『これだから帝国の兵器は……っ!』
愚痴を溢しながら空を駆けて要塞の攻撃をやり過ごす。
戦争も終盤になり、王国と帝国の二極化していた。
元より兵士の数はそこまで多くない帝国だが、技術力は他の国を上回っており、そのお陰で勝ち残ってきた。
現在対処してる要塞は物理、魔法問わず外側からの攻撃を通さないくせに、中からは撃ち放題というデタラメ仕様。
(中に潜入した渚ちゃんと璃里ちゃんが防壁を何とかするまで持ちこたえないと!)
既に此方の兵の2割も落とされている。
私も何とかフォローに回っているが、如何せん弾幕が厚すぎる。
向こうの弾幕に反撃しようとする兵を制止する。
『下手に攻撃しないで! 生き残る事を最優先にっ!!』
敵の兵を此方へ注意を引き付けるのが目的だが、こっちの攻撃はどうせ要塞内部には通らないのだ。
それよりも今は生き残り、潜入班がこの防壁を解除するのを待たなければならない。
戦闘開始から1時間程。ついに戦況が動いた。
要塞に張られていた防壁が消え去っていく。
『璃里ちゃん、やったのね……!』
急に防壁が消えた事に混乱する帝国兵。
要塞の弾幕を掻い潜りつつ、全速力で突撃する。
『邪魔よ!』
すれ違いざまに帝国兵の胸に聖剣を突き立て、引き抜くと同時にもう1人の首を斬り落とす。
『私は潜入班と合流します! 全軍、要塞の制圧を!』
それだけ指示を出すと砲弾のような勢いで要塞に突っ込む。
(防壁が解除されたのに、璃里ちゃんに念話が通じない。嫌な予感がする!)
制御システムを守っている敵兵や
要塞の制御室に辿り着いた時に見たのは、倒された敵兵。
そして、血だらけで倒れた璃里ちゃんだった。
『璃里ちゃんっ!?』
駆け寄り、その体を抱き起こす。
『しっかりして!? 今治すから!』
止血しようと治療魔法を使う。
しかし上手く傷が塞がらない。
璃里ちゃんの目が開き、自嘲する。
『あは……戦いをみんなに任せることが多かったから、ヘマしちゃった……ごめんね……わたし、もう……』
『喋らないで!』
そんなのは聞きたくない。
傷を。傷を塞げば、きっと。
もうこれが、助からないと理性では理解しつつも治療を続ける。
自分の死を悟ってか、璃里ちゃんの目から涙が溢れる。
『いやだ、なぁ……わたし、まだ死にたくない。死にたくないよぉ……おかあさんとおとうさんに、会いたい……』
もう見えない目で、震える手が家族を探すように動く。
その手を取ったのは────。
『おかあ、さん……?』
『そうだよ。やっと帰ってきたのね、璃里……』
要塞の司令を押さえる役目で璃里とは別行動を取っていた渚ちゃんだった。彼女も璃里ちゃんに何か遭ったのだと思い、駆けつけたのだろう。
渚ちゃんが璃里ちゃんの手を握ると安堵した様子で息を吐く。
『ちょっと、つかれちゃった……また、おかあさんのグラタン……たべたいなぁ……』
『うん。次に起きた時までに作っておくから。ゆっくりとお休み』
精一杯に璃里ちゃんの母を演じる渚ちゃん。
璃里ちゃんの目蓋が少しずつ閉じていく。
『あぁ……たのしみだなぁ……』
目を閉じると、彼女は覚める事のない眠りへと落ちたのだ。
彩那が挙手すると、リンディが訝しむ。
「まだ何か?」
「この艦にジュエルシードを封印出来る魔導師は何人居ますか?」
彩那の質問にリンディは一瞬眉を動かしたが変わらない口調で答えた。
「そうね。単独での封印なら私とクロノくらいかしら? でも現場には複数の魔導師に当たらせるつもりよ」
確かにそれなら封印も可能かもしれない。
ユーノが単独で失敗し、なのはが可能だった事から、必要なのは技術よりも力押しなのだと思う。
思考しながら視線をなのはに移す。
「?」
本人は首を傾げている。
それから再度口を動かし始めた。
「私が欲しいのは私達が暮らす海鳴。延いては地球の安全です。だからジュエルシードをこの世界から遠ざけてくれるのなら、回収するのは管理局でもテスタロッサさん達でも構わないと思ってます」
「おい」
苛立ちの感情を視線に乗せるクロノ。
なのは達も驚いている。
「だけど、あちらがジュエルシードを利用して何をしようとしているのか。今はそれが問題ですよね。コレクション趣味なら良いのですが、もし何らかの目的でジュエルシードを使用する場合、地球にも被害が出るかもしれません」
ロストロギアという物はそれだけの価値が在るだろう。しかし、フェイト達の様子からそれだけとは思えない。
「もしもあなた方が今回の件を手に負えないと判断した場合、すぐに撤退してしまうかもしれない。そうなった時に私達には現状を知る手段がない」
管理局にとって、地球は自分達とは関わりのない世界の1つでしかない。
この世界の為にどこまで頑張ってくれるか。
そして彩那の言い分が管理局に対して挑発的な物でもあった。
「僕達は管理局の局員として、そんな無責任な真似はしない」
「そうかもしれません。ですが、私達の間には何の信頼関係もありませんので」
時空管理局について彩那はユーノから聞いた説明以上の事は知らない。
だから、この無関係な世界の為にどれ程の力を尽くしてくれるのか、イマイチ分からない。
態々この世界まで来てくれた事はありがたいが。
「それで、綾瀬彩那さん。貴女は何が言いたいのかしら?」
恐らくはこちらの言いたいことを理解しつつ質問をするリンディ。
「幸い、こちらの高町さんには単独でジュエルシードを封印した実績があります。少なくともジュエルシードに関してそちらの足手まといになることは無いと思います。私達も当然手伝います」
ジュエルシードの封印だけならこれまでとやることは変わらない。
「複数のジュエルシードが別々の場所で発動するかもしれない。もしくは何らかの要因で暴走するかもしれない。事が事だけに、使える人材は何人居ても困らない筈です。そちらからすれば、テスタロッサさんの事も調べる必要もあるでしょう」
フェイト達がジュエルシードを集めるなら今後は管理局に接触しない方法を選ぶだろう。少なくとも、残りの数が多い内は。
少しの間は未封印のジュエルシードの取り合いになるだろうと彩那は思っている。
ただ心配なのは。
「管理局が介入してきたことで自棄になって危険な手段を取らないとも限らない。私としてはその時に蚊帳の外にいる方が怖いです」
勿論その程度の事は管理局も想定しているだろう。
彩那の発言にリンディが僅かに苦い顔をした。
「それはつまり、この事件への協力を申し出ているのかしら?」
「そうなりますね。私達はあなた方にジュエルシードを封印する戦力を提供する。私達も現状ジュエルシードの捜索に難航していますので、その方面で力を貸していただければと。その方が互いに都合が良いでしょう?」
管理局は空いた戦力をフェイト達の調査に割ける。
彩那達もジュエルシードを封印して海鳴の平和が確認できる。
ついでにフェイトとぶつかれば、なのはの方も目的にも近づける。
どちらにせよ、近くでジュエルシードが発動し、以前の大樹のような被害が出ればこちらも動かざる得ない。
その時に難癖を付けられても困るし、互いに見張れる距離に居て協力した方が建設的だ。
話を聞き終えると、リンディが小さく息を吐いた。
「分かりました。そちらの協力を受け入れます」
「艦長!?」
非難する声を上げるクロノ。
それを制してリンディが続ける。
「勿論、あなた達の身に危険が及んだ場合、その安全を優先することを約束します」
真っ直ぐと言われたその言葉が、まるで心から意外だったかのように彩那は瞬きをした。
しかしそれもすぐに直す。
「それじゃあ、クロノ。協力するに当たって、色々と確認しておきたいから、検査室まで案内して」
「……分かりました。付いてきてくれ」
渋々と言った感じで案内をするクロノ。
部屋を出ると、彩那から2人に念話が届く。
『ごめんなさい。勝手に協力を決める形にして。高町さん達が嫌なら、今からでも……』
話をスムーズに進める為になのはの功績を出汁にしたことを謝る彩那。
『う、ううん。それは良いの! むしろ、関わらせて貰えてちょっとホッとしてるし』
『元々僕が発掘したジュエルシードが原因だしね。管理局に協力が得られたなら大助かりだよ』
このまま自分達の知らないところで事件が終わる。
それはこれまで何とかしようと奮闘した2人にしても納得出来ない事だった。
そう、と相づちを打ち、彩那は疲れた感じに念話を続ける。
『それにしても、やっぱりああいう交渉は性に合わないわね』
『そうかな? 自分の意見をぶつけられてスゴいなって思ったよ』
『ありがとう。でもそれはあの艦長さんがこちらの話を真剣に聞いてくれてたからよ。子供の戯れ言と切って捨てたり、頭ごなしに否定されてたら私じゃどうしようもなかった。私って本当は、誰かの言うことを聞いて行動する方が性に合ってるのよ』
そうだろうか? となのはとユーノは疑問に思った。
『それに、私達の安全も考慮してくれる言質まで取れるとは思わなかったわ。良心的な人で少しは信用も出来そう』
もしもあの瞬間、自分達を当て馬として利用することを喜ぶような人間なら協力関係など結べなかった。
子供を戦いへ送り出す事にちゃんと心を痛める倫理観がある。
『どう言うこと?』
『……世の中には、自分の安全や得の為に子供を平気で
あまり声にも感情を表さない彩那が、その時だけは隠しようもない嫌悪感や軽蔑の感情を表していた。
案内された検査室でリンカーコアを調べられる。
それから実戦形式での魔法を使用するように指示された。
それらのデータ結果を次元航行艦アースラのオペレーターであるエイミィ・リミエッタが解析して話す。
「わっ。なのはちゃんスゴいねー。リンカーコアの魔導師ランクがAAAだって。これ、管理局でも5%しか居ない数値だよ。彩那ちゃんとユーノ君の2人はAランクだね。うんうん! これなら3人とも即戦力だよ!」
フレンドリーに話すエイミィ。
しかしその結果になのはが不思議そうに質問する。
「でもわたし、魔法の特訓で1回も彩那ちゃんに勝ったこと有りませんよ?」
自分の方が高い評価を受ける事を疑問に思う。
その質問を返したのがクロノだった。
「それだけ彼女の魔力の運用と効率が良いんだろう。まったく、そんな技術をどこで覚えたんだか」
本当に君は管理外世界の人間なのかと視線を向けるが、本人はノーコメントを貫いている。
データを解析しながらエイミィが話を続ける。
「彩那ちゃん、よく4つもデバイスを使い分けられるね? 何れも性能が
最初は渋っていたが、確認の為に提出させられ、現在レイジングハート共々解析に回されている。
「この聖剣は防御術式ばかりだし、魔剣は逆に遠距離攻撃用。霊剣は肉体の強化や治癒の身体に作用する魔法。王剣はバインドや結界みたいなサポートばかり。その代わりに処理速度はストレージ以上だけど」
特化した魔法以外も一応組まれているが、本当に一応、だ。
「ホーランド式だっけ? もしかしたら完全に役割分担したチーム戦に特化した術式なのかな?」
「えぇ、まぁ……そういう側面も有りますね」
流すように答える彩那。
データの解析をしているエイミィが途中であれ? と手を止める。
「どうした、エイミィ?」
「うん。なんだか、データを解析しようとすると途中で弾かれちゃうの。容量の半分以上がブラックボックス化してて解析出来ないよ、4つとも」
「何だって?」
疑問を彩那にぶつけるが、当の本人は肩を竦めるだけだ。
「それは貰い物ですので……」
アースラに搭乗して1時間と少し。辺りはすっかり暗くなっていた。
「とにかく、帰ってお父さんたちを説得しないとね!」
リンディから出された条件に家族の承諾をキチンと得る事も含まれていた。
彩那の方は大丈夫なのかと訊こうとすると、なにやら携帯とにらめっこしていた。
「どうしたの?」
「うん。大した事じゃないわ。ただ、携帯に両親からの着信とメール受信が100件以上届いてるだけだから」
「それは大丈夫なの!?」