世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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お別れ

 数日の戦い全てが終わった後、丸1日みんな死んだように眠っていた。

 負傷もそうだが純粋に疲労がヤバかったからだ。

 それでも丸1日過ぎた頃には1人、また1人と起き上がって来る。

 綾瀬彩那を除く全員がまともに動けるようになったのは、あの戦闘から3日後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、エイミィ」

 

「もうお昼だよクロノくん。でも起きて大丈夫なの?」

 

 昼前に起きて来たクロノにエイミィが心配そうに訊く。

 クロノの負傷も酷く、今も松葉杖を突き、包帯も取れていない。

 

「報告書を纏めなきゃならないからね。寝てばかりもいられないさ」

 

「そんなのこっちに回してくれていいのに」

 

「現場でないと分からないこともある」

 

 そう言って彼は自分の端末を起動させて報告書を書き始めながらエイミィに質問する。

 

「みんなは?」

 

「なのはちゃんは一旦家に帰ってもらったよ。はやてちゃんもヴィータちゃんとリインフォースの3人で一時帰宅。残りの騎士達はマテリアル達の監視の為に残ってもらってる。あ、シャマルはまだ起きてない彩那ちゃんを含む怪我人の治療だね。遅れて今日の午後からフェイトちゃんもアルフと一緒になのはちゃんのところで預かってもらう予定」

 

 指を折りながら答えるエイミィ。

 フェイトも家に帰そうと思ったが、現状リンディを始め他の家族が手を離せず、それならと高町家か八神家に預かってもらう事になり、なぁなぁ的に高町家へ預ける運びとなった。

 

「未来から来た6人もこっちに残ってもらってる。下手に動き回られたらどんな影響があるか判らないし、それにまだ疲労が抜けてないしね」

 

 特に結界内での戦闘に参加した者達はまだ怪我も治ってない。

 はやてとユニゾンしていたツヴァイですら情報処理で知恵熱を出していた。

 彼女だけは取り敢えずはやてと一緒に八神家で休んでいる。

 

「彩那は?」

 

「まだ眠ってる。今はご両親が面会中だよ。その、今回も目が覚めるのにもう少し時間がかかるんじゃないかな」

 

 エイミィの返答にクロノは眉間を深くする。

 そうする必要はあったし、彼女の判断を非難するつもりはないが、感情の面で納得し切れない自分がいる。

 未熟だな、と溜息を漏らすクロノ。

 

「今回は前みたいな事にならないといいけど」

 

「本人が言うには、あの白い剣を使った後の後遺症は予測がつかないらしいからな」

 

 前回は一時的な記憶喪失。その前は五感の喪失だったらしい。

 今頃、様子を見に来た両親にリンディが謝罪をしているところか。

 彩那のご両親には申し訳無さでいっぱいである。

 

「それに、あんな力に頼っていたら、いつか取り返しのつかないことになる」

 

 そんな気がしてならない。

 

「マテリアルの子達やエルトリアから来た2人はどうなるのかな……」

 

「難しいな……」

 

 マテリアルをヴォルケンリッターと同じ扱いにするのはかなり難しい。

 彼らは自分達のやった行為を犯罪とは認識していない。

 件の少女────ユーリを救う為の行動だと認識している。

 ユーリ自身もいつ暴走するか判らない危険人物。

 今は紫天の書で力が制御されているらしいが、逆に言えば、今後の彼女らの方針や機嫌次第ではユーリと再び戦う可能性も有り得るのだ。

 そういう意味ではあちら側に優位を取られている状況になる。

 エルトリア組の方は姉のアミティエはともかく、妹のキリエはかなり厳しい。

 いや、難しいと言う方が正しいか。

 

「キリエ・フローリアンが管理局の行動を邪魔したのは事実だ。だけど彼女らは時空管理局の管轄内の世界の人間ではないし、事件が起きた地球も管理外世界。そもそも生きている時間が違う人間だ。判例が無さ過ぎて、どう対処すればいいのやらだ」

 

「だよね〜……」

 

 クロノの意見にエイミィも背に体重をかけて天井に向かい息を吐く。

 そこでリンディが支部の事務室に入って来た。

 

「あらクロノ。もう動いて大丈夫なの?」

 

「えぇ。激しい運動は出来ませんが、事務作業なら問題ありません」

 

 仕事中だからか、母親として投げかけた質問を局員として返された事への淋しさにリンディは肩をすくめる。

 そんなリンディにエイミィが質問する。

 

「彩那ちゃんのご両親と会ってたんですか?」

 

「えぇ。クリスマスの事件から立て続けにずっと彩那さんの負傷が続いてるでしょう? 責められはしなかったけど……いえ、だからこそ居た堪れないわ」

 

 今も彩那が眠っているのは本人の判断に拠る自業自得、と言うのはあまりにも無責任過ぎるし、そんな事を言うつもりは毛頭無い。

 どう弁解したところで言い訳にしかならず、ひたすらに頭を下げ続けるしかない。

 それでも綾瀬夫妻がリンディを責めたり、関係を絶とうとしないのは、フェイト達という今の綾瀬彩那にとって必要で大切な友人の保護者だからだ。

 図らずとも、フェイト達の存在が綾瀬夫妻への防波堤になっているという事実にリンディ自身が強い嫌悪感を抱く。

 

「ホント……あの一家には足を向けて寝れないわね」

 

 そんな冗談で締め括り、話題を変える。

 

「私なりに、だけど。今回の事件での彼女達への処遇について考えてみたの。先ずは2人の意見を聞かせてくれないかしら?」

 

 リンディの発案にクロノとエイミィは開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、このまま未来に帰しちゃうんですか?」

 

 翌日、彩那のお見舞いに来ていたなのは達がリンディの説明に珍しく微妙な表情をする。

 

「と言うより、結論を先延ばしにするってところかしら」

 

 今回の事件の事後処理はハッキリ言ってリンディ達の手に余る。

 本音を言えばフローリアン姉妹を今すぐにでも未来に送り帰したい。

 

「マテリアルの子達はともかく、キリエさんを本局で裁判にかけるとしても、当然お姉さんのアミティエさんもその間、こっちに残ることになるわ。そうなると、1番困るのは誰?」

 

「え、と……」

 

 誰、と言われても、今回の事件は関係者が多過ぎて1番と訊かれると困る。

 答えに悩んでいるなのはの横でフェイトが答える。

 

「もしかして、未来から来たヴィヴィオ達ですか?」

 

 フェイトの答えにリンディが正解と頷く。

 

「現状、ティアナさん達を未来へ帰せるのはアミティエさんとキリエさんだけ。でも今回の事件を裁判にかけるなら、判決は最低でも数年はかかるわ。それじゃあそちらが困るでしょう?」

 

 リンディがティアナ達の方へ視線を向ける。

 問われると、代表としてティアナが答えた。

 

「そう、ですね……あたし達がこの時代に留まることで未来がどんな風に進むのか分かりませんから」

 

 そこでヴィヴィオが引き継ぐ。

 

「子供時代のなのはママ達に会えたのは嬉しいんですけど、やっぱり帰りたいです。わたし達の時代に……」

 

 今回の事件で本来関わる事のない子供達を命の危険に晒した。

 その上、数年この時代に残れとは言えない。

 先にリンディから話を聞いていたクロノが続きを言う。

 

「だが、事件の規模から無罪放免という訳にもいかない。だから彼女達を一旦元の時代のエルトリアに帰し、時空管理局がいつか惑星エルトリアと接触した時に改めてキリエ・フローリアンやマテリアル達の罪を問うつもりだ」

 

 執行猶予ではないが、今未来人であるキリエ・フローリアンを裁判にかけるにはリスクが高過ぎる。

 彼女自身も管理局にとって未知の技術知識を持っているのだ。

 考えの浅い者や悪人が接触し、どんな話を持ちかけるか分からない。

 

「王様達も一緒に、ですか?」

 

「えぇ。キリエさん程ではないけど、彼女達の今後を考えたらそうした方が良いと思うの」

 

 夜天の書の暴走原因の少女。

 そんな存在が世間に明るみになったら、間違いなく報復に動く人間が出てくる。

 

「ユーリさんを含むマテリアル(あの子達)は戦闘中行方不明という扱いになると思います。ユーリさんは暴走の危険は低い、ということらしいから。ね? リインフォース」

 

「はい。少なくとも紫天の書の制御下にある内は問題ないかと」

 

 1番厄介な事態は、時空管理局が彼女達を一人の生命体ではなく、ただのプログラムとして見た場合だ。

 貴重な技術の実物として"保管"されるようなことになれば、間違いなく反発して損害が伴う。

 4人で完結しているマテリアル達。

 その彼女らが惑星エルトリアで復興を手伝う中でそれ以外に目を向けられるようになれば。

 その時に自分達が誰かを傷付け、1つの世界を危機に陥れた事への責を問う意味も生まれる。

 甘いのかもしれないが、今責を問うよりその方がずっと辛いだろうと思う。

 

「予測だけど、アミティエさん達が居た時代は今より何百年も未来の話じゃないわ。私達が生きている間に接触出来るかもしれない。その時までに、ね?」

 

 10年後か20年後か30年後か。

 いつか再会した時に今回の罪を問う形となる。

 

「そんな日は、未来永劫来ないかもしれんがな」

 

「王様……」

 

 腕を組んだディアーチェを中心にマテリアル達が近づいてくる。

 

「みんなは、エルトリアに行くんだよね」

 

「そうだよ〜。聞いた話、エルトリアってところは大変みたいだし、色んな怪獣が居てけっこー楽しそうなんだ!」

 

 遠足前の子供のようにはしゃいで答えるレヴィ。

 ディアーチェの後ろに居たユーリが前に出る。

 

「あの……ホーランド式を使うあの人は?」

 

 彩那の事を訊かれて一瞬だけ空気が重くなったが、はやてがおどけて答える。

 

「まだ眠っとるよー。お寝坊さんやね」

 

「そう、ですか……」

 

 出来ればここを立つ前にお礼を言いたかったのだが。

 少し遅れてアミティエがやって来る。

 

「皆さん、本当にお世話になりました」

 

「いや、こっちこそ助かった。結果的にだが、闇の書の問題を本当の意味で解決出来たんだ」

 

 長い間、次元世界で悲劇を撒き散らしてきた闇の書。

 それが完全に終わったのだ。お礼を言うのはこっちの方だろう。

 

「はい。それでなんですが……」

 

 アミティエが手の平サイズのケースを取り出す。

 

「今後の憂いを断つ意味で、なのはさん達とティアナさん達の記憶を消去させてください」

 

「どういう意味ですか?」

 

「私達はともかく、皆さんは今回の記憶を保持し続けるのは問題が発生する可能性がありますので」

 

 なのは達がこのまま何年後かに出会うティアナ達の記憶を持ち続けると今後未来に影響する可能性がある。

 そのリスクを少しでも回避する為の処置だと言う。

 少し考えた後に専門家の言う事だとその処置を受け入れた。

 

「ティアナさん達は未来に戻った時に。なのはさん達は次の眠りから覚めた時、お互いの記憶が曖昧になってる筈です」

 

 受け取ったシールのような物を額に貼り付けるだけで良いらしい。

 せっかく共に戦った記憶。それを忘れる事に抵抗があったが、未来で出会わなくなる可能性を考慮してそのシールを額に貼り付ける。

 

「はぁ〜。たった数日のことの筈やのに、なにか、2年くらい皆さんと一緒に戦ってた気ぃするわぁ……」

 

「はやて、それ以上は駄目だよ」

 

 メタ発言をするはやてをフェイトが嗜めた。

 ヴィヴィオがなのはとフェイトに話しかける。

 

「あんまり役に立てなかったけど、子供の頃のなのはママにフェイトママと一緒に過ごせて楽しかった」

 

「わたし達も。短い間だったけど、ありがとう。いつか、未来で」

 

「うん!」

 

 握手するなのはとヴィヴィオ。

 それを見ていたアインハルトはこの場に先生が居ない事が残念に思えた。

 それからスバル達もそれぞれ短い会話と別れの言葉を告げる。

 

「はやてちゃん」

 

「お。どうした、リインちゃん」

 

 真面目な表情ではやてに近づくリインフォース・ツヴァイに首を傾げる。

 

「アミティエさんの話が本当なら、これを伝える事に意味はないのかもしれません。でもだからこそ伝えておきたくて」

 

 その小さい体を近づけてはやてに未来の事を少しだけ伝える。

 内容は意味が解らなかったが。

 

「彩那さんに伝えてください」

 

「うん。起きたら伝えとく。覚えてたら、やけど」

 

 自信なさげに約束するはやて。

 全ての挨拶を終えてアミティエが未来に帰る者達を集める。

 

「それでは私達はこれで。外でキリエを待たせてるので」

 

 帰る為の準備をさせているらしい。

 外に出ると魔法陣を展開しているキリエが待っていた。

 

「遅ーいっ! 早くしないと魔力(エネルギー)足りなくなっちゃうわよ!」

 

「わかってますよ! 皆さん。それぞれ帰りたい時代と場所を思い浮かべてください。そうすれば、望んだ時代に辿り着きます。細かな事はこっちでしますので!」

 

 説明されてティアナ達は機動六課の宿舎を。

 ヴィヴィオは未来にある自分の家。

 アインハルトは所属しているジムを思い浮かべた。

 マテリアル達はフローリアン姉妹が直接連れて行くので問題ないらしい。

 

 跳ぶ直前に、アミティエが手を大きく振った。

 

「それでは皆さん! いつかまた!」

 

 その言葉と共に光が増大し、それが消えた頃には未来からの来訪者は姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機動六課の演習場。

 

「それにしてもみんな揃って似たような夢を見るなんて不思議だね〜」

 

「不思議っていうか……ん〜」

 

 今日、この場に居る4人全員が似たような夢を見た事に不思議がる。

 

「なんかやけにリアルな夢だった気がするんだよね。細かなことは覚えてないけど」

 

「ほら。お喋りはここまで! なのはさん達が来たわよ!」

 

 リーダー役のティアナが注意すると4人は足並みを揃えて整列する。

 そこにはスターズのなのはとヴィータ。そして何故か運動着を着ている綾瀬彩那副部隊長が居た。

 

「みんなおはよう。今日は急だけど、綾瀬副部隊長と模擬戦してもらうね!」

 

『えぇっ!?』

 

 なのはから突然彩那との模擬戦を言い渡されて、戸惑う4人。

 

「驚き過ぎだオメーら。いつもアタシらやテスタロッサ隊長とばかり模擬戦してても頭打ちになっちまうからな。たまには別の奴と模擬戦すんのも悪くねーだろ」

 

 そう告げるヴィータだが、4人はそれどころじゃなかった。

 

『なんでだろうティア〜。綾瀬副部隊長見てるとなんかこう……恐ろしい記憶がフラッシュバックして……』

 

 例えば敵を盾にして同士討ち狙ったり、小さな女の子をメッタ斬りにしたり、だ。

 震えていると、ヴィータが呆れから怒鳴る。

 

「ビビリ過ぎだ! 模擬戦なんだからいつも通りやりゃあいいんだよ!」

 

「安心なさい。手加減はするから……容赦はしないけどね

 

『今小声ですごいこと言ったよね! 恐いよティアァ!!』

 

『う、うるさい! さっさと腹括りなさいよスバル!』

 

「それじゃあ時間は有限だし、始めましょうか」

 

 あ、これ死んだ。

 4人はそう覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノーヴェ・ナカジマが新しく立ち上げたばかりのナカジマジムでは、ヴィヴィオやアインハルトを始め、他の選手が練習に励んでいた。

 昼頃になり、そろそろ休憩を挟もうとすると、ジムに来客がやって来る。

 

「頑張ってるわね」

 

「彩那さん! どうしたんですか!」

 

「仕事中に近くまで来たから。はいこれ。良かったら」

 

 そう言ってペットボトルの水やらお茶やらスポーツドリンクやらが入った袋をノーヴェに渡す。

 

「あぁ、すみません。ありがたく頂きます」

 

 今は暑い時期で水分はいくら摂っても足りないくらいなのだ。

 本格的にジムを構えてまだ日が浅く、こうした気配りはありがたい。

 本当にそれだけの為にやって来たのだろう。

 練習の邪魔になるからと早々に立ち去ろうとする彩那にアインハルトが声をかける。

 

「あの、先生」

 

「ん。どうしたの?」

 

「はい。その、今度、稽古に付き合ってくれませんか?」

 

 突然のアインハルトの申し出に彩那は何度も瞬きをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終章予告。

 

 エリザ「お久しぶりです。アヤナお姉様」

 彩那「まさかこのタイミングだなんて……最悪だわ」

 

 突然ホーランド王国に喚び戻された綾瀬彩那と仲間達。

 

 ??? 「なんで、ホーランドの勇者である貴女がヴォルケンリッター(そいつら)と一緒に居るんですかっ!!」

 

 置き去りにしていた過去の清算。

 

 フェイト「アヤナは、独りでこの世界に残るつもりなの? 私達を帰す為に」

 

 彩那「……」

 

 なのは「わたしは、これまで彩那ちゃんにどれだけのことをしてあげられてたのかな? 出来てなかったから彩那ちゃんはわたし達を置いて行ったのかなぁ……」

 

 はやて「自分のことばっかりで、わたしらやあの子の気持なんて全然考えてないやろ!」

 

 崩れ、壊されていく絆。

 

 エリザ「さぁ、アヤナお姉様。ティファナお姉様を死に追いやった貴女の罪を、ようやく償う時がきたのです」

 

 そして。

 

 彩那「私は、独りで生き残りたくなんてなかった……みんなと一緒なら死んでも良かったのに……!」

 

 ??? 「彩那。これが、ボク達が君と一緒に戦える最後の───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??? 「ようやく理解(わか)った。この子達を地獄に突き落としたのは、私自身(そのもの)だったのだと……」

 

 

 

 

 

 




最終章は、彩那となのは。そしてエリザ(ホーランドの第二王女)の三人をメインに進める予定です。
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