世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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夜は明ける

 砕け得ぬ闇の胸を貫いた彩那が剣を引き抜くと、彼女は力無く落下していった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 建物の陰で見えなくなった砕け得ぬ闇。

 

(なにかしら? 前より神剣を握ってる感覚に違和感が……)

 

 振るっている最中は気にならなかったが、こうしていると微妙な違和感を感じる。

 感触を確かめる為に神剣を素振り軽くすると、クロノの怒声が届く。

 

「なにをしてるんだ君は!!」

 

 近づいたクロノに彩那は小さく息を吐く。

 

「作戦を聞いていただろう! 今回は彼女を止めるのが目的で────」

 

「仕方ないでしょう。あのまま戦いを続けていても少しずつこちらが不利になっていたわ。大丈夫よ、あれくらいじゃあ死にはしないわ。たぶん」

 

「たぶんって。君な!」

 

 あしらうような話をする彩那にクロノのこめかみに血管が浮かぶ。

 

「この戦力で攻め切れない相手です。それがどれだけマズい状況か把握してない訳ではないでしょう?」

 

「それは……しかし!」

 

 クロノとてこの状況が大変危ないのは理解している。

 あのまま時間をかけていたらこちらが確実に敗北していた。

 だから彩那は強引にでも流れを変えようとしたのだ

 自分達の不甲斐無さのしわ寄せで。

 

「だが、その剣は……!」

 

 クリスマスの夜。

 その負担で彩那がどうなったのか知るからこそ咎める形になってしまう。

 

「大丈夫よ。アレを相手にするなら、こっちも相応の物を使わないと」

 

 まるで、自分がなんとかしなければと。

 そう言うような顔。

 それを遠目で見ていたなのはは、レイジングハートの柄を強く握った。

 

「高町なのは」

 

 シュテルがそこでなのはに話しかける。

 さっきの失敗を責められるのかと少しだけ身構えてしまう。

 

「1つ、提案が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリエ……貴女どうして」

 

「あのリンディって人にこっちの状況を見て協力を要請されたの。もっとも、渡されたのはコレだけだけどね」

 

 2丁拳銃の内、片方しか返却されなかった。

 落としたもう1つも回収されているが、信用されてないのだろう。当然だが。

 

「罪滅ぼしって訳じゃないわ。まだ永遠結晶を手に入れるのは諦めてないから」

 

 キリエにとっての最優先は永遠結晶を手に入れてエルトリアに持ち帰る事。

 そこは揺るがない。

 でなければ、なんの為にこの時代の地球に来たのか分からない

 

「その為に、管理局と協力した方が良いと思っただけ」

 

「……分かりました。こちらの妨害をしないと言うなら今はこれ以上追及しません。ですが! 全てが終わったらお説教ですからね!」

 

 アミティエの言葉にキリエは肩をすくめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしようティア〜。まったく入って行ける気がしないよぉ……」

 

「わかってるわよ! 気落ちすること言うな!」

 

 怒鳴るティアナだが、それが自身の苛立ちからくる八つ当たりだと自覚して軽くスバルに謝る。

 はっきり言ってカートリッジを託されたスバルを割り込ませる隙が無い。

 下手に突っ込ませたらスバルが殺される未来しか想像出来ない。

 

(特に今見た綾瀬副部隊長は……)

 

 文字通りレベルが違う。

 どんなイカサマを使ってあんな戦いをしてるのか。

 あの白い剣が理由だろう事しか理解出来ない。

 

「とにかく、相手が沈黙してる内に気構えだけは────」

 

 そこで彩那からこの戦闘に参加している全員。

 結界の外に居る魔導師も含めて念話を送ってきた。

 

『そろそろあちらさんが仕掛けてくるわ。結界班は結界の強化を最大硬化で3……いえ、5分お願い。何度でも言うけど、敵の攻撃を結界の外に出さないのを最優先に』

 

 そこで念話を切る。

 見ると、彩那は1人白い剣を構えていた。

 

「来るわっ!」

 

 瞬間、砕け得ぬ闇が落ちた場所から雨が昇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの誘導式の射撃魔法が結界内に居る魔道士を襲う。

 

「ダァッ!? なんだよコレェ!?」

 

 回避と相殺を全力で行うレヴィ。

 この攻撃をまともに受けたら間違いなく撃墜すると勘が告げている。

 しかし、どれだけ対処しても攻撃が一向に止む様子がない。

 段々と攻撃に対応するのが難しくなってきた。

 

「レヴィ!!」

 

 防御魔法を最大展開してレヴィの背後から迫る攻撃からフェイトが庇う。

 

「あぁっ!?」

 

 しかし、数の勢いに押されて着弾時の爆発に弾き飛ばされた。

 

「フェイトッ!? あぐぁああっ!?」

 

 すぐに助けようとレヴィは動くがすぐに攻撃魔法の的になって同じように墜とされる。

 

 

 

 

 

 

「王様っ!!」

 

 ツヴァイとユニゾンしているはやては自身の膨大な魔力を飛行と防御に全振りしディアーチェを守っていた。

 

(アカン! そう長くは保たへんよ……!)

 

 どんどん魔力の障壁が削られていくのが判る。

 ツヴァイの補佐で片っ端から削られている障壁の傷を魔力で補強しているが、いつまで保つか。

 

「子鴉、貴様!」

 

「王様はわたしが守る! だから闇ちゃんを助ける方法を探して! 早よせんと彩那ちゃんが本当にあの子を殺してまう!」

 

「分かっておる! 分かっておるが……!」

 

 ディアーチェはずっと紫天の書に解析をかけ、砕け得ぬ闇を救う方法を探していた。

 しかしもう少しのところで届かずにいる。

 

(彩那ちゃんは本気や! これ以上時間をかけたら本気であの子を殺す……!)

 

 砕け得ぬ闇が再び復活するリスクを負ってでも彼女の殺害を決意している。

 友達にそんな事はさせたくないという思いと、このままだと海鳴の街に被害が出るという現実がはやての中でせめぎ合っていた。

 一時的に攻撃が薄くなったと思ったら10秒経たずに第2波が迫る。

 しかしそれは炎を宿した砲撃魔法によって打ち消された。

 

「シュテルか!」

 

「王を守るは私達の役目です。貴女は貴女の役目をどうか」

 

「済まぬ……!」

 

 まだ攻撃は止まない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上に居る未来から来た4人の魔導師は、向かってくる攻撃魔法に加えて破壊された建物の破片の対処に精一杯な状況だった。

 

「皆! 自分を守るのを最優先に! スバル! アンタは作戦の要なんだから絶対にやられんじゃないわよ!」

 

「はい!」

 

「分かりました!」

 

「うん!」

 

 ティアナの指示に3人が返事をするが、これがあと何分続くのか。

 終わりのないマラソンのようでそれだけで披露がじわじわと気力を奪っていく。

 そこで建物の破壊され、その破片が落ちてくる。

 

「逃げるわよ!」

 

 飛べないとこういう時に不便なのよ、と内心で愚痴りながら仲間に回避を促す。

 しかし初動を遅らせた事が仇となり、回避がギリギリになる。

 

「オラァアアアッ!!」

 

 ヴィータが介入し、落ちてきた大きな破片を槌で破壊した。

 

「ヴィータ副隊長っ!?」

 

「オメーら、そこから動くな! 守り切れねぇ!!」

 

 言った直後に攻撃魔法の雨が落ちてくる。

 

「ウォオオオオオッ!!」

 

 ザフィーラが防御魔法を展開してそれをヴィータと共に受けた。

 

「長くは、保たんか……!」

 

 攻撃魔法は際限なく降ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう! 鬱陶しい!」

 

「口より手を動かしなさいキリエ!」

 

「分かってるてば! でも1丁だけじゃ────きゃぁっ!?」

 

 攻撃魔法を防いでいるが、弾幕が間に合わず、キリエを弾き飛ばす。

 

「キリエ────ガッ!?」

 

 妹がやられた瞬間、敵の攻撃から意識を逸らしてしまったアミティエも攻撃魔法の雨に呑まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────つぅっ!」

 

 いつの間にか意識が飛んでいたティアナは頭を振りかぶって無理やり覚醒させる。

 

「みんな……っ!?」

 

 大丈夫、と訊こうと周囲を見ると、その光景に唖然とした。

 

「なにこれ……?」

 

 まるで大きな地震でも起きたかのような街の惨状。

 この結界内が本来の海鳴とはすり替えられた物だと言う事は理解している。

 だが同時に、もしもこれが結界の外だったなら。

 それに思い至ると震えが止まらなかった。

 怖気づいていると、辛そうな声が届く。

 

「よぉ……起きんの早かったな……」

 

「ヴィータ副部隊……!」

 

 倒れているヴィータを抱き上げるティアナ。

 

「あたし、どれくらい……」

 

「ざっと2、3分ってとこだ……あたしらも全部は防ぎ切れなくて、いいの貰っちまった……クソッ!」

 

 咳き込み、吐血するヴィータ。

 見ると、腕や脚に穴が空いている。

 それでもヴィータは槌を支えに立ち上がろうとするが、すぐに倒れてしまう。

 

「クソが……! ふざけんなよ……こんなの、どうにかできるわけねぇだろが……!」

 

 悔しそうに空を睨むとそこには砕け得ぬ闇が佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうにか残った建物に隠れながらクロノは通信を送る。

 

「エイミィ、外への被害は?」

 

『うん。大丈夫……ユーノくんやアルフ。それに、結界班が全力で魔力を注いでくれてたからどうにか外への被害は出てないよ。彩那ちゃんが指示してくれたおかげだね』

 

「そう、か……」

 

 外への被害が無かった事に安堵するクロノ。

 

『でも、そのせいで今の結界は強度がほぼ無い状態なの。次に同じ攻撃をされたら耐えられないよ!』

 

「判ってる……早く、目標を止めないと──―グッ」

 

『クロノくん?』

 

 クロノは撃たれて血が流れている横腹を押さえる。

 それを見ていたなのはが慌てて訊く。

 

「クロノくん、わたしを庇って……!?」

 

「少し掠めただけだ。大丈夫、問題ない」

 

 そう言ってはいるが、声は苦しそうで顔には脂汗が滲んでいる。

 とても戦闘が出来る状態ではない。

 それでもクロノに引くという選択肢はなかった。

 

「いくぞ、なのは。ここであの子を止めないと、本当に取り返しのつかないことになる」

 

 今日ここで全てを終わらせなければならない。

 これだけの戦力を今後投入出来る可能性は限りなくゼロだ。

 最悪、管理局が地球を見捨てる可能性もある。

 

「絶対に今日終わらせるんだ!」

 

 そう動こうとした瞬間、砕け得ぬ闇に向かっていく彩那の姿が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 右肩と左脇を斬り、そして腹部を突く。

 

(反応が全然遅い! 戦闘はやっぱりプログラム任せか!)

 

 魔力の反応と本体の反応がまるで噛み合っていない。

 攻撃さえ通れば決して恐い相手ではないのだ。

 ただ、この膨大な魔力の守りに攻撃を通す。それだけが果てしなく遠かった。

 

「う、う、あ……あぁあああぁあっ!!」

 

 腹に刺した剣を引き抜くと反射的に翼に似た魔力の塊が襲いかかるが、砕け得ぬ闇の視界が開けた時には既に彩那は背後に回り背中を斬っている。

 

(助けるなら早くなさい! 長くは保たないのよ……!)

 

 神剣をあとどのくらい振るえるのか判らない。

 生半可な手加減をすればこっちが殺される。

 かと言って不用意に殺せばどうなるか判らない。

 

(八方塞がりね。ここまで面倒な戦いは久し振りだわ)

 

 どれだけ傷を負わせても魔力で強制的に治癒と再生で回復する。

 

(これだから魔法生命体はっ!)

 

 プログラムにも依るが、魔力が有れば元の形をすぐに取り戻す。

 彩那も神剣の術式で傷自体は治癒されるが、失った血は戻らない。

 体力切れが近いのを感じながらいると、膨大な魔力を感知する。

 

「さっきのアレか……! 神剣(こっち)には人体の再生機能なんて無いのに、面倒ね!」

 

 発射前に防御魔法で受けて止める為に動く。

 

(片腕が消し飛ぶかもしれないけど、結界を破壊されるよりマシか!)

 

 可能な限り魔力を注いだシールドで敵の攻撃を受け止めて拡散を防ぐ。

 肘から下があったら幸運だ。

 そう考えていると、シュテルが割って入る。

 

「あなた……!」

 

「ルシフェリオン────ブレイカーッ!」

 

 集束魔法で集めた魔力を解放し、砕け得ぬ闇の攻撃を相殺を試みる。

 砲撃の反動で後ろに下がったシュテルを彩那が抱き止めた。

 

「無茶するわね……!」

 

「貴女程ではありません」

 

 冷たく返すが相殺し切れずに砕け得ぬ闇の攻撃が僅かだがシュテルに当たっているのを彩那は見抜いていた。

 

「今の、例のカートリッジで?」

 

「いえ。アレは高町なのはに渡してきました。もしも今使っていたら、あの子の攻撃と相殺で無駄撃ちになっていたでしょう」

 

「でしょうね」

 

 シュテルの主張に彩那は息を吐く。

 見れば、向こうもそれなりに消耗しているように見える。

 無限の魔力を生み出せても、それを扱う器自身に限界が来ている。

 

(と、いいのだけど……)

 

 あくまでも予想予測でしかない。

 判断するには情報が不足し過ぎている。

 破壊された結界内を見渡す。

 戦える者は限られていた。

 

「前衛はこっちで引き受けるわ。貴女は後方から私に当てないように撃ってくれればいい」

 

 彩那の指示を聞くかは判らないが、なにも言わないよりはマシだ。

 シュテルは彩那を見つめながら問いかける。

 

「あの子を手にかけるつもりですか?」

 

「そうはならないように気をつけているのよ」

 

 魔力量が桁外れなだけで砕け得ぬ闇の戦闘力自体はそう高くない。

 首を刎ねるくらいで済むならとっくに殺っている。

 

「……わかりました。どうか御武運を」

 

「お互いに、ねっ!!」

 

 話している最中に攻撃が飛んできたので、シュテルを突き飛ばしてから砕け得ぬ闇に接近した。

 移動中に彩那に襲いかかる攻撃をシュテルが全て撃ち落とす。

 思った以上に正確な援護に感心する間もなく彩那は砕け得ぬ闇の左肩と胴体部の複数箇所に刃を突き刺す。

 

「ぐぅ、アァアアアアッ!?」

 

 突き刺した神剣を引き抜こうとした瞬間に砕け得ぬ闇の背中から伸びた魔力の塊が彩那を掴んだ。

 

「つっ!」

 

 握り潰そうとすると、彩那は苦痛で顔を顰めたが、すぐに笑みを浮かべる。

 

「去年のクリスマス────リインフォースの時も思ったけど、助かろうと足掻きもしないくせに被害者ぶられるのって正直苛つくのよね」

 

 助けて、と口にする事すらしないこの少女を助けるに大勢の魔導師がこの場で傷を負っている。

 なのに、当人はただ耐えて我慢して流されているのみ。

 そうしていれば嫌な事が勝手に過ぎ去って行くと思っているようだ。

 少なくとも彩那にはこの少女が助かろうと足掻いているようには見えない。

 

「わ、たし……わたし、は────」

 

「まぁでも……運が良かったわね。貴女はなにもしなくても、あの子達が勝手に引っ張り上げてくれるわ。はぁ……まったくとんだお膳立てだったわ」

 

 そこでスバル・ナカジマが咆哮を上げて突っ込んできた。

 彼女のデバイスからカートリッジの弾丸が排出される。

 

「アァアアアアァアァアアッ! リボルバー、ナックルッ!!」

 

 彩那に注意が向いていた砕け得ぬ闇は完全にスバルの存在が抜け落ちていた。

 初めての度重なる損傷や負荷に防衛システム(システムU-D)の処理が追いつかなくなっている。

 スバルの拳が砕け得ぬ闇の胸に突き刺さる。

 システムU-D対策のカートリッジの2つ目が直撃する。

 砕け得ぬ闇は僅かに動きを鈍らせたが、すぐに彩那を捕まえているのと反対の魔力の翼でスバルを攻撃しようとする。

 

「逃げなさい!」

 

 彩那が指示を出す頃にはもう遅い。

 魔力がスバルを捕らえようと────。

 

「でぇええぇえ、いっ!!」

 

 そこでアミティエの武器を持ったキリエがスバルを襲う攻撃を斬り刻む。

 攻撃魔法の雨からキリエの武器は破壊され、彼女を庇ったアミティエも負傷して倒れた。

 半ば勝手に姉の武器を拝借して参戦する。

 

「いい、加減に、しなさいっ!!」

 

 双剣を闇雲に振るうキリエ。

 しかし驚くべき事に、その攻撃は確かに通っていた。

 明らかに弱体化を始めている。

 キリエは双剣から大剣に切り換えて捕らわれている彩那を助ける。

 

「ありがとう!」

 

 礼と共に、バインドで砕け得ぬ闇を拘束して距離を取った。

 

「高町さんっ!」

 

 離れた位置でなのははレイジングハートの先端を砕け得ぬ闇に向けていた。

 

(今度は外さない……外せない!)

 

 これが最後のチャンス。

 キッと目標(ターゲット)を睨み、カートリッジを排出して魔法陣が展開される。

 

「エクセリオン、バスターッ!!」

 

 なのはの砲撃魔法が砕け得ぬ闇を包み貫く。

 そこから抜けると相手は動きが完全に停止していた。

 

「ディアーチェちゃん!」

 

 なのはの呼び声に答えず、ディアーチェもデバイスを掲げて魔法を展開していた。

 

「泣くな……すぐに楽にしてやる。だがようやく辿り着いたぞ」

 

 砕け得ぬ闇は泣いていない。

 しかしディアーチェには少女の涙がハッキリと見えていた。

 

「すまんな。長いこと待たせてしまったな。貴様の絶望は、我の闇が吹き飛ばしてくれる……!」

 

 言葉通り、ディアーチェの放った魔法が砕け得ぬ闇を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見ている。

 かつての誰かの夢。

 病でろくにベッドから降りる事も出来なかった、無力な子供。

 父が夜天の魔導書の主となった事で死ぬだけだった筈の運命が一変する。

 

「────よ。お前の存在を闇の書の奥深くへと隠す。夜天の騎士のデータを元にお前だけの騎士を創り出した。未だ形はおぼつかないが、いつかは……」

 

 そう言って男性は高い技術と多くの機械で夜天の魔導書に子供の存在を封印した。

 夜天の魔導書と共に多くの世界を巡った。

 そして自分という存在のせいで少しずつ夜天の魔導書は歪み、いつの頃からか闇の書と呼ばれるようになった。

 主に寄生し、喰らい、世界すら破壊するまでに魔導書は暴走してしまった。

 管制人格ですら封じられた存在を忘れ、本当にどうしようもなくなった。

 主や世界が破滅していくさまを見せられる度に泣き喚き、消えてしまいたいと願った。

 そしていつしか、感情そのものが動かなくなった。

 

「おとう、さん……」

 

 父はただ、余命幾ばくもない娘を救いたかっただけ。

 

「でもね。わたしは、お父さんと一緒に居られればよかったんだよ……」

 

 永遠なんて要らない。

 たとえ短くとも、父と普通の親子として生を全うしたかった。

 もう、自分の本当の名前すら思い出せない。

 そこで、砕け得ぬ闇の手を誰かが引っ張り、その身体を抱き上げた。

 

「ディアーチェ……」

 

「紫天の書の解析に時間を取られてしまった。貴様を見つけ、救う為の条件を揃えてようやく辿り着けた。そうだろ? ユーリよ」

 

「え?」

 

 聞き覚えのある。しかし忘れてしまった名前をディアーチェが口にする。

 

「ユーリ・エーベルヴァイン。我らが待ち焦がれた主。紫天の書によって貴様の中にある永遠結晶(エグザミア)やシステムU-Dも今は我の制御下にある。もう貴様が破滅を撒き散らす事はない」

 

「……」

 

 信じられない、という表情で砕け得ぬ闇────ユーリはディアーチェを見る。

 しかし、段々と眠気がユーリを襲う。

 

「今は休め。これからのことは、眠りから覚めた時に話せば良い」

 

 優しい声に誘われて、ユーリは目蓋を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でGOD編も終わりです。
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