す。

 

「突破力なら相当な物だと思いますよ。限定的な空戦も可能なようですし」

 

 これで敵が熟練の魔導師なら話は変わってくるが、敵は戦闘に関してはおそらく素人。

 近付いて殴るだけならどうとでもなるだろう。

 

「こちらで援護もしますので、合図を出したら突っ込んでくれれば。地上からの攻撃なら奇襲にもなるでしょうし」

 

「う〜。まぁそういうことなら……」

 

「シャキッとしなさいスバル! あたし達も援護するから!」

 

 弾を受け取るスバル。

 なのはを選んだのは単純に火力が高いから。

 シグナムを選んだのは、ヴィータには盾役に徹して欲しいのと、機動力に優れるフェイトは敵の攻撃を引き付ける役目を担って欲しい。

 

「それじゃあ、ここから細かに役割を決めていこう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は目的もなく海鳴の空を佇んでいた。

 自分がなにをしたいのか。どうなって欲しいのかとか、そうした願いは疾うの昔に擦り切れている。

 だけど、自分がどうなるのかは分かる。

 永遠結晶と砕け得ぬ闇のバグにより、自分はこれからどんどん理性を失ってゆき、破壊を撒き散らすだけの怪物と成り果てる。

 そしてこの星を破壊して破壊し尽くして。

 それからそれからそれから────。

 そこで少女はここに接近してくる無数の反応に気付く。

 向かってくる集団の中には自分が傷付けてしまったマテリアル達も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砕け得ぬ闇と接触した一同。

 代表してクロノが前に出る。

 

「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。大人しく投降して欲しい。そうすれば、君に起きている異変に対して人道に基づいた検査と治療を約束する」

 

 クロノの言葉に対してなにも返さない少女。

 それに対して他の者達も声をかけ始める。

 

「話を聞いて! わたし達は戦いに来たんじゃないの!」

 

「助けたいんだ! 君を! だから私達を信じて欲しい!」

 

 なのはとフェイトが声をかけるがやはり反応無し。

 どう見るべきかとクロノと彩那が考えていると、ツヴァイとユニゾンしたはやてが近づこうとする。

 

「ヤミちゃんわたしら────」

 

「迂闊に近づかないで!」

 

 感じた魔力反応に彩那ははやての肩を後ろから引っ張り、同時にシールドを張った。

 すると、彩那が展開したシールドに射撃魔法を受けた音と衝撃が響く。

 

「あ、ありがとうな。彩那ちゃん……」

 

「ちっ! システムU-Dとやらの自動防御か。こちらが近付くと、あの子の意思に関係なく戦闘行動を取るのね。ここももう射程距離だと思った方がいい!」

 

 あの少女自体から攻撃の意思を感じなかった。

 なら、あの子の中のシステムが自動的に戦闘行動を取っていると考える。

 

「分かってはいたが、やはり戦闘は回避出来ないか」

 

 悔しそうにクロノが眉間にしわを寄せる。

 

「聞いての通りだ! 僕達はこれから、砕け得ぬ闇を捕縛する為の戦闘行動に移る! 切り札の弾を持っている者は、より慎重な行動を心がけてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

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